Coolier - 新生・東方創想話

今年もよろしくお願いします。

2013/01/02 03:04:11
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 ※この作品には過去作の設定が使用されております。
  この話単体でも読めますが、過去作もご一緒に読んでいただくとより楽しめると思います。

 






 年末の人里で八雲藍は買出しをしていた。
 里の中で九尾は異様なまでの存在感を発揮していたが、ソレもあくまで見慣れない者が見た場合の反応に過ぎない。
 頻繁に、とは言わないまでもそこそこに里を訪れる藍の姿は里人の慣れ親しむ一種の名物とさえ言える物になっていた。
 少なくとも、巨大なモフモフが歩いていることに驚かない程度には。

「………」

 そんな周囲の人間に驚かれない妖怪が、今現在一人の人間を見て驚いて絶句している。
 その光景を見るだけでも彼女を知っている者が見たら驚きそうだが、残念なことに驚いているのは妖孤ただ一体だけだったりする。
 視線の先には寺子屋の大掃除をしている上白沢慧音と生徒達、そしてその中に混じってはたきを片手に持っている博麗霊夢の姿があった。

「おや、これはこれは八雲藍どのではありませんか。今日は買出しですかな?」

 こちらの姿に気付いた慧音が話しかけてくるが、正直半分以上上の空で聞き、生返事を帰すだけで精一杯であった。
 それほどまでに目の前の光景はありえない物として映っていたのだ。

「ああ……年越し蕎麦の具の油揚げを買いに来たのだが……」

 どこか呆然とした頭で、幻想郷でも有数の頭脳の持ち主が答える。
 三途の川幅すらも導き出したその計算能力も、『博麗霊夢が子供達と共に寺子屋の大掃除を手伝っている』という現実を理解するには処理能力が追いつかなかったようだ。

「いかんな……ここの所働き詰めで幻覚が見えているようなので失礼させてもらうよ」

 そう結論付けると挨拶もそこそこに踵を返して帰宅しようとした。
 が、それは中断することになる。
 問答無用で後頭部に貼り付けられた退魔符の衝撃で。

「って、いきなり何をするんだっ!」
「それはこっちの台詞よっ! 人の姿を見るなり幻覚扱いするなんて失礼するにも程があるでしょうがっ!」

 声にならない絶叫をあげながら大慌てで札を剥がし抗議の声を犯人に投げつけると、その相手から怒りの色を隠さない返事が返ってきた。

「その声は紛れも無く霊夢の……と言うことはこれはやはり現実なのか?」
「藍どの……気持ちは分かるがそれは少々言い過ぎではないか?」
「私に言わせりゃどっちも失礼よ」

 年末の空気の漂う中、そんな三者三様の声が冬の人里に響き渡った。
 ちなみに、そんな三名を余所に他の人々はそれぞれの仕事を続けているあたり、何気に肝っ玉の太さを感じさせていたりする。



 場所は変わって博麗神社。
 その居間で先程騒いでいた三人がちゃぶ台を囲んで話をしていた。

「そうか。寺子屋の後に神社の大掃除を手伝うと言う条件で霊夢はあの場にいたのか」

 出された緑茶をすすりながら、藍が納得したような口調で言う。

「そうだ。ついでに初詣についての話し合いもできるからな」
「だってのにあんな態度を取られたら誰だって怒るでしょう」
 
 里からここまでの道中で幾分か怒りが収まったのか、霊夢はいつもの口調でそう続ける。
 そういえば、この巫女が怒りを引きずっている姿を見たことは今まで一度も無いな。
 そんな事を考えながらお茶をすすっていると、外に人の気配。
 しかも覚えのある気配だったので黙っていたが、流石に霊夢も気付いていたようで極自然な口調でその気配に向けて話しかける。

「いらっしゃい、魔理沙」
「よう霊夢。来客中だったか」

 入ってきたのは普通の魔法使いを自称する魔女だったが、彼女がこの神社に来ることは別段珍しいことでもなかったので特に変わった反応をする者はこの場にはいなかった。
 霊夢が新しいお茶を用意しに席を立った位だが、それもいつものこと。

「ああ、ちょうどいい所に来た。ついでに魔理沙も話に加わってくれ」

 その間にとでも言うように慧音が告げる。
 どうやら魔理沙も初詣の話に加えるらしい。
 大掃除に参加させるという考えが浮んでこないのは、普段の彼女の行い故にだろう。
 現に慧音が「せっかくだからお前も神社の大掃除を手伝うか?」という問いかけにも、
「いや、やらん」などと返している位だから。
 まぁいい、乗りかかった船だ。
 せっかくこの神社の巫女が巫女らしいことをしようとしているのだから、それに協力するのもたまにはいいだろう。

