Coolier - 新生・東方創想話

それでもあたいはやってない

2013/01/05 23:29:07
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 レールの上を走る鉄の箱車のなかで
 タッチ・パネル式の小型電話を用いて美少女ゲームに
 にやけながら夢中になっている初老の男性。
 周りを見えていないのは確かだが、自分の世界で楽しんでいるため
 誰にも迷惑はかけていない。
 視覚的に少々見苦しいのは必至だが、男性は無害だ。
 しかしその男性が突然手を取られ

「この人は痴漢です。訴えます」

 などと根も葉もないことを頭の軽そうな女性に言われた際の驚愕フェイスを、チルノはしていた。
 男性は自分でも周りに迷惑はかけていないのはわかっていたし
 タッチ・パネル式の小型電話を弄くっていたため何もしていないのは明白であり冤罪もいいところである。
 手を取られたためにガタンと音を立てて床に落ちた小型電話がなんとも物哀しい。
 果てして初老の男性の運命は、いかになろうともどうでもいい。
 なにはともあれチルノはその動く箱車にも乗ったことはなく、初老でもないし男性でもない。
 だが、その顔はそれを想像させた。
 簡単言えば、とってもすっごい驚いた。
 なんとも一般的に生活をしていてなんとも一般的な態度でなんとも一般的に行動していたら会うはずのない運命。
 妖精の一生の価値は薄いものの、チルノにしては今の一生のうちに一番驚愕した出来事だろうと思われる。
 果たしてその一生のうちで一番驚いた顔をさせたのは一体どのような人物か。
 それはさほど意外でもない、チルノの友人の名もなき大妖精である。
 
「いや、その、あのね、私もうたぐってるわけじゃないんだけど、その、ね? すっごい楽しみにしてたからね?
 チルノちゃんも嫌だよね? そういう、好きなモノがなくなっちゃったら」
「え、あ、あたい」
「チルノちゃんも知ってるよね。あのケーキ。すっごい私が楽しみにしてたの。
 めったに食べられないもんね。まず妖精がケーキを買いにくってのが難しいよね。
 お金もないし、人間の大人は私達を里で見たらいたずらしにきたって追い出すもんね。
 ほら、なんだっけ、ちょこっと読んだよね。なんか、本。
 どっかの偉い人が書いたっていう、幻想郷の妖怪たちの対処法とか書いてある、あれ。
 あれ二人で読んだよね。その時に書いてあったもんね。
 私たちは頭があんまり良くないから簡単に追い返せる、みたいなね。
 だから人間も私たちをあんまり脅威だとは思わなくなったってのもあるけどね。
 あ、ごめん、話がそれちゃったよね。ケーキ、ケーキね。
 今朝はあったよね。そう、あったよ。私が自分で確認したもん。冷蔵庫、卵取るときに。
 卵焼いたでしょ、私。一人二個だと多いから、二人で三つの卵焼きね、甘いやつ。
 美味しかったよね。トーストに合うの。二人で食べると美味しいよね。
 そう、二人で食べると美味しいけどね、我慢させちゃったもんね、私。
 チルノちゃんは朝ごはんの後食べたよね、ケーキ、我慢出来ないから。
 だよね、気持ちはわかるよ。冷蔵庫に自分の分のケーキがあったらすぐ食べちゃいたいもんね。
 ケーキは甘くて美味しいもん。甘い卵焼きとは違う、ふわふわ、それで甘くてね、ね、美味しい。とっても美味しい」
「だ、だいちゃん」
「魔理沙には感謝だよね。余ったからって、ケーキくれるんだもん。
 羨ましいけどね。ケーキが余るなんて私達だと考えられないもんね
 だから、めったにないから、チャンスだから、私、夕ご飯の後に食べようって思っててね。
 美味しいもんね。オフロに入った後にね、紅茶とね、あんまり甘くない紅茶。砂糖入れないやつでいいの。
 だってケーキが甘いから。美味しいから、紅茶は甘くなくてもケーキが甘いから
 ね、私、すごいでしょ、すごい楽しみにしてたの。それがね、無いの。見て、無い。冷蔵庫にないの。
 私のケーキ。二つあって、一つ今朝チルノちゃんが食べたから、もうひとつは私の。
 いちごが二つのってるやつ。チルノちゃんはおっきいほうがいいって言ったから、私にいちご一個くれたよね。
 お礼にって。大ちゃんはいっつも優しくてあたいにおっきいのを譲ってくれるからほんのお礼って。
 すごい嬉しかったよ。涙がでるくらい嬉しかったよ。チルノちゃんは優しいなって。
 私よりいっぱい優しいなって。だってめったにないケーキの時に私にいちごをくれるんだもんね。
 でもね」
「だいちゃ、こわいよ……」
「無いの! ケーキがないの! 私の! 二個、二個のってるの! 二個! いちごが!
 ………………ごめんね、大きな声だしちゃって。
 でも不思議だよね。無いんだよ、ケーキ。
 今日は、かくれんぼしたよね。みんなで。サニーちゃんとルナちゃんと、スターちゃん。
 面白かったね。かくれんぼのプロたちとやるかくれんぼは面白かった。
 それで、帰った。私はちょっとだけ野草を積んで行くから遅くなってね。サラダ、サラダにしようとしてね。
 チルノちゃんが先に帰ったよね。そしたら、ない。
 ……チルノちゃんをね、うたぐってるわけじゃないの。
 でも、ね? オカシイよね。なくなってるの。冷蔵庫に入れてるから溶けるはずもないし。
 あ、おかしいね。冷蔵庫に入れてなくても溶けないよね。うふふ、ごめんね。私ったら変だね。
 まさかケーキがかくれんぼするわけないもんね。うふ、ふふふ」

