Coolier - 新生・東方創想話

東方温泉郷 ~ Hot Spring Shrine

2005/08/22 06:43:35
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「……何これ」
 ある日の朝。
 社殿から博麗神社を見渡し、霊夢は呆れたような声をあげた。
 否、呆れたような、ではない。呆れかえった声と云うべきであろう。くりくりとした目がさらに丸くなっていることからも、その驚きが窺い知れる。
 それもそのはず。
 社殿も、鳥居も、境内も、社務所も――博麗神社一円にかけて、水が湧き出ていたからだ。
 しかも正確に言えば水ではない。目をこらしてみれば、そちこちで白い煙が立ち上っているのが解る。
 つまりは、湯が湧き出ているわけである。
 この時点で何かおかしいのだが、まあ、湧き出ているだけならばまだ良い。問題はその量にあった。
 鳥居は足下まで、境内は足の踏み場もないくらいに、社殿と社務所は縁側までのお湯、お湯、お湯――要するに、博麗神社は水没ならぬ湯没してしまっているわけである。
「何なのよこれはー!」
 湯に覆われた住処に、霊夢の叫びがむなしく木霊した。


 幻想郷ではこの程度の異変など日常茶飯事といえば云える。放っておいても良いのだが――今度ばかりはそうもいかない。
 何しろ、博麗神社はいい加減にくたびれているのだ。
 社殿は時々ぐらぐら揺れるし、鳥居はあちこちの塗りが禿げてしまっている。社務所に至っては、香霖堂や魔理沙の家もかくやという物置状態だ。社務所は霊夢が片付けないのが悪いので置いておくとしても、先立つものがないので修繕も出来ない。
 おまけに、博麗神社といえば幻想郷でも有数の古い建築物。なので当然木造だ。長いこと湯につかっていたらどうなるかは、火を見るよりも明らかである。
 社務所まで空を飛んでいき、障子を開けて縁側に出た。
 見渡せば一面の湯煙。
 もうもうと熱気が煙っている。夏も終わりに近づき、少しは涼しくなってきたかと思っていたところにこれではたまらない。
 端的に云えば、暑いのだ。じっとりと汗がにじみ出てくるのが解る。巫女服の腋が大きく開いて風を取り込んでくれるのが、せめてもの救いであろう。
「ああもう、どうしたもんだか」
 頭をくしゃくしゃとかきむしる。
 ぱっと見た限り、湯の深さは然程ではない。社務所の周りで計ってみたら、せいぜいが霊夢のお腹程度までであった。
 だから神社から余所への、余所から神社への行き来が不可能ということはない。そもそも、神社に来る人間や妖怪は空を飛べるのだ。空を飛べない人間が来ることはまずない。神社の機能という意味では、お湯まみれになっていても問題はないのだ。
 それでも考えるべきことはある。
 この事態をどう収束するか。
 神社の木が痛んだらどうするか。
 そもそも何でこんなことが起きたのか。
 どれ一つとして答えが浮かばない。
 霊夢は頭をひねり、数分の間うんうんうなっていたが――
「仕方ないわね。取りあえずは――」
 ――考えても答えが出ないので、お茶を飲むことにした。


