Coolier - 新生・東方創想話

小悪魔の非日常体験その2

2012/12/11 23:34:40
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1
「咲夜さん、お熱を測りますね」
「っ、ごめんなさい、小悪魔」
「無理してしゃべらないでください」
私はそっと咲夜さんの脇にガラス製の体温計を差し込み、腕の位置を整えて挟み込ませます。
冷たかったのか咲夜さんがひぃっと可愛らしい悲鳴をあげました。
普段のキリっとした姿から想像できません。でも、こればかりは我慢してもらわないと。

しかしこのリアクション、もう少しいじってあげたくなりますね。

私は背掛のない椅子に座る、無防備な咲夜さんの背中を指でなぞります
「ひゃいっ」
「いつもより可愛らしいですよ、咲夜さん」
「ふざけないで」
あらら睨まれちゃいました。でも咲夜さんの目が潤んでて嫌な気分じゃないです。何かに目覚めてしまいそうです。
おっと、脱線しかけましたが私は今、咲夜さんの看病をしてあげています。え?普通逆なんじゃないかって?
今回は咲夜さんが風邪引いちゃってるんですから仕方無いじゃないですか。とりあえずこのままじゃ色々置いてけぼりなので回想で事情説明は済ませてしまいますね。ぽわぽわぽわーん(回想の時のイメージ音)

2
いつも通りの朝です。と言いつつも地下の私室での目覚めなので朝だと私に教えてくれるのは部屋の置時計だけです。ああ目覚めとともに浴びるうららかな日光が懐かしい。って目覚めとともに日光浴びたのって人生、もとい悪魔生の中でも数えるくらいしかないんですけどね。

「あーたーらしいーあーさがきたー♪」

顔を洗って、ラジオ体操というものテーマを口ずさみながら朝の体操をします。奇数日だけの日課です。
口ずさんでいるメロディーは私のオリジナル。残念ながら実際に本物を聞いたことはないので。いつか聞いてみたいものです。しかしこのラジオの声ってなんなのでしょうか。ラジオさんというお方が号令をかけて体操をしているのでしょうか?私、気になります。
体操が終わると着替えの時間です。寝巻にしているローブを脱いでクローゼットをあけ、これでもかと吊るされたまったく同じデザインの司書服の中から手近なものをハンガーから外して身につけます。たまにはおしゃれでもしてみたいのですが司書身分でわがままは言いますまい。
そう、いつも通りなのです。いつも通り。
置時計は正確に時間を刻んでますし、部屋に日光も入らない(物理的に不可)、体操にささやかな願望、全て普段通り。

しかしこの後食堂に行くと、私は絶望しました。私の日常は崩れ去ったのです。

なぜなら、朝ご飯が用意されてなかったのですっ!!
午前中最大のイベントの会場である食堂のテーブルに並んでいたのは混沌としたゲテモノばかり。長靴の味噌煮、ジェラートの乗ったご飯、骨付き肉のチョコレートソースetc…。食材が烏合の衆です。なんで長靴を煮ちゃってるんですか。

「ってあなたたち、咲夜さんはどうしたんですか?!」
「メイド長いますよー」
元気のいい妖精メイドさんの、山彦が帰ってくるより数段早い返答。返事はよろしい、100点満点。でも朝ご飯は0点。
「!?、じゃあなんでこんな料理を」
「あちらがメイド長になりまーす」
メイドさんが指差す方向に咲夜さんはいました。なんだいるじゃありませんか。毎朝飽きもせずにドッキリを仕掛けてくるので今日は何らかの原因で食堂にいないのかと思っていましたよ。

