Coolier - 新生・東方創想話

Ends and means

2012/07/01 14:52:10
最終更新
サイズ
32.1KB
ページ数
1
閲覧数
800
評価数
11/27
POINT
1730
Rate
12.54

分類タグ

※この話は捏造100%でお送りいたします

 


 彼女が長い戦いの果てに私を完膚なきまでに叩き潰したのはいつだったか、覚えていない。

 ただ薄暗い部屋に私は居た気がする。
 目の前には女、私の全てを壊した憎き妖怪八雲紫
 首を掻き切ろうとしたところで爪は虚空を掻くばかり、足掻くのもみっともないのですぐ諦めた。

 ただ、部屋は薄暗い
 目を薄めると何も見えなくなってくるほどに昏い
 だがその中でこの掴み所の無い妖怪の輪郭だけが嫌にはっきりとしていた

 「ねえ、貴方名前は?」

 急に、そう尋ねられて私は困惑する
 名前なぞ大量にある、それこそ腐るほどにある
 だがそれの一々が本当の名前だと言うとそうでも無く、私はとっくのとうに自らの名前を忘れていた。

 「無い?なら私が名前を上げるわよ」

 とんでもない事を言う奴だと私は嘆息する。
 名前を与えると言う事はつまり、私の全てを支配するのと同意。
 そんな事、そんな事――――
 そこまで考えて私は嘆息する

 私の名前なぞどうでもよかった、ただ名義があればよかった。
 空虚な生、空っぽな体、虚ろな精神。それらに私はとっくのとうに飽いていたのかもしれない。
 だから私は黙する事で彼女を肯定する、薄い笑い声が聞こえた気がした。

 「藍 そう藍色の藍よ、良い名前でしょ?」

 藍、紫と隣り合う色
 お前らしい馬鹿な名前を付けるものだ、藍なぞ。
 名前は存在、名前は関係、自分と関係深い名前をよりによって怨敵に付けるなぞ。

 そんな事関係ないかのように、彼女は夢見心地な甘ったるい声で私に囁く。

 ―――――ねえ藍、私の愛しい藍 
      私にあなたの全てをくれるなら、あなたに私の全てを上げるわ
      本当よ
      あら、その眼。信じてくれないの?ゆかりん寂しいわ

 信じられる訳無い、私はただ世界中の悪として存在し。彼女はそれを葬るために戦っていたのだから。
 そんな感情を読み取ったかのように彼女はしばし考え、そして手を叩いて笑う。


 ――――面白い賭け事をしましょう
     私は一年毎にあなたを忘れるの。そして貴方は貴方の全てを賭けて私を護る事を使命とする。
     そうね…百年かしら、百年そうしなさい
     その時あなたがまだ私を殺したかったら、その時は私の首を刎ねていいわ。

 拍子抜けした
 こいつが面白い賭け事をすると言うのだからどれだけ悍ましい事を言われるかと思えば何の事は無い、ただ百年ばかり子守をすればいいと言う話か。

 どうせ暇だ、何かの気まぐれで放されたとしてももうあの刺激的な事は出来ないだろう。
 その釣りとしてこいつを殺せるのだとしたらなんと分のいい賭けだろうか。

 別にこいつをそんなに嫌っている訳では無い、ただ今まで戦ってきた延長線上にこいつを殺す事を夢想している私が居た。


 声を出そうとしても喉が潰れている所為で何も喋る事が出来ない事に気がつく。
 半ば自暴自棄になりながら、私は彼女の提示した賭けを受け入れた。


■□■





 随分昔の話になる





 ―――――藍、次も宜しくね


 優しげな瞳だった

 一切の打算や、計算の無いその瞳は
 不器用な彼女なりの最大限の感謝なのだと言う事を私は知っていた


 くたり、と
 まるで花が萎れてゆくように脱力して、地に伏して往く腕

 白い、いっそ病弱なほどに真白い腕
 最後の言葉を紡いでゆくのは青白い肌に鮮烈なほどに目に焼き付く紅


 ああ、枯れてしまう
 そう思う間もなく、その目蓋はゆったりと閉じてゆく



 意識が倒れ逝くその合間に、またその金色が私を捕えて

 その唇が、最後に何かを呟いた気がしたが
 それを聞き取れる筈も無く
 それが言い切れる訳も無く



 彼女は―――八雲紫はこと切れた



 儚い、まるで蝶の様な一生だった






 ▼△▼




 一つ、我が名は八雲紫

    幻想郷の賢者にして箱庭の絶対調和を目論む者なり

    八雲の当主にして歴代の巫女の監視役




 ▼△▼






 八雲紫
 幻想郷の賢者



 彼女について、は誰しもが知っている。
 書籍の著者として、歴史の中心に、異変の片隅に、正義の背後に

 誰しもが彼女を知っていた、恐ろしい妖怪として、胡散臭い妖怪として。
 だが、その人妖諸君は賢者としての肩書を除いた彼女についてどれほどの事を知っているのだろうか。





 好きな料理は
 実は裁縫や料理が得意な事は
 変装をして意外と活発に人里を歩いている事は
 思うようにいかないと人間の様にむくれる事は
 悲しい事があった時に、人知れず枕を濡らしている事は
 弄繰り回している巫女を、母親の様に見守っている事は





