Coolier - 新生・東方創想話

フラフラ慧音の「仁政」論

2012/08/23 23:04:22
最終更新
サイズ
77.23KB
ページ数
1
閲覧数
2643
評価数
19/40
POINT
2530
Rate
12.46

分類タグ

     序

 レミリアお嬢様は、咲夜とパチュリーと美鈴と一緒に、外の世界に行きましたので、紅魔館にはフランドールたちと妖精メイドと図書館の居候だけが残されました。
 詳しい経緯は、「レミケネ幸福論」をご参照ください。
http://coolier-new.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1343987344&log=171

     一

 ざわざわと騒がしい妖精メイドの声に驚かされて、真っ先に目を覚ましたのはフランちゃんだった。どうしたんだろうと疑問に思って、近くのメイドに聞いてみた。

「どうしたの? 何だかとっても、騒がしいんだけど」
「あ、フランちゃん! 大変なの! レミリアお嬢様も、メイド長も、パチュリーさんも、みんな外の世界に行ってしまって。後のことは、フランドール……お嬢様に……って、大丈夫!? フランちゃん……」

 あまりの出来事に、クラクラしてその場に倒れこんでしまったフランちゃんを、あわてて抱き上げる妖精メイド。

「大変! 医務室に運んであげなくっちゃ! 誰か手伝って~!」

 そうしてあわてる妖精メイドに、「さわがしぃなぁ……」と、不機嫌な顔で近寄ってくる人影が一つ。

「あ、ふうちゃん! よかったぁ。フランちゃんが、ショックのあまり倒れちゃって……医務室まで運んであげてくれる?」
「あ~……別に、そこらに寝かせておけば、すぐに治るぜ、こんなくらい」
「そういうわけにはいかないよ。大事なお姉ちゃんじゃない、ね?」

 そう言うと、「手のかかるお姉ちゃんだなぁ。」と愚痴をこぼしながらも、背中に負ぶって意味室へと向かう。

「何だかんだで、ふうちゃんは優しい子だよね」

 そう、メイド妖精に褒められても、聞こえなかった振りをするのは、いつもの照れ隠しである。

「でも、本当に困ったよね」
「レミリアお嬢様の後任は、果たして誰が務めるのかしら」
「直系のフランドールお嬢様が一番有力だけど、でも、妹様はそれを認めないだろうし……」
 何時の間にか集まった側近の妖精メイド一同、深く溜息を吐く。
 すると、「どうしたの?」とひょっこり現れたのは、フランドール・スカーレットだった。

「フランドールお嬢様!」
「あぁ、大変なことになったんです!」
「あらあら。どうしたの? 何があったの?」
「それが、レミリアお嬢様がいなくなってしまったのです」
「まぁ、またお散歩? お姉様も、お好きね」
「メイド長もいません」
「今日はちゃんと、咲夜を連れて行ってくださったのね。お一人だと、やっぱり万が一ってこともあるものね」
「パチュリー様もいないのです」
「まぁ、お師匠様もお連れに? 今日はきっと、星空の下でピクニックをされるのね」
「ついでに門番も」
「たまには、労ってあげないといけないわよね。美鈴も、忠実に仕えて長いんだし」
「皆さん、しばらく帰って来ないんです!」
「あら、宴会? それともお泊り? そういう日もあるよね」
「外界へ行かれました」
「……え?」
「外界へ行かれました」
「……え、なんで? ちょっと、え、外界? ウソ!」
「本当です。こちらに、レミリアお嬢様からの置手紙があります」
「……ブリュアン小父様を助太刀するために……いつ帰って来るかは分からない……四人みんなで、よく話し合うこと……紅魔館の陣容を直ちに整えること……後任の紅魔館当主は、私……これって、もしかして」
「ドッキリとかじゃ、ありません」
「はは……はぁ~。うぅ~、な~に~こ~れ~」
「フランドールお嬢様! しっかりしてください! そんな調子だと、妹様に、またグサグサッとキツイことを言われてしまいますよ!」
「う、そ、そうよね。お姉様は、はっきりと私を後任に指名しているわけだし、私も期待に応えないと……」
「その意気です! それと、これはパチュリー様からです」
「うん。……お師匠様は相変わらずね。練習メニューと宿題と……工房は自由に使っていいんだ。うわ、これ嬉しい」
「よかったですね」
「うん。何か、やる気出てきた。よし、これからは私が紅魔館当主よ! 頑張るんだから!」
「その調子です、フランドールお嬢様」
「で、まずは何をしたら良いのかな?」
「えっと、それは……」
「人里の賢者。ケイネ・カミシラサワを招き入れること。そうでしょう?」
「あ、妹様! は、はい! その通りです」

 妹様と呼ばれたその人物が現れると、途端に妖精メイドは緊張して萎縮してしまった。場の空気が、急激に張り詰める。
 妹様は、その鋭い目でフランドールを睨みつけて言う。

「で、ケイネ・カミシラサワについてだけれども……」
「何? あなたが迎えに行くって言いたいわけ?」

 フランドールも、負けまいと睨み返して言う。

「いいえ。フランドール。あなたが迎えに行くべきでしょうね」
「そ、そうよね。私が紅魔館当主なんだから」
「代理、ね」
「……紅魔館当主代理なんだからね」

 妖精メイド一同、内心、(喧嘩がはじまっちゃう!)と冷や冷やである。
 今までは、レミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジがいたために、大事になることはまず無かったが、今はこの二人がいないわけで……まぁ、そのときは逃げるしかないねと、全員が暗黙の了解をしていた。

「安心しなさい。私は、手荒な真似をするつもりはなくってよ」

 妹様の口から出るとは思えない、穏便なお言葉に、妖精メイドはちょっと驚いた。

「あくまでも平和裏に、当然の結末として、紅魔館当主代理の地位を得ることが、まぁ、私に課せられた使命というところかしら」

 (うぇぇ……相変わらずだよ。)と、妖精メイドが思ったかどうかはともかく、やはり妹様は妹様。野心満々である。

「どういうこと?」
「率直に言いましょう。ケイネ・カミシラサワを、紅魔館の監督役として招くことができなかったとき。あなたは、紅魔館当主代理として不適格という理由で、その地位を大人しく私に譲りなさい」
「む……」
「どうしたの? まさか、お姉様のお言いつけを守ることができずして、この紅魔館を統べる能力があると言えると思っているの?」
「それは……」
「少なくとも、私は納得できないわね。貫禄不足も甚だしいわ」
「……というか、あなたはいつも私のやることに反対するじゃない」
「それはあなたが頼りないからでしょう。あなたの命令を聞くくらいなら、フランちゃんに当主代理を任せたほうがマシだわ」

(む、意外にフランちゃんだと、うまくまとまりそうな気もする……けど、なんかそれで納得したら、やられっぱなしでカッコワルイし……)

「ふ、ふん。そうしてあなた、フランちゃんを操り人形にするつもりなのね」
「さて、どうかしら? まぁ、それよりも返事をちょうだい。私は当然の提案をしているだけなんだけど」
「……分かった。その代わり、慧音さんに監督役を引き受けていただけたときは、文句を言わないで、ちゃんと私の言うこと聞いてね」
「……まぁ、考えておいてあげるわ」

 そう言い残すと、妹様は地下へと向かって行った。
 自室へ戻ったのだろう。
 四人のうち、唯一妹様だけは、地下に部屋を持っており、日が落ちている間は、地下から出てはならないことになっているのだ。
 そうして妹様が地下へと戻っていくのを確認すると、フランドールは急にその場でペタンと座り込んでしまった。

「う~、怖かった~」
「よ、よく頑張ってました! 見直しましたよ、フランドールお嬢様!」
「そうですよ! 負けてませんでした」
「私、あの子とはじめて対等に話ができたかも……」

 こうして、やや頼りない紅魔館当主代理と妹たちとの、紅魔館での新しい生活がはじまったのだった。
 
     二

 フランドール・スカーレット第一の仕事は、上白沢慧音を紅魔館に招き入れることである。そのために、レミリア・スカーレットも、一筆をしたためておいてくれたのだ。が、その前に、四人で集まって話し合いをする必要があるだろう。レミリアも、みんなでしっかりと話し合うことと、ただしていることであるから。
 フランドールは、事態の確認と、自分が紅魔館当主代理となることに異論ないかを確認するために、月下テラスにて一席を設けることにした。
 フランドールが約束の時間より少し前にテラスへと出ると、既にそこにはふうちゃんがいた。
 一人でぼりぼり、お菓子を食べているふうちゃんは、何があってもマイペースである。

「お前、大変なことになったなぁ」
「他人事じゃないんだよ、ふうちゃん……」
「え~。そっかぁ? 大変なのはフランで、私はいつも通りしてたらいいじゃん」
「そんなこと言わないで。お姉様も、咲夜も、お師匠様もいないんだから、みんなでちゃんと協力しないと」
「協力ねぇ。私に何の協力ができるのか、わかんないけどな。それより、パッチェさんいなくなっちゃったんだよね。美鈴も。困ったなぁ。一緒に寝る相手がいなくなっちゃった。妖精メイドは、どうもみんな小柄でさ。抱き心地が良くないんだよね」
「少しくらい我慢してよ、ね?」
「我慢ねぇ。我慢我慢……」

 そうしてやっぱり、ぼりぼりとお菓子を頬張るふうちゃん。
 基本的にふうちゃんは、性格が悪いわけではないのだが、やや協調性に欠けて自由なため、手に余るのが常である。無理強いすると機嫌を悪くするため、強いることもできず……しかし、今は四人みんなで力を合わせる必要があるのも事実……そのことを思うと、フランドールは思わず溜息が出た。
 とりあえず、フランドールは席についてお茶を飲むことにした。
 元来小心者が多い妖精たちであるから、給仕係を同席させたりはしない。咲夜がいないならば、自分たちのお茶は自分で淹れるのが仕来りである。
 フランドールはポットからお茶を淹れると、あれっと小首を傾げた。

「グリーンティー?」
「うん。らしいね」
「まぁ、好きだけど……咲夜がいないから、きっと後任の妖精メイドが、自分好みのお茶を用意したのね」
「咲夜は咲夜で、趣味のお茶だけどなぁ」
「それはお姉様限定でしょう」
「まぁね~」

 そう言うと、ふうちゃんはお茶を飲み干して、ティーカップをフランドールに差し出す。お代わりの催促である。このサインに、フランドールは一瞬、こうして甘やかしては、紅魔館当主代理である自分の威厳が保たれないと思った。何事も最初が肝心である。

「ふうちゃん!!」
「なに?」
「……ちゃんと言うことあるでしょう?」
「おかわりちょうだい」
「はい、どうぞ」

 これがフランドール、精一杯の貫禄である。
 
「ふふふ、仲良しさんね」

 そう言って現れたのは、三番目の妹、フランちゃんだった。
 四人の中で、一番大人しくまた穏和な性格をしたこの人格は、手芸を趣味としており、一人良家のお嬢様をしていると評判である。基本的には、自室を中心として、あまり外に出ないために、側近のメイドを除けば他者との交流もほとんどないが、それはそれで楽しい毎日を送っているようだ。

「ねぇ、フラン。もし良かったら、私にもお茶を淹れてくれないかしら?」
「うん。いいよ。はい、グリーンティーだけどね」
「あら、珍しい。でも、たまにはいいよね」
「うん。実は私、結構好き」
「私も好きだよ。渋味があって、甘いものとよく合うしね」
「体調良くなったみたいだな」
「うん。ありがとうね、ふ~ちゃん。ちょっとビックリしちゃってね」
「血、使いすぎなんじゃね?」
「う~ん。昨日ちょっと頑張りすぎたかなぁ」

 フランちゃんは手芸を趣味としているが、その最大のものが、吸血鬼の伝統芸能、「血細工」である。血液を自由に操り、見事な細工加工を施した数々の一品が、どの吸血鬼の家庭にもある。この加工品は、その一族の格を示す、一つのバロメーターにすらなるほどだ。
 フランドールとフランちゃんとふうちゃん、この三人は、基本的に相性が良い。四人のフランドールは、そもそも異なる性格を有する人格として存在している。そのため、親しく打ち解け合うことも少ないが、激しく対立することも少ないのである。
 ただし、一組だけ、フランドールと妹様とは、どうにもいがみ合って仕方がない。
 これは、正統なスカーレット家の次女であるフランドールと、大魔術「フォー・オブ・アカインド」で生み出された妹様という、どうしようもない格式の違いがある一方で、柔弱なフランドールと高邁な妹様、魔力量で劣るフランドールと勝る妹様、このような資質面でのねじれがあるために、フランドールがレミリアに次ぐ格式を得ていることに、納得のいかない妹様が、フランドールに噛み付いて仕方がないのだ。
 だから比較的穏やかに歓談していても、妹様が来ると場の雰囲気が一変してしまう。