 これが夕飯前の二人のやりとりのごく一部だということから、大妖精がどれだけケーキを
 楽しみにしていたかは明らかである。
 一方のチルノも大変なショックを受けたのも事実である。
 大妖精が少々、いや、大部分においてオカシクなってしまっていることではない。
 自分が信頼しているものに疑われた。それに対し驚愕し、ショックを受けたのだ。
 それもチルノにとって大妖精が、信頼たる人物でありそれでいて家族のようなものである
 という点でもチルノの心を傷つける要因となった。
 元来妖精は群れることをしない。
 異変の際はそれに限ったことではないが、普段から群れている光の三妖精などは特殊な例である。
 チルノと大妖精が住処を一緒にしたのは最近のことだったか。
 もともと力の強い妖精同士、妖精社会で余計に孤立していた二人は一緒になる。
 不思議なことではない。実際、二人は仲が良かった。
 多少なりとも可笑しくなっても妖精の中で常識人と名高い大妖精、必死にチルノを傷つけまいと
 遠回しにケーキの行方を探しているわけだ。
 しかし理性が勝つか本能が勝つか。
 頑張って隠そうとする分、対応が不器用に、不自然になってしまう。
 心あたりがある者も少なからずいるだろう。
 
「大ちゃん、あたいをうたぐってるよね……」
「違うの聞いて、違うの違うの。チルノちゃんは、友達。大好き。大好きなの。
 でもケーキはないの。大好き、チルノちゃん大好き」
「だって、大ちゃん目が怖い…… あたい、あたい……」
「チルノちゃん、違うのごめんね。違うの、違うの」

 先述した通り妖精の中でも特筆すべき能力があるチルノ、妖精といえど大妖精が自分を怪しんでいることはわかる。
 じりじりと攻め寄ってくる大妖精に恐怖を感じていた。
 恐怖と驚愕、衝撃。
 夕飯前のちょっとしたやりとり内にチルノはどれだけ心にダメージを受けたのか。
 実際、チルノは混乱していた。
 ただ、なにが悲しいかも分からず涙を流した。

「あ、ああ、ああああチルノちゃん! ごめんね、違うの、違う、ごめんねああ、ああああ」
「……ひぐ、ぐ、ひっ、ううん、あたいもごめんね、あたいも、ケーキがなくなってたら
 多分、あの、大ちゃんが食べちゃったのかな、ってうたぐっちゃうとおもうから…… ひぐっ」
「ちがうの、チルノちゃん、泣かせたくないの、大好きなの、チルノちゃんは大好きなの」

 性格上、普段大妖精はチルノを妹のように、ときには娘のように扱っていた。
 妖精の思考内に家族、という概念が存在するかは別として大妖精はそれはもう自分の家族の様に溺愛していた。
 洋服を脱ぎ散らかすチルノには注意するし、食卓で行儀の悪いことをしたら制して正しい方向に導くようにしている。
 しかしこれも性格上、チルノがいたずらしても大妖精はチルノの頭をなぜるように叩いて

「だめでしょ、チルノちゃん、めっ」

 などで済ますことも多かった。
 しかし大妖精は一度、一度だけチルノを真面目に怒ったことがあった。
 それは大妖精がスターサファイアからもらった植木鉢を、チルノが割ってしまった時のことだ。
 チルノはその植木鉢を大事にしていたことも知っていたし、大妖精がきつく怒らないことも知っていた。
 しかし、まずいことをした。怒られる。片付けが面倒。
 他にも様々な理由により、嘘をつき、責任をなすりつけ、罪を逃れようとしたのだ。
 大妖精はチルノの嘘をすぐ見破った。
 そして、激怒した。
 やったことに対しての罪の有無よりも、それを隠すという卑怯な行為を大妖精は娘にしてほしくなかったのだ。
 その晩は三つの音、大妖精の叱る声とチルノの泣き叫ぶ声、チルノがむき出しの尻を叩かれる音が
 止まなかったのは言うまでもない。

