Coolier - 新生・東方創想話

お燐は二度死ぬ

2012/11/13 22:29:56
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「でね、お姉ちゃんって変な寝言が多いんだよ」
「はぁ」

 もう三回くらい聞きましたよ、とはあたいは言わなかった。それくらいの気遣いは出来るつもりである。
 ではあるが、さすがに疲れてきた。それに構わずこいし様は、さとり様の可愛さについて熱弁し続けている。
 彼女に気がつかれないように、あたいは冷め切った珈琲を前に小さく溜息をついた。 


 あたいが珈琲を飲もうと思ったのは一時間前。地霊殿の居間でのんびり時間を過ごそうと思っていたのだが、そこにこいし様がやってきた。

「あ、お燐。お姉ちゃん知らない?」
「鬼たちと会合があるって言って出かけましたよ。ちょっと前ですね」
「そっか。すれ違っちゃったかな」
「終わるまでしばらくかかるでしょうし、一緒に珈琲でも飲みませんか?」
「うん、そうする」

 残念そうにこいし様は言うと、あたいの対面のソファーに腰掛ける。
 『せっかく私が帰ってきたのにいないなんて』
 少し不貞腐れたような表情は、そう言っていた。余程さとり様と遊びたかったと見える。

「こいし様はさとり様のこと好きなんですね」
 
 その様子に微笑ましくなったあたいは、二人分のカップに珈琲を注ぎながら呟いていた。
 特に深い意味があったわけでもないし、意図もない。
 二人がじゃれあっているのをよく見るし、こいし様がいるときのさとり様はいつもより嬉しそうだから、逆も同じなのだろうと思っただけだ。
 大方『うん、好きだよ』くらいの返答だと予想していた。のだが、

「私はお姉ちゃんのこと好きだよ。だってぎゅってすると暖かくて柔らかいし癖毛の髪も撫でると気持ちいいの。逆に私のことをぎゅっとしてくれるときも、優しく頭を撫でてくれるしふわっといい匂いがして、この間一緒にお風呂【中略】だったし、私が昼寝していたときなんて、ほっぺにこっそりキスなんてしちゃって。だから、お返しに私は舌を【キング・クリムゾン】悪いことをしてもちゃんと謝ったら許してくれるし、作ってくれるホットケーキは甘くて美味しいし、蜂蜜のついた指を舐【メイド・イン・ヘブン】なんだよ」

 すげぇ惚気が返ってきた。
 ブーメランを投げたら破壊の鉄球になって返ってきたとか、そういうレベルである。
 呆然とする間にあれよあれよと惚気の弾幕を食らい続け、同じ話を繰り返し聞かされ、『お姉ちゃん』がゲシュタルト崩壊しそうになり、今に至る。

「『こいしに恋したい』なんて寝言言っちゃってさー。つまんない洒落だよね」
「そうですね」
「私はもうお姉ちゃんに恋してるのに……なんてねっ、きゃー言っちゃった!」
「ははは……」

 自分で言って自分で照れるこいし様は、確かに可愛いと思う。いつもなら微笑ましく思えたに違いない。
 しかし、乾いた笑いしか出ないのは何故だろう……。

「それでねー、この間も」
「こいし様は本当にさとり様のことが好きなんですね……」
「うん、大好き」

 無意識の中、こぼれた呟きの応えに『ああ、まだ終わらないんだ……』という諦めの境地に達したあたいだったが、続く言葉は意外なものだった。

「でも、お姉ちゃんは私のことを怖がっているような気がするの」
「さとり様が、ですか?」

 さとり様がこいし様を怖がっている。ピンと来ない話だった。
 さとり様は、こいし様に対して口では厳しく言っていてもかなり溺愛しているし、怖がっているようにはとても見えない。
 あたいとしては、愛情が行き過ぎて閻魔様のお世話になりそうなのが怖ゲフンゲフン。

「一緒に寝た時、先にお姉ちゃんが起きてたんだけど、怖い顔して私のことを見ていたの。そんなことが何回かあって。だから、そうなのかなって」
「うーん。ですけど、さとり様がこいし様を怖がる理由がイマイチ思いつかないですね。思い違いじゃないですか?」
「そう、かな」

