Coolier - 新生・東方創想話

似たもの同士の邂逅

2012/10/07 20:54:25
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 霧の湖、大きな湖の周りには豊かな自然が霧の中で静かに佇んでいた。そこは自然の化身とも言える妖精にはとても過ごしやすい環境で、多くの妖精がそこで暮らしていた。
 そんな白い霧の中を、元気いっぱいに一人の妖精が飛び出していく。青い髪に青いリボン、青い服に氷の羽、如何にも冷たそうな見た目の妖精は、後ろ向きに飛びながら叫んだ。
「大ちゃーん! 早くしないと置いてくよー!」
「ま、待ってよチルノちゃーん……」
 帰ってきた言葉を背中にチルノは更に速度をあげて霧の向こうへと飛んでいく。
 それを追いかけてきたのは、先ほど大ちゃんと呼ばれていた緑髪の妖精だった。彼女はチルノのように青い服を着ているが、まるで風が形になったかのような柔らかい形状の羽をしていた。そしてその羽に似合いそうな大人しそうな雰囲気をしているが、困り顔の今、そこにはか弱さも加わっている。
 そんな困り果てた様子の彼女は辺りを見渡してみるが、先に行ってしまった友人の面影は完全に見えなくなってしまっていた。いつもの事とはいえ、毎度毎度先に行かれるとどんなに優しい人でも少しくらいは嫌になるものだ。彼女もそんな心境になっている一人だった。
「もう……いっつも飛び出して行っちゃうんだから……。今回は急いで探してあげないからね!」
 彼女なりのささやかな反撃として、彼女は飛んでいくスピードを落とした。いくら空を飛べると言っても長時間速いスピードで飛ぶのは、走るのと変わらないくらい疲れる。いつもは急いで探しに行ったが、毎回置いて行かれると偶には抵抗だってしたくなる。とは言え一人にするのは可哀想と思う彼女は、自分のペースでのんびり探しに行く事にしたのだった――。

 一匹の妖精がささやかな反抗を試みているその時、霧の湖を進むもう一人の羽を持った少女がいた。
 その少女は赤くて長い髪を頭についた小さな悪魔の羽と共に揺らしながら、背中についた大きな羽を羽ばたかせながら進んでいた。背中の羽も頭に付いているのと同じ仰々しい悪魔の翼だが、彼女から感じる雰囲気はとても邪悪なものとは思えない、むしろか弱そうな雰囲気だった。
 彼女は本を読みながら霧の中をゆっくりと飛んでいた。読んでいる本の表紙には、『魔法植物全集~薬草編~』と書かれている。
「えーっと……確かこの辺で取れるとは書いてあるんですけど……」
 本に書かれた写真と見比べながら辺りを見回す。
 辺りは一面白、白、白。木の影一つですら近くにあるもの意外全く見えない。
「全然見えないじゃないですかー! だから行くの嫌だったんですよもう……」
 そんな彼女の叫びも霧の中へ消えていく。それでも愚痴を言わなければやっていられないのか、彼女は一人で話し始める。
「大体パチュリー様は人使いが荒すぎるんですよ! ……あ、悪魔使いのほうがいいのかな? それはともかく、いっつも人に本の片付けさせたり、戸締りさせたり、普通の部屋ならともかくあそこは広すぎるのに一人しかいないし! 少しは片付け手伝ってくれてもいいじゃないですか! 時々違うことを命令すると思えば実験台だったりこんな無茶ぶりだったり……。ああ、愚痴ってたら何か無性に飛び回りたくなって来ました……! もう、パチュリー様のバカアアアア!」
 ずっと話をしているかと思えば急にスピードを上げて飛び出していく。
 そんな彼女は日々使い魔としてこの湖の近くにある紅魔館と言う屋敷、そこに一緒に建てられた大図書館にいるパチュリー・ノーレッジの元で働いているのだが、どうやら色々と仕事のストレスでも溜まっていたらしく、ちょうど今爆発したらしい。
 ストレスを燃料にものすごいスピードで飛んでいく彼女は、今なら何処ぞの天狗にも張り合えそうな勢いで霧を切り裂いて進んでいくのだった。
 が、そもそもこんな視界の悪いところで高速で飛ぶ事自体が間違いで、案の定飛び出した数秒後、彼女は自分の羽を霧の奥から出てきた大木にぶつけて高速で回転していた。
「あああぁぁぁ……」
 そして叫び声とともに霧の中へ吹き飛んで行くのだった――。

