Coolier - 新生・東方創想話

2人の姉

2013/03/09 19:57:25
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 見上げれば、灰色。
 雲が空一面を覆う「恰好の天気」に、レミリア・スカーレットは従者の十六夜咲夜を引き連れて博麗神社を訪ねた。
 咲夜の右手には日傘が、左手には風呂敷が握られている。
 その中に包まれているのは手作りの洋菓子だ。
 単に手ぶらで訪れるよりも、神社の巫女である博麗霊夢の機嫌が幾許か良くなるため、いつの頃からかこういった手土産を持参することが慣例になっていた。
 もっとも、それを作っているのも運ぶのも当然ながら従者のほうであり、霊夢に会いたがっている吸血鬼本人は特に何もしないのだが。


「れーいむぅー!遊びに来てあげたわよー!」
 神社本殿の更に後ろ側には、博麗の巫女専用の居住スペースとなる母屋が設けられている。
 その母屋の縁側に周ったレミリアは、甘えた猫撫で声で霊夢を呼ぶ。
 しかし、今日は返事も無ければ出て来る気配も無い。
「昼寝でもしているのでしょうか?」
 咲夜の言葉に「そうかもしれない」と思ったレミリアは母屋の中に入ろうとする。
 が、そこであることに気づく。
 レミリアが母屋に向かって呼びかけたのは、そこに誰かがいる気配がしたからだ。
 当然霊夢のものだと思っていたのだが、よくよく感覚を研ぎ澄ませれば、それは今まで出会ったことのない「誰か」のものだった。
「中にいるのは誰かしら?」
 先程とはうってかわり、レミリアの声は鋭さを帯びる。
 まさか今更博麗の巫女の命を狙う不逞の輩がこっそり忍び込んでいるとも思えないが、予定外の誰かの存在に対してレミリアはほんの僅かばかし苛立った。
 レミリアの声が届いたのか、縁側の障子が静かに開き、気配の主が姿を見せる。
 出てきたのはレミリアほどの小柄な少女。
 気だるげな表情にじっとりした「3つの」目がレミリアをまじまじと見つめていた。
「…どちら様でしょうか?」
「それはこっちのセリフよ」
 見知らぬ少女の言葉に、棘で返すレミリア。
「あんた何者?ここに何の用?」
 宴会の度に有象無象の魑魅魍魎や人間?が訪れるこの神社で、こういった見知らぬ顔に出くわすのは珍しいことではない。
 が、霊夢がいないにもかかわらず母屋の中で1人過ごしていたであろう事実に、レミリアの態度も冷たくなる。
「…失礼、自己紹介が先でしたね」
 物憂げな少女はその場で正座をし、名乗りはじめる。
「私はさとり…。旧都にある地霊殿の主、古明地さとりです」
 さとりと名乗る少女は、そう言って深々と頭を下げた。
「お嬢様より大分大人な対応ですわね」
「うるさい」
 従者の余計な言葉はともかくとし、レミリアは少女の名を反芻する。
「古明地さとり…さとり…ああ」
 ふと何かに思い当たる。
「もしかして"覚妖怪"か」
 レミリアの推理は当たったようで、さとりは「いかにも」と静かに述べる。
「ふぅん…。そんな嫌われ者の下賤な妖怪がここに何の用かしら?」
 不遜な態度を崩さないで質問を続けるレミリアに対し、さとりも静かに返答をする。
「先日、この神社の傍に突如温泉が湧く異変がありました。そのことを遠因とし、地上と地下を行き来するものが増えたことはご存じでしょうか?」
 そういえばそんな話も聞いたなと思い出し、レミリアは「ああ」と答える。
「元々、地上と地下には行き来を制限する取り決めがあったのですが、何しろ随分昔に交わされた約束です。
今まではお互いに地上のことも地下のことも忘れて過ごしていましたが、この神社の巫女と魔女のようなシーフが旧都を訪れて以降、
互いが互いに興味を持って往来が発生するようになったのです。
…それでどうしたものかと考えていたところ、妖怪の賢者と名高い八雲紫の提案で、
形骸化してしまった古い取り決めに代わる、今の時勢に見合った新しい取り決めを作ろうということになったのです」
「それでこの神社を訪ねたと?」
 はい、と言ってさとりは続ける。
「博麗神社と言えば幻想郷の要とも言える場所。そしてそこの巫女は幻想郷を包む結界の守り人。故に、賢者殿と巫女と私を含む3人を始めとして、
まずは骨子を作ろう、そういう名目で本日ここに集まったのですが…」
「しかし、神社の中にいたのはお前だけだ」
「ええ。実は先程、人里近くで妖精と妖怪の小競り合いが起きたそうなのです。
それ自体はよくあることらしいのですが、どうもその現場が畑の傍だったらしく、このままでは作物が大打撃を受けかねないと」
「それで霊夢が直接出向いた?」
 さとりは黙って頷く。
 そういえば、霊夢が金欠でありながら飢えに困っていないのは、何らかの貢物等があるからという話を、
真偽はともかくとして聞いたことがあったなと、レミリアは思い返す。
 もしかすると、今回被害を被りかけた畑の所有者は、そういったことに関わる人物だったのだろうか?
 そこまで考えて、レミリアはある疑問に突き当たる。
「ちょっと待て。なら、紫の奴はどうした?この神社にある気配はお前のものだけのようだが?」
 いくら紫が名高い大妖怪とはいえ、その気配のカケラすら読み取れないなどということはない―はずだ。
「紫さんなら『霊夢が戻ってきたらまた顔を出しますわ』と言ってスキマに潜ってしまわれました。
…もっとも、その霊夢さんを最終的に焚き付けたのも紫さんなんですが」
 そういうことかと納得するレミリア。


