Coolier - 新生・東方創想話

東方童話 『長靴をはいた猫』

2005/07/16 07:50:23
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むかしむかし、とある国のあるところに、粉引き職人が居ました。
居たのはいいですが、不慮の事故だかなんだかで、ぽっくり死んでしまいました。

    妹紅「・・・・・何か、絶対砕けそうに無い石鉢が・・・落ちて・・・・がくっ。」

その職人には、三人の息子がいました。
三人はそれぞれ、亡くなったお父さんの遺産を分配されたのです。

    輝夜「ふふふ・・・。これで藤原家の遺産は私の物!」
    鈴仙「何か陰謀を感じますねえ。」
    慧音「養子に入って養父を殺して遺産を奪う犯人だな。ていうか思いっきりバレてるぞ。」
    鈴仙「まあ、どうせ話の本筋には私たち関係ないし。行くわよ、ロバ。」
    慧音「ロバって・・・。脇役もいい所だよ、まったく・・・。」
    鈴仙「姫、とりあえず時効が来るまで家に篭っていた方がいいですよ。」
    輝夜「永遠を生きる私に、時効なんて如何程の意味があるかしら。でもとりあえずトンズラね。」
    
長男は粉引き小屋、次男にはロバが、それぞれ分配されました。
ところが末っ子には、父親の飼っていた猫だけしか遺らなかったのです。

     藍「いいもん。問題ないもん。だって猫とくれば、橙しか居ないし。」

明らかに、一人だけ冷遇されてる気がします。
しかし、末っ子は前向きなヒトだったので、気にしません。
数日後、その末っ子の元に箱が送られてきました。
その中には、お父さんの遺産である猫が入っています。

     藍「そら橙や、出ておいで~。」

末っ子は箱を開けました。

   魔理沙「ぷは~。ああ、窮屈だったぜ。」
     藍「・・・・・・。」
   魔理沙「やっぱり、シャバの空気は美味いな。そう思うだろ?」
     藍「・・・・・・。」
   魔理沙「・・・・・・。」
     藍「・・・・・・。」

運命の出会いに、時を忘れてしばし見詰め合う一人と一匹。
ややあって、猫が声を出しました。

   魔理沙「にゃあ。」

末っ子は無言で、箱を閉めました。

   魔理沙『おいこら、何するんだ!暗いじゃないか狭いじゃないか。』
     藍「まったくもぅ、宅配屋さんってば荷物間違えたのな?しょうがないなあ。あはは。」
   魔理沙『現実から目を逸らすな。お~い。聞いてるか~?』
     藍「あはははは。さて、さっさと送り返すか。」

末っ子は箱を送り返しました。

 ・
 ・
 ・

次の日、また箱が送られてきました。

     藍「今度こそ、橙や、私の胸に飛び込んでおいで~。」

末っ子は箱を開けました。

    霊夢「ああもう!何でこんな所に閉じ込められなくちゃいけないのよ!」
     藍「・・・・・・。」
    霊夢「ったく、ほんと窮屈だったわ。あ、藍じゃないの。とりあえずお茶でも淹れてくれない?」
     藍「・・・・・・。」

末っ子は無言で、箱を閉めました。

    霊夢『ちょっと!何で閉めるのよ!』
     藍「・・・これは巫女。猫じゃない。巫女なんだ猫じゃないんだ・・・。」

末っ子はまた、箱を送り返しました。

 ・
 ・
 ・

そして次の日、また箱が送られてきました。

     藍「そ~れ、今度こそ我が胸にカムヒア、橙!」

末っ子は箱を開けました。

     紫「Zzz・・・・。」
     藍「・・・・・・・。」

末っ子は、今度は箱を閉めることなく、硬直してしまいました。

     藍「(ヤバイ、これはヤバイてか何でこのヒト入ってんの?いや入っててもおかしくないけど。
        猫役で来た?冗談じゃない猫役は橙以外認められない。じゃあ、また送り返す?
        でも送り返したらヤバイ、そしたら生命の危機白玉楼まっしぐら?私ってば薄命?
        ああ美しいって罪。じゃなくて私はこの現実を認めるべきか否かデッドオアアライブ?
        認めれば今後の展開はデッドで白玉楼まっしぐらでこんにちわお世話になります西行寺。
        認めぬならこの場でデッドでゴートゥースキマさようなら幻想郷お腹一杯弾幕結界。
        ・・・アライブな要素が無い!何一つ無い!これっぽっちも無い!どうする、どうする私!)」

