Coolier - 新生・東方創想話

夜空に星を打ち上げて

2013/02/13 22:49:16
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 とんとんと窓を叩く音がする。
 最初は風の音かと思ったけれど、何度も叩く音がしたのでカーテンをあけてみると魔理沙の姿があった。
 『用があるなら玄関から来たら?』
 と玄関の方を指差したけど、それに対して魔理沙は首を振り「外に来い」とジェスチャーする。
 こんな寒い夜に何を、と思ったが抵抗したところで最終的に外に出ることになるのは明白だったので、青い手袋と藍色のマフラーをして外に出た。

 二月初頭
 まだまだ肌寒い冬の夜。
 しっかりと茶色のマフラーをした魔理沙は私を見て「遅い」という。

「確かにもう夜遅いわね」
「星も見えるいい天気なんだぜ」
「それで、こんな寒い夜に呼び出して何をするの?」

 特に異変の空気を感じるわけではない。
 緊急のなにかがあるとは思えなかった。

「星撒きしようぜ!」
「星撒き……? 豆撒きの間違いじゃなくて?」

 だって今は二月。ちょうどその時期ではないだろうか。

「アリスは豆撒きの方がしたいのか? でも今豆ないしなぁ」
「……いいわよ、その星撒きの方で」

 私には豆撒きをする習慣はない。
 だから私の家にも豆はない。
 そもそも自分から進んでやりたいというわけではない。
 もちろん魔理沙が豆撒きをやろうと言ったら付き合うつもりだったけど。

 ただ、星撒きの方は気になる。
 星撒きをする習慣もないけれど、そもそも行事に疎い私には魔理沙の言う星撒きというのが何かわからない。
 言葉の響きは綺麗だと思うんだけど。

「ところで星撒きって何するの? ごめんなさい。聞いたことがなくて」
「さっき私が考えたからな」

 なんだ、魔理沙オリジナルの行事だったのね。
 知らなかったのを恥ずかしく思ってちょっと損した。

「言ってしまえば豆撒きみたいなもんだよ」
「星を相手にぶつけるとか?」
「アリスってたまに過激なところあるよな」

 そうじゃないといいな、というつもりで言ったんだけど墓穴を掘ってしまったみたいだ。

「星ぶつけるんじゃ弾幕ごっこと大した変わらないだろ」
「そうね」
「そうじゃなくて歳の数だけ星弾を夜空に打ち上げるんだ」
「魔理沙ってたまにロマンチックなところあるわよね」

 そんなことを言われると思っていなかったのか、魔理沙はまぁなと照れたように頬をかいている。
 たまに見せるこういう仕草がかわいかったりするのよね。
 本人に言ったら否定するだろうけど。

「星撒きで何をするのかは大体わかったわ。こんな天気のいい夜にはぴったりね」
「だろだろ!? じゃあ早速始めるぜ」

 言うと同時に魔理沙は夜空に向けて一発の黄色い星弾を打ち上げる。
 頂点に達したかというところでバーンと炸裂し、小さな黄色い弾が夜空に降り注ぐ。
 まるで花火のようだ。

「綺麗……」

 思わず素直な感想が出てしまう。
 魔理沙には聞こえていなかったのか特に反応はない。
 
 続いて二発目、緑色の星弾が打ち上がる。
 先ほどと同じようにバーンと花火のように、小さな緑色の弾が夜空に降り注いだ。

「……綺麗だけど、一回でこんなにたくさんの小さな弾撒いたら、それだけで魔理沙の年齢超えるほどの星撒きになっちゃうんじゃない?」
「一発は一発だよ、それにただ一発打ち上げるだけじゃ美しくないだろう。せっかくやるんだから綺麗なのを見て欲しい」

 そして三発目、青色の星弾が打ち上がる。

「魔理沙なら星は黄色いんだぜ、とか言って全部黄色い星弾にするのかと思ってたけどそうではないのね」
「普段の弾幕ごっこでもいろんな色の弾使ってるつもりなんだけどな」
「それは弾幕ごっこだからじゃないの?」

 今は星撒きだから星を再現するのを重視するとばかり思っていた。

 四発目、赤色の星弾が打ち上がる。

「アリスは星の色って一色だと思うか? 私は一色じゃないと思うんだ。月にしてもレミリアの異変の時にこんな感じに紅い月を見たくらいだ」
「……」
「今、空に浮かんでいる星の色が本当は何色なのか私は知らない。だからいつか掴み取りたい。そして掴み取った時、星が赤色だろうと青色だろうと再現できる私でありたい」

 五発目、こんな色も有り得るだろうと紫色の星弾が打ち上がる。

 星の色が何色かなんてそんなこと考えたことなかった。
 ただそこに見える黄色の星が真実なのだと、そう思っていた。
 知らないうちに視野が狭くしてしまっていたようだ。
 また彼女に気付かされた。