 さてこれからどうするかと考えていたところ、咲夜から声がかかる。
「どうなされます?今日はもう引き返しますか?」
 重要な話し合いが行われるならば、流石の霊夢もこちらに付き合おうとはしないだろう。
 が、少々考えてレミリアは咲夜の提案を拒否する。
「いや、このままお邪魔させてもらおう」
 予想外の言葉に、咲夜もさとりも目を丸くする。
「この妖怪は今『骨子を作る』といった。つまり、ここで作られるのは新たな取り決めの草案に過ぎない。
まして旧都との交流に関わる話だ。それはいずれ、他の賢者や大妖達も集めて本格的な推敲を行うはずだ」
―で、あるならば。
「そんな重要な話し合いに、このレミリア・スカーレットが呼ばれぬはずがない。
だったら今のうちにその話し合いに加わって、さわりを知っておくのも問題ないだろう」
 一体どこからそんな自信が沸いてくるのか、レミリアはふんぞり返ってそう話す。
 いや確かにその可能性も無くは無いが、あまりに自信たっぷりなレミリアの態度に、さとりは呆れかえる。
 一方メイドのほうはというと、こんなのはいつものことなのか、既に瀟洒な笑顔に戻っている。
「…よくそんな無根拠なことを口に出せますね」
 辟易するさとり。
「無根拠?何を言ってるのか…。私はレミリア・スカーレットその人だ。これ以上の根拠はあるまい?」
 これは会話が成り立たないなと、さとりは諦める。
 おそらくここでさとりが追い返そうとしても全力で抵抗するだろう。
 心を読むまでも無く、目の前の少女からは我儘なオーラが漂っていた。
「…まあいいです。最悪、霊夢さんと紫さんがなんとかするでしょう…。それはともかく…」
 居住まいを直して続けるさとり。
「レミリアさん…とおっしゃるのですか」
 そこで初めて、レミリアは自分が名乗っていなかったことを知る。
 が、まぁどうでもいいかとすぐに考え直す。
「ええ。この私がかのツェペシュの末裔、スカーレットの名を冠する吸血鬼の中の吸血鬼、レミリア・スカーレットよ!」
 ふふん、と鼻息あらく自己紹介するレミリア嬢。
 そんな余計な情報には興味無さそうに、さとりは立ち上がって部屋の奥に戻ろうとする。
「…わたしは先に、中へ戻っています。レミリアさんもお好きなように」
 それだけ言って、障子を閉めてしまった。
「…無礼な妖怪ね。やっぱり、地下に追いやられたヤツラなんてそんなものなのかしら」
 それは寧ろレミリアのほうなのではないかと咲夜は思ったが、もちろんそんなことは口にしない。
 恐ろしくて窘められないからではない。
 言っても無駄だと重々承知しているからだ。


