Coolier - 新生・東方創想話

野球しようよ! SeasonⅨ

2012/12/21 21:36:36
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「こらバッター! ショート来いやァ!!」
「サード来いサードォ!!」
「ライトこーい♪」

白玉楼では、今日もアルティメットブラッディローズの、試合に向けた練習が行われている。
もとより各メンバーの野球知識の度合いが高いこのチームは、とある段階から打つだけの打撃や捕るだけの守備の練習はしておらず、より実戦的な、様々なケースを想定したバッティングやノックをこなしている。
各種サインプレーも基本的なもののみだが取り揃え、チームとしての完成度は現在4チーム中トップと見て間違いないだろう。
更に――

「こいし、さとり、よろしくな!」
「よろしく、勇儀!」
「手加減無しですよ」
「当然さ!」

こいし、さとり両名に触発された地下の野球好き達が集い、練習に付き合う、と申し入れてきたため、最近では専ら彼女達を相手取った練習試合に長い時間を使っている。
最近は廃れてしまっていたが元々野球の文化があった地下、そのため個々のレベルもかなり高く、特に現在バッターボックスに立つ四番の星熊勇儀などは、鬼という種族の力もあり、アルティメットブラッディローズのクリーンナップに勝るとも劣らない実力の持ち主だ。

「しッッ!!」



 スパァァァァァァァァン!!



「ワンストライク!」

しかし、そんな強敵相手でも、エースであるこいしの投球は圧巻の一言に尽きる。
ここまでの練習試合で投げた31イニング中、一つの得点も許しておらず、さらに被安打も僅かに5。9イニングスを一試合として換算すると、一試合平均での被安打数は1・4本という驚異的な数字である。



 ギィン!



「――! ライト、オッケーっ!」

 パシッ!

「ナイス、橙っ!」
「ナイスキャッチ!」

また、メンバー中唯一の未経験者だった橙は、チームメイト達の愛情溢れる(特に藍の)コーチングによって目覚ましい上達を見せ、今では守備に関しては経験者と遜色ない軽快なプレーを見せるまでに至った。
陸上競技の短距離走では、自分より速い選手がいると自分のタイムも伸びると言うが、毎日の練習を屈指の名手たちに囲まれた中でこなしてきたこの橙に関しても、同じような作用が働いたのである。



 スパァァァン!



「バッターアウト! チェンジです」
「……相変わらず厄介なパームね。妬ましい」

「ナイピー、こいし!」
「今日こそパーフェクト行きなさいよ」
「ナイスキャッチ、橙! いい判断だったわ」
「うん、ありがとう紫様っ!」

「……妬ましい」

チームの状態は、実力、雰囲気共に最高だ。










「………」

そんな最高を、遥か上空から至極羨ましそうに見下ろす娘が一人。
桃がくっついた帽子を自分の体ごとぷるぷると小刻みに震わせ、右手に持つ剣のようなものを強く握り締め、そうして地上をまじまじと凝視している。
彼女の名は比那名居天子。
かつて幻想郷において『異変を解決されたい』というなんとも素っ頓狂な理由で異変を起こした天人である。



 ――ナイバッティン!

 ――続け続けー!

 ――気にすんなパルスィ!

 ――……妬ましい



「………」



 ――ちッ……!

 ――レフト行ったぞォー! おーし! ナイキャッチ、ヤマメ!

 ――よっしゃチェンジだ! ナイスピッチ!

 ――あれを外野に飛ばすなんて妬ましい



「………」

退屈極まりない日々、聞こえてくる楽しそうな声、有り余っている元気。このトライアングルが導きだす答えは一つ。そう――





「我慢できる筈があるかァァァァァァァァァァァァァァァ!!」





フライ・ハイである。










ここは玄雲海。
天上と地上との間に位置する空域である。
この場所には『竜宮の遣い』と呼ばれる、幻想郷の最高神たる龍神に仕える妖怪が数多く暮らしている。
その役割は、大地震や流星雨クラスの重大な異変が起こる際に体を張ってそれを地上に伝える、という体育会系のものであるが、そんな天変地異などそうそう起きる筈もないので、みな基本的に退屈を持て余している。
その退屈凌ぎが高じてか、何時の間にやらこの場所には独自のスポーツ文化が育っていて、今では知る人ぞ知るワンダーランドと化しているのだった。

「975、976、977……!」

そのスポーツ文化の中心は、何といっても『ベースボール』。
現在この玄雲海にはメンバー総数20名前後のチームが5つ存在し、さらにそれらのチームがリーグ戦を展開して競い合っている。
文化と銘打たれるだけあってそのレベルはかなりのもので、試合が開催される時には常に大盛況、各チームにいつの間にか熱狂的なファンが付く程である。
ただ、中にはその熱狂が度を過ぎてしまうファンも少数ながらおり、その内の数名は出入り禁止処分を食らったりもしている。

「982、983、984……!」

さて、そんなワンダフルな玄雲海のとある場所で、熱心に素振りをする竜宮の遣いが一人。
流れるような綺麗なフォームから繰り出されるバットは、まるで鞭のようなしなやかさと力強さを兼ね備え、鋭いスイング音を伴って風を切る。
彼女の名は永江衣玖。
先日閉幕したばかりのリーグ戦にて優勝を飾った『ナイトフィーバーズ』のキャプテンである。
エースピッチャーも勤める彼女の実力は、走、攻、守、投のどれをとってもリーグ屈指であり、彼女を見るためだけに集まるファンが数百とも言われている。

「995、996、997……!」

しかし、それだけの確固たる名声を得ているにもかかわらず、彼女は一日千本の素振りとシャドウピッチングを欠かさない。
座右の銘にしている『驕りは最大の敵』を忠実に守り、来春のシーズンでさらに一歩上を目指す努力をこうして続けているのだ。

「998、999、フィーバ「――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」……? 何の音かし「ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」――総領娘様!!?」

と、そんな彼女の頭上の空域から響く奇々怪々な声、そして、その声と共に落下してくる一人の玄雲海リーグ出禁天人。
なんとか受けとめようと試みる衣玖だったが……





 ごすっ!!





相手方に受けとめられる意志がないため、無理な話であった。
これ以上ない強烈な頭付きを頭で受ける羽目になった衣玖、哀れにも気絶させられてしまい、激突した勢いそのままに玄雲海の分厚い雲表を突き破って、二人は妖怪の山の方角へと墜落していく。
余談だが、衣玖と同じく気絶している出禁天人――比那名居天子は、地上に向かって真っ逆さまという極限状態のさ中、何故か恍惚の表情を浮かべていたという。




















 野球しようよ! SeasonⅨ




















ここは永遠亭。
迷いの竹林のいずこかにひっそりと建つ、スニーキングな屋敷である。
現在図書館防衛隊チームに所属している蓬莱山輝夜を当主とし、同所属の八意永琳、フランドールチーム所属の鈴仙・優曇華院・イナバ、その他数多くの因幡がここを住居としている。
造りは至って普通の日本家屋、だが内部は複雑な術式が何重にも張り巡らされており、それこそ迷宮の様相を呈しているため、ここの住人以外が入り込むとまず二度と日の目を拝むことができないという中々に危険な場所となっている。

そんな外部との繋がりが極端に薄い永遠亭だから、住人達は基本的に娯楽に飢えている。
特に人化した因幡達などはそれが顕著で、退屈のあまり竹林を抜け出そうとする(当主である輝夜の事情から、かつて永遠亭ではご法度となっていた)者も出てくるから、それに対して何らかの策を講じる必要があった。
そこで持ち上がったのが、かつて輝夜達が月で嗜んでいた野球である。
野球ならば大人数も受け入れられるし、ポジションやチームを入れ替えることで退屈もしない。また、永琳の空間転移術によって広大なグラウンドも確保できたため、野球は永遠亭における最大の娯楽となった。