末っ子は、心の中で葛藤と戦っています。
額からは、汗がだくだくと流れています。

     藍「だが今なら・・・今なら無かったことに出来る・・・。
       例えそれが、1%以下の勝機であったとしても、私はそれに賭ける!」

と、言うことでまた、箱を送り返しました。

     藍「お許しあれ紫様。されど、ここには橙が来るべきなのです・・・。」

 ・
 ・
 ・


で、次の日、また箱が送られてきました。

     藍「今度は業者さん本人がお出ましか。大儀であった。」
 パチュリー「何で偉そうなのよ。とりあえず、届けたから。それじゃ。」
     藍「待って、中身を見てから行ってくれ。」

末っ子は荷物を開けました。

    咲夜「はじめましてごしゅじんさまよろしくおねがいしますですにゃあ。」

仲からは、やる気の無さ気な猫が出てきました。

    咲夜「・・・・これでいいですか?」
 パチュリー「心がこもってない。20点。」
     藍「・・・。」
 パチュリー「そんなので、立派なネコメイドになれると思って?」
    咲夜「なりたいとも思いませんって。」
パチュリー「やっぱり、ネコミミが要るかしら?」
    咲夜「聞いてます?」
     藍「・・・。」
 パチュリー「とまぁ不完全だけど、確かに届けたわ。」
     藍「もって帰れ。」

早々に送り返しました。

 パチュリー「尻尾も要るかしらね。」
    咲夜「とりあえす、仕事に戻っていいですか?」

 ・
 ・
 ・

もういい加減ウンザリですが、また箱が届けられました。

     藍「仏の顔も三度までと言うけど、四度もよく我慢したよ、私。」

今度は、直ぐに開けようとはしません。
末っ子は箱を前にして、何かをつぶやき始めました。

     藍「・・・もう何が出てきても驚かない。て言うか、これ以上何かを期待できるか?
       本来なら橙が送られてきて、箱を開けた瞬間私の胸に飛び込んで来て、そして貧乏な
       私を想い、一心不乱に奉仕してくれる。そんな愛らしく一生懸命な、でもちょっと
       ドジ踏んで滑ってみて萌え、な橙の頑張りで、私たちは無事、幸せをゲットする。
       そんなスリルとサスペンスに満ち溢れた感動スペクタクル(ガンアクション込み)の
       幻想郷中が涙するような竹取物語を超えた大ストーリーが展開される予定だったのに!
       多分この中には憎しみ悲しみ妬み辛みその他諸々の苦痛、あらゆる厄災と呼ばれるモノ。
       それにちょっぴりスパイスを効かせてピリリと辛くし、さらに隠し味として少しばかり
       赤味噌と蜂蜜を入れた、スッキリかつコクのあるドロドロした食感のソレが入っている。
       これを開けた結果世界は非常に世知辛くなり、私はその中を独り、孤独に生きて行くんだ。
       パンドラさんのボックスでさえ希望がちょっぴり入っているのに、この箱は何だ・・・。
       巫女、紫様、20点ネコメイドオプションでネコミミと尻尾ついてます1号・・・。
       それ即ち、私から見れば絶望、絶望、絶望、絶望、絶望、絶望、絶望また絶望・・・・。
       いいもんが何一つ入ってないじゃないか!何?絶望の大安売り夏の特別感謝祭開催中?
       今なら漏れなく全員に金銀パールプレゼント?ふざけるな!そんな抱き合わせ商法があるか!
       絶望の相場が大暴落だよ投げ売り反対!てか私には日々を明るく生きる権利は無いの!?
       『明日』っていうのは明るい日って書くんだよ!『暗日』って改名してやろうか、あン!?」

