Coolier - 新生・東方創想話

幽香とエリーの出会い 第一話

2012/08/19 03:25:32
最終更新
サイズ
7.92KB
ページ数
1
閲覧数
495
評価数
3/9
POINT
540
Rate
11.30

分類タグ


夏。
梅雨明けの空で、射命丸文は煩悶としていた。
ここ数週間、密かに慕う風見幽香に会えないでいたのだ。
せめて手紙を、と烏に託して三度ほどやりとりをしたが、会えないことを確認し合うのは文にとって思ったよりも辛いことだった。
「幽香、さん・・・」
今のところ片思いとはいえ、二人きりで会う時の幽香は文を見てくれる。
幽香にとっては普通の友人との付き合いだったとしても、文にとっては何よりも貴重な時間なのだ。
一時間、いや、三十分でもいい、幽香を独占したかった。
風見幽香をただの花好き妖怪としか知らない者には、何を言っているやらと笑われるだろうが、彼女と二人きりになるというのは簡単なようでいて相当難しい事なのだ。
主な活動場所として知られる太陽の畑は、幽香を恐れない妖精と幽香を慕う妖精が大量に隠れ住んでいるし、意外と訪問者も多い。
いっそ家に押しかければいいという意見にも文は肯きかねる。
好感度を下げるようなことはしたくないし、正直なところ幽香の住む場所を文はつかみきれていない。
幽香の家は太陽の畑にあると思われているが、あそこにあるのは荘園の管理用の小屋のようなものと文はみている。張り込みをして調べたが、日が落ちると家から幽香の気配が消えてしまうという不可解な事が起きるのだ。すきま風も幽香の存在を伝えては来ない。さらに、どこかに幽香の住む館があるという噂も各所で耳にする。
そのうえ、季節の花を見に出かけることも、冥界や八雲家にお茶を飲みに行くことも、「魔界に花を咲かせに行ってきたの」なんて嘯いて数ヶ月行方をくらますことも、すべて同じ気軽さで行う幽香を行き当たりばったりで捕まえるのは巫女並みの勘か嘘みたいな幸運が必要に違いなかった。
自分の予定を調整し、幽香の予定を開けてもらい、二人きりになれる機会をうかがう。
一友人に過ぎない文には地道な手順を踏むしか道はないのだ。

想い人の幽香は、今頃紅魔館のティーパーティーに出ている。
主催はもちろんレミリア・スカーレット。招かれたのは風見幽香、八雲紫、そして博麗霊夢。
幽香はただのお茶会と言ったが、そんな事はないだろう。
吸血鬼の館に古参の大妖怪達と博麗の巫女がいる。
新聞記者でなくとも何かある事に気づく。
交渉? 調停?
招かれていないのなら来てはいけないわ、とも言われた。
きっと記事に出来ない話し合いなのだろう。
それに八雲紫にはカメラの中のフィルムを選択して焼かれたこともある。
記事にできない。
幽香と二人きりになれない。
ついでに言えば、大口契約者レミリアの気分を害するのも好ましくない。
文に紅魔館に忍び込む気力は沸かなかった。

人里のはるか上空で風に吹かれながら文は漂っていた。
風の中で転がり空と大地を交互に見やる。
「ネタネタ寝た妬。雲の上でも地の底でもかまいません。どこかにネタはないものですかねぇ」
やる気なくつぶやく。
事件の一つでも起きれば気分も切り替わるのだが、今日も幻想郷は平和なようだ。
「あや?」
何かが視界に止まる。
人里の表通り、人混みの中に赤い服がちらりと見えた。
鷹ほど目がいいわけではないが、文の視線が地上に吸い寄せられる。
白い日よけが揺れ、赤いスカートの裾が見え隠れした。
文は風よりも重力よりも疾く、一気に急降下した。

隼のような急降下の途中で気がついたが、人ごみを割って歩いていたのは幽香ではなかった。
日よけは鍔の広い帽子だったし、赤い服は深い紅のドレスだった。
速度を落とし、落ち着いて地面に降りようとすると、金髪の少女が顔を上げた。
「あら、天狗の新聞屋さん」
「どうも、文々。新聞です。こんにちはエリーさん」
「こんにちは射命丸さん。幽香ちゃんじゃなくてごめんなさいね」
「はははは、何をおっしゃるやら。エリーさんが見えたから急いで飛んできたんですよ」
背の高いエリーと視線を合わせるため、飛んだままにすることにした。
エリーは柔和で人あたりがいいが、油断のならない相手だと文は見ている。
初めて太陽の畑で会った時の自己紹介からして、即要注意リスト入りだった。
「私はエリー。幽香ちゃんの愛人で専属の死神なの」
「ふふふ。この通りのお馬鹿だけど、仲良くしてあげてね」
皮膚の限界まで耳を引っ張る程度ですませている事から、相当昔からの友人なのだろう。
注意深く親交を深める必要がある。
「幽香さんから、今日は紅魔館のティーパーティだと聞いていますが、エリーさんは出席されないので?」
「ええ。帰りに迎えに来てとは言われてますけど」
「そうですか。今、お時間いただけます?」
「取材ですか?」
「はい。エリーさんの事がもっと知りたいんです」
「うふふふ、そうですねぇ。買い物も一通り終わったし、私も射命丸さんのことが知りたいし、少しお話しましょうか」
「では、あちらのカフェーで」

