Coolier - 新生・東方創想話

東方新奇譚 (オリジナルキャラ嫌いな人は回れ右)

2005/08/23 06:09:50
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この世界のどこかにあるかもしれない幻想郷。その外界との接点近くにある長い石段。
毎日上り下りするだけで足腰が鍛えられそうな石段を上っている少年がいた。
ひたすら長い階段の中腹を越えた辺りだというのに、いまだに息を乱さず、少し速いペースで階段を上る。
髪の色は銀。だが前のほうに青の混ざったものもあり、男性としてはやや長めなそれを後ろにまとめている。
年齢で考えるなら高くも無く低くも無い体をゆったりとした服で包み、だがその服のせいで実年齢より少し年下に見えてしまう。
彼が登る石段も後ニ、三十程度となった。ここまで来れば今まで見えなかったものが見えてくる。
階段の先を見上げれば…鳥居。真ん中には『博麗神社』と書かれた板も見える。
外界とこの幻想郷の間に位置するのがここ、博麗神社である。この神社に仕える巫女、博麗霊夢は代々幻想郷を隔離する人払いの結界、『博麗大結界』を守り続けてきた。
最後の段を上りきり、一度深呼吸をする。…少し早くなった鼓動も落ち着いた。
「…よし。」
少年は博麗神社の社…ではなく、その裏手へと回った。神社の裏手には居住空間があり、巫女はそこで寝泊りをしている。
「おーい、霊歌(れいか)ー?起きてるんなら返事しなさーい。」
彼の声が社中に響くが、反応は無い。…ぼりぼりと頭を掻き、さっさと中に上がる。
「あら、紅夜(こうや)じゃない。うちの娘に用でも?」
入ったとたんに出迎えてくれたのは、紅白の衣装を着た女性。…現博麗神社巫女の博麗霊夢だ。
相変わらずの改造巫女装束を見て、彼、紅夜は苦笑する。
「…お久しぶりです霊夢さん。」
「嫌な顔、しかも棒読みで言われたって嬉しくないけど。」
「ところで、あの⑨(バカ)起きてます?今日は早めに集合するって言ったはずなんだけど…」
「…まだ寝てると思うわ。まったく誰に似たのかしら、こんなに遅くまで寝てるなんて…」
あんただろあんた。紅夜はこのツッコミを必死でこらえた。
「…起こしてきていいですか?ダメなら最悪アレをそのまま引きずっていきますから。」
「気をつけなさいね。」
霊夢の言葉を背中に受け、早速霊歌の寝ている寝室へと向かった。
寝室のふすまの前に立ち、顔だけ入れるようにして開く。
「こらねぼすけ。とっとと起きろって……」
顔をふすまの間に突っ込んだ時にはもう遅かった。…まさか着替えている最中に顔を出してしまうとは…
お約束過ぎる。そう思う頃には紅夜の顔はハリネズミになっていた。
「ちょっと!早くふすま閉めなさいよ!」
まだ整えていない髪は金と黒が半分ずつ。背は紅夜よりは低めの少女。
今、紅夜に針を打ち込んだ彼女こそが博麗霊夢の娘、博麗霊歌だ。
「…いいから着替えろ。どうせ今は見えないんだから。」
「そうじゃなくて、気分の問題よ!」
今度はお札だ。さすがにこれは避ける。…その隙にふすまを閉められてしまった。
ぷちぷちと、顔に刺さった針を抜いていく。…抜くときが一番痛い。
『もう、あんたの声が聞こえたからようやく起きる気になったのに、寝覚め最悪!』
「こっちもいきなり顔面ハリネズミだからな。おあいこ…でもないか。眼福眼福。」
『…見たのね。』
「もうバッチリと。いやこれまた平坦な体で…」
はっはっは。これはもう笑うしかなかった。何せ…
『…恋符「マスタースパーク」ッ!!』

ドゴォンッ!