だが、その最大の娯楽には一つ大きな問題があった。



「………」



「てゐ様ー、永琳様いつ帰ってくるのー?」
「あたしの白金の左腕が錆付いちゃうよー」
「あたしのダイヤの足もー」
「あたしの柘榴石のバットもー」
「あたしのシルバーソルキャップもー」



「………」



「てゐ様ー」
「てゐ様ー」
「てゐ様ー」



「やっかましい!! そんなのあたしが聞きたいわよ!!」

そう、それは場所の確保。
空間転移術などという超々高等術を使えるのはこの永遠亭に於いて永琳しかいないため、彼女が不在の時はどう足掻こうとも野球をプレーする事が出来なくなってしまうのだ。
それが一日二日ならいいものの、ここ一週間程永琳は輝夜や鈴仙と共に屋敷を空けているから、因幡達の不満は募るばかり。
そしてその不満を一身に受けるのは、因幡達の最長老にしてまとめ役、この因幡てゐである。

「そんなことよりあんた達、掃除とか洗濯とかはちゃんと終わってんの!?」

「やる気でないー」
「野球だったらでるけどねー」
「野球やりたいー」
「てゐ様ー」
「てゐ様ー」

「ぬがあああぁぁぁぁ!! さっさと持ち場に戻れェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

「わーわー」
「きゃーきゃー」
「ルパンルパーン」

「はぁ……」

怒鳴り疲れ、てゐは大きな溜め息を吐く。
まとめ役とは言うものの、因幡達は基本的に身勝手極まりなく、娯楽という『釣り餌』を使って何とか言うことを聞かせているのであり、そこに尊敬や畏怖といったものは存在しない。
つまり、肝心の釣り餌がない今、てゐに皆を纏めるすべなどないのである。

「ったく、何であたしがこんな目に……」

そんな有様だから、てゐは自分の判断で人里に対する薬売りの業務を一旦凍結させた。現状の因幡達に配達などさせたら、クレームの嵐に苛まれるのは目に見えているからだ。
そして、仕事もなく娯楽もない今の永遠亭。因幡達が腑抜けるのは、無理もない話であった。



「――ちわーす。号外お届けに来ましたー」



と、そんな骨抜き永遠亭に訪れるはきはきした声。
久々の外部からの声にてゐは一瞬期待するが、号外云々のくだりを聞いて、何だ勧誘か、と少しがっかりしつつ、屋敷内に無数にいるであろう因幡達に向かって無造作に声を掛けた。

「誰か出てー」



 ………



「おーい! お客さんだよー!」



 ………



「ちっくしょぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

屋敷の一角の太い柱を蹴飛ばし、その痛みで涙目になりながら、てゐは玄関先に向かってどたどたと歩いていった。
憂さ晴らしにガツンと追い返してやる――そんなことばかり考えつつ、玄関をガシャンと荒々しく開け放つ。

「新聞なら取んないよ!!」
「あ、別に勧誘とかじゃないんで」
「………」
「はいこれ。そんじゃ、失礼しまーす」
「くっ……!」

そんな心境を知ってか知らずか、訪れた鴉天狗は平然とした態度でさくっと切り返し、怒りのやり場を失ってさらに悶々とするてゐに一枚の新聞紙を渡して、さっさと飛び去っていった。

「どんな事書かれてますー?」
「広告ですかー?」
「事件か何かですかー?」
「早く見せて下さいよー」

「がおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「わーわー」
「きゃーきゃー」
「ふーじこちゃーん」

「ふう……」

再び溜め息を吐きながら、おもむろに渡された号外をちらりと見る。

「何々……幻想郷、野球フレンドリーマッチ……?」

そこには、太く大きな文字でこう書かれている。



『幻想郷野球フレンドリーマッチ、新たに2チームの参加が決定!』



「……へん、何さ何さ。娑婆じゃあ何やら楽しそうな事やっちゃってさ。どうせあたしらはいつだって蚊帳の外ですよーだ!」

面白くなさそうに毒づきながらも、せめて暇つぶしになればと思い、てゐは記事を流し読みする。

「アルティメット、ブラッディローズ……ぷっ、センスありすぎ。こっちは、フランドールチーム? って、キャプテンの名前まんまじゃん。もうちょい捻れっての。……ん?」

野球大会に対する未練なのか、逐一記事に対して皮肉たっぷりのコメントをするてゐ。
ふと、フランドールチームの記事に目が止まる。



「……!」



続いて、すぐ下の紅魔ライブラリーガーディアンズの記事に目を走らせる。



「……!!?」



新聞を持つ手がぷるぷる震えだし、表情は見る見るうちに変わっていく。



「ふ、ふ……ふ……」



てゐが見つけたのは、とある三人の名前。
その名前は、チームは違えどはっきりとメンバー表に『出場選手』として記されていた。





「ふざけんなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」





そう――蓬莱山輝夜、八意永琳、鈴仙・優曇華院・イナバの、三人の名前が。










 ◆










朝の博麗神社に、珍しく参拝客が訪れていた。

「霊夢さん! お久しぶりですね!」
「……何か用?」

緑掛かった髪を風になびかせ、霊夢と似た出で立ちで偉そうに腰に手をあてがう少女――東風谷早苗である。

「手短にね。私らもうすぐ紅魔館にお昼ごは……ごほん。練習しに行くから」

そんな元気いっぱいの早苗に対し、いつも通りの気だるそうな顔つきで霊夢は言う。
マネージャーという立ち位置なれど、ここ何週間かですっかり野球にハマってしまった霊夢。いつからかフランドールチームのメンバー達と同じ練習メニューをこなしていて、更に彼女の持つ抜群のセンスと相まって、今では周りの経験者と見分けがつかないほどの上達を見せていたりする。
因みに守備位置の希望があるとしたら、簡単そうだから、との理由でサードとの事。

「よ! 久しぶりだねえ! そうそう、今朝の号外にでかでかと載ってたよ。新たに2チームの参加が、ってね!」

そんな霊夢とのキャッチボールをこなしつつ楽しそうな笑顔で話す萃香に、お久しぶりです、と早苗は頭を下げた。
守矢神社の建つ妖怪の山はかつて萃香が君臨していた地であるため、気紛れに訪れることもままあり、二人が顔を合わせる機会は比較的多いのである。

「メンバーはもう出揃ったのかい? 暫定メンバー表見たら二人ばかり抜けてたみたいだけど」
「いえ、そのまんまです。それを早く埋めるために、こうして朝から動いてるんですよ。だって神奈子様も諏訪子様も私に任せっきりで、ろくに動こうとしないんですもん」
「ははっ、あのお二方も何かと面倒臭がりだもんなあ」
「まあ、誘ったのは私だから文句は言えないんですが」

「……ちょっと。萃香の相手してないで、さっさと用件言いなさいよ。時は金なり、これ以上無駄な時間使わせる気なら賽銭置いてってもらうわよ」

そんな雑談に発展しそうな二人の空気を引き裂くように、霊夢の気だるそうな言葉が響く。
別に時間取らせてるわけじゃないじゃん、と二人は同時に思ったが、怒られそうなので自重し、早苗が本題を切り出す。

「こほん。それでは霊夢さん、ずばり単刀直入に言います!」
「何よ」
「私達のチームに入ってください!」
「帰れ」
「毎日昼食付き!」
「断る」
「休日三食保証!」
「もう一声」
「そこに加えて秋印の農作物毎日配達! どうですかァ!」
「いいよ」