「フフフ、朝ご飯作らなくちゃ朝ご飯作らなくちゃ朝ご飯作らなくちゃ」

病んでます。
咲夜さんが病んでます。長靴がしこたま入った大鍋をかき混ぜています。鍋から長靴はみ出てますって。
「咲夜さん何してるんですか?!」
「朝ご飯の準備よ☆今日はロールキャベツ」
「…咲夜さん、それロールキャベツじゃなくて長靴です」
「あらやだ、ロールキャベツじゃない」
そういうとどこからか火ばさみを取り出しまして鍋から長靴を1つ取り上げて見せます。これ菜箸使わない辺り絶対確信犯ですよね。
よく見ると咲夜さんの顔がほんのり赤いです。これは…
「咲夜さん、ちょっといいですか?」
「なにかしら?」
「そっと」
咲夜さんの前髪を搔き揚げて、その額に自分の額を重ねます。とっても熱いです。
「やっぱり、風邪ひいてるじゃないですかー!!」
「朝食準備がッ終わるまで料理をやめないっ!!」
やめてください。休んでください。
このままでは料理を止められると判断した咲夜さんは、華麗なバックステップで私から距離を…取れませんでした。
ペタン
しりもちをつきました。なんかかわいいですこの咲夜さん。
「病人は休んでくださいよー」
「それでも、作りたい料理があるんだ!!」
説得を試みるも意味無し。果敢にも立ち上がって鍋の方に向かおうとする咲夜さん。致し方ない。

ゴンっ

とりあえず気絶させるために近くに立てかけてあった中華鍋で頭を一撃。手まで振動が伝わってびりびりします。って咲夜さん?

ぶくぶく

「きゃーーー咲夜さん、しっかりしてください!!もっと自然に気絶してください!」
これは業務上の過失ですよね。あいでぃどのっとSATUZIN。知らないシラナイ。
「って現実から逃げるな私!!」
叫んで一息。現状の打開策を確認。

色々咲夜さんがやばいので医務室に連れて行きましょうそうしましょう。近くの妖精メイドさん二人を呼びつけ、なぜか食堂にも常備してある担架に乗せて準備完了。

「メイドさんたち、長靴とゲテモノ料理の後始末は頼みましたー」

残ったメイドさんたちに後を託して医務室へ直行。
こういう時こそクールな判断が必要とされるのですよ。間違ってもその場のノリで鍋で気絶させようなんて考えてはいけないのです。
後ろから証拠隠滅だーとか声が聞こえてきますが気にしない気にしなーい。
時は一刻を争うのです。

3
「というわけで咲夜が風邪で倒れた。」
お嬢様の議長っぽい発言。
「な、なんだってー」
と抑揚のない声でパチュリー様。お二人とも仲が良いようで。
「…とりあえず全員集まりましたしそろそろ始めませんか?」
この中で私を除いて一番常識のあるお方であろう美鈴さんが言います。
「ですね、さっさと始めましょう」
妹様が知恵の輪を強引にねじまげて解いていますが今回は無視して、私も会議の開始を促します。妹様、その玩具はそういう遊び方をするものじゃないですよ。

「じゃあ第一回、全世界ナイトメアな紅魔館を救う会、を開始するわよ」


咲夜さんを医務室に寝かしつけて(氷でガンガン頭を冷やしつつ)、また仕事を始めないように外から鍵をかけたのち、食堂に戻ると状況を把握した美鈴さんが中華な朝食を作ってくださっていて涙が出そうになりました。その後はまあ、いつも通りパチュリー様にコーヒーをお出しして咲夜さんについて伝え、パチュリー様がお嬢様に伝え、そしたら「そういう時は会議が必要ね☆」とか仰られたようで、会議室に紅魔館の主要メンバー(?)が集められた次第であります。