こうなるからである。よくある典型的なラブコメ…とは違うのがここならでは。
「あー、吹っ飛ばすなよ。霊夢さんに怒られるぞ。」
すばやく飛んで恋符を回避した紅夜がからかい口調で言うと、
「咲夜さんに言いつけるわよ。『あなたの息子さんって覗きが趣味なんです』って。」
「ちょっと待て咲夜出すのは反則だろ!?」
…十六夜紅夜。それが彼のフルネームだ。
「ふん、乙女の体は高いのよ。当然の報いってやつ。」
「…乙女か?」
すでに着替え終わってこちらにやってきた霊歌を見てみる。
金と黒の髪はツインテールにし、親子そろっての改造巫女装束を着ている。
…紅夜の目は別のところに行っているが。それも小さな胸の方に。
「…何が言いたいの?」
「いや、こんな子供体型の奴が『ヲトメ』だなんて…世も末だな、って。」

「いっぺん死になさぁいっ!」

「…俺が悪かった。本当にこのとおり。だからこの座布団を剥がして下さい…」
紅夜の体中に、博麗アミュレット(通称「座布団」)が張り付いていて、その上に針が刺さっている。
はっきり言って、今の紅夜の姿はウニそのものである。
「ウニは黙ってなさい。とっとと集合場所に行くわよ。」
紅夜ウニを紐で縛り、ぶら下げながら霊歌は他の友人のいる場所へと向かった。

     ***   ***

幻想郷には森がある。広い広いその中には様々な魔道の素材、もしくは妖怪たちがいる。
誰が言い始めたか知らないが、そこは「魔法の森」と呼ばれるようになった。
さて、その森と陸の境目に、二人の少女が待っていた。
一人は青と白の服に身を包み、まさしくイライラと言う言葉が似合うほどに怒りを表していた。
もう一人は黒い闇を纏って中がよく見えないが、闇と同じ黒い服を着て、ふよふよと漂っていた。
「紅夜おっそーい!霊歌呼びに行くのに何時間かけてるのよー!」
「時間なんて私には関係ないけどー。」
「…ルーミア?暗くなるからあんまり近寄らないで。」
「えー?闇の中って気持ちいいいのに。チルノも入ってみようよ。」
ほらほら、ともう一人分の闇を作り出す。
「いらない!それよりまだ帰ってこないの!?」
「ついさっきも言ったよねー、それ。」
頭をかきむしりながら、青い少女、チルノは上を見上げる…と。
「…あ。」
こちらに飛んでくる紅白の少女…霊歌と、とげとげが全体に生えているウニのような物体。
「ごめーん、遅れたわー。」
「タスケテクダサイタスケテクダサイタスケテクダサイタスケテクダサイ…」
「遅いよ霊歌!…って、何そのウニ。」
「あ、霊歌ー。ねえそれ食べてもいいかな?」
「タベナイデタベナイデタベナイデタベナイデ…」
「ダメよルーミア。これ、一応紅夜だから。」
「そーなのかー」
「えっ!?紅夜ってウニだったの!?」
「チガイマスチガウ何いっとるかこの⑨女ァァ!!」
「うわ動いた!?」
…このままではどうにもならないので紅夜の封印を解く。
「…あー、やっと動けるようになった。まったく、ほんとに手加減しない奴だなお前は。」
「もう一回食らいたい?」
「ゴメンナサイモウシマセン」
また博麗アミュレットを出す霊歌にあわてて土下座する紅夜。
「ほら二人とも!メンバーそろったんだからさっさと入るよ!」
今日はこの四人で魔法の森を探検するつもりでいた。リーダーと自称するチルノは俄然張り切り、すでに興奮気味だった。
「はいはい。ほらルーミア、紅夜。急ぐわよ。」
「おー。」
「…あいよ。」
四人はようやく魔法の森の中へと入っていった。
一歩踏み込むごとに周りは暗くなり、奥に入るころには昼間の明るさは宵の口ほどに薄暗くなってしまった。
「いやー、こりゃ薄気味悪いほど暗くなったわねー。」
霊歌の台詞を聞き、紅夜もそれにのる。
「こういうところって、お化けとか出そうだよな。」
ほらそこに、と指をさせば前のチルノが体を震わせる。
「じょ、じょ、冗談言わないでよ!お化けなんているわけないじゃないの…!」
「いや、俺は単に『出そう』って言っただけで『出る』とは言ってないぞ。」
それにお前らがお化けそのものだろ。喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「それでも紅夜が悪いの!罰として後でアイスおごりなさい!」
「私の分もお願いね。」
「私もー。」
「お前ら…わかったよ。後で咲夜に頼んでみる。」
ほぼ便乗の形で三人にアイスをおごる羽目になり、ため息をつく紅夜。
「咲夜さんの料理は絶品よ。レミ姉のところに遊びに行ったときに食べさせてもらったけど…」
「そーなのかー」
「期待できそうね。」
レミ姉とはもちろん紅魔の主、レミリアのことである。霊歌が小さいころには妹のフランドールとともに遊んだりしていた。
もともと霊夢との関係はよかったため、霊歌の事もすぐに受け入れてくれた。
「やれやれ。お前らがそろって紅魔館に来られたら、潰れちまうって。」
紅夜が苦笑し、特にお前はな…とチルノを見る。
「ちょっ、どういう意味よ!」
生暖かい視線にチルノが怒り出した、その時。

