Coolier - 新生・東方創想話

ん廻し、ん廻す、世界の中で

2013/03/04 23:57:14
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「"ん"ゲーム?」
「ええ、"ん"ゲーム。昨日私が思いついた、今までにない、全く新しい斬新なゲーム」
「それをやろうっていうのか?」
「そうよ。目の前に、丁度良いものもあることだし」

そう言うと、レミリアはニヤリと微笑んだ。





場所は紅魔館のリビング。時刻は丁度午後の3時を回った辺り。
ここには、館の主であるレミリアと、その妹のフラン、さらには、おやつ休憩に入った美鈴と、たまたま遊びに来ていた魔理沙と霊夢が揃っていた。

机の上には、紅茶のカップが5つ。それと、皿へ山盛りになったクッキーが、お茶菓子として出されている。もちろん、クッキーは咲夜のお手製で、味の方は保証付きだ。

レミリアがゲームについて言い出したのは、丁度魔理沙が「おお、相変わらず美味そうだぜ」と言いながら、目の前の皿へ手をかけようとした時だった。
いきなり「ちょっと待ちなさい」と言われ、折角の咲夜お手製焼きたてクッキーを前に、お預けを食らった彼女。
当然不服そうな表情を浮かべたものの、今は聞いたこともないゲーム名に、ワクワクとした表情へとなっていた。

「で、どうやるんだ?その"ん"ゲームってのは」
「簡単よ。しりとりの反対で"ん"がつく言葉を沢山挙げていくの。"ん"の数一つにつき、クッキーが一枚食べられるわ」
「じゃあ、一回で3個も4個も"ん"をつければ、それだけクッキーが食べられるってことですか?」
「そういうことね」

レミリアが締めると、それぞれ、「ほー」「なるほど」「お姉様、面白い事考えるなあ」などと呟きつつ、早速、一同は"ん"のつく言葉を考え始める。
唐突な提案にも関わらず、おやつからゲームへと切り替えの早さは、皆さすがに幻想郷の住人といった所だろうか。
しかし、そんな中で、かったるそうにため息をついている者が、一人だけ存在していた。

「面倒くさいわねえ。普通に食べればいいじゃない」
「何よ霊夢。連れないわね」
「だって、普通に食べたって、その"ん"ゲームとかいうのをして食べたって、別に味が変わるわけじゃないし」

霊夢の言うことも、もっともではある。
とはいえ、皆せっかく乗り気になって来たところなのに、霊夢一人だけ黙々とクッキーを食べていては、場も白けてしまうだろう。

(どうしたものかしら)

レミリアは少し考えると、おそらく霊夢を釣るのに最も有効であろう、人参作戦へと打って出る。

「しょうがないわねえ。じゃあ、霊夢か魔理沙が一番になったら、今晩我が館の夕飯をごちそうするわ」
「何やってるのよ皆。早速始めましょう」
「変わり身早っ!?まあいいか、私もタダ飯ありつきたいぜ」
「お嬢様、私たちには何かないんですか?」
「そうね。じゃあ、2人が勝ったら、今後一週間の夕飯のメニュー決定権を与えるわ。何でも好きなものを咲夜に言ってちょうだい」
「お姉様、それ本当!?私頑張る!」
「あはは、頑張りましょうね妹様。私も負けませんよ」

レミリアの言葉に目の色を輝かせるフランと、そんなフランを穏やかな笑みで眺める美鈴。
ちなみに、このやりとりを陰から聞いていた、勤務中のメイド長は「献立の予定が……」と、ため息を漏らしていたとかいないとか。

「それじゃあ、そろそろ始めましょうか。順番は、私から右回りでいいかしら?」

レミリアが言うと、一同は特に異論もない様で、「ええ」「いいぜ」「始めよっ!」という短い言葉と共に、こくっと頷いて見せた。
ちなみに、順番は『レミリア→美鈴→フラン→霊夢→魔理沙』となっている。
それぞれ、順に"ん"のつく言葉を挙げていき、クッキーがなくなった時点で、最も沢山食べていた者が優勝という訳だ。

「じゃあ、私から行くわね。まずは……そうね、『フランドール・スカーレット』で1枚頂くわ」
「あー!ずるいわお姉様!それ私が言いたかったのに!」
「ふふ、だろうと思ってね。先に取っちゃった♪」

ぶー、と頬を膨らませるフランに対し、レミリアはおどけたように言ってみせる。
そんな様子を苦笑しながら眺めつつ、「それじゃあ」と美鈴が口を開いた。

「次は私ですね。お嬢様がそう来るなら、私はもちろんこれです。『紅美鈴』で、2枚ですね」
「むー……じゃあ私は、この台詞でいいや。『きゅっとしてドカーン』で、とりあえず1枚」