そして始まった会議の名前もといタイトルがこれですよ。流石お嬢様です。

「ではまず、咲夜が倒れた。」



「―っ、じゅ、重要だから二回言っただけよ!!」
お嬢様は顔を赤くして喚きます。
「レミィ、この会議で何を決めるのかしら?」
パチュリー様の助け舟。もし私が不用意な発言をして、お嬢様の機嫌を損ねるようなことがあっては確実に酷いことになるので助かります。
「勿論、咲夜が休んでる間の業務の担当よ」
得意になって答えます。流石パチュリー様。お嬢様の扱い方を心得ていらっしゃる。
「あとフラン、ガチャガチャうるさいわ」
「はーい」
妹様は知恵の輪から右手を離し、空を掴んで知恵の輪を粉微塵にしてしまいました。さようなら知恵の輪さん、あなたは今までよく耐えました。
妹様が知恵の輪を粉砕されるのを見届けたお嬢様はついに会議の本編をスタートさせます。
「じゃあまずは料理係!」
「全部中華でいいなら…」
おずおずと美鈴さんが手を上げます。
パチュリー様とかが手を上げなくてホッとしました。ああ、これオフレコ、心の声ですよもちろん。
「次、洗濯!」
「それも私が」
「その次、掃除!」
「じゃあそれも…」
………

特にこれといった問題も無く会議はさくさくと進み、ほぼ全ての家事は美鈴さんに一任されました。
「あの、美鈴さん、大丈夫ですかそんなに?」
永き沈黙(5分程)を破りついに私が発言。
「昔はこういうお仕事してたので大丈夫ですよ、こあちゃん」
何気に初耳です。意外と美鈴さんは謎が多いです。
「あ…、でも私が家事してる間は誰が門番をやるんでしょうか?」
「それもそうね。これだけの仕事をしながら門番をするのは無理があるわね。じゃあ次は門番係!」



会議室に静寂が再び。美鈴さんはやってしまったという顔をしてます。可哀そうに。
私は戦闘向きではないのでできればご遠慮したいところ。しかし一向に誰も手を上げるそぶりを見せません
…………
……

会議場が各々のお前がやれよオーラで埋められてしまいました。

「…、だれもやりたくないようね。ならこの役職は最後にじゃんけんで決めましょう。」
しびれをきらしたお嬢様の提案。まるで噂に聞くトイレ掃除係を押し付けあうショウガクセイのようです。
「そうするしかないようね」
「だねー☆」
「私もそれに賛成させていただきます」
無職の三人(私込み)の同意が得られたのでお嬢様は満足げな顔をされます。
「じゃあ…これは最後に決める予定だったけど、咲夜の看病係!、ハイっ」
「はい」
「はいっ☆」
なんでこの係ここまで人気なんですか。

「パチェ、ずるいぞこんな時だけ」
「私が看病係になった暁にはあの竹林の医者なんかが使わないような魔法薬で咲夜を治して見せるわ」
「お姉さま、私だってやりたい。お姉さまの仕事は議長だけでいいわ」
「私だって咲夜の看病とかやってみたいわ。この血を咲夜に流し込んで風邪も治して体も丈夫になって一石二鳥よ」
「レミィの血で吸血鬼になるより私の魔法薬で肉体改造した方が丈夫な体になるわ」
「パチュリーもお姉さまも、咲夜はそんな肉体改造なんて望んでない!私が能力で悪いところを木端微塵にして治してあげるのー」
「妹様、そんなことしたら咲夜は死んでしまいますわ」
「そうだぞフラン、だから私が咲夜を吸血鬼にして穴だらけにしても死なないように」
「酷いわお姉さま、咲夜を勝手に吸血鬼にしようだなんて」
「だからここは穏便に魔法薬で」
「いや、破壊よ破壊」
「吸血鬼!」
「魔法薬!」
「ぶっ壊すの!」

議論は平行線です。このままこの中の誰かが看病係になってしまったら確実に咲夜さんの体は看病前から変質してしまうでしょう。
ご愁傷様咲夜さん。
すいません咲夜さん。
この不肖小悪魔ご主人様方の言い争いに割って入る勇気はございません。

「あのー」

どすの利いた鶴の一声。あーだこーだ言っていたお三方共に動きが止まります。発したのは私ではなく美鈴さんです。

「お嬢様方、咲夜さんは人間ですよ。そんな看病したら確実に体がおかしくなります。咲夜さんを今以上にボロボロになさるおつもりですか?」

あれ、三人とも汗がダラダラ…

「まず人間を吸血鬼にするときは健康体の時と相場が決まっています。弱っているときなど言語道断。次に魔法薬、パチュリー様、お言葉ですがきちんと臨床試験はなさったんですか?副作用とかのチェックもお済じゃないのでしょう?最後に妹様、人間の内臓は破壊しても再生しません。壊すだけなら悪化どころか死んでしまいます」

完全にお説教モードですねこれは。美鈴さん、あなた本当に何者?