何か言ってる事が色んな意味で滅茶苦茶なような気もしますが、
連日の配達の間違い騒ぎで、末っ子はすっかり心が荒んでしまったようです。

     藍「こんな世界なんて、滅んでしまえぇええええ!!」

物騒なことを言いながら、末っ子は箱を開けました。

     藍「さあ、箱の中からは憎悪嫉妬憤怒絶望苦痛厄災が!さあ私に力を与えよ!
       世界を滅ぼす力!闇の力を!あ~はははははは!あ~っはっはっはっは!」

ちょっとトリップしてしまった末っ子は、高笑いしながら凄いことを叫んでいます。
このままでは、世界を滅ぼす大魔王が生まれてしまいます。
しかし、奇跡が起きました。

     橙「藍さま、ちょっと怖いですよ。」
     藍「!!!!?」

箱の中の天使、猫が、魔王になりかけた末っ子に、救いの手を差し伸べました。

     藍「ち、ち、ち・・・・!」
     橙「?」
     藍「橙かぁあああああ!!」

愛らしく可憐で、猫だから当然ネコミミで尻尾がある、そんな猫を、末っ子は抱きしめました。
きっと、彼の心の中では、賛美歌が流れていることでしょう。

     藍「ああ、幻想の神は私を見放してはいなかった・・・。橙よ、よくぞ私の所へ・・・。」
     橙「い、痛いですよお~。」
     藍「おお、すまんすまん。さあ、橙、私と一緒に、感動スペクタクルをひた走ろうじゃないか!」
     橙「私と一緒に?送り返したりしない?」
     藍「当たり前だ。お前を送り返したりなんて、誰がするもんか。」
     橙「ほんとに?」
     藍「ほんとだよ。」
     橙「ほんとにほんと?」
     藍「くどいぞ、こいつぅ。私がお前を捨てたりなんて、するわけ無いじゃないか。」

この上無い幸福に包まれる末っ子。
一生、この猫を大事にしていこうと、心に決めた瞬間でした。

     橙「言ったわね。」
     藍「へ?」

ぴしっ!と猫の顔にヒビが入りました。

     藍「!?」
     橙「言ってしまったわね、藍。」

先程とは全く逆の、何とも言えない感情の篭った声で、猫が語りかけます。
その間にも、ヒビはどんどん広がってゆきます。

     橙「ふ、ふ、ふふふふふ・・・。」
     藍「あ・・・あ・・・あああああ・・・・。」

末っ子の顔が引きつってきました。
涙さえ、浮かべています。
そして、ソレは正体を現しました。

     紫「呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃ~ん。」
     藍「ぎゃあああああ!!紫さまぁあああああ!!?」

猫の中から、別の猫が出てきました。
末っ子を包んだ幸福は、音を立てて崩れ落ち、欠片は砂となってさらさらと流れて行きました。
末っ子に残ったのは、恐怖、絶望・・・・そして、憤怒、悲痛。

     藍「あ、あなたと言うヒトは!読者諸君の期待のベクトルを0度とすると、その期待を
       斜め33度と言う絶妙かつ微妙に良いのか悪いのか分からない方向に持ってって、
       挙句に軌道修正してマイナス26度とか行ったり来たりさせてくれるくせに!!
       何で私の期待に限っては0度から360度進んだ直後余計に180度進めちゃって
       期待とは反対の物凄く嫌ぁ~~~な方向に持って行ってくれやがりますですか!」
     紫「ほら、これがほんとの『猫を被る』ってやつよ。」
     藍「うわ、聞いてない。ヒトの話ぜんっぜん聞いてないよ・・・。」
     紫「聞いてるわよ。漸く話の本筋に入れるのよね。」
     藍「うわぁ~ん!ちぇ~ん!1%の牙城が落ちた~!やっぱり私は死ぬしかないんだぁ~!
       こんな不幸な主人を許しておくれ~!お前だけは立派に生きておくれ~!」
     紫「言い遺すことはそれだけかしら?それじゃあ、一言私に言うことあるでしょう?」
     藍「あうあう・・・よろしくおねがいしますごしゅじんさま・・・・。しくしく・・・。」
     紫「あ、でも・・・。にゃにゃにゃにゃ~ん!の方が良かったかしらね?」
     藍「どっちだっていいですよぅ・・・。ぐすっ。」

 ・
 ・
 ・

さて、無事に猫を受け取った末っ子ですが、目は真っ赤です。
父親の遺産を見て、父を思い出し、一晩中泣いていたのでしょうか?

     藍「パパなんか知らないよう・・・。私は天涯孤独だもん・・・。」
     紫「さて、本筋に戻ったからには早速動かなきゃ。」
     藍「そうDEATHね・・・。」

猫は、末っ子に提案しました。

     紫「まずお前は、『粉引き親父の三男坊通称末っ子』改め、『カラバ公爵』と名乗りなさい。」
     藍「カラバ公爵?はて、私は粉引き親父の三男坊通称末っ子以外何者でも無いですが・・・。」
     紫「いいから。私の言うとおりにしたら、間違い無いの。」
     藍「はあ。」