 そして、一年に一回死ぬ事は


 果たして、どれだけの物が知っている事なのだろう





 ▼△▼




 一つ、肉体の期限は四季が一回巡りきるまで

    悔いの無き様、反省の無き様責務を全うせよ




 ▼△▼





 そう、八雲紫は一年に一回死ぬ
 別にそれは何の比喩でもましてや冗談でもなく、言葉通りの意味で。




 境界を総べる能力
 妖怪と言う枠組みの力をもってしても破格のその力

 紫様はその力の大半を幻想郷維持の為に使用している。現と幻、人と妖、現界と幻想郷の境界を組み上げ、維持し、更新する。
 それは膨大なパワーを24時間フル稼働させ続けるエンジンの如く行使し続ける如く所業で、それ程力を酷使し続ける肉体が果たして数百年も、いや数十年、数年といえど老衰もせず持つだろうか。

 いつだろうかそんな事を聞いたことがある、私の記憶のどこかがその言葉を聞いた気がする。
 まあ理由などどうでもいい、私にとっては結果が全てだ。


 八雲紫は一年に一度死ぬ
 死んで、また生き返る


 全てのダメージを回復し、記憶も何も失った状態で戻って来るのだ。
 異変の事も、自身の事も、そして私の事も忘れ去った真っ新な状態で。


 生まれ変わった彼女は何も知らない
 世界の汚さも知らない
 己の役割も知らない
 博麗の巫女、神々、妖怪、人間 その違いも知らない

 そして私の事も 当然



 彼女は死んだあと、肉体を一から構成してこの世に甦る。
 その時に記憶もフォーマットしている様で復活したばかりの紫様は少しばかり知恵が発達しているだけの幼子と同じ力しか持たない、それを保護して“八雲紫”と成るまで育てきるのが紫様に科せられた私の役割、そして使命だ。

 幾ら世話をしたところで紫様は私を覚えていない、どれだけ情を注いでも全てを忘れてしまうから一年ごとに私と紫様は初対面の形で再会する。
 だが寂しいとは思わない、それは紫様自身が決めた事で、それが必要不可欠だと分かっているから。
 故に私は何も言わず、反抗せず、ただ黙々と日々己が成すべき事に従事する。それが、紫様の望む事だと信じているから。
 誇り高い紫様、自らの責務の為に自らを省みない自己犠牲と慈愛を持つ我が主。そんな方に責務を与えられたことが、私の誇りだ。
 だから私は、日々それを胸に成すべき事の為に己を捧げるのだ。


 だが、時々無力感に苛まれるのは何故だろう。
 彼女の消えた秋めく空を眺めても、私の目には空虚な空間しか見えなかった。





 ■□■




 何かを忘れている気がする

 記憶がすり替わって、ぐちゃぐちゃになって よく分からない

 でも、どうでもいい

 私にとって大事な事は紫様を待ち続ける事なのだから




 ■□■



 また、今年も変わらぬ肌寒い風がひょうと側を通り過ぎた。
 紫様の他界を嘆いているようだ…といえば幾分かは私的な表現になるのだろうか、いかんせん私は式なのでそこの所は分からない。

 紫様が事切れるのは大抵晩秋になる。
 偶に初秋と言う早い時期になる事や遅いと冬の初旬まで持つこともあるが、やはり大抵はこの時期に肉体の限界を迎える。なに、誤差と言うのは良くあるものだ。

 紫様が一時居なくなったといって私に用事が山盛りにできて忙しくなる訳も無く、寧ろ世話をすべき者が自分と偶に訪れる橙の分だけとなるから暇になるぐらいだ。
 普段の多忙さと相まってゆっくりとできるこの時期は紫様から与えられた休暇の時期なのではないかと思っているが、どうだろうか?

 だが、まるっきり悩みが無い訳でもない。
 偶に早起きして朝食を二人分作ってしまう時がある、誰も居ないのに後ろに誰か立っている気がして振り返ってしまう、誰も聞いていないのに行ってきます、只今帰りましたと言ってしまう。
 そんな事があると、なぜか私は胸を掻き毟りたいほどに苦しくなる。何もかにもをかなぐり捨てて叫びたくなる。

 バグでも発生しているのだろうか、私は彼女が組み上げた式なのに。






 紫様がどうやって生き返るかは私ですら知らない。
 紫様が今も眠る部屋に私は入った経験がない、そればかりは紫様に禁じられている。背徳的であろうと何であろうと紫様の命は絶対だ、逆らおうとも思わない。

 紫様が死んで、私はその場を離れる。そうして暫くすると生き返るのである
 不思議な事だ、だが紫様ならばおかしくは無いとも思ってしまう。何事もありうる、不可能も無いと思わせてしまう。


 しばし、それまで待たねばならない
 一週間か、二週間か、一か月か







 晩秋の空に、赤を含んだ風が吹き抜けた





 ■□■




 いつからだろう
 私が独りを恐れるようになったのは


 紫様が居ない世界に居辛さを感じるようになったのは
 私にとって居場所はそこしか無かった

 だから、こんなにも心苦しいのだろうか




 ■□■




 それから十日ほど経つ
 その日も木枯らしの吹く肌寒い日だった


 その日私は妖夢と買い出しをする為、人里に赴いていた。
 もうじきに来る冬に備えて人里では食料やなんやかんやと騒がしく、その喧騒に紛れていると心が落ち着くのを感じる。

 近頃は異変の解決に出る様になりました、重そうな荷物を抱えて嬉しそうに話しかけてくる妖夢を見ているとついつい泣き虫だったころの彼女を思い返してしまう。

 今では数少なくなってしまったものの、昔は妖夢の相談役としてよく話したものだ。
 あれにとって妖忌は限り無く大きな存在で、奴が居なくなった穴を埋めるために努力した。
 妖夢はすぐに泣くし、力も今と違って頼りなく、それ故に成長が楽しみなのでよく扱いては泣かれたものだったと思い出す。