「だがその前に……」
 
 ちらりと藍は視線を横へやる。

「まずはこの油揚げを持ち帰ってからだがな」
 
 戻ってくる頃には大掃除も終わっているだろうからな。
 そんな事を考えながら、「あんたも手伝え」「嫌だ」と押し問答を続ける少女達を眺める。
 協力するとは言っても、せっかく手に入れた好物を差し置いてまでするつもりは無い九尾の策士であった。



 戻って来たら、そこはいつかの縁日のような光景だった。
 近隣の妖精や妖怪達がそれぞれてんで勝手に屋台を出し、その周りにはそれぞれの準備に追われる参加者達が見えた。
 ただ以前と違うところは、その中に人間の姿が混じっていたことだろう。
 それも、魔理沙や紅い館のメイドのような力ある人間だけではなく里の一般人の姿も多数。
 珍しい、どころの話ではない。
 今までの神社ではあり得ない光景が広がっていた。

「へぇ~、普段のパンツは黒いんだ」
〈赤いのはクリスマス仕様でしたので〉

 視界の端に別の意味であり得ない光景、具体的には覆面を被ったビキニパンツのマッチョが紅い館の妹と地底の妹と共に屋台の設営をしている姿が映ったが、おそらく今度こそ疲れから来る幻覚だろう。
 その証拠に、周囲の者は一人の例外も無く見て見ぬ振りをしているし。
 ……更にその後ろでは二人の姉がそれぞれ頭を抱えているようにも見えるが、それも含めて幻覚だろう……
 それ以上の追求を止め、藍はこの神社の責任者達を探すことにした。
 幸いと言うか、そんなに広くない境内で屋台の指揮を執っていたためにその姿はすぐに見つかった。

「随分待たせてしまったようだが、すまなかったな」
「いや、元々打ち合わせ自体は昨日までにほぼ終わっていましたからな。今日は最終的な確認のためのものです」
「そうか。ところで里の人間がかなり混ざっているようだが大丈夫なのか?」

 藍の言葉には純粋な疑問が浮んでいた。
 元々が妖怪神社とまで言われている現在の博麗神社に人が集まると言うこと自体が珍しいというのに、更に妖怪までもが加わると言うのは彼女の知っている限り無かったからだ。

「ええ、その為の打ち合わせですよ。『この縁日に参加する人間の行き帰りでの道中と境内内での安全を保障する』という約束を交わす為の」

 その言葉に、九尾の式は驚いた。
 何しろ、今までそんな事を考えて、更に実行にまで移した者などいなかったからだ。

「幸い、鬼の萃香どのにも協力を得られたので安全面はかなり強力な物になりましたので」

 確かに嘘を嫌う鬼との約束ならば信頼性は高いだろうが、そもそもその約束を取り付けるというのが難しい筈なのに、目の前の教師は平然と言ってのける。
 最早目の前の存在こそが一番得体の知れない存在に見えてきた。

「見つけたわよ二人とも。忙しいんだからボケッとしてないで手伝ってよ」

 半ば呆然としていた藍の手を霊夢が引っ張り、慧音がその後を苦笑しながら着いて行く。
 とにかく今までに無かったことの連続に、流石の八雲の式神も大人しく従うしかなかったのであった。



 大晦日の夜。
 博麗神社の境内では二年参りという名の宴会が行われていた。
 この境内によくも入ったと言うくらいに参加者が詰め掛け、辛うじて屋台の屋根が見える以外は全て妖怪か妖精か天人か仙人か人間かという状態だった。
 一応藍も慧音との約束のためにあちこちに式を飛ばして安全確認をしているが、それにしても安全確認が必要な程のこの光景にある種の壮観ささえ感じている。

「ここは本当に博麗神社なのか?」

 思わず自問したその声に、しかし答える者が現れた。

「ええ。ここは正真正銘博麗神社ですよ」

 その声に背後を振り返ると、上白沢慧音が立っていた。

「こんなところにいてよろしいのか?」
「おかげ様で作業にも一区切りつきましたのでね。よろしければ一献どうです」
 そう言って差し出された手には、杯がのせられていた。