 それほど、大妖精はチルノを愛していた。
 本気で叱るほどにチルノのことを愛していた。
 なので自分が食べたいケーキがなくなったという自分だけの欲、それだけでチルノを泣かせたことに
 なんとも言えぬ罪悪の感情に駆られる事になったのだ

「あたいは今日魔理沙の家に泊まらせてもらうね。ちゃんと明日帰ってくるから」

 そう言い残してチルノが涙を流しながら二人の住処から出ていったのは十分ほど前だろうか。
 大妖精の頭の中には今までの過程がぐるんぐるんと渦巻いていた。

 どうしてこうなったのか。
 なぜ溺愛している娘をも傷つけて更に自分も傷ついているのか。
 何がいけないのか。
 自分がケーキを楽しみにしたからか。
 それがいけないのか。
 いや、それは違う。
 じゃあケーキをたべたそいつが悪いのか。
 考えられるのは三妖精、もしくは腹をすかした宵闇の妖怪、夜雀、蟲の妖怪、キョンシー、あの世の亡霊?
 駄目だ。犯人を探してきたってチルノちゃんの心の傷がいえるわけじゃない。
 けどこのまま明日になってもただ、二人の間に溝を残したまま時がたっただけのことなのじゃあないか。
 いけない、私が行動しなくてはいけない。

 こう思考したら大妖精、行動は速い。
 愛する娘のため、大妖精はひたすら走ったのだった。







 森の中の魔法店の戸が叩かれたのはそれから一刻ほどたった後だろうか。
 その家の主はまるで大妖精がここに来ることがわかっていたようにふっと笑ってチルノを呼んだ。

「おいチルノ、迎えが来たぜ。これ以上しょげられても私も滅入るから今日は帰れ」

 主に連れられて出てきたチルノの目は腫れ上がり、やれやれといった主の表情から
 泣きながら愚痴をこぼされ続けたのは目に見えてわかる。
 大妖精はぺこりと主に頭を下げて、チルノと二人、夜の道を歩き帰路についた。
 月がにんまりと笑っている夜道を歩く二人の間に会話はなかった。
 チルノは前を歩く大妖精のかかとを見ながら歩いているし、大妖精は話しかけるタイミングを見計らっているように
 まるでチルノから逃げるように、先を歩いている。
 森から自宅までは近いとはいえない距離だ。
 わざわざどちらから、という事もなく歩いて帰るという選択肢をとったことから
 二人はこの状況をどうにかしたい、という気持ちがある事がうかがえる。
 
「あ…… あのね」

 口を開いたのは大妖精。

「さっきは、ごめんね」

 大妖精はチルノの前を歩いている。
 大妖精からチルノの表情は窺えない。
 
「全然!」

 夜道にチルノの声が響く。
 大妖精ははっと、振り向く。
 目の前にはチルノ顔があった。
 目は腫れて充血している。
 しかしその顔は笑顔であった。
 
「さっきのは大ちゃんはちょっと怖かったけどね、でもあたいは大丈夫だよ」
「……………………うん」

 家につくまでも会話はなかった。
 しかし、二人の表情はうって変わっていた。
 先ほどとは違い、横に並んで手をつなぎ歩いた。
 会話はなかった。だけど、余計な会話も無意味だとわかった。
 下を向いて歩いていた時とは違い、二人の表情は満ちていたのだ。

「ただいま」
「たっだいま。あれ?」

 二人が帰宅すると、机の上には包みが置いてあった。
 不思議そうな顔のチルノのに対し、終始笑顔の大妖精。
 チルノに包を開けるように促してみると、そこには。

「う、うわ、ケーキ! どうしたの大ちゃん」
「買ってきたんだよ。里の人間もちゃんと敵意がないことと、お金を持ってることを言ったら
 売ってくれたよ。二つあるから、あとで二人で食べようね」
「で、でもお金どうしたの?」
「こういう時のために取っといたの。それはいいから、御飯食べようね」
「そっか、ありがとう大ちゃん!」
「それでね、その、今日寝る前ね、ほ、ほらこの前やったこと、覚えてる?」
「この前? あ、うん。気持ちいいヤツ? 今日もするの?」
「うん、ね。喧嘩しちゃったし、いっぱい触れ合おうね。
 ふ、うふふ。じゃあお風呂入ったらお布団の中で待っててね。
 お洋服は着なくていいんだよ。下着もいらないからね。それでお布団の中で私を待っててね。うふふ」
「わかったー 大ちゃんなんかまた怖い」

