Coolier - 新生・東方創想話

夏時間

2012/08/08 20:10:24
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 早朝の博麗神社。たっぷりと湿った空気は、今日の暑さを約束しているようである。湿気は、建物や木々の輪郭をぼやけさせ、夏の景色を作り出す。
 そんな霞のような風景の中に、一カ所だけ張りつめた空気を帯びている部分がある。境内の中央に立って目を閉じている霊夢の周辺は、そこだけ冬のように緊張した雰囲気だった。
 極限まで集中力を高め、空間と同化したような霊夢の左手から、次々と針が投擲される。放たれた封魔針は、重たい空気を切り裂き、境内の木々にかけられた的の中央に寸分の狂いもなく刺さった。
「ふぅ……」
「朝からご苦労だな」
 ため息をついた霊夢に、空から声が降ってきた。誰もが認める霊夢の唯一無二の親友、霧雨魔理沙だ。
「また朝食をたかりに来たの?」
「まさか。修行の続きがあるなら、続けてかまわないぜ」
「まったく、わたしの修行が六時までって知ってるくせに」
「あの、サボり魔で有名な霊夢が、毎日四時に起きて修行と掃除なんてな。文が知ったらひっくり返るぜ」
「仕方ないでしょ。これでも博麗の巫女なんだから。それに、魔理沙だって、毎日魔法の研究してるじゃない」
 魔理沙は、図書館で傍若無人な振る舞いをしたりと、好き勝手ばかりしているように思われているが、その影では惜しまない努力をしている。図書館の主であるパチュリーも、「あれだけ努力をしている人間に読まれるなら、本も本望よ。読んだら返してほしいけどね」と言っていた。本人は、決してその努力を見せようとはしないが。
「わたしは、好き勝手にやっているだけだがな。霊夢みたいに、早起きして研究なんて無理だぜ」
「あんたは、夜型なだけでしょうが。朝食、ご飯とお味噌汁に、あとは適当でいい?」
「かまわないぜ」
「お米研いどいて。ちょっと、手を洗わないといけないから」
 魔理沙に米を研いでもらっている間に、霊夢は修行に使った的や、掃除に使った箒を片づける。洗い場で手をすすぎ、調理場に向かうと、すでに釜戸に火が入っていた。
「なぁ霊夢、水飴って持ってるか?」
 火を調節していた魔理沙が不意に尋ねた。
「さすがにないわね。何に使うのよ?」
「わからないけど。アリスが前から使ってみたいって」
 お菓子でも作るのだろうか? アリスが作るお菓子は洋菓子なので、水飴を使うとは思えないが。
 適当に調味料の棚を探したが、やはり水飴は見つからなかった。
「ごめん、やっぱりないわ」
「気にしなくていいぜ。あんまり置いてあるものじゃないからな」
「たまに使うけれどね。お味噌汁、何にしようかしら? 昨日なんだったっけ?」
「あー、何だったかな。カブか?」
「それは一昨日」
「じゃあ大根じゃないか?」
「あー、そうだったかも。根菜ばっかりだから、今日は葉物がよさそうね」
「キノコもあるぜ?」
「キノコあったかなぁ」
 食材を保管してある床下を覗いたが、葉物は見つからなかった。この時期、葉物はほとんど取れないのでしかたない。しめじも残っていたが、霊夢は古そうな茄子を使うことにした。
「ん、茄子か」
「たまにはいいでしょ?」
 トゲに気をつけながら頭を切り落とし、適当な大きさに切っていく。
「それにしても、茄子って不憫な奴だよな」
「どうしてよ?」
「ボケナスにおたんこなす。あんまりいい言葉には使われないからな。誰が言い出したか知らないが」
「たしかにね。カボチャの土手カボチャも意味不明だけど」