末っ子は、『カラバ公爵』と名前を改めました。

     紫「さて、次は長靴ね。何処にある?」
     藍「その辺にありますから、適当に選んで下さい。」
     紫「ん・・・。何、この長靴。サイズが合わないじゃない。」
     藍「仕方ないでしょう。全部橙に合わせたサイズなんですから。」
     紫「不慮の事故に対処出来ないなんて、まだまだね。」
     藍「事故の元凶のくせに・・・。」
     紫「他に、何か無いの?」
     藍「洗濯したての靴下がありますが?」
     紫「それって・・・私に対する挑戦かしら?」
     藍「滅相もございません!『紫様=臭い靴下』という図式なんか知りませんってば!」
     紫「・・・まぁ、ややこしくなるから、とりあえず納得しておくわ。じゃ、行って来るわね。」
     藍「紫様、何処行くんです?」
     紫「私は猫よ。にゃあ。」
     藍「・・・それじゃあ、ゆかネコ様。一体何処へ?」
     紫「乙女心と猫心は気まぐれなのよ、にゃあ。」
     
猫は長靴・・・ではなく、靴下を履くと、とっとこと出かけて行きました。

 ・
 ・
 ・

靴下を履いた猫は、この国の王様の所へやってきました。

     紫「お邪魔しませんよ。」
   魔理沙「邪魔しないなら、入ってもいいぜ。」

この王様、何かどっかで見たような気がしますが・・・。
多分気のせいでしょう。

   魔理沙「最初に送られてきたのは、実は王様だったと言うことだ。魂消たか?」
     紫「一回送り返された私が、実は本物の猫って言うところもおっ魂消よ。」
   魔理沙「で、何の用だ、猫よ。」
     紫「ええ。じつは、これをお届けに上がりました。」

猫は、つかまえておいたウサギを、王様に献上しました。

    霊夢「こら紫!いきなり私をふん捕まえて、どうする気なのよ!」
     紫「手前が主人、カラバ公爵様からの贈り物ですわ。」
   魔理沙「おお、これは珍しい紅白のウサギだな。苦しゅうないぜ。」
    霊夢「何でこんな役ばっかのよ、も~!」

王様は、猫のことを気に入ったようです。
猫はその後も何度か王様に会いに行きました。
そうしているうちに、猫は王様と仲良しになったのです。
そうして数日が経ったある日のことです。
猫は、カラバ公爵を河原に連れ出しました。

     藍「私くらいになると少々の水は平気ですけど、水辺はあんまり来たくないんですが。」
     紫「まあまあ。私に任せなさい。」
     藍「何を任せれば良いのやら・・・。」

カラバ公爵は、物凄く不安に感じています。
そんなカラバ公爵はほっといて、猫は何処かに行ってしまいました。

     紫「さてさて、あれね。」

猫の視線の先には、王様が乗った馬車がありました。
猫は早速、王様に挨拶しました。

     紫「王様。ご機嫌麗しゅう。」
   魔理沙「おお、ゆかネコか。どうした?」
     紫「実はうちのカラバ公爵さまが、ちょいと暴走していつもの如くスッパなアレに走ると思ったら
       その期待を135度±補正10度程度転換させて、様々な厄災とかが詰まってそうな箱を開けて
       世界を混沌に導こうとしているから、王様の威厳と力と魔法で何とかしてくださいな。にゃあ。」
   魔理沙「それは大変だなあ。」
     紫「公爵を止めることが出来るのは、王様だけです。是非会ってやってくださいませ。」
   魔理沙「うむ、よろしい。早速会うとしようか。」

王様は、カラバ公爵に会いに行きました。
猫に先導され、馬車は河原に向かいます。

     紫「公爵はそこですわ。」
   魔理沙「カラバ公爵よ、早まるなぁあああ!!」

到着して早々、王様はそう叫びながら、マスタースパークを放ちました。

     藍「うぶわぁあああああ!?」

カラバ公爵は、それを間一髪で避けました。
カスりが一気に増加するくらい、本当にぎりぎりでした。

     藍「な、な、な・・・いきなり何をするだぁ~!!」
     紫「ええい、こちらにおわす御方をどなたと心得る!」
     藍「?」
     紫「王様よ。」
   魔理沙「王様だ。」
     紫「頭が高い、控えおろう!」
     藍「は、ははぁ~!?」