ガサッ

自分たち以外の物音に、四人は反応した。
「なに?誰かいるの?」
「物音がするって事はお化けじゃあないな。」
「だからその話は…」
喋り出すチルノをさえぎって、黒い影が飛び出した。それはそのままチルノの顔面に張り付く。
「ふぎっ!?」
飛びつかれた勢いでそのまま倒れ、ぴくぴくと痙攣している。
近くの木の棒を拾い、倒れた氷精をつっつくルーミア。
「おー。おもしろいよー。ほら紅夜も霊歌もやってみてー。」
「コラコラ。何やってるんだお前は。そんなのおもちゃにするなって。」
「とりあえず、ルーミアがそれ運んでね。私たちが触れば火傷するから…」
氷精の体温は極端に低く、普通の人間の体温でも彼女らにとってはマッチの火程度の温度になる。
ルーミアは棒を捨て、体から闇を生み出して気絶したチルノを包んで持ち上げる。
そこからはらりと落ちたのは、さっきまでチルノの顔に張り付いていた物。
「これって…式神?」
霊歌が拾い上げたものは、獣の形の切り紙に簡素な呪文を書き込んだ物。これに念を込めれば簡単な式神になる。
「こんなところになんで式神が落ちてるのか、専門家の意見は?」
「何よ専門家って。こういうのなら母さんか紫さんのほうが詳しいって。」
「でもさー?ここって妖怪もいるよね。もしこれがチルノの妖気に反応したんだったら…」
沈黙する二人。…その半分はルーミアの言いたいことに、もう半分は「それをお前が言うのか」という驚愕で。
「ルーミア、多分この近くに霧雨邸があるはずだからそこに行け。チルノも連れて。」
「…せっかくのご飯なのに?」
「いや、ご飯云々の前に気絶したままのチルノ抱えたままじゃまずいだろ。それにぶち切れて暴れられても困る。」
「確かに…ルーミアは覚えてないかもしれないけど、あなたが覚醒すればとんでもないことになるわ。」
頭のリボンが外れる、という簡単な条件で覚醒し、しかも紅い月の時のフランドールと同等の暴れよう。
正直言って、相手はしたくない。
「んー、わかった。…でも、私のご飯も少しは残してね。」
「あーはいはい。行くついでに説明も忘れずにね。父(かあ)さんならすぐ飛んできてくれるはずだから。」
すでに想像はつくであろうが、父さんとは誰でもない、霧雨魔理沙の事だ。
闇を蠢かせ、空高く飛んでいくルーミアを見送り、先ほどの式神が飛んできた方向を見据える二人。
いまだに妖気は感じないが、近くにいる事は確かだ。辺りをうかがいながらその方向を進むと…
いた。おそらく式神を使ったとされる人間が。…正確には『あった』だが。
周りには四、五枚ほど紙のままの式神が散らばっている。
「出来上がったのは大体昨日辺りか?臭いはそんな感じだが…」
紅夜の言葉に、つい鼻を押さえる霊歌。
「ほんと、こういうのに関しては慣れてるのね…。見てるだけで嫌になってくるのに…」
「あー、あれだ。ミミズとか蜘蛛とか、そんな感じだな。紅魔館じゃあこんなのよくあるし。」
大抵は咲夜が片付けるけど。と付け加える。