「お嬢様方、これは遊びじゃないんですよ!」

トドメの一撃。

「そ、そうね、少し悪ふざけが過ぎたわ」
「試験せずに魔法薬を使うなんて、わ私どうかしてたわ」
「め、めーりん、もうふざけないから許して」

なんということでしょう。匠の手によって私の紅魔館ヒエラルキーが劇的な改造を施されました。最下層一つ上辺りにいた美鈴さん、美鈴様が一気にトップです。

「こあちゃん」
「ハっ、はい」

美鈴様超いい笑顔。咲夜さんを鈍器で殴っちゃったのがばれてるんでしょうか??ここで私ゲームオーバー?私がコンテニューできないのさ!

「というわけで咲夜さんの看病をお願いします」
「はい、喜んで!!」

よかった私死なない。神様ありがとうございます。

「って私ですか?」
「はい、不服ですか?」
「いいえ滅相もございません、やらせて頂きます!!」
「では、お願いしますね。では、私も家事の方に行ってきます」

美鈴様は優雅なお足取りで会議室から退出なされました。
本当にあのお方は何者なのでしょうか?パチュリー様たちはまだガタガタ震えておられます。
「美鈴怖い美鈴怖い美鈴怖い美鈴怖い」
「さ、さて次の雷が落ちる前に図書館に逃げ、じゃなかった帰りましょうか」
「ち、地下室から出るんじゃなかったわ」

…どうやらしばらくの安静が必要なようです。門番係のことがすっかり忘れ去られていますが、今は何を言っても無意味でしょう。
このまま付き合っててもでは美鈴様にサボりだと思われてまたあのいい笑顔を見る羽目になってしまうだけです。それだけは避けないといけません。
「さて、私も咲夜さんの部屋に」

4
ほわほわほわーん。というわけでやっと冒頭に戻ります。
そういう理由で現在咲夜さんの看病中であります。竹林のお医者さんは以前の異変やら何やらでお嬢様が嫌がったので呼びませんでした。

「咲夜さーん、温度計お取りしますね」
「あう」

硝子の中の水銀柱はセ氏39.3℃を示しています。完全に風邪ですね。
「とにかく今日は寝ておいてください」
「…わかったわ」
「時間止めて脱走とかも無しですよ」
「ギクッ」
ここにもギクッなんて実際に使う人がいるとは…
しかもまだ働く気だったんですかこの人。
丸椅子から咲夜さんを立たせて白いベッドに座らせます。
「メイド服でまた寝るのもよくなさそうなのでこれでも着ておいてください」
私の寝室から持ってきた私の黒いローブ(寝巻)と咲夜さんの私室から持ってきた下着の入った籠を渡します。白ですちなみに。なんで寝巻が咲夜さんのじゃないかって?実は咲夜さん寝巻は……、おっと、これ以上はプライベートですね。
籠を手渡されても咲夜さんはじっとこちらを見つめてきます
この顔はまさか…
「咲夜さん、着替えるのお手伝いして欲しいんですか?」
「そんなはず無いでしょ!着替えるからあっち向いてて欲しいの!」
「咲夜さんも意外と乙女ふべらっ」
足を踏まれました。ぐりぐりされて痛いです。あざになったらどうしましょう
「解りましたよ。あっち向いてますから」
無言で睨んでくる咲夜さんに背を向けて、さっきまで咲夜さんが座っていた椅子に座ります。
すると少し間をおいてシュルシュル、だとかスッ、だとか衣擦れの音が聞こえてきます。
ここで私が男の子だったら後ろを振り向かないと発狂してしまうのでしょうがあいにく私は女の子なので、振り向いて咲夜さんの肢体に関する描写サービスをするようなことは無いのです。
そうこう言っている間に衣擦れの音が止みました。流石私的忙しい人ランキングダントツトップの咲夜さん。お着替えも早いです。
「じゃあ脱いだメイド服はお洗濯に出しておきますね」
ここで振り返ったのは不用意でした。迂闊でした。
振り向いた私が見たのは今まさにローブを頭から被ろうとする咲夜さんの姿でした。
白磁のような肌に、大きすぎず小さすぎないつつましい胸部。
しなやかな足はちょうど正座を横に崩したような女の子座りに畳まれ、ローブの口に突っ込まれている腕は白木の枝のように力を入れたらぽきんと折れてしまいそう。
安っぽい常套句ですが、まさに芸術品のような見た目で女の子である私でもつい見とれる
「キャーーーーーーーーーーーーーーーー」

