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東方捻物語(ひねくれものがたり)――妖怪と人間

2013/03/07 11:36:03
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 私は宵闇に生きる妖怪。
 今はお腹も一杯で、特にすることもなく、空を漂っている。とは言うものの、目の前に外の世界から来た人間を差し出されたら、余裕で平らげる事ができるけど。
 まぁ、世の中そんなに甘くなく、当然現れない。この世界にいる管理者のせいで、この世界の人間を現地調達することも許されていない。
「……あ」
 と、そこで。その管理者がいる建物――博麗神社が私の真下に現れた。
 魔法使いや吸血鬼を客として迎え入れるくらいだから、あいつはどうせ暇だろう。相手でもしてやりましょう。
「というわけで会いに来たわ、管理者」
「……珍しい客ね」
 私が付けた呼び名はさらりと受け流され、縁側に座ってる巫女の博麗霊夢は、縁側でお茶を飲んでいた。
「で、何しに来たのよ。この前私に倒された仕返し?」
「まぁそんな構えないで。ただの暇つぶしよ、あなたと同じ」
「いつからここは妖怪の住処になっちゃったのやら……。とっとと帰りなさい。子供はもう寝る時間よ」
「あなただって子供じゃない。それにしても今日は、魔法使いも吸血鬼もいないのね」
「どっちも、来るときは突然来るからね」
「そう。じゃあせっかくだから、お邪魔するわ」
「どうしてそうなる」
 霊夢の突っ込みに答えることなく、私も同じように、縁側に腰掛けた。
「人間の肉なんて、私の神社で用意してないわよ」
「別に、今はお腹一杯だし。今日はあなたを観察しに来たのよ」
「観察?」
「外の世界から迷い込んだ人間を捜すより、あなたを見ていた方が、よっぽど有意義だわ」
「そんなに変かしら、私」
「あなた、他の人間よりよっぽど妖怪っぽいわ」
「…………」
 訝しげな目になる霊夢は気にせず、話を続ける事にする。
「人間なのに、私の様な妖怪や妖精と仲良くしている人間なんて、あなたくらいじゃないかしら」
「魔理沙や咲夜はどうした」
「魔法使いは、私達側は特に好きでもないし。紅い館にいる人間も、吸血鬼に付きっきりじゃない」
 やっぱり霊夢がおかしいのよ。こうして、私と普通に話してるし。
「私が言うのも何だけど、私は妖怪。今ここで霊夢の目を盗んで、此処の結界を壊そうとしているとは考えないの?」
「別に。たとえそうであっても、私にはそれを阻止できる力があるし」
「それもそうね」
 それでも、霊夢は妖怪を恐れなさすぎる気がする。
「霊夢は妖怪が好き?」
「嫌いよ、あんな自分勝手で傲慢な奴ら。というより、スペルカードルールが制定されたからって、どうして私に勝てると思っているのかしら」
「妖怪は、何より貪欲なのよ」
 私の言葉に、霊夢は黙って耳を傾けていた。
「人間と違って、自分の欲に妥協する事を許さないわ。食べることに、襲うことに、攫うことに」
「人里の人間達は、それに反論しそうだけどね。高望みは、いつか自分の身を滅ぼす。そう言いそうね」
「魔理沙なら、更にそれに反論しそうね」
「そうね」
「ねぇ、霊夢。あなたはそう思うかしら。高望みをする者は、自分の身を滅ぼすと思う?」
「思わないわ。そう言う奴に限って、何もしてないのよ。実際に身を滅ぼした訳でもないのに、そうなった自分を想像してるだけで、解ったような気になっている。そんなものよ、人間なんて。妖怪と違って自分の事を省みるから、たいした事ない事にも動けないでいるのよ」
「でも、それもいいんじゃないかしら。自分の力がない事を理解していて」
「違うわ。怖いだけよ。人間はその気になればきっと、あなた程度の妖怪に勝つことだってできる。でも、負けて死ぬことを恐れているのよ。いえ、違うわね。死ぬ事を恐れることに恐れているの」
「……もう少し、分かりやすく言ってくれないかしら」
「……さっきはああ言ったけど。人間は自分をきちんと理解できているのよ。死ぬことを恐れると、その場から動けなくなる。それを潜在的に分かっているのよ」
「……そーなのかー」
 とりあえず、解った振りをしておこう。いつか別の人に聞いてみれば、もう少し分かりやすい答えが聞けるかもしれない。
「でも、人間はきちんと動くわよ。私を見ると、一目散に」
「そりゃあ、向かってくる死には逃げるに決まってるでしょうが。さっき言ったのは、死に立ち向かう時の話よ。さては理解してないわね」

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