「あら、皆さんお早いのね」

 きっかり十分遅刻である。

「アンタが遅いだけでしょう?」
「スタイリッシュ・レェト(粋な遅刻)って言葉があるでしょう」
「減らず口なんだから」

 のっけからの喧嘩腰に、一番困ったのはフランちゃんだ。

「ふ、二人とも。そんなに語気を荒げないでよ。今日は大事なお話があるんでしょう? ね?」
「ん……うん、そうだね。さ、早く席について」
「えぇ。まぁ、もっとも、私たちのほうでは、もう話はついているのですけれども」

 そう言って、妹様はお茶を注ぐと席に着く。

「あ、あのね、それグリーンティーだから、別に紅茶を用意させるね」

 そう言うのはフランちゃん。妹様は、お姉様と同じ紅茶しか飲まず、違うものを飲ませると機嫌を酷く悪くするのである。

「?? どっからどう見ても、これは紅茶よ」
「あれ?」
「この香りは間違いなく、レミリアお姉様が愛用している紅茶だわ。淹れ方も良いわね。咲夜がいなくなってどうかと思ったけれど、なかなか良い後釜を用意してくれたようね」

 フランドールもふうちゃんも、少し小首を傾げるが、確かにティーポットの中身は紅茶になっている。まぁ、妖精の中には特別な力を持った者もいるし、また小心者であるし、気付かれないようにこっそりと入れ替えるようなことをするのもいるかと納得した。

「で、早く本題に入りましょうか」
「……遅刻しておいて、急かすんだから、相変わらずいい根性よね」
「まぁまぁ、抑えてフラン」
「ん~、やっぱり紅茶のほうが好みかなぁ。砂糖とミルク入れられるもんね」
「ふうちゃんも、お話を聞いてあげてね」
「……やっぱり、フランちゃんのほうが、あなたよりも相応しいかもね」
「へ? 何が?」
「っ!! ハイ、それじゃ、会議をはじめます!! みんな、もう知っていると思うけど、レミリアお姉様が咲夜とお師匠様、それに門番の紅美鈴を連れ、外界へと向かわれました。大恩あるブリュアン小父様を救援し、追う者ジャバルを退けることが目的です。いつ帰還されるか分からないこの情勢を鑑み、お姉様は、この私に紅魔館当主代理を命じられました。まずはその旨、ご了解ください」
「異論ありませんわ」
「私も、フランが当主代理を務めることに異論ありません」
「おー、頑張ってね~」
「快き承認に感謝します。さて、レミリアお姉様の言付けは、大きく二つ。第一に、私たち四人でよく相談して物事を決めるということ。第二に、紅魔館は直ちに元来あるべき姿を取り戻さねばならないということ。その一里塚として、人里の賢者、上白沢慧音をお招きするようにとのご指示を授かっています」
「なるほど。つまり、レミリアお姉様は、みんな仲良くしなさいっていうことと、今回いなくなった人達を新たな人材で補完しなさいって言ってるわけよね」
「えぇ。そうよ。紅魔館の陣容は、それ自体が一種の方陣・結界・印章のようなものなの。然るべき地位に、然るべき地位の人材がいるということが、紅魔館により強大な幸運をもたらすとともに、紅魔館の加護を受けるべき人物は誰かを定めるわけね」
「で、その最初の一人として、上白沢慧音さんを、お招きするようにって仰ったのね」
「うん。慧音さんは、とても信頼のできる人よ。最近、お姉さまもその人格の素晴らしさをよく褒めていらっしゃったわ」
「あれだろ。寺子屋の先生してるんだろう? じゃぁ、適任じゃん。紅魔館にいるのなんて、みんな子供だし」
「どうやら、里の重鎮として、人々の信頼も厚いらしいですわね。しっかりとした家系の方ですし、確かな人物ですわ」
「そっかぁ。それなら安心ね。ところで……上白沢慧音さんは、パチュリー様の代わりということになるのかな?」
「そうね……たぶん、そういうことなんだと思う。同じ知者であり、またパチュリー様はお姉様にとって無二の親友なんだから。新しい仲間探しが、そこからはじまるのも当然よね」

 そうして、フランドールとフランちゃんが納得していると、異を唱えるのは妹様。

「ふふ……果たしてそうかしら?」
「何? 違うって言うの?」
「えぇ。フランドール、ケイネ・カミシラサワは、どういった役割を与えられて紅魔館に来ることになるのかしら」
「……監督役ということになるわ。バランス・オブ・パワーによって平和を維持しようと考えている幻想郷の守護者と古参たちにとって、紅魔館が勢力として力を欠くようになることも、また勢力の刷新によって紅魔館の動向に著しい変化が起きることも望ましくないわ。だから、新しい紅魔館の動向を確かめ、その動きに怪しいところがないと保証する存在は必要になる……その役目を負う者としては、半人半獣であり、勢力間の対立とは関係の薄い彼女は適任と言えるわね」
「えぇ。その通りね。さすがはお姉様だわ。本当に思慮深いお方」
「思慮深い人が、何も言わずに置手紙で済ませるかねぇ……」
「ふうちゃん、静かにしよ。ね?」
「で、フランドール。何か気がつくことはないかしら」
「……何よ?」
「いい。ケイネ・カミシラサワは、監督役なのよ。つまり、紅魔館という勢力を統御する役割を与えられた存在なの。分かるかしら?」
「えぇ。分かるわよ。それがどうしたっていうの?」
「ふぅ。いいこと? つまりはね、ケイネ・カミシラサワは、決してパチュリー・ノーレッジの代理ではないということよ。むしろ彼女は、レミリアお嬢様の代理だということ。分かるかしら?」
「……そんなの、アンタの勝手な思い付きじゃないの? 分からないわよ」
「分かるわよ。だって、それっくらい、当主代理は頼りないのですもの」
「何ですって!!」

 フランドールは、キッと鋭く睨みつける。
 その視線を受けて、むしろ微笑を携える妹様。
 ひ~、困ったとオドオドするフランちゃんは、助けを求めてふうちゃんを見るが、ふうちゃんは我関せずを決め込んで、にこりとフランちゃんに微笑を返す。

(違う!! 違うよ、ふうちゃん!! 一緒に何とかしようよ~)

 残念ながら、フランちゃんの祈りは届かず、末っ子は激しく視線を交わらせる二人を見物するばかり。
 しばらくの沈黙が訪れる。
 沈黙を破ったのは、妹様。

「まぁ、いいわ。そんなことよりも大事な決定事項があるのだから、それを二人にも確認しましょう」
「大事な決定事項?」
「えぇ。もし、ケイネ・カミシラサワがこの依頼を断るようなことがあれば、紅魔館当主代理としての貫禄不足につき、フランは当主代理を私に譲る、ということよ」

 得意満面の妹様。これは決まったと思っていると、フランちゃんが意外に強く問い詰めてきた。

「え~!! そ、そんな大事なこと、どうして二人で決めちゃうの……レミリアお姉様も、みんなでしっかり話し合うようにって言付けを残されたんじゃなかったの?」
「おうおう、言ってやれ、言ってやれ」
「ふうちゃん、悪乗りするのはダメです」
「ちぇ。ツマンネ」
「ねぇ? 二人とも、勝手に決めちゃうのは良くないんじゃないの。そりゃ、確かに二人のどちらかが、当主代理になってもらうことになると思うけど。でも、簡単にレミリアお姉様の言付けを破って、私たちを軽んじるような人に、着いて行くのは不安です」
「そ、それは……妹様が……」
「確かに、ちょっと私も軽率でしたわね」

 この四人、フランドールと妹様とを除けば、基本的に仲が良い。だからフランちゃんの言葉に、意外と妹様も素直になる。

(え? そ、そうやってあなたが素直に認めると、私の立つ瀬が無いじゃん……)

 だがその素直さが、フランドールを追い詰めてしまった。

「どうかな? フラン」

 そうして優しく諭すように語るフランちゃん。こうなると、フランドールは振り上げた拳の下ろす場所が見つからない。

「……もう、いいよ」
「? もういいって?」
「フランちゃん、私の代わりに、当主代理して」
「え!? ちょ、ちょっとフラン。どうして……」

 意気消沈のフランドールと、慌てふためくフランちゃん。こうなると妹様も何も言わずにはおられない。

「フランドール!! あなた、そんな言い分が通ると思っているの? 仮にもスカーレット家の正統なる血筋の者なんだから、もう少し矜持ってものをみせなさいよ」
「矜持っていうか、根性だね」
「いいもん。私、どうせ根性ないもん」
「あ、あなたねぇ……」
「そっちだって、フランちゃんのほうが、私より適任だって言ってたじゃない」
「そ、それは……」
「フランちゃん、ごめんね。何か……後、お願い。私、部屋に戻る」
「え? えぇ? ちょ、ちょっとフラン!!」
「うわ。泣いてたじゃん。ありゃ~……参ったな、これ」
「ど、どうしたらいいの、これ……ねぇ、妹様……」
「どうしたらいいのって……もう、フランちゃんが当主代理をするしかないわね」
「えぇ!? えぇ~……」

 そうして、紅魔館の当主代理は、三枚目のカード、ハートのエースのフランちゃんに決まったのであった。 

     三

 フランちゃんはまさかの大任に、頭を抱えて悩み苦しんだ。
 妹様は、まさかの事態に、別の意味で頭を抱えて悩み苦しんだ。
 フランドールは、部屋に帰ってシクシクと泣いていた。
 姉三人がすっかり参ってしまっていて、平然としていられるほど、ふうちゃんは薄情ではない。平生彼女が、自分勝手に振舞うのは、むしろ自由に振舞うことが許されている環境にいるとの自覚があるからなのであって、さすがにまずいと思ったときには、自重することを知っているのだ。
 
「お~い、フランちゃ~ん。もうさ、こうなっちゃったらどうしようもないからよ。諦めて人里のケーネさんにさ、お願いに行こうよ。ね?」

 ふうちゃんが一番放っておけなかったのは、フランちゃんであった。彼女が一番の大任を背負っており、助けを必要としていることが分かったからである。

「とりあえず、人里までどうやって行くかな。妖精メイドに案内してもらうしかないと思うけど、誰に案内してもらうかだよな。できれば、ケーネさんと面識あるほうがいいよなぁ」

 フランちゃんは、ふうちゃんの言葉に、ただ「うん。うん。」と頷くだけである。
 それを見てふうちゃんは、「元気出せよ~。」と言って、ギュッとフランちゃんを抱きしめてやる。誰よりも人肌恋しいこの女の子は、誰よりも情愛の温かみを知っているのであった。
 そうしたふうちゃんの思いやりが、フランちゃんの心を励ましたのか、フランちゃんは、「そういえば、慧音さんが以前いらっしゃったときに、レミリアお姉様がお呼びになった妖精メイドがいたハズだわ。」と、ようやくまともな答を返した。

「お、そうだったっけか? それじゃ、その子たちは、ケーネさんの顔くらいは知ってるんだよな。よし、ちょっと探してくるか」
「うん……いこっか、ふうちゃん」
「おう。着いてこいよ」

 そうして、側近の妖精メイドに尋ねて、ケーネと面識のある二人の妖精を探し出すことができた。
 本日二度目のサミットである。

「二人とも、たぶん、はじめましてだよね? 私、三番目のフランドールです。みんなからは、フランちゃんって呼ばれています。今日はね、二人にお願いがあって呼んだの」

 妖精メイドは、コクリコクリと頷く。
 正直、フランドールお嬢様に御呼ばれするだけでもドキドキである。

「それでね、二人とも知っていると思うけど、お姉様たちがいなくなっちゃったのね。それで、みんなで話し合って……うん、一応話し合ってね……最初のお仕事として、私が上白沢慧音さんに、紅魔館に来てくださいってお願いしに行くことになったの。でも私って、全然外に出たことないから、人里に行くのも大変なの。あと、上白沢さんとは面識がないから、やっぱり誰かに紹介してもらえたらなって」

 二人の妖精メイドは、お互いに顔を見合わせて、ウンと、一つ頷いた。

「えっと、人里にいる、慧音さんのところまでご案内すればいいんですよね?」
「えぇ。そうしてくれたら、後は……後は、私がぁ……」
「おいおい、大丈夫かよ。頑張れ~、フランちゃん頑張れ~」
「私が説得しますから……」
「そ、そうですか? 頑張ってください」
「うん、頑張る……」

