Coolier - 新生・東方創想話

それはこれから見えるもの

2013/03/10 00:43:57
最終更新
サイズ
31.72KB
ページ数
1
閲覧数
2985
評価数
9/25
POINT
1520
Rate
11.88

分類タグ

 

    九日目の夕方 ・ ある白狼天狗の想い



 私は犬走の椛。誇り高き白狼天狗だ。日頃は妖怪の山で哨戒の任に就いている。
 突然だが、私は今、大いに悩んでいることが有る。
 先日…具体的には八日前、とある妖怪と出会ってからというもの、そのひとのことが頭から離れないで居るのだ。
 紅く煌めく美しい髪に、柔軟にして強靭な身体。溢れんばかりの快活さ。優しさに満ちた包容力。
 彼女の名は、紅美鈴。
 …そう、女性だ。間違いなく、私と同性である。
 俗に言う、一目惚れだったのだと思う。主人の妹君であるフランさんと共に妖怪の山を訪ねて来た彼女を初めて間近に見た、その瞬間から、私は彼女に狂わされてしまったのだ。
 勿論、そんなものは一時の気の迷いだと思った。ものの一日も経ってしまえば、すっかり忘れているだろうと。
 …しかし、現実はそうならなかった。

「久しぶり。っても、一週間しか経ってないか」
「こんにちは。お元気そうで何よりです」
「あんたもね」

 二人に出会った次の日、私はひょんなことから、彼女達と行動を共にすることになった。
 それも、単なる平穏な日常を過ごしたのではない。私にとっては、あの守矢三柱が山に現れた時以来の波乱であった。
 我が友人、河城にとりを襲った下手人を追って竹林へ向かい…。紆余曲折を経て、これを仕留め…。その過程で、図らずも竹林の住人と親睦を深め…。
 …そして、下手人との攻防において不覚を取った私はあろうことか、一晩付き切りで美鈴さんの看病を受けてしまったのである。
 一目惚れした翌日にそんなことが有って、どうして忘れることが出来ようか。どうして、彼女のことを考えずに居られようか。
 そんな私の単純にして薄弱な精神が、今、自身をこの紅魔館の門前に立たせているのである。

「フランさんもご健勝でしょうか?」
「あー…。うん、まあ、ご健勝…かな…」

 はて。美鈴さんにしては、妙に歯切れが悪い。何か、良くないことが有ったのだろうか。
 吸血鬼であるフランさんに限って、病や怪我の類は無いはずだが…。

「もしかして、フランドール様に会いに来てくれた?」
「あ、いえ。すみません。今日は新聞の配達に来ただけです」
「ふあ? 何? あんたも新聞出してんの?」
「まさか。これですよ」
「…ああ、これ。文さんの新聞じゃない。そういや、あんたと仲」
「良くありません」
「そ、そうなの…?」
「はい。断じて。…それで、こちらは貴方にお預けしても?」
「う…うん、いいよ。預かります」

 自分でも、可笑しなことをしているという自覚は有る。あの尊大で卑劣で自己中心的な皮肉屋の使い走りをしてまで、此処へ来る口実を作る必要など無かったはずだ。
 こんなことをして、何になる。私の歪んだ想いなど、果たされるわけが無いというのに。
 …確かに、あの日、彼女は言った。性別などは気にするな、と。…しかし、それは彼女が、私がにとりを好いているものと誤解していた為に生じた発言に過ぎない。
 それに、私は山の妖怪で、彼女は吸血鬼の従者だ。天狗の上役の中には、かつての吸血鬼異変のことを強く根に持っている方も居る。私が彼女達と親しくなったことを「守矢の祟り」と揶揄する同僚も居た。
 今なら、まだ引き返せるはずだ。否。今、引き返すべきなのだ。
 彼女が私の過ちに気付いて、不快な思いをしてしまう前に。彼女に拒絶されてしまう前に。
 …それなのに……。

「…では、私はこれで」
「ありゃ。もうお帰り?」
「まだ配達が残っておりますので」
「そっか。ありがと。またね」

 この何気無い一言が、微笑みが、また私を狂わせる。
 再会を望むその言葉に期待などしてはいけない。それは、単なる社交辞令だ。そんなことは解っている。
 解っていても、心が綻ぶ。他者に感情を覚(さと)られぬようにと隠している耳や尾が、思わず出てきてしまいそうな程に。
 喜んではならぬ。心を弾ませてはならぬ。「また来ても良い」などと、考えてはならぬ。
 しかし、少なくとも一度は、また此処を訪れなければならない。先日、フランさんに「近々、非番の日に遊びに来る」と約束しているのだ。その約束だけは、何としても果たさねば。
 …その時、私は彼女のことを意識せずに、あの門をくぐることが出来るだろうか。
 いや、そもそも、それまで堪えられるのだろうか。また何か理由を付けて、この館へ来てしまうのではないか。
 ……私は何時(いつ)から、これほど心が弱くなってしまったのだろう。あるいは、元からこの程度の存在だったのか。誇り高いだの何だのと威張ってみたところで、所詮は木っ端妖怪に過ぎぬということか。
 嗚呼。駄目だ。駄目だ。
 こんなことを考えていたら、私は消えて無くなってしまう。
 そうしたら、もう彼女に逢………。
 ……また、そんなことを考えている…。
 やめよう。今は何も考えず、次の配達先へ行こう。
 この眼が、後ろを見てしまわぬ内に。