こうして、霊夢のフランドールチームマネージャーからの離脱及び、守矢シャイニングバーニングライトニングス(以下、守矢チーム)への加入が決定した。
暫定ポジションはサード。幻想郷の二人の巫女、その揃い踏みがここに実現したのである。

「お、おいおい霊夢、勝手に決めちゃまずいだろ!」

が、萃香の反応そのままに、話はそんな一言二言で終わる簡単なものではない。
マネージャーとはいえ、霊夢はれっきとしたフランドールチームの一員。当然チームの許可がなければ、勝手な離脱は許されない。
ましてやそれが対戦する事になるかもしれないチームの引き抜きというのであれば、両チーム首脳同士での話し合いの必要性すら出てくる。

「フランが知ったら何て――」

「分かってる。これから紅魔館行ってフランに直接話すつもりよ」

「――……!」

だが、言葉を返す霊夢の目は、それら全てを踏まえ、さらにもう一歩先を見据えているかのような奥深さを感じさせるものだった。
普段の姿からかけ離れたその眼差しに、萃香は気圧されたかのような返事を返すことしか出来ない。

「早苗、あんたも来るのよ」
「勿論ですとも!」
「ただし、一つ先に言っておく。あんたは一切口を開かないこと。いいわね?」
「え? でもそれは……」
「納得しないならこの話も無しよ」
「わ、分かりました……(あれ……? 乗ってきたのって霊夢さんの方だった、よね?)」

霊夢の有無を言わせない迫力に、やはり早苗も逆らうことが出来ない。
それと同時に、本来あるべき立場がまるっきり逆転してしまったかのような違和感がふつふつと沸いてきていた。
そう、それは逆に自分、いや、自分達チームが釣り上げられたのではないか、というものである。

「――……んぁ!? ま、待って下さいよー!」

と、そんな考えに苛まれている内に二人はさっさと飛び立ってしまい、早苗は慌てて後を追うのだった。










 ◆










紅魔館地下の大図書館――本来なら静かな空間にページを捲る音のみが聞こえるはずの場所なのだが、現在ここは野球の練習場という、本来の目的とはかけ離れた使われ方をしている。
といっても無論、本棚の羅列の合間でするのではない。空間転移術によってここの空間の一部、何もないスペースを切り出し、野球の練習が出来る環境に整備して使っているのである。
なので厳密に言うと練習場ではないのだが、この場に似付かわしくないユニフォーム姿の面々が野球道具を持って頻繁に出入りするのを見ても、平時との大きな違いを見て取ることが出来る。

さて、そんなこの大図書館は今、二つのチームが練習場として使用している。
一つはここの主であるパチュリーが所属するフランドールチームと、もう一つは――



「――さあさあ皆さん! 今日も張り切って行きますよー! Are you ready!!?」



パチュリーの使い魔であり、図書館の司書を勤めているこの小悪魔のチーム、人呼んで『紅魔ライブラリーガーディアンズ』である。
元々はフランドールチームの練習相手として、パチュリーの依頼で作られた即席チームというだけだったのだが、その後永遠亭主従がバッテリーとして加わり、更に――



「「「「たのもーッ!!」」」」
「か、掛け声が違うよ、みんな……」



チルノ、ルーミア、ミスティア、リグル、大妖精の、アルティメットブラッディローズ新規メンバー選考組の五名も名を連ね、がらっと一新された布陣となった。
この面々がメンバー入りするきっかけになったのは、フランドールを助けるために彼女らが紅魔館へ集った次の日の事。レミリアの「防衛隊の人数割くくらいなら、こいつら使えばいいじゃない」という一声があってからである。
何だかんだ言って、レミリアは彼女達を認めているのだ。

それからというもの、朝から晩まで野球漬けの日々を送ってきたメンバー達。その成果として技術は勿論、知識の面でも皆大きく成長し、そしてとうとう先日守矢チームが大会参加を認められたのに際して、各人からの推薦のもと、晴れて正式なチームとしての出発及び大会の参加が決定したのであった。

「キャッチボール、いくぞーッ!!」
「「「「たのもーッッ!!」」」」
「だ、だから違うって……」
「たのもーッ! うん、これ中々いいわね! ほら永琳も!」
「ふふっ、私は遠慮しておきますよ」
「ぶー。釣れないわねえ」

これぞまさしく順風満帆、と言いたいところであるが、まだ残された大きな問題が一つだけあった。
図書館防衛隊の隊員達がまとめて抜けた(これはパチュリーからの命令によって)ので、現在のメンバーは八名、つまりチームを組むには一人足りない状況なのだ。
試合まで若干余裕があるが、チームとしての完成度を高める為に一刻も早く埋めたい最後の一枠。だが、メンバー達の知己は既にどこかのチームに所属していたり、野球の経験が全くなかったりで、これがなかなか見つからない。
そもそも、ここ最近まで野球という文化が全くと言っていいほど無かったこの幻想郷に於いて、野球経験がある者は勿論、野球という言葉を知る者ですら、見つけ出すのは大変な困難である。
仮にそういった人材がいたとしても、メンバー探しをしているのは自分達だけではないため、他のチームに先んじられる可能性もある。簡単そうに聞こえて、非常に難しい『一枠』なのであった。

「フリーバッティング、い「隊ちょ……失礼。キャプテン、客人です」……今忙しいんですよ! おととい来て貰って下「輝夜さんと永琳さんのお連れの方だそうですが」……ん?」

「私達の?」
「連れというと、ウドンゲかしら」
「ご両人、通しちゃっても構いませんかー?」
「ええ。お願いしたいわ」
「ごめんなさいね、練習中だというのに」
「いえいえ!」

未定のポジションはセカンド、守備の要となるセンターラインの一角である。なので尚更、適当な人選は出来ない。
更に言うと、現在暫定でショートを守っている大妖精はまだまだ経験が浅い。そのため状況に合わせたプレーが十分に出来ないので、それを引っ張るという役割も同時に担えるような、豊富な知識を併せ持った選手が必要だった。
しかし、どのチームも少ない絶対数であろう有能な人材を探している今のさなか、そんな都合のいい人物になどそうそう巡り合えるはずもなく、当てもない。
最悪図書館防衛隊の誰かを入れるしかない――チームがそんな結論を出すのは、もはや時間の問題と言わざるを得なかった。

「それでは、ご対めーん!」

「ウドンゲ、何か用……――!」

そんな紅魔ライブラリーガーディアンズの下へと舞い降りた、一匹の兎。
そしてその瞬間、最大にして唯一の問題の解決がここに約束された。
そう――





「じぶん家ほったらかしておどれら何やっとんじゃコリャアァァァァァァァァァァァァァァ!!!」





因幡てゐ――百年単位で技術を磨き続けた、この老獪なセカンドベースマンの登場によって。










 ◆










知っている者は少ないが、妖怪の山の北西部には200平米ほどの良く馴らされた、ほぼ正方形の平地がある。
ここはかつて天狗たちの訓練場として使われていた場所の一つだったのだが、何らかの事情があってか現在は使われておらず、さながら自由広場のような様相を呈している。

「いーっちにー、いっちに!」

一同「そーれ!」
「いっちにーさんしっ!」
一同「にーにっさんしっ!」

そんな知る人ぞ知るこの自由広場にて、威厳のある声に先導されてランニングに勤しむ集団が一つ。山の神を先頭に、土着神、豊穣の神、紅葉の神、厄神、河童という何とも豪勢な顔触れ――守矢チームのメンバー達である。
先日正式に大会参加チームとして発足した後、練習場所を探していた守矢チーム。となれば、広くて平坦な土地を持つこの広場はまさに垂涎の存在。
そして、近隣に居を構える守矢神社の面々がこの絶好の場を見逃す筈がなく、こうして練習場として使っているのだった。



