Coolier - 新生・東方創想話

一週間少女の日常・非日常

2012/12/21 04:39:09
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紙を捲る音が聞こえる。
たまに陶器の擦れる音も聞こえる。
私の奏でる音だけで満ちる、私の図書館。

「パチュリー様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
従者の小悪魔が私へ尋ねてくる。……私だけで音を奏でているわけではなかったわね。
「えぇ、いただこうかしら」
空になったティーカップに、紅茶の注がれる音が聞こえる。それと同時に香り立つ、甘い紅茶のいい匂い。
「ミルクも入れておいてね?」
「はい、かしこまりました」
笑顔を絶やすことなく紅茶を注ぐ小悪魔にお願いする。すぐに返事が帰ってくる。いつもの光景。
何十回何百回何千回、何万回繰り返したであろう光景。私たちの日常。
「ある程度掃除に切りがついたら、あなたも休んでいいわよ?」
小悪魔にそう声をかける、これもいつもの光景。
「この図書館の掃除に切りがつくことなんてありませんよ?」
そう言いながら笑って返答してくる、これもいつもの光景。
「ですが……そうですね。もうしばらくしたら休憩してきますね。何かあったらお呼びください」
ペコリと一礼、そして下がっていく彼女。これらの動作も私たちの日常。

そしてまた、紙を捲る音が聞こえだす。
私は本に読み耽る。私の居場所である、この紅魔館の図書館で。






数刻ほど経っただろうか。ゴソゴソ、ドサドサ。不協和音が館内に響く。
小悪魔がこんな不快な音を立てて掃除をするわけがない。と、すると……アイツかな。
本へと落としていた視線を上げる。音の持ち主が出てくるのをじっと待つ。
しばらくして、ズルズルと大きな袋を引きずったコソ泥が、本棚の陰から姿を表した。
「お、あちゃー……見つかっちまったぜ」
悪びれる様子もなく、別段困った様子でもなく、コソ泥・霧雨魔理沙は声を上げた。
「ここの蔵書は持ち出し禁止だと何度言ったかしらね?」
ジロリと、睨みつけるように魔理沙へと言い放つ。喘息が出てはいけないので、なるべく小声で。
「なんだよー、貸し出し禁止の図書館だなんて図書館じゃないぜ?」
「あなたの場合は借りるじゃなくて盗むでしょうに」
「いーや、借りるんだぜ?……私が死ぬまでだけどな!」
そう言って魔理沙は笑う。そう聞いて私は溜息をつく。これは私の非日常。
「いいから本を持っていくのをやめなさい、まだ私が読むんだから」
「なんでだよ、これだけ本があれば何冊か読まなくたっ」
「全部読むのよ、だからダメ」
ピシャリと魔理沙の言い分を途中で跳ねのける。魔理沙は少し不満そうな顔をして私を見つめる。
「じゃーあれだ!読み終わった本をくれよ!」
思いついたかのように嬉々として私に頼み込んでくる。借りるっていう発言はどこへやら。
「ダメよ。本は読み返した時にも新しい発見があるものなのだから。
何度も何度も読み返したとしても、本は私に新しい知識を与えてくれるの。
一度読んだだけで全てを理解するだなんて到底無理な話なのよ?」
「私は一度読んだだけで理解してるけどなぁ……」
「一度読んだだけで満足している、の間違いでしょう?」
「ちぇっ」
不満そうな表情でそっぽを向く魔理沙。右手でガシガシと頭を掻きながらブツブツと何か言っている。
大方、次の策を考えているのか、私への愚痴を呟いているのかどちらかでしょうね?
それにしても、困ったことになってしまった。このままだと高確率で本を盗まれてしまう。
普段は小悪魔に魔理沙の撃退を任せているけれど、魔理沙が侵入しているということは休憩中のようね。
私が撃退してもいいのだけれど、私の魔法を使ってしまうと本そのものを傷つける可能性が高い。
私が本に集中してる中、掃除や警備をしてくれていた小悪魔の存在の有り難さを痛感したわね……。
というかあの門番は一体何をやっているのやら。まさか開門しているんじゃないでしょうね?
ってそれよりも、この状況をどうにかしなきゃ。今取れる策と言ったら……これしかない。
「そんなに読みたいなら、ここで読んで行きなさいよ」
本を持っていかれたらたまったものではない。苦し紛れに魔理沙へとひとつの提案を投げかける。
「えー?私は本を読みたいのもあるけど、本そのものが欲しいんだよなー」
それはそうでしょうね?まったくこのコソ泥は。
「今なら紅茶もついてくるわよ?」
「……お茶菓子は?」
「ご希望ならば」
「ならお呼ばれしてやるぜ!」
ガタンと私と対面の席へと座る。図書館内では静かにして欲しいものなのだけど、無理な話かしら。
「ふふ……えぇ、お招きしてあげる」
けれど、魔理沙の満面の笑みを見ていると、なぜだか癒される。つい笑いが漏れてしまった。
「へへへ……」
それに釣られたのか、はたまたお茶菓子が楽しみなのか、魔理沙もまた笑いをこぼす。
「小悪魔、いるかしら?」
卓上に置いてあった鈴をチリンチリンと鳴らす。パタパタと小悪魔がやってくる。
「はい、どうなさいましたパチュリー様?……あぁいつのまに」
魔理沙の姿を見つけて少し眉を顰め、すぐに申し訳なさそうにこちらを見つめてくる。
侵入してきたことに気づけなかったことに責任を感じているのだろうか。
「気にしなくていいわ、私が招いたのだから」
「えっ?」
そんな馬鹿なと言わんばかりに驚く小悪魔。実際招かれざる客なのだから、それもそうでしょうに。
「招かれたぜ」
カラカラと笑う魔理沙。反省の色だとか、そういうものを全く見せない豪胆さが逆に清々しい。
「はぁ……」
呆気にとられて反応すらできていない小悪魔に私は声をかける。
「紅茶とお茶菓子を用意して欲しいのよ、二人分お願いね?」
「はい、かしこまりました」
良かった、すぐにお仕事モードに切り替わったみたいね?お茶菓子さえ出てくれば私の本たちは守られる。
「お茶菓子は多めに頼むなー?」
元気よく注文する姿はまるで子どものようで、私と小悪魔は思わず苦笑い。
「はい、かしこまりました。ではすぐにお持ちいたしますね」
そう言うと小悪魔はパタパタと準備に向かう。魔理沙が飽きてしまわないうちにお茶菓子……お願いね?
「へっへー、ちょうど小腹が空いてたんだよなー」
盗もうとした本たちを袋から取り出し、机の上にドサドサと置きながら魔理沙は笑う。
「まさかとは思うけど、最初からそれが目的ではなかったでしょうね?」
苦笑いしながら魔理沙に尋ねてみる。けれど、返答はなくニタニタと笑みを返してくるだけ。
少しばかり誘導されたようで悔しいけれど……少しだけ楽しんでいる自分もいて。
いつのまにやら、苦笑いは純粋な笑みへと変わっていた。
たまにはこういう非日常もいいものね。魔理沙は私にとっての光みたいなもの……なのかしらね。
そんなことを思いながら、私は読みかけの本へと視線を落とす。