美鈴は2枚、フランは1枚クッキーを取り、頬張る。
それぞれの枚数を紙へと記録しながら、レミリアは霊夢へと声をかけた。

「それじゃあ、次は霊夢ね。何枚くらい狙ってるのかしら」

すると、霊夢は得意気な顔で答えてみせる。

「私は『八雲藍&橙』で3枚。こういうのもありでしょ?」
「もちろん。これはそういう遊びだもの。魔理沙はどう?」
「『メディスン・メランコリーはスズラン畑の住人』。4枚だぜ」
「へえ、意外とやるものねえ」
「むう、魔理沙に負けた……」

感心するレミリアと、ちょっぴり悔しそうな霊夢。
しばし手元のクッキーを食べながら思案した後、レミリアが口を開き、2順目が始まった。

「『自分の考えたゲームで、そんな簡単に負けてらんないわ』……6枚よ」
「『本当お嬢様の負けん気の強さは、幻想郷でも一番二番を争う、心底感心できるレベルですよね』と、8枚です」

むう、と美鈴を睨むレミリア。しかし、美鈴は微笑むばかりで、そんな視線などは意に介した様子もない。
すると、紙に向かって何やら熱心に書いていたフランが「わあ!」と嬉しそうな声を上げる。

「ねえねえ、すごいの思いついた!『年末の紅魔館は聖人キリストの誕生日にかこつけたプレゼント交換会で、てんやわんやの繁忙ぶり』……9枚!」
「なるほどな。単に『クリスマス』にするんじゃなくて『聖人キリストの誕生日』と表現したわけか」
「おまけに『プレゼント交換会』で、また2つ稼いでいますし」
「見事ね、フラン」
「えへへ」

褒められたのが嬉しかったのか、照れた様に笑うフラン。楽しそうにクッキーを皿へ取り分け、ニコニコとしながらそれに口をつけた。
そんなフランを横目に見つつ、霊夢が続く。

「じゃあ、次は私ね。今朝のことだけど、起きたら『玄関に新品の文々。新聞がポーンと』投げ入れられてたの……私も9枚ね」
「むむ、霊夢も9枚か。私は、もうついていくのきついぜ……『そんな簡単にどんどん"ん"のつく文章なんて思いつかん』……ほらな、多少ズルしても8枚だ」
「あら、本当。わざわざ『"ん"のつく文章』なんて言ってる時点で完全にズルじゃない。恥ずかしくないの?」
「そこまで言う事ないだろ!?」

霊夢の容赦ないツッコミに「うわあん!」と泣きながら、机に突っ伏す魔理沙。
完全に心を折られてしまったようで、どうやら彼女はもう戦えそうになかった。

「ちなみに私は、もう次の番に向けてすっごいの用意してるから。覚悟しておきなさいよ?魔理沙」
「それ、何で私にだけ言うんだよ!」
「むう、霊夢ったら、何もあそこまで魔理沙を追い詰めることないのに。意地悪だと思わない?美鈴」
「いえ妹様、勝負の世界は非情ですからね。弱者は強者の足元へ屈するしかないんですよ、弱者は」
「聞こえてるぜ!?」

ヒソヒソと小声で話す美鈴とフランにツッコミを入れる魔理沙。
そんな彼女を差し置いて、ゲームは3順目へと入っていく。

「ん……私ももうきついけど『天真爛漫な妹と按図索駿(あんずさくしゅん)な友人、安如泰山(あんにょたいざん)な従者を持った私は幸せもほぅふっ!?」

言い切るより手前、突然現れたパチュリーにより、後頭部をハードカバー本の角で殴られ、机へと倒れ込むレミリア。
突然の事態に呆然となるメンバーを余所に、パチュリーは「何よ、『按図索駿』って。『聡明英知』くらい言いなさいよ」と、プリプリ怒りながら出て行った。

「うぅ……言い切れなかったけど、最後は『幸せもん』で、私も9枚よ……ガクッ」
「お、お嬢様、大丈夫ですか!?『混乱の中うんうん唸るお嬢様に、心配そうに寄り添う、私は門番』で、7枚持っていきますけど!」
「お姉様、平気!?『突然バンッと扉を開けて現れた知人の蛮行に内心ドッキンドッキン』で、私も7枚持ってくけど、ちゃんと私もお姉様の事心配してるからね!?」
「本当に心配してるんだかどうなんだか分かんないわね、あんたたち。何だかんだ枚数もそこそこ稼いでるし」
「グス……そういう霊夢はどうなんだよ。次、お前の番だけど、まだ何かあるのか?」