「よーし、各自ストレッチ!」

一同「オー!」



現在メンバー探しのために博麗神社へと赴いている早苗の代理キャプテンとして、山の神、八坂神奈子が皆に指示を出す。
威圧感抜群の巨大な注連縄と御柱は練習の邪魔になるからと外しているが、それでも迫力は十分。メンバーの半数が神である異色のチームを、しっかりと纏めあげている。
それに追随するような格好で、信仰を集めるのに絶好の機会と見る神々の士気は高く、未経験者を含んだ新鋭とはいえチームの雰囲気は良好だ。
また、メンバーの一人である河童、河城にとりの高度な技術によって、自動で球を射出するマシーンや夜間照明等も取り揃え、効率の良い練習が進められる環境に仕上がっているのだった。



「よーし、塁間ダッシュ10本! ビリが一番多かったやつは今日も水汲み!」

一同「オー!!」



少し物騒な塁間ダッシュにも士気は衰えない。雰囲気もいい。
しかし現状、守矢チームは未完成だ。言わずもがな、メンバーはまだ七人しかいないからである。
いくら士気が高く、雰囲気が良くても、チームとして完成を見ないことにはやる事なす事全てが中途半端になってしまう。
その為早苗がこうして全体練習を抜けてまで東奔西走しているのだが、基本楽観的な神様達は「何とかなるよ!」のスタンス。
しまいには「その内すんごいプレイヤーが空から降ってくるんじゃない?」などと言いだす始末で、そのたびに早苗が頭を抱えて溜息を吐いていたのだった。

「よっしゃあ! 安全圏確保だぜベイベッ!」

そんなハッピーなチームの少し物騒なダッシュ合戦は、すでに大詰め。
昨日稔子に僅差で敗れて水汲みに行かされたにとりは、残り一本のダッシュを残してビリの可能性が無くなったことに、強烈なガッツポーズをかました。
トップ賞はなくともビリのペナルティがあるこのダッシュ合戦、となれば当然首位争いよりも最下位争いの方が熾烈なのだ。
それにしても、あまりに露骨な喜び方のため、神奈子が呆れ顔で嗜める。

「コラにとり。ビリ2がそんなに嬉しがってんじゃないよ、みっともない。そんなんじゃ自慢の頭の皿が泣くよ?」
「皿が潤って一石二鳥、ってね! 引き続き精進するであります神様!」
「やれやれ……ん?」

にかっと笑って敬礼の真似事をしているにとりにますます呆れ顔の神奈子だったが、ふいに何かに気付いたのか、無造作に頭上の空へと目を向ける。

「おっ? どしたんでありますか?」
「ふむ……」
「?」

「――みんな、ダッシュは中止だ! 水汲みもなしでいいから、一旦ベンチの方へ下がって」
「ええ!? せっかく安全圏を確保したのに!」
「うっさい。あんたも早く下がりな」

半泣きのにとりを含めたメンバー達がベンチに下がったのを見届けると、神奈子はマウンド付近の一角に向けて何かの術を掛けた。



 ぶよっ……



その空間にもっふもふで円形の平べったい何かが出来上がったと思った、次の瞬間――





 もふっ!!





一同「!!?」

何の前触れもなく空から二人の女性が降ってきて、そのもふもふに気持ちよさそうな音と共にめり込んだのだった。










「……皆様、本当にご迷惑をお掛けしました。申し訳ありませんでした」

頭に大きなたんこぶを携えた竜宮の遣い――長江衣玖が、守矢チームのメンバー達に対して深々と頭を下げた。
墜落した際はもふもふのおかげで無傷であり、改めてあのもふもふが何だったのか気にさせることこの上ない。
口調は丁寧、態度は潔い、そんな衣玖の姿に基本ファンキーな神様達は「気にしない気にしない!」のスタンス。
事情を知った上でなお快く許してくれるその優しさに少し微笑み、隣で同じく頭にたんこぶを携えて気絶している天子を横目に再び深くお辞儀をするのだった。

「では、私達はこれで――」

「――ちょいと待ちな。一つ聞きたいことがある」


天子を担いで飛び立とうとした衣玖は、呼び止められる声に動きを止めて振り返る。視線の先には、腕組みをした無表情の神奈子がいる。

「はい、何なりと」
「じゃあ早速。あんた、野球経験はある?」
「はい、あります」
「そうかそうか。だから、ってわけじゃないんだが、うちのチームに入ってくれないか?」

にやっと笑い、神奈子は無造作に右手を差し出した。
この手を握れば晴れてチーム入り――そういう意図がある事を即座に理解した上で、衣玖はその場で三たび頭を下げる。

「申し訳ありません。お誘いは本当に嬉しいのですが……」
「ん、何か不都合があるのかい?」
「はい。私には既に所属するチームがあります。二重にチームを持つ事は出来ないので、せっかくのお話ですが、受けられません」

やはり丁寧な返事に、神奈子は苦笑して右手を静かに引く。

「そうか、残念だけどしょうがないね。差し支えなければチーム名を聞きたいんだが」
「ナイトフィーバーズと言います。玄雲海リーグに所属するチームです」
「へえ、天の領域に野球のリーグがあったのか。因みにチームの調子はどうなんだい?」
「今季、無事に優勝することができました」
「優勝か! そいつはめでたいね! おめでとう!」

神奈子の祝い台詞に反応して、背後のメンバー達からも「おめでとう!」の声が飛びかう。
衣玖は少し照れ臭そうに何度か小さくお辞儀しつつ、何かを思いついた様子で、少しいいですか? と言葉を切り出した。

「突然ですが、これから私達のチームは秋季キャンプに入ります。よろしければ、合同練習をしませんか?」
「え? それはこっちとしたら願ってもない話だけど……あんたの一存でそんな事決めちまっていいのかい?」
「はい。恥ずかしながら、キャプテンを務めさせていただいていますので」
「そうかそうか! 主将殿だったか! こいつは失礼、改めて、こっちからお願いさせてもらいたい。よろしく頼めるかい?」
「はい、喜んで!」

今度は衣玖が右手を差し出し、神奈子はがっちりとその手を握った。
守矢シャイニングバーニングライトニングスとナイトフィーバーズの合同練習、晴れてここに成立である。

「長江衣玖と申します。失礼ですが、キャプテンの名を伺ってもよろしいですか?」
「おっと、私は八坂神奈子っていうただの山の神で、キャプテンじゃないよ。キャプテンは今ちょっと不在でねえ」
「そうでしたか。ではキャプテンにはお会いした時に改めて挨拶を――」
「――ん? 悪い、ちょっと待って」

衣玖が話している途中だったが、ふいに神奈子が左後方の山並みに体を向けた。

「……んん、こりゃあ面白い。まさかあの子を連れてくるとはねえ」
「八坂様?」
「はは! まさに、ナイスタイミング、ってやつさね!」
「?」

神奈子に少し遅れて気配に感付いた様子のメンバー達が、ちらほらと神奈子が向いている方角に目を向けはじめた。
深い山々を越え、急いでいるのがよく分かる落ち着きの無さで、段々と近づいてくる気配が、二つ。

「お姉ちゃん、あれってまさか……」
「そのまさかね。ふふっ、また会えて嬉しいわ」
「私はあんまりいいイメージがないけど……。忠告しても聞かないわ、突然撃ちかかってくるわ、挙げ句鬼みたいに強いわで……」
「その鬼がこれからはチームメイト、心強いじゃない」

一人はメンバー達が見慣れた緑髪を風に靡かせ――

「こんな素敵な瞬間に、私みたいな厄神がいるのは場違いな気がしてしまうわ」
「そんなことないって! 日頃の行いが、ってやつだよ!」
「うふふ、そうかしら」
「ほら、もっとどっしり構えて! ね!」

もう一人は別の意味でメンバー達が見慣れた黒髪を風に靡かせ――

「はは! 嬉しそうだねえ!」
「あんたもね諏訪子」
「神奈子こそ!」

そうして、揃わない足並みでグラウンドに降り立った二人の巫女――早苗と霊夢を、メンバー達は温かい笑顔で出迎えた。

「ただいま戻りました!」

「こんちわ」

一同「ようこそ霊夢! お帰り早な――」





「――み、味噌汁が爆発したっ!?」





和やかな雰囲気を引き裂く復活劇に、その場にいた全員が思った。空気を読め、と。










 ◆










 キィン!