 「それにしてもチルノちゃん、何処まで行ったのかなぁ……」
「……」
「ん? なにか聞こえる?」
 のんびりと先に行ってしまった友達を探す私は、その最中に不思議な声を聞いた。
「あああ――」
「段々大きくなって来てる……」
 声の方に目を向けると、何かの影が見える。それはうっすらと赤みを帯びていて、更に待っていると徐々に人の形を見せ始める。
「あああ……!」
「なんだろう、こっちに向かって……!?」
「あああああああ!?」
「か、回転してる!? いやあああ!?」
 叫んだところで時すでに遅し。妖精を巻き込んだ赤い飛行物体は、赤と緑の綺麗な模様で回転しながら徐々に高度を落とし、最後にはものすごい勢いで地面を転がりながら木に衝突してようやく止まった。
「痛い……な、何なの一体……?」
「うー……」
 下敷きになった妖精はなんとか起き上がると、悪魔の羽を生やした赤い髪の少女が目を回して倒れていた。どうやら回転して飛んできたのはこの少女らしい。
「この人……悪魔、だよね……? 湖のお屋敷に住んでるって聞いたことあるけど……」
「うう……」
「あ、気がついた……」
 倒れていた悪魔はゆっくりと起き上がる。その顔は蒼白で悪魔らしいと言えばらしいのだが、そんな事をゆっくり考えている場合では無かった。
「う……気持ち悪い……吐きそう……」
「え!? ま、待って! お、落ち着いて深呼吸して……!」
「すー……はー……」
 青ざめた表情は、霧の中でもはっきりと分かるくらいに彼女の体調を示している。
「ど、どう……?」
「た、多少は……でもまだ油断できないと思います……」
 ほんの少し顔色が戻ったところで、その悪魔は本を持って立ち上がりお辞儀をしてきた。
「いやー助かりました……ありがとうございます。それと巻き込んでごめんなさい……お怪我とかは……?」
「い、いえ……でも何で回転してたんですか?」
「そ、それは……無性に飛びたかったといいますか……」
 顔を髪と同じくらいに赤くしながらもじもじし始めた。きっと聞かれたくないことだったんだろう。私は慌てて言葉を遮った。
「む、無理に言わなくてもいいですから……」
「すいません……あ、そうだ。あの、貴方ってこの辺の地理とか詳しかったりしませんか?」
「へ? まあ、いつもこの辺で遊んでますけど……」
「じゃあ、この本に書いてある草をご存知ありませんか?」
 そう言って彼女は持っていた本を開いて、私にあるページを見せてくれた。それは確かによく見かける葉っぱだった。確かこの近辺に生えていたのは覚えている。なんせこの葉をつけている花は可愛いので、よく冠を作ったりするからだ。
「あ、これよく見ます。この葉っぱのついた花、とっても可愛いんですよ」
「本当ですか!? あの、もし良かったら案内していただけませんか……?」
 彼女は申し訳なさそうに案内を頼んできた。私も友達を探している最中だし、ついでに人助けも出来ると思えばちょっぴり気分もいい。私はその案内を引き受けることにした。そして向こうが軽く自己紹介をしてきた時のことだった。
「いいですよ、私も友達を探しているので、この辺を探そうと思っていたので」
「ありがとうございます! あ、私特に名前は無いんですけど、小悪魔とでも呼んでください」
「え!? あ、貴方も名前がないんですか?」
 意外な所に共通点を見つけたのだ。
 実は私には大妖精という、いわゆる妖精の称号のような名前以外に固有の名前みたいなものが付いていなかった。他のみんなからは大妖精なので大ちゃんと呼んでくれるので、気が付けばそれが私の名前みたいになっていた。どうやらこの人も小悪魔という称号のような名前しか持っていないらしい。
 正直こんな事私以外にはありえないと思っていたので、なんだかすごく親近感が湧いてうれしくなる。
「私も大妖精としか名前が無いんです! 奇遇ですね!」
「そうなんですか! 珍しいこともあるものなんですね……ふふ」