 不安この上ない紅魔館当主代理の言葉に、妖精メイドたちは、(ほ、本当に大丈夫かな……)と心配になったのは当たり前だが、一方でどうにかして応援してあげたくなるような姿なのも事実である。何だか放っておけないね、と妖精メイドは苦笑した。

 そうして翌日、フランちゃん、ほとんど始めての外出である。
 太陽怖いのあまり、家の中でゆっくりしていたいという気持ちも強くなるが、何はともあれ、一応、みんなで決めたことである。そうして、こうやって手伝ってくれる妖精メイドもいる以上、ここがいきなり正念場だと、なけなしの勇気を振り絞るが、正直人里に着くまでのことで、気力の大部分を使い果たしてしまっていた。

「だ、大丈夫ですか? フランドールお嬢様」
「う、うん。ちょっと、気疲れしちゃった。ホラ、太陽でてるし、人がたくさんだし」
「えっと、ちょっとそこの木陰でお休みしますか?」
「ごめんね。そうしてくれる?」

 そうして、三人はちょっと休憩。初夏ともなれば、外を歩くと自然に汗ばむ。真っ白のハンカチを取り出して、首筋を淑やかに拭う様は、如何にもお嬢様然としている。妖精メイド二人は、深窓の令嬢とも言うべき、この気弱な妹様に、何だか一種のカリスマを感じる。

(な、何だかフランドールお嬢様を見てると、ドキドキしちゃうんだけど)
(ちょっと頼りないところが、守ってあげたくなるオーラを発していて、イイ。すごくイイ……)

 先ほどなど、通りすがりの村人に、「あ、あの。こんにちは。あの。お訪ねしたいことがあるんですけど……えっと、寺子屋の慧音さんって、どこにいらっしゃいますか。」などと、しどろもどろになりながら尋ねていたのであるが、これがまた絶妙なたどたどしさときょどきょどしさで、思わず琴線に触れてしまったのである。
 そんなことを思いながら、妖精メイドが内心ほっこりしながら妹様を眺めていると、

「私を捜しているというのは、君かな」

 そう、妹様に語りかけてくる人がいた。
 人里の賢人、半人半獣の寺子屋教師、上白沢慧音である。
 どうやら先ほど、「寺子屋の慧音さん」について尋ねた村人が、彼女にそのことを伝えてくれたらしい。さすがは狭いご近所さんである。

 妹様は、「寺子屋の慧音さん」がやってきたと知ると、緊張のあまりもじもじしている。妖精メイドが、「頑張ってください、妹様!!」「そうですよ、みんなで相談して、妹様がちゃんと説明するって決めたじゃないですか!!」 と声援を送ると、「うぅ、うぅ、そうだけど……うぅ……」 と言って、なおさらまごまごしてしまうのである。
 この様子を見て、いまひとつ自体を了解できない慧音は、どうしたものかと思案顔である。
 しかし、何とか勇気を振り絞って、フランちゃんは慧音にことの経緯を説明した。
 その話を聞くと、慧音は少しぼんやりとした様子で、「そう……ですか……」とだけ答えた。レミリア一同がいなくなった……どうやら、あまりにも事態が急展開過ぎて話しについてこれないようである。

「それで、お願いがあるんです」

 フランちゃん、何とか勇気を振り絞る。
「紅魔館に、来てくださいませんか?」「それは……致しかねるご相談です」「え、どうして!!」「いろいろと、私にも事情がございます」

 ショックのフランちゃん、ちょっと涙ぐむが、しかしここで挫けてはダメと、精一杯のお願いをする。
「でも、でも……私、あなたの助けが必要です。私だけじゃ、紅魔館のみんなを、ちゃんとまとめられないし、守ってあげられないもの。私、全然他の人とお話したことないし、お外に出るのも今日がほとんどはじめてのことなんです。それに、みんなで相談して決めたことです。きっと、慧音さんなら、私たちのことを助けてくれるって。みんな、慧音さんだったら、紅魔館のことをお任せしても大丈夫だって。お姉様も最近ずっと、慧音さんのことを褒めてました。だから、だから……お願いします!! 紅魔館に来てください!!」 そうして、妖精メイドも一緒に、フランドールと頭を下げるのだった。
 しかし、何も返事がない。

(そ、そうだ。フランドールお嬢様、あれ、レミリアお嬢様が慧音さんに書き残して置かれた手紙を)

 妖精メイドの言葉を受けて、フランちゃんは、「あ、あの!! これ!!」と、手紙を手渡す。

 無言のまま、時間が過ぎる。

(だ、だめかなぁ。もう一分くらい頭下げてるんだけど……)
(いつまで頭を下げてるのかな? やっぱり、慧音先生がハイって言ってくれるまで?)

 妖精メイドの思いは当然だが、フランちゃんはただ一心に、(どうかハイって言ってくれますように!!)と祈るばかりで、他には何も頭にはなかった。
 その一念が届いたのだろうか。
 上白沢慧音は、おもむろに屈み込むと、フランちゃんに強めのハグをした。
 そうして、頬に優しく口付けをしたのである。

「え、え? か、上白沢さん……」
「あなたの純真に心打たれました。大命を拝し、慎んでお受けいたします」
「あ……あ、本当ですか? うわ、やった!! やったよ、二人とも!!」

 そうして妖精メイドと三人、手を取り合って喜び合う。
 紅魔館当主代理の代理、フランちゃんの初仕事は、見事に成功したのであった。

     四

 フランちゃんが上白沢慧音を訪れたその二日後、早くも上白沢慧音は紅魔館を訪れた。
 僅かな着替えを持参するばかりで、文字通り身一つの来訪である。もちろん、紅魔館としては、監督役の身辺に何らの不自由がないように万事行き届いたもてなしをする用意が出来ている。
 しかしこの性急さは少しフランドールたちを困らせた。内輪揉めが未だ収拾していないのである。無事に上白沢慧音を紅魔館に招いたフランちゃんの実績と、意外なカリスマとで、紅魔館当主代理の地位は間違いないものとなっていたし、他の三人もフランちゃんが当主代理を務めることに異論はなかったが、問題はそれぞれの理解を得られたかどうかというところにあるのではなく、本来一となるべき四つ子の姉妹が、バラバラになってしまっているという事実にあるのである。
 上白沢慧音は、紅魔館を訪れると、このあたりの経緯も含めて、フランちゃんから話を聞くこととなった。

「ふむ。まぁ、しかし、それにしても意外なことですね。まさか、レミリアの妹が、四つ子の姉妹であるとは」
「正確には、そうじゃないんですが……とりあえず、当面の課題は、何はともあれ、私たち四人の仲直りだと思います。別に、喧嘩をしているわけじゃないですけど」
「そうですね。当主不在の折、君たちが一致団結してお家を守ってもらわないと困ります。妖精メイドたちも、上の人間がバラバラであっては、どうにも不安で仕方ないでしょう。上の乱れが下の乱れです」
「はい、仰るとおりです」
「まぁ、とにかく、まずはみんなに直接会わせてもらいたいかな。あと、君たちについて、もっと詳しく教えてもらいたい。まさか本当に、四つ子というわけではないでしょうし」
「そうですね。まずはみんなを紹介します」

 そうしてその晩、フランドールたちは、監督役を交えての三回目となるサミットを開催したのであった。場所はいつものテラス。そうしてこの日も、気がつけば準備万端のティーセット。誰が準備しているのかは知らないが、そんなことに頓着するお嬢様たちではなかった。
 この日、一番乗りは慧音とフランちゃん。
 かなり早めの到着だが、これはフランちゃんが広い屋敷のことを案内し、紹介するために、いろいろと歩き回っていたためである。

「あら、気が利いてるのね。もう準備されている」
「本当だな。紅茶も温かい……」
「こんなことができるのは、咲夜くらいだと思っていたけど、妖精メイドもなかなかやるのね」

 そんなことを言いながら、二人は席について他のメンバーを待った。
 慧音にとっては、フランちゃん意外は直接の面識がない。
 おそらく、見た目はそっくりなのだろうが……そう思っていると、二番目に来たのがふうちゃんである。言うまでもない、お菓子を貪りに来たのだ。やはり予想通り、見た目はそっくりである。三番目に来たのが妹様で、今回は珍しく五分前に来た。最後がフランで、時間ピッタシであったが、これは直前までおろおろしていたのだろう。テラスに来てからも、そこはかとなく落ち着きが無い。
 互いの挨拶は、簡単に終わらせた。お互い、素性は事前に知っているのだから、ことさらここで長い自己紹介をしても仕方が無い。

(さて、どうしたものか。みんなの力を一にしてと、言うのは簡単だが、難しいぞ)

 慧音は実のところ、人々をうまくまとめるようなことは苦手である。したがって、特別彼女たちの仲を取り持つ良作があるわけではなかった。だからこそ、不可知を慧音は得ていた。

「なぁ、とりあえずなのだが。君たち、フランドールについて、詳しく教えてくれないか。話によると、魔法によって君たちは、存在を得たということらしいが」
「そうですね。まずは、私たちのことを知ってもらうことが先よね」
「そ~だな。そうじゃないと、ケーネ先生も私たちとどう接したらいいか、よくわかんないよな」
「えぇ。ことの経緯については私たちよりも、フラン。あなたが説明すべきでしょうね」
「うん……分かった。ちょっと長くなると思うけど、説明するね」

 そうして、フランドールは自分たちのことを語り始めた。

     五

 フランドール・スカーレットは五百年ほど前、姉のレミリアとは五歳違いの妹として生まれた。レミリアとフランドールの母は秀麗な美女であったため、ポーランドのある王族が、これを妃として迎え入れたのである。時、ポーランドの黄金時代。中世の欧州にあっては例外的なまでに異教徒に寛容であったこの王国は、吸血鬼をも温かく迎え入れた。いつまでも若いこの妃を、とかく愛したためであろうか、稀なケースとして、人間と吸血鬼とのハーフが二人も生まれた。
 もっとも、人間と吸血鬼のハーフと言っても、血の濃さで言えば、九割以上が吸血鬼で、数パーセント程度人間が混ざるというくらいのものでしかない。吸血鬼の血は、人に注いで眷属を生み出すほどに強力なものであるから、例え人間の精を分け与えられた子供であると言っても、その大部分は吸血鬼の血に染まらざるを得なかったのである。
 この、吸血鬼と人間との血のブレンドは、しかしながら、絶妙なハイブリッドととなって、この姉妹に稀なる才覚と特性を授けた。
 姉は吸血鬼に相応しい高いポテンシャルと、人間らしい安定性と自己覚知の賢を備え合わせていた。さらにそこに、王族としての品格と、王者の徳を備えていたため、ほとんど理想的な女帝として育って行くのである。祖国がペストを流行させているとのデマで迫害されたユダヤ人を受け入れたこと、パウルス・ウラディミリが非キリスト教徒であっても同じ人間として国家主権・財産権・生存権を持つのは当然であると主張してドイツ騎士団に真っ向対立したこと、ジグルド皇帝の活躍の歴史……レミリアは全てを我がこととして享受し、楽しんで育った。
 妹は吸血鬼をも凌駕するほどのポテンシャルを持っていた。圧倒的な魔力量は、将に麒麟児。だが、その高すぎるポテンシャルが、彼女の精神すらも蝕んだ。そのため、ほとんどフランドールは、深窓の令嬢と呼んでよいほどに、世間とは隔絶されて育った。そうした生活を送るには、王族であることは非常に都合がよかった。
 吸血鬼の血は、いわば骨であり筋肉であり血である。人間の血は、皮膚や血管や体毛である。例えどれほど優れた骨肉血を得たと言っても、それを整える部分がなければ、到底力は発揮されない。レミリア・スカーレットは、吸血鬼の才覚に加え、人間の最大知……例えば、「不可知」をも備えていた。そのため、力に溺れ、修練を怠りがちな強者にあっては特筆すべき程、自己の能力を操る術に長けているのである。
 一方フランドール・スカーレットの場合は、あまりにも最適に身体が整っていたために、肉体の滾りと魔力の漲りとが、精神を蝕み、人間らしさを発揮するどころか、より悪魔的な側面を持つようになってしまった。天性の資質が、才覚を腐らせるほどに肥沃であったというのは皮肉なことである。
 もう一つ、彼女たちには稀な特性がある。それは成長しないという特性である。何故なら、二人には生殖能力がないから。異種族との子供が、生殖能力に欠く例は決して少なくないが、それがこの二人にも当てはまったのである。生殖の必要がなければ成長しないというのは、何とも魔族らしい道理である。
 だがしかし、このことはかえって良かったことなのかも知れない。
 レミリアにとっては、統御しきれないほどに自己の能力が高まることを防いでくれたのだから。
 そうしてフランドールにとっては、「フォー・オブ・ア・カインド」の固有魔法を習得する機会を与えることになったのだから。
 そもそも、「フォー・オブ・ア・カインド」とは何か。いや、そもそも、この固有魔法を生み出すに至った、フランドール・スカーレットの資質とは何か。この吸血鬼の少女の真実の姿は何であろうか。
 フランドール・スカーレットとは、「生死を司る程度の能力」を有する、天地を統べる生まれながらの皇帝である。その翼に虹龍を宿し、その瞳にヘル・ファイアを映す、絶対君主の存在である。
 だが、彼女はどうしても、その全才覚を持て余してしまうのである。
 必然の結果と言わざるを得ない。
 何れか一方の才のみであっても、魔界神に匹敵するほど、強力な力の種を宿しているのである。
 彼女は長らく、ただ一つの能力しか、しかも不完全に使うことしかできなかった。
 いわゆる「キュッとしてドカーン」である。
 レミリア・スカーレットの持つ、「王化の徳」とは、全く対照的な力と言えるだろう。
 百の力を以て百の存在を消滅させる……破壊の対象が任意であることを考えれば、最高効率の最大効果を発揮する破壊の業である。
 パチュリー・ノーレッジが、高弟であるロートレックに紹介され、スカーレット姉妹に出会ったのは、パチュリー三十歳のとき。この魔法使いは十三歳にしてアカデミーを卒業し、十五歳のときには、師匠級魔法使いとしての認可を師より授かった、大天才である。その後、十五年間、母とともに「黄金精液」の研究を行い、母の命を代償としてこれを完成させる。「黄金精液」完成の後に、新たな居場所と後ろ盾を求め、ロートレックを訪れ、紹介されたのがレミリアである。
 パチュリーは、一目フランドールを見て、尋常ならざる才覚に戦慄した。
 同時に、その力をまるで扱いきれないことに、納得した。
 レミリアのパチュリーを受け入れる際に出した条件は、フランドールの力を安定させるために尽力することであった。
 「七曜の魔女」ことパチュリー・ノーレッジ……複数の師匠級魔法使いとして印を授かり、「十怪」の一人、「黄金精液・ノーレッジ」の愛娘でもあるこの天才が、生まれてはじめてとった弟子は、自己の才覚を遥かに凌駕する臥龍であった。
 平生、親しい者からは、その抑揚のなさを心配されることすらある彼女が、この条件を提示されるや否や、「上等」と答えて微笑んだほどである。
 内に潜む、魔道への尋常ならざる情熱が、溢れて吐き出された言葉であった。
 レミリア・スカーレットは、この返答一つで、すっかりパチュリー・ノーレッジを気に入ってしまった。その胸の中に潜む、熱い炎の滾りを看取したのである。