 縁側に腰掛けると、足の指先が湯に触れた。足袋越しに伝わるのは、人肌ほどの暖かさ。身に心地よい温度ではあるが、だからといって何の役に立つわけでもない。ほうじ茶を飲み干し湯呑みを置いて、息をつく。
「何なのよこれ、まったく……」
「何って、温泉に決まってるぜ」
 聞き慣れた、軽やかな良く通る声。充ち満ちた湯へと落としていた目を上げると、箒に跨った少女がふわりふわりと浮かんでいた。
「あら、来てたの」
「来てるぜ。温泉なんて風流じゃないか。ちょっと季節外れだけどな」
 よ、と片手あげて笑いかけてくるその少女。黒いエプロンドレス、黒い帽子に波がかった金の髪。ざっくらばんな言葉。
 言わずと知れた普通の黒魔術師、霧雨魔理沙である。
 帽子を押さえ、箒から縁側に向かってぽんと飛び降りる。くるりと箒をひっくり返して立てかけると、霊夢の横に座り込んだ。
「飛んできたら喉が渇いたな。霊夢、お茶」
「自分で注ぎなさいよ……ところで温泉って?」
「だから温泉だ。なんだ、もしかして気付いてないのか」
 魔理沙は足下を指さした。
 じっと見る。
 云われてみれば、ただのお湯とは違うような気もする。
 この湯が――温泉ということなのか。
 ぽちゃり。
 霊夢は手を延ばし、掌を湯につける。暖かい。
 湯をすくって匂いを嗅ぐと、微かな刺激臭がつんと鼻をついた。
「……温泉ね」
「だろ。幻想郷で温泉なんて珍しいからな」
 溜息一つ。温泉だと判明したからといって何だというのだ。
 確かに幻想郷で温泉は珍しい。だが、それだからといって事態の解決に寄与するところは全くない。
 それに、確かに温泉のようだが色々と納得がいかない。地面を掘り返した覚えはないし、神社の周辺に間欠泉があるとも聞いたことがない。何故、どこから湧いてきたというのだ、この温泉は。
「あのねえ、魔理沙。何で神社(うち)に温泉が沸くのよ。
「あー? どうせ霊夢が何かやらかしただろ?」
「違うわよ。気がついたらこうなってたんだから」
 気がなさそうな、投げやり気味な答えはばっさりと切り捨てられた。
 え? と、狐につままれたような表情を浮かべる魔理沙に向かい、霊夢は腕を組む。
「あんた、私が何かやったと思ってたの?」
 じと、と、冷たい視線を送る楽園の巫女。普通の魔法少女は汗を一筋垂らすと、そっぽを向いて無駄に陽気な声をあげた。
「……まあ、それは良いとしてだ」
「良くない」
 霊夢の抗議は無視して、魔理沙が箒の影から何やら取り出してきた。眼を細め、口元でにんまりと笑う、お得意の表情。
「しかし丁度良かったぜ。こんなに早くこいつを使えるなんてな」
 取り出したるは紙製の手提げ袋。中に何やら入っているらしく、少し膨らんでいる。
 袋の表面にはでかでかと「香」と記されており、どこから持ってきたのかは一目瞭然だ。
「何それ」
「見てのお楽しみだぜ」
 魔理沙が袋の口を開け、霊夢が覗き込む。
 それは薄い生地から成る衣類だった。
 一見すると下着だが、材質の違いからそうではないと知れる。胸元を覆うであろう部分と、下半身用の二箇所に分割された黒の生地。
 一言で云えば――ビキニタイプの水着であった。
「どうしたのよ、それ?」
「香霖から貰った」
「貰ったのじゃなくて、大方勝手に持ってきたんでしょ」
「ひどいぜ。私がそんなことをするように見えるのか?」
「え、違うの?」
「いやまあそうなんだけど」
 やっぱり持ち出してきたのかと、霊夢は少しだけ苦笑する。魔理沙が全く悪びれていないのはいつものことだ。霖之助にしても解ってやっていることだろう。気にすることでもない。
 水着を取り出そうとしながら、魔理沙が云った。
「これ着て温泉に入ろうかと思うんだが」
「わざわざ水着衣なくても、普通に入ればいいじゃない……」
 呆れたような霊夢の声。
 ちち、と。魔理沙は腰に手を当てて人差し指を振る。
「これだから素人は駄目だぜ。私は、誰が見ているか解らない露天風呂に裸で入るつもりはない」
「誰が素人よ。まあでも、魔理沙の言う通りか」
 その通り。
 確かに今此処には、霊夢と魔理沙しか居ない。だがそれは表面上だけのことだ。
 ゴシップ大好きな天狗や、何処から見ているか解らない鬼や、物陰から覗いていそうな七色の人形遣い……人知れず観察していそうな知り合いが多すぎるのも考えものである。
「……そうねえ。ここでぼんやりしててもお湯が引くわけじゃないし。私も入ろうかしら」
「あー、着るものは私の分しか持ってきてないな。香霖の所から持ってくるか」
「大丈夫。水着ならあるわよ、ほら」
 手の届く距離にある箪笥を開く。
 白衣、袴、襦袢……普段から使う衣服がきちんと折りたたまれ、意外なほど綺麗に整理されていた。
 その中に、魔理沙のものとは少し形状が違う、白の水着が一つ。
 魔理沙の視線はそれに吸い付けられ、続いて感心したように霊夢へと移った。
「……一応聞くが、それはどこから持ってきた?」
「霖之助さんの所から決まってるじゃない。こんなもの、あそこ位でしか売ってないし」
「ああ、じゃあ買ったのか」
「貰ったの」
「……持ってきたんだろ?」
「そうとも言うわね」
 あっさりそう云う霊夢。このあたりはお互い様だ。
 とにかく着替えて温泉に入ろうということで二人の意見は一致している。頷きあって障子をしめると、少女二人はごそごそと着替え始めたのだった。