状況の整理がつかないままですが、カラバ公爵は頭を下げました。
王様は穏やかな表情で、カラバ公爵に近づきます。

   魔理沙「公爵よ。何か嫌なことがあったかは知らんが、落ち着け。私の話を聞くんだ。
       いいか?この世には、ありとあらゆる生き物たちが生きているんだ。
       そんな世界を、お前一人の我侭で滅ぼして良い道理は無い。そう思わないか?
       生きていれば、良い事なんていっぱいあるんだ。諦めて人生を捨てるな。
       お前には猫が居る。私も居る。悲しいこと、辛いことがあったら、遠慮なく
       頼ってくれてもいいんだぜ?だから、な?生きろ。もう一回、生きてみろ。」
     藍「え~と、その・・・。あんたが物凄く良いことを喋っていることが違和感の
       塊なんだけど・・・。いや、そもそも誰が世界を滅ぼすと言ってましたか王様?
       激しく誤解と言うか、確認取る前に処刑しようとするのが王様のやることかと
       一千回くらい問いたい!もう少しで冤罪被って殺されるところだったよ!!」
   魔理沙「間違いを起こさない人間なんて居るもんか。」
     藍「開き直ったな、この暴君!」
     紫「王様の優しさに感動し、徐々に心を開いてゆくカラバ公爵。そして二人の間には、
       ダイヤよりも薄く紙よりも硬い友情が芽生えたのです。公爵は思いました。
       二人で歩めば何者も恐れることは無いだろう。世界征服も夢ではないと!」
     藍「ってそこ!勝手なナレーション要れない!私は世界なんて望んでないし!」

まぁ何にせよ、カラバ公爵は王様と知り合うことが出来ました。

     藍「うわ、強引な。」

王様はカラバ公爵を見て、中々良い若者だと思いました。

   魔理沙「まぁ、折角ここまで来たんだ。お前さんの城に案内してくれ。」
     藍「え゛!?」

王様の突然の提案に、カラバ公爵は言葉を失いました。
ご存知の通りカラバ公爵は、ついこの間まで『粉引き親父の三男坊通称末っ子』だったのです。
当然、公爵は城なんて持っていません。

   魔理沙「ん、どした?」
     藍「あ~、いや、その・・・。」
     紫「ちょっと王様がお出でになるには恐れ多いと、公爵様は謙遜しておられます。」
   魔理沙「なんだ、それなら気にすることはないぜ。うちは常に足の踏み場が微妙だからな。」
     紫「では、私が案内しましょう。」

何と猫は、カラバ公爵の城に案内すると言うのです。
公爵は猫に問いかけました。

     藍「ちょ・・・!紫様!」
     紫「猫よ、にゃあ。」
     藍「ゆかネコ様!私はつい数日前まで『粉引き親父の三男坊通称末っ子』
       だったんですよ!城なんて有る訳が無いじゃないですか!」
     紫「実は、中古物件を格安で買ってあるのよ。」
     藍「そんな都合良く有るもんなんですか・・・?」
     紫「いいから。貴方は黙って私に任せておけばいいのよ。」
     藍「黙りっぱなしの主役ですか?」
     紫「今まで喋りっぱなしだったじゃない。」

何と、お城があると言うのです。
疑問に思う公爵を尻目に、猫は王様の馬車を先導します。

     紫「さてさて、これより先が、カラバ公爵様の土地でございま~す。」
     藍「・・・ここは何処?」

カラバ公爵の土地に着きました。
しかし公爵は、こんな土地になんか来た事がありません。
そんなことはお構いなしに、猫は帽子を被り旗を持って、王様を案内しています。

     藍「ゆかネコ様・・・。何なんですか、ここは?」
     紫「何って、貴方の支配する領地ですよ、公爵様。」
   魔理沙「おや、自分の土地もわからんのか?」
     紫「何分、広いですから。たまに公爵様でも、分からなくなることがあるのですよ。」
   魔理沙「そうか。あ、これ。そこ行く農民や。」
    妖夢「はい?」

王様は、そこ行く農民に尋ねました。
農民は答えました。

   魔理沙「ここは、カラバ公爵の土地かえ?」
    妖夢「ええ、ここはカラバ公爵の土地ですよ。多分。ええ、きっと。」
     藍「??」
   魔理沙「ふ~む、一般人は、誰が支配者か理解しているみたいだなあ。」

公爵は、益々わけがわからなくなりました。

     紫「皆さま~、右手の方向に見えますのが~、カラバ公爵のお城で~ございま~す。」

そうこうしているうちに、立派なお城が見えてきました。
勿論カラバ公爵は、こんなお城には来た事がありません。

     紫「それでは、王様は少々お待ちください。準備がありますので。」
   魔理沙「早くしろよ~。」
     紫「では公爵様。参りましょう。」
     藍「は、はぁ・・・?」

王様を待たせておいて、猫とカラバ公爵は城の中に入りました。

     藍「ゆかネコ様・・・。」
     紫「これが、噂の中古物件よ。」
     藍「・・・ひょっとして、所謂『いわくつき』の物件じゃないでしょうね?」
     紫「あ、わかる?」
     藍「やっぱりそんなんですか!」
     紫「まあまあ、除霊済みだから大丈夫よ。」
     藍「ほんとですかぁ?不安だなぁ・・・。」

さて、ちょっと話は変わって、数日前の話です。
猫は、実はこのお城に来ていたのです。

     紫「お邪魔しませんよ。」
   幽々子「あらあら、これはまた、可愛くない子猫が迷い込んで来たわね。」

お城に入った猫の前に姿を現したのは、何と人食い鬼でした。
そう、このお城は、人食い鬼の城だったのです!