「安直な考えだったわね、ごめんなさい」
「なんでアリスが謝るんだ? 私も本当のところはよくわからないし、全部黄色かもしれないぞ」
「魔理沙のことも星のこともよく知らずに、全部黄色い星弾にするなんて決めつけたのが申し訳なく思うの」
「……」

 再び黄色の星弾が打ち上がる。まるで私の言葉に対して気にするなと言うように。

「ありがとう」
「うん」

 魔理沙は休むことなく、次の星弾を打ち上げる。
 今度は私のマフラーとよく似た色、藍色だった。

「星の再現、そうなると全ての色が必要なのよね。例えば今魔理沙が巻いているマフラーの茶色とか」
「茶色はない」
「そうなの?」
「アリスは茶色が好きだったのか?」
「別にそういう訳ではないけど」
「それならいい」

 藍色の星撒きが終わり、次の星弾が打ち上げられる。

「でも茶色が本当の色って可能性もあるんじゃないかしら」

 茶色に特に思い入れはないし、それよりは青色、赤色、黄色とかの方が好きだし綺麗だと思う。
 そう、ちょうど今上がっている橙色もとても綺麗だ。
 でも魔理沙はさっき茶色は“出来ない”ではなく“ない”と言った。
 星の色の答えはわからないと言っていたのに。

 星弾がどんどん打ち上がる。

「そうかもな。でも茶色の星を打ち上げるのは星が茶色とわかってからでもいい」
「どうして?」
「茶色は今必要ないってことがわかったからだ」
「どういうこと?」
「……終わりだ」

 明らかにはぐらかしていた様子だったが、深くは追求できなかった。
 いつの間にか星を撒くのをやめており、辺りは静けさで包まれていた。

「もう終わり?」

 途中から数えていなかったので何発打ち上げられたのかわからないが物足りない。
 茶色の星の話なんてしないでもっとじっくり見ればよかった。
 だって魔理沙の星は私の好きな色ばかりで輝いていたから。

「まだまだ私は若いからな」

 曖昧な笑みを浮かべて魔理沙は言う。
 そういえば最初に言っていた。歳の数だけ撒くんだと。

「さぁ次はアリスの番だぜ」
「え? 私も?」
「当たり前だろ」
「……ごめんなさい。私は打ち上げられないわ」

 その気になれば私だって星弾は打ち上げられる。
 でもさっきまで打ち上げていた魔理沙の星弾に比べて見劣りするのだ。
 それが恥ずかしい。
 それに私は魔理沙と違って若くはない。といっても人間の年齢で考えた場合だけど。
 その程度には生きているので量も多くなる。
 魔理沙を飽きさせずに何発も打ちあげる自信がなかった。

「そっか……それじゃあ私がアリスの分も撒いてやるよ」

 少し寂しそうな表情を見せていたけれど、すぐに何かを決心した表情になった。
 私の代わりでそこまで真剣になる必要はないのだけど。

「私はアリスの歳知らないから数の代わりに特大のを一発見せてやるよ。それで何色にする?」
「えっと……」
「アリスの星撒きなんだからアリスが決めてくれ」

 決めてくれと突然言われても迷ってしまう。
 魔理沙の星は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色どれも輝いていたから。

「どうした? アリスの好きな色でいいんだけど」
「だからそれが迷うのよ。そうだ、魔理沙の好きな色教えてよ」
「私のを聞いても仕方ないだろう……それにそれじゃ意味がない」
「いいから」
「よくない。私の好きな色は、打ち上げられない」
「……」

 赤色も緑色も、七色も星を作ったのにわざわざ自分の好きな色使わないなんてあるだろうか。

「魔理沙、ウソついてるわね」

 追求された魔理沙の目は泳いでいる。何かを迷っている様子だった。

「わかった、言うよ。……実は星の色についてだが星を再現というのは理由としては半分なんだ」

 先程まで泳いでいた目は空へと向けられている。
 あの星が本当は何色だとしても些細なことだと言うように。

「星は見てくれる人がいてこそ輝かせることが出来るんだ。見て欲しい人に見てもらうために輝くっていうのかな」

「だから率直に言うと私の星を見て欲しいやつがいる。それも見せるならとびきり輝かせた星を見せたい」


 私は言葉を返すことが出来なかった。
 魔理沙には星を見せたい相手がいるのだという。
 それが誰なのかは知らないけれど、一つだけ分かるのはその人は幸せものだ。
 あんなに輝いていた星を、それ以上に輝く星が見れるのだから。

「そのためにはやっぱりそいつが好きな色で打ち上げるのが一番だ。でもそいつが好きな色を私は知らない。いや、ある程度は絞れたんだ。それがさっきの七色」
「つまり、その人の好きな色がどれでも打ち上げられるように、そういうわけなのね」