ざわ…

森が騒ぐ。これから始まる事に恐怖しているかのように。
「来たみたいね。」
「ああ、雑魚だがな。」
二人は両足を軽く開き、自然体の構えを取る。
「どうする?」
「大量発生した黒い奴を一匹ずつ潰すわけないじゃない。」
「あいよ。」
すなわち――
「夢符『封魔陣』!」
「幻符『殺人ドール』!」
辺りを覆いつくす光とナイフ。数が多いのならバ○サン…もとい、一気に消滅させるのみ。
姿を現さないまま倒れていく雑魚敵たち。それが運命なのだから仕方がない。
『…一撃か…人間にしては、やる。昨日のは骨も身も無さ過ぎたからな。お前たちなら暇つぶし程度には…』
「魔符『ミルキーウェイ』!」
霊歌の一撃、星の怒涛が声のした方向へと押し寄せる。
「…生きてるなら一つ言わせてくれ。グダグダ言う暇があるならとっとと攻撃しろ。」
この言葉は、香霖堂に置いてあった外の読み物を参考にしている。合理的ではあるが…
『まあ、道理ではあるな。ならば…往くぞ。』
声の主が姿を現す。…霊歌の魔法は避けられたようだ。
「…毛玉?」
出てきたのは、どこにでもいるような毛玉。二回り位い大きめだが、間違いなく雑魚の一種だ。
「毛玉ごときに避けられたの?私のスペル…」
ショックを隠せない霊歌。…的が小さいからなとフォローし、紅夜は毛玉に向き直る。
「『ごとき』?ふふ、雑魚の毛玉と一緒にするな。」
「あっそ。秘技『操りドール』」
毛玉に襲い掛かるナイフの群れ。今度は確実に殺れる、と思ったが…
「毛符『毛針・ショットガン』!」
毛玉から放たれた針弾がナイフを全て打ち落とした。
「…スペルカード…か。」
「そうだ。私は毛玉族の全てを懸けて作られた『毛玉・2nd-type』。スペルカードも扱える、そして…」
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
また放たれた星の流れをかすりながら全て避けきる。
「…うそっ!?」
「弾幕を避けきることも出来る。…毛符『毛針・マシンガン』!」
毛玉から放たれる高速弾の群れをあわてて回避する。が…
「痛っ!」
高速弾との相性が悪かったのかさっきのショックが続いていたのか、霊歌が二、三発食らってしまった。
「霊歌ッ!?…奇術『ミスディレクション』!」
ボム代わりのスペルを発動させ、弾を消す。その少しの間に霊歌を抱え、姿を消した。
「…逃げたか。だがもう逃げられん。片割れは手負いとなった。まずそちらから葬ってくれよう。」

    ***    ***

紅夜が『ミスディレクション』を発動し、逃亡してから少し後。
相手が見えないところまで走って、霊歌を下ろす。
「ごめん、紅夜。私が避け切れなくて…」
「いいさ、どうせ所見時は必ずミスるって美鈴に嫌というほど聞かされたからわかってる。」
治癒の札を傷口に貼り、霊歌は紅夜に問う。
「美鈴?」
「うちの門番だよ。俺はあの人に格闘術を教わってるんだ。…って、何回も会ったろ。」
まだ名前覚えてないのか…とあきれ口調で紅夜に言われ、むっとする霊歌。
「だって、あそこの人は皆『中国』って呼んでるから中国さんなのかって…」
「ああ、それはあだ名。名前が読めないからって『母様』が言い出したんだ。だから本名を知ってるのは俺と咲夜と『母様』だけ。」
「……はあ…」
口を開けて呆ける霊歌を見て、紅夜は肩を震わせる。
「…笑ってる場合じゃないな。で、どうする?」
「え?あ、あー…」
どうする、の頭が一瞬わからず、答えに詰まってしまった。
「どうするって、私の台詞よ。相手は毛玉の癖に私たちとほぼ同等。それにこっちは…」
札の貼られた傷口を見る。
「この有様。避けきれるかどうか…」
「……そうか、やっぱりこれしかないかな?」
いきなり傷口に触れられ、顔をしかめる霊歌。
「ちょ、いったいわね!?」
「悪いな。お前のスープを飲ませてくれ。魔力のスパイスの効いた赤いスープを。」
彼の言いたいことにすぐ気づき、苦い顔になる。
「…本気?」
「ああ、本気さ。…避けられないなら弾けばいい。それには『母様』の力も必要だ。」
「…手加減、してよね。」
傷口の札を剥がし、紅夜に傷口を向ける。
「わかってる。」
彼はそれに…口をつけた。直後に霊歌の体に脱力感が。