 茄子に火を通している間に、キュウリのぬか漬けを洗って切る。少し漬かりすぎだが、この季節にはちょうどいいくらいだろう。味噌汁ができあがるころには、ちょうどご飯も炊けていた。配膳をすませて、魔理沙と向かい合って座る。
「「いただきます」」
 二人はパチンと手をあわせた。味噌汁を一口飲んでから、炊き立てのご飯を軽く頬張る。
「魔理沙は今日は?」
「アリスの家」
 魔理沙が、少し頬を染めながら言った。まったく、恋人になってからかなり経っているのに、いつまでこの調子のつもりなのだろうか? 最初は面白がって、からかったりもしていたのだが、もうからかうのも飽きてしまった。
「午前中から会うの?」
「アリスが、わたしの夏物を作ってくれたからな。あと……」
「あと?」
「服、脱いだ時に汗のにおいがすると嫌だから、午前中にしてもらった」
 魔理沙が味噌汁の入ったお椀で顔を隠す。顔を見なくても、耳を見れば赤くなっているのは明らかだが。今日は暑くなりそうなのに、朝から暑苦しいのは勘弁なので、適当に話題を換える。
「わたしは、今日はパチュリーの修行のつき合いかな」
「陰陽道のか?」
「そ。あんまり五行や七曜のためにはならないと思うけどね」
「陰陽道と、五行って、まったく別物なのか?」
「まったく別物ってわけでもないけど。けっこうややこしいのよね。あの辺りの関係」
 パチュリーは紅霧異変以来、霊夢に陰陽道の修行を受けている。パチュリーの扱う七曜は、五行をベースにしているが、その五行は陰陽道と関わりが深い。パチュリーは、陰陽道に対する理解が深まれば、七曜にも生かすことができると考えているようだ。
「パチュリーも本当に研究熱心だよなぁ。ごちそうさま」
「ご粗末様でした」
 朝食を食べ終えて、食器を洗う。すでに水がぬるくなっていて、本当に暑い一日になりそうだ。
 食器を洗い終わると、魔理沙は既に出かける準備をしていた。
「それじゃあ、そろそろ行ってくるぜ」
 魔理沙が靴を履いて、箒を手に取る。そのまま空にむけて飛び立つかと思ったが、体ごとこちらに振り向いた。箒を置いて、しきりに髪や服を気にしている。その程度、空を飛べば乱れるはずなのに。
「霊夢、大丈夫かな?」
 魔理沙がわずかにうつむいて霊夢に尋ねる。普段の男勝りなところはどこにいったのだろうか。
「可愛いわよ。魔理沙」
「ありがと」
 魔理沙は顔をほころばせると、夏の空にふわりと舞い上がった。

☆☆☆

「霊夢って、もっとピシっとしてると思ってたのよねぇ」
「だって、冷たいちゃぶ台が気持ちいいんだから、仕方ないじゃない」
「異変の時とは大違いよね」
「今は異変じゃないし」
 パチュリーの言葉に、霊夢はちゃぶ台に頬をつけたまま答えた。
 パチュリーの魔法によって、部屋の中はほどよく冷やされている。修行を終えたばかりの二人は、お昼前の休憩中だった。
「異変のときの霊夢はかっこよかったのに……」
「別に、わたしは大したことないわよ」
「それでもわたしは憧れたのよ。霊夢の魔法に」
「わたしは魔法使いじゃないって、何回も言ってるじゃない」
「立派な東洋魔術師よ。それだけのレベルで陰陽道を操っているのに。霊夢が魔界で論文を発表したら、魔界に激震が走るわ」
「興味ないわ」
「もったいない」
 本当に興味がないのだから仕方ない。そもそも既に博麗神社に保管されている書物にまとめられているのだ。わざわざ、そんなことをする必要もないだろう。
「ホントに書いてみない? 魔界の言語なら、わたしが教えるから」
「さらに嫌になったわよ。これ以上書かせようとするなら、夕飯にシシトウ入れるわよ。今が旬なんだから」
「むぅ」
 パチュリーの弱点をついて黙らせる。一度もの凄く辛いシシトウに当たって以来、トラウマになっているらしい。
「パチュリーって、結構味覚幼いわよね。苦手なの多いし」
