Coolier - 新生・東方創想話

夢見る少女と夢喰いの悪魔

2012/08/28 09:32:01
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 全てを平等に照らす煌びやかな陽光を浴び、青々とした葉を思う存分に広げる植物達がそよ風とワルツを踊る季節――夏。

 その光景を大きな洋館の窓辺から眺める一人の少女がいた。
 少女の肌は病的にまで白く、フリルを惜しみなく使われた豪奢なドレスから伸びる手足はとてもか細い。
 黄金色の短めに揃えられた髪を風に靡かせながら、少女はただ外を喜々とした表情で眺めている。

 この窓辺からの風景を少女はとても気に入っていた。
 季節ごとに違う顔を見せてくれる風景が少女を飽きさせることなく楽しませてくれる。
 特に季節の中でも、あらゆる生命が活気溢れる姿を見せるこの夏という季節が一番少女は好きだった。
 だから少女はまたこの季節に出会えたことがとても嬉しく思う。
 しかし同時に思うのだ、この季節に出会えるのは最後になるのかもしれない、と。

 不運にも不治の病を患って生まれた少女はまだ言葉も覚えぬ年より既に長い命では無いと医者に宣告されていた。
 それでも豊かな家の一人娘だった少女は大事に育てられ、医者の想定を超えか弱きながらもとても可愛らしい少女に成長した。
 しかしそんな奇跡のような日々は何時までも続くことは無く、病魔に冒され続けた身体が遂に悲鳴をあげ近頃は一人で寝起きすることすら困難になるほどに衰弱してしまった。

 確実に死に近づく自分を知った少女は、いつしか遂に一度も踏み出すことの無かった窓の向こう側の世界に思いを馳せる日々を送るようになる。
 父が買ってきてくれた沢山の本を窓から射す日の光で読み、物語で得た知識から外の世界に無限の夢を抱く少女。




――その夢を食い物にするモノがいるとも知らずに。








 夢見る少女がソレに遭ったのは歪に欠けた月が世界を怪しく照らす夜のことだった。
 豪奢な天蓋付きのベッドで眠っていた少女は、突如として現れた息苦しい程に禍々しい気配に当てられ無理矢理起きる羽目になった。
 寝起きの目を凝らして部屋中を見渡すも、月が丁度雲に隠れ辺りは暗く一体何が潜んでいるか分からない。
 まだ寝ぼけていた少女の顔に恐怖の色は無く、何処にいるのかも分からぬ何かに話しかけるように呟いた。

「こんな月が綺麗な夜に現れた貴方は一体誰かしら? 吸血鬼? 魔女? それとも狼人間?」

「どれも違う、けどもっと善くないものよ」

 返答がきたことに少し少女は驚いて完全に目を覚ました。
 響いた声は少女と同じ年くらいのまだ幼なさ残る女性のものであって、しかしその声色は明らかに年相応の少女のモノではない暗鬱とした何かを孕んでいた。
 ブーツが床を鳴らす音がベッドの少女に近づいてくる。


 怪しくも美しき月が顔を覗かせ、夜の闇と混じり合う。
 姿を現したのは中性的な顔立ちとその身を包む青と白を基調としたメイド服が特徴的な少女。
 少女の瞳は闇の中であっても金色の鈍い光を放ち見る者全てを魅了する艶美な輝きを持つ一方、まるで瞳に映る全てを憐れむようなどこまでも冷たく凍りついた瞳でもあった。

「こんばんは、惨めで哀れな鳥籠姫」

 それはどこまでも冷め切った声色で

「貴方の夢を頂きに来たわ」

 どこまでも深い哀愁に包まれていた。









「私の夢・・・・・・?」

「そう、貴方の願望という滑稽な光に満ち溢れ、けれど決して叶うことのない暗く閉ざされた夢――救いようのない夢」

「救いようのない・・・・・・夢」

 今更誰に言われずとも分かっていた。
 自分の身体のことぐらい自分でよく分かっている、この身体は・・・・・・この命はもう長くない。
 私はこの閉ざされた部屋の中で外の世界に出ること無く朽ち果てていく、それはとても悲しいことだ。
 けれど先のない私のことを見捨てることも無く、注げるだけの金を注ぎこんで私を一秒でも長く生き長らえさせようとしてくれる父や母に対し、外に出たいなどという自殺行為にも等しい我が儘を言えるはずがない。
 この部屋は父と母が何時までもか弱い雛のままな私にくれた愛に満ちた揺り籠であり、そして一生出ることも羽ばたくことも許されぬ狭く冷たい鉄の鳥籠なのだ。