アア、ナント美味ナルコトカ。マサシク極上ノ味。

紅夜の髪に変化が起こる。雪のような白銀の髪が紅く紅く染まっていく。まるで、血が染み込んで行くかのように…
「ふん、見つけたぞ…」
運悪く、毛玉に見つかってしまう。二度も同じことはしない。毛玉はそのまま、スペルを発動させた。
「毛符『毛針・ショットガン』!」
何本もの針弾が紅夜達に振りそそ――
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
ぐ前に、一本の槍によって弾かれてしまった。
「…!?」
紅夜が、立ち上がる。その手に、全てを貫く槍を持って。
その髪は、血のように紅い。後ろで止めていた紐を解くと、さらりと流れ落ちる。
「それは、もう見切ったぜ。」
そして、彼の体から溢れ出す圧倒的な魔力。毛玉の毛が一気に逆立った。
「なん、だ?おまえ、は…」
「…あんたねぇ?血ぃ吸い過ぎよ。少しクラクラするわ。」
「ああ、それは悪かった。」
少しふらつき、立ち上がる霊歌を支える紅夜。
「さて、俺があれの足を止めるからありったけの力を込めて封印してやれ。がんばれよ。」
「…こんなか弱い乙女にそんな命令して…後で覚えてなさい。」
霊歌のその台詞に、微笑みで応える。

「じゃあ、行こうか。十四代目巫女『博麗霊歌』。」
「任せなさいな、『永久に望まれぬ紅い月』ヴァステル=十六夜=スカーレット。」

刹那、紅夜…ヴァステルの姿が消え、毛玉の目の前に現れた。
「よう。」
毛玉が言葉を発するその前に地面に叩きつけられる。
…彼の体には人間、十六夜咲夜の血ともう一つ、紅魔の主、母様ことレミリア=スカーレットの血が混ざっている。
他人の血液を摂取することにより、その能力を開放できるのだ。
能力を開放した紅夜、ヴァステルは吸血鬼としての身体能力で動くことが出来る。
「いいぞ、霊歌。」
すばやく霊歌に指示を出す。その直後にはヴァステルはもういない。
「最大級、『夢想天生』!」
「しまっ…」
霊歌の放つ光は、すぐに毛玉を包み込んだ。
それは、光り輝く墓標となって、魔法の森の一部を明るく照らした。
「……ふぅ……」
さらに強くなった脱力感に、そのまま座り込む霊歌。空を見上げれば、昼間の流れ星…
「霊歌!?無事か!?」
霧雨魔理沙だ。すぐに霊歌の元に降り立つ。
「…父さん、音速遅いよ。もう二人で倒しちゃったって。」
「あー、すまん。これでも急いで来たつもりなんだが…」
そう言えば、と辺りを見回す魔理沙。
「紅夜、だっけ?あいつはどうした?」
「え?…あ、ほんとだ。」
辺りを見ても、紅夜の姿は見当たらない。…一体どこへ消えたのか。

    ***    ***

「く、そ…なん、な、んだあい、つらは…っ」
魔法の森の霊歌達からかなり離れた場所。勢いよく吹き飛ばされた毛玉は、何とか地面をはいずっていた。
『夢想天生』直後、すぐにダミーを作り、うまく風に乗る形で吹っ飛んだのだ。…それでもダメージは負ってしまった。
毛玉の里へ帰り、このことを報告せねば。彼の頭はそれでいっぱいだった。だけに…

ガシッ

「っ!?」
周囲に気を配れていないのは痛いミスだった。
「久しぶりだな。…二、三分ぶりか?」
この声は覚えている。いや、思い出したくも無い。
「お前は俺の大切なものに傷をつけた。
 それはまったくもって許しがたい。
 このヴァステル=十六夜=スカーレットの名において、
 貴様を処刑する。
 悔い改める暇は与えない。」
なにをする?やめろ。怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわい……