「だって、基本的に食事しないもの」
「シシトウ、ピーマン、ニンジン、ピクルス……」
「そ、そんなこと言ったら霊夢だってコーヒー飲めないじゃない」
「まぁ、そうだけど」
 でも、パチュリーがコーヒーを飲んでいるところも、ほとんど見たことがない。紅茶かキャラメルミルクばかり飲んでいる印象だ。そもそも。
「パチュリーって、食事必要ないのよね?」
「そうね。魔法使いだし」
「でも、ここに来ると、必ず食べていくわよね?」
「え……」
「どうしてか、聞いてもいい?」
「……」
「こらっ。逃げるな」
 顔を背けようとしたパチュリーの頬を両手ではさむ。これでパチュリーは霊夢から目をそらすことができない。ジーッと見つめ続ける霊夢の視線によって、パチュリーの体温がどんどん上がってくるのが、霊夢の手の平から伝わってきた。
「ね、どうして?」
「だって、わたしだけ霊夢の手料理を食べないなんて、そんなのおかしいじゃない」
「ふーん」
「ここに来たら、みんな食べてくのに」
「ねぇ、パチュリー」
「なに?」
 ほとんど涙目になりつつあるパチュリーの顔を押さえながら、一言。
「パチュリー、可愛いね」
「もうっ! バカバカバカ!」
 ついにパチュリーが爆発した。どうやらいくら本を読んでいても、こういう耐性は身に付かないらしい。無理矢理手をふりほどいて、次々とまくしたて始める。
「だいたい、わたしよりも、霊夢の方がよっぽど可愛いわよ!」
「そう。ありがとう」
「瞳、綺麗だし」
「パチュリーの紫の瞳も綺麗よ?」
「顔、小さいし!」
「パチュリーも十分小さいじゃない」
「ウエスト細いし!」
「引きこもってないからね。運動してるし」
「なんで、そんなに霊夢は落ち着いてるのよ!」
「いや、だって」
 ここまで動揺している魔法使いがいたら、逆に落ち着いてしまうのは仕方ないだろう。このままからかい続けても面白そうだが、そろそろお昼の準備をしなくてはならない。パチュリーの嫌いなもの抜きで。
 霊夢は軽くパチュリーの頭を撫でる。わりとよく爆発するパチュリーのなだめ方だ。
「霊夢、そうやってすぐ子供扱いする」
「だって、本当に子供みたいなんだから仕方ないじゃない」
「霊夢よりも、ずっと年上よ」
「そうね」
 すぐに、そうやって反発するところが、より子供っぽいのだが。
 霊夢はパチュリーが落ち着くまで、しばらく待つことにした。このあと、お昼の相談をしなくてはならないからだ。少し苛めすぎてしまったので、パチュリーの希望に合わせてあげようと思っている。
「霊夢?」
「なに?」
「午後だれか来ても、今のこと、秘密にしておいてね」
 今のこと、とは何のことだろうか? 子供っぽいところをみせてしまったところだろうか、それとも真っ赤になって爆発してしまったことだろうか?
 どのことだか分からないが、自分だけがパチュリーのこんな一面を知っているというのは、悪い気はしない。
「分かったわ。秘密ね」
「うん、秘密」
 嬉しそうに「秘密」というパチュリー。今なら指切りでもしてしまいそうだが、こちらが恥ずかしいので、やめておく。
「お昼、なにがいい?」
「なんでもいいわよ。霊夢の料理なら」
「なんでもいいって言われてもなぁ。ご飯残ってたけど」
「なら、オムライスは?」
「たぶんできないこともないはず」
「決定ね。少し大人っぽい感じで」
 オムライスで大人っぽく……?
 さすがに、そこまで器用な技術は持ち合わせていない。くるっと包んで、ケチャップをかけるくらいだ。具材をすこし換えるくらいしか浮かばない。
 そのとき、霊夢の頭の中に、一つの材料が浮かんだ。
「パチュリー、しめじって食べられたっけ?」
「苦いから無理」
 しめじが苦いとはどういうことだろうか?