 パチュリー・ノーレッジの見立ては次の通りである。
 まず、フランドール・スカーレットが、その全才覚を発揮することは不可能であるということ。これは、あまりにも強大な力(例えば核爆弾のようなもの)は、程好い調整を行って使用することが極めて困難なことと同様である。
 次に、フランドール・スカーレットは、元来不器用な存在であるということ。しかしながら、彼女の才覚がもたらす能力は単一ではなかった。したがって、例えより小さな力しか持っていなかったとしても、複数の能力を行使することは困難であると推測されるのである。
 最後に、フランドール・スカーレットは、非常に純粋な存在であり、また多様な能力を内に秘めているために、非常に分裂症的な傾向が見られるということ。内容と形式とは一致するものであり、複数の異なる内容を有すれば、必然、一つしか取れぬ形式との間で矛盾を生じざるを得ない。この矛盾を矛盾ないものとして消化するだけの人間らしい力は、フランドールには無いのである。

 パチュリー・ノーレッジは、極めて異例の、しかも大胆な魔道的手術を、この吸血鬼に施すことに決めた。
 あまりの型破りな発想に、アカデミーの教授陣は腰を抜かしたほどである。

「フランドール・スカーレットの力を四つに分割し、一つ一つの存在に、固有の一つの魔法と、その魔法に適した人格とを分け与えることで、一つ一つの存在が、最大効率で魔法を行使することができるようになるのである」
「力の主たる構成要素は、才覚と、努力値と、表出能力の三つである。それぞれの存在に、それぞれが行使する魔法に適した才覚と人格とを分け与えることで、一つ一つの存在が、完全に整合性のとれたものになるのであるから、必然、表出能力は理論的最高値に達するのである」
「軍事部門において、全予算を一つの分野に投入することは、非効率的である。何故なら、例えば空軍においては、次世代機を一台開発し、入手するために、現世代機を十台購入するだけの予算を割かねばならないからである。ある程度の特化はあったとしても、原則的には、陸海空と中央司令部の四つの部門に予算を分け与えることが、もっとも効果的である。それが、全くのゼロ投資部門を有するならば、なおさらのことである。同じことがフランドールにも言えるのだ」
 
 これらは、彼女の論文からの抜粋である。
 天才魔法使い、パチュリー・ノーレッジは、前人未到の大魔道、「フォー・オブ・アカインド」を決行するにあたって、アカデミーからは総スカンを喰らった。それどころか、失敗することを望まれてすらいた。「面子」の問題があった。そのため、必要な研究論文の閲覧にすら、制限を加えられることもあった。
 だが一方で、彼女に全力の支援を行う人々もいた。「レミリア・スカーレット」と、高弟の「ロートレック」、そうしてロートレックの親友にして西洋妖怪の大物、「十怪」の一人、「遊侠邁進・ブリュアン」である。
 魔道行使を行うのは、フランドール・スカーレット自身であるため、パチュリーは師として半世紀以上、フランドールに「フォー・オブ・アカインド」の魔道理論を仕込んだ。術の行使にあたっては、膨大な魔力を解き放つ必要があるため、その魔力を調整する役目には、パチュリーとロートレックがあたった。二人の魔力的バックアップとして、また二人の魔力をよりフランドールと親和性の高いものにするため、レミリアとブリュアン、二人の吸血鬼がバッテリーとして二人を支えたのである。
 「フォー・オブ・アカインド」をどのように行うかは、いろいろと構想があった。何れにせよ、「生誕」の儀式である以上、母体は必要不可欠である。最初の構想は、フランドールに三つ子を宿らせるというものであった。次の構想は、フランドール・レミリア・パチュリーに、一人一つの魂を宿らせるというものであった。処女懐妊は、神秘性を高め、母体は密封されているために、魔力の漏れを防ぎ、安定させるということは、既に研究され尽くしたことである。問題は「懐妊」であるが、これこそが彼女の母親、「黄金精液・ノーレッジ」の研究課題である。そうして処女懐妊必須の材料である「黄金精液」は、母の命と引き換えにしたものが五つあるので、これを三つ使うことで解決する。幸い、レミリアもフランドールも、生殖能力はないのであるが、それは卵子が受精しないというだけのことであって、母体としての機能は備えられていた。パチュリーとしては、この三人が一人ずつ「懐妊」する案をもっとも良いものとして考えていたが、フランドールが、「四つ子の姉妹」をイメージとして持っていたために、断念せざるを得なかった。
 出産という形式を取れない以上、パチュリーは一つ工夫をせざるを得なくなった。
 いろいろと悩んだ末に、館そのものを一つの母体とし、その地底部を「子宮」とすることで、生誕に相応しい舞台を整えようと考えたのである。
 このパチュリー・ノーレッジが提案を受けて、レミリア・スカーレットは、固有魔法を習得するため、三十年ほど魔界に修行へ出た。手土産はパチュリーの母の研究論文一式と「黄金精液」一つ。生誕を司りながら、「特別な子供」を持てない魔界の創造主はこれを快諾した。「神綺」よりレミリアが授かった固有魔法は、ただ一度だけの行使を可能とする大魔法であり、また大呪術でもある。自らの「運命」をある一点に縛り付け、自己の「運命」を具現化するレミリアの固有魔法「マニフェスト・ディスティニー(明白な運命)」……即ち、「紅魔館」の具現化である。「紅魔館」を具現した後は、レミリアにとり、直ちに「紅魔館」は「帰るべき故郷」となるため、故郷に留まる限りは幸運に多大なプラスの補正を受けるが、この地を離れた瞬間に、幸運は最低値にまで落ちることとなる。これが「紅魔館」の大呪術でもある所以である。
 さて、こうして全ての準備が整ったときには、吸血鬼による幻想郷の支配という夢は破れていた。また一方で、紅魔異変には至っていない。その中間の時期であった。
 「紅魔館」は、存在そのものが西洋と魔界の叡智を集結させた大結界である。
 その最大の特性が「隠匿」であるため、「十怪」が一人、「神出鬼没・ハーミット」の八雲紫も、この館そのものが魔道的存在であることを看取できない。また、その地下で、「フォー・オブ・アカインド」ほどの大魔法が展開されたとしても、気がつけないのである。というのも、実のところ、紅魔館の地下は「魔界」への入り口となっており、正確には、この場所は「魔界」だからである。さらにその地下100階に至っては、並行世界と連結した空間となっており、もはやレミリアやパチュリーですら手に負えない場所になっているのである。
 「フォー・オブ・アカインド」によって分割される、フランドールの人格は四つ。
 まずは、フランドールそのものの人格。この人格が司るのは、平生のフランドールそのものであり、彼女にムラを与えている三つの大きな性格と能力を、他のフランドールに分割することで、存在の安定をはかるのがこの大魔法の目的の一つであった。この人格が有する固有魔法は、「フォー・オブ・アカインド」そのものである。ただし、「フォー・オブ・アカインド」によって誕生する三人の妹は、フランドールが現界させているわけではなく、その力を分け与えて新たに誕生させるのであるから、以後、フランドールからの干渉を受けることはない。もし、出産という形式をとっていたのであれば、母体からの絶対的干渉を与えることが可能になるのだが、フランドールはあくまで「四つ子の姉妹」を希望したために、新たに生まれる妹たちには、何ら干渉することができないのである。パチュリー・ノーレッジが、これを危ぶんだのは当然であるが、結局はレミリア・スカーレットの、「天運任せ」に押し切られてしまった。
 フランドール第二の人格は、姉やスカーレット家という、生まれ持って与えられた「権威」に対する畏怖と敬意である。「こうあらねばならない」という凝り固まった思考と、失敗も成功もその理由を委ねることができる家と血という絶対的な存在とがあることによる自己の人生への「無責任さ」、そこからくる生命の実感の「希薄さ」とが日常からの遊離をもたらし、フランドールにマイナスの影響を与えているのである。この人格、すなわち「妹様」には、天性の業、「覇王の威」こと「キュッとしてドカーン」が与えられた。
 フランドール第三の人格は、本当はこうありたいという、少女の理想である。平凡な少女として、女の子らしい趣味を持って、日々の生活を送りたいという願いと、それを実現できない自己の境遇と才覚とが、彼女を悩み苦しめているのである。この人格、すなわち「フランちゃん」には、吸血鬼の伝統芸能、「血細工」の能力が与えられた。血液を硬化させたり、あるいは硬化させた血液で武具を精製するこの「血細工」は、フランドールにその才覚有りといっても、うまく統御し得ない力の一つであった。当然、姉のレミリアは、血の代用品として用いたルビーで模した動物の置物を人に送ることができる程度には、この技術に精通している。
 フランドール第四の人格は、自己の内に潜む、どうしようもない幼児性である。つまりは、甘えたがりで暴れたがりで荒唐無稽な性格である。この人格、すなわち「ふうちゃん」には、爆発と業火の能力が与えられた。それがあのグネグネした不思議武器、「レヴァンテイン」として具現化するのである。なお、「レヴァンテイン」の造形に関しては、ふうちゃんの閃きに基づくものである。そして従来のフランドールには、この能力の象徴として武器を具現化するほどには、この力は統御し得ていなかった。
 こうして、四つの存在に、フランドールを分割するという大魔法が、紅魔館の地下深く、99階にて執り行われた。99階から100階へと至る階段はない。これは、処女懐妊を模した構造のためである。そうして、100階にてフランドールの妹たちが産み落とされると同時に、この処女膜は破れるのである。つまり、「地面が崩れる」ということである。そうして一同、並行世界に干渉するのだから、文字通りの「命懸け」であったが、その酔狂を良しとするのが、スカーレット流とでも言うべきだろうか。術の施行を前にして、レミリアも、パチュリーも、ブリュアンも、ロートレックも、異常な高揚を感じていた。そうした高揚がまた、実力以上の力を引き出したのも事実である。もっとも、それは偶然なのではなく、レミリアの運命を司る能力の一旦、「スカーレット・ドクトリン(紅魔主義)」の加護であり、彼女の主義に順ずるものに対して与えられるプラスの補正の結果なのである。
 「フォー・オブ・アカインド」は大成功だった。
 四人のフランドールは、それぞれが人格と能力とが完全に一致しており、その力は非常に安定していた。また、それぞれの魔力量そのものが、ほどほどに抑えられていることも、力の安定に寄与していた。もっとも、魔力量が抑えられているといっても、四人の中で最大の魔力量を有するふ~ちゃんは、レミリアに匹敵するほどの魔力量を有している。四人の魔力量の総計は、レミリアを500とすると、フランドール:100、妹様:350、フランちゃん:200、ふ~ちゃん:450であり、レミリアの倍以上あるのだから、ただただ恐るべしというところか。もっとも、レミリアの巧みさは、その表出能力にあって、500の魔力を1000に変えて行使することができるのであるから、魔力量ばかりを考えて、力の大小は計れない。ちなみに、以前のフランドールは、1,000を越える魔力量を有していても、実際に表出することのできる力の量は、300か400程度であった。それが現在、四人に分かれたことによって、表出能力は乗数1,つまり総計1100を行使することができるようになっているのだから、この魔法が大成功であったことは自明であろう。これは余談だが、単一能力しか有しないフランドールたちは、異なる性質を掛け合わせることによって高い表出能力を得ることはできないため、乗数1が、ほとんど理想値にならざるを得ない。逆に、多数の高度な魔法を使役できるパチュリーは、非常に高い表出能力を持っていて、乗数5を獲得している。このことは、人間が何故、強大な力を持つ存在に太刀打ちできるのかを理解する上で役立つだろう。
 さて、大成功に終わった「フォー・オブ・アカインド」であるが、それ故に次のことが懸念される。すなわち、「生まれて来た妹たちはどう振舞うのか」という問題である。大魔法の行使により、疲労困憊の極みにある四人とフランドールは、人間相手にも苦戦しそうなほどの状態であった。だが、それでも何とかなるさという、レミリアの「天運頼み」は功を奏した。妹たちは、予想以上に「良い子」だったのである。
 まず、妹様は、とにかくお姉様お姉様と煩かった。だからレミリアが寝むたいといえば、一緒に寝たいと言ってきたので、一緒に寝てしまうことにした。フランちゃんは、とにかく大人しかった。とりあえず、誕生して時間がないものだから、よく事態が飲み込めない様子だったので、ロートレックが事情を説明することにした。そうして一通り事態が飲み込めると、後は本を読んでいるだけだった。一番、恐れられていたのがふうちゃんであるが、予想以上にこの子は「子供」であった。とにかく、父性的なものと母性的なものに、頗る弱いのである。要するに、母親代わりをしてやればそれで良いのだ。どうやらふうちゃん的には、辛うじてパチュリーは母親代わりとなるだけの豊満さがあったらしい。パチュリーは止む無く、これを受け入れることにした。
 「フォー・オブ・アカインド」成功の後、フランドールが四人いるということは、原則として伏せられることとなった。ただ、幾らかの側近には、このことを知らせておく必要があった。皆、レミリアの英邁さに心酔する者たちばかりだった。
 だが、このような策を講じたのは、あくまでパチュリーであって、レミリアは一切関与していない。「疑わしきは用いず、用いては疑わず」である。一度臣下として迎え入れた妖精メイドたちであるから、もし彼女たちに欺かれるところがあるとしても、それは主君たるレミリアの不徳が故であり、それを受け入れずして紅魔館の当主は務まらないとの腹積もりである。