「哀れな貴方は何も生むことなく、何も残すことなく死んでいく。でも貴方の無垢で幼稚で美味しそうな夢まで無くすのはちょっと惜しい」

「っ!?」

 すうっと細められた金色の瞳に見つめられた瞬間、私の全てが停止してしまった。
 視線は不気味なほど輝く瞳に吸い込まれ、身体はまるで凍りついてしまったかのように動かない。


 このままでは駄目だ。
 何故か分からないが本能がそう叫んでいた。
 このままでは私は死んでしまう、目の前の少女に殺されてしまう。
 私はいつも誰よりも自分は死に近いと思っていたがそれは間違いであった。
 今・・・・・・この時こそ私は死に最も近づいている。
 何故なら知ってしまったからだ。
 目の前の可憐な少女こそが紛れもなく死そのものであると。

 嫌だ。
 ここで死なずとも私の寿命は近い。
 それでも私は死が怖かった。
 無理だと分かっていても夢の欠片も見れずに死ぬのが嫌だった。


 私は・・・・・・生きたい、まだ見果てぬ夢の続きを見ていたい・・・・・・!



「そんな目をされても困るわ、貴方の夢は残念なことに私の目にかなってしまった。恨むなら生まれ持った不幸を恨むのね、まぁこんな御馳走を頂くのだから別に私を恨んでも構わないけど」

 無情の宣告を受けても少女は諦めなかった。
 死への恐怖と夢への熱望が入り混じり、少女の動かぬ瞳から滴が零れる。

 それを見て何を思ったのか、明確な死を纏った少女は表情を変えることすら許されずただ涙を流す少女の枕元に腰を下ろすと、頬を伝う熱い滴をそっと拭った。
 そして全てを惑わす美貌を困惑を色を瞳に浮かべた少女に近づけ、耳元で囁いた。



「・・・・・・すばらしい君に静かな瞑りを」



 その瞬間、少女は意識は白い、ただ白い空間に落ちていった。
 ただ、ただ落ちていった。

















 コンコンと、ドアをノックする音が響く。

「お嬢様、お嬢様。お目覚めの時間ですよ?」

 少女の目を覚ましたのは聞きなれた家政婦の優しい声だった。
 私はぼぅっとしながらも返事をし家政婦を部屋に入れ、手を貸してもらい身を起こし窓から射す朝日を浴びる。


 アレは夢だったのだろうか?
 あの美しくも明確な死を放っていたあの少女は。
 夢にしては余りにも鮮明に覚えている。


「あらお嬢様、背中が汗で濡れていますわ。昨夜は何か怖い夢でも?」

 優しい笑顔で笑いかけてくる家政婦に、私は笑い返すことが出来ない。

「ん・・・・・・そうかもしれないわ」

「お、お嬢様。どこか具合でも悪いのですか?」

 いつもに増して覇気のない私の声に心配したのか家政婦の顔が曇った。

「いえ、体調は大丈夫です。すみません心配かけちゃって」

 ただでさえ心配性な父に知れたらそれこそ一大事だ。
 大好きな本を読む時間も、窓辺からの風景を楽しみながら小鳥たちと会話する時間すらなくなってしまう。

「大丈夫ならいいのですが・・・・・・無理だけは為さらないで下さないね? お嬢様の身に何かあったら皆が心配します」

 皆は私にとても優しいし、私のことを第一に気遣ってくれる。
 私はとても恵まれた環境にいるのだろう。
 それに飽き足らず夢を追いかけようとしている私はある意味傲慢で罪深いのかもしれない。
 それでも私は・・・・・・



