Coolier - 新生・東方創想話

Crossing Message

2012/12/26 19:04:16
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 私はお燐の意見『私がこいしから距離をとる』を選んだ。
 この策を実行するためにはこいしに気付かれない事が何よりも重要である。
 私は早朝、みんなが寝ている頃を見計らって地霊殿を抜け出した。










 私がこいしから離れるために選んだ場所は地上だった。
 こいしの事である。きっとすぐに私がいなくなった事に気付いて探し回る事だろう。
 だが、私が地上に出るとは考えにくい。
 なぜなら私が地上に出るのは今回が初めてだからである。
 こいしから隠れないといけない背徳感と、初めて地上に出た高揚感が私をわくわくさせていた。
 どこかに行くとか誰かに会いに行くとかそんな目的は考えていなかった。
 ぶらぶらと散歩するような気分で地上を歩き回り、ある程度の時間が経ったところで地霊殿に戻るつもりだった。
 その頃にはこいしも自分がやりすぎを反省して、きっと私がドアを開けた瞬間に飛びついてくる事だろう。
 しょんぼりした顔で「ごめんなさい」とでも言うのだろうか。
 そしたら私はここぞとばかりにこいしを罵倒しよう。
 ばか、あほ、まぬけ、とんちんかん、ちりとてちん……――ちりとてちんってなんだっけ? なんか悪口ではないような気もするけど。
 まぁ、いい。それで仲直り。ハッピーエンド。万事うまく解決。

「ふふふっ……」

 そんな幸せな未来を想像していたら、自然と笑みがこぼれてしまった。
 これではまたお燐に変な目で見られてしまう。

「……いえ、そんな事はないわね。だって私の他には誰もいないのだから」

 私が歩いているのはどこかの森の中だった。
 小鳥の鳴き声、虫たちの合唱、少し肌寒い風の音だけが、今の私に聞こえる全てだ。
 鼻を効かせれば木々の香りやら、茸の発する独特な胞子の匂い。
 どれも地底では味わえない地上独自のものである。

「心身のリフレッシュとでもいうのかしらね……」

 たまには悪くない。そう素直に思った。

「ところで――」

 私はふと歩みを止めて、周りを見渡す。
 木。木。木。
 どちらを向いても同じ景色に見える。
 端的に言って、今私が置かれている状況。――それは。

「どちらに行けば森を抜けられるのかしらね?」

 迷った。
 気ままに歩く事を目的にしているのだから、別に迷っても問題ないとは言えるのだが、帰り道が分からないのは少し考える必要がある。
 空を飛べば簡単に森から出られるとは思うが、それではこいしに見つかってしまう。
 ならば方法は一つ。サードアイを使うまでである。
 周りにいる鳥や虫たちの心の声を聞けば、すぐに出口なんて見つかるだろう。
 私はそういった軽い気持ちでサードアイを発動させた。

『おはようピーチク』
『おはようパーチク』

 早速頭上を飛んでいた鳥たちの声が聞こえてきた。
 よしよし、と私は満足しながら「出口はどこかしら?」と聞こうとして――
 今更ながらこちらの言葉は向こうには分からない事に気付いた。

「……困ったわね」

 そもそも私の能力は『心の声を聞く程度』であり、相手が何を考えているのかを事前に知る事しかできないのだ。
 こちらからは相手に意思を伝える事ができない一方通行なものである。

「一方通行といえば、こいしのものもそうなるのかしらね」

 ふと考える。
 こいしの愛が私に向けられている事は明白であるが、私が愛を向けた事はない。
 こいしは無意識ゆえに心が読めないから尚更一方通行なものになる。
 事前に心を察する事ができれば、私もこいしの愛に多少なりとも答える事ができるとは思うのだが、後の祭りと言えよう。
 むしろそんな事を考えてしまうのは、自らサードアイをなくしたこいしにとって失礼極まりない事である。
 こいしにとっての肉親は私しかいないのだから、心が読めなくても通じ合える手段を探すべきなのだろう。
 それが今回の発端とも言える。
 心が通じ合わず、言葉も交わす事ができないのなら、最後の手段は行動というわけだ。
 私がいなくなる事で、こいしに多少なりとも変化が訪れてくれればいいのだが。
 果たして、それはどうなる事やら。