 四人の妹たちの境遇は、それぞれ若干異なった。
 まず、フランは、以前に比べて自由に外を出回るようになったが、元々行動の制限はほとんどされておらず、本人の自由意志に基づいてあまり外へは出なかっただけなのだから、従来どおりと言うこともできよう。
 妹様に関しては、地下での生活を余儀なくされた。四人のフランドールの中で、もっとも激昂しやすく、またレミリアに言わせると、一番子供っぽいために、少なくとも日の沈んでいる間は、外に出ることが認められなかった。この処遇が、妹様のプライドを傷つけたことは疑い様がないが、それもある程度止むを得ないと思われるだけの理由がこの人格には備えられていたのである。部屋にどれほど積まれたことか分からぬ、お姉様愛しいの詩集とお姉様麗しいの画集とは、レミリアをして「吐き気を催す」と言わしめたくらいであった。
 フランちゃんに関しては、自室に籠もって、一人手芸と読書を楽しむ毎日であった。この女の子は、それですっかり満足なのであって、他に何も望まなかった。そうした無欲な姿がまた、人の心をほころばすので、いたって愛される果報者であった。また、フランちゃんは、手芸を趣味としていることもあり、よく人に贈り物をすることを好んだ。ガラス、水晶、銀、時にはルビーや琥珀を用いて送られる品々は、大切な記念となるものである。
 ふうちゃんに関しては、万事望むがままにすることが許された。昼に起き、外で遊び、夜に寝るのがこの四人目であるが、無法天に通ずとでも言うべきだろうか、意外にもっともレミリアとパチュリーが安心して見ていたのはこの幸福児であった。

     六

「えっと、大体こんな感じですが、分からないところってありましたか?」

 フランドールが説明を終えると、その内容を咀嚼しながら、一口、紅茶を飲む慧音。

「そうだな……いや、意外な事実だった。何事にも歴史というものがあるが、さすがは一大勢力というべきか。そういう歴史があるとはな。まずは……とりあえずいくつか、聞覚えのない単語があってな。それについて、もう少し説明して欲しいと思う」
「例えば、何でしょうか?」
「まず、何人か知らない人の名前が出てきた。その人たちについて説明して欲しいと思う」
『そうですね。まずは、ブリュアン小父様から。ブリュアン小父様は、「遊侠邁進・ブリュアン」と呼ばれ、人間世界と交流を続ける十大怪奇、通称「十怪」の一人として数えられている大人物です。小父様も吸血鬼ですので、その縁があって、私たちを助けてくださいました。
 次は、ロートレックさんでしょうか。ロートレックさんは、ブリュアン小父様の親友の魔法使いで、お師匠様のお母様と師を同じくする縁の方です』
「そう、そこだ。お師匠様というのは、パチュリー・ノーレッジのことだよね。君は、彼女の弟子なのか。ということは、君は魔法使いなのか?」
『はい。もっとも、魔法と言っても、「フォー・オブ・アカインド」発動のために学んだところが大部分で、普通の魔法は、私ほとんど使えないんですけどね』
「ふむ。興味深いことだな」
『それで、お師匠様のお母様なんですが、黄金精液の魔女として、この方も「十怪」の一人に数えられています』
「その、黄金精液というのはどういうものなんだ。どうやら、君たちを誕生させるために必要だったようだが」
「簡単に言うと、生命を生み出す秘薬です。あるいは、生命そのもの……と、聞かされています。黄金精液を与えられた女は、その身に生命を宿す……お師匠様も、この黄金精液によって生命を与えられたそうです」
「それは、通常子種を与えられ、子を生むのとはまた違うのかい」
「黄金精液は、非常に強大な力を持っています。ですからこれを胤として生み出される生命は、尋常ならざる力を持って生み出されます。また、黄金精液を用いることで、通常の性交渉を必要とせずに子供を身に宿すことができます。その力を利用して、処女懐妊の神秘を用いて宿された生命が、お師匠様……最高峰の魔女が、黄金精液を用い、処女懐妊の神秘で産んだ子供のわけですから、大天才と絶賛されるほどの魔法使いになるのも当然ですよね」
「ふぅむ……ますます興味深いな。魔法の世界や、君たち西洋の妖怪の世界というのも未知で興味深いが、外の世界の話も興味深い」
『「追う者・ジャバル」についても説明しなくてはなりません。ジャバルは絶対なる神の僕で、数多の怪奇を退けている、最強の討伐者の一人です。ジャバルは今まで、五人もの「十怪」と対峙し、その一人を打ち破ることに成功しています。倒されたのは、「獰猛颶風・カンブロンヌ」。「十怪」の中でも、「無二無双・フィッツカラルド」と並ぶ、最強の呼び声高き魔人です。今回、お姉様が外界へと赴いたのも、ジャバルが次の標的として、ブリュアン小父様に狙いを定めたので、その救援に行くためです」
「う~む……諸種の事情とは、そういうことだったのか。あまりにも大きな話だな」
「お姉様を助けたいなとも思うのですが、外界でのことですから、私たちができることなんて何にもないんです」
「まぁ、そうだな。強いて言えば、みなでしっかりと、お家を守ることだろうか」
「はい……」
「フランちゃんから聞いた話だが、どうも、みんなで協力するという流れにはなってなようだね」
「……ごめんなさい。私がしっかりしていないから」
「いや、別に君を責めているわけじゃないんだよ」
「いいえ。私の責任なんです。本当は、正統の私がしっかりして、当主代理としての務めを果たさないといけないのに。でも、私は……あんまり、そういうの得意じゃなくって。だからって、やらないわけにもいかないですし」

 そう言って、涙ぐむフランドールに対して、妹様は容赦が無い。

「ちょっと。そういう泣き言を吐くのは止めてくださる? 癇に障るんだけど。大体、何よ。本当は私、正統でありたくはなかったです……みたいな言い訳がましい言い振り。そんなに嫌なら、私に正統の地位を譲って欲しいくらいですわ」
「……私だって、そうしたいくらいだよ」
「じゃぁ、そうしてくださいな。えぇ、喜んで受け入れますわ。そうよ。そもそも、どうしてあなたじゃなくっちゃいけない道理があって? 私たちとあなたとは、本当にそうまでして区別されねばならない存在なのかしら」
 
 一理ある。確かに、直系ではないのだろうが、それでも、もとは一つのフランドールなのであるから、ことさらそのことで区別する必要もないのは事実である。

「……正直に言っていい?」
「何でも言いなさいよ」
「お姉様が、あなたにだけは、絶対後を継がせたくないって」

 そうフランドールに告げられると、妹様は明らかに狼狽した。

「……え? あ、な、なに、卑怯よ。そうやって、私を動揺させるつもりなのね?」
「あのさ、私も正直に言っちゃっていいのか?」

 ふうちゃんにも、思い当たる節があったようだ。

「え、えぇ。構わないけど」
「お前、ガチでアイツに嫌われてんぜ」
「……ふ、ふうちゃんまで、な、なに言ってるのよぉ……」
「ふ、二人とも!? みんなで、それは言わないでおこうって約束したじゃん……」
「あ、あぁぁ……あぁああああああああ……」
「とどめさしてるじゃねぇか」

 妹様は、その場で泣き崩れた。
 三人は三者三様にフォローを入れるが、みな、表情には諦観の色が見える。

(うわぁ……何だか大変なことになっちゃったぞ……)

 慧音先生は正直、こういうときにどうしたら良いのかがよく分からない。そこが妹紅などに、頼りないと言われる所以なのだが。とにかく、放っておくこともできぬから、ハンカチを取り出して涙を拭いてやった。

「わ、私も……実は内心、気がついてたのよ……お姉様が、私をあんまり快く思われていないんじゃないかって……でも、それもきっと、期待の裏返しだと思って、前向きに前向きに考えてたんだけど……」
「あ~……そりゃ、逆効果だったなぁ」
「ふうちゃん……はっきり言い過ぎだよ」
「でもよぉ、フランちゃん。はっきり言ってあげたほうが、スッキリするんじゃねぇの?」
「そ、そうかな?」
「私も、そう思うよ」
「フランも? 慧音さんは、どう思われますか?」

 慧音は少し躊躇いながらも、正直に思うところを言うことにした。

「そうだな。はっきりと意見をぶつかり合わせないで、こじれる関係もあるし。こういう機会があったほうが、結局はお互いのために良いかもしれないな」

 そう慧音に言われると、フランちゃんも納得した。

「そう……ですね。うん。あのね、妹様」
「何かしら、フランちゃん」
「何度か私に、妹様の詩集とか画集、見せてくれてるよね」
「えぇ。あなたには、芸術が理解できると思いますの」
「うん。すごい上手だったし、気持ちが伝わって来たんだけどね……こう、百冊以上さ、レミリアお姉様のことばっかりな詩集とか画集を持ってるって、ちょっと、病的だと思うんだよね」
「そ、そうかしら?」
「うん……」
「うぇ? ナニソレ。私、初耳なんだけど」
「ふうちゃんとフランには、見せたことないもの」