「更なる幸せを、夢を追いかけるのは人間に与えられた権利であり、身を滅ぼす毒でもあるわ」




 聞き覚えのある冷え切った声に私は背筋が凍りついた。
 恐る恐る顔上げれば、あの死を纏った少女は恐怖に震える私の直ぐ隣に居た。

「あぁ、あの人間はタオルを取ってくると言って出て行ったわ。本当に可愛がられているのね、鳥籠姫」

「夢じゃ・・・・・・夢じゃなかったの?」

 私は震えを隠せない、悪夢から覚めたと思ったら悪夢から追いかけられているような気分だ。

「えぇ、昨夜は御馳走様でした。久方振りの絶品だったわ、貴方の夢は」

「嫌・・・・・・止めて! 私はまだ死にたくない!」

 思わず手元にあった枕で目の前の少女を殴り付けた。
 恐怖に震え、ただ闇雲に振り回し続ける。

「あーもぅ、そんなに暴れたら今度こそ死ぬわよ貴方。それに貴方はこうして生きてるじゃない。こっちが聞きたいくらいよ」

 ほんの数秒で私の息は上がり、疲れ果てベッドに再び倒れ込んだ。

「少しは落ち着いたかしら。私だって流石に驚いたわよ。最初から食べ尽くす気で貴方の夢を喰らったのに夢は一向に減らないし、貴方は死なないし。こんなケース初めてよ」

 やはり目の前の少女は私を殺す気でいたのだ、昨夜感じた明確な死の気配は決して間違ってなどいなかった。
 しかし今はどうであろうか。
 昨夜と違って今この少女からは殺意のようなものは一切感じられない。

「貴方は・・・・・・一体誰?」

 私は倒れ伏した身体を何とか自力で起こし、尋ねた。
 


「私は夢月。悪名高き夢幻姉妹の夢を司る悪魔よ」

 朝日を浴びて鈍く輝く金髪を振りまいて、美しい悪魔はそっけなく告げた。
 







 その後、タオルを片手にやってきた家政婦が現れると、夢月と名乗った少女はまさに夢のように姿を消した。
 悪魔と言われて私が思い描くのは神の怒りに触れ、天国から追放され地獄に落ちた異形の怪物、悪の象徴だ。
 しかし私から見て夢月は見た目に関しては少なくとも自分と同い年位かちょっと上にしか見えない。
 だが昨日のことといい、今さっき消えたのを見てしまうとやはり人間ではないのだと実感する。

 そんなことを考えながら私は用意された食事を食べ、また自分の部屋に戻ってきた。

 もしかしたら部屋に戻らなければ夢月に会わずにすむのかもしれないという淡い希望は一人になった途端何もない所から忽然と姿を現した夢月によって砕かれた。

「別に今から取って食おうなんて思ってないから、と言っても無駄かもしれないけど」

 夢月曰く、彼女は私の夢を目当てにやってきて夢を喰らい尽くしたら元の世界に帰るつもりだったらしい。
 夢を喰う、というのはよくわからないが人間が御菓子を食べるような感じだと言っていた。
 夢月は叶うことがない、ある意味絶望に満ち溢れた夢を好んで食べるとのことだ。本当に悪趣味である。
 ちなみに、本来夢月に夢を喰い尽くされた人間はそのまま絶命してしまうらしい。
 しかし私の夢は夢月が幾ら喰らっても減ることが無く、そのうち甘過ぎる味に飽きて喰らうのを止めたとか。
 勝手に人の大事な夢を喰らっといてその言い様は無いと思うのだが、下手に反論すると後が怖いので言わない。

「目的は果たした訳だし別に帰っても良かったんだけどね。幾ら喰らっても減らない夢っていうのはちょっと気になったから残ることにしたわ」

「私を何だと思ってるのよ」

「減らないお菓子」

 さっきから話していて分かったことがある。
 この夢月という少女は確かに正真正銘の悪魔なのだと、私のことだって多分その気になれば夢を喰らう以外の方法で直ぐ殺すことだって出来るのだろう。
 ただちょっと興味が湧いたから、たったそれだけの理由で生かされてるだけで彼女は人間の命なんてなんとも思っていないのだ。