    十五日目の夜半 ・ ある魔女の考察



 この私、七曜の魔女ことパチュリー・ノーレッジは今、花果子念報なる新聞を読んでいる。
 これは、今から数時間前、「気に入った住人が居たら購読してほしい」と、館の門番が他所の妖怪から渡された物である。
 我が親友の読んでいる極めて俗物的な新聞に比べれば、この新聞の記事は概ね客観的な視点で書かれている。しかし、その反面、少々具体性に欠けるきらいがあるため、精密な情報を得ることは期待出来ない。
 よって、定期購読は見送りとする。

「その白狼天狗は、どうしてこんな物を持って来たのかしら」
「知らない」
「じゃあ、次の議題。貴女は、どうしてこの図書館にいるのかしら」
「謹慎するの飽きたんだもん」
「あとたったの三日でしょう。早く部屋に戻らないと、次は一月(ひとつき)に伸ばされるわよ」
「えー」

 この娘、フランドール・スカーレットが、館の門番、紅美鈴の尽力によって永い監禁生活を終え、生まれて初めて館の外に出たのは半月前のことである。
 目付役の美鈴と共に山の神社へ宿泊しに行ったフランドールは、意外にも天狗や河童の友人を作って帰って来た。
 今、彼女が不機嫌なのは、その新しい友人が館へ訪ねて来たにも関わらず、顔を見ることも出来なかったからであろうか。
 もっとも、この娘が姉から謹慎を言い渡されたのは、外出時における唯一の禁止事項を破ったためで、要するに自業自得なのであるが。

「よりにもよって、人間相手に能力(ちから)を使ったんですって?」
「壊してないのに」
「壊せなかった、でしょう? 相手が蓬莱人じゃなかったら、謹慎は一年を超えてたかもね」
「ちぇ。どーしてバレたのかしら」
「貴女と美鈴がレミィに隠し事なんて、五百年早いのよ」
「五年にまけて」
「バカなこと言ってないで戻りなさい。貴女の友達は、謹慎が解けたらまた遊びに来てくれるらしいから」
「…ふーん」
「何か不満?」
「別に。戻ればいいんでしょ。戻れば」

 私の話を聞いて、なお不機嫌であるということは、彼女がむくれている理由は前述と異なるものらしい。
 では、その本当の理由とは何であるか。
 思うに、その原因は、先に述べた友人にあると考えられる。
 何故なら、フランドールは以前、自身をある種の物語のヒロインに例えていたことがあり、その物語の主人公に位置付けられた存在こそ、友人が館を訪れた理由に他ならないためである。
 即ち、二つの疑問『白狼天狗は何故新聞を持って来たか』と『吸血鬼は何故不機嫌であるか』の解は一致する。
 そして、以上のことから導き出される結論は一つ。
 …面倒臭いので、関わり合いにはならないでおこう。













    二十一日目の昼過ぎ ・ あるメイド長の休憩



 私の名前は十六夜咲夜。吸血鬼レミリア・スカーレットに仕えるメイドである。
 幻想郷に住まう人間の中では抜群の忙しさを誇る私だが、ここ最近はほんの少しだけ仕事が減っている。
 それと言うのも、近頃、今まで何度戒めようとも直らなかった門番の居眠りが僅かながら改善の兆しを見せ始め、その体にナイフを突き刺して叩き起こす手間が減ったためである。
 何故改善したのかは、よくわからない。半月と少し前、妹様の付き添いで監督不行き届きがあったことを理由に、キツくお灸を据えたのが効いたのだろうか。

「このまま、全く居眠りしなくなってくれたら良いのだけれど」
「無理だと思います」
「早い。もう少しくらい、夢を見させてよ」
「ほら。夢だって解ってるんじゃないですか」

 …この小悪魔、今日は珍しく図書館の外をうろうろしていると思ったら、私に嫌味を言いに来たのか。
 どうせ暇なら、妹様とあの白狼天狗のお遊びに付き合えば良いものを。
 彼女の来訪にやたら敏感に反応していたから、てっきり天狗に興味があるのかと思ったのに。慌てて妹様を呼びに行って、その後は我関せずか。

「ところで、さっき様子を見に行ったら、フランドール様と客人が妙な遊びをしていたのよ」
「どんなですか?」
「…チェスと、リバーシと」
「ああ! あれですか」
「あのゲームは何て名前なのかしら」
「それは『チェスと将棋の二重奏、リバーシを添えて』ですよ。ルールは」
「説明は要らない」

 詳しく聞くと頭が変になりそうだ。
 その珍妙なゲームに付き合わされる天狗も、災難としか言い様がない。よくもあれだけ真剣に相手が出来るものだ。
 あの娘と違って、弾幕勝負をやらされていないだけマシだけど。

「そう言えば、美鈴さんは参加させてあげないんですか?」
「あの天狗と違って、美鈴は非番じゃないわ」

 美鈴と彼女の仲が良いことは知っている。
 先日、新聞の勧誘に来た際にも、しばらく門の前で立ち話をしていたようだし。
 …が、それはそれ、これはこれだ。
 妹様の客として来ている者のために、美鈴に休みを与えてやる必要はない。

「お堅いですねー。あのひとも混じった方が面白いのに」
「なら、貴方が代わりに門番をする? サボったら容赦しないわよ」
「それじゃ、私はそろそろ司書に戻ります! キラッ」