「ほいっ、と」

 パシッ!

 キィン!

「ほいさっ」

 パシッ!

キィィン!

「あらよっ」

 パシッッ!



「うまーい……」
「もう三十回以上いってるよ……!」
「一回も落としてないしね!」
「あいつ、やるなあ!」
「すごいのかー!」

図書館防衛隊チームのメンバーが釘付けになる中、短い間隔で放たれる永琳の打球を、因幡てゐは軽快に捌く。
地を這う球、高いバウンドの球、左右に打ち分けられるそれらを、至極簡単そうに、そしてご機嫌そうにグローブへと導いている。

 キィィン!

「!」

 バシッ!

「っと!」

 パシッ!

「危ない危ない、ってね!」

ここまで打ち込まれた打球は三十七球。
五球あった予測不能のイレギュラーバウンドですら、てゐは一球たりとも後ろへ逸らしていない。
勿論、永琳が放つ打球がイージーな訳ではない。
それどころか、イレギュラーなどしなくても十分難しい打球ばかりである。

「よっ」

 パシッ!

「てゐ、ラストよ!」

「はいねっ!」

 キィィィィン!!

「っし!」

 パシッッ!!

「あざしたー!」

四十球ノーエラー。
しかし遣り遂げた本人はさも当然の出来であるかのような感じで、別段誇らしげにすることもない。
逆に、一球僅かに弾いてしまった事が悔しいらしく、表情はあまり優れない。
それだけで、如何にてゐの実力が高いかを窺い知ることが出来る。

「お疲れさま。調子はまずまずのようね」
「全然ですよお師匠。一球弾いちゃったし」
「あれを後ろに逸らさないのはあなたくらいのものよ」
「おだてたって許しませんからね!」

困ったわねえ、と苦笑する永琳に、てゐはぷいとわざとらしくそっぽを向く。
内心は、はからずもチームに加わる事になった嬉しさでいっぱいなのであるが、この頑固なセカンドベースマンはそれを表に出すことはない。
そんな彼女の心持ちを永琳はしっかり理解していて、彼女もまた永琳に理解されていることを理解している。
なんだかんだ言っても、同じ屋根の下で暮らす者同士、つながりは強いのである。

「それでは! 新メンバーにして紅魔ライブラリーガーディアンズの最後の1ピース、てゐさんの加入を改めて盛大に祝うとしますかー!」
一同「オー!!」

祝い、それは胴上げ。
そんなの別にいいよ! などと照れくさそうに固辞するてゐを無視し、小さな体が二回、三回と宙を舞う。
しかし五回を過ぎた辺りから、足の方を押し上げる誰かがふざけて思いっきり力を入れるから、バク宙のように一回転するようになり、合計十回の胴上げからてゐが地上に戻ったころにはフラフラで尻餅をつく有様だ。
誰だー! などと怒ってみせるてゐだったが、本心は生まれて初めて経験する胴上げに嬉しさでいっぱいなのであった。

「さてさて、それでは皆さんお待ちかねのフリーバッティング行きますよー!」
一同「オー!!」

こうして、メンバーが全員出揃った『紅魔ライブラリーガーディアンズ』の初めての全体練習は、士気の高揚もあって流れるように進んでいった。
先程加入したばかりのてゐも高い技術と持ち前の適応力によって早々とチームに溶け込み、懸念の一つであった内野の連携の問題をいとも簡単に解決する活躍を見せている。
新加入のメンバーによってもたらされた、目に見えて分かるほどの戦力アップ。まさに理想的なチーム状態である。
と、そんな順風満帆な中ではあるが、てゐがここに留まっている事によって、新たに一つ問題が生じていた。

「――そう。薬売りの凍結はいい判断だわ」
「そりゃそうですよ。だってあいつら、あたしの言う事なんてなーんにも聞きゃあしないんですもん」
「あらあら」

新たな問題――それは永遠亭に残された因幡達の事である。
輝夜、永琳、鈴仙に続き、てゐまで不在となった現在の永遠亭は、リーダーが誰もいない状況。てゐがいた中であってもまるで締まりがなかった因幡達が、そんな環境下でまともな生活、及び運営などこなせるわけがない。
今はまだ大きな問題が起きることはないだろうが、この状況が一日二日と続けばどうなるか――永遠亭の住人なら、考えるまでもなく結果が想像できる。
勿論、すべてマイナス方向のものである。

「一言目にも二言目にも、野球やらせろ、ですよ。ま、その点に関して言えばあたしも同感っちゃ同感でしたけど」
「そこまで因幡達が野球に重きを置いていたとはねえ……。永琳、どうする?」
「そういう事なら私が行った方がよさそうですね。てゐ、苦労を掛けたわ。ありがとう」
「そ、そう簡単には許しませんからねっ!」
「困ったわねえ」

先程と同じくそっぽを向くてゐに苦笑し、輝夜に軽く頭を下げると、永琳は小悪魔と一言二言話をした後にグラウンドから姿を消した。
遠目でそれを見送ったてゐと輝夜。不安は完全には拭えないものの、それでも永琳なら何とかしてくれる、と信じ、小休憩後のアメリカンノックに備えてストレッチを始めるのだった。

そして、一時間半後……



「――ただいま戻りました」
「あ、お帰りなさいお師しょ……――!?」



「あたしの白金の左腕を見せてやるー!」
「あたしのダイヤの足もー!」
「あたしの柘榴石のバットもー!」
「あたしのシルバーソルキャップもー!」
「あたしの$×△%#もー!」
「あたしの縲朱ュ疲ウ募ー大・ウ縺セ縺ゥ縺銀・繝槭ぐ繧ォ縲もー!」
「ルパンルパーン!」

優しい微笑みを携えて、永琳はグラウンドへと帰ってきた。幾多の因幡達と共に。

「紹介します。『永遠亭ムーンバニーズ』のメンバー達です。どうぞよろしくお願いします」

そうして永琳は、ざわつくメンバー達に向かって優雅にお辞儀をする。それに続き、因幡達も耳をしならせて鋭いお辞儀をした。
そんな予感がしてたのよねえ、と楽しそうな輝夜。てゐは、やれやれ、と腰に手を当てて首を力なく左右に振っている。

「おっ! ノリがいいですねー! こちらこそよろしくですよ!」
「よろしくなのか!」
「よろしくね!(屋台のお得意様多数……てのはバラさないほうがよさそうね)」
「負けないよ!(遊び仲間多数……てのはバラさないほうがいいよね)」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「パワーアップしたあたいのパワーをアップしてやる! ……ん?」

また、メンバー達は受け入れ大歓迎の様子だ。
野球を知ってから日が浅い彼女達にとって、共に練習する仲間及び、対戦相手が出来ることは願ってもいない話。
唐突極まりないサプライズだが、そんな事よりも嬉しさの方が遥かに勝っているのである。