「全く、私の人生何処に向かってるのかしら?」

「何処にも行けないわよ、人間の活動可能時間なんて極僅かなんだから。特に―――貴方の場合はね」

「分かってるわよ・・・・・・自分のことくらい」

 知りたくもない現実をつきつけられた私は夢月から目を反らし窓辺に身体を預け空を眺めた。
 私の暗鬱とした気分をよそに、今日も空は雲一つ無き快晴だ。

「そういえば貴方名前は?」

「そういえばまだ名乗っていなかったわね・・・・・・私はカナ、カナ・アナベラルよ。後ニカ月くらいで十四歳になるわ」

 後ニカ月生きられれば、の話だが。

「ふぅん、思春期にありがちな妄想癖が減らない夢の要因なのかしら」

 夢月は一人真剣に考えているようだが、流石に妄想癖などと言われて黙っている程私はお淑やかではなかった。

「失礼な、じゃぁ貴方は一体幾つなのよ。見た感じじゃ大して私と変わらないように見えるんだけど?」

「歳なんてそんなの覚えてないわよ。でもそうね、ほらそこにある本を取ってみなさいな」

 夢月が指を指したのは本棚にあった聖書だった。

「私の姉さんがテキトーに暴れ回った話がその中にも少し位書いてあるんじゃないかしら。まぁ大概は人間側に都合いいように脚色して書いてあるんだろうけど」

「ちょっと待ってよ! 聖書って確か一世紀頃に作られたはずよ、それじゃぁ最低でも千四百歳・・・・・・」

 ちなみに今年は丁度クリストファー・コロンブスが新大陸を発見した年である。
 そもそも私には海と呼ばれるモノを見たことがないのでイメージが湧かないのだが。

「まぁその位でいいわ。正直歳なんて千を超えたらそっからはあんまり意味ないし、そもそもいつ生まれたかなんて覚えてないのよ」

「とても信じられないわ・・・・・・夢月が私の千倍くらい生きてるだなんて」

「別に信じなくてもいいわよ、私には関係のない話だし」

「何よもぅ、釣れないわね」

 この時には既に私の夢月に対する恐怖感というのはだいぶ薄れていた。
 むしろ途方も無い年月を生きた夢月の話を聞くのが私はとても楽しかったのだ。
 見た目だけは同年代に見える夢月との会話はぎこちないながらも私にとってとても新鮮だったし、何よりも実体験を交えた歴史の裏話や秘話の数々は私の興味を大いにそそった。
 最初は面倒くさがっていたように見える夢月も次第に饒舌になっていき、遂時間を忘れて話耽ってしまった。











 夢月と私が会って彼是一カ月が過ぎようとしていた。
 夢月は最初の頃と比べば頻度が少なくなったが、時々私の部屋に突然現れる。
 彼女には姉がいるらしく、長い時間一人にしておくと癇癪を起して所構わず破滅をもたらすらしいので夢月もずっとここに居る訳にもいかないとのことだ。
 ちなみに夢月の見るたびに変わる可愛らしい服は全て姉が創ってくれたものらしい。
 余程手先が器用なのかと思いきや一人じゃリボンも結べない程不器用だとのことだ、悪魔の事情はよくわからない。

 何時しか夢月が現れるのを待ち遠しく思っている私がいた。
 出会った最初の頃なんて怖くて怖くて仕方なかったはずなのに、今ではお茶を共にする程の仲だ。
 二人分の用意を頼む私を家政婦は少し気にしてはいたようだが、私は特に気にもとめなかった。
 本を読むよりも夢月から直に話を聞く方が何倍も楽しくとても充実していた。
 夢月から聞いた外の世界は私が思った程綺麗な世界ではないことに気付いた。
 人は欲に溺れ毎日のように世界各地でお互いを傷つけあい殺しあっているらしいし、豊かな自然を私利私欲のために破壊し続けているとのことだ。
 しかしそれと同時にとても悪魔の口から語られたとは思えないくらい心温まる話もあった。
 王女と王子の恋物語に心躍らせ、英雄による国の存亡を賭けた戦いに感動する日もあった。
 私が夢月に話をねだる姿は、まるで幼子が母に寝る前の絵本をお願いするのとほぼ変わらなかったであろう。
 そんな私に夢月は呆れながらも付き合ってくれた。
 私が夢月から様々な話を聞くごとに夢の味が変わるらしく、ビターな夢が食べたいなどと言われた日には恐怖のあまり一睡も出来ない程恐ろしい話を延々と聞かされ続ける羽目になった。
 姉さんじゃないけど自分のお菓子を自分好みに育てるというのも楽しいものね、などと言っていた満足げな夢月が憎たらしい。

 そんな紆余曲折を経て、私と夢月が過ごした日々は正に夢のように過ぎていった。
 私は外の世界に出ることは出来なくても、夢月が語ってくれるならそれで私は満足だった。
 こんな日々が何時までも続くと私はそう信じていた。