 その妙な手付きは何なのか。あと「キラッ」って何。…いや、これはおそらく、ツッコミを入れたら負けだ。
 絡みにくい小悪魔も去ったことだし、私もそろそろ、あの二人にお茶を持って行くとしよう。あの天狗は紅茶(けつえき)よりも緑茶だろうか。
 口に合うと良いのだけれど。













    三十日目の朝 ・ ある鴉天狗の取材



 姫海棠はたての花果子念報と言えば、高尚な新聞として幻想郷中に知られているのよ。
 …って、ちょっとだけ大袈裟に言ってみたら、後輩の白狼天狗に「誰一人知っている者が居ませんでした」ってバッサリ切られた上、「引き篭ってばかり居ないで、外へ取材に行きましょう」とか言ってムリヤリ連れ出されちゃった。
 別に私は引きこもりじゃないってのに。

「もう間も無く到着しますよ」
「なんで私が吸血鬼の館なんかに…。あなたも、こんなことに貴重な休日使わなくたってさぁ…」
「是非、取材して頂きたい方が居まして」
「じゃあ文を連れて来なさいよ」
「嫌です。そんなことをするぐらいなら大天狗様をお連れします」

 はあ…。あいつはどうして、こんなに嫌われてるんだか。ずっと前に研修で監督やってた時は、すごい懐かれてたのに。
 あの頃はこの子も可愛かったのよねー。文の後ろくっついて「あやさまー、あやさまー」って。
 …ま、私も最近まですっかり忘れてたくらい昔の話だし、今の椛にあの頃の面影は全然ないんだけど。

「やほ。椛」
「こんにちは。美鈴さん」

 あれ? 面影発見。
 この子、今でもこんな顔できるのね。この外面(そとづら)のよさは誰に似たんだか。
 笑うと可愛いんだから、普段から仏頂面するのやめたらいいのに。そのクールな感じがいい、って男もいるんだろうけどさ。

「そっちの天狗さんは、この前に山で会ったひとよね?」
「はい。こちらは」
「あー! 鴉天狗きっての敏腕美少女記者、花果子念報の姫海棠はたてさんじゃないですかー!」
「ちょ、いつの間に…」

 どっから沸いて出たのか知らないけど、この小悪魔は私のことをよく知ってるみたいね。結構、結構。
 きっと、この間お試し版を配ったのが功を奏したんだわ。こればっかりは椛に感謝しなきゃ。

「お噂はかねがね聞いてますよ! 是非是非、パチュリー様のことを新聞に書いてください!」
「え? いえ、その…私は」
「そこまで仰るのでしたら仕方ありませんわね! それで、そのパチュリー氏はどちらに?」
「ご案内します。ほら、美鈴さん。早く開けたげてくださいっ」
「けど、許可を取って来ないと」
「はい、これ。フランドール様の直筆です」
「…うわ、ホントだ。え、早ッ。てか何でフランドール様が…?」

 ふふ。私の名声はあのフランドールにまで届いていたのね。
 素晴らしいわ。これは次の大会、ランキング圏外脱出が見込めそう!

「ま、まあいいか。…んでは、中へどうぞ」
「ありがとう、門番さん。さあ、行くわよ椛!」
「あ、ええと…私は」
「大丈夫大丈夫。そのひとの助手ってことなら、あんたも入れるから。たぶん」
「…そうですか」
「ほらぁ、早く来なさいって」

 まったくもう。ひとを連れて来といて、何をぐずぐずしてるんだか。
 椛が来てくれないと、私一人で初対面の妖怪たちに囲まれたら恐いじゃない。
 …さあ見てなさい、文。私はここでばっちり取材して、臨場感たっぷりの記事を書いてやるんだから。
 あなたとの団栗の背比べは、これで終わりってことよ!













    三十七日目の正午 ・ ある普通の魔法使いの日常


 待たせたな。みんなのヒーロー、霧雨魔理沙だぜ!
 さーて、今日も今日とて門番倒して、図書館の本を死ぬまで拝借…。
 ……おんや?

「来た来た。あんたの勘が当たったわね」
「はい。此処で待っていて正解でした」
「なーんでお前がいるんだよ。下っ端哨戒天狗」
「その呼び方はやめてもらおう。少なくとも、強盗の味方をしに来たのではない」

 ちっ。速やかに美鈴を倒して軽やかに侵入し、鮮やかに本を盗…借りていく予定だったのに。
 二対一とは卑怯じゃないか。え? 邪魔よ。天狗さん。
 …うん? その差し出してる箱は何だ? 私に季節外れのクリスマスプレゼントか?

「押し売りならノーサンキューだぜ」
「にとりから貴方に、届け物だ」
「え? こ、これは……魔動式録画映写機二号じゃねーか!」
「何よ、それ」
「美鈴。予定が変わ…じゃなくて予定通りだ。これ持ってってパチュリーに伝えてくれ。今日の私は、あいつの客だぜ」
「…そんなこと言って、私のいない隙にこっちを何とかしようなんて」
「考えてないって。早く行けよ」
「あー、はいはい」

 行ったか。…まったく、バカを言いやがって。
 せっかく真っ当な客人として招かれるチャンスなのに、わざわざ賊になる気はないっての。

「私は決闘しても一向に構わないが」
「へーえ?」
「貴方には何度も我々の縄張りに踏み込まれているからな」
「悪いけど、今日はパスだ。今度、私がそっちにお邪魔した時、またやろうぜ」
「来るな。…と、言いたいところだが、来るなら覚悟しておくが良い」

 いつもすぐに尻尾を巻いて逃げる奴が、大した自信だな。
 …しっかし、にとりも自分で持ってくりゃいいのに、なんで椛なんかに預けたんだ?
 それに、こいつもどうして私ん家(ち)じゃなくて、わざわざ紅魔館に…?