 そんな事を妖夢に言ったら顔面真っ赤にしてぶり返さないで下さいと拗ねられた、やっぱりあの頃と変わっていないのかもしれん。








 その日、紫様が戻って来ると思ったのはただ単に勘の仕業に他ならない。
 どうも勘と言うと博麗の巫女を思い出してしまう、あやつのそれは最早人間では無い。


 そんな気がした
 確信じみた、勘が囁いていた
 それで十分過ぎた


 妖夢と別れ、屋敷へと帰る
 複雑怪奇に入り組み、遊び心のままに弄られた空間を擁しているとは微塵も感じさせない戸口の前に立った瞬間に感じた、ある種の直感。

 紛れも無い高揚感と幾ばくかの緊張、そしてじわじわと滲み出る喜色。

 震える手で引き戸を抑え、開く


 「只今、帰りました」


 この瞬間だけは、何にも例えがたい。
 呆けたようにふらつく意識のまま荷物を置き、そのまま屋敷の最深部へと近づく。


 長い、末端の見えない程に長い廊下

 次第に光も差しこまない、薄暗くなってゆく道を迷わず、急がずに歩む

 静謐で、誰にも穢し難い清浄な空気で鼻孔の奥底がじわりと疼く

 一歩 一歩

 遂に紫様の部屋に、数日前に彼女が事切れた筈の部屋の前に立つ。
 障子の奥はまだ薄暗くて、有象無象がひしめいている錯覚を抱かせる。





 そのまま一瞬躊躇い、戸を開いた。




 少女だった
 人にして三歳児とも思わせる程に幼く、あどけなさの残る少女が居た。

 しかしその姿は異様と言い切れるまでに異常だった。
 普段なら自身の置かれた状況に泣き喚きそうな外見にも拘らず、そっと端正に佇みこちらを見つめるその姿。
 白い装束を羽織り、その髪と瞳の色は金色。あどけなさとは裏腹に薄暗闇の奥から此方を除く二つの光はぞっとする妖艶さを孕んでいて。

 それを確認して私は彼女の前に傅き、告げる。


「 お待ちしておりました」


 紫様、と。




 ▼△▼




 優しそうな方
 貴方のお名前は何ですか?




 ▼△▼





 今年もまた、滞りなく紫様はこの世に戻って来た。その事に対してまずは安堵と、誰に対してか分からないが感謝の想いを持つ、紫様に感謝すればいいのだろうか。
 少女は突然現れた私に戸惑った様な、慌てる様な表情を見せたので敵対の意志は無いと微笑む。
 
 ふぃと何かに気が付いたように少女はは顔を上げて、そして私を呼ぼうとして口ごもる。
 私は彼女が何を言いたいのか分かる、何を聞きたいのかも知っている。だが、自分から先導することはしない。

 暫く虚空を掻く様に口を開いては閉じてを繰り返していたが、人形のような少女は諦念したように首を振って私を見つめる。
 しばらくそうして、落ち着いた様子の少女は一言私に問うた。


 「名前」
 「はい」
 「あなたの、名前は何と言うの」


 数百年という長い時間延々と繰り返される、同じやり取り。
 愛しい子を抱きしめるようにしゃがみ込んで、いっそう微笑む。


 「らん、と申します」
 「らん?」
 「漢字にして藍、あなたに頂いた名前です」


 らん
 小さな唇が私の名を呼ぶ

 藍
 もう一度、何かを懸命に思い出すかのように強く

 覚えている訳は無い、彼女は私を知らない。
 それでも懸命に私の名を呼ぶ彼女が愛おしい、許されるならばこのまま抱きしめてやりたくなる、愛おしい紫様と呼びたくなる。
 だがそれは許されない、私は仮面を外さぬままに彼女としか会う事が出来ない


 しかし紫様をこの部屋から出す前に、一つ儀式を行わねばならない。大した事の無い二言三言の問答だが。
 少女はまだ、呆けたようにこちらをぼうっと眺めていてなんだかおかしい。
 傅いたまま、私は彼女に微笑みかけて尋ねる。
 目の前の少女が少しばかり驚いた様な、そんな揺らめきを感じた。


 「あなたは、誰でしょう」
 「はい、私は八雲紫です」
 「八雲紫、ですか?」
 「八雲紫です」


 ゆったりと、しかし淀みなく
 彼女はまだ知らぬ名を当然の如く口にした。

 この応酬を経て、初めてこの少女は八雲紫という名を得るのだと昔どこかで聞いた。
 名は存在を確立し、役割を決定し、関係を形作る。重要なやり取りだと。

 全てを忘れても今八雲紫となったこの少女が名前だけは覚えているのは、それがただの言葉の綴りでは無くもっと重要な役割を持っているからなのだろうか。私は今も分からない。



 ただ彼女の名前を聞く
 全てを手放した彼女を現世に引き戻す為に
 また彼女に元の役割を与える為に
 そして、彼女が八雲紫なのだと言う安心を得るために



 あなたは、八雲紫ですよね?
 薄暗い、静謐さにが溢れるばかりに満ちた部屋
 私はただ心臓の音がばれないようにするのが精一杯だった







 名を自覚し八雲紫になったとはいえ、それでは不十分過ぎる、未完成だ。
 まだ彼女の本質は幼く、無垢な少女に過ぎない。精々名前を憶えている、それぐらいしか彼女の面影は無い。