――私の夢は救いようがない・・・・・・そう言われていたはずだったのに。






 夢月と出会ってから約二カ月が経った、今日は私の十四歳の誕生日だ。
 夢月には今日は絶対に祝いに来てと前々から言ってある。
 心底面倒くさそうな顔をしていたが多分夢月は来てくれる、そう信じて私は待っていた。
 父と母が開いてくれた私の誕生日を祝う小さなパーティーも早々と抜けだし、私は自分の部屋に戻ろうと急いだ。

 ドアを開いた先には普段より少し大人っぽいドレスに身を包んだ夢月が私の期待どおり待っていてくれた。

「夢月! やっぱり来てくれたのね!」

「姉さんがきっと楽しいことになるだろうからってね、いったい何を考えてるんだか・・・・・・」

 夢月は大胆に切れ込みが入り露になっている健康そうな太腿を気にしながら呟いている。

「ねぇ夢月! 今日は私のお誕生日なんだよ? 夢月のことだからきっと気のいいプレゼント用意してくれてるんでしょ?」

「はいはい分かったからいい加減抱きつくの止めて頂戴。この服まだ着なれてないから乱れると大変なのよ」

 夢月は私を引き剥がすと何処からともなく取り出した豪奢な包装に包まれた箱をくれた。

「流石夢月! ちゃんと用意してくれてあったんだ、ありがとね!」

「どういたしましってうわ、了承も無く開けてるよ・・・・・・貴方初めて会った時より妙に言動が子供っぽくなってるわよ?」

 若干引き気味の夢月を置いて、私は箱を開けプレゼントとご対面した。

「これ・・・・・・可愛い!」

 それは初めて私が夢月と会った時に夢月が来ていたあのメイド服によく似た色合いのエプロンドレスだった。

「ねえちょっと夢月! これに着替えるの手伝ってよ!」

「えー、何で私がそこまで・・・・・・あぁ分かったからそんなにむくれないの」

 なんだかんだ言って夢月は手慣れた手つきで私を着替えさせてくれた。
 いつも姉さんのを手伝ってるから慣れているそうだ。
 着替え終わった私は鏡の前でスカートを靡かせ、ポーズを取った。

「どう? あまり創造とかは私の分野じゃないんだけど割とよく出来たほうだと思うわ」

「ありがとう夢月! これとっても気にいったわ!」

「それは良かったわ、さて今日は何の話が聞きたい? 姉さんの了解は得てるから今日は長くいら――」

 夢月のその言葉を私が最後まで聞くことはなかった。
 私の視界が大きく歪み、再び気付いた時には夢月に抱き抱えられていた。

「あれ、私・・・・・・」
 
「全く、羽目を外してはしゃぎすぎるからこうなるよ」

 身体が異常に重い、確かに今日は嬉しいことが沢山あって動き過ぎたのかもしれないと一人反省した。

「ごめんね・・・・・・夢月」

「いいわよ、でも私は手当てなんか出来ないし誰か呼ばないと・・・・・・その必要はないみたいね」

 丁度運よく父が私の部屋の前に来ていたのだ

「物音がしたが大丈夫か? 開けるぞ?」

 そういえば夢月が父に会うのは初めてだなと、人ごとのように思いつつ私は夢月に身を預けていた。
 ドアを開けた父は倒れた私を見て一瞬顔を青ざめ、そして私を抱きかかえる夢月を見るなり身体を震わせ、私が聞いたことのない大声で怒鳴った。

「娘に・・・・・・娘に何をした! 人の皮を被った化け物め!」

「えっ・・・・・・?」

 訳が分からなかった、あんなに優しい父が何故夢月を化け物だというのか。

「家政婦達から聞いている・・・・・・娘が最近部屋の中で誰かと話しているとな! 娘の部屋にはこの屋敷の住人しか入れないのに関わらずだ! お前が私達の娘を誑かしていたのだな! この化け物め!」

「なるほどね、勘違いも甚だしいけど・・・・・・いや、あながち間違ってる訳でもないのか」

 違う・・・・・・夢月は私を助けてくれた、私に夢の続きを見させてくれた・・・・・・大事な、大事な

「ふざけるな! 生きて帰すと思うか! 愛娘を手にかけた罪、ここで償わせてやる!」

 父が取り出したのは小型の拳銃。
 怒りに満ちた父には私の消えそうな声は届かない。
 夢月は私を抱えてるせいで動けない、私に構わずいつもみたいに消えてしまえばいいものを。