「お師匠、ちょっと……」

と、そんな喜びに沸くチームだが、やはり問題、というか、気掛かりな点がある。
現在のムードを損ねないようひそひそ話で、てゐは永琳に質問を投げ掛けた。

「お師匠、薬を待ってるお客さんはどうします……?」
「得意先全件に各症状に合わせた薬を纏めて送ったから心配いらないわ」
「じゃあ、永遠亭の掃除とかは……」
「ここに来る前に掃除して、その後保存術式を屋敷全体に掛けてきたから心配いらないわ」
「それなら、この子達の滞在場所は……」
「空間転移で、永遠亭大広間の擬似空間を用意した。保存食、寝具共に必要数三割増しで搭載しているから心配いらないわ」
「非の打ち所がないんですが……」
「ふふ、心配いらないわ」

後方の憂い……そんなものを、この人が残しておく筈がないか――てゐは頼りになりすぎる永琳に対して、思わず笑ってしまう。
また永琳も、今回はいつもより少し誇らしげに微笑む。
小悪魔が煽る事で飛び跳ねて喜び狂う皆を背に、二人は互いに笑い合うのだった。

こうしてメンバーが揃い、練習相手も得て、士気は青天井の紅魔ライブラリーガーディアンズ。



「ハイ! 皆さん注目ッ! それではこれより、第一回紅魔ライブラリーガーディアンズVS永遠亭ムーンバニーズのフレンドリーマッチを行いますッッ! 皆さん準備はいいですかッ!?」

一同「たのもーッッ!!」



これから先の伸びしろは、どのチームのどのメンバー達よりも上――そんなフレーズがふと浮かんで嬉しくなり、皆よりワンテンポ遅れて永琳も声を上げた。





「たのもーッッ!!」





そして、それに気付くや否や、嬉しさのあまり永琳に抱きつく輝夜。
それに続くてゐ。
連られる因幡達。
当然のようにチームのメンバー達。

そこから発展して行われた本日二度目の胴上げは、一度目より遥かに派手に行われ、やっぱり永琳は何度もバク宙する事になるのだった。










 ◆










「よろしくお願いしますッ!」

居並ぶ守矢チームのメンバー達に元気よく挨拶をするのは、天人にして玄雲海リーグの出禁人物、比那名居天子だ。
先程空気の読めない復活を果たした後、自分も野球をやりたい、という熱い思いをキャプテンの早苗にぶつけたところ快いオッケーをもらい、こうして守矢チームの正式な選手、つまり最後の1ピースになったのだった。
野球経験は、観戦歴こそ長いもののゼロ。というのも、天界では野球を『泥臭い地上の文化』として嫌う世論が一般的である為で、玄雲海リーグの観戦もお忍びで行かなくてはいけないような環境だったからである。
ただ、そんな中でも野球が大好きな彼女は、いつか自分がプレーする事を夢見て、一日千本の素振りと壁当てを欠かさなかったとの事。そして、そんな熱い熱い話を聞かされたら、情熱青春の現人神、早苗が首を横に振るはずがなかった。

「――では、私達は一旦戻ります。合流は明日ということでよろしいですか?」
「はい! もし目処が立つようなら、今日中でも構いませんからね!」
「そうそう! 私も支度手伝うから、ね!」
「ふふ、了解です。では……」
「お気をつけて!」

メンバー達に向かって満面の笑みで手を振りながら、天子は『地上見聞』の許可を得るために、衣玖はメンバー集合とキャンプ準備のために、それぞれ天の領域へと帰っていった。
二人が去った空を皆で見上げながら、少しの沈黙が場を包む。

「……さて! 皆さんッ!」

そして、それを切り裂くのはやはりこの人、ご存知情熱青春の現人神、東風谷早苗である。
一喜去ってまた一喜――造語だが、そんな表現が今のこのチームにはよく似合う。

「今更紹介するまでもないと思いますが、紹介します! 博麗の巫女にして、我が守矢シャイニングバーニングライトニングス最後の1ピース、博麗霊夢さんです! 皆さん温かい拍手でお迎えくださいッ!」

見事な煽り文句に呼応し、メンバー達から「よろしく!」「ようこそ!」といった言葉と共に大きな拍手が沸き起こった。
普通なら照れ笑いなどしながらペコペコするような雰囲気であるが、そこは流石の博麗の巫女、態度も表情も特別変わらない。

「では霊夢さん、チームに向けて何か一言!」
「よろしく」
「はい! よろしくお願いしますってちょっと!」
「何よ?」
「もう少し何かなくないですか!? 例えばほら、絶対優勝するぞ! とか、私が入ったからには負けは許されないわよ!とか「ああ、じゃあそれで」適当かッ!」

水と油、というより水と火のような二人の温度差と言い回しに、メンバー全員が吹き出す。
嬉しさ交じりの爆笑はそのまましばらく鳴り止まず、明るく陽気なこのチームにふさわしい門出となった。










「ねー、早苗」
「――んぁい?」

練習を再開したメンバー達がキャッチボールをしている中、ユニフォームに着替えた早苗は、諏訪子と組んでストレッチをしていた。
早く練習の輪に加わりたいのが正直な気持ちだが、試合までの期間がそう長くない今、怪我をしたら取り返しがつかない。
だから、たかがストレッチといえども蔑ろにすることはなく、それは向こうで神奈子に背中を押してもらって体前屈をする霊夢も同じ考えのようである。

と、そんな大事なストレッチも着々と進んできた時の事だった。
ここまで無駄のないペースで補助をしてくれていた諏訪子が手を止め、ふいに早苗を呼ぶ。
腰入れ(仰向けに寝た体勢で、下半身をひねって腰の筋肉を伸ばすストレッチ。コキッ、と音が鳴ると気持ちがいい)の最中で完全に脱力状態だったゆえに出た間抜けな早苗の返事に笑いつつ、諏訪子は言葉を続ける。

「よくよく考えれば考えるほど、よく連れてこられたなー、って思ってさ」
「霊夢さんを、って事ですよね?」
「そうそう霊夢。だってさ、いくらスタメンじゃないって言っても、あの人気者の霊夢じゃん? 話し合い、相当難航したんじゃないかと見るけど」
「(……そう思うなら付いてきてくれても良かったのに……)ええ。やっぱり周りの人たちの目はかなり鋭かったです。下手したら殺されるんじゃないか、ってくらいに」
「メンバー表見るかぎり、一筋縄じゃない面子が目白押しだもんねえ。……それで、その一筋縄じゃない面々をどうやって納得させたのか、是非聞いてみたいね!」

そう言って一旦話を締めた諏訪子の表情は、さながらクエスト帰りのハンターに話をせがむわんぱく小僧のようである。
私の苦労も知らないで……などと思いつつ、やっぱりその笑顔に弱い早苗。少し誇らしげに、丁度二時間前のことを語り始める――










 二時間前……










「――あら、珍しく早かったわね。まだ三十分前よ」

図書館の書斎にて、ユニフォーム姿で読書をしていたパチュリー。
普段は開始ギリギリにしか姿を表さない霊夢(と萃香)の早出に、くすりと少し嬉しそうに笑う。

「みんなは?」
「グラウンドで体を動かしてるわ。紅魔館に泊まっていってるメンバーが多いから」
「そう、皆いるなら丁度いいわ。ほら早苗、隠れてないで出てきなさいよ。萃香も」
「……早苗?」

言葉の意味が飲み込めず首を傾げるパチュリーをよそに、霊夢に促されるがまま早苗が書斎へと恐る恐る顔を出した。その早苗に隠れるように、萃香も続く。
それに際して最初怪訝な顔をしたパチュリーだったが、守矢チームの参加が正式に決定した事の報告に来たものと思ったのか、表情を戻して早苗に声を掛けた。

「いらっしゃい。記事、見たわ。取り敢えず、おめでとう、と言ったらいいかしら」
「あ、ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします……」
「……? そんなに畏まらなくてもいいじゃない。それより、メンバー表の空きはもう埋まったの? センターとサードが空いていたけど」
「――! ああ、それは……ええと、何ていったらいいものか……」
「?」