 やっぱり子供には子供向けの味がいいだろう。結局霊夢は、鶏肉と玉葱だけのシンプルなオムライスを作るのだった。

☆☆☆

 大粒の雨が地面を次々と叩いている。あまりの暑さのためか、通り雨がやってきた。あっという間に地面をぬらし、土を跳ね上げていく。
「ついに来たわね。中途半端に降らないといいんだけれど」
 霊夢が襖を少しだけ開いて言った。
「どうして?」
 壁にもたれかかって本を読んでいたパチュリーが尋ねる。
「中途半端に降ると、無駄に暑くなるのよ。あと、蚊も増える」
「蚊は勘弁ね」
「早めに蚊取り線香でも炊いておこうかしら」
 霊夢は納戸から蚊取り線香を取り出すと、マッチで火をつけた。外からの土の香りと、蚊取り線香の香りが合わさって、夏の香りになる。蚊取り線香の残りを納戸に戻そうとすると、襖が一気に開いた。
「清く、正しい射命丸です!」
「ずぶ濡れで入って来るな! って、そこまで濡れてないわね」
 霊夢は持っていた蚊取り線香の缶を投げようとしてやめた。
「かなりスピードを出しましたからね。多少の雨粒なら吹き飛ばせます。あと、タオルを貸してほしいんですけど」
 蚊取り線香を戻すついでに納戸からタオルを出す。
 襖の前で待っている文のところまで歩いていくと、文は遠くから見るよりも濡れていた。若干シャツも透けてしまっている。
「けっこう濡れてるじゃない」
 霊夢は濡れた髪を拭く。髪もそれなりには濡れていた。
「凄い雨でしたから」
「ここまで来るしかなかたったの?」
「さすがに、知らない方の家に突然お邪魔するのはマズイですからね」
「お風呂入らなくて大丈夫? 必要なら準備するけど」
「平気ですよ。天狗は人間みたいにヤワじゃないですし。あ、霊夢さん、そろそろ大丈夫です」
「じゃあ、お茶でも持ってくるわね。暖かいほうでいいかしら?」
「これから涼しくなるでしょうし。それにしても霊夢さん?」
「なによ?」
「お風呂かお茶かなんて、新婚さんみたいですね。一つ足りないですけど」
 新婚という言葉に、パチュリーが一瞬ピクリと反応した。文は素知らぬ顔で、襖を閉めて部屋の中に入ってくる。
「バカなこと言ってると、夢想封印して、雨の中に放りだすわよ」
「それだけは勘弁してください」
 まったく緊張感のない笑みを浮かべながら謝る文。霊夢からしてみたら、いつものやり取りだ。この天狗は、いつもくだらないことばかり言う。
 霊夢は三人分のお茶を用意すると、文と向かい合うようにちゃぶ台の前に座った。続けて、パチュリーが本を持ったまま霊夢の隣に座る。
「今日はどんな迷惑をかけてきたのよ?」
 霊夢はお茶をすすりながら尋ねる。
「迷惑はかけてないですよ。清く正しいがモットーですから」
「信憑性ゼロね。一番取材を受けたわたしが言うんだから間違いないわ」
「霊夢さんの武勇伝の方がよっぽど信憑性がないですよ。普段とのギャップがひどすぎて」
「あれは全部本当よ」
「なら、そう思われるだけの行動をしてくださいよ」
 嘆くように言う文に、「それは無理ね」と、霊夢は返した。今の生活を変える気は、まったくない。
「でも、今日は暑すぎて取材になりませんでしたよ。みなさん外に出てこないですし」
「これだけ暑いとね。私も外に出る気が起きなかったし」
「博麗の巫女は、今日も修行、掃除ともにサボりと」
 文がカリカリとペンを走らせる。
「おい、このねつ造天狗」
「あら、事実じゃないですか。サボり魔本人の自白ですし」
「全部暑さのせいよ」
「実際その通りですけどね。私もほとんど人里の喫茶店にいました」
「そういう場所は賑わってそうね。冷たいものが飲めるし。あとは、チルノがいる場所とか」
「まぁ、今日はホント記事になることがないですよ。アリスさんと魔理沙さんは見ましたけど。あ」
 そういえば、とお茶を一口飲んで文が続ける。
「お二人とも、いつもと違う服を着ていましたね。色違いのお揃いで」
「そういえば、魔理沙が言ってたわね。今日、アリスに服をもらいに行くって」
「そうだったんですか。お二人ともお似合いでしたよ。アリスさんは空色、魔理沙さんは白の袖なしワンピースで」
「それで、あんたはお邪魔虫と」
「まさか。人の恋路を邪魔するなんて無粋な真似はしません。仲良く手をつないで、買い物なさってましたよ」
 どうやら、魔理沙は上手くいったようだ。別に、失敗するとは思っていなかったが、それでも安心する。