 彼女が笑うのを見て私も一緒に笑い出す。知らない人と共通点を見つけると親近感を感じると言うが、確かに自分だけじゃなかったと思えるのはいいものだ。しかも名前という大事な所に関わる問題なら尚更だ。
 私は更に話を掘り下げていく。
「そうだ、小悪魔さんは普段なんて呼ばれるんですか?」
「私ですか? 別に、小悪魔としか……貴方はどうなんですか?」
「私は大妖精から大ちゃんって皆から呼ばれてます」
「ほー、あだ名ですかぁ……いいなぁ……」
 私なんてあだ名も無いんですよと彼女は残念そうに言う。あだ名がある分私の方がまだいい方なのだろうか? 彼女は少しため息をつきながら話を続ける。
「私なんてそんな親しい呼び名も貰えてないし、パチュリー様も人使い荒くて毎日大変だし……なんだか私の毎日っていいこと少ないような気が……」
「ま、まあまあ……。そのパチュリーって人はそんなに大変な人なんですか?」
 私が話を振ると彼女は急に目を見開いて話を始めた。どうやら私は、いわゆる地雷を踏んでしまったらしい。その勢いは思わず後ろに一歩だけ、こっそりと距離を置くほどだった。
「もう大変なんてもんじゃ無いです! いっつも本を片付けてる時にお茶の用意させて、しかも自分じゃ本片付けないし! それに今回みたいに霧の濃い中で本でしか見たこと無い植物を取って来なさいなんて……人使いが荒いにも程があります!」
「は、はぁ……それは大変そうですね……」
「全くです! 偶には振り回されてる方の身にもなってほしいものです……はぁ……」
 大声を出したからか、それとも改めて自分の立場を冷静に見てしまったせいか、彼女はため息と共に大人しくなった。相当溜まっていたんだろうか?
 しかし振り回されていると言うところに関してはなんだか人事のような気がしない。実際今も私は先に行ってしまった友だち探している最中なわけで、そう考えると私もやっぱりこの人同様大変な知人を持ってることになるのでは?
 なんて事を考えていると、向こうからしてみれば急に黙りこんでしまったように見えたのか、心配そうに見つめられていた。
「あのー、もしかしてつい興奮しちゃったのでお気を悪く……?」
「へ!? あ、いえ、そんな事無いですよ。ただ、話を聞いてたら私もチルノちゃんに随分振り回されてるなと思って……」
「貴方も振り回されてるんですか?」
 そう言われて私は自分が今その友人を探していることを伝えた。いつもの事とはいえ、先に行ってしまうのはどうにかして欲しいと思う。
 私の話を聞いた小悪魔はうんうんと頷きながら話を聞いている。
「いつも止めても聞いてくれなくて……。偶には私も勝手にしようかと思って、今回はゆっくり探すことにしてるんですよ!」
「お互い苦労してますね……。あれ? それでも最後は探すんですね、仲がいいんですか?」
「もちろんです! 勝手に飛んでっちゃうけど、いつも私のことを引っ張っていってくれるし、見てて危なっかしいところが私も放っておけなくて。わたしの大事なお友達です」
 基本的に彼女はいい子なのだが、周りを見ないで走っていく。だから気の弱い私は、彼女の出してくれる手を取りながら危なっかしい彼女のことを見守っていた。そんなことをしていたら気がつけば一番の親友になっていた。
 だからなんだろうか、結局振り回されていても私はそれでもいいんだろうなと思っている。偶には反抗したくもなるけれど、最後はやっぱり心配になってやめてしまう、そんな気持ちになるのだ。
「だから何だかんだで最後には許しちゃうんですよね……。小悪魔さんはどうなんですか? その、パチュリーさんとは」
「私はちゃんとした主従関係ですからそう言った事は無いですね。あ、でもちゃんとお休みをくれたりしますし、私のこともちゃんと気にかけてくれますし……。色々言いましたけど、やっぱり私はあの人に仕えていてよかったと思います」
「そうなんですか……やっぱり私達、似たもの同士ですね」
「そうですね、名前がなかったり、振り回されてる相手がどうも憎めない所とか」
 そう言って二人で一緒に笑い出した。