 しかし、取り敢えずは何事も無くここまで来れた事への安堵を込めて私は彼女を撫でてやることにしている。


 「…なんですか」
 「いえ、なんでもありません」
 「むぅ」


 ふさふさと、私が髪を撫でるのを憮然とした表情で見つめる紫様はしかし手を振り払おうとする事はせず、嫌がる素振りも見せず、それがまんざらでもないと言う事を如実に表している。
 若草の様な柔らかく温かみのある髪は、ゆっくり撫でているとなぜだか無性に泣きたくなった。

 
 紫様
 藍は、寂しかったです
 そう言うのを堪えて、私はただただ懐かしむ様にまだ幼い頭を撫で続けていた。





 ▼△▼




 らん
 何処かで、聞いたことのある名前
 知らない筈なのに頭が疼く

 藍
 あなたの名前、どこか気になる

 らん 藍 八雲の藍
 なんだか、嬉しい




 ▼△▼




 紫様の知識はどこまでリセットされるのだろうか、数十年前にそれを試した事がある。
 会ってすぐ話はできるので最低限の語彙はついているのだろうと思っていたがどこまでなのか、まあ児戯にも満たぬ戯れに過ぎない試み。

 一通りの言葉
 一通りのマナー
 一通りの仕草
 一通りの単語

 日常生活に支障が出ない程度の事は覚えている様だった。
 その代り幻想郷の事を何一つとして覚えていないと言うのは、やはり何かしらの意図があるのだろうか。
 例えば先入観無く統治者としてあるようにとか
 新たな情報、最新の情報のみを取り入れられる様にとか

 …止めておこう、紫様の二割五分すら私に理解できることは無いのだから。

 まあ、その紫様は今現在私が作った昼食を黙々と食べている訳だが。


 「………」
 「如何ですか、紫様」
 「……………」
 「何かお気に召さない事が、在りましたか」
 「……美味しい、です」
 「良かった」


 目覚めたばかりの紫様はいつもぎこちない態度で食事を食べたり、私を見つめたりする。
 まあ、リセットされた記憶の中には当然私の事も入っている訳で。彼女にとって私は初対面の見知らぬ他人だがお世話をしてくれる妖怪程度の認識なのだろう。
 忘れられるたびに、寂しい気はするが仕方ない事だ。

 まだぎこちなく、どことなく怯えた様子の紫様に微笑む。私は敵じゃない、あなたの味方なのだと本能で感じさせるための笑み。
 何十年も繰り返しているだけあって効果のほどは実証済みだ、向こうも多少は落ち着いた様なのでひとまずは安心といった所か。



 カチカチと、食器と食器の当たる音だけが食卓に響く。
 少しやり辛そうな、それでも懐かしい響き。私はただそれを聞いていた。


 八雲家、今は完全に閉じた世界
 外ではもう冬の寒さを含み始めた風が吹いていた


 不意に紫様が顔を上げてこちらを見る。
 藍、と僅かに聞こえた気がして私なぜか身じろいだ。


 「藍って」
 「はい」
 「虹の中で隣り合う色ですよね」
 「そうですね」


 くすっと、童女のように笑う。
 むず痒い、なぜだかは知らない。


 「お揃いで隣っこですね、私と藍は」
 「紫様の隣に入れるとは光栄です」
 「お世辞が上手いですね、ふふ」


 お世辞じゃない
 そう反論したかったけれどもやはり紫様は笑うばかりでどうせ聞きはしないだろうと思ったので口ごもる。

 お世辞じゃない
 本当の事だ

 八雲藍
 貴方に頂いた名前
 私が紫様から頂いた初めてのもの

 八雲藍
 藍
 紫の隣にある色
 紫様が顔を綻ばせて、笑う


 「紫の隣にある、藍」
 「然様で御座います」
 「素敵な名前ね」


 藍はいつでもあなたの傍にいる。
 いつだって貴方を護っている。
 例えそれが一年間しか持たぬ記憶であろうと、私はあなたを○○し続ける。

 その為にも、私はあなたに問われる。
 毎年の如くその名を問われる。
 その度に教えるのだ、その度に自覚するのだ。
 私はあなたの従者だと、いつまでもあなたの味方なのだと。






 ▼△▼





 忘れる度に思い出す
 身を焦がすほどのこの感情を

 一年毎に私は貴方に○○する
 




 ▼△▼






 冬、といえる時期まではまだ少しあるらしい。
 まだ木枯らしの厳しい晩秋の道を妖夢と同伴して歩きながら私は感傷に浸る。

 冬と呼ばれる時期になれば紫様は成長を始める為の“教育”に入る、春になる頃にはもういつもの紫様になるだろう。
 今は、紫様が私を頼りにしてくれる時期、甘えてくれる時期。
 今日は何をしてあげようか、明日は何をしてあげられるか考えられる貴重な時期だ。
 この木枯らしが吹き終わる前に、じっくりと楽しんでおかなくては勿体ない。


 「藍さん」


 不意に、咎めるような声がした。同時に左手の甲に鋭い痛みが走る。
 手を繋いでいた妖夢がぎうと爪を突き立てたらしい、痛いぞ妖夢。
 些か不意を打たれたように妖夢を見やると僅かにぶんぶくれた表情で、明らかに怒っている。何が悪かったのだろうか。