「でも、あの二人が買い物をしていたのが、駄菓子屋だったんですよね。子供が行くような。霊夢さん、何かわかります?」
「別に駄菓子屋くらい行くんじゃない? アリスだって、魔理沙だって」
「まぁ、そう言われてしまえばそうなんですけれども」
 うーん、と文が考え込む。別に考え込むことでもないだろうが。
「水飴を買って、魔理沙さんの上に垂らして、アリスさんが舐めとるとか……。痛いっ!! 何するんですか、霊夢さん!」
「バカはこうでもしないと直らないからよ」
「だからって、いきなり針を投げるなんて、いくらなんでもヒドすぎですよ!」
「大丈夫よ。天狗は強いから」
「それ、嫌な予感しかしないです」
 文が左手の甲に刺さった針を抜く。ちなみに霊夢がねらった場所は、ちょっとしたツボであり、刺さってもまったく問題はない。
「でも、本当に、こうでもしないと、ネタがないんですよねぇ」
「人のいない人里の写真は取らなかったの?」
 それまでジッと本を読んでいたパチュリーが口を開いた。
 パタンと読んでいた本を閉じる。
「取りましたけど。さすがに、人のいない人里では」
「人がいないから記事になるんじゃない。高い太陽。濃い影。本来なら人がいるはずの時間なのに、暑さのために誰もいない。これは立派な非日常じゃないの?」
「なるほど……。あんまり考えたことがありませんでした。人のいない人里かぁ」
 文が珍しく真剣に考え込む。文の真剣な表情は、ちょっと珍しい。もしかしたら、いつもと違ってまともな記事が見られるかもしれない。
「なるほど。暑いからアリスさんと、魔理沙さんは、家の中で水飴プレイを行っていると」
 訂正。やっぱりバカはバカだった。
 霊夢は、隣にいるパチュリーと目を合わせた。パチュリーも呆れたような顔をしている。
「別に書いてもかまわないけど、マスタースパークと、アーティフルサクリファイス同時は痛いわよ」
 パチュリーがため息をつきながら言う。
 さすがの文も、顔がひきつっていた。
 そりゃそうだ。いくら天狗でも、フルパワーで撃たれたら永遠亭送りになるだろう。
「でも、さすがに写真だけでは記事には……」
「そこが、記者の腕のみせどころじゃない。どうやって、何気ないことを一つの記事に作っていくか。もちろん、ねつ造なしでね」
 パチュリーと文は、意外に波長が合っていて、そのあとも会話が途切れなかった。パチュリーは読むことを専門にしているし、文は書くことを専門にしている。それぞれ思うところはあるようだ。
 霊夢は、人の話を聞いていることは好きなので、まったりとお茶を飲みながら耳をかたむけていたが、気が付くと時刻は六時を過ぎていた。
 楽しい時間はすぐに過ぎていく。
 霊夢は、やっぱり自分はこの時間が好きなんだなぁ、と実感しながら夕飯の支度をはじめるのだった。

☆☆☆

 時刻は夜の八時を過ぎていた。真っ暗な闇の中から蝉の鳴き声が聞こえてくる。博麗神社にいる三人は、縁側で蚊取り線香を焚き、夕涼みをしていた。雨はすっかり止んで、すこしひんやりとしている。今夜は、夜の寝苦しさに悩むこともなさそうだ。
「それじゃあ、わたしはそろそろ帰りますね。記事をまとめなくてはなりませんし」
「まったく。ほどほどにしておくのよ」
「さすがに水飴は書きませんよ。あ、パチュリーさん、ありがとうございました」
「別に。たまたま浮かんだことを言っただけだから」
「いえいえ。本当に助かりました」
 頭を下げて、羽を出して飛ぶ準備を始める文。このまま帰るのかと思ったら、くるりと文が振り返った。その顔には、満面の笑み。
「あ、パチュリーさん」
「なに?」
「新婚の時の反応、かわいかったですよ」
「……」
 一瞬、パチュリーが完全にフリーズし、少しずつ顔が赤く染まっていく。霊夢は針でも投げてやろうかと思ったが、どうせ逃げられるだろうと思い、放っておくことにした。が、パチュリーはそうもいかない。
「このバカ天狗! 火符ーアグニシャイン!」
 パチュリーがスペルカードをいきなり放つ。それに対して文は一目散に逃げ出した。
「逃げるが勝ちです!」
 あっというまに闇に溶けていく文。パチュリーの弾幕はかすりもしなかった。
「まったく、何なのよ、あの天狗は」
「ま、文はああいう奴だから。悪いようにはしないはずよ」
「根拠がない」
「一応、嘘は書かないし。一番書かれたわたしが言うんだから大丈夫よ」
「霊夢は他人に甘すぎるのよ」
 縁側に腰掛けながらパチュリーが言った。すぐに針を投げつける巫女のどこが優しいのだろうか?