「お待たせ」
「おう。待ちくたびれたぜ」
「お帰りなさい」
「椛。こいつ、何もしなかった?」
「はい」

 …んー?
 何だろうね。何だろうな。この違和感。
 敬語…だからか? いや、でも、早苗にも神奈子たちにも…それからフランにも敬語だったけど、なんか違うような…。

「あ、魔理沙。通っていいわよ」
「…おう。それじゃ遠慮なく」

 まあ、どうでもいいか、そんなこと。
 さっさと館ん中に入ろう。
 そうだ。今日は客なんだし、あいつに美味しいお茶を淹れてもらえるかもな。
 ……おろ。ドアの内側にぴったりと張り付いてる奴がいる。

「よう、フラン。何やってんだ、そんなとこで。ヤモリの真似か?」
「…あら。魔理沙。ご機嫌よう」
「エントランスにいるなんて珍しいな」
「まーね」
「そうだ。お前も来いよ。おもしろいもん見せてやるぜ。パチュリーたちと共同開発してんだけどよ、魔力を籠めた箱の近くで起きた出来事を一刻(いっとき)分、黒いリボンみたいなもんに記憶させられるんだ。で、そいつに改めて魔力を注ぎ込むことで、その箱が壁にその時の情景を映し出すんだけど、これがなんと音まで再現して」
「別にいい」
「遠慮すんなって」
「にゃっ!?」
「魔法の研究、大好きだろ。もし手伝ってくれるってんなら、あとで弾幕ごっこも付き合ってやるからさ」
「うー…」

 よしよし。でかいヤモリも拾ったことだし、とっとと地下図書館に行こうかね。
 たしか、この前はパチュリーの魔力が強すぎて、黒リボンが切れちまったんだっけ。
 今日の試験は上手くいくといいなー、っと。













    四十日目の未明 ・ ある小悪魔のお仕事


 吾輩はこあである。名前はまだ無い。
 また今日も、あの天狗さんはこの館にいらっしゃいました。今日みたく、お仕事の合間に野暮用で来られたのも含めると、かれこれ十三回目になりますか。
 今回のご用事は、山の神様から頼まれた書物の借り受けだそうです。
 毎回毎回、よくもまあ、ご丁寧に理由を付けていらっしゃいますね。絶対に手を抜かないところは流石ですけど。

「フーンフフンフンフンフンフーン……。お待たせしました。こちらがご注文の本です」
「有り難う」
「パチュリー様が『技術協力の件を忘れぬよう』と仰っていたことをお伝え願います」
「承知した。手間を取らせて申し訳無い」
「いえいえ。これが私の仕事ですから。…でも、椛さんは山の神様の臣下の方じゃないんですよね?」
「確かにそうだが、守矢の加護を得ることは山の妖怪にとって有益、というのが上役の見解だ。出来る限り、彼女達の機嫌は取っておきたい」

 …ふふ。ひょっとして、バレてないと思ってるんでしょうか。
 傍(はた)から見たら一目瞭然なんですよ? 貴女の本当の目的は。これまでで、建前じゃなかったのは一回だけでしょう?
 でも残念。楽しい逢瀬は今日で終わりです。
 だって、次の新月の日には、貴女と彼女のお休みが重なってしまうんですから。まだ何の約束もしてないみたいですけど、あのお方はそのエックスデイの到来を危惧されています。
 だから私も、その前に自分の副業を済ませないといけません。

「そんなこと言って、本当はパチュリー様に逢いたくて来たんじゃないですか?」
「まさか」
「パチュリー様の隠れた魅力に気付いた天狗の殿方から、写真を撮って来るよう頼まれて」
「無い」
「…ですよねー。そんな下心を持って訪ねて来られたら、鬱陶しいですもんね」

 …あらあら。これだけで表情が固まってしまいましたか。
 きっと、ご自分でも似たようなこと考えてたんでしょうね。誘惑に負けて足を運んでしまいながらも、内心ではずっと悩んでいた、って感じですか?
 何て言うか、本当に生真面目なひとです。これは、あのお方の仰ることも解る気がします。

「…そうだな」
「椛さんも、そういう方から言い寄られて困ってるんでしょう?」
「いや、私はそういった話とは無縁で…」
「えー? そうなんですか?」

 確か先日、彼女にも同じように言ってましたね。てっきり嘘かと思ってたんですけど、どうやら本当みたいです。
 おかしいなぁ。普段は朴念仁っぽく振舞ってますけど、こうして動揺してる様子とか、とってもとっても可愛いのに。巡り合わせが悪かったんでしょうか?
 …まあ、良いでしょう。今はそれより、サックリとトドメを刺してしまいましょう。

「美鈴さんなんか、すっごくモテるんですよ?」
「そうだろうな」
「この間も、殿方からプレゼント頂いたって喜んでましたし」

 人里の八百屋さん三十八歳妻子持ちから、人参をオマケでもう一本、ですけどね。
 嘘は吐いてないですよ?