 「困りますよぅ、他の事を考えてちゃ」
 「ん?そうだったか?」
 「声をかけても生返事なんですもん、詰まんないです」


 むぅと頬を膨らませながら妖夢は怒る、なにも爪を立てる事は無いじゃないかと思うが構って欲しい思うだ子供心故かと心の中で一人納得する。
 もう子供の年頃では無いと思うのだが。そうは思うが普段はしっかりしている彼女の事、こういう時にまだまだ甘えたいのだろうと嘆息した。まだまだ子供だな。


 「冬が終われば紫様が出てくるので、その前に聞いておきたい事があるんですよ。剣術の稽古にも付き合っていただきたいですしそれに…」
 「それに?」
 「なんでもありません!」


 すまなかった、と冗談交じりに繋いでいた妖夢の右手に接吻を施すと面白い程顔を真っ赤にして狼狽する。色事に関してもまだ子供、一人前とは到底言い難いな。


 「そんな未熟者だからまだ相談役が必要なのだぞ?」


 昔から妖夢の相談役と言うよりも世話役はいつも私だった。
 確かに紫様と幽々子殿は親密な関係で妖夢はその幽々子殿の従者だ、私が世話役となるのは至極当然な流れなのだろう。だが妖夢はそんな年じゃないのではなかろうか、もうちょっと厳しくしても良いのではなかろうかとも思うのだが。


 「藍さんは、私が嫌いになりましたか」
 「いや、そうでは無いのだが」
 「でも、私には藍さんがまだ必要なんです…」


 先程までの浮つき様とはうってかわって顔を俯かせている、その声はまるで親に捨てられそうな子供の様で。
 なんだか、まだまだ彼女は子供なのだと自分に言い訳をしたくなった。


 「…まあ、仕方ない」
 「本当ですか!?」


 途端にまた顔を上げて嬉しそうに快哉を上げる。そんなに喜ばんでもいいと思うが。
 だがまあ悪い気はしない、自分の事を必要としてくれる者が多いと言うのは徳の問題だ、それ即ち八雲の名に一層の磨きがかかると言う事で、下手に他者の好意を無下にしてはならないのだろう。
 とまあ小難しい事を言っているがその本心は妖夢の事を子供のように思っているのだろう、小さい事から面倒を見てよく懐いてくれているなら情は移ると言う物だ、子犬みたいだし。

 あまりとろとろしていると日が暮れてしまう、妖夢にまた手を差し伸べると先程とは比べ物にならないぐらいの力で握りしめられて、思いっきり振られる。


 「わ、わ」
 「生返事ばかり返してきた罰です、人里に行くまではこうしていましょう」
 「ちょっと待つんだ妖夢、落ち着け、私の何がいけない」
 「聞いてませーん」


 なんだか思いっきり振り回されている気がする、いや振り回されているのだが、要は気持ちの問題だ。
 何だか妖夢が言葉を発した気がしたが、あまりに小さいその声は木枯らしにかき消されてしまった。






 二人で寒さに身を凍えさせながら帰り路を往く。
 冬の訪れをひしひしと感じさせる風は、これから来る季節の厳しさを思い起させた。
 冬は淘汰と、充電の季節
 世界はその間黙する白く染まり、いずれ来る春の訪れを待ち続ける。



 別れた後帰宅すると縁側で緑茶を飲んでいた紫様は顔をあげお帰りなさいと呟く、待っていてくれる人が居ると言うのはやはり心の平穏に必要不可欠だ。
 失礼します。そう断りを入れて紫様の隣に座る、縁側からの世界を眺めてもそれは荒廃した、茶だけが目立つどこか物寂しい景色に過ぎない。
 葉を残らず削ぎ落とした木々も、草も生えずにぼろぼろの土も、まさしく荒廃という言葉を思い起こさせる。

 確か数ある庭の内この庭を作ったのは紫様の筈だが、昔の彼女は何を考えてこの景色を創りあげたのだろう。深い意味があるのだろうかと思索するも、やはり答えは出ずじまいだった。

 この景色が意味を持つか持たないか、それを決めるのは紫様に他ならないし決して私では無い。私には紫様の気持ちが理解できない、考え方を真似できない。
 私と彼女の隔たりを象徴す様で、私はどうにもこの庭が嫌いだった。


 「冬が、来ますね」
 「ええ」
 「冬は好きですか」
 「夏に比べては」
 「夏?」
 「この尻尾ですから夏はもう暑苦しくて」
 「お気の毒様ですね」


 幾分か申し訳なさそうに、それでも嬉しそうに私と話す紫様。
 私はどの季節も好きですが、やはり春が好きですと話す紫様。
 ちらと私の尻尾を見て触ってみても良いですかと恥ずかしげに頼む紫様。

 ああ、嗚呼
 なんと言う幸せか、何と言う満たされた世界か

 手入れを怠っていない、豪奢に揺蕩う九尾の恐ろしげに手を触れ、次第にうっとりと撫でたり抱き着いたりしてくる紫様を見ているともはやこのままでも良いような気がしてくる。

 閉じた世界、不必要も必要も無い世界
 ただ私にとってはそれだけでいい

 だが駄目なのだ、背負う物が違い過ぎる
 私の身勝手な欲望で紫様の大義を穢す事なぞあってはならない。


 私は狂っているのだろう、壊れているのだろう。
 もし、私の壊れた所が修理できない程に歪んでいたとしたならば。
 紫様は私をきちんと殺してくれるだろうか、それだけが心配でならないのだ。





