Coolier - 新生・東方創想話

東方出雲記 第壱章 否定という名の闘い

2005/07/12 19:58:57
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※この作品は以前投稿した、『出雲一人 八雲三人』のオリジナル設定を含んだ作品となっております。ご了承ください。



 文月の末。幻想郷の山林は深い緑に彩られ、本格的な夏が到来したことを知らせる。
 寅の四刻には日が昇り始め、もっとも太陽の高くなる午の一刻は、立っているだけで汗が吹き出るくらいに暑くなる。儚い人生を謳歌する如く、蜩の歌が辺りに響き渡るのも酉の二刻を過ぎる頃であり、それから二刻ほど経ってからようやく日が落ち始める。
 人間界と殆ど変わらない幻想郷の夏。そんな夏の昼下がり、一人の男が広大な湖のほとりを歩いていた。
 齢は二十代前半あたりだろうか。背は五尺九寸、一メートル八十あたりと見て受け取れる。顔立ちには華やかさと凛々しさが同居しており、その双眸は澄み切った水のように穏やかなものであった。背中には、黒くて細長いバックを携帯している。
 この男の名前は出雲創。またの名を伊邪那岐命と言った。
 創は黒い小袖に袖なし羽織、裁ち着け袴を着用している。鈍色の足袋に草鞋ばきで、刀こそ腰に差していないものの、江戸時代の武芸者のそれを思い起こさせる出で立ちであった。
 顔には一滴の汗も浮かべず、同じ速度を保つようにして歩を進めている。
 幻想郷に来てから数日、創はこういった散策を毎日欠かさずに行っている。旧知の縁である八雲紫こと伊邪那美命の愛する世界を自らの足で歩いてみたい、というのが主な理由だ。
 昨日は山の中を一日中歩き通したので、今日は湖の周りを一日かけて一周するという計画性のない散策であったが、創はそれで良いと思っている。
 そんな創の歩く速度が緩むと同時に、表情が険しくなる。
 ―――妖気?
 妖気と一言で言っても、二流の妖怪如きが放つ妖気ではない。永年に及んで力を蓄えた一流の妖怪が放つ妖気を、創は前方に見える洋館から感じ取っていた。創の記憶の中にも、このような妖気を放つ存在は数えるほどしかいない。
 ふと、創は心中で童のように無邪気な笑みを浮かべる。
 再び歩く速度を速める創。その瞳には、好奇心と言う名の光が宿っていた。




 十六夜咲夜は紅魔館の自室で独り、懐中時計の蓋を右手で開閉しながら深い息を吐いた。
 それは暑さによるものでもなければ、部下の失態に対するものでもない。ただ単純明快に、夕飯のメニューを何にしようか、と考えているだけである。
 メイド長と料理長を兼ねる咲夜にとって、日々の悩みはどちらかというと料理の方に軍配が上がる。掃除、洗濯、その他の雑務は手順さえ覚えれば誰にでも簡単にこなせるものだ。しかし、料理はそう簡単にいかない。
 旬のものを生かし、飽きることもなく、尚かつ主の舌に合うものを作らなければいけない。割合が合わないのは当然とも言えるだろう。
 閉じていた瞼がゆっくりと開く。銀色の髪が揺れ、顔には微笑を浮かべている。
 良い案でも浮かんだのだろうか、咲夜が自室のドアの取っ手に手を掛けようとした瞬間―――。
「メイド長! 一大事です!」
 部下の一人であろう、若いメイドの声が扉越しに響く。
 荒い吐息が混じる言葉から、急を要する事態だと容易に判断がついた。
「何事」
 静かにドアを開け、部下の前に姿を現す咲夜。顔から先ほどの微笑は完全に消えており、真剣な面持ちで部下からの言葉を待つ。
「賊が―――賊が侵入いたしました!」
「―――賊?」
 少々首を傾げ、疑念の眼差しを向ける咲夜。
「数は?」
「……一人です」
「美鈴は何をしているの?」
「そ、それが……」
 部下は一瞬、たじろぐように口をどもらせ、
「……一瞬で、倒されました」
 苦い薬を飲んだ直後のような表情で、唸るように声を発した。
 咲夜は呆然として、言葉を失った―――。