「さあ、死 ぬ が よ い。…鬼畜『スカーレット・ビー』」

それは、緋。まさに緋色の流れだ。零距離でスペルを打ち込まれ、毛玉は塵すら残らず消え去った。
それは、『魅せる』弾幕ではない。『殺す』弾幕だった。

    ***    ***

この日、幻想郷各地で魔法の森の方角から白と紅の光が見えたという報告が多数確認された。
報告者は皆、『最初に白い光が、そして紅い光が見えた』と供述、どこかの白黒魔法使いの実験だという声もある。
…この騒ぎの当事者達は知らぬ存ぜぬとばかりに、紅魔館に集まり、無邪気にアイスの到着を待っていた。
「さあ、どうぞ。パイナップルとカシスのシャーベットです。」
紅魔館メイド長にして紅夜の親、十六夜咲夜がグラスに盛られたシャーベットを四つトレイに載せてきた。
「キャー!待ってましたぁ!」
「どんな味なのかな…」
やたら騒がしい氷精と涎を垂らす宵闇の少女。
「やれやれ。まだあの約束覚えてたとはな…」
その二人を見て頭を押さえる紅夜。
「ほんと。それに律儀に応えるあんたにもあきれるわ。」
声と顔は冷静だが、すでにスプーンを持って準備OKな霊歌。
「…ふん。まあこの⑨のことだからすぐ忘れてんじゃないかと思ったけどな。」
バカにされたのに気づかず、ひたすらにシャーベットをむさぼるチルノ。
「それじゃ私も、いただきまー」

スカっ

空を切るスプーン。紅夜がシャーベットをすばやく引っ込めたのだ。
「…あれ?」
「悪いな。これはお前を運んだ代金だ。」
既に一杯目を空にし、霊歌から奪った二杯目に突入する紅夜。
「……コロス。」
スプーンを札に持ち替え、紅夜に投げつけようとした瞬間。
「霊歌さんにはこちらを。」
タイミングよく咲夜が現れ、なにやらでかいパフェを霊歌の前に置く。
「…へ?」
「俺からの傷の全快祝いだ。それと…その…」
「霊歌さんを襲ってしまったお詫び、です。」
「っておい咲夜…!そんな誤解を招くような…」
「あなたが悪いのよ、紅夜。」
「うぐ。」
周りを見れば、さっきの言葉に反応してだろう、スプーンをテーブルに落としたチルノが。
「お、襲ったって…」
「あ、いやな?別にそういうわけじゃ…」
「ひどいっ、私のことは遊びだったのね。」
どうやら悪乗りしたらしく、肩を抱いてふるふると体を揺らす霊歌。
「ちょっと待てコラ霊歌お前…!」
「ちょっとどういうことよー!私が気絶してる間に何があったの!?」
「…どうもこうも言葉どおりよ。」
「…こ、紅夜…あんた…」
「いやあれは合意の上で…」
「でもあんなに激しくしたのは誰よ…。もう、後のほうは腰が立たなかったじゃない。」
もはや自分で誤解を深くしていることに気づいていない。
「…ふっ、不潔よー!」
「だから誤解だって!」
「そーなのかー」
「お前は黙っとれ!」
その様子を見ながら、咲夜は苦笑する。やれやれ。今夜のお嬢様はお怒りだろうな、と。

紅魔館は今日も平和…

終わりッス
はじめまして、まっぴーです。なんていうかいろいろやっちゃいました。
オリキャラ分七割越え…(博麗霊歌ちゃんについては奇跡工房の柚子桃様からお借りしました。ありがとうございます。)
時代設定は東方作品からX年後の、霊夢と魔理沙の子供がいるのなら、というネタを元に書いています。
ネタ元も柚子桃様からお借りしました…ええそうです借りてばっかです。orz
十六夜紅夜君は、咲夜とれみりゃ様の子供です。(咲×レミ派ですので)
作中には出せなかった裏設定もありますが割愛。オナニー言われたくないもん。
えっと、最後の『スカーレット・ビー』(英訳)…正直言って楽しんでネタにしました。
前の台詞はうろ覚えなんで「ここ違う」とかは気にしないで読んでください。
今度は霊歌ちゃんか紅夜の日常でも…書かんでいいですかすいませんorz
アレな作品ですが、読んで頂いてありがとうございます。
まっぴー
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