「……あら?」

 私が物思いに耽っていた時だった。
 前方に妖精が二人歩いている姿が見えた。
 これはチャンスである。動物に対してはこちらの言葉は通じないが、妖精ならそれができる。
 私は歩みを速めて妖精二人に近づく事にした。

「そこの妖精さん方、少しいいかしら?」
「んぁ? 何だお前」
「ちょっと、チルノちゃん。初めて会う人に対してその態度は失礼だよ」
「いえ、構いませんよ」

 私はにこりと笑って対応する。
 一方は水色の髪と氷のような羽が特徴の妖精。もう一方は緑色のサイドテールと透き通った白い羽が特徴の妖精。
 どちらかというとサイドテールの妖精の方がお姉さんのようにも見える。

「実は道に迷ってしまいまして、この森を抜けるにはどちらに進めばよろしいのでしょうか?」
「失礼なヤツだな~。人にモノを尋ねる時は自己紹介からと教わらなかったの?」
「なんかびみょーに間違ってる気がするよ……」
「えぇ!? そんな事ないよ、大ちゃん!
 だってアタイはさいきょーだものっ!」
「いや、それ全然関係ないから」

 二人のやりとりを見て、おもわず笑ってしまう私。
 会話が繋がっていないようでいて、ちゃんと二人の意思は交差している。
 こういうのを親友とか長年の友とかいうのだろう。見ていて羨ましくなる。

「私は古明地さとり。地底に住む妖怪といえばお分かりでしょうか?」
「へぇ、じゃあアンタはモグラなんだ」
「なぜにモグラ!?」
「だって、大ちゃん。地面の中に住む事ができるのはミミズかモグラぐらいなものだよ。
 それで、この人は絶対ミミズじゃないと言い切れるからね。
 残る選択肢は一つ。そう、モグラという事になるわけよ。
 どう、アタイの名推理? うちのかみさんもびっくりでしょ?」
「あ、うん。すごいねチルノちゃん」

 堂々と誇らしげに言う水色の妖精。
 この言動により、私の中に一つの確信が生まれた。
 この子はお空タイプだ。自分に絶対の自信を持っている割に全く根拠がない。
 となると、サイドテールの妖精は絶対苦労しているわけで、私はなんだか彼女と握手したくなってきた。
 やたらと冷めた口調で同意する彼女が他人のように思えない。

「あ、ごめんなさい。私たちの自己紹介がまだでしたね。
 私の名前は――」
「大ちゃんさん。それとチルノさん、でよろしいでしょうか?」

 にこりと笑って告げる。

「すっげぇ! なんでアタイの名前が分かったの!?」
「モグラの特性ですよ」
「え……? ほんとにモグラなんですか……?」

 目をまんまるにして驚く二人。
 対して、私は心を読んだ事よりもモグラの方に驚く二人にちょっぴり傷ついていた。

「あ、でも私はみんなから大妖精って呼ばれるから、そっちで呼んでほしいです」
「分かったわ、大妖精さん」
「ありがとうございます。
 それで、この森の抜け方でしたよね。……えっと――」
「ちょっと待った、大ちゃん!」

 大妖精さんが思案する素振りを見せたところで、チルノさんが止めに入る。

「こんなモグラにただで道を教える必要ないよ」
「え……?」
「……なるほど、それはおもしろいかもしれませんね」

 困惑する大妖精さんに私は助け舟を出す。
 チルノさんの方を見ると、不敵に笑っていた。あの笑みはよくこいしもしていたからすぐに分かった。
 悪戯をしたくてたまらない笑みだ。

「つまり、チルノさんは道案内する代わりに私に何かして欲しいというわけですね」
「その通り!
 アタイと大ちゃんを捕まえる事ができたら、モグラの言う事を聞いてあげる」
「鬼ごっこというわけですか。
 えぇ、いいですよ。おもしろそうです」







☆ ☆ ☆






 鬼ごっこを始める前にいくつかルールを決める。
 一つ目は高空飛行の禁止。これはこいしに見つからないための私のお願いでもあるが、同時に森の地形を楽しむためのものでもある。
 それゆえにある程度までの低空飛行なら構わないという事にした。
 二つ目は弾幕の使用禁止。理由は簡単で純粋に鬼ごっこを楽しむためである。
 ルールはそれだけで、その他は個人の策略に任せられる事になった。
 罠を張ってもOK。相手を騙すのももちろんOKである。