素直な感想を述べ終わる前に、私は私の犯した過ちに気付き、そしてそれに関する猛省が始まる前に私は力いっぱい籠を投げつけられていました。
―――――
―――
――

5
フー、フー
「はい、あーん」
「ちょっと、だから自分で食べれるわよ」
「こういうのは形から入るんですよ。ということであーん」
「どこの知識よ」
圧力に屈さずなおも私はスプーンを差し出し続けます。スマイルも忘れずに。
「もう…しょうがないわね」
やっと口を開けてくれたので、お粥ののったスプーンをそっと口に差し入れます。
数回咀嚼して嚥下したのを確認して第二匙を投入。
嫌がっていた割にはちゃんと食べてくれて一安心です。ここで食べてくれないと看病になりませんし。


結局あの後、多少ぐちぐち言われましたが土下座で手を打っていただきました。
やったことなかったのに。グスン。初めてを頂かれてしまいました。なんか御幣を招きそうですねこの表現。でも
『初めての相手はパチュリーじゃない。この咲夜だ!』
とか言い出さないかと冷や冷やしました。咲夜さんまで時(ょ)事(ょ)ネタに走ると流行に疎い私では突っ込みとして役者不足なのでクールに去ってしまわないといけなくなります。

閑話休題、今は咲夜さんのご飯の時間です。
ここが小悪魔的看病の最難関という位置づけでしたがワンステップ前の方が危険でしたね。お着替え、侮りがたし。

あーん

ぱくっ

どうぞ

ぱくっ

はーい

もぐもぐ

二口目以降はあーんしてもらうことに慣れたのかどんどん食べてくれました。
あっという間に完食。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
食材に感謝をしてお食事も終了。
普段とは完全に反対の立ち位置でクスリと笑ってしまいました。
「な、何よ?」
咲夜さんは困り顔です。風邪のせいで頭も回らないのでしょう。
「いえいえ、何でもありませんよ」
口元を隠して笑う私と反対の不満そうな顔をされましたが、教えてあげません。いつもの仕返しです。
「咲夜さん、そろそろお寝んねのお時間ですよ」
「お寝んねってなんなのよ…」
そういいながらも布団に潜りこみます。意外と素直なんですね。
「今なら私の朗読もついてきますよ」
ラインナップの『人間失格』『ドグラ・マグラ』『舞姫』の三冊を見せると怪訝そうな顔をされました。
「…お気持ちだけ頂戴しておくわ」
「あらら、残念です」