「あ。お帰りですか?」
「…ああ」
「お疲れ様です。山の皆さんによろしくお伝えください。それと、お足元にお気を付けて」
「有り難う。貴方の主人にも、宜しく言っておいてくれ」

 …このひと、声には気を付けてるんでしょうけど、ちょっと表情(かお)に出過ぎです。
 これじゃ、帰り際に彼女から問い詰められちゃうかも知れません。
 でも、きっと何も話さないでしょうから、問題有りませんね。無事に落ち込んだまま帰ってくださいな。
 さてさて、これで山から館へ来るための橋は落ちましたし、私のターンは終了です。次は貴女様の番ですよ、我儘御嬢様(アンフェアレディ)。













    四十日目の明け方 ・ あるお姫様の打ち合わせ



 我、フランドール・スカーレットは、彼(か)の者をこう評したい。
 質実にして、誠実。堅実にして、忠実。
 品行方正、清励恪勤。容姿端麗、眉目秀麗。
 飾り気の無い兵(つわもの)で、雑じり気無しの純血種。
 即ち彼女は、私の騎士(ナイト)に相応しい。
 ……それなのに…。

「どーして、そーなるのよ!」

 解しがたき運命の歪曲。赦しがたき天命の背徳。
 私の騎士はあろうことか、私の王子様に御執心なのである。
 当の王子が気付いていないらしいことは不幸中の幸いであったが、これを看過するわけにはいかなかった。

「私の夜伽(ナイト)に相応しいだなんて、フランドール様ったら大胆ッ」
「ちがうちがーう! 勝手にアルファベットを減らした上に変な漢字あてないで!」
「そんなことより、ご覧になりましたか?」
「なにを」
「あの椛さんの、しゅんとした顔! もう泣いちゃいそうなくらい落ち込んでて、だけど何でもない様に振る舞わないと、って一生懸命になってる、あの顔ですよ!」
「見たけど」
「その上、美鈴さんから『顔色悪いよ?』って聞かれちゃった時の反応ったら、もう! あんなの反則です! ねえ、フランドール様。先にあのひと摘まみ喰いしちゃダメですか? ダメですか? 具体的に何をするかは言えませんけど、熔けちゃうくらい熱烈に愛して愛して愛して愛した挙げ句にボロ雑巾みたいに捨ててみたいんです!」
「却下」

 摘まみ喰いで椛を壊すつもりか。ひとの十八番を取ろうとするな。
 私も、方々で気が違っているだの物狂いだのと散々な言われ方をしているが、とんでもない。この小悪魔の方が、余程イカれている。

「トチ狂ってないで、考えてよね。落ち込んでる椛をどーやって慰めたらいいか」
「自分で追い込んでおいて慰めるって、なんだか悪魔みたいですね」
「悪魔だもの」
「間違えました。なんだかヤクザみたいですね」
「うるさい」

 吸血鬼が外道で何が悪い。名家の令嬢が我儘で何が可笑しい。
 欲しいものを手に入れる為ならば、私は手段を選ばない。

「そもそもですね」
「なに?」
「椛さんが騎士なのは何となく解りましたけど、美鈴さんが王子様って失笑ものじゃないですか?」
「いいの! 私はその配役でいきたいの!」

 美鈴は、およそ五百年に亘(わた)って悪しき魔王に幽閉されていた私を救い出し、外へと連れ出してくれた王子様なのだ。
 異論は認めない。

「じゃあ、私が姫役やってあげても良いですよ」
「お姫様は私! どーして、あなたが譲歩してるみたいになってるのよ」
「だって、私の方がか弱いですし」
「村娘でもやってなさい」
「まず、美鈴さんみたいな華人小娘(ホアレンシャオニャン)に扮するのはどうでしょう?」

 …この娘はこうやって、唐突に話題を元に戻すので油断ならない。
 何時(いつ)のことだったか、私と話していると頭がどうにかなりそうだと言った鴉天狗が居たが、その気持ちが少しだけ解ってきた。

「それ、私に似合うのかしら?」
「何でもお似合いになると思いますけど、彼女みたいな色気が出るかどうかは分かり兼ねます」
「そーなのよねー」
「そこでですね」
「うん」
「美鈴さんの血を吸い尽くしちゃって、フランドール様の中に取り込んじゃうってのはどうですか?」
「あら。迷案ね。それ、美鈴死んじゃわない?」
「とんでもない! 彼女は永遠にフランドール様のお傍に居ますよ!」

 他に適任者が居なかったとは言え、私は共謀者を選び間違えた気がしてならない。
 この調子で大丈夫なのだろうか。作戦の決行は次の新月、僅か十八日後の夜まで迫っているというのに。
 …今回は又と無い好機なのだ。我が姉の気紛れだか何だか知らないが、謹慎明けにも関わらず、いとも簡単に外出許可が出された上、付き添いを小悪魔にしたいという申し出まで快諾されたのだから。再三再四「その日の夜だけよ」と念を押されはしたが、目的を果たす為にはそれで十分である。

「ところで、フランドール様」
「今度はなに?」
「本当に次の新月の晩でよろしいんですか?」
「もちろんよ。その日は椛のお休みの日で合ってるんでしょ?」
「それは間違いありません。でも、そんな日程で大丈夫でしょうか?」
「問題ないわ」