 文も帰ったし、そろそろ部屋に戻ろうかと思っていると、この日最後の来客が来た。
「霊夢ー、花火やろうぜ!」
 大きな包みを持った魔理沙と、
「ま、魔理沙! もう少し丁寧に降りなさいよ!」
 魔理沙の恋人、アリスだった。文が言った通り、色違いのワンピースを着ている。
 魔理沙が持っている新聞紙の包みには、大量の様々な花火が包まれていた。線香花火からロケット花火、簡単な打ち上げ花火まで入っている。
「こんなにたくさんどうしたのよ?」
「お、パチュリーもいたのか。駄菓子屋でもらったんだよ」
「急な雨で片づけを手伝ったお礼にね。本当は雨宿りまでさせってもらったから、こっちがお礼をするくらいなんだけれども」
 そう言うアリスは、何かの包みを大切そうに持っている。あれも花火なのだろうか? さすがに神社が燃える規模のものは止めてほしい。
「とりあえず水をくんでくるから、霊夢は火の準備をしてくれ」
「火ならわたしの魔法で十分よ。それの方が安全だわ」
「それもそうだな。パチュリーの魔法なら風で消えないし」
「じゃあ、わたしも念のため結界張っておくわね」
「待って」
 霊夢が神社の本殿に結界を張ろうとしていると、アリスに呼び止められた。
「どうしたの?」
「これ、縁側に置いておいて欲しいんだけど」
 そう言ってアリスが持っていたのは、大切そうにしていた例の包み。新聞紙で包まれていたそれは、湯呑みと同じくらいの小瓶だった。
「これ、何?」
「水飴よ。ちょっと今夜使いたくて」
 わたしも手伝うわ、と言って戻って行くアリスに、霊夢は「何に使うの?」と尋ねることができなかった。
 魔理沙は、朝はいつも通りの服を着ていて、今はワンピースを着ている。つまり、服を持ち帰るためには、アリスの家に寄らなくてはならないわけで。しかも、帰る頃には十一時過ぎで。
 アリスの家に行った魔理沙は、そのまま捕まって、水飴と和えられて……。
「まさかね……」
 霊夢はそこで思考を停止した。うん。これは、たぶん、おそらく、普通に、絶対にわたしの考えすぎだろう。アリスはこれから水飴を使ってお菓子を作るのだ。
 でも、ひょっとしたら……。
先日、七夕祭りで屋台を巡っていて、「旧暦の七夕でほのぼのもいいなぁ」なんて思って書きはじめたはずが・・・。
最近の屋台は、いろいろなものがあって面白いです。
肉巻おにぎりとかケパブとか・・・。
でも、三月精に出てきた、甘いタレのたっぷりついたヤキトリの屋台なんかは見かけなくなって、すこしさびしいと思ったり。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
琴森ありす
http://yaplog.jp/vitalsign/
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コメント



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イイネ
5.70名前が無い程度の能力削除
水飴の件は次回に期待ということで宜しいでしょうか?
8.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気良く、とても面白かったです
17.100名前が無い程度の能力削除
霊パチェに加えマリアリとは俺得すぎる…!!そして翌日霊夢さんも駄菓子屋に走るんですねわかります
19.80名前が無い程度の能力削除
普段食べないようなものを食べて、「お、これ美味いじゃん」って小さい発見をしたような感じ。