「死ねぇ化け物!」

 トリガ―は引かれ撃鉄は落ちる。
 夢月はそんなのお構いなしに私の頭を撫でるのみ。
 コマ送りに進む世界の中で私は一心に願った。





 どうか・・・・・・どうか神様。


 私なんてどうなってもいいから・・・・・・どうか・・・・・・どうか・・・・・・






――私の唯一の友達をお救い下さい













 私は別に迫る弾丸を避けなかったのではない。
 ただの鉛玉などそこらの化け物とは格が違う悪魔である私は避けるまでもないのだから。
 私が弾丸を食らって死んだフリをして消える。
 そうすればカナの父は私を倒したと勘違いするだろうし、なにより安心するだろう。
 元々悪魔である私と人間が共にいたこと自体が可笑しな話だったのだ。
 別れは遅かれ早かれくる、たまたまそれが今だっただけのこと。
 ただ、長らく美味しい夢を食べさせて貰った礼か、それともとても認めたくはないが珍しく情でも移ったのか。
 らしくないと思いつつも、私は誰にとっても幸せな別れを選んだつもりだったのだ。



 だからこそ虫の息だったはずカナが私を庇うよう覆いかぶさってきた時、驚愕に目を見開いた。

 カナ越しに伝わる弾丸の余波が悲しく私に響く。


「何、馬鹿なことしてるのよ・・・・・・あんな鉛玉、私は痛くも痒くもないのに」

 血が・・・・・・姉さんと共に数多の命を無慈悲に奪い去った時に散々浴びた血が、再び私に降りかかった。
 あの時は気持ち悪いだけだったはずの液体が、こんなにも悲しく感じられるのは何故だろう。

「む、げつ・・・・・・よか、った。無事なの、ね」

「本当に馬鹿ね、無事じゃないのは貴方の方よ。こんなの・・・・・・もうどうしようもないわ」

 数え切れない程の命を奪ってきた私にはわかる、カナの命運はここで尽きてしまった。
 もうじきカナは・・・・・・確実に死ぬ。

 目の前の光景が信じられなかったのか、カナの父はとっくに逃げ出していた。
 部屋に残ったのは血に濡れた私と死にかけのカナのみ。
 神でも天使でもない悪魔の私にはカナを救うことなど出来ない。
 どれだけ強大な力を持っていようとも、救う者と奪う者の立ち位置が逆転することは無いのだ。

「・・・・・・最後に言いたいことがあるなら聞くだけ聞いてあげるわ」

 私に出来ることはこれだけであった。
 せめて最後を看取ってあげること、それが悪魔である私がカナに出来る最期のことだった。
 カナの最期の声は既に声になっていなかった。
 でも、それでも私には伝わった。伝わって・・・・・・しまった。
 カナの身体から力が抜ける。

「ふざけるのも大概にしなさいよ・・・・・・貴方は、貴方は一体なんなのよ!」

 もう喋ることも動くこともない身体を抱えて私は叫んだ。
 カナの肉体は既に死んでしまった。
 でも何故か・・・・・・何故かカナの思い描いた夢だけはぽっかりと残っている。
 夢を司る私だからこそわかる、カナは夢だけを残して逝ったのだ。
 一体誰のために? そんなのわかりきっていた、わかりたくもないのにわかってしまった。

「あんなに大事にしてた夢をなくして・・・・・生前の記憶も全て失った貴方は天国にも地獄にも行けないのよ? そんなの、死ぬよりもっと辛いことなのに・・・・・・あの馬鹿は」

 夢は魂を構成する大事な部品、だから夢を奪われた人間は死ぬ。
 ならば夢を残して死んだ者はどうなるのか?
 答えは「救われない」である。
 誰からの救いもなく、ただ不安定な形を持って残してしまった夢を探して現世を彷徨い続ける哀れな亡霊と化すのだ。
 私がこの夢を食べてしまったら最後、私が消えるまでカナは亡霊としてこの世界を漂い続ける。