パチュリー様にこの前勧められた三冊でしたのに。今度自分で読むことにします。

「それに寝ようとしてる時に隣で誰かの声がしてたら寝づらいわ」
「咲夜さんも人間らしいことを仰るんですね」
「どういう意味よ?」
布団に顔を半分隠しながらまたむすっとした目つきに変わります。
「だっていつも私より悪魔みたいじゃないですか」
「そういうことね」
今度は得意そうな顔。
「でも人間なんですから朝みたいな無茶はしないでくださいね」
そう言うと咲夜さんの顔にすっと影が差しました。あれ、これは地雷だったでしょうか?
「…今、家事は誰がやってくれてるのかしら」
「?、美鈴さんですよ」
差した影は暗さを増します。
「私はね、小悪魔、お嬢様に必要とされなくなることが怖いの」
「お嬢様が咲夜さんは要らないなんて言うはず無いじゃないですか」
「それはどうかしらね。家事だって美鈴がいるわ。」
「美鈴さんは咲夜さんの代理ですよ」
「それはどうかしらね。私が小さかった頃は美鈴が家事をしてくれてたし。」
「でも……」
「きっと私が美鈴の代理。それに風邪なんかで倒れて迷惑もかけるし。やっぱり人間じゃあメイドとしても役不足よね」

「クスクス」
「何がおかしいのよ!」
咲夜さんはがばっとお布団を巻き上げて怒ります
「やっぱり咲夜さん、今日は病気です」
「どういう意味よ」
「普段の咲夜さんならさっき私が笑った時に嫌味の一つでも言います」
「―っ」
「それに咲夜さんが必要とされてないなんてことはありませんよ。今日だって咲夜さんいなくて朝ご飯も遅かったですし。看病もお嬢様に妹様、パチュリー様までやりたいって言ってましたし。みんな咲夜さんのこと心配してたんですよ?そんなに思いつめないでください。」
もしパチュリー様たちが遊び半分で美鈴さんに説教されてたって知ったら私、後ろから刺されるんだろうな~。

ツー

って泣いてる。咲夜さん泣いてる!泣かせたのは誰だ?この私だっ!
「何泣いてるんですか?!」
「…だって」
「やっぱり咲夜さん風邪ですよ。早く寝ましょう!」
そっと体をベッドに倒して布団をかけなおしてあげます。
寝巻の袖で目を抑えちゃってます。嗚咽も止まってません。
「あ、えっと、氷嚢とってきますね」
ここはそっとしておきましょう

小走りで部屋を後にしました。
………

美鈴さんに頼んで氷室から氷を貰い、革製の巾着の口をきつく絞って作った氷嚢を持って部屋に帰ると、咲夜さんはすやすやと寝息を立てていました。
遠回りして時間をかけたのは正しかったようです。
腕はまだ目を抑えていたので、そっとどかして氷嚢を乗せてあげます。
乗せると少し険しい表情になりましたがすぐに気持ちよさそうな表情に戻りました。
寝姿だけは年相応なんですから。
「ふふ」
今日は慣れないことばかりで疲れましたがこの寝顔が見れただけでもやった価値はあったでしょう。
強い人の意外な一面も見れたことですし。
悪魔の館のただ一人の人間というポジションは思ったより彼女に頑張らせてしまっていたみたいです。周りからの異物感を感じながらも毎日の仕事をこなすというのは並大抵のことではなかったでしょう。
今日みたいなこともまた起きるかもしれません。でもまたきっと咲夜さんが早く元気になるように誰かが看病して、誰かが家事をすることでしょう。だってここは悪魔の館、一人だけ寝てるだなんて許されません。

「それにしても疲れましたね」
ベッドのそばの丸椅子を少しこちらに引き寄せて、すとんと腰を下ろします。
「ふぁ~」
座った途端に疲れがどっと溢れてきました。
あ、これはまずい
なんて思ったのが最後、私の視界はフェードアウトしました。

6
チチチ

鳥さんの鳴き声がします。

「―ッ」

両手で万歳するようにして伸びをして、頭の覚醒を促します。
頭が冴えるほどに私は空腹を覚えました。そういえば咲夜さんの看病の前に美鈴さんに作ってもらったお昼ご飯以来、何も口にしていません。

「よっと」

朝の陽ざしを隠し切れないカーテンを開け、太陽さんにおはよう。
いい朝です。朝というものはやっぱりこうでなくちゃいけません。
目覚めて最初に見るべきは薄暗い地下室の置き時計ではなく太陽であるべきです。

…あれ、太陽?