 レミリアが室内に入ると同時に、咲夜が緑茶を提供する。
 この母屋に置いてあったものを、咲夜が時間を弄って即座に、且つ勝手に淹れたのだ。
「どうぞ」
 そう言ってさとりの前にも湯呑を置く咲夜。
 これが当たり前なのか、彼女の心に罪悪感とかそういったものはこれっぽちも見受けられない。
「うむ。下賤な地下妖怪が一緒というのは気に食わないが、相変わらず咲夜の淹れるお茶は紅も緑も美味しいな」
「ありがとうございます」
 にっこり笑って返す咲夜。
 一方のさとりはずっと黙ったままだ。
 レミリアが表面だけ繕って丁寧な態度を取っていればまだ何か指摘できるものの、
初めて顔を合わせてから今までずっと、心で思ったことをそのまま口にしているのだ。
 これでは流石のさとりもやることがない。
「それにしても旧都か…」
 不意に呟くレミリア。
「旧都ってのはどういうところなんだ?話して聞かせろ」
 暇だ、何か話せ、という心の声がだだもれる。
 さとりは正直面倒くさくて話したくないなと思ったが、話さなければ延々と執拗に迫ってくることは火を見るよりも明らかだ。
 早期に観念して口を開く。
「そうですね…どこまでご存じかは知りませんが、まずは成り立ちから話しましょう―」


「―ほう。つまり要約すれば、お前は旧都の支配者といったところか」
「ある程度の権力や力があることは否定しませんが、そんな大層なものではありません」
 レミリアの極端すぎる結論をやんわり否定するさとり。
 しかしいい加減話すのも面倒になってきたなと、さとりは話ながらにレミリアの深層心理を覗き始める。
 トラウマの一つも呼び覚まし、そろそろ逃げ帰ってもらおうという魂胆だった。
 すると―
「…妹?ですか」
 突然出てきたそのワードに、レミリアの体がピクリと反応する。
 かたやさとりは、キーワードから次々呼び起されるレミリアの心の声を読んでいく。
「…手のかかる妹さんがいらっしゃるそうですね…。そしてこれは…なるほど…」
 そこまで心を読んで、さとりはハッとする。

 ―ああ、この人は―

 瞬間、レミリアの腕はさとりの胸ぐらを掴む。
「…どこまで見たか知らないが、それ以上口を開くのはやめろ」
 圧倒的な殺意を持って命じるレミリア。
 並の妖怪ならば、その場で気を絶するほどの迫力がある。
 しかしさとりは怯える様子も無く、ただじっと「レミリア」を見透す。
「なんなら、その気色の悪い目玉を握りつぶしてやろうか」
 レミリアの脅迫は止まらない。
 …が、さとりはそんなことを意にも介さず、逆に優しくレミリアの手に触れる。

