Coolier - 新生・東方創想話

博麗神社 ねこと夕立

2005/07/15 14:55:43
最終更新
サイズ
9.96KB
ページ数
1
閲覧数
925
評価数
11/91
POINT
4280
Rate
9.36
 前回に続き僕の考えた幻想郷が展開中です。ご注意をお願いします。
 前回とタイトルが殆ど一緒ですが関係性は一切ありません。
 僕の霊夢スキーが原因です。



   『博麗神社 ねこと夕立』



 それは夏の風物詩。いくら晴れていようともやってくる。
 夕方、ある程度涼しくなってから境内の掃除をしようと決めていた霊夢は、
その算段を後悔する事になる。

 「っひゃーッ、冷た冷た冷たー」
 突然の豪雨に慌てて屋根の下に戻った。屋根を叩く水の音が、戸を閉め切って
見えない外がどうなっているかを教えてくれる。
 陰陽玉の刺繍が入ったタオルで、濡れた髪をわしゃわしゃと拭き取る。幸い大して
濡れずに済んだので着替える事はしなかった。

 さて。
 家に入ったは良いが、何もする事が無いと気付いた。元々掃除に当てていた時間で
偶然空いたのである。しかし出かける事は出来そうも無い。そして誰かが訪れる事も
無さそうである。
 しばらく辺りをきょろきょろ見回す霊夢。良く見知った自分の空間しか無く、特に
動かねばならないモノは存在しない。
 どうしようもなく。霊夢は「まぁ、こんな日もあるわね」とため息をついて、お茶
でも飲もうと思い立った。

 そんな時である。


 ミャ~・・・・
    ミャ~・・・・・・


 か細い泣き声が外から聞こえた。
 「・・・・猫ね」
 誰に言うでもなく呟く霊夢。きっと突然の雨で難儀しているのだろう。雨宿りくらい
別に良いかと考えた。境内を荒らす事も無いだろうし。
 気にせずお茶を淹れる。

 ミャ~・・・・・
 また泣き声が聞こえた。
 「・・・・何よ、中に入れて欲しいわけ?」
 通じるはずは無かったが、しつこく鳴き続ける猫にそう語りかけた。
 ミャ~・・・・・
 まるで返事のように聞こえた。
 「・・・あー、はいはい。解ったわよ。中に入れて拭いてあげれば良いんでしょう?」
 一度座ったらまた立つのは億劫だったが。霊夢は仕方なしと腰を上げた。泣き声の
する方へ足を運ぶ。
 そして何の気無しに戸を開けた。
 「・・・・・・・・」
 「ミャ~・・・・・助けて~・・・・・」
 そこに猫は確かに居た。全身ずぶ濡れの猫。妖怪の式の式。またの名を『凶兆の黒猫』
橙が。


 「何してたのよアンタ、あんな所で」
 先程自分が使ったタオルを使って、霊夢はわしゃわしゃと橙の頭を拭いた。
 「藍様のお使いの帰りだったミャ。突然降られて、たまたま近くだったここへ逃げて
来たミャ~」
 「・・・・何よ、その耳障りな語尾は」
 「ミャ?きっと式が外れて人間味が薄れてしまってるミャ」
 霊夢が拭くのを止めると、橙は猫そのものの動作で全身をぶるぶると振るわせた。濡れた
時に本能でする動作らしい。真に人間味が薄れてしまっているのだろう。
 「・・・ま、いいわ。あんたの服は干しておくから、代わりにそれ着てなさい」
 霊夢の寝巻きをとりあえず借りていた橙の前に、霊夢は自分と同じ紅白の巫女装束を
投げた。
 「私のお古よ。多分サイズは合ってると思うわ」
 「ミャ~、感謝するミャ~」
 橙がいそいそと着替えを始めた。別に同性だし何より相手は猫なのだが、そのまま眺めて
るのも居心地が悪くなって、霊夢は橙の分もお茶を淹れようと立ち上がった。
 しかし湯飲みを取りに台所へ進もうとした矢先。
 「ミャ~霊夢~!これどうやって着るミャ~!?」
 橙の叫び声が聞こえた。
 「別に正しく着なくたっていいわよ。腕が通るトコ通して足もそうしなさいよ」
 足を止めるどころか振り返りもせず、霊夢は戸越しにそう言った。
 「そんな事言ったって、これじゃお股が丸見えミャ~」
 「ぶッ!!・・・どんな着方したのよ」
 「ミャ~!絡まったミャ!は、外れないミャ~!!」
 「・・・・・・・・・・」
 「こ、この服は新しい武器ミャ!これで私の動きを封じて、目どころか色々当てられない事
する気ミャ~!?」
 「ああもう!みゃーみゃーやっかましいのよ!!」
 やっと踵を返して、霊夢は先程閉めた戸を勢い良く開けた。
 「・・・・・・・」
 「ミャ~・・・・、霊夢のえっち」
 何か複雑な体形で動けなくなっている橙に、霊夢はツッコミのチョップをかました。