 確かに、椛は一筋縄ではいかない相手だ。これまで都合十三回も我が館への移籍を打診したが、全て丁重に断られてしまった。限り無く冗談めかして言ってみた場合でさえ、律儀に謝辞を述べてくる徹底振り。確実に彼女の心を動かしたいのなら、十八日どころか二、三ヶ月は掛けて計画を練りたいところである。
 しかし、生憎と悠長に構えては居られない。小悪魔のおかげで、当分はこの館を訪ねて来ないはずだが、熱(ほとぼ)りが冷めた後の挙動までは保証出来ない。私が彼女を得る前に、彼女に美鈴を取られてしまっては元も子も無いのである。
 そう。これは即ち、私と彼女との戦なのだ。
 そして、幾ら理性に欠けた悪童であるとはいえ、このフランドール・スカーレット、一度敗れた勝負に軽々しく再戦を申し立てるほど妖怪離れしたつもりは無い。勝つ時は緒戦から勝ち続けてこそ、偉大なる吸血鬼であると誇ることが出来よう。
 その為には、相手に手番を与えてはならぬ。先手必勝。必ず、その夜の内に椛を訪ね、私の下へと引き摺り込んでやる。
 寝ている暇など有りはしない。前日…否、当日の出発直前まで掛けて、より綿密な計画を立てなければ。













    五十八日目の昼前 ・ ある門番の……



 美鈴ちゃん。…ここで初めて会った時、うっかり私をそう呼んだんだっけ。
 何年ぶりだったろうね。初対面で名前を憶えてもらえたのは。
 …さて、行くべきか、行かざるべきか。迷いながら、とうとうこんなとこまで来てしまった。もう二、三分も歩けば、にとりの家に着くはず。

「どうしよっかなぁ…」

 そりゃあ、最後に見た顔がやけに憔悴してたのは確かだし、心配で様子を見に来たって弁は立つんだろうけど…。

「そんな殊勝な理由じゃないのよねぇ…」

 ここんとこ忙しいみたいだから、きっと疲れてんだろうな。…やっぱり、やめといた方がいいかも。
 だけど、帰ったところで暇するだけってのがね…。ホント、一人だけ非番の日って困るわ。
 最近はフランドール様も、今晩のお出かけの準備とかで忙しそうにしてるしなぁ。でもって付き添いには小悪魔さんをご所望、か…。行き先も「ナイショ」って教えてくれなかったし。
 お嬢様がフランドール様を色々と自由にさせてくれるようになったのは嬉しいんだけど…。…ちょっと、寂しいね。
 で、私はどうするか…。咲夜さんに言って、門番やらせてもらうか? 月に一度とはいえ、今日、魔理沙が来たりしたら、代わりの妖精たちが可哀想だし。
 ……む? あっちに何か落ちてる。…なんか見覚えがあるような……?

「美鈴さん」
「ふあ!? ……も、椛…」

 いやいやいやいや。
 早すぎるってば!
 まだ来たばっかだし、あんたらのシマ、もっと先じゃん。
 ていうか、この間もそうだったけど、なんで休日にまでしっかり見張ってんのよ。休みなさいよ。

「この先は山の妖怪の縄張りですよ」
「知ってる」
「…にとりにご用ですか」
「うん、まあね。…ちょっと取り次いでもらおうと思って」
「他の河童をお探しに? 私で宜しければ承りますが」
「必要ないわ」
「…では、にとりを呼んで来」
「そうじゃなくて」

 だから違うんだってば。
 申し出を断ったからって、一々表情に陰を落とすのやめてよね。

「あんたに会いに来たのよ」
「…私に?」
「そう」
「どのようなご用件で」
「だから」

 あーあー…。あんたが急に来るから、予定が狂ったわ。
 …けど、ここまで来たら、もう後には退けないか。
 このまま、いってしまえ。

「逢いに来たんだってば」
「…それは、どういう」
「どうもこうもないっての」

 めちゃくちゃ動揺してんじゃないの。もう今の時点で顔真っ赤だよ。
 察してんでしょ? 解ってんでしょ?
 まだ私に言わせたいわけ?

「あんたに逢いたいから逢いに来たの。それだけ」

 …ああ、絶句ですか。そうですか。うん、まあ、その気持ちは解るわ。
 私もまさか天狗の娘相手に、こんなこと言うとは思ってなかったよ。
 だけどね、あんただって言葉にしないだけで、口ほどに物言ってたじゃん。気付いてなかったみたいだけど、耳とか尻尾とか、私絡みで二回も出ちゃってたじゃん。
 …そりゃあ、にとりにフランドール様を紹介してくれた時には、あいつのことが好きなんだと勘違いしてたよ。おかげで「男だ女だなんて気にすんな」とか言っちゃった憶えあるわ、私。
 最初から相手が自分だって判ってたら、あんなこと恥ずかしくて言えるかっての。
 …それとも何か? これも私の勘違いか? だとしたら、こいつは空前絶後の豪快な空振りだわ。ハハ、笑えよ椛。
 ……で、どうなのよ? まだ黙ってるの? 
 ああ、そう。分かりました。
 帰って、自室で独り悶え苦しめばいいんでしょ。

「…ごめん。やっぱ、こんなの困るよね」

 ………。
 ……だからさ…。
 そうやって、後ろ振り返った私の服の裾を掴むくらいなら、もっと早く何か言いなさいよ。

「…待ってください」

 おう、待つ待つ。
 待ってあげるから何か言え。軽蔑して罵声を浴びせたいってんなら、それでも構わないから。
 このままじゃ私、道化にもなれやしないよ。

「どうして…急に、そんなこと……」

 急に、か。うん、まあ、あんたの気持ちに気付かない振りしてたしね。
 別に意地悪したかったわけじゃないのよ? ただ、いつか、そっちから言うつもりなのかな、って思ってさ。
 実は魔理沙が来た日とか、ちょっと構えてたのよね。あの日はフランドール様もパチュリー様たちと遊んでて、久々に長いこと話せたし。…でも、あんたは何も言わなかった。
 …そりゃ、そうよね。
 真面目が服着たような奴に、そんなこと言えるはずないわな。「吸血鬼の館で門番やってるガサツな女に心惹かれました」なんて、はっきり言って狂気の沙汰だし。
 …。
 ……だけど…。
 そんなあんたが、それでも逢いに来てくれてたんだ。
 嬉しかったよ。本当に。
 思わず、惚れてしまうくらい。