 あたいはそう言うが、こいし様は浮かない顔のままだった。
 
「何か、心当たりがあるんですか?」
「うん……。お燐はそうじゃないかもしれないけど、心が読めない人からすれば、心を読める妖怪なんて怖いでしょ?」
「まぁ、それはなんとなくわかります」

 あたいは元動物だったから、言葉を介さなくとも意志が伝わってくれて便利、くらいの認識だった。
 しかし、人間やその他妖怪からすれば恐怖を覚えるのもわからない話ではない。あるゆる心の声を見透かされ、暴かれるのだ。
 そんな恐怖は鬼だって持っていない。故に、怨霊も恐れ怯むのだろう。
 
「だから、逆に心を読める妖怪からすれば、心の読めない妖怪が怖いのかもしれない」
「それは……」
「うん、私の勝手な考え。そうだったらちょっと寂しいな、ってくらいのことだから、そんな顔しないでよお燐」
「うっ……そんな変な顔してました?」
「してた。別に嫌われてるわけじゃないだから、深刻にならなくてもいいんだってば」
 
 ふふっ、と沈んだ顔だったこいし様は悪戯っぽく微笑む。あたいは、照れ隠しに頬を掻いた。
 こいし様は冷めてしまった珈琲を飲みきり、言う。 

「珈琲ありがとう。お姉ちゃんが帰ってくるまでお昼寝するね」
「はい、ありがとうございます。お帰りになったら起こしますね」
「うん、よろしくねお燐」

 おやすみ、と言ってこいし様は居間から立ち去る。
 その背中を見送り、一人になったあたいは、目の前の珈琲を一気に飲み干し溜息をついた。

「はぁ……甘ったるくて死にそうだったよ……」

 というか死んでいた。惚気話を聞くのがこんなに疲れるとは思わなかった。後でお空相手にでも愚痴を聞いてもらおう。
 あの子は素直に反応してくれるから、癒しを得るには最適だ。羽根ももふもふして気持ちいいし、

「『胸も大きくて柔らかいし』ですか。知識の無さにつけ込んではいけませんよ、お燐」
「うひょおい! さとり様いつおかえりになっていたのでありますか!?」
「ついさっきです。――こいしが帰ってきてるみたいですね」

 心を読んだのか、さとり様はそう言うと、先程までこいし様が座っていた場所に腰を下ろす。
 結構めんどうな会合だったらしく、全身脱力しきっていた。
 珈琲を淹れるためにあたいは立ち上がりカップを用意する。チラッと、横目でさとり様を眺める。
 一見普段のジト目顔のままだったが、少しばかり表情が和らいでいた。本当に仲睦まじい、あたいまで嬉しくなる。
 故に、さっきまでの会話が気にかかる。とても、そうとは思えないのだけど――

「――私がこいしを怖がっている。こいしはそう言っていたんですね」
「……ええ、そう言っていました」
「それは半分だけ当たっていますね。確かに、その理由でこいしが怖いと思っていた時期もありました」

 さとり様の言い方は、過去形だった。ということは、今は怖いと思っていない?

「ええ。よく考えたら、大したことじゃないと思いまして」
「どうしてです?」

 淹れなおした珈琲をさとり様とあたいの前に置いて、対面する。
 あたいの疑問にさとり様は、ふむ、と少し考えてから言う。

「例えば。お燐は私の分まで珈琲を淹れてくれました。心を読んだわけでもないのに。どうして、私が珈琲が飲みたいことがわかったんですか?」
「そりゃあ……疲れているなら珈琲が飲みたいだろうと。それに、何度も無言の抗議をされれば嫌でも覚えますよ」

 よく昔は、一人で珈琲を飲んでいると、さとり様のじとっとした視線を感じたものだ。
 遠まわしの嫌味を浴びて以来、あたいは珈琲を率先して用意するようになったのだ。

「しかし、それは結果から言えば心を読んだことと同じですよね」
「まぁ、たしかにそうですね」
「だから、気がついたんです。心が読めないのに、何故そんなことが出来るのか。それは、経験や表情から思考を読み取っているのだと。『さとり』の私は、そんなことをしなくても思考が読めてしまうので、それが出来なかったんです」
「なるほど」