 「熱ッ!!」
 霊夢が淹れたお茶を一口。橙は思わず舌を出した。
 「あー、やっぱりあんた猫舌なのね」
 変わらない温度のお茶を平然と飲む。日本茶は熱いのに限るとは霊夢のこだわりである。
 「でも体は暖めておかないと風邪引くわよ。・・・式が風邪引くか知らないけど」
 「猫も風邪は引くミャ」
 湯気を立てるお茶に、橙は必死に息を吹きかけた。しばらくそうして、恐る恐る口を付けて
みる。まだ熱かったようだ。
 外は変わらず雨が続いている。音から察するに強さは大して衰えていないようだった。風も
出てきたらしく、時折閉め切った戸がガタガタと揺れる。
 「んー、こりゃしばらく止みそうもないわねぇ・・・」
 そんな戸を眺めながら霊夢は呟いた。
 「困ったミャ~、帰れないミャ。藍様、心配しているだろーミャー・・・」
 同じく戸を眺め、橙も呟いた。
 「・・・・・れいむ~」
 「こんな日に外へ投げ出すほど冷たくないわよ。今日は泊まっていきなさい」
 「ミャッ!ありがとー霊夢~・・・ミャ」
 「あんたワザとそーいう風に喋ってるでしょ・・・」
 やれやれ、と。霊夢は小さく笑った。

 ――――まぁ珍しい客なのには違いない。精々もてなしてやりましょうか――――
 こんな性格がきっと、人妖問わず好かれる要因なのだろう。



 夕食は賑やかだった。たった二人とはいえ、いつもは一人なのだ。それだけで賑やかと
言っても良いのだが、橙が良く喋ったのである。
 最近になって彼女は、藍から使いを頼まれるようになった。曰く、色々なモノを見るのも
後の為になるから、だそうで。まるで母親である。橙も知らぬ土地へ赴き知らぬモノを見て、
知らぬ音を聞く事が好きになった。そしてそれを藍に報告するのが大好きだった。今日は
偶然、その役目は霊夢が代理する事になったが。

 ・・・しかし、まぁ、こんなのもたまには良いかもしれない。母親はまだ無理だろうし、大丈夫
と言われてもこの歳では複雑な気分だ。でも今は、丁度・・・、そう・・・・、妹を持った気分。

 珍客が持ってきた粋な土産である。霊夢は今夜一晩はこれを堪能しようと思った。



 「ミャーーーッ!!」
 巫女装束のはだけた橙が逃げる。
 「こらッ、待ちなさい!」
 霊夢がそれを追いかける。
 「ミャーッ!お風呂は遠慮するミャー!!今日は雨に濡れたからもう十分ミャーッ!!」
 「寝る前にお風呂にも入らないなんて、魔理沙が許しても私が許さないわッ!」
 魔理沙は研究の為だったら一週間は平気で入らない。終わって何気に遊びに来た魔理沙を、
霊夢は強引に風呂へ入れた事がある。
 どたどた、どたどた。
 普段は静かな境内に珍しい音。それも止まない雨音にかき消されていく。
 「捕まえたーーッ!!」
 「ミャーッ!し、尻尾は痛いミャッ!!」
 「観念して入んなさい!頭洗ってあげるから!」
 「ミャーーーーッ!!」
 そのままずるずると引きずられ。橙は風呂場の戸が閉まるまでジタジタと足掻いていた。