「ふいー、極楽極楽。露天風呂ってのも贅沢だぜ」
「昼の温泉も気持ちいいわね」
 手ぬぐいを頭にのせ、魔理沙は心底気持ちよさそうな声を出した。にこやかに霊夢も頷く。
 縁側に背中を預け、下半身を湯につからせた霊夢。肩まで温泉につかり、弛緩しきった全身を湯に預けた魔理沙。
 当人たちはくつろぎきっているものの、端から見れば中々に魅力的な光景であろう。
 霊夢が纏っているのは、ボディラインがすっきりと見えるワンピース型の水着。純白の色合いが、霊夢の黒髪と好一対である。
 リボンを外して髪を下ろした姿が中々に艶めかしい。ほつれ毛が濡れてうなじにかかっていた。
 片や魔理沙は、イメージカラーで身を固めていた。単純ながら品の良い、黒を基調としたビキニトップ&ボーイショーツの水着。
 霊夢を日本人形とすれば、こちらは陶器人形(ビスクドール)か。湯のせいか朱に染まった白い肌が、黒い水着と好対照を成している。
 小柄な肢体といい、扁平な胸元といい、未だ幼さを残す面立ちといい――二人とも色気などという言葉からは程遠い。だがそれ故の、清潔な美しさがある。
「はー、生き返るわ」
「年寄りみたいだな、霊夢」
「人のことは言えないんじゃないの?」
 などと、霊夢と魔理沙が少女らしくない会話をかわしていた、その時。突然、

「いや全く、極楽極楽」

 二人の言葉に応えるように、野太い声が耳に届いた。
 予期もしなかった声だ。流石に少女たちはぎょっとして、周辺を見渡す。
 聞き慣れぬ声である。もしや覗きの類かと気配を探るが、自分たちのもの以外にはなし。
 湯煙を透かして神社一帯を観察してみるが、無論、人影などはない。
「……魔理沙、今何か言った?」
「言ってないぜ。霊夢じゃないのか?」
「私はあんな声してないわよ」
「そりゃ私もだぜ」
 訝しむも、自分たち以外には誰も居ないのでどう仕様もない。
 温泉からあがるか、放っておくかしばらく考えて。
 ――とりあえず気にしないことにした。