 ▼△▼




 貴方はなぜ私についてくるのかしら
 なぜ私に尽くしてくれるのかしら
 貴方にとって私は何なのかしら

 知りたい
 喉が渇くように渇望している

 知りたい
 もっと貴方を知りたい
 狂おしいまでに、貴方の事が知りたい

 何故かしら




 ▼△▼




 いよいよもって気温は低下していき、ついに今年の初雪が降った。
 なにと無しに寒いと思い窓を開けると、ちらちらと結晶が瞬いていた。

 私の跡から起き上がった紫様は障子の奥を見てわぁと感嘆の声を上げる。
 そのまま表に飛び出たはいいがすぐさまUターンして布団に飛び込んだ、見てて微笑ましくなる光景だった。


 「寒いですか」
 「寒いです、死んでしまいます」
 「取り敢えず朝餉の準備でもしておきましょう」


 ととと
 真冬の廊下を歩くと足が痛い、裸足で歩くんじゃなかった。と思いつつ、私は台所へと向かう。
 この冷たい廊下の床も冬を感じさせる風物詩の一つ。





 さても、さても
 私は紫様の手を握って館の奥へと入ってゆく
 紫様は不安げな顔で時折私と、正面を交互に見比べている。

 正面は闇だ、一寸先も見通せないほど昏い、まるですべてを飲み込むように口を開く闇。


 「雪が、降ったんですよ」


 ぽつりと呟く様に話しかけると僅かに肩を震わせて見上げてくる。


 「毎年、雪が降ったら紫様を連れて行かねばならない所が在ります」
 「私が、行かなければならない場所?」
 「そうです、それを紫様は望んでいます」
 「藍も?」
 

 僅かに、微笑む
 大丈夫、怖くありません、ここには私が居る


 「ええ、私もそれを望んでいます」
 「…分かった」


 それですべてを了解したように紫様の目から怯えが消えた。
 美しい、それでいて気高い瞳が闇の中で爛々と光り輝いている。
 ああ、我が誇り高い主、我が全てを捧げた主上、もうじきです。もうじきですよ
 私は、誰ともなしに微笑んだ




 終着点は、何と言う事も無い対の障子戸だった。
 終わる事の無い闇夜の果てにある何の細工も施されていない扉、“中身”が重要である事は明らかなのに封印どころか鍵さえも掛っていない。平常で、それ故にむせ返る程の異常さを孕んだその光景。
 隣に居た紫様が息を飲む音が聞こえた。

 戸に手を掛けると、何の抵抗も無くからりと開いた
 外から中は良く見えない、そこに在るのはやはり無限に広がる闇のみだ。


 「お入り下さい」


 そっと、促すように紫様を導く。催眠術にかかったかのように足がふらふらと境界を抜ける。
 手元の行燈から灯を蝋燭に移してゆくとしだいに部屋の全景と、その部屋が何の為にあるのか、その目的が見えてくる。

 書物だった
 私の背の5割増し程もある高さの部屋には隙間無く本棚がずらりと肩を並べ、そこにはびっしりと書物で埋まっているのだった。


 「これが八雲紫です」
 「八雲紫?」
 「歴代の八雲紫が書き連ね、築き上げた幻想郷の歴史、八雲紫としての全てが封じられた書物」


 寿命が一年しか持たない八雲紫、その記憶すらも失う理由がこれなのだろう。
 自ら編纂し、客観的に見た幻想郷の歴史、いかなる利権や感情にも侵されない記憶で歴史を積み重ね、それを後世の自分に残す事でより完璧な賢者たろうとした彼女の意志。

 八雲紫とは何か
 幻想郷とは何か
 何をするべきか

 一から緻密に、一辺の歪みも無く記憶を構築する、それを一年間隔でフォーマットし、また上書きされた状態の記録をインプットし、フォーマットし、それを繰り返す事で彼女は無欠の賢者となっているのだ。

 長く生きれば生きる程しがらみに憑りつかれ、先入観に支配され、妄執に固執するようになる、そんな事を防止する為に彼女は一年毎に生まれ変わる。

 未だ何かに憑かれた様な紫様を置いて私は部屋の外に出る、鍵は掛けない、どうするべきかは紫様の魂が知っている。
 紫様がこれを読みきるのは雪が降り終わり、春が訪れる頃だろう。紫様の不在を“冬眠”なんて理由づけする理由がこれだ。頼りにされるにはまだ彼女は非力すぎる。

 さて、これからまた暇になるな
 数日前とは違いここには紫様が居る、それだけで帰りを往く私の足取りは浮足立った。




 ▼△▼




 私の全てが収められた部屋?
 それなら、この中に私の探している物はあるのかしら




 ▼△▼





 「それで、妖夢の稽古を付けに来たのね」
 「ええ、なにせ暇ですし」
 「頼まれたからじゃなくて?」
 「それもあります」


 そう、とだけ呟いて幽々子嬢は庭の方を向く。
 見事に手入れされた広大な庭は雪の降り積もる冬だとは思わせない程美しく手入れされていた。まあ白玉楼は雲の上にあるので雪なぞ関係ないが。
 この寒さで先端がかじかむ耳に誰かの気勢の籠った声と風切り声が風に乗って聞こえてきた。
 身を切るような寒さに震えながら草履を履いて出ると妖夢はが相変わらずの修業をしている所だった。この寒さであるのに厚着もせず、体から湯気が出る程の熱の入り用とは大したものだ、どこかの爺を思い出して私は顔を顰る。