 夜の話はさておき、二人は同時になったお腹の音を合図に晩御飯を作ることにした。
 大妖精が積んだ野草をサラダに。
 それと同時にポタージュを作った。
 大妖精は温かいものを、チルノは冷たいものを。軽めの晩御飯となった。
 そして食後はお楽しみ、ケーキの出番だ。

「はい、大ちゃん」
「え、いちご。いいの?」
「うん。大ちゃんに食べてほしいから」

 チルノの優しさに大妖精はほろりと涙を流しそうになった。
 しかし今流してしまったらせっかくのケーキ、しょっぱくなってしまうと思い我慢をした。
 チルノがいれた紅茶を一口。
 甘くない。美味しい。

「いただきます」
「いただきます! 大ちゃん、やっと食べられるね!」
「うん!」




 大妖精はゆっくりと、ケーキにフォークをさしいれ口に運ぶ。
 
「美味しい?」
「美味しい! いちごも美味しい」
「よかった!」
「それにね」
「うん?」
「チルノちゃんと食べるからもっと美味しいよ!」
「……うん。あたいも! 大ちゃんと食べるから美味しい!」
「うふふ、そっか」
「うん。でも贅沢だなあ。一日に何個もケーキ食べられるなんて」
「チルノちゃんは今朝一個食べたもんね」
「うん、さすがに三個目はきついかなー」

 時間が止まった。

「あ」
「チルノちゃん」
「あ、違うの! 大ちゃん違う! あたい! 違うんだ!」
「チルノちゃん」
「怖い! 大ちゃん怖い! めっちゃ怖い! 違うの!」




 空には月が笑っていた。
 にんまりと笑いながら幻想郷を照らしていた。
 月夜に照らされた二人の妖精の住処から、声が漏れている。
 残念ながらその声は淫声ではなく、怒声、泣き声、肌を叩く音であった。
 夜は更けていく。
 皆様も冤罪には気をつけてくださいね。
 ではこの辺で。






『それでもあたいはやってない』
終わり 
いやいや、難しい。
にしても精神的近親相姦か、新しいね(ゲスた笑顔)

お読みいただきありがとうございました。
ばかのひ
簡易評価

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コメント



0.1980簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
次は(性的に)泣かされるチルノちゃんの続編ですね楽しみだなあ(ゲス顔)
7.100名前が無い程度の能力削除
やってんじゃん。しかしそれにしても作者は邪念がひどいな。
8.100名前が無い程度の能力削除
テンポがよくて読みやすかったです。。。
それでもあたいはやってない!
10.90奇声を発する程度の能力削除
うわあお
面白かったです
11.90名前が無い程度の能力削除
おぉ?なにか一皮剥けたイメージ。おもしろかったです。
12.100名前が無い程度の能力削除
大ちゃんめっちゃ喋るw
もう大さんって感じ
13.100名前が無い程度の能力削除
大ちゃんの勢いにただただ圧倒されたw
始めから終わりまで面白かったです!
15.100名前が無い程度の能力削除
まともなのが魔理沙しかいないってどういうこと……(作者含む)
16.100名前が無い程度の能力削除
チルノは無実だと思っていた
18.100名前が無い程度の能力削除
チルノがただのバカキャラじゃなく策士でワロタww
にしても、妖精たちは普段何を食べているのだろう・・・
27.100名前が無い程度の能力削除
最初の13行。なんか柄本明主演で頭の中で映像化されてしまいましたw
面白かったです。
28.100名前が無い程度の能力削除
すごくよかった。
32.90名前が無い程度の能力削除
ありがちな壊れギャグじゃなくて、結構真面目な狂気を孕んだ笑いで気圧された
面白かったです
36.100名前が無い程度の能力削除
ふむ、よかった
38.90deso削除
大妖精さんマジぱねえっす!
裏切ったり逃げたりしたら地の果てまで追いかけてくる勢い。
48.100名前が無い程度の能力削除
いい邪気だぜ…!
54.100おちんこちんちん太郎削除
すごく面白かったです。 こんなに面白い文章があるのですね。
でもヤってるんですね。
55.90名前が無い程度の能力削除
チルノ…お前…。
58.90名前が無い程度の能力削除
精神的近親相姦!?
がーっと捲し立てる大妖精に狂気を感じずにはいられない