「それでは始めましょうか。
 いち、に、さん……」

 まず最初に私は10秒を数え始めた。
 その間に大妖精さんとチルノさんが逃げる。

「……きゅう、じゅうっ!」

 数え終わってから、私は周りを眺めた。
 さすがにこの森を遊び場にしているだけあって、二人はなかなか手ごわそうだった。
 私の知らない抜け道やトラップなど多々ある事だろう。
 だが、私は負ける気がしなかった。
 なぜならルールは二つしか決めていないため、その他はなんでも自由なのである。
 つまりは私がサードアイを使っても何ら問題ないという事だ。
 卑怯と言われるかもしれないが、これが私の策略なので相手も文句の言いようはないはずだ。

「それじゃあ参りましょうか」

 ゆっくりと歩き始め、同時にサードアイを展開。
 サードアイを展開する事によって私の視界はより鮮明になる。例えるなら、目覚めのコーヒーを飲んだ後の意識が覚醒した感じ、といったところだろうか。
 この私の前で隠し事はできない。
 全てのモノ、全ての事柄が私のサードアイの前では真実を曝け出す事になる。

「大妖精さん見つけましたよ」
「え、うそ!? この森でそんなに簡単に見つけるなんて」

 大妖精さんは驚愕の表情を浮かべながら全力で逃げ始める。 
 かくれんぼといったが、鬼は見つけるだけでなく逃げ回るプレイヤーに対してタッチする事でようやく捕まえた事となる。
 つまり大妖精さんはここから頭をフル回転させて私から逃れようと罠を仕掛けてくるのである。

「前方5メートル先に落とし穴。
 落とし穴に視線を集中させたところで、目の前に蜘蛛の巣。
 蜘蛛の巣を取り払ったところで、足元に蔦で作ったロープ。
 あらあら、可愛い顔をしてる割には本格的なトラップを仕掛けてくるんですね」

 落とし穴は少し道をずらして交わし、蜘蛛の巣は身をかがめてやり過ごす。
 ロープは軽く飛び越えて突破した。
 この私の見事なトラップの攻略には大妖精さんも驚きが隠せないようである。
 心肺の鼓動が早くなっていくのが手に取るように分かる。
 彼女の余裕はだんだんとなくなってきている。後数手といったところで詰みとなるだろう。

「――と、相手を油断させたところで本命のスイッチを発動、と」
「えぇええっ!? なんで分かるんですかぁ~!!?」

 大妖精さんが木の枝を引っ張ると、落ち葉で隠れていた網が空中に舞い上がって行く。
 本来なら網の中に私を取り囲むつもりみたいだが、私は飛ぶスピードに緩急をつけタイミングをずらす事で華麗にかわした。
 これでチェックメイトだ。
 一気にスピードをあげて大妖精さんに接近。
 タッチする事に成功した。

「ふぇぇ~っ、さとりさんすごいですね~。
 新作のトラップまで全部攻略されちゃいましたよ」
「ふふふっ、これでも地霊殿の主ですから」

 大妖精さんに言葉を述べ、私はすぐに周りを見渡す。
 残る一人、チルノさんが私と大妖精さんの攻防をずっと見ていた事は分かっている。
 あえてチルノさんの場所は特定させず、周りに響くように声を上げる。

「チルノさん、これが私の実力です。
 そろそろ降参されてはいかがですか?」

 彼女の性格上、こうも堂々と宣言されては出てくる他ないだろう。
 私の人心掌握術はサードアイだけではない。こうした搦め手も含めて、私の包囲網は完成するのだ。
 予想通りにチルノさんは木の影からひょっこりと姿を現した。

「誰が降参なんかするもんか、ばーか。
 大ちゃんを捕まえたくらいでいい気になるんじゃないよ。
 妖精の中の妖精。さいきょーの中のさいきょーのアタイがお前に鬼ごっこというものを教えてあげるよ!」
「それは構いませんが、名乗り口上が隙だらけですよ?」
「うぇっ!?」