全く悪意は無いにしろ、パチュリーの鋭い質問に早苗はおろおろと狼狽える事しかできない。
しかし、それも仕方の無い話だ。メンバー表を埋めるために霊夢をヘッドハンティングしにきた、などと、とても声を大にして言えるはずが無い。
引き続きはっきりとした物言いができない早苗。ここに至ってはパチュリーも何かワケありと感付き、霊夢の方に椅子ごと体を向ける。

「……恐らく、今私が想像した中で一番マイナス方向のものが、正解でしょうね」
「口に出さなくていいわ。口に出して伝えるのは私の役目だから」
「意志は、固まってるようね……」

一瞬残念そうな顔を見せて椅子から立ち上がると、パチュリーは右手で複雑な印を切る。



「――!?」



すると、薄暗い書斎の景色はぐにゃりと歪み、瞬く間に一同は広大な野球場の一角へと移動した。
空間転移魔法――当事者のパチュリー、慣れている霊夢と萃香はともかく、初めてそれを体験する早苗は何が起こったのか整理が付かず、混乱するばかりである。

「いったい何が……! こ、ここはどこ!?」
「ただの空間転移。落ち着きなさい。それと、ここは私達の『楽園』よ」
「楽園……凄い! 凄すぎますよ!」

引き続き浮かない顔ながらも、自慢気たっぷりの言い回しでパチュリーは早苗を正気に戻す。
すると早苗が途端に大きなリアクションで驚嘆などするから、浮かない顔などどこへやら、いつの間にか照れを噛み殺したような薄笑いになっているお茶目さんなパチュリーなのであった。

「――おっ、珍しく早いじゃんか遅刻ギリギリコンビ!」
「お早う霊夢、萃香。……と、早苗?」

早苗が夢中で場内をキョロキョロと観察している中、近場の三塁側ベンチからひょっこりと姿を現したのは魔法使いコンビ。
少し土で汚れたユニフォーム姿は、つい最近まで未経験者だったとは思えない程さまになっている。

「誰がコンビよ。大体遅れそうになるときは萃香がギリギリまでぐうたら寝てるからであって、私は基本早起きよ」
「はは! 早起きは三文の得、ってか! それよりさ、早苗はどうしたんだ?」
「あ、それは、あの……」
「ん?」

当然といえば当然の魔理沙からの質問に、早苗は先程と同様口籠もってしまう。
率直に事実を伝えればいいだけの話ではあるのだが、そうするだけの心の準備がまだ出来ていないのだ。
周りに少し目をやればフランドールチームのメンバーがちらほら見て取れる今の状況下で、軽々に口を開こうものなら命がいくつあっても足りない――そう考えてしまうのも無理はない。

「なーにもごもご喋ってんだ? らしくないなあ」
「す、すみません……」

しかし魔理沙はそんな彼女の事情などお構いなしにガンガン煽ってくる。
というより、その事情を知る術などないため、仕方のないことではあるのだが。

「おいおい、本当にどうしたっていうんだよ。私なんか変な事聞いてるか?」
「いえ、そんな事は……」
「だったら何で――」



「――それは私から説明する」



鶴の一声――この場合、そんな表現がまさにぴったりであろう。
普段滅多に耳にすることのない真剣な霊夢の言葉には、その場を支配してしまう程の確かな重みがあった。
ここに至っては魔理沙も重大な何かがあるのだと感付いたようで、口を閉ざして霊夢に顔を向ける。

「霊夢さん……!」
「いいの、あんたは何も言わなくて。アリス、フラン達を呼んできてくれるかしら」
「ええ……わかったわ」
「………」










 メンバー集合中……










皆が集まった三塁側のベンチ前は、異様な空気が漂っていた。
普段なら雑談など交わしながら、ギリギリに来る霊夢と萃香を待っている筈の時間である。
しかし今日は、その全てが違う。雑談は勿論、メンバー達に笑顔一つすら見られない。
改めて博麗霊夢という人物の持つ影響力の大きさを知ることが出来る瞬間と言えるが、今はまったくの逆効果である。



「――みんな、悪いけど少し時間を頂戴」



半円の中心、重たい沈黙を破る霊夢の言葉に、異論を唱える者はいない。
平時の彼女からはまず想像できない言い回し――皆、これから聞かされるであろう内容を、薄々感付いているのだ。



「みんな、今日までありがとう。私は今日からこのチームを抜けて、この子達のチームに入るわ」



その言葉にも、誰一人口を開かない。
変化があった事はと言えば、霊夢の背後に控える早苗に対し、何人かのメンバーが鋭い殺気を向けたことくらいである。



「誤解のないように言っておくけど、これはあくまで私の意志。早苗達の勧誘云々は関係ないわ」



皆、それは分かっていた。
分かっているから、笑顔で「頑張れ!」と送り出してやりたい、「負けないぞ!」と発破の一つでも掛けてやりたいと、そう思っていた。
しかし、やはり口を開く者はいない。
ますます重くなるこの空気が、そんな簡単な気持ちを伝える事でさえ憚らせてしまう。
そして、その後も二言三言と聞こえてくる言葉に、メンバー達は変わらず沈黙で返すことしか出来なかった。不本意な暗い顔を崩すことが出来なかった。



「色々と楽しい時間を過ごさせてもらった。感謝するわ」



当然霊夢も、メンバー達の心境を感じ取っている。
円満な別れ、と行くとは思っていない。それを皆に要求するのは、些か図々しいというものだ。
だから今の自分に出来ることは、本心である感謝の気持ちを伝える事くらい。そして、話を長引かせない事くらい――

「私達はそろそろ行くわ。今までありがとう。じゃあ――」





「――待って」





霊夢が話を締めに向かわせようとした時、ふいに澄んだ声が割って入る。
フランドールである。

「……フラン」
「ねえ、霊夢」

その声に怒気はなく、表情にも怒りは見られない。
無造作に霊夢の正面に立ち、フランドールは一瞬目をつむる。
束の間訪れる静けさ――そして、再び目を開いた彼女は真っすぐに霊夢を笑顔で見据えた。
そしてその笑顔は、どこか挑発しているようにも見えた。










「――負けないよ!」










「……こっちもね!」

これもまた、鶴の一声と言うべきものだった。
重苦しかった空気は一瞬のうちに晴れ、鋭く放たれていた殺気も同時に消えて失せた。

「霊夢、あと早苗! 私達に勝とうと思うなら、死ぬ気で練習してこいよ! ま、それでも勝つのは私らだけどな!」

そして、続く魔理沙の一言が口火となり、半円が団円となる。
フランドールチーム本来のこの時間が、ようやく戻ってきたのである。

「フン……期待を裏切らないで欲しいものね」
「いつでも相手になるよ! んでもって、元気でやれよ!」
「体に気を付けてね。怪我したらいつでも診てあげるから!」
「フラン様の言うとおり! いつでも相手になりますからね!」
「素人から始めた同士、個人的にも負ける気はないわよ、霊夢!」
「そっちの様子、また神社で聞かせてもらうよ! 霊夢と勝負か、ははっ! 燃えてくるねえ!」