「…最近、顔を見せてくれなかったからさ」
「それは…その…」

 はいはい。忙しかったんでしょ。わかってますって。
 私も、ほんの半月ちょっと面(つら)拝めなかったくらいで何を焦ったんだか。

「ご迷惑に…なって…いるかと……」

 …本気(マジ)で?
 うわ、危ねぇ。今日、来といてよかった。
 え。てか、そんな迷惑そうに見えた、私? もしかして、素っ気ない振り、やりすぎだった? こないだ疲れた顔してたのも、私のせい…?
 ……い、いや、だって、仕方ないじゃん!
 いつもは、いかにも堅物ですって感じのくせに、笑ったり慌てたりすると、まるで生娘みたいでさ。そいつが私の前では、ずっと楽しそうに笑ってやがんのよ?
 ちょっと無理して堪えるくらいじゃないと、うっかり抱き締めちゃいそうだったんだってば!
 迷惑だなんて…そんなこと、これっぽっちも思ってなかったよ。
 ……けど、もし、一つだけ言わせてもらえるんなら…。

「…うん、そうね。ちょっとだけ困ったかな」

 どうせ今も、私の背中見ながら暗い顔してんでしょ。…とか思って振り向いて見たら、案の定だよ。
 そんな顔するなってば。ちょっと意地悪く言ってみただけなんだから。

「何か理由がないと、来てくれないのかと思ったから…」

 …顔見れば、安心したんだってことは分かるけどね、黙ってないで何か言いなさいって。
 ていうか顔上げなさいよ。もう目を合わせるのも恥ずかしいか。
 ああ、もう。白狼天狗って、もっと冷静沈着なイメージだったんだけどなぁ…。
 何だろうね、この娘は。

「…ねえ、椛。これからは、私を理由に、私に逢いに来てくれる?」
「……それで…良いのですか…?」
「バカ。それがいいのよ」
「…ですが、私は」
「こっち見なさい」

 世話が焼けるわ。
 私の顔くらい、私の手を借りないで自分で見上げろっての。
 で、何? この期に及んで。自分は女だ? 山の天狗だ?
 知るか、そんなの。
 揉めたら揉めたで出たとこ勝負よ。

「細かいことは気にしない。…ね?」
「……はい」

 やっと笑った。ついでに耳と尻尾も出てきたけど、この顔を見せてくれるのが一番嬉しい。
 …そういや、今までさっぱりモテたためしがない、とか言ってたっけ? …天狗の野郎どもは何してんのよ。いくらなんでも一度くらい笑顔見たことあんでしょ。手前らの目は節穴か? 目がいいのは椛だけかい。
 まあいいわ。誰も気が付かないってんなら……。
 この笑顔、この紅美鈴が貰い受ける。

「…これから、時間ある?」
「あ、有ります!」
「せっかくだし、どっか行こっか」
「はい!」

 おーおー、はしゃいじゃって…。そんなに嬉しいもんかい、私なんかとデートするのが。
 …こうして、尻尾をパタパタさせたりしてると、節穴どもの目にも止まるかも知れないね。
 ちょっと心配だから、引っ込めておいてもらおうかな。

「言い忘れてたけど、耳とか出てるわよ」
「え!? ……あの、これ、何時(いつ)…」
「当ててみ」
「…………『逢いに来た』…辺り…ですか…?」
「んー。もうちょっと耐えた」
「………『何か理由がないと』…」
「もうちょい」

 ところで、これって絶対フランドール様に怒られるわよね。ここ最近では一番のお気に入りみたいだったし。椛の方は、今まで通り接してくれるだろうけど…。
 もし「椛を賭けて決闘よ」とか言われちゃったら、勝てるかなぁ、私…。
 あ、でも、一度「私のために争わないで」とか言われてみたいかも。…いやいや、それだと椛が可哀想か。

「……『細かいことは』…」
「お、当たり。……ご褒美、いる?」
「えっ…!?」
「………今、なに期待した?」
「い、いえ、その…!」
「んー?」

 …ま、いっか。この幸せ噛み締めたいって時に、そんな難しいこと考えてられるかっての。
 この先どうなるかなんて、どうせ考えても分かんないんだし。
 出たとこ勝負、出たとこ勝負。
 これからのことは、これから考えればいいのよ。
 さしあたって、今からどこへ行くか、とかね。


