 その後、私達は霧の中を会話しながらお互いの目的の物を探し始めた。
 彼女の探し物は、いつも私が皆と遊ぶときに集まる所に沢山咲いていた。草を取る時に教えてもらったのだが、この草は風邪によく効く薬草なんだそうだ。なんでも彼女の住むお屋敷のお薬が少なくなってきたので、その補充のためにここへ行くよう言われたらしい。
 彼女の目的の物が見つかった辺りで、今度は霧の向こうから猛スピードでこちらに飛んでくる影が見え始めた。今日はすでに同じようなことを体験済みだったので、少しは冷静にその影を見る。
 その影は徐々に青みがかって、段々と私がいつも追いかけている親友の形になっていった。霧の中でも彼女の姿はよく見える。そして霧を吹き飛ばすような大きな声でこちらに飛んできた。
「大ちゃーん!」
「チルノちゃん!」
「もう、心配したでしょ! どこ行ってたのさ!」
 先に行ったのはそっちじゃないと言おうとしたが、真剣な表情で怒っている親友の顔を見て思わず言葉を飲み込んでしまった。
「振り返っても見えないから心配したんだからね!」
「ご、ごめんね、追いつくのが遅くなって……」
「でも見つかったからだいじょーぶ! 今度はちゃんと来てね!」
 怒っていたかと思えば今度は満面の笑みになる。やっぱり彼女は一緒にいて楽しい。今日の話で改めてそう思った。
「良かったですね、お友達が見つかって」
「ん? あんた誰?」
「あ、この人は小悪魔さん。チルノちゃんを一緒に探してくれたの」
「薬草のお礼ですよ。あ、こんにちは、私小悪魔といいま……」
 彼女の声を遮ってチルノは勢い良く指を突き出す。
「分かった! さては大ちゃんがいなくなったのはあんたの仕業ね!」
「へ? い、いや違いますよ!」
「もんどーむよー! 凍りづけにしてやる!」
「ち、チルノちゃん!? 話を聞いて!?」
 私の叫びは届かず、彼女は沢山の氷の玉を小悪魔めがけて飛ばし始めた。幸い玉は全くと言っていい程当たる気配を見せなかったが、小悪魔が逃げ出すには十分だった。
「それそれそれー!」
「わー!? だからあの時知らない所には行きたくないって言ったのにー!」
「チルノちゃんやめてー!?」
 やっぱり今まで考えていたことは無しにしようかなと真剣に悩んだ名無しの二人だった。
 はじめまして、折り畳み傘と申します。ここまで読んでいただいてありがとうございました。

 今回はとあるイベントで小説を出していた方にこのサイトを教えられて、ものすごくドキドキしつつ初投稿させていただきました。作品を上げる瞬間はいつも緊張しますね……。
 初めてのお話は大妖精と小悪魔のお話です。こういったほのぼのとした話は一度書いてみたかったのですが、これを読んでほっこりできたという方がいましたら嬉しく思います。こういう友情系のお話増えるといいなぁ……。
 まだまだ精進していこうと思いますので、批判なり感想なりいただければ嬉しいです。では、今回はこれにて。ありがとうございました。
折り畳み傘
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コメント



0.410簡易評価
5.60名前が無い程度の能力削除
小悪魔のあだ名なら『こぁ』があるじゃないですかw いいほのぼのでした。
9.90名前が無い程度の能力削除
すごく面白かったですw ほかの方のコメントのように小悪魔のあだ名をこあにしてもよかったかもしれませんね