 フランドールにも、何かとても嫌な、しかし思い当たる節があったようだ。

「……もしかしてあなた、その絵とか詩って、お姉様にお見せしたことってある?」
「えぇ、あるわよフランドール。以前、お部屋にお越しくださったときに」
「……その後、私の部屋に来てね。お姉様、私を激励してくださったんだ。正統はあなたなんだからって」
「何かを感じ取ったんだろうなぁ」
「お姉様に、あなたの部屋はどうでしたかって聞いたらね、吐き気を催したって……」
「おいおい!! アイツすごいこと言うな。吐き気を催すってさ」
「うぅ……うぅ……」

 そうして、完全にガチ泣きに入った妹様を、慧音はただただ抱き支えてあげることしかできなかった。

「へ、部屋に帰ります……」

 誰が予想しただろうか。
 上白沢慧音を紅魔館に招き、一同顔合わせのティーパーティーが、まさかの妹様を泣かせる寄り合いとなり、心折られた妹様が、ノックアウト宣言をして帰ることになろうとは。
 慧音は、何も言わずに妹様に寄り添った。妹様の部屋が地下にあるということだけは既に聞いて知っている。
 妹様と慧音の背中を見守る三人の表情には、来るべきときが来たかというような、何とも形容し難い引きつった笑みが込み上げて来ていた。

     七

 妹様と慧音が退場した後、三人は作戦会議を開くことにした。
 議題は、今後の紅魔館運営についてと、妹様をどうフォローするかについてである。

「しかし、正直に話をしたけど、これでよかったのかなぁ……」

 誰もがそう思わずにはおられない言葉を、率先して発言するのはふうちゃん。

「泣かせちゃったから、やっぱりよくなかったんじゃないか……」

 実際に姉妹の泣き顔を見た後だから、フランの言葉には説得力がある。

「でも……そうやって、先延ばしにしていたから、泣かせることになっちゃったんじゃないかな」

 フランちゃんが、ポツリと言う。

「え~? どういうことさ」
「えとね。ふうちゃん、もっと早くにさ、私たちが妹様に、それとな~く、注意できていたら、あんなにショックじゃなかったんじゃない」
「そうかも知れない。それに、みんなでナイショにして、妹様には何も言わないようにって、何だかこう、腫れ物にするっていうかな。そんな感じに思えて、なおさらショックだったんじゃないかな」
「そうそう。妹様、プライド高いしね」
「でもさ~。いつもの妹様が、そんなちょっとした注意に、耳を傾けるとは思えないだろう? 実際、それとな~く注意しても、機嫌悪くさせるだけだったんじゃないの」
「う~……そうだよねぇ。そうなんだよねぇ……」
「少なくとも私が言ったら、絶対喧嘩になってたよね」
「あ~、フランは言わないほうがイイね」
「つうか、フランは絶対言っちゃダメだな」

 その後も三人、あれこれと活発に意見を出し合うが、結局のところ、行き着くべきは……。

「みんなさ、どうあって欲しいの?」
「どうあって欲しいって……紅魔館が?」
「うぅん。紅魔館が、じゃなくって、私たちみんなが」
「う~ん……それじゃ、言いだしっぺの法則で、フランはどうあって欲しいの」
「私は、どうあって欲しいかっていうか、どうありたいかなんだけど、正直、スカーレット家の直系だとか、お姉様の次は私だとか、そういうのもう嫌。私別に、偉い人になりたいわけじゃないし。普通に毎日、楽しく生きて行きたいだけなの。でも、そういうわけにも行かないから、仕方ないかなって思って、頑張ってきたけど……」
「フラン……」
「それなら、そうでいいんじゃないの?」
「でも、そうしたら誰が当主代理をするの?」
「フランちゃんでしょう」
「えぇ~……ひ、ひどいよふうちゃん」
「まぁまぁ、私の言うことを聞いてくれよ。正直さ、当主なんて、形だけでいいじゃないの? お御輿だって。それなら、向いてるやつがするのが一番だって」
「そ、そんな……私向いてないよ……人前出るの苦手だし……」
「それがいいんだって。なんかさ、こう、フランちゃんって愛されキャラじゃん? だから、出来ないところがむしろ守ってあげたくなるみたいな」
「えぇ~、何それ……」
「まぁまぁ。大事なのは、みんなに親しまれ、慕われているかってことなのさ。どうせ紅魔館の面子なんて、考えてみろよ。私たち姉妹と妖精じゃないか。威厳とかそんなの、必要ないぜ」
「ちょ、ちょっとふうちゃん!! それじゃ、お姉様たちの努力は……」
「フラン、もうさ、私たちの自由にしようぜ。紅魔館は私たちのモノなんだ。レミリアのものじゃない。アイツはいなくなったじゃないか。まぁ、帰って来るかも知れないけどさ、そんときはそんときで、レミリアの紅魔館になればいいんだ。レミリアの背中を追って、自分たちの色とは違う紅魔館を作るのが、本当に紅魔館を盛り上げることになるのか? そうじゃないんじゃないの?」
「でも……」
「なぁ、正直になれよ。フランだって、レミリアの色と自分の色が違うってこと、分かってるんだろう? フランは、レミリアの妹っていうよりは、パッチェさんの子だぜ。図書館で引きこもって、むきゅむきゅ言いながら研究して、興味の無いことや嫌なことはな~んもしない……それがフランの色だって」
「な、なにそれ……酷い言われようだし……」
「でもそうじゃん。別に、大して上達するわけでもないけど、魔法の勉強してるのが楽しいんだろう? じゃぁ、それでいいじゃねぇか。私はさ、ただ、姉ちゃんたちが辛気臭いツラしてるとこっちも辛気臭くなっちまうから、嫌なんだよ。みんな、やりたいことして、楽しく過ごせばいいじゃねぇか。だからよぉ、あんまりみんな、ぐだぐだツマラナイことで思い悩んで、くよくよしたりめそめそしたりしないでくれよ。私はみんなが楽しそうな、紅魔館が好きなんだからよ……」
「ふうちゃん……」

 いつもは自分勝手で、悩みも何もないかのように思えるふうちゃんだったが、実は、誰よりもみんなのことを考えていたのかも知れない。そうして、ふうちゃんのいうことは、一理あると思うのだ。そもそも、みんなが楽しそうにというのは、みんなが幸せであるようにと考える、レミリアの言に通じるところがないだろうか。そう、フランドールもふらんちゃんも、思わされたのである。

「……ねぇ、二人とも。私さ、気が弱いから、人前に出ると緊張するし、あんまり知らない人とお話したりするのも得意じゃないんだけどね、それでも、みんなが支えてくれるんだったら……当主代理、してもいいよ?」
「お、本当か? いいぜ、みんなで支えてやるよ。なぁ、フラン?」
「うん、もちろん!! 四つ子の姉妹だもん。一緒に助け合っていこうよ。お互い、得意なこと、苦手なことがあるんだからさ。協力し合えば、うまくやって行けるよ」
「そうそう。何とかなるなる。美鈴もよく言ってたぜ。めいほわんしー、だっけかな。めいふわーず、だっけかな。なるようになる、なんだってさ」
「うんうん。みんなで頑張ったら、何とかなるよ。そんな気、私もして来た」
「フラン……ふうちゃん……うん、大丈夫だよね。よし、みんなで頑張ろう!!」
「おう、それじゃ、これで決定だな。じゃ、後は妹様か」
「うん。もう今日は日が昇りそうだし……妹様も一日置いたほうが気持ちが整理されてると思うし、また明日、みんなで妹様のところに言って、お話しようね」

 そうして三人は、晴れ晴れとした顔で、お互いに笑みを交し合ったのであった。

     八

 妹様を部屋に送り、せめて思いの限りを聞いてやることで、心を楽にさせてやろう。それが年長者である私にできるせめてものことだと考えた慧音だったが……妹様がそれから16時間、休むことなく語り続けるとはさすがに予想していなかった。
 
「ですから私も、もしかしてということは思っていたのです。でもですよ。どうしてそんな辛い現実を受け入れられるでしょうか? 地獄ですわ。お姉様が私のことを好いていないなんて。ねぇ、お姉様ほど素晴らしい方はこの世界にはいらっしゃいませんわ。あなたもそう思われるでしょう?」
「あぁ……そうだな……」

 慧音の目には、もう、力が宿ってはいない。

「そう、あなたには特別にこれを見せてあげる。これはね、お姉様が五年前のお誕生日の時にお召しになられていたドレスなの。ステキでしょう? 私の大切な宝物でしてよ」

 虚ろな眼差しの先にあるものを、もはや慧音は目に映すことができない。

(どうしてレミリアが五年前の誕生日に来ていたドレスをこの子が持っているのだろうか……)

 そんな疑問がふいと浮かび上がってきたが、慧音はそれ以上考えることを止めた。

「私の絵も、年を経るにしたがって上達しているのが分かるでしょう。本当は、私たちって、みんな不器用なのよ。だから、絵にしたって、ホラ、最初はこんなで、見せるのが恥ずかしいくらいだわ。でもね、今ではもう、みんなに見せて自慢したいくらいなのよ。私のお姉様がどんなにステキなお方かって」

 何千枚見せられたか分からないレミリアの肖像画は、目に見えずとも頭の中で自動再生されるほどに鮮明に焼きついている。

(これは本当にレミリアなのか……)

 初期の絵は、ある意味でレミリアかどうかを疑ったが、最近の絵は別の意味でレミリアかどうかを疑うものであった。

「これがね、十五歳の男の子のお姉様。こっちが、五歳のお姉様。そうしてこっちはね、二十三歳でお母さんになっているお姉様……」

(それをレミリアと呼んでいいのだろうか……)

 慧音の考は、けだし正論である。

(私にできることは、こうして話を聞いてやることくらいだから……)

 昨晩、この泣き崩れる少女にかけた言葉を思い出す。後悔はない。こうして、胸に溜め込んだ思いを吐き出すことができるだけで、どれだけ人は救われるだろうか。慧音はそういった、苦悩を共有する存在を得ることができずに苦しんできたのだから、その実感は一入である。
 しかし今、ある一つの疑問を覚える。
 
(この子は、吐き出すことで本当に心が整理されるのだろうか。むしろ、思いを外に出せば外に出すほど、段々とエスカレートしていき、留まるところがないのではないだろうか)

 充たされることで満足を覚えるのではなく、充たされてしまうことでいっそうの許容を貪欲に追い求めるようになるという、心というものの弱さを垣間見ている気がするのである。

 すっかりくたびれて、頭も心も限界に至る直前、地下室を降りる足音が聞こえてきた。人の来ることがないこの地下室。足音は非常によく響き渡る。

「誰……かしら?」

 妹様が、ぼんやりとした顔で戸の方を眺めていると、トントンと、ノックをする音。

「フランだけど、入っていいかな?」
「え? フランドール? そ、そうね。別に構わないけど……」
「あ、フランちゃんとふうちゃんも一緒なんだけど」
「えぇ。別にいいわよ」
「それじゃ、お邪魔しま……す……」

 そこでフランドールたちの見たものは、「吐き気を催す」ほどのレミリアグッズで充たされた紅とピンクの目に悪い部屋であった。
 初見のフランドールとふうちゃんは、戦慄のあまり息をするのも忘れた。
 何度か見たことのあるフランちゃんですら、気恥ずかしさのあまり正面を向くことができない。もちろん、前を向かずとも、視線の先にあるレミリアクッションが現実逃避を許さない。生涯をレミリアに捧げ、魔法使いを目指した男の部屋もかくやという有様である。
 三人はお互いに顔を見合わせる。
 だが今日の三人はいつもとは違うのだ。
 明白な目的と、確かな意志を持ってこの場に赴いたのである。

「ね、ねぇ。昨日さ。あの後、私たち三人で話し合ったんだ。これからどうしようって」

 勇気を振り絞り、フランドールは妹様に話しかける。
 腐海に沈みし姉妹を前にして、尻込みすることなきその心意気やあっぱれである。

「お、おう。やっぱりさ。姉ちゃんたちが、なんかしけたツラしてるの見るとさ、私もつまんねぇんだよ」

 良将たるものは勝ちを勢に求める。
 フランドールの勢いに勇気付けられ、ふうちゃんもこれに便乗する。

「誰が紅魔館当主代理かとか、そういうのは関係なくね、みんなで一緒に協力して頑張ろうって。適材適所ってあるじゃない? あれって、とてもいい言葉だと思うんだ。私に特異なところがあって、みんなに苦手なところがあるじゃない。それでね、みんなの苦手なところを、代わりに私が頑張るんだって。そういう言葉だと思うの」