    五十八日目の夜 ・ ある恋物語のエピローグ



    その一 ・ 闇夜の吸血姉妹



「どーしてお姉様がついて来るのよ!」
「それは私が『小』さな『悪魔』だから」
「てゆーか負けた! 椛じゃなくて美鈴に負けたー!」
「あの娘の忠告をちゃんと聞いていれば、予定を早められたかも知れないのにね。もっとも、それでも貴方は勝てなかったでしょうけど」
「…お姉様。さては最初っから全部知ってたのね」
「私に隠し事なんて千年早いわ。貴方も、それぐらい見抜けるようになりなさい」
「うー…。こーなったら、二人ともの妾(めかけ)を目指してやろうかしら…」
「スカーレット家の子女が何てこと言うのよ。…そうね、フラン。山へ行く用事は消えちゃったことだし、今夜は竹林へ肝試しにでも行きましょうか」
「な、なんで?」
「貴方、あの蓬莱人(アンデッド)が恐いんですってね?」
「お…お姉様の、悪魔!」










    その二 ・ 図書館ではお静かに



「『どうせ私のものにならないのなら』とか言って美鈴さんも椛さんも壊してしまい、だけど心は空っぽのまま、押し潰されそうな孤独感の中でようやく『そうか、壊れていたのは私の方だったんだ』って気が付くフランドール様とか儚くて素敵だと思いませんか!? 思いませんか!?」
「私はつくづく、貴女の育て方を間違えたわ」
「その愚行を嘲り笑う私も逆上して壊されちゃって、ますます独りぼっちになっていく彼女を憐れみながら『嗚呼。愚かで可哀想なフランドール様…』とか言って消えていくのも良いかも知れませんね!」
「そんなに壊されたいのなら、今度、フランに頼んでおいてあげるわね」
「いやですね。冗談ですってば。…でも、実際やっちゃうと思いません?」
「そういう後悔をさせないように、レミィが何百年も掛けて自制心を植え付けたのよ」
「自制出来ないお馬鹿さんの方が可愛いのに。これじゃ悲劇的末路(バッドエンド)分が足りませんよ。栄養不足でお肌が荒れちゃいます」
「貴女は少しで良いから自重しなさい」










    その三 ・ 河童とメイドと魔法使いと



「…で、折角完成したってのに、魔理沙がうっかり落っことしてさー」
「ちゃんと見つかったんだから、いいじゃねーか」
「それで? そんな箱を見せるために、わざわざ来たのかしら?」
「いやいや、箱だけじゃないって。実は、落とした時にスイッチ入ってたみたいでさ、テープ一本分録画されてんのよ」
「お前も一緒に下に降りて見てみようぜ。お茶、おかわり」
「少しは遠慮しなさい。…で、その箱が見付かった場所は?」
「うちの工場(こうば)の近く」
「山の風景なんか見て何が楽しいのよ」
「何か面白いもん映ってるかも知れないだろ? …なー、さーくーやー」
「ああ、もう。わかったから引っ張らないで。零れるじゃない。…ところで貴方たち、門番の妖精には手を出してないでしょうね?」
「へ? あいつら門番だったのか?」
「ボールか何かで遊んでたけど」
「…お嬢様が不在で良かったわ」










    その四 ・ 鴉天狗の懺悔室



「ちょっと! かわいい妹分に悪い虫が付かないようにと散々根回ししてたのに、あらぬ所で変な虫が付いたんだけど!?」
「…………あー…。なるほどねー…」
「何よ、その反応は」
「…文ってさぁ、嫌われるべくして嫌われてるよね」
「何をぅ!?」







 
 お読み頂きまして、誠にありがとうございます。

 本作は美鈴×椛「それものシリーズ」の三作目にあたります。
 よろしければ、前日譚である『それは紅くて丸いもの』(作品集175)、『それは偽り切れぬもの』(同180)及び外伝『第五番目のプライム』(同176)もご笑覧頂けますと恐悦至極に存じます。

 今後は、この二人にイチャついてもらったり喧嘩してもらったりしつつ、その周囲の話も書きたいですね。文と椛の話とかも。

 ちなみに、二人の非番ですが、椛は週一回弱(不定期。勤務時間は変動シフト)、美鈴は月一回(お嬢様たちの我儘による変動あり)のつもりで書いています。うちの紅魔館ってば超ホワイト企業。

 それでは、お疲れ様でした。
昭奈
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.760簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
テープのダビング希望
5.50名前が無い程度の能力削除
前作までに比べてもちょっと描写不足を感じる。
一人称でその人物の表層的な思考にのみスポットが当てられ、そのキャラクターとそれ以外のオブジェクト(例えば「門」「壁」「地面」「空間」)との絡みが描写されないのは問題。面っ白な空間に居る訳ではないのですから。
例えば髪が長ければ風を感じるでしょうし、手をかざせば光を遮るでしょう。
相手と対面した場合は、もっともっと多種多様で微細な信号を無意識的にでも拾うはずです。
一人称で書くにしても人間の感情とは其れくらい広域で煩雑だと思うのです。
7.90名前が無い程度の能力削除
しまった砂糖だ!
なあ濃いお茶だ!濃いお茶だろう!?濃いお茶置いてけ!
8.80奇声を発する程度の能力削除
良い感じのお話で良かったです
16.90名前が無い程度の能力削除
にやにやがとまんねぇぇぇぐぇへへへへへ

めーもみ流行った!俺の中で流行った!やってくれた喃!
17.90名前が無い程度の能力削除
今作でこのシリーズを知りましたが、面白くて一気に全作読ませてもらいました。
つづきが非常に気になりますw
次回作を楽しみにまってますね^^
21.90名前が無い程度の能力削除
おい、続き書けよ
23.803削除
こういう形式も面白いですね。
ひとまずの決着となったわけですが、この先もどうなるのか目が離せませんね。
25.90名前が無い程度の能力削除
これは悪魔だらけですわ