「ああ、もらおう」
 
 酒を出されて遠慮するものなど幻想郷には居る筈も無く、極当り前に受け取る。
 そのまま手近のござに座って飲み始めるが、安全確認も怠らない。
 藍程の者になれば、酒盛りをしながら境内を見張るなど造作も無いこと。
 何よりもここには自身の式である橙も友人達と遊びに来ているのに、その姿を見逃すなど考えられない。
 自然体でそう考えながら、喧騒の中二人は杯を傾けていく。

「しかし、随分とらしくないことをしたものだな」
「と、言いますと?」
 
 丁度いい機会なので、藍は疑問を口にする。

「霊夢と貴女だ。今までこんなことなどした事が無いのにここへ来て急にこの騒ぎ。何があったのかと問い詰めたいくらいだ」

 その言葉に里の半獣はくすりと笑みを漏らし。

「最近会うほとんどの方が同じ様な事を聞いてきますよ。『一体霊夢に何をした!?』とね」

 無理も無い。
 それ程の事を、それ程までの変化を起こしてしまったのだから。

「別にそんな大それたことはしていません。ただ、巫女として、郷の一員としての人付き合いを教えただけですよ」
「人付き合いだと?」
「ええ。霊夢は今まで神社の巫女として放任を通り越してほったらかしに近い育ち方をしていましたからね。そのせいで回りに寄ってくるのは一癖も二癖もあるものばかりの上に妖怪付き合いばかりが上手くなってしまっていたので、今からでも人里との付き合い方を覚えてもらおうと思っただけですよ」

 以前の宴会でその必要を思い知りましてね。
 照れたように笑いながら酒を口にする慧音の姿に、藍はいつの間にやらつられて笑っていた。

「そうか。だが、あまり人にばかり傾いてもらっても困る。博麗の巫女は公平にして公正でなければならないのだからな」

 その言葉には、危機感は入っていなかった。
 その答えも、何となく予想がついたからだろう。

「ええ。ですからその時はせめて人里くらいは私が守りますよ。元々私はそういう生き方を選んでいましたからね。要するに、今まで通りというわけです」

 思った通りの答えが返って来て、九尾の策士はますます愉快そうに笑う。
 思えば、霊夢にも変化が見られるようになった。
 その最たるものは、寺子屋の大掃除を手伝いに来ると言う今までの巫女には考えられない行動だろう。
 誰に対しても平等に接するという彼女の根っこの所は変わらないだろうが、枝葉の部分はこれからも更に伸びて行くに違いない。
 そう考えると、急に新年が待ち遠しくなってきた。

「まだ私も知らないことがあるということか。これだから生きるのはやめられんな」

 命蓮寺の鐘の音が聞こえてくる。
 もうそろそろ年が明けようとしているのが伝わってくる。

「しまった、年越し蕎麦を持って来ればよかったな」

 気付いたがもう遅い。
 まぁ、帰ってこの余韻を思い出しながら食べるのもオツだろうと、気を取り直す。
 そして年が明け、新年が始まった。
 声に出した者も出さなかった者も、皆同じ事を考えていると藍には確信できた。


『今年もよろしくお願いします』


 と。



 蛇足だが、宴会後の八雲家にて。

「藍……せっかくの宴会に私を呼ばないとはいい度胸してるじゃない……」

 騒がしさに目覚めてみれば、宴会の後始末をしている霊夢と出くわした。
 そして一連の事を知り、参加できなかったことにまずは落ち込み、次にそのやりきれなさは、当然自分の気の利かない式へと向けられることになる。

「も、申し訳ありません紫様っ! せっかく冬眠されているところを起こしては失礼かと……」
「問答無用っ!」
「              っ!!!!!!!!!」

 新年早々、早くも生命の危機に見舞われる八雲の式の姿があった。

 合唱。

 

 新年あけましておめでとうございます。
 いきなり過去作品の設定満載の話を書いてしまいましたが、それも第一作目からの変化を出したかったから。
 これで五作目になりますが、一作目からの対比を感じてもらえれば幸いです。
 それでは皆様、今年もよろしくお願いします。
たぬきつねこ
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コメント



0.380簡易評価
6.80名前が無い程度の能力削除
ラストの“合唱”はネタなのか、誤字なのか……
お祭り騒ぎが伝わってくるような良い話でした。
今年の投稿も期待してますよー
8.803削除
過去作は読んでいませんが楽しめました。
11.100暇神削除
ちょwwwwおでんwwおまっww