   幽々子「猫のお肉は美味しい方じゃないけど。まぁ、お腹が空いたからいただこうかしら。」
     紫「おっとっと。人食い鬼が猫を食べていいのかしら?」
   幽々子「今日はそんな気分なの。」

鬼は割と雑食性です。

     紫「でもね。今我慢すれば、もっと美味しいものが食べられるわ。」
   幽々子「?」
     紫「私みたいに可愛らしい猫は滅多に居ないけど、美味しい猫も滅多に居ないわ。
       そして、こんなにも可愛らしい私は、その滅多に居ない美味しい猫を知っている。」
   幽々子「へえ~。何処に居るの?」
     紫「私を食べなければ、教えてあげても良いわ。」
   幽々子「どうせなら、美味しい方がいいわね。教えて。」
     紫「それじゃあ、ごにょごにょ・・・・。」

猫は人食い鬼に、何事か耳打ちしました。

   幽々子「そう。それじゃあ、早速出かけてこなきゃあね。逝ってきます。」
     紫「逝ってらっしゃい。」
    
人食い鬼は、猫に言われるがままに、城を出て行ってしまいました。
これでお城には、ネズミの一匹も居ません。

     紫「と言うわけで、立派なお家をゲットよ。」

猫は難なく、城を手に入れてしまいました。
猫はこの城をカラバ公爵の城として、王様を案内したのです。

  魔理沙「おお。これはまた、立派な城だな公爵よ。」
    藍「ははっ!」

招かれた王様は、公爵の城の立派さにびっくりしました。

  魔理沙「土地も広く、城も立派。領民は良い領主に恵まれたなぁ。うんうん。」
    藍「あ・・・。」

カラバ公爵は、猫に耳打ちしました。

    藍「城はわかりましたが・・・・、土地はどうやったんです?」
    紫「ああ、それはね・・・。」

猫が言うには、城をゲットしたすぐ後の事のようです。
猫は、この周辺の農民たちを、脅して回ったのです。

    妖夢「あら、紫様。」
     紫「今は猫よ。にゃ~ん。」
    妖夢「・・・じゃあ、ゆかニャンさま。何の用ですか?」
     紫「いい?誰かに、『ここは誰の土地ですか』って言う意味の質問をされたら、
       すかさず躊躇わず容赦なく、『ここはカラバ公爵の土地です』って答えなさい。」
    妖夢「はい?ここは、人食い鬼の土地じゃないんですか?」
     紫「調教したわ。今は私の忠実なる下僕よ。ふふふ・・・。」
    妖夢「げげっ、何かさり気に危ない発言。・・・と言っても、普通に餌付けしたんでしょう?」
     紫「とにかく、そう言わないと、私の忠実な下僕の人食い鬼に、貴方を食べてもらうから。」
    妖夢「わ、分かりました・・・。」

王様が話しかけた農民は、実は猫が脅していたから、カラバ公爵の土地だと言ったのです。
猫はこうして、カラバ公爵のためのお城と領地を手に入れたのです。
そうとも知らない王様は、カラバ公爵を大変気に入りました。

   魔理沙「素晴らしいな、カラバ公爵よ。」
     藍「は、ははぁ!恐縮でございます。」
   魔理沙「気に入ったぞ。是非、うちの娘を嫁に貰ってやってくれ。」
     藍「は?娘って・・・お姫様ですか?」
   魔理沙「そうだが?不満か?」
     藍「不満と言うか不安と言うか、嫌な予感がぷんぷんするわけで・・・。」
   魔理沙「実はもう来ている。とりあえず会ってみてくれ。」
     藍「無視かい。」

王様は、パンパンと手を叩きました。
すると馬車の中から、一人の美しい娘が出てきました。

     藍「・・・これは!」
     橙「始めまして、王様の娘です。父がいつもお世話になっております。」
     藍「ちぇ・・・ちぇ~~~~ん!!」

お姫様のあまりの美しさに狂乱したのでしょうか?
カラバ公爵はお姫様に飛びついて、そのまま抱きしめました。
実に破廉恥ですが、意外と、誰も咎めたりはしませんでした。