ちゃっかりクッキーを頬張りながらレミリアの介抱をする美鈴とフランに向かい、冷静にツッコむ霊夢。
そんな霊夢に、イジイジと涙を見せながらも、魔理沙は順番を促した。
すると霊夢は、彼女にしては珍しい満面の笑みを浮かべて

「ふふん、さっき『すごいの用意してる』って言ったでしょう。博麗の巫女の名は伊達じゃないのよ?異変だろうがそうじゃない勝負事だろうが、私が負けることなんてまずないんだから」

とわざわざ前置きをすると、大きく息を吸ってからこう言ってみせる。









「『新春新年元日元旦の満願成就祈願は、安全、安産、身体健康、金運、恋愛、良縁に商売繁盛と、どんなお守りも完備した博麗神社の参拝で!お賽銭は一円から上限なしでどんな額面も受け付けるわ!』これで30枚!私の勝ちね!」

「咲夜!クッキー足りないわ!さっさと持ってきなさい!」などと言いつつ、ヒョイパク、ヒョイパクと次々クッキーを頬張りながら、霊夢は高笑いをしてみせるのだった。










「霊夢おめでとー!」

「おめでとうございます、霊夢さん」

「ちぇー、結局霊夢の勝ちかあ。次は負けないぜ」

「おめでとう霊夢。今晩は咲夜が腕によりをかけたフルコースよ。堪能していってちょうだい」

「クッキー食べ過ぎて、もう夕飯入んないのよ!さっきの見てたら分かるでしょ!?」
おあとがよろしいようで。

古典落語『ん廻し』に題を取ったお話を書いてみました。
これ、非常にシンプルながら中々頭を使う遊びでして、やっぱり昔の人の考えるものは面白いなあと。また一つ、お気に入りの言葉遊びが増えました。

ちなみに『按図索駿』の意味は『役に立たない知識や行動のこと』なのですが、これは別にパッチェさんをdisっているわけではなく、素直に親友を褒められないお嬢様の照れ隠しということで一つ。
本当はいい子なんですけどね、うちのお嬢も。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。それでは。
ワレモノ中尉
http://yonnkoma.blog50.fc2.com/
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コメント



0.1640簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
元ネタの落語が悪いという訳では決してないですが、いささかネット小説向きではないように感じました、単なる言葉遊びの域を出ないので想像の発展性に欠けるとでも言いましょうか
媒体が違えば言葉の持ち味も変わる、難しいものです
7.90こーろぎ削除
いつも楽しませてもらってます。氏の作品は言葉遊びの面白さがにじみ出てると思います!
10.70名前が無い程度の能力削除
言葉遊びは面白かったけどややストーリー性に欠ける感じがありました
12.70奇声を発する程度の能力削除
遊び心があって面白かったです
22.70名前が無い程度の能力削除
『〜する(人物名)。』の形が多くてよみにくい。設定の諧謔さに頼ってる感が否めなかった。

最後の霊夢は感心したなぁ。
「侃侃諤々の終盤、満身創痍でも宣伝の怠慢を甘んじない霊夢の精神に感心」ってね。
14枚もらいます(笑)
25.100紅川寅丸削除
【ん廻し】ですか。古典落語はネタの宝庫かもしれませんよね。
日本語特有の文化と幻想郷のコラボ、楽しそうです。
私もやっちゃおうかな……
29.80名前が無い程度の能力削除
子供時代にみた「ん」が拗ねる話を思い出すな…。昔の人もいいセンスしてますね。
41.80さとしお削除
だんだんエスカレートしていくのがいいですね。
42.903削除
し「ん」しゅ「ん」し「ん」ね「ん」が「ん」じつが「ん」た「ん」のま「ん」が「ん」じょうじゅきが「ん」は、
あ「ん」ぜ「ん」、あ「ん」ざ「ん」、し「ん」たいけ「ん」こう、き「ん」う「ん」、れ「ん」あい、りょうえ「ん」にしょうばいは「ん」じょうと、
ど「ん」なおまもりもか「ん」びしたはくれいじ「ん」じゃのさ「ん」ぱいで!
おさいせ「ん」はいちえ「ん」からじょうげ「ん」なしでど「ん」ながくめ「ん」もうけつけるわ

なるほどジャスト30だ。

こんな言葉遊びもあるんですねぇ。知りませんでした。
前に言葉遊びのSS読んだことあったな……と思い調べたらやはり同じ方でしたね。