 今日のはその予行演習だったんだ。
 人前でも上手く出来るかどうかという。
 大丈夫、魔理沙。どの色も綺麗だったわよ。

「そうだ。ただ、今のままだと七分の一だった。だから当てるには数打つしかなかったんだ。行く行くは一分の一にしたいんだけどな」

 ふーん、なるほど。でも魔理沙、数打つだけじゃダメなのよ。
 それを私が教えてあげる。
 予行演習相手に私を選んでよかったかもね。

「それじゃあ魔理沙、一発お願いするわ。七色全部よ」
「へ? 一発って言っただろう」
「そう、だから一回で七色全部。虹色を打ち上げるの」

 今日打ち上げた星弾は全て一色ずつだった。
 黄色の星弾が打ち上がれば黄色い花火が咲き、青い星弾が打ち上がれば青色の花火が咲く。
 それはそれで綺麗だったけれど一発一色にこだわる必要はないはずだ。

「ははは! やっぱアリスは天才だな。確かにそれなら百パーセント的中だ」

 その手があったかと手を叩き、魔理沙は笑顔で星弾を作り始める。
 魔理沙が見て欲しい人というのは誰なのかわからないけど、人が好きな色というのも一色とは限らない。
 それこそ私のように七色全部が好きなヤツだっているのだから。

「さっき迷ってたのは……もしかしてアリスは七色全部が好きなのか?」
「ええ、まぁね」
「……なんだ今まである意味全部的中していたのか」
「え? なに?」
「いや、なんでもない」

 先程までは数秒もあれば星弾を作って打ち上げていたのだが未だに完成せず、魔理沙は必死に両手で作ろうとしている。
 今まで一色ずつ打ち上げていたのだ、もしかしたら複数色というのは初めての試みなのかもしれない。

「ちょっと。あまり無理しなくてもいいわよ」
「そういうわけにはいくかよ! 言っただろ。『とびきり輝かせた星を見せたい』ってな!」
「え!?」

 魔理沙の手から星弾が離れ、ヒューっと打ち上がる。
 赤、橙、黄と七色が絶えず変化する今までで一番大きな星弾。
 今までで一番高くに飛んだところでバーンと花開き、七色の小さな星弾が散る。


「即興だったが上手くいったな。見てくれたか、あれが私が見せたかった。アリスに見せたかった星だ」
「うん! 見たっ! 今までで一番綺麗だった……!」

 最初から魔理沙は私に見せようとしていたのだ。
 最低でも七発は打つために星撒きという自分で考えた行事まで利用して。
 それならそうともっと早くに言ってくれればいいのに。
 いや、魔理沙はたまにロマンチストなところがあるからきっと言うつもりはなかったのだろう。
 私が言わせてしまったんだ。

「いやぁしかし思ったより大きくなったな。あれ一発で百歳分くらいはありそうだ」
「バ、バカ! 私はまだそんな年じゃないわよ!」
「ははは! じゃあ今度特大のを打ち上げるのはアリスが百歳になった時だな」

 全くもう、誕生日ケーキの大きいロウソクみたいな扱いで言うんじゃないわよ。

「今度って来年もやるのね」
「来年だけじゃない。再来年もその次もずっとやるんだ。アリスも……今度は一発でもいいから打ち上げてくれるとうれしい。アリスの星撒き見たいんだ」
「そうね、ぜひ」

 私も魔理沙に輝かせた星を見せなくちゃ。
 魔理沙みたいに上手くいくかはわからないけれど見て欲しい。

「それでさ、何年もやって慣れたらアリスもたくさんの星を撒くんだ」
「うん、そしてもっと何年も経ったら特大な星弾も……」

 たくさん打ち上げられるといいわね。
 そう続けたかったけれど言えなかった。
 これはただの私の我侭。

「うん?」
「ううん、何年もやったら同時に撒くのもいいかもね。一人ずつやる必要はないんでしょ?」
「それもそうだな! やっぱりアリスは天才だ。次が楽しみだ」
「気が早すぎよ。鬼に笑われるわよ」
「それなら豆撒きするか!」
「豆はないんでしょ?」
「そうだった」

 あははと笑う魔理沙に釣られて私も思わず笑ってしまう。


 ひとしきり笑った後、ふと空を見上げる。
 撒いた星が残っていたのか一筋の流れ星が流れる。
 来年も二人で星撒きが出来ますように。
 そう願った冬の夜。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
マリジャ
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コメント



0.640簡易評価
3.100こーろぎ削除
すっきりとした気分になれました
4.80名前が無い程度の能力削除
なぜか切ない気分になってしまいました
5.80奇声を発する程度の能力削除
少しだけ切ない感じがして良かったです
7.100zeit削除
澄んだ夜空に溶けこむように
切なく甘く、なによりやさしさの感じられるイイ話でした
こんな空気が大好きです
16.100非現実世界に棲む者削除
魔理沙とアリスの星の器は広くてカラフル。
とっても素敵なお話でした。
17.1003削除
素敵な雰囲気漂う作品でした。ごちそうさまでした。