「しかし、いきなり温泉が沸くなんてやっぱり変だよな。誰の仕業かはまあ……解りそうなもんだが」
 自慢の金髪をくりくりといじりながら、魔理沙がごちる。霊夢が耳聡くききつけ、湯音を立てて側に寄ってきた。
「あら、何か心当たりがあるみたいね」
「考えるまでもないだろ。こんな事が出来るのは一人しかいないぜ」
 断定的な口調。
 確かに考えるまでもないのだ。水気など無かった場所に温泉を噴き出させる力。そんな労力を苦にもしない酔狂ぶり。霊夢の頭に浮かぶのは、何処からどう見ても胡散臭いあの妖怪しかいない。
「紫よね」
「紫だな」
「お呼びかしら?」
『うわあっ!?』
 霊夢達の背中から、鈴のように透き通る声がいきなり聞こえた。
 慌てて振り向けば、縁側に寝そべる女の姿。頬杖つきながら、にこにこと見詰めてきている。
 紫を貴重とした、東洋とも西洋ともつかない衣服。背中にまで流した豪奢な金髪に、衣服以上に奇妙で無国籍な形状の帽子。
 幻想の境界こと、八雲紫その人――いや、その妖怪である。
「呼ばれたから参上したわよ。まあ、呼ばれなくても来るんだけど」
「いつから居たの?」
「あなた達が水着に着替えたあたりからかしら?」
「本当か? 私も霊夢も全然気付かなかったぜ」
「当然よ。スキマから覗いてましたから」
「出歯亀はやめなさい!」
 覗きの暴露に、思わず霊夢はお湯をひっかけた。硫黄の香り漂う温泉水が、ぱしゃりと紫に向かって飛んでゆく。
 もっとも、狙いも定めない飛沫が紫に当たるはずもない。ひょいと身をかわして、寝そべったまま楽しそうに霊夢達を眺めているだけだ。
 その姿を見ている内に、霊夢の心中にある疑問が浮かんだ。
 頤に指先当てて思案の姿勢に入る。
 紫がスキマにいた。
 それでさっき、自分たち以外の声が聞こえた。
 ということは、あの声は――
「ところで紫」
「私じゃないわよ」
「まだ何も言ってないじゃない……」
「さっきの太い声のことでしょ。駄目ねえ霊夢。自分の領域のことはちゃんと理解してなきゃ」
「あー? どういうことだ?」
 思わせぶりな台詞に、魔理沙が眉根を寄せた。
「百聞は一見にしかずよ」
 悪戯っぽく笑って流し目一つ。紫は空間の隙間に手を差し込んで、何やら引っ張り出してきた。
 出てきたのは、緑色した透明の一升瓶。中には純度の高そうな液体がたっぷりと詰まっている。日本酒の類であろうか。
 紫が瓶の蓋を外すと、芳香が流れ出した。
 良質な米から精製された酒のみが持つ、鼻腔と食欲を刺激する香り。飲んべえの類が居たとしたら、飛びついているに違いない。
 いつも持ち歩いている日傘を畳んでくるりと回し、紫は手を叩いて朗々と吟じ出した。
「さてお立ち会い。此処にて取り出したりますは、山田錦の大吟醸。備中の匠が丹誠込めて作り上げた、一世一代の大業物。元を正せばこの銘酒、天津の神のみに捧ぐるべき神品でありますが、本日は特別に皆様にご奉仕いたします。滅多にお目にかかれぬ大吟醸が、何とたったの――」
「いいから早くやりなさいよ」
「むう、風流を介さない巫女ってやあねえ」
「いや、それは風流なのか……?」
 いきなり口上をはじめた紫に呆気にとられるでもなく、霊夢は冷静に突っ込んだ。紫は口を尖らせて抗議するも、想定通りの会話の流れなのだろう。魔理沙の疑問だけが、華麗に受け流されて寂しく宙に浮いていた。
 ひょい、ひょいと、軽やかな足取りで社殿の中央に向かう紫。霊夢と魔理沙がじっと見守る中、祭壇に安置してあった杯を取り上げ、大吟醸をたっぷりと注ぎ込んだ。
「はい、どうぞ」
 なみなみと満たした杯を、また祭壇へと置き直す。
 すると――
「――え?」
「おお!?」
 霊夢は驚き、魔理沙が感嘆の声を上げた。
 杯に満ちた酒が、みるみるうちに減ってゆくではないか。
 最後の一滴までが虚空に消えると、どこからともなく、ぷはあと息を吐く音が響いた。
 続けて――

「……美味い! 矢張り温泉には日本酒に限る喃!」
 
 社殿全体を揺るがす、しわがれた声。温泉につかっていた時に聞こえたのと同じ声だ。
 ということは声の主は。
 ひいては、温泉につかって極楽極楽と喜び、酒をぐびぐびと飲み干したのは――
「これで解ったでしょう? そういうことよ」
 にっこりとスキマ妖怪は笑いかけたのだった。