紙を捲る音が聞こえる。今度は二人分。私と魔理沙と、二人分。

「パチュリー様、魔理沙様、失礼いたします」
紅茶を準備して戻ってくるには早すぎる、そんなタイミングで小悪魔が戻ってくる。
「どうかしたのかしら?」
なにか問題でも起こったかしら?少し不安になりながら尋ねてみる。
「いえ、お茶菓子に希望があれば……と、思いまして」
なるほど、なかなか気が利いているじゃない。魔理沙の好きなものでも出しておけば更に良いわね。
「私は特に希望はないわ。魔理沙の食べたいものに合わせてちょうだい?」
「はい、かしこまりました。では、魔理沙様、何かご希望はございますか?」
小悪魔の問いかけに、目を瞑って考えだす魔理沙。更に唸り声まであげだした。
お茶菓子ひとつでそこまで悩めるなんて、本当に見ていて飽きない。面白い人間ね?
そんなことを思いながら眺めていると、魔理沙はカッと目を開いて、小悪魔を指さしながら叫んだ。


「羊羹で!!!」

「「えっ?」」



紅茶に羊羹って合うんでしょうか。私は紅茶が飲めないので検証のしようがありませぬ。

追記:
コメントありがとうございます。
>>1
紅茶に喩えたご指摘があまりに的確で返す言葉も見つからないぐらいです。胸に留めて精進していきます。

>>4 >>6
困ったように笑うパチュリーさんを書いてみたかったのです。可愛く、楽しそうに見えたなら幸いです。

>>7
確かにこの流れだと落ちは蛇足だったかもしれないですね……。
作品の流れ・空気を読むことも今後の課題としたいです。
厄インディス
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コメント



0.220簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
蒸らさず砂糖も入れてないお湯を注いだばかりの紅茶
そんな感じですかね

少しあっさりとしすぎな感じがしましたので この点数で
4.70名前が無い程度の能力削除
洋館で羊k……いや何でもないです
何だかんだで、迷惑そうにしつつ楽しんじゃうパチュリーが可愛かったです。
6.70奇声を発する程度の能力削除
楽しそうで良かったです
8.703削除
セリフが実にいいですね。
彼女たちが実際に喋っている感じがします。
落ちは無理に入れなくても良かったんじゃないかと思います。