 チルノさんが叫んでいるうちに私は死角に入って近づき、背後に回ってから声をかける。
 チルノさんにとっては、私が瞬間移動したように感じた事だろう。
 私とチルノさんの距離は1メートル弱。
 一歩踏み出し手を伸ばせばタッチできる距離である。
 先手必勝で悪いが、ここで勝負を決めさせてもらうつもりだった。
 チルノさんはお空タイプだから私もよく知っているが、彼女のような天然は時に私の予測の範疇を越えた動きをしかねない。
 策を展開させる前に捕まえるに越した事はないのだ。

「これで終わりです」

 手を伸ばした瞬間だった。

「冷たっ!」

 いつの間にかチルノさんの周りには氷の薄い壁ができていた。
 事前に分かっていれば壁を壊してタッチする事も可能だったが、突然の事なのでつい手を引っ込めてしまった。
 その間にチルノさんは私から距離を離していく。

「なるほど、ただの妖精ではなく氷精だったのですか。
 これで自身を最強と自負する理由が分かりました」

 冷たくなった手に息を吹きかけて温める。
 結果的に逃してしまったものの、まだまだチャンスはある。
 私がチルノさんの心を読める限り私の有利は揺るがないのだ。

「少し本気で行きましょうか」

 チルノさんが逃げていった方向へ目を向け、ゆるりと低空飛行を開始した。
 目標を視界に捕えながらサードアイにて次の行動を先読みする。
 チルノさんの考えている事は全て分かっている。
 これで私の勝ちは決定的だ。

「ふむ、ちょうど私が飛行している高度に薄い氷の壁、ですか。
 確かに飛行中は視線が狭くなってしまうので、こういった見にくいトラップは有効といえますね……。ですが――」

 氷の壁の前で一旦ブレーキをかけて右に迂回。
 左に迂回すれば木の上から雪が落ちてくるという二段構えである。
 私はトラップを楽々回避しようとして――、
 そこでチルノさんが不敵に笑うのが見えた。

「え……? きゃあぁっ!!」

 読み間違えたのか、ただ単にチルノさんが間違えていただけなのか。
 右に迂回した私の頭上から大量の雪が降ってきた。
 あわてて地面を転がり、なんとか回避する事に成功したものの、この失敗は私の精神に大きなダメージを与える結果となった。

「……まさか、いや馬鹿な」

 チルノさんは私が心を読むのを見越して別の事を考えた?
 ――いや、そんな事はありえない。
 私は頭を振って、その考えを否定した。
 私のサードアイはそんな簡単な能力ではない。
 もし、チルノさんが反対の方向を考えたのならば、私はそれが嘘の考えである事すらも読むのが可能なのである。
 心ほど真実を語るものはなく、心ほど嘘をつけないものはないのだ。
 私はたまにお空の考えている事が分からなくなるが、あれは単にお空が何も考えていないに過ぎない。今回のケースはありえないのである。
 私は気を取り直してチルノさんを追いかけ始める事にした。
 たまたま偶然の出来事で私のサードアイが敗れたわけではない。
 だが、それが楽観視である事を、私はすぐに気付くのである。
 右だと思っていたトラップが左に存在し、地面から発生すると思っていたトラップが頭上から襲いかかってきた。
 チルノさんは頭で考えているのと逆の方向にトラップをしかけるのである。
 それならば逆の方向へ逃げるだけ、と私は考えて実行した。

「……なんで!?」

 結果、それは所詮浅はかな考えであるのを私は知るのである。
 大妖精さんが「あ~、またチルノちゃん左右間違えてる……」とつぶやくのを聞く余裕すらなかった。
 私は疑心暗鬼に陥り始めていた。
 何よりも信頼し、どんな時でも私を助けてくれていたサードアイが信じられなくなったのである。
 心が読めなくなってしまっては何を信じたらいいのか分からない。
 サードアイは生まれた時から私と供にあり、それが当たり前だと思って生活してきた。
 たしかに相手の心が読めるという事は楽しい事ではなく、むしろ不幸な出来事の方が多かった。
 それでも私は自分が覚り妖怪である事に信念を持ってここまで生きてきたのである。
 それが、今。崩れ去ろうとしている。
 きっかけは単純で簡単な事なのに。
 自分でも分かっているはずなのに、私はサードアイを使わない状況を考えられなかった。