     藍「ああ神様!最後の最後でハッピーエンドを用意してくれるなんて、何て憎いことを・・・。
       これまでが苦労と絶望の繰り返しだった分、この幸福感極まる思いです!ああ、やっぱり
       普段から良い子していると、良い事あるんだなぁ。良い子やっててよかったよ、うん!」
     橙「い、痛いですよ~、公爵さま~。」
     藍「あ、すまんすまん。」
   魔理沙「こほん。カラバ公爵よ、娘のことは気に入ってくれたか?」
     藍「それはもう!是非、結婚させてくださいませ!させてくれなきゃ駆け落ちします!」
   魔理沙「ほほう、言ったな。」
     藍「へ?」

王様の一言で、幸せの絶頂にあったカラバ公爵が凍りつきました。
同時に、吐き気を伴う程の悪寒が走りました。

   魔理沙「言ったな、カラバ公爵。」
     紫「言ったわね、藍。」
     橙「言っちゃったわね、藍。」
     藍「・・・・。」

お姫様が、猫が、公爵に追い討ちをかけます。
同時に、お姫様の顔にヒビが入りました。

     橙「うふふふふ・・・。」
   魔理沙「きゃはは・・・。」
     紫「ふふふ・・・。」
     橙「くすくすくす・・・。」
     藍「ま、まさか・・・。」

どんどんと、ヒビが広がって行きます。
そして。

   幽々子「呼ばれてないけど末永く宜しくお願いします~。」
     藍「いぃぃいいやあぁぁああ!お化けぇええええええ!!」

お姫様が人食い鬼に変身しました。
カラバ公爵は仰天して、腰が抜けてしまいました。

   魔理沙「実は私の娘は人食い鬼に姿を変えられていたんだが、つい数日前戻ってきたんだ。
       ところが、それも束の間。また人食い鬼の姿に戻ったんだ。いやあ、魂消た魂消た。」
     紫「まぁ!衝撃の展開ね。」
   魔理沙「その後、魔法で姿を戻したものの、どうやら魔法が切れたようだ。ああ可哀想な娘よ!」
   幽々子「しくしく・・・。」
   魔理沙「そんな可哀想な娘だが、くれてやろう。幸せにしてやってくれ。」
     藍「いらない!つーかそれって変身の魔法じゃないのか!?幽々子嬢を魔法で橙の姿に変えて、
       純真無垢な私を騙したんだな!橙をこの上なく愛する私の心を弄んだんだな!そうだろう!
       いいか、結婚と言うのはな!お互いがお互いの意思を尊重し合うもんなんだよ!違うか!?
       ここに私の意志は無いに等しい!ましてや姫を幸せになんか出来るはずも無い!ついでに
       この姫様、私は全然まったくさ~~っぱり可哀想とも思わない!こんなの詐欺だ!訴えてやる!
       以下言いたいことは色々あるが、とにかく結婚は出来ない!婚約は破棄、前言は撤回させて貰う!」
   魔理沙「おい、公爵よ。何か忘れてないか?」
     藍「ああ?」
   魔理沙「この国の王様は私だ。つまり私が法律だ。よって撤回不可能で私は無罪。控訴は不可だ。」
     藍「こ、この暴君がぁああああ!!」
   魔理沙「ゆかネコよ。お前のおかげで良い婿を見つけることが出来た。感謝するぞ。」
     紫「とんでもございませんわ。全ては、カラバ公爵の人徳によるもの。」
     藍「こんな人徳なんて・・・人徳なんてぇえええ!!」
       
こうしてカラバ公爵はお姫様と結婚し、王族の一員として大変良い生活を送ったそうです。
猫も貴族となって、これまた良い生活をするようになったそうです。

     藍「うわぁあああん!こんなオチいやだぁ~!」
   幽々子「あなた~、今日のご飯は猫鍋よ。」
     藍「へ・・・・?猫鍋て・・・。」
     橙「助けてえ~~!!」
   幽々子「猫曰く美味しい猫よ。ああ美味しそう。」
     藍「うわぁああああ!?ちぇぇぇえええ~~~~ん!!」
   幽々子「いただきま~す。」
     藍「いやあああああ!!食べちゃだめぇええええ!!」
   幽々子「食事の邪魔は、するもんじゃないわ。」
     藍「だめ!だめええええ!!私の希望が!最後の希望がぁああああ!!」
   幽々子「五月蝿いわねぇ。あ、そこのメイドさん?狐鍋も追加ね。」
    咲夜「かしこまりましたにゃんごしゅじんさましょうしょうおまちくださいませにゃん。」
     藍「あんた何時の間に紛れ込んぷぎゃおぶうああぁあああああ・・・・・。」
 パチュリー「・・・手際はいいけど、まだ心がこもってないわね。26点、と。」