 「よう、励んでるな」
 「わ、わ」


 声をかけてやると驚いた声を上げ後ずさる、そして私の顔を数十秒に渡ってじぃと見つめ、「藍さん?」と惚けたような声を上げた。失礼な、私の顔を数十秒に渡って不躾に舐め回した挙句疑問形とは。


 「どうした、私があまりにも美人だから惚れたか」
 「そ、そんな訳無いじゃないですか!酷い方ですね!」
 「その言い方、どっちかと言うと酷いのは妖夢だと思うが」
 「あ…あ、すみません…」


 さっきまでの威勢はどこに行ってしまったのだろう、顔が赤いのは先程まで稽古していたからだろうかな。しかし指摘されて顔を真っ赤にするとは可愛いやつだ。


 「妖夢は可愛いなぁ」
 「へぇっ!?な、何を冗談言っているんですか藍さん!?」
 「冗談では無いぞ妖夢、私はまるでお前の事をまるで娘の様に思っている」
 「……そっちですか」
 「はて、お前は何を想像していたのだ?」
 「いえ、私が阿保でした」


 ふむ、私が娘の様に思っていると言うのは珍しいと思うが。なにせ私の子供や子供になる筈だった者は大抵殺されてしまっているのだからなぁ。
 しかしまあ、あれだけ気合いの入った鍛錬を見ると何だ、ムラムラする。


 「どれ妖夢、私と手合わせするか」
 「本当ですか!?」
 「何年ぶりかは分からんがなに、腕が落ちていない事を願え」
 「藍さん強いんですもん、少しは手加減してくださいよ」
 「手加減されて得た勝利は無価値だと教わらなかったか?」


 よしよし、上手く乗ってくれたようだ。まあ駆け引きに置いて私の上回る物などそうは居ないが。
 手元に簡易式の隙間を展開し、そのまま横薙ぎにつうと引き抜く。やや大ぶりな日本刀が腕にすっぽりと収まった。
 さて、どれほど妖夢が強くなっているか分からんが弱くなっている事はあるまい。もしそうならば紫様に頼んで妖忌を連れ戻しに言ってくるか。


 「さて、私に勝ったらなんでも言う事を聞いてやるぞ?」
 「自信満々なようで!そんな事言われたら勝ちを狙いに行くしかありませんね!」


 爛々と目を輝かせる妖夢は気合十分、準備万端と言った装いだ。
 どうやら久々に腕慣らしできそうである、舌なめずりしそうになるのを抑えて私は引き抜いた刀を振るった。







 私が帰宅したのは夕日が暮れ沈む頃になる。
 七色の中で一番波長の長い光で家の周りに振り積もる雪はきらきらと紅く瞬いていた。
 冷えた手で引き戸に手を掛け只今帰りましたと言おうとして、やはり家には誰も居ない事に気が付いて、それでも私はただいまと言った。

 台所に立ち今日も私は二人分の食事を作っている、一人分で無い事は嬉しい事だ。
 紫様も私も妖怪だ、持つことは持つがそれでも長い間食事を取らないと衰弱する。

 あの勝負で私が負けるわけは無く、完膚なきまでに打ちのめされた妖夢は少し悔しそうな面持ちで「勝てませんね、まだまだ」と達観していた。
 それにしてもあそこで私が負けていたら妖夢は私になにを願ったのだろうか、妖夢がそこまで執着を見せる理由を私は知らない。
 ただ傍観者に徹しながら何の変化も見せない微笑を浮かべていた幽々子嬢ならわかっていたのかもしれないが、彼女に聞くのも何ともなしに躊躇われた。
 そう言えば、去り際に「にぶちん」と言われたが何の事だろう。



 食事を置きに行った時、紫様は一心不乱に目を走らせていた。
 読む速度は最初と比べ物にならない程に上昇している、この分だと今年も雪が解け始める頃には完了するだろう。
 しかしこれほどまでに一生懸命なのにいつ食事を取っているのだろうか、器からきちんと食事が消えているので食べている事は分かるのだが。まあ私は常時監視しては居ないので分からないのだろうが。

 どうやら今年も元旦は白玉楼で過ごす事になりそうだ、妖夢をどうからかってやろうか。
 何処か物悲しい気分を感じつつも私はふいふいと笑っていた。




 ▼△▼




 ここには無い
 どこにも無い 

 果たしてどこにあるのか
 どこにも答えなんて無いのか

 私はただ探し続ける

 記憶の海からそれを引き上げるたった一つの単語
 八雲藍
 何故かは知らないけど頭のどこかに引っかかる名前

 どこかで聞いたことのある名前
 いつか聞いたことのある名前

 ―――――らん、と申します

 ―――――漢字にして藍、あなたに頂いた名前です

 それを聞いた瞬間に頭の中に“紫”が生まれて、彼女は笑った。
 貴方の笑った顔が見たい
 貴方を満足させたい

 何故かは知らないけれど私はそれを渇望している



 だから私は八雲紫を探す



 
 ▼△▼




 そうして時は、過ぎる
 緩やかに、しかし着実に流れ去る




 雪は、僅かに溶け始めた
 厳しい冬の終わりと、春の訪れ
 そして


 「紫様」
 「あら、なにかしら」


 紫様は、今日完成した
 飛び上がりそうな程に嬉しい


 「別に、呼んでみただけです」
 「そう」


 ああ、紫様
 また会えましたね


 「嬉しそうに尻尾を振っちゃって」
 「本当に嬉しいです紫様」


 紫様は僅かに、何故か困ったように微笑んで
 ぎゅぅと私を抱きしめた

 ああ、良い匂い
 紫様の、私の愛おしい主人の匂い


 「ありがとう、今年も宜しくね」


 この為に生きている
 私は、あなたの為に生きている


 「最初は何をしましょうか」
 「博麗の巫女に会うのが良いでしょう、最近はまたさぼっている様ですから」
 「そうねえ、幽々子にも会いたいわ」
 「それも良いでしょう、きっと喜ぶと思いますよ」
 「どちらにせよお土産は持っていかないといけないわね」
 「それはもう、たんまりと」