角にあるカフェーは客足が落ち着いたところのようだった。夏の日差しを嫌ってか、外にあるテーブルと椅子には誰もいない。
「私は冷やし抹茶で。エリーさんは?」
「私はエスプレッソ2ショットを砂糖トロトロで」
「はい。少々お待ちください」
女給にはエリーの注文が通じた。
「トロトロなエスプレッソ? 砂糖を何個入れるんですか?」
「トロワトロワで六個ですよ」
「それって甘すぎというか、そもそも溶けきらないんじゃ?」
「苦いのも甘いのも溶け切らないのも、それはそれでいいものなんです」
「ほほう、なかなか面白い考え方ですね」
初夏とはいえ、夏の午後にホットエスプレッソを飲むのも、きっとエリーの生き方なのだろう。
「さて、何が知りたいですか? 私は幽香ちゃんのことなら何でも知ってる、いわば専門家。幽香ちゃんに怒られない範囲でなら何でも聞いてくださいな」
「あの、一応はエリーさんの事を聞くつもりだったんですけど」
「まあまあ。射命丸さん、幽香ちゃんについて知りたいことが山ほどあってウズウズしてるでしょう? 幽香ちゃんに直接聞けないこともあるし。たとえば、好きな下着の色とか、お風呂でどこから洗うのかとか、寝相がどうかとか」
「それって幽香さんに怒られないんですか?」
「たぶん怒られるでしょうね」
ダメダメじゃないですか、と心の中でつぶやく。
エリーの弾幕はなかなか攻めづらそうだ。
「けれど、私が怒られる質問か射命丸さんが怒られる質問かで、意味は変わるでしょう? 幽香ちゃんと仲良くなりたいなら、よく考えて質問してくださいね」
エリーは取材を楽しむつもりのようだ。
「さすが幽香さんの友人ですね。お付き合いはどれくらいになるんですか?」
「そうねぇ、あれはエルサレムが陥落した頃・・・あら? メロヴィング朝が滅んだ頃だったかしら? どちらにせよ千から二千年くらいは経ったわね」
「千年以上です、か。長い付き合いなんですね」
「私の幽香ちゃんへの愛は千年をこえるの」
千年を簡単に口にできるエリーに、文は少し面白くない気分になったが、長い時を生きる者は歴史の感覚が大雑把だ。あまり気にしない方がいいだろう。
「幽香さんとの出会いは、どうでした? やはり戦いから始まる出会いだったんでしょうか?」
「それはもう、本当に非道い出会いだったわ。生き残れたのが不思議なくらい。でも、あれがあったからこそ私は幽香ちゃんの愛人になれたのよね」
「初めて会った時も言ってましたが、エリーさんは本当に愛人なんですか? 恋人ではなく?」
グレイズしながら切り込む。
「ええ。私は幽香ちゃんの愛人で専属の死神。幽香ちゃんが誰かに恋している時も、幽香ちゃんが誰かに殺されそうな時でも、私と幽香ちゃんの関係は変わらないわ」
幽香を縛らないということか?
しかし、エリーが死神だとして、四季映姫配下のお迎え役なのだろうか? 誰々担当というのは聞いたことがあるが、専属のというのは初めて聞く。
文が無言で見つめると、エリーが優雅に微笑みを返す。嘘を言っているようには見えない、つまり真意の読めない笑みだ。
「お待たせしました! 冷やし抹茶とエスプレッソをお持ちしました」
女給が元気よく割って入ってきた。
お盆には大きめのグラスに入った冷やし抹茶と小さなカップ、そして小皿に乗った角砂糖が六つ。
「遠慮なくおかわりしてくださいね。ここは私が持ちますから」
「え? いいですよ。そんな」
「お話を聞かせてもらうお礼です。甘いものも追加してもらっても構いません」
「そうですか? それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」
苦味を確かめるように一口飲むと、エリーは嬉しそうに砂糖を入れ始めた。
「1、2、3、4、5、6。本当に1カップに全部入れるんですね」
「ふふふ、私はドルチェでビターなのが好きなの」
エリーは文の知らない単語を時々使うが、ビターは確か苦味だったはずだ。あんなに砂糖を入れて苦味が残るのだろうか。
スプーンでかき混ぜるあいだも、底に溜まった砂糖が音を立てて溶けるのを拒否している。エリーはその感触も楽しんでいるようだ。
「ん~美味しい~」
「エリーさんが飲んでいると本当に美味しそうに見えます。私も試してみたくなってきましたよ」
「最初は三つくらいにしておいたほうがいいかも。そこから先は禁断の領域だから」
「確かにカップ一杯で角砂糖六つとか異次元の怖さです」
三つでも多いと文は思うが。
「さて、私と幽香ちゃんの馴れ初めを詳しく、だったかしら?」
「はい。いつ、どこで、どのように出会ったのか、教えてください」
エリーが真実を語るかどうかは別として、話しぶりや内容の胡散臭さからも分かることはある。それに、面白い話なら新聞の片隅に連載してもいいかもしれない。
「それではお話しましょう。深く冥い森で出会った二人の運命。花のように可憐で夢のように恐ろしい幽香ちゃんと、死神の娘エリーのドルチェヴィータの始まりを」
まずば口を潤して。
エリーさんが語る過去話に続きます。
rayend
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.330簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
期待しています
可愛いエリーさんには百点を入れたいですが、続き物ということでこの点数で。
4.90名前が無い程度の能力削除
続編、楽しみにしています。
8.100名前が無い程度の能力削除
期待