 真夜中。

 霊夢の隣に布団をしいて、そこに橙を寝かせた。
 ・・・疲れた。
 猫か式か、どちらが原因かどちらも原因か。橙は本当に水が苦手のようだった。力ずくで
入れたは良いがクタクタである。・・・ただ、楽しかった、が。
 今夜はぐっすり眠れるだろうと、霊夢が両目を閉じかける。
 「・・・・・・・・霊夢」
 小さな声で、橙が呼んだ。
 「・・・・・何?」
 「あ・・・起こしちゃったミャ?」
 「まだ寝付けてなかったわ。それより何?」
 「あ・・・うん・・・・・・」
 何だか橙らしかぬ、歯切れの悪い言葉だった。
 外からはもう雨音はしない。今は虫の鳴き声が大合奏を奏でている。
 「な・・・、慣れない布団や部屋だと、中々眠れなくって・・・」
 「・・・・不安?」
 霊夢は優しい声で、橙にそう問いかけた。
 「・・・藍様が近くに居ないって・・・その、ちょっとだけ・・・・」
 ・・・そう。子供が母親から離れた寂しさなのだろう。

 「ほら、橙。こっちおいで」
 霊夢は自分の布団をめくって、橙を招いた。
 「えっ・・・・?」
 それを一瞬、きょとんとした顔で見つめる橙。
 ・・・・だがややあって、自分の枕を持って霊夢の布団に入り込んだ。
 今夜は大雨の後で涼しい。猫を抱いて寝ても良いだろう。

 それから何も言わなかった。橙は霊夢の横で、すぐさま寝入ってしまった。何だかんだで
彼女も疲れていたのだろう。
 ―――安心しきった寝顔だった。
 その寝顔を見つめ、いつしか霊夢もまどろみの中に落ちていった。


 翌日。橙はすっかり乾いた自分の服を着て、夏らしくカラリと晴れた青空に浮いた。そして
両手を大きく振って別れの挨拶をし、やがて霊夢から見えなくなった。

 しかし今日も暑い。・・・掃除は夕方からで良いと思って、霊夢は日陰に入っていった。




 ――――それから数日後。
 今日も蝉の鳴き声がうるさい日だ。太陽は過剰なサービス精神で光と熱を届けてくれる。
まるで無理矢理に春を伝えるリリーみたいである。霊夢のお札が届くのなら、今頃太陽は
リリーと同じ運命を辿っていることだろう。だが彼女は懲りずに春を届けまくるのだから、
もしかしなくても太陽はまた熱と光を届けるに違いない。
 夕方に掃除をしようと考えて数日、ことごとく夕立に見舞われた。これはもう、サボるなと
いう神の啓示としか思えない。そんなわけで今日こそ霊夢は、炎天下の中境内で箒を振るって
いた。汗だくである。

 そこへ影が一つ。空から降りてきて鳥居の前に立った。
 「こんにちわ。久しいな、霊夢」
 九尾の狐。スキマ妖怪の式で橙の主。スッパ・・・いやプリンセス天狐の異名を持つ、八雲藍。
 「うわ、この暑い日に毛皮が来た」
 「いきなりそんな事言うか・・・・・、まぁ、良い」
 そう言って藍は苦笑した。
 「先日、橙が大分世話になったそうだな。・・・今日は礼が言いたくて来た」
 「あー、そんな事もあったわねぇ・・・・・・しかし、相変わらず真面目で律儀ね」
 「橙もあのまま雨に打たれていたら、衰弱して倒れて、最悪帰っては来れなかった。
・・・橙の命の恩人に礼を尽くすのは当然だ」
 ・・・ああ、本当に母親やってるんだなぁ。霊夢は少し感心した。一日母親体験をやった
せいかもしれない。
 「そういうわけで、これを受け取ってくれ」
 藍が差し出したのは、薄地の白いハンカチ、たった一枚。
 「・・・・・・・随分安いわね、橙の命も」
 「おいおい、まさか唯のハンカチな訳じゃないぞ。これも立派なマヨヒガの一部だ」
 ああ、と霊夢は納得した。迷う事でしか辿り着けないとされるマヨヒガは、その家の
モノを持ち帰ると幸せになれるらしい。だが以前立ち入った時は藍や彼女の主、八雲紫に
邪魔をされて持ち帰ることが出来なかった。腹いせもかねて二人をボコボコにしたのは
結界修復の大義名分にしっかり隠している。
 「まさに幸せの黄色いハンカチってわけね」
 「白いけどな」
 藍は言い捨てて、再び夏の空へと浮かび上がった。
 「あれ、帰るの?お茶くらい飲んでいきなさいよ」
 「ありがたいが、これで主と式の世話に忙しい身でな」
 だらしない主と、まだ子供の式。藍ほど幻想郷で不遇な身の上も無いだろうと思ったが・・・
霊夢はすぐにそれを訂正した。きっと家族とはそういうものなのだ。藍も藍で、彼女達から
何かを得ている。だからああやって急いで帰るのだろう。
 それを止めるのは野暮というものだ。
 「霊夢」
 去り際に藍が言った。
 「今度マヨヒガへ遊びに来い。お前は通してやる。橙が甚くお前を気に入っていたからね、
・・・歓迎する」
 「あら、じゃ涼しくなったらお邪魔するわ」
 藍は笑って、軽く手を振り去っていった。