 時刻は半刻ほど前に遡る。
 中華風の衣装を身に纏った女とその部下と思しき四人のメイド達が、紅魔館の門前において一人の男と対峙していた。
 男は黒くて細長いバックを背負っており、服装は小袖に袖なし羽織、裁ち着け袴と言ったものであった。
「……この門を通ることは罷り成らぬ、と申されるか」
「はい」
 男の問いに声を返したのは中華風の女であった。
 この館の主にお目通りを願いたい、そう男は申し出てきている。しかし、中華風の女―――紅美鈴は、只ならぬ気配を目の前の男から感じ取っていた。
 人のカタチをした、人ならぬモノ。かといって妖怪や人形の類ではない気配を、美鈴は只一人、目の前にいる存在に感じていた。
「どうしても通る、と言うのであれば、一つだけ方法があります」 
「ふむ」
 別段、驚きもしない様子で男は美鈴に視線を向ける。
「私を―――倒すことです」
 驚いたのは、部下である四人のメイド達であった。
「隊長!?」
「相手は人間、しかも一人ですよ!?」
「私たちにだって、あの者の相手は務まります!」
「隊長の手を煩わせるまでもありません!」
 口々に声を荒げて美鈴に抗議する四人の部下達。
 その声に対して美鈴は、
「貴女達は黙っていて! ……気付かないの? 目の前にいる存在が只の人間では無い、という事が……」
 滅多に見せることのない美鈴の表情と怒声が、四人の部下を固まらせる。
 あの博麗の巫女や、黒白の破壊魔と対峙した時も、これほどまでに彼女の背筋が冷たくなった事はない。
 ―――恐ろしい。美鈴は素直にそう思ったのを認めざるを得なかった。
「恐らく、私の力量では貴方に勝つことは到底無理でしょう。しかし、与えられた責務に反することも私には出来ません。よって、全力を以て貴方と闘うことを私は選びます。……たとえ、この御身が滅びようとも」
 静かに美鈴は構えをとる。
 男はそれに対して、肩に背負ったバックを降ろしただけであった。何の構えもとらない。
「……名前を、お聞きしたい」
 詠うように男は言葉を返す。
「出雲、出雲創だ」
 男―――創の双眸が青く燃え上がる。
 それに気圧されまいと、美鈴も決死の覚悟を決めて相手を見据える。
「紅魔館門番隊隊長、紅美鈴―――参る!」
 裂帛の気合いと共に、美鈴の身体が疾風の如く創に飛び掛かった。だが、その拳が創の顎を捉えた刹那、美鈴の視界から創は消えた。
 次の瞬間、凄まじい衝撃が美鈴の全身を襲う。創の掌が深々と、美鈴の鳩尾に叩き込まれていた。
 一瞬にして美鈴の放つ拳の軌道を見切った創は、屈み込んだ後に右手を広げて突き出しただけであった。
 美鈴の体勢が地面に崩れ落ちると同時に、四人の部下から驚愕の声が上がった。
 目の前の光景に呆然としている四人に、創は気絶している美鈴の身体を渡すと、
「もう一度、言わせて貰いたい」
 その声は湖水のように静かだったが、どこかに威圧感を感じて、四人の肩がビクッと震えた。
「この館の主に、お目通りを願う」




 その話を、咲夜は信じられないといった顔つきで聞いていた。
 美鈴とて、この紅魔館の門番を任されるくらいの実力はあるのだ。そこらそんじょの名の知れた妖怪なんかよりも遙かに力はあるだろう。
「それで、現状はどうなっているの?」
「現在、賊は紅魔館門前にて静止中。こちらの動きを窺っているものだと思われます」
 眉をひそめる咲夜。美鈴を一撃で気絶させるぐらいの実力があるのならば、強行突破をしてくるのが常套手段である。
 そうしてこないところを見ると―――。
 ―――誘い、かしらね。
 咲夜は顔に少しだけ笑みを浮かべると、部下の方へ向き直る。部下の目には、真剣な表情をしているメイド長の姿が映るだけであろう。
「私が出るわ」
 今度は部下が驚愕する番であった。
「な……!」
「もう一度言うわ。私が出る」
 咲夜の眼差しが氷のように冷たく、そして鋭くなる。普通の人間や妖怪ならば、その視線に射すくめられて動けなくなるであろう。
 両手には、銀色の光を放つナイフが合わせて八本、指の間に握られている。
 部下は落ち着