「―お辛いのですね」

 憂いと同情、そして共感に染まった目でレミリアをみつめるさとり。
 その表情に、レミリアの怒りは一層激しさを増す。
「何を―!?」
 今にもさとりを殴り飛ばさんとするレミリアを、咲夜がそっと制する。
「咲夜、お前」
 咲夜は瀟洒な笑みを崩さず、さとりの胸ぐらを離させるように、レミリアの手をそっとなでる。
「…ふん」
 2人の手に優しく触れられたレミリアは、流石にバツが悪くなって手を離す。
「失礼しました」
 主に代わって頭を下げる咲夜。
「いいえ、こちらこそ…」
 さとりは咲夜に頭を上げるよう促す。
「…気分が悪い。咲夜、帰るぞ」
「待って下さい」
 立ち上がって帰路に付こうとするレミリアに、さとりは声をかける。
「話を、聞いていただけませんか?」
「いらん。お前の声など、もう聞きたくもない」
 思いつめた声のさとりに対し、レミリアは耳を貸そうともしない。
 靴を履いて玄関を出ようとした時、またもやさとりから声がかかる。
「―私にも、妹が、いるんです」
 その言葉に立ち止まるレミリア。
「世界中の誰よりも愛おしい、大切な妹です」
 勝手に話し始めたさとりだが、しかし、レミリアはその場から動けなかった。
「妹は、誰よりも優しい子です。それは今でも変わらないと信じています」
 さとりの今までのどんな話よりも、今の声には重みがあった。
「妹は、私と同じ覚妖怪です。故に、意図しなくとも他者の心の声が勝手に脳内へ入ってくる。
そして大体においてその声は、聞きたくもない罵声や嘲り、蔑みや怯えた声などです」
 ―それだけではありません、と続けるさとり。
「心の声は、私たちに対するものだけではありませんでした。
第三者の、別の第三者に対する悪意までもです。
…私はどれほどの悪意であっても、耐えることができました。
意に介さなかったわけではありません。
私が耐えられたのは、私が『覚妖怪』だからです。
―あなたが、誇り高き吸血鬼であるのと同じように」
 レミリアは背中を向けたまま、ただじっと黙ってさとりの話を聞き続ける。
「しかし、妹はそういった悪意に耐えきることができませんでした。
…覚妖怪としては、あの子は優し過ぎたのでしょう…。
そうして妹が選んだのは―」
 そっと、自分のサードアイを掴むさとり。
「―この第3の目を、閉じてしまうことでした」
 それはつまり、覚妖怪でありながら、覚妖怪をやめるということだった。
 精神が存在の根幹を成す妖怪にとって、自己の否定は生命の存続そのものに関わる。
「…それで、その…妹は、どうなったの…?」
 おそるおそる尋ねるレミリア。
「幸いにして、妹の存在が消滅することはありませんでした。
…けれど、その日を境に、妹は「消えて」しまったのです」
 さとりの声から、悲壮が漂う。
「消えて…?」
「…妹は、覚の力と引き換えに、無意識を操る力を手に入れました。
元々それを望んでいたのか、あるいは覚妖怪の血がそうさせたのかは分かりません。
しかし結果として、妹は私でも心が読めない…、それどころか、その場にいるのかさえ感知できない存在になってしまいました」
 いよいよもって、さとりの声に嗚咽が混じる。
「妹…が、消え、消えなかったことは、嬉し…かったです。
けれど、私は…愛する妹が、私…の、目の前にいるのか、どうかさえ…分からなくなってしまった」
 レミリアは、ぎゅっと自分の手を握る。
「分からないから、触れることすらできないんです…!どんなに話しても、その場にいなければ、虚に話すのと変わらない…!
私の一番大切なものは、私の手から、煙のように消えてしまったんです…!」
 ぽたぽたと、涙が床に落ちる。
「なのに、なのに…!私は、何もできない…!その上、覚の私では私の妹は取り戻せないと、何かが囁くんです…!
重くのしかかるそれが、私の心までも潰そうとするんです…!」
 気が付けば、レミリアはさとりを抱きとめていた。
「…そんな辛さを誤魔化すように、私は沢山のペットを飼いました。
無論、ペットたちのことを愛していないわけではありません。身を投げ出して守れる存在です。
…けれど、私の心に巣食う何かは、私の中からただの一歩も出ていこうとせず、ひたすら私を押し潰そうとするんです…!」
 ぎゅっとさとりを抱きしめ続けるレミリア。
「…最近になって、徐々にですが、妹は私の前に姿を現すようになりました…。
けれど、未だに私は私の意志であの子を抱きしめてあげられないんです。
あの子が気紛れに現れた時だけ、受動的に愛するようなものなんです…」
 さとりの震えが、伝わってくる。
「私は…私はこれでも「姉」を名乗っていいのでしょうか…?
あの子の、妹の、「姉」でいいのでしょうか…?」
「…もういい」
 レミリアのさとりを抱きしめる腕に、いっそう力がこもる。
「それは、私だ。―私も、そうなんだ…。…心を読んだのだろう、さとり…。
お前のトラウマは、私のそれだ。…私も、本当に姉を名乗っていいのか、いつも悩んでいる」
 レミリアは続ける。
「私はこれまで、妹のために様々なことを試した。
様々なことを試したうえでの、幽閉だ。
それは偏に、私の力の無さ、そして狭量さによる結果としか言いようがない…」
 レミリアは、嗚咽を漏らし続けるさとりを居間に連れて行き、先ほどまで座っていた場所に再び座り直させる。
 そして静かに、今度は後ろからそっと抱きしめる。
「そんな私が最後に辿り着いた地がここ、幻想郷だ。
この箱庭のような世界で、私はまず、あらゆる者を力の下にねじ伏せ、従わせようとした。
それは誰も私に刃向わず、ひいては紅魔館に誰一人近寄らせないための布石だった。
―そんなある日のことだ。私は、夢を見た。妹が、誰か見知らぬものと遊んでいる夢だ。
そこには私もいた。横には人間のメイドがいて、私は妹たちを眺めつつ、優雅に紅茶を飲んでいた」
 さとりの嗚咽は、大分小さくなってきていた。
「目が覚めた時、私は茫然自失といった状態だった。あれはただの夢だったのか、あるいは、私の力が見せた未来なのか―。
―言うまでもないだろうが、私は後者であることに賭けたんだ」
 ふと見回すと、咲夜の姿が無い。
 空気を読んでどこかに隠れているのか。
「それから、私は負けた。『退治』されたんだ。
この全てを受け入れる幻想郷の一員になると決断して。
…その言葉が本当なら、きっと、妹も受け入れられるはずだと信じて…」
 レミリアはそっとさとりから離れると、今度は真正面に座って話を続ける。
「―そうして「今」が訪れた。傍若無人な紅白の巫女が、厚顔無恥な白黒の泥棒が、私が壊せないと喘いでいた壁をやすやすと撃ち抜いたんだ。
人間の持つ「可能性」が、吸血鬼の力や誇りではどうにもならないものを変革させたんだ。
そこで初めて、私は、あの時の夢が正夢になると知ったんだ」
 レミリアはそっと、さとりの手を握る。
「…きっとさとりの妹も、あの人間たちが、この幻想郷が変えてくれるはずだ。
最近になってさとりの前に姿を現すようになったのも、旧都の外…幻想郷に触れたからだろう。
だからもう、一人でなんとかしようと思わないでくれ。
私のように、希望を見出し、可能性に救われた者もいる」
 レミリアに手に、いっそう熱がこもる。
 ―伝わってほしいと、願いがこもる。
「…そう、ですね」
 やっと、さとりが笑った。
「私も、賭けてみたいと思います。
この幻想郷と、そこで暮らす人たちに―」
 レミリアの手を握り返すさとり。
「そしていつの日か…。私が、私の意志で、あの子を抱きしめてあげようと思います。
―私があの子を愛するということに、自信が持てるようになりたいと思います」
 その言葉に、レミリアもニッと笑う。
「その意気だ、さとり。
偉そうなことを言えた立場じゃないが、私も応援させてもらおう」
 先程まで深海のごとく悲壮に沈んでいた居間に、ようやく光が差し込む。
 明るいところを嫌う2人だが、今のこの空間は嫌いじゃないなと、お互い自然とそう思っていた。