 フランドールも、ふうちゃんも、うんうんと相槌を打つ。

「だからね。妹様の力が必要なときは、みんなのために力を貸して欲しいの。代わりに、妹様が私たちの力が必要なときは、みんなで協力するからさ」
「そういう姉妹として、みんなで助けあることができたら、とってもステキだなって……」
「まぁ、なんていうかな。誰でもやりたくねぇことってあるし、嫌いなこともあるし。逆に、やるなって言われてもやりたいこととか、好きなことってあるだろう? そういうのをさ、単純に役割分担できたら、お互いラッキーじゃん?」
「あ、あなたたち……」

 三人の温かい言葉に、妹様は覚えず涙がこぼれた。
 皆、不完全な存在である故に、その不完全さを支え、補ってくれる存在が必要なのである。そうした存在が与えられ、そうした存在への感謝を覚えることで、人を愛しむ思いと、誰かを支えてあげたいという思いとがはじめて生じるのである。そうして、誰もがそこから始まるのだ……。

「だからね……だからね、妹様……」

 フランちゃん、感極まって涙が堪えられない。

「もう、慧音さんを寝かせてあげて……」

 慧音の心は、男性化したレミリアのはだけた姿を見た時点で、もう既に……。

「あのね……私、みんなのことを誤解してましたわ。今なら、みんなにだったら、これを見せても、恥ずかしくないですわ……!!」

 そうして取り出すのは、何重にも封印を重ねられた一冊の本。どうやら妹様お手製の魔道書らしい。

「フランとふ~ちゃんは、慧音さんをお部屋にお連れしてあげて。妹様。今日は私が、とことん付き合うから……」
「フランちゃん……ケモショタって、知ってる……?」

 そうして妹様の熱い舌は、第二ラウンドを開始したのであった。

     八

「私ね、お姉様のために詩を作ったの。ねぇ、あなた。聞いてくださらないかしら?」
「私は、諸芸の道には疎いのだが、それでもよければ」
「大丈夫よ。詩は心で鑑賞するものだから……」
「そうか。なら拝聴しよう」
「お姉様。お姉様。あぁ、麗しいお姉様。お姉様がどこにいらっしゃっても、私はお姉様を身近に感じております。そうして何をお話されても、私は全て聞いております。そうしてその香りもまた……」
「う、うわあああああああ!!」

 そう叫ぶと、慧音はハッと目を覚ました。
 まさかの全世界ナイトメアに、上白沢慧音はブラインドクラッシュ寸前である。

(音に聞く悪魔の力が、あんなに凄まじいものだったとは……レミリアストーカーとは、妹様のことだったのか)

 寝起きの頭は倒錯していて、そんなことを考えてしまう。

「ん~……うるせぇ……」
「あ、すまない」

 このとき始めて気がついた。慧音の布団の中に、ふうちゃんが入り込んでいることに。
 慧音はどういう状況になっているのかを、冷静に分析した。
 どうやら昨日、妹様の、徹夜でお姉様を聞いていると、脳が呆けて何もかもがあやふやになったのであるということ、そうしてそこに、どうやら他の三人が来たということ、そこで皆が和解したのであるということ……。

「そうか、その後私は、この部屋にまで案内されたんだったな」

 そうして、泥のように眠りこけたということ。
 己の価値観とは百八十度違う……いや、価値観を超越した何かと激しい接触をしたことで、慧音の心的負担は極限に至ったのである。
 しかし、何故ふうちゃんが一緒に寝ているのかということについては、よく分からなかったが、何分相手は子供であるから、そういうこともあろうかと思って特別気に留めなかった。

 しばらく、ぼうっとしていると、ふうちゃんが目を覚ます。

「ん~……おはよう」
「おはよう」
「あ~、大変だったな、昨日は。まさかあんなビックリなことになってるとはなぁ」
「驚いてしまった」
「驚くわなぁ」
「悪いことをしてしまったな。ちゃんと理解してあげられなかった」
「いやぁ。あれはちょっと、理解するの無理だぜ。ちょっと、ヤバイよな」
「そんなことはない。誰にだって、少しくらい変わったところって言うのはあるものだよ」
「そうか。あんた、いいヤツなんだな」
「だが、どうしてあの子には、レミリアが男性に見えるのだろうか」
「うん。まぁ、それは……別に、本当に男性に見えていたわけじゃないんじゃないかな……」

 妹様を必死に理解しようとするが、どうしてもできない慧音は、己の至らざるを嘆かざるを得なかった。

「まぁ、そんな気にするなよ」
「ありがとう。そうだな、私もまだまだ修行不足だということ。少しずつ、分かるようになっていこう」
「うん。頑張ってね……」
「それよりも、みんな、仲直りできたようだな」
「おう。何だろうな。みんな、それぞれ思うところがあったんだけど、なかなか正直に言い合うことなんてなかったからよ。フランも、本当は当主様なんて柄じゃないから嫌だったらしいし、妹様は正直ただ寂しかっただけっぽいし、フランちゃんはフランちゃんで何もしないでいるのは悪いなって思ってたらしいし」
「君は?」
「私は……なんかさ。姉ちゃんたちが楽しかったら、私も楽しいし、姉ちゃんたちが悲しかったら、私も悲しいし。どうせだったら、みんな楽しそうにして欲しいなって思ってたんだ」
「そうか。みんな、いい子だな」
「まぁ、そういうわけで、とりあえず当面は、フランちゃんが当主代理をすることになったよ。で、フランドールはパッチェさんの代わりになるってさ。ヤブだけど、魔法使いだし。妹様は、妹様でいいんじゃないってことになってさ。というかアレは、地下に封印されていたほうが……」
「そうか。陣容も、ある程度元通りに揃うんだな」
「そそ。まぁ、後は咲夜と美鈴だけど、私が美鈴の代わりするから、後はメイド長だけだなぁ」
「……え?」
「いやな。みんなが頑張ってるんだから、私も協力してやらないとって思ってね」
「いや、それはいいことだが……君が門番をやるのか?」
「おうよ。何度か、美鈴と一緒に門番やったことあるんだぜ」
「……止めておこうよ」
「え? 何でだよ」
「だって……そうだ。そもそも門番が見張るのは日中だろう。夜に紅魔館を襲うようなものはいないからね。吸血鬼の君には荷が重いよ」
「大丈夫大丈夫。私、結構昼夜逆転してるから」
「だが……そうだ。紅魔館の門番には、腕自慢の人間が勝負を挑むことも多いと聞く。君にその代わりができるのか?」
「おう、任せて置けよ。欠片も残さないぜ」
「よし。私がやろう。門番は私がやろう」
「えぇ!? 何でだよ。アンタ、大事なお客様だろう? そんなわけにはいかないよ」
「いや、私は昔から働いていないと気がすまないたちでね。お客様だからと言って、何もしないではいられないよ」
「え~。じゃぁ、私はどうするんだよ」
「メイド長をやりなよ」
「絶対無理だって」
「大丈夫だよ。みんなと協力して頑張れば大丈夫」
「そうか~」
「門番よりは、絶対適任だと思うよ」
「う~ん、そうまで言うなら……」

 こうして、新生紅魔館の門番は慧音、メイド長はふうちゃんに決まったのであった。

     九

 メイド長となったふうちゃんは、自分の意外な力に驚いていた。
 まず、部屋でメイド服に着替える。着替えながら、今日のお茶会はどういうセッティングにしようか、お菓子は何を用意しようか、一人ぶつぶつと言いながらイメージする。そうして、決定したら部屋へと向かう。するとどういうことだろうか。概ね思ったとおりのセッティングが完了しているのである。
 ふうちゃん、一目して合点した。

「なるほど。これが私の力か!!」

 新たな力の目ざめである……わけはない。どこかの誰かが、用意をしてくれたに過ぎないのだが、それでも二度三度同じことが繰り返すにいたって、もはや疑いようもなくなった。

「なるほど、無意識にこんな力に目覚めてるとは……私、スゲェ!!」

 この力、すこぶる便利である。
 何せ、思えばそれで良いのだから、どこで何をしていたって構わない。
 結局ふうちゃんは、一日、慧音と一緒にいることが多かった。
 慧音のほうでも、この純朴で粋なところのある少女と一緒にいることを好ましく思った。育ちの良さというものだろうか。案外この少女は、聡明で・寛容で・思いやりがあるのだ。人の話はよく聞くし、人の心もよく分かる。ただし、人の言う通りにするかどうかは別であるが、これはむしろ狂の気であると、慧音は長所に数えている。
 慧音が門番をするようになってから、紅魔館の門の前には、巨大なパラソルとティーセットが備えられるようになった。そうして、日陰で本を読んだり、ふうちゃんとお話をするのが、慧音の新しい日々なのである。

「ねぇねぇ。今日は何を食べたい?」
「何でもいいよ」
「何でもいいが一番困るんだよ」
「それじゃ、少し珍しいものが食べたいな」
「珍しいものって?」
「西洋料理は何でも珍しいな」
「それじゃ困るんだって」
「でも、私は西洋料理についてはあまり知らないから」
「それもそっか。てか、だから珍しいんだよね」
「あぁ」
「じゃ、サンドイッチでいっか」
「いいんじゃないか」

 サンドイッチはふうちゃんにとって、部屋に持って帰って、後で食べるのに一番都合が良い料理であった。慧音はもとより食に拘らぬし、他の三人も、もとより小食であるから、美味ならば特別文句の無い人たちだった。
 そうしたふうちゃんの意を察して、この無意識の力は、少し多めにサンドイッチを拵えてくれるのであるから、全くふうちゃんにとっては便利な力であった。ただ、誰も、本当にふうちゃんが力に目覚めたとは思っていなかった。
 だがそんな無邪気にふうちゃんを見ることは、誰の心にも優しく穏やかな気持ちを芽生えさせることになるのだった。紅魔館はあたかも、一種の清涼剤を得たかのようなものである。

 上白沢慧音は、この四人の姉妹を見て、仁という言葉を思わずにはいられなかった。
 『論語』においては、「仁」は幾度も繰り返し問われる言葉であるが、孔子はそのたびに、異なる回答をしている。場合に寄っては正反対の答を返すときもある。どうしてだろうかと、慧音はよく悩んだものだ。
 しかし寺子屋を営みはじめると、忽然、その答を悟った。
 人間は、それぞれ、まるで異なる資質を持つのである。ある人には正解となる言葉も、他者には誤りとなることがある。ある人には薬となるものも、他の人には毒となるのと同じ道理だ。
 親鸞が弟子、唯円の書いた『歎異抄』において、「自己疎外」という言葉が非常に重要なものとして説かれている。人間は、御仏の教えが尊いものと知りながらも、その教えを実践することができないほどに弱いのであるということを、忘れてはならないというのである。なるほど、その通りなのだ。だから慧音も、寺子屋で、妹紅の言う通りに、うまく子供たちに教えを授けることができなかったのだ。
 慧音はそれ故、自己の不完全さを知り、その不完全さが面に出ないように自らを学問で鍛え、また一方にあるその長所を発揮できるように精進することが大切であると考えた。それが慧音の行き着いた「仁」である。それ故に「仁」は、人それぞれ、形を変えるものなのである。
 だが今、その「仁」についての考えが、どうやら狭すぎたように思われるのだ。
 「仁」はただ、一身上に当てはめるべき事柄であろうか。
 むしろ集団に適応してこその「仁」ではあるまいか。
 フランの個性と、妹様の個性と、フランちゃんの個性と、ふうちゃんの個性と、また慧音の個性とそのほか多くの妖精メイドたちの個性があり、その持ち得る資質と財産と望みとがあるのだ。そうした個人の集合としての集団があり、その集団の内部で生じる問題と外部から来る課題とがある。それらを、その都度、もっとも適した人物が解決に当たることで、欠点は面に出ることがなく、ただ長所のみが発揮される……それが、「仁政」というものではなかろうか。そうした「仁政」をなし得る為には、ただ才と財とが集うだけであってはならず、きっと、絆で結ばれていなくてはならないのだろう。その絆こそが、おそらく、幸福と愛とであろうことを、慧音は思わざるを得なかった。おそらくは、あの英邁なるレミリア・スカーレットは、そのことを直感的に理解していたのではないだろうか。そうしてこの四人の妹たちも、天性の才覚から、同じ結論へと至ったのではないだろうか。