はっとして私は振り返ります。そこにあったのは昨日の丸椅子、咲夜さんの寝ていたベッド、そして今着ているのは寝巻ではなく司書服。
そこから導き出された結論は

「咲夜さーん!!」

咲夜さん脱走。無茶はしないでって言ったのに。
このままだとまた朝ご飯がゲテモノになるのは明白です。
とりあえず走り出しました。
この時間、通常業務をしているなら咲夜さんは食堂にいるはずです。
急がないと。

「咲夜さんっ!!」
遅れてドアを開けて食堂に転がり込みます。
「おはよう小悪魔」
後ろから声がしました。
「って…あれ?」
「そんなに急がなくてもちゃんと人数分朝ご飯は用意してあるわ」
「咲夜さん風邪は…、まあ聞くまでもないですね」
私の背後にはいつも通りの、パリッとメイド服を着こなす咲夜さんがいました。
「おかげさまでね」
これじゃあ心配のし損です。
…もう一日くらい寝込んでおいても良かったのに

「何か言ったかしら?」
「いいえ、なんでもないですよ」
そもそも口に出してませんし。
なんでこうこの人は表情からセリフを読み取るんですか

「それはそうと…」
「なんですか?また何か?」
「昨日はありがとう、小悪魔」
「ふえ?」
「おかげでちゃんと仕事にも戻れたわ」
「あ…えぇっと、ど、どういたしまして」
こう面と向かってお礼を言われると照れてしまいます。
種族柄憎まれ口を頂くことは多々ある(らしい)のですがお礼を言われるのは貴重です。

「それで、小悪魔にお礼したいんだけど」
「えっ、いいですよそんな」
「いいからいいから」
咲夜さんはクスリと笑って私の手を取りました。
そしてその次の瞬間、私はいつも使っている席に鎖で雁字搦めにされていました。
「な、なんですかこれはー!」
胴に巻かれた鎖を引っ張ってアピールします。
幸い、手だけは動かせます。
「だって、小悪魔、私の事色々聞いてくれたじゃない。それに着替えまで覗いて。」
咲夜さんは笑顔です。それも貼り付けたような。
「だ、か、ら、お礼をして差し上げますわ☆」
そして目の前には警戒色のようなビビッドカラーの料理がずらり。
「全部食べ終わるまで解放しませんわ。それでは召し上がれ」
「お、鬼―、悪魔―!」
「悪魔の犬から悪魔に昇格ですわ。それではごゆっくり」
「まって咲夜さん、待って!何でもしますから!」
必死の説得も虚しく咲夜さんは厨房に戻っていきます。
現実は非情であります。
私の前に残されたのは昨日に匹敵するゲテモノ料理の数々…

「私の朝ご飯―!!」



三度目です。はじめましての方ははじめました。誤植じゃないです。こんなに長ったらしいだけの文章を読み切ってここまで到達してくださったことに感謝を。
今回のも前回に勝るとも劣らないぐだぐだっぷりでした。誤植無いといいなぁ(願望)そもそも気が向いたら書く程度なのでプロットのようなものも用意せず、最後の〆が近づくにつれて用意していないオチを捻り出そうと毎回苦心しています。今回のお話もマイクラのマルチプレイで超小型ラピュタでも作ろうかと思案した挙句、アイデアがまとまらず代わりに書き始めたので所々綻びがあると思います。ご了承ください。申し訳ない。
ちなみに門番係はお嬢様と妹様とパチュリーがやっておられました。自主的にバケツを持って立ってる、的なノリで。
また気が向きましたら投稿すると思いますのでその時はどうか良しなに
みすたーせぶん
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