 また境内は静かになった。いつも通りである。
 しかし、恐らく、この静寂は長くはもたない。もった例が無い。きっと誰かがまたやって
来る。筆頭候補は魔理沙辺り。賭けのレートは恐ろしく低い。

 今夜も夕立が降って涼しくなることを望みながら、霊夢はもらったばかりのハンカチで
汗を拭った。良く汗を吸うハンカチだった。


   ~終~
 一応、初めまして。プチで初投稿した豆蔵です。
 味をしめてコッチに身を乗り出してみました。正直ドッキドキです。
 こんな胸の高鳴りは初恋以来です。何年前の話だソレ。

 ありがたい感想レスで調子に乗って、勢いで書き上げました。
 まー、未熟なのは置いといてもらえます?それより。
 前回と大して内容が変わってないような。いえ変わってませんね。
 こんな霊夢が好きなんです。堪忍したって下さい。

 でも次が許されるなら、今度こそ違う系のストーリーを書きたいです。
 やっぱ魔理沙かな。魔理沙も好きです。つーか皆好きです。

 では、お目汚し失礼致しました。
豆蔵
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3560簡易評価
3.60沙門削除
 橙の巫女姿、橙の巫女姿、チェンの巫女姿、ちぇんの巫女姿、朝っぱらから血圧が上がって某鬼のメイド長の様になりそうだ・・・・・・。同姓は同性ではないかと、鼻を押さえつつちょっとツッコミを入れ、ご馳走様。
4.無評価豆蔵削除
沙門さん、再び感想ありがとうございます!
ご指摘も感謝、さっそく修正させて頂きましたー
沙門さんの作品も毎回楽しみにしています。
8.40吟砂削除
ほのぼのしてて可愛い作品、橙の口調の「ミャ~」は違和感があるなと
思ったら・・・なるほど式が外れかかったことが原因だったのですね。
んで誤字報告 藍ほど幻想卿で→幻想郷 です。
10.70SETH削除
「ミャ~」の違和感も心地よい違和感というか

むしろこれでいい いやこれがいい そんな気持ちなってきたw
12.60おやつ削除
締めがいいっす。
ほのぼのと甘いいいお話でした。
幻想郷でも、八雲は一家なんですよね。
しかし巫女装束……そして獣……良い!!
14.70秘密の名無し削除
うおお!真一文字に戻れ俺の口!
失礼、口がニヤニヤしっぱなしだったんです。良き話でした。
17.60名も無き名無しさん削除
ほわほわとした気分になれました(´д`)
殺伐とした話も良いけど、リラックスできるゆったりとしたお話も良いですね。
次回作も期待していますよ。
18.70名前が無い程度の能力削除
>腹いせもかねて二人をボコボコにしたのは結界修復の大義名分にしっかり隠している。
やっべ、わらたw
24.無評価豆蔵削除
吟砂さん、ご指摘ありがとうございました!
早速修正・・・しかしミス多いなぁ・・・気を付けます。
あと感想をくださった皆々様・・・ありがとうございますー!もう男泣き!
次は勢いだけじゃなくて、ちゃんと練って話を作りたいと思います~
46.30匿名削除
来るもの拒まず去るもの追わずのスタイルを貫く霊夢がよかったです。
それでいてお節介で騒がしいところもいい。
次回作、期待しながらお待ちしています。
47.80名前が無い程度の能力削除
プチのスイカ話を読んだ時も思いましたけど、このほのぼのしてあったかい雰囲気、素晴しいです。
今後も期待していますね!
79.90時空や空間を翔る程度の能力削除
好きです、ほんわかしたお話。
今度のお客さんは何方でしょうね?
81.90創製の魔法使い削除
あぁ・・・、八雲ファミリーと霊夢の絡みは大好きですw