 カナは夢を失ってでも、夢を見続けることを選んだのだ。
 カナは死んででも、私と共に生き続けることを選んだのだ。



 カナがそこまで覚悟していたなら、私もそれに答えねばならない。
 夢を司る悪魔として、そして、一人の友人として。




「貴方の夢、頂くわ」




















 博霊神社
 紅白の目出度い色合いの巫女服に身を包んだ巫女のいるこの神社には参拝客がこない、何故ならそれは・・・・・・

「またあんたのせいね!」

「痛い! なにすんのよぉ」

 青と白を基調としたエプロンドレスに身を包んだ亡霊・・・・・・というより騒霊が神社に住み着き、参拝客を驚かしてしまうからだ。

「全く、あんたのことせいでこっちったら今日の飯すら危うい所だわ・・・・・・」

「あら霊夢、遂に私のお仲間入りする? お腹空かないから楽よ意外と」

「死んでもごめんだわ全く・・・・・・もうどっか行きなさいよもぅ、あんた見てるとねぇもう一人嫌な奴思い出すのよ」

「それは初耳ね、どんな人?」

「あー? んーとね、よくわからんヘンテコな世界にいたヘンテコ姉妹の妹よ。あいつらとは二度と会いたくないわ・・・・・・」

「霊夢がそんなに嫌がるなんて余程強いのね、こんど会いに行ってみようかな?」

「止めといた方がいいわよ、あいつらが遊んでたから生きて帰って来れたけど。もし怒らせたら霊体とはいえタダじゃすまないわ」

「それは困るわ、せっかく住み心地いい場所を見つけたのに。消えてしまったら元もこうもないわ」

「やっぱあんた行って滅されてきなさいよ、もしかしたら似た者同士仲良くなれるかもよ?」

「えーそうかなぁ、んー考えておくわ」

「ちっ・・・・・・それにしても暑い、夏はホント嫌」

「私は好きだけどね、夏。あーでもなんでだろう。何で好きなんだろう。んー」

「あんたは霊体だから暑さ感じないからでしょ、いいわねぇ楽そうで」

「ん? 仲間になる気になった?」

「ならんわ!」



 夏の強い日差しが照りつける中、騒霊は優雅に小鳥と共に空を飛び、青々と茂った木々達とワルツを踊る。
 空は雲一つなき快晴だった。

              
               終わり
どうもニ作目となりました。旧作幼女mikiです。
前回が幻月メインだったので今回は夢月メインです。
夢月がメインじゃない気がする・・・・・・のは多分気のせいよ、うん多分。
旧作の曲の中でも夢消失はお気に入りの一つです。
あの悲しくも美しい旋律が堪らないですよね>< 
それではまたの機会に。
旧作幼女miki
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コメント



0.470簡易評価
4.無評価名前が無い程度の能力削除
どうも2作目お疲れ様です
今回は1作目の倍ほどの量があってとても読み応えがありました。それプラス会話も増えてうれしいo(^▽^)o
序盤のほうは、謎解き?じゃないけどちょっと東方との関連がつかめなかったのですが
中盤以降なるほどと自分で勝手に納得しながら読んでいましたw
夢月が初めてカナとあったときは、カナの夢にしか興味なかったのに
徐々に仲が良くなっていく様子が見てて楽しかったです
カナ視点からも寿命が短いのに必死に生きようとする姿が想像できてよかったですー
夢月に殺されそうになったり、仲良くなったり、でも最後は庇って死んでいく...
どんでん返しじゃないけど上がり下がりがあってサクサク読めました
中盤あたりの夢月のカナに話す様子が一番ワクワクしてたかな
終盤はカナの夢月を想う姿とそれに応える夢月の気持ちが切なかったです
最後の霊夢との会話もその後が見えつつ楽しく読めました
次も楽しみにしてるので是非頑張ってください~!気長に待ってます~
8.80名前が無い程度の能力削除
前回に引き続き旧作物、そして夢月メイン(カナも)ということでまたもや楽しく読ませていただきました。
ただ、今回は中盤~終盤にかけて、どこかで見たような、ありふれたような展開になってしまっているのが、この物語のピークであるはずの部分だけに残念と言えば残念です。
それでも、冒頭と結びは流石ですね。滑らかに入りやすく、後に引くものを残しつつも出やすい。読み手にとってはどちらも有り難いです。
それでは、次回の作 も心待ちにしております。
11.90名前が無い程度の能力削除
自分を病弱な身の程をわきまえて自分を抑え謙虚にしていたカナがどんどん夢月のために我儘を出すようになっていって最終的に自分を助けようとした父親の銃撃から身代わりになって守ったのが面白かったです