 ばかりと開くは紫様の象徴、紫色の不可思議な門



 私はあなたの物
 私の全てをあなたに捧げる
 私は誰の物でも無く、ただ貴方の為に尽くす
 ダカラアナタモ、ワタシノモノ


 微笑む
 僅かに、笑う
 隙間の先には、暖かな春の陽光が包んでいた。



 ■□■


 一体何年経ったのだろうか

 意外な事に紫は約束を守り生まれ変わり続けている、だから私も約束を破らないだけだ。
 別に誓いを破り今すぐに殺しても良い、幸いなことに彼女にはその隙がある。
 今までもそうだったように、約束なんて破る為にあるのだから。

 だが、私はそれをしなかった
 何故かは知らない、だがそんな事をしてしまったら私の中の何かが永遠に私を許さないだろう、そんな気がした。

 それは未だにいつ破られるか分からない誓いを破らずにいる彼女への、私なりの正義かもしれない。
 私を殺さずにいる彼女へのちっぽけな恩義を感じる心がそうさせているのかもしれない。

 それとも、世界の全てを敵に回しても変わらずに私の怨敵であった彼女への、そして私に確固とした名前と共に存在価値を教えてくれた彼女への――――いや、いい。

 何年経ったのだろうか

 迂闊過ぎた
 私と肩を並べる程の策士である彼女が、情と言えど分の悪い賭けを持ちかけるか?ましてや命の張った賭けを持ちだすか?
 あの時の私はきっと正常な判断を失っていたとしか思えない。

 「世界を一つ、作ろうと思うの」

 馬鹿な話を、真面目な顔で言われた。
 それを否定できずに、寧ろ彼女ならできるのではないかと肯定している私に気が付いた。

 理由を考えると非常に馬鹿な話に過ぎなかった。
 私はとっくのとうに情が移っていたのだ、彼女の傍にありたいと思っていたのだ。
 理由はいらない、ただ私を必要としてくれたのは彼女しか居なかった。
 だから私は貴方に尽くそう、時に盾となり鉾となろう。



 月夜の晩に、跪きながら私は頭の片隅で考える。
 百年はとっくのとうに過ぎ去っていた。





今から随分昔の話になる





.
全ては彼女の手の中


(2012/9/18)

>>3さん
いきなりの絶叫ありがとうございます 作者冥利に尽きますですよ

>>6さん
ありがとうございます 何よりも励みです

>>8さん
夢があるシステムですよね…合法ロげふんげふん そっちじゃないですよ

>>9さん
捏造が無ければ夢が含まらない系作者 やっひぃー
もっと可愛い八雲主従募集

>>奇声を発する程度の能力さん
ありがとうございますですよ
面白いお話書きたいです

>>12さん
いいですか いいですか!

>>15さん
18歳ネタは古いです 時代は転生…私だけですかそうですか

>>16さん
物語の裏の話を推測するの楽しいです

>>19さん
もってもてやで もってもて

>>21さん
成程…確かに読む分には手間がかかりますね ふむ
もうちょっと固める事を心がけます アドバイス感謝します
らんみょんは完全な趣味です 詰め込み過ぎた

>>23・24さん
ありがとうございます
その言葉はどっちのモノでしょうね…


それでは

かしこ
芒野探険隊
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.710簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
うおおお!うおおおおおおおお!久々にハッスルしちゃっいました!理由は後で書きます。お疲れ様でした。
6.100名前が無い程度の能力削除
すき
8.100名前が無い程度の能力削除
きゃーこのゆかりんシステムが素敵。なんという合法ロリ。
9.90名前が無い程度の能力削除
これはいい捏造ですね
八雲の主従可愛い
10.90奇声を発する程度の能力削除
とても良いお話でした
面白かったです
12.100名前が無い程度の能力削除
これいいなあ
15.100名前が無い程度の能力削除
やくもゆかり1歳。
とてつもない発想だぜ。
16.100名前が無い程度の能力削除
冬眠の裏にこんな話が…!
19.100名前が無い程度の能力削除
両手に花やんか藍
21.60名前が無い程度の能力削除
ううーん。反転させて二度読むのって、この文章量だと辛いっす。
そして、反転させて読んだとしても、物語が劇的に変わるわけでもなく、ありきたりなオチ。
あと、途中途中で挟まってくる独白は、マジポエム。物語になんら寄与していないって言うか、物書きなら描写で見せて欲しいって言うか。

藍と紫の関係と、藍とみょんの関係の二つのお話が同時進行しているけど、両者の物語は何の係わり合いもないまま終わってしまって、二つの物語をバラバラに読んでいる感じ。どっちが主題なんだとモヤモヤしちゃって。
23.無評価名前が無い程度の能力削除
いいですねぇ、こういう作品は好きです。
「全ては彼女の手の中」果たして、この言葉はどちらのものなのか・・・
24.90名前が無い程度の能力削除
↑点数付け忘れた・・