「…で?私はいつまでここで突っ立ってりゃいいわけ?」
 お土産の洋菓子をもっちゃもっちゃと食べながら霊夢がボヤく。
「あら、別に座っていてもいいんですよ?」
「そういう問題じゃない」
 咲夜のすっとぼけた返事に霊夢がキレる。
「…まぁいいわ。今だけは勘弁しといてあげる。
流石に、今のあんな空気の中へ突っ込む勇気なんて無いもの」
「賢明ね」
 クスクス笑う瀟洒なメイド。
 そして2人は、境内から見える幻想郷の景色を望む。
「…いいところよね、幻想郷」
 砕けた口調で咲夜が言った。
「まぁね。ちょっとばかし、この神社への信心が足りないとは思うけど」


 幻想郷は全てを受け入れる。
 それは単に人や物や妖といった存在だけではない。
 自分一人ではどうしようもない悲しみも、自分だけでは勿体ない楽しみも、その全てを受け入れる。
 そうしてそれは、徐々に徐々に撹拌され、幻想郷に溶け込んでいくのだろう。


「―それはそれは、残酷な話ですわ」
こんにちは。
レミリアとさとりの出会いを考えていたら思った以上にシリアス分が増してしまいました。
これまでのアドバイス等も少しずつ活かしながら推敲してみたつもりです。
まだ左が詰まり過ぎてるかな?読み辛くはないだろうか?
…兎にも角にも楽しんでいただければ幸いです。
それでは。
ドゲスドウ
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コメント



0.910簡易評価
6.60名前が無い程度の能力削除
ううむ、いいっちゃいいんだけど、出会いから打ち解けるまでが早すぎるというか急ぎすぎてる感じがするかなぁ
個人的にはもう一悶着欲しいところ
7.80名前が無い程度の能力削除
ヤマ場がもう少し欲しかった・・・か?起承結って感じ。二人とも妹への考え方でもっと食い違っててもよさそうなんだが。
それとも全体構想でまだ起の段階なのかな。まだまだ広がりが読みたい所。

PS.読みづらくはないですよ。文章自体も素直に頭に入ります。
10.70名前が無い程度の能力削除
他の方もおっしゃっていますが、大体の二次でもあの二人の性格の本質はもっと固いと思います
あの場面からの通り一遍のお涙頂戴話だけではさとり自身の心すら動かないかと
「破壊」や「読心」と向き合った長い長い年月が二組の姉妹にどう違いを与えたのか、前作のような甘い関係に至るまでの複雑な経緯は今後他の作品でゆっくり描いていけばいいと思います
失敗を取り返すために焦り過ぎてはいけません、次作も楽しみにしています
11.80奇声を発する程度の能力削除
少し展開が早すぎるかなと思いました
23.70名前が無い程度の能力削除
序盤の雰囲気は良かったのですが、さとりがいきなり嗚咽まじりに話すのが急すぎるように思いました。
文章力はあると見受けられますので、次回作に期待します。
24.703削除
紫が最後をもっていきよった。
この二人の出会いを描写した作品はなかなか珍しいですね。