それまでの暗さが嘘のような晴れやかさである。
気遣うメンバー、発破を掛けるメンバー、エールを送るメンバー、もう誰一人、負の感情を醸し出している者はいない。

「……だ、そうよ。やれやれ、ここで一人引き止めるのも無粋というものね」
「パチュリー、今までお世話になった昼ご飯の件だけど」
「ああ、お礼をするつもりなら」

「「球場で」」

「ふふ、分かってるじゃない」
「まあね」





「………」

そんな光景を輪の外から見つめながら、早苗は自分の体が小刻みに震えているのに気付く。
恐怖からくるものではない。自分もこの中に飛び込みたい――そんな衝動のせいだった。
自分が原因で一時でも和を乱してしまった、という罪悪感はあるし、自分に輪の中へと加わる資格がない事も分かっている。
しかし、このメンバー達の晴れやかな顔を見れば、その中に身を置けたらどれだけ楽しいだろう、と想像してしまうのも無理はないというものだ。
脳裏に浮かぶ、神奈子や諏訪子を始めとするチームメイト達の顔――ふと、淋しくなって俯いた、その時だった。



「――はじめまして」



「……! フランドールさん……」

ふいに耳へ入ってきた、澄んだ声。輪の中から一人抜け出してきたフランドールである。
途端、強烈なマイナス思考が頭を駆け巡る。
聞いた話だと、霊夢はフランドールにとって数少ない、野球の話以前からの知り合いなのだという。
当然、他のメンバー達よりも『一緒にやりたい』という思い入れは強いはずである。
しかし、そんな彼女は自分が原因でチームを離れていく。
ただでは帰さない――フランドールがそういう考えに至る可能性は大いにあるといえる。
相手は、強大な力を持った吸血鬼。軽く小突かれる程度でも、生身の人間なら即座に再起不能だ。
ましてや怒りに身を任せた一撃なんて食らった日には――



「――参加決定おめでとう!」



「……うぇ?」

あれやこれやと想像して一人混乱していた早苗の事などどこ吹く風と言わんばかりの祝い言葉と爽やかな笑顔。
返ってきた間抜けな返事に、今度は少し可笑しそうに笑いながら、フランドールは白いリストバンドが付いた右手を差し出す。

「負けないよ!」

恥ずかしさを噛み殺して視線を上げると、そこには先程とは違う挑発的な笑みを浮かべたフランドールの顔がある。
やれるものならやってみろ――まるでそんな台詞が聞こえてきそうである。

「……こちらこそ!」

そして、こんな煽り方をされたら、ホークスファン歴10年を超える現人神が燃えない筈がない。
力強く手を握り返し、その挑発を真っ向から受けて立つのだった。




















「――で、その後はメンバーの方々全員……いえ、紅魔館にいた方々全員に見送られて帰路についた、という流れです。まあ、私は完全に霊夢さんのついでだったと思いますが」
「へえー、さすがは霊夢。人妖問わずに好かれるってのは、最早才能の為せる業だよ、っと」

にかっと笑い、諏訪子は背中合わせの早苗の体をぐいっと担ぎ上げる。

「んぐ……!」
「ほーらリラックスリラックス。肩に力入っちゃってるよ!」
「あい……(もう、無駄に力入れさすような話をせがんできたのは誰よ……)」



「――負けるな、早苗」



「ぁえ? なんれす……?」
「はは、何でもないよー! ……って、どしたの神奈子?」
「どしたの、じゃないよ馬鹿っ面! 何十分ストレッチしてんだい!」
「おっとっと! こら早苗、何してんだい!」
「ひ、ひどいですよ諏訪子様!」
「控えおろう! 我は神なるぞ!」

「おまえら二人ともグランド10周!!」

「「そんなぁ!?」」

納得いかなそうな表情(早苗は諏訪子に対して)ながらも神奈子が本気で怒った時の怖さを知っている二人は、素直にランニングへと向かっていった。
そんな二人を腕組みの呆れ顔で見送った神奈子。ふと、先程諏訪子が一瞬だけ見せた母性溢れる笑顔を思い出し、くすりと笑って呟くのだった。

「――負けんじゃないよ、早苗」



















「………」

「フラン、そろそろ戻ろうぜ。……フラン?」

「うん……」

「……そっか、そうだよな。外の人間じゃあ、私と並んで一番古い付き合いだもんな。……でも、さ」

「……?」

「ワクワクしないか? あの霊夢と試合で戦うんだぜ!」

「それは……うん、する……!」

「だろ? しかも私の場合同じサード、今以上に気合い入れなくちゃな。次に会ったとき、あっさり追い抜かれてたら嫌だからさ」

「凄い飲み込みの早さだもんね、霊夢」

「天才、ってやつだな。ただ、私は負ける気なんてさらさらないぜ? 個人でも、もちろん試合でもな!」

「うん……!」

「さて、じゃあ気を取り直して、練習始めようぜ! みんなもう下でスタンバってると思うからさ! てなわけでキャプテン、号令よろしく!」

「オッケー! 任せて!」





「――お嬢ちゃん、紅魔館ていうお屋敷はここで間違いないかね?」





「――! どうしてここに……!?」

「紅魔館はここだけど……あなたは? 魔理沙の知り合いの人?」



「名乗るほどの者じゃないよ。ただのしがない野球好きの悪霊と、その仲間さね」




















 ■暫定メンバー



 《アルティメットブラッディローズ》

 投手:古明地 こいし(左投左打)
 捕手:古明地 さとり(右投左打)
 一塁手:八雲 紫(右投両打)
 二塁手:十六夜 咲夜(右投右打)
 三塁手:レミリア・スカーレット(右投右打)
 遊撃手:西行寺 幽々子(右投右打)
 左翼手:八雲 藍(右投両打)
 中堅手:魂魄 妖夢(左投左打)
 右翼手:橙(右投右打)

 《フランドールチーム》

 投手:フランドール・スカーレット(右投右打)
 捕手:パチュリー・ノーレッジ(右投右打)
 一塁手:伊吹 萃香(右投右打)
 二塁手:紅 美鈴(右投右打)
 三塁手:霧雨 魔理沙(右投右打)
 遊撃手:鈴仙・優曇華院・イナバ(右投左打)
 左翼手:藤原 妹紅(右投右打)
 中堅手:風見 幽香(右投左打)
 右翼手:アリス・マーガトロイド(左投左打)

 《紅魔ライブラリーガーディアンズ》

 投手:八意 永琳(右投両打)
 捕手:蓬莱山 輝夜(右投右打)
 一塁手:小悪魔(右投右打)
 二塁手:因幡 てゐ(右投両打)
 三塁手:チルノ(右投右打)
 遊撃手:大妖精(右投右打)
 左翼手:ミスティア・ローレライ(左投左打)
 中堅手:リグル・ナイトバグ(左投左打)
 右翼手:ルーミア(右投右打)


 《守矢シャイニングバーニングライトニングス》

 投手:洩矢 諏訪子(右投両打)
 捕手:八坂 神奈子(右投右打)
 一塁手:秋 静葉(右投両打)
 二塁手:鍵山 雛(右投右打)
 三塁手:博麗 霊夢(右投右打)
 遊撃手:河城 にとり(右投左打)
 左翼手:東風谷 早苗(右投右打)
 中堅手:比那名居 天子(左投左打)
 右翼手:秋 穣子(右投右打)










 続く
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。投稿第八作目、『野球しようよ!』の第九話です。
前作の投稿から一年以上が経過してしまい、楽しみにしていてくれた方には特に申し訳なく思います……
前作の後書きに書いた通り、この話はサブストーリーで、この後すぐに投稿予定の次作品にて大会スタートとなりますが……尺の都合で分割したので、試合本番に入るのは次々作品となってしまいました^^;
というわけで、三本連続投稿という形になります。相変わらずの無計画、直さないとですね^^;
最後に、この作品を読んで少しでも楽しかったと思って頂けたなら嬉しい限りです。
では……
和坊
[email protected]
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
おもしろい!
引き続きXを読ませていただきます!
3.無評価名前が無い程度の能力削除
待ちわびたぞ少年! ちょっとⅠから読み直してくる。
4.100名前が無い程度の能力削除
さて、次だ!