 霊夢と魔理沙の間に交ざり、紫も温泉につかっていた。金髪を結い上げ、身につけるのは背中が大きく開いたオールインワン型の水着。水着はスキマから取り出してきたようだ。残った大吟醸を手酌で飲みながら、説明を続ける。
「だからね、結局は神社が疲れていたのよ。温泉にでも行きたかったんでしょうね。でも自分からは動けないから――」
「神社がお湯を出させたってわけ?」
「ええ」
 言われてぐるりと周りを見渡す。
 よくよく見てみれば、お湯が湧き出て温泉となった範囲は神社一円にぴったりと収まっている。敷地の外には一寸たりともはみ出ていない。湯が偶然噴出してきたのなら、このように綺麗にまとまるはずもない。
 要するに、だ。
「神社が温泉をどこかから噴き出させて、自分で浸かっているわけね」
 霊夢が天を仰いだ。頭痛をこらえているように見えるのは気のせいではあるまい。
「何それ……明らかに変よ」
「変よねえ」
「変だぜ」
 スキマ妖怪と魔法少女は、くすくすと面白そうに笑う。その様子を見て、霊夢もまた少しだけ苦笑混じりの笑みをかえした。
「……まあいいか。せっかくだし楽しみましょ。ちょっと待ってて」
 霊夢は社務所の方まで温泉の中を進み、体を拭いて縁側にあがる。
 戻ってきた。
 手には黒い甕と、幾つかの杯。
 『天上夢幻』とある甕の蓋を開くと、ちゃぽん、と耳に心地よい音がした。
「濁り酒よ。霖之助さんの所にあったから持ってきたの」
「お、いいねえ」
「はい魔理沙」
「有り難くいただくぜ」
「はい、紫」
「あら、霊夢にお酌して貰えるなんて感激ねえ」
 にょき、と。
 湯煙の向こうから細くて小さな手と、それに見合わぬ大きな杯が突き出てきた。
「あ、霊夢ー。私にも私にも」
「はい……あれ?」
 反射的に酌をしてから首をひねる。
 甕を持っている自分。
 酌をした魔理沙と紫。
 となれば今のは誰だろう、と考えようとした矢先に、酒を嚥下する音が聞こえた。
 こくこく。
 こくこく。
「くはー、美味いっ! この一杯のために生きてるよね、やっぱり」
 心の底から嬉しそうな声。にょっきり二本の角を生やした小娘が、いつの間にか温泉を楽しみながら酒を飲んでいた。
「……って、萃香じゃない! なんで居るのよ」
「んー? 神社の温泉で宴会やってるって聞いたから慌てて来たの」
 ひらひらと萃香が紙切れを振り回す。霊夢が受け取って読んでみれば

『文々。新聞 号外』
『博麗神社に温泉沸く』
『○月○日午前。博麗神社に温泉が湧き出るという珍事があった。当初は神社を管理する巫女が温泉を掘り当てたかと思われたが、神社の在る地域一帯には温泉脈は存在していないことが判明。現在当新聞では原因を究明中である。歴史の専門家である上白沢慧音さんによれば、幻想郷で温泉が湧くことは珍しいとのこと。なお、現在、神社では温泉につかっての宴会が行われているようである。ご用とお急ぎでない方は出向いてみてはいかがだろうか。   (射命丸 文)』

「またあの天狗は……」
 こめかみを押さえる霊夢。萃香は手ずから濁り酒を注ぎつつ答えた。
「なんか号外だって配ってたよ。そろそろ皆も来るんじゃないかな」
「お、本当に来たみたいだな」
 目敏い魔理沙は、早速来客の姿を見つけたらしい。霊夢も耳を澄ます。
 わいわい。
 がやがや。
 ざわざわ。
 跫、話し声、人と人でないものの気配。
 湯煙を透かして見てみれば、鳥居の周辺に幾つかの人影。
 お馴染みの姿が近づいてき、声が聞こえてきた。
「お酒とお風呂と聞いて飛んできたわよー」
「ま、待ってください幽々子様~」
「お嬢様、温泉は大丈夫なのですか?」
「流れる水以外は平気よ。流れてないし、そもそもお湯だし」
 矢張りというべきか、来たのは亡霊と庭師とメイド長と吸血鬼とその他諸々。
 こうなってしまえばこの後の展開はお定まりであり。
 結局、その日の夜中までどんちゃん騒ぎは続いたのだった。