なおその後、土地の農民たちは、『ここは誰の土地か?』という質問に対し、
こう答えるようになったそうです。

    妖夢「ええ、ここはカラバ公爵婦人の土地ですよ。ああ恐ろしい。」



 おしまい

   
 キャスト

カラバ公爵  ・・・ 八雲 藍
猫      ・・・ 八雲 紫
王様     ・・・ 霧雨 魔理沙
ウサギ    ・・・ 博麗 霊夢
農民     ・・・ 魂魄 妖夢
人食い鬼   ・・・ 西行寺 幽々子

粉引き職人  ・・・ 藤原 妹紅
長男     ・・・ 蓬莱山 輝夜
次男     ・・・ 鈴仙・U・イナバ
ロバ     ・・・ 上白沢 慧音

魔女の宅急便  ・・・ パチュリー・ノーレッジ

20点ネコメイ
ドオプションで
ネコミミと尻尾
ついてます1号 ・・・ 十六夜 咲夜

 プチの方でリクエスト貰ったので、書いてみました長靴を履いた猫。・・・何がどう違ってこんな、最初サスペンス風で最後はホラー気味になってしまったのやら。それでも、いつものことと言ってしまえばそれまでですが・・・。

 カラバ公爵の家族構成は何故か永夜抄組。末っ子はきっと養子だったんでしょう。猫が多数送られて来たのは、ある種の主役争奪戦です。最初から橙を使おうとしないあたり、まあいつものことだと思ってます。それと、藍の壊れっぷりと不幸っぷりと橙への愛情の深さは、きっと以前に書いた「おおかみと七匹の子ヤギ」に比して、それぞれ三倍と四倍と五倍です、恐らく。あと最近暑いので、憑いてる式がちょっと熱暴走し気味なんでしょう、多分。ええ、きっと。「・・・もう何が出てきても---」以下は、今までの私の書いた作品中で、最長の台詞です。見難くてすみません。寝不足と熱暴走で脳が溶けかけてました。

 ところで、何やってたんでしょうね?咲夜さんとパチェ。
Piko
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コメント



0.2060簡易評価
5.80床間たろひ削除
Yes! ナイスキャスティング!
カラバ公爵夫人に栄光あれ!

……カラバ公爵……強く生きろ……君に幸あれ……

6.50紅狂削除
哀れすぎるよ…藍(つд`)゜。
でも一番割を食ってるのは橙なんだよなー。
7.80名前が無い程度の能力削除
ジャーン   ジャーン
「ゲェー! こっ孔め…じゃなくてゆかりん!!」
11.100七死削除
ほぼオールスター猫キャラ化! その萌えと言う名のカモフラージュの後ろに横たわるのは、血も涙も忘れさられた知略サスペンスとバイオレンスギャグで彩られた完璧なホラー。
長靴を履いた猫と言う誰もが知っているであろう物語であるにも関わらず、この東方キャラの傍若無人な操縦の仕方。 その奇跡が描きあげる一点の救いも無い幻想忌憚。

恐ろしい!!
私の浅知恵等及びも付かない領域だ!!
一体だれが『橙に長靴を履かせて~(はあと』見たいなフニャけたリクエストからこんな話を思いつくというのだ!!

震えが止まらん!! これが、これが本家本元の力だというのか!!

お見事、いや私がこの台詞を言う資格無し!
御見それしました! 御大! この七死、ことごとく貴方の技に打ち負かされましてござるぅ!!
23.80沙門削除
 アッパー系の薬が良い感じで延髄に決まった感じです。ご馳走様でした。
29.90てーる削除
最後の最後でやっと本当のネコが出てきたのに・・・(つロT)

あぁ、なんて世界はこんなにも面白いんだろうw
32.100名前が無い程度の能力削除
感想が書ききれないくらいに豪華で素敵で残酷な物語に乾杯!
自分、原作読んだ事無いんスけど、「長靴をはいた猫」ってこいう話なんだ、って事でOKですか?
愛犬を蹴っ飛ばされた貴族の少年並に悲運な狐に、どうか幸せが訪れますように……って、もう終わってるか(涙
34.100悪仏削除
ごちそうさまでした。
藍・・・南無・・・
43.90削除
血も涙もありゃしない、神も仏も裸足で逃げ出した…(笑)
45.100名前が無い程度の能力削除
なすびの懸賞日記みたいな長ゼリフがツボった