 それが、こいし様が恐怖していると思った原因だったのか。
 しかし、さとり様は『半分だけ当たっている』と言った。もう半分とは、一体何なのだろう。

「それはですね」

 珈琲を一口のんださとり様は、真剣そのもの顔であたいを見つめる。
 自然と、あたいも姿勢を正していた。
 ゆっくり、とさとり様の口が開かれる。知らず、ごくり、と喉が鳴った。



「こいしが可愛すぎて怖いです」



 …………ああ、そうでしたね。さとり様ってこいし様のお姉ちゃんでしたね。



「だってですよ? 折れそうなくらい華奢なのに抱きしめると暖かくて柔らかくて、ふわふわの髪も撫でるととろけそうなくらいに気持ちいいんですよ? 頭を撫でているときは大人しくなって目を細めて猫みたいにすりよってきてつい柔らかい唇を【ガォン】ですし、こっそり私の布団に潜り込んできて『お姉ちゃん……』って囁いてきたので『続きはなんです?』って返したら、ふくれっ面で【カット】ケーキを作ってあげればとても美味しそうに食べてくれますし、頬についたクリームをですね――」

 すごく、とても熱心にさとり様はこいし様の可愛さを説いていた。
 もう、あたいには、それしかわからない。
 ――いや、まだわかることがあった。

「お帰りお姉ちゃん!」
「ああ、こいし。ただいま。いい子にしていましたか?」
「してたよ! だから、今日の御飯はカレーがいいな!」
「そうですね、久しぶりにカレーにしましょうか」
「ありがとお姉ちゃん! 好きだよ!」
「あらあら、私のほうが好きですよ」
「もう、お姉ちゃんってばそんな事言って……」
「本気ですよ?」
「……ばか」

 目の前で湯気立つ珈琲に入れる砂糖は、もう十分だと言うことだ。
 何故って? 
 そりゃあ、目の前に大きな砂糖が二つもあるからさ――。
67作目です。

なんか、こう、べったべたに甘い古明地SSが読みたいですって電波が来たんです。
こんな姉妹でもいいですよね、ってさとり様が言ってたました。言ってたんです。
すねいく
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コメント



0.1270簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
にゃーん
8.100名前が無い程度の能力削除
こんな姉妹で良いですよ。
9.90名前が無い程度の能力削除
おりんりんマジ苦労人…
さとこいの様におりんくうもイチャついていいのよ
10.100名前が無い程度の能力削除
おりんりんもお空とイチャついて対抗するしかないな!
13.80奇声を発する程度の能力削除
この雰囲気良いですね
14.100ヤタガラス魅波削除
私の理想のこいさとはここにあった。
あと、お互いの説明文が昔書いた黒歴史そっくりなんだが。
17.100名前が無い程度の能力削除
こういうの、たまに欲しくなりますよね
19.100factory_ay削除
我が遠き日の理想郷はここにあったのか・・・!
お燐マジ頑張れ・・・
20.80名前が無い程度の能力削除
お燐よ、お空に復活させてもらうのだ
26.90名前が無い程度の能力削除
憐れお燐
27.100名前が無い程度の能力削除
この甘ったるさがたまらんです
29.100名前が無い程度の能力削除
おかわりくださいな。
30.100名前が無い程度の能力削除
甘あぁい!もう一杯! 
31.80楽郷 陸削除
怖がってるとかあらすじに書いてあって、いったいどんな暗い展開が待ち受けているだろう、とハラハラしながら読んでみたけどそんなことはなかったw
32.100名前が無い程度の能力削除
メイド・イン・ヘブンwww
33.80名前が無い程度の能力削除
あまーい!
35.100名前がない程度の能力削除
キング・クリムゾンw
37.100名前が無い程度の能力削除
ガォン
38.70ネコ輔削除
( ゚∀゚)・∵. ゴパァ!! ←砂糖
41.100名前が無い程度の能力削除
これはおりんくうフラグ