 翌朝、霊夢が目を覚ますと、お湯はすっかりひいていた。
 念のため一帯を見て回ってみたが、不思議なことに、神社を構成してい木材が痛んだ様子もない。
 まあ、考えてみれば温泉に浸かって酒を飲んだのだ。健康が回復することはあれ、痛むはずもないのだろう。
 そう納得して鳥居の下で掃除をしていたら、実際に神社のそちこちが綺麗になっていることに気がついた。埃は取り払われているし、渡り殿も妙に綺麗だ。くたびれかけていた社殿も、気のせいか溌剌としたように思える。
 神社も疲れをとるのだな、と思うと妙におかしくて、霊夢はくすりと笑った。
「いつもいつもお疲れ様」
 境内に向かい、ぺこりと頭下げる。
 たまにはこうして神社を労ってもいいかなどと、博麗の巫女は珍しく思ったのだった。




(了)
重くない話に挑戦してみました。
改めてやってみると、幻想郷の面々の会話は難しいですね。テンポ良い会話かける方は本当に凄いと思います。
何ということはない話ですが、楽しんでいただければ幸いです。
ヤス
[email protected]
http://www.gyosekian.net/
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コメント



0.4850簡易評価
2.80床間たろひ削除
GJ! 暑い日が続くからこそ温泉でも浸かってのんびりしたいっすね~
でも大抵の露天風呂は酒持ち込み禁止の罠。
露天風呂に浸かって、夕日を、星を、月を見ながら熱燗を飲む夢は未だ叶わず。
幻想郷の面子が腹の底から羨ましいぜ。
10.90削除
神社の温泉休養っていうのはいいアイディアだと思います。思わず笑みが浮かんでしまいました。こんな日々も幻想郷らしいです。


あと…竹本泉?(謎)

15.70七死削除
おなごが大挙して露天風呂に集ってると聞いて覗きにきましt(弾幕すぷりんぐ

なんでも有りの幻想郷、でも何かあれば嬉しいのが幻想郷。
こういう無茶もしれっと飲み込んで楽しんじまうってんだから止められないね。
18.70nonokosu削除
まさに現在、竹本泉を読んでる最中なのでちょっとばかりにやけてしまったり。
なぜにこの人の出版物は絶版が多いのだろうという嘆きはともかく、面白かったです。
神社が巨大タオルを頭において、心地よくゆだってる光景が思い浮かんだりしました。
36.60名前が無い程度の能力削除
リンゴ天国かっ
いやまあその。
45.90名前が無い程度の能力削除
温泉といえば冬のイメージがあったが、夏の温泉もイイなぁと思えた

さて、温泉に水着など邪道と絶叫したいのはやまやまですが
色々と怖いので胸のうちに秘めておくことにします
それぞれの個性ある水着姿もなかなか捨てがたいですし
・・・神社は眼福眼福言ってたんだろうな・・・うらやましい
55.80no削除
をを、違った方向での切り込み、と感嘆しましたが、
確かに言われてみると竹本泉(笑)。
のんびりしてていい感じです。
56.80コヨイ削除
レミリアの弱点ってそんなもんなのか(´Д`;)
ところで文記事書くの滅茶苦茶早いw
80.90名前が無い程度の能力削除
(ぽん)なるほど
104.90名前が無い程度の能力削除
温泉、いいですよね~。
111.80名前が無い程度の能力削除
温泉につかって酒飲んでリフレッシュ
まさか神社に萌える日が来るとは思わなかった
112.無評価名前が無い程度の能力削除
まさか地霊殿で実現するとはね