「ねぇねぇ、ケーネ」
「どうした? ふうちゃん」

 一人そんなことを考えていると、ふうちゃんが尋ねてきた。

「美鈴がさ、めいほわーずだったか何だったか、なるようになるさみたいな意味で、言ってたんだけど、なんだっけかなぁ」
「あぁ、それはきっと、没法子(めいふわーず)だな。なるようになるさ……中国は、何度も大きな国家改変を経験している国だからな。そうした経験から来る強さみたいなのが、滲み出ている言葉だね」
「へぇ。めいふわーず、ね。めいふわーず、めいふわーず……」

 そう何度も反芻する、この小さき人の頭を撫でながら、上白沢慧音は、今日も幸福な一日を過ごすのであった。

     跋

 こうして紅魔館の陣容は、瞬く間に整った。
 レミリアはフランちゃんに取って代わり、パチュリーはフランドールに取って代わり、咲夜はふうちゃんに取って代わり、フランドールは妹様で、門番は慧音先生になっていた。誰も予測し得なかった陣容ではあるが、形はすっかり整ったのである。
 こうして紅魔館は、レミリアの館から、フランドールたちの館へと姿を変えた。そのことが、レミリアへの呪縛を弱めることになった。もはやレミリア一行の帰るべき故郷は、紅魔館ではなくなったのである。
 では果たして、彼女たちはどこへ行くべきなのだろうか。
 それは外界において、彼女たちが新たに見つけなくてはならないのである。
 レミリア・スカーレットは、幻想郷を去るとき、もはやこの地には戻らぬことを覚悟していた。八雲紫がレミリア一行の外界行きを認めたのも、レミリアの覚悟とは無関係ではない。
 「追う者・ジャバル」が持つ能力は、「チャーチ・オン・ザ・ヒル(聖なる光)」と呼ばれる、最強の結界である。エホバに仇なす全ての異能は、この結界に触れると霧散する。ジャバルにとって、幻想郷に入ることはあまりにも容易である。大結界は、ジャバルを拒絶し得ないのだ。したがって、もし、レミリアがブリュアンを紅魔館に受け入れると宣言すれば、ブリュアンを追って、ジャバルも幻想郷へ来ることになるであろう。すれば必然、同じ「十怪」の一人である八雲紫にも矛先が向くことになろう。そうして、紫のジャバルに対する相性は最悪である。スキマは全て無効化されるし、式神は触れるだけで消えてなくなるのだから。

 さて、現代において、外界では怪奇の存在はほとんど無いものと化していた。
 だが、それは決して、本当に妖怪がいなくなったということを意味しない。
 実際は、「妖怪の地下化」が進んだのである。即ち、人間同様に生活し、人間世界の中で、法も秩序も顧みず好き放題をやらかすという、妖怪の人間への同化とマフィア化が進んだのである。人間世界に溶け込み、妖怪の力を用いれば、百人や二百人、人知れず殺すことや嬲ることは簡単である。それらは全て、単純に統計の渦に紛れ込むのだから、妖怪からすれば面白い。ある妖怪は一千人を呪い殺したが、それらが全て、「自殺」と「心臓発作」、「脳卒中」による病死として処理されたことに笑いを堪えることができなかった。またそうしなくとも、例えば外科医となれば、好きなだけ人間の腸を弄ぶことができる。助かる見込みのない患者のために、果たして何者に祈るというのか、それでも祈らずにはいられない家族の姿は傑作である。

 人間世界に妖怪はいなくなったのか。
 事実は異なる。
 人間世界が、悉く「伏魔殿」へと化したのである。

 人間世界と深く交流する十大怪奇の存在は、「十怪」として評される。
 「神出鬼没・ハーミット」こと、八雲紫もその一人である。
 かつては「十怪」に選ばれることは、非常に名誉なことであった。それは、妖怪にとっても、人間にとっても、尊敬を得るだけの資格がある怪奇であることの証明だったからである。
 しかし現在、「十怪」のうち、二つは長く欠番となっている。一つは「奈落の聖人、ジャン・バルジャン」。もう一つは「黄金精液・ノーレッジ」である。何れも古き良き「十怪」の一人である。
 残りの八怪のうち、かつてと同じように尊称を授かっているのは三人。「遊侠邁進・ブリュアン」「文豪遊徒・ユーゴー」「神出鬼没・ハーミット」のみである。
 では、後の五怪はどういう存在であるか。それは、人間世界にあって、地獄を体現していると忌み評される怪奇である。
 例えば、「無二無双・フィッツカラルド」は、世界中の紛争に参加し、片っ端から皆殺しにすることを生甲斐にしている最強の魔人である。指を弾くだけで全てを分断するこの男は、海を走って渡り、空を蹴って飛ぶという最強の身体能力を有している。
 「獰猛颶風・カンブロンヌ」は、世界最大の軍事企業、DICEの影の総帥であるが、その目的は戦争の火種となり、世界中に戦火を広げることである。ただし、既にカンブロンヌは、ジャバル率いる教会の面々が、ベネディクト法皇の勅命により、これを討ち取っている。
 ジャバルが属する教会も、十怪の一人を輩出するという汚名を着ている。「暗黒神殿・ダーマー」と呼ばれる魔人は、青髭が行った暴虐の数々が児戯に思えるほどの凄惨極まりない行いを繰り広げる、アメリカ合衆国ミルウォーキー発祥の、キリスト系カルト教団の教祖である。ダーマは生後半年以内の赤子より他には食さないというほどの徹底ぶりであるから、その異常性は察せられよう。聖なる生贄として、強酸に妊婦を投じるという狂気の業が、この教団では日常的に行われている。
 残りの二怪も、世界中に究極のドラッグをばら撒く鬼畜医師・アルソンと、絶対昏睡の魔眼を用いて世界中の若く逞しい男の肉を食い漁ることで永遠に若く逞しい肉体を維持しようとしている人狼という危険な面子である。

 歴史はまさに混沌期に突入していた。
 人々は人間こそが歴史の主役であり、そうして科学の発展のみが人類史に新たな歴史を刻むものと思い込んでいるが、全くの思い違いである。
 歴史は、妖怪のものとなったのだ。
 人知れぬ妖怪の歴史こそが、今、人類史を左右するという局面にある。
 その歴史が、まさに動き出そうとしていた。

 「十怪破り」を達成した、「追う者・ジャバル」が、第二の「十怪破り」の標的に、「遊侠邁進・ブリュアン」を選んだのである。そうして他方で、「文豪遊徒・ユーゴー」が、「無二無双・フィッツカラルド」の凶刃により、右手を失うという重傷を受けた。「十怪」狩りと、「十怪」同士の殺し合い……そうした、真なる怪物たちの戦いの中に、身を投じようとする若い吸血鬼とその仲間たち。「紅魔の槍は義の刃」と謳われる一行を率いるのは、後に「七英雄」の一人に数えられる若き吸血鬼の乙女、「威風堂々・レミリア」である。
幻想郷を去ったレミリアお嬢様が、オリキャラ相手に奮闘する物語……の、プロローグが終わったのでした。
道楽
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.810簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
舞台が幻想郷から離れる可能性やオリキャラ跋扈の可能性を考えると個人的にキャパを超えてしまいますが
作品自体は引き込まれる良作です。
常にフルスロットルというか、終始くどいので読むのに疲れるのが難点として心の中で微減点。0.5点くらい。
そこもまた味ではありましょう。

慧音先生が紅魔館入りする下りについていけなかったのでこちらを読んだ後前作を読みました。
今作を読んだだけでは慧音先生の人間関係や社会的役割を今後どうするのか腑に落ちませんでしたが
前作を読むことである程度了解しました。
続きものであることが明言されている以上、
前作を読まずに今作を読んで受けた不利益はすべて読み手に帰属するものなので評価外なのですが、
前書きには慧音先生についても一言触れておいていただきたかった。
前作から読めばもっと楽しめたのにと後悔しております。
4.100名前が無い程度の能力削除
点入れ忘れ不甲斐ねぇ。3の者です。失礼致しました。
5.100名前が無い程度の能力削除
GJ.
6.90名前が無い程度の能力削除
素晴らしきヒィッツカラルドじゃねぇかw
7.100名前が無い程度の能力削除
せ、説明がくどい。読んでいてかなり疲れました。
ですが、斬新で面白い内容でした。プロローグが終わってこれからどんな物語が始まるのか楽しみです。
8.20名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)
11.90奇声を発する程度の能力削除
これからどうなって行くか楽しみです
13.90名前が無い程度の能力削除
なんかビッグファイアのためにとかいいそうな魔人がいる不具合w
(某動画で配役がフランドール=ヒィッツカラルドだったのも記憶に新しい)

説明文とオリジナルがマシマシで読みづらいのを考慮して-10
14.100名前が無い程度の能力削除
個人的には「妹様」に頑張って欲しいw

>レミリアをして吐き気を催すと~

>「お前さあ、ガチで嫌われてんぜ」

この辺りの記述で笑っちゃったけど
23.90名前が無い程度の能力削除
もしかしてこの外界って『ジャイアントロボ』の近似値なんじゃ…
いや多分勘違いなんだろう
ただ作品単体としてみると少し話がぶつ切りになっているのではないかと思います
次もお待ちしていますね
24.90名前が無い程度の能力削除
ちょっと癖が強すぎるかな
でも設定が独特で読んでて非常に面白い
続き楽しみにしてます
25.90名前が無い程度の能力削除
十怪の面子の設定がどれもどこかで見たことがある様な何かを感じて笑ってしまった。暗黒神殿・ダーマーってちょっとそれ職業変更のメッカじゃないですかーw

フランドールが四姉妹(?)な設定はよく見かけるけど、どうしてそうなったかというところを深く掘り下げたのは初めて見たような気がしますね

それにしても、当初はレミリアとフランドールとパチュリーににんっしんさせて力を分裂させる予定だったというのですが、どちかというとその出産話の方が見たか(ry

……十怪最強の素晴らしい方がなんか最終的にいしのなかにいる状態になって死んでしまいそうな気がする不具合があるのですがw

ちなみに評価点の-10分はもうこれ半分東方じゃなくね? というツッコミ分ですのであんまり気にしないでくださいw
28.100名前が無い程度の能力削除
めっちゃ面白かったです(小並感ですみませんw)。
ふうちゃんや慧音先生のいうとおり、適材適所は大切ですね。
個性の違うもの同士補い合うことによって、短所をカバーし
長所を最大限発揮することは、集団にとっての基本であり
永遠の理想なんでしょう、きっと
まあ、人間意地悪したり優劣や正誤や公平感や平等を求める
ので、それこそ絆でもない限りなかなか困難でしょうけどw
でも、こんなことをいえるふうちゃんは、皆に大切に愛されて
育ったんでしょうな
しかし、妊娠で分身してたらどうなってたかは気になるところ
分身でありながら親子、妹でありながら娘とかそれも面白そうですw
妹様かわいいよ妹様
30.80名前が無い程度の能力削除
面白いな~この縦横さ。
したたかに強靭に物語りますね。
こういう作品に出会えるというのも、この場のいいところですね。

しかしフランはみんな可愛いな。
32.100名前が無い程度の能力削除
どこまで行くのか見てみたい。100点。
33.100名前が無い程度の能力削除
この手の厨二感が大好きです
続きに期待きます
34.90名前が無い程度の能力削除
おいなんか素晴らしい人がいるぞwwww十怪がまんま十傑衆に思えてきたwwww
だいぶんオリジナルワールドに物語が旅立ってきてますがこれはこれで続きが楽しみです。
また続編を上げる際には、タグにオリジナルを付けたほうがいいかもですね
35.100名前が無い程度の能力削除
フィッツカラルドさん!?こんなところでお会いするとは!

あーあ、こんなに世界観を広げちゃって・・・!!!!!!!
十怪とか、七英雄とか、伏線とか…こんなとてつもない大風呂敷をきっちり畳んでくれるのですね!?
私はあなたに期待しています。大風呂敷広げたまま終わったら、あたい許さない!
このシリーズの世界観の門出を祝って100点です!

最終戦争少女伝説を思い出したのは、あたいだけだろうか…
37.90削除
>慧音にとっては、フランちゃん意外は直接の面識がない。
→以外
 
>(どうしてレミリアが五年前の誕生日に来ていたドレスをこの子が持っているのだろうか……)
→着ていた

>あれって、とてもいい言葉だと思うんだ。私に特異なところがあって、
→得意

フラン4パターンは面白い発想でした。
39.100名前が無い程度の能力削除
常時フォーオブアカインドか