「……こいし」

 そんな時にふとこいしの事を思い出した。
 こいしは自分からサードアイを捨てた。私とは似て非なる存在である。
 こいしはどんな事を考えて、どんな風に生きてきたのであろうか?
 知りたかった。
 あの子ならば、サードアイを供にした生活と袂を別れた生活のどちらも知っている。
 それがどんな事なのか、私は知りたくなった。

「……違う。私はそれをすでに知っている」

 今までのこいしとの生活を思い出して、すでにその答えを私が持っている事に気付いた。
 他人の心が読めないからこそ、自分が無意識の存在であるからこそ、こいしは自分から行動してきた。
 失敗してもくじけず、私から非難されても気にせず、こいしはひたすら行動してきた。
 それがどんなにつらいものだったのか、今の私なら分かるような気がする。
 今ならば、こいしの過剰な行動も理解できる気がする。
 今ならば、こいしに自分の気持ちを伝える事ができる気がする。
 私は――こいしに会いたかった。

「こいしっ!!!」

 叫んだ。肺の中にいっぱい空気を送り込んで、それを全て吐き出した。
 こんなにも大きな声が出る事を私自身が驚くぐらい――そんな大音量が響き渡った。
 チルノさんがびっくりしてこちらを振り返った。
 大妖精さんも目をまんまるにしてこちらを見ている。

 そして、こいしが私の元へと舞い降りた。

 文字通り、空からまるで天使が降臨するように、朝の光を浴びて全身が輝くこいしは天使そのものに見えた。

「呼ばれて飛び出てこいしちゃん、ただいま参上っ!!

 こいしは笑っていた。
 私がこいしから離れたはずなのに、こいしはそんな事を微塵にも感じさせず、私を見て笑っていた。

 ――あぁ、私の妹はこんなにも強かったんだな。

 素直に思った。

「援軍とかひきょーだよっ!」

 チルノさんが非難する。
 私はそれに余裕を持って返す事ができた。
 私たち姉妹が揃えば恐れるものは何もない。誰にも負けない。

「残念ですがルール通りですよ、チルノさん。
 だってこの子は私の最大の策――いいえ、違うわね。この子は私の自慢の妹なのだからっ!!」






☆ ☆ ☆






 私とこいしは手を繋ぎながら岐路に着いていた。

「どうしたの、お姉ちゃん。
 私に甘えてくるなんて初めてじゃない?」
「そうかしら?」
「うん、そうだよ。私の覚えている限りではないね」

 うんうん、とこいしが一人で肯く。

「こいしが言うのならそうなのかもしれないわね。
 今回の一件でこいしの事を大好きと伝えたくなったのよ。だから、こいしには私の全てを曝け出そうかなって……こいし、どうかした?」

 見るとこいしの全身がぷるぷると震えていた。顔を真っ赤にさせて呆けたような表情をさせている。

「お、お、お、お姉ちゃんに告られた~~~~っ!!!!」

 その叫びは、先ほど私が叫んだぐらいの大音量を誇っていた。
 大気がびりびり震えて、その音波に圧倒されそうになりながらも、私はなんとなくこいしの予想ができていたのであっさりと言葉を返した。

「ええ、もう一度言うけれど私はこいしが大好きだもの」
「え……あ、……そ、そうなんだ……」

 打って変わって、こいしは静かに、しどろもどろになりながら答えた。
 私はそんなこいしを見ていつも以上に可愛く思えた。
 いつもは私がこいしに驚かされてばかりなのに、今回はしてやったりといった感じだ。

「あ、あうう~。なんかお姉ちゃんが違う人に見えるよ~」
「変な事を言う子ね。私は何も変わってないのに……」

 私はくるくる廻りながらこいしの前を歩く。
 私たちのおうちはもうすぐそこだった。

「あ、でも――」

 こいしが何か思い出したように手を叩いたので、私は立ち止まる。
 その間にこいしが私を追い抜かし振りかえった。

「これだけはお姉ちゃんに言っておかないとね」

 そして、こいしは言葉を紡ぐ。
 それは姉妹の絆が切っても切れないのと同じように、私とこいしがずっと離れないための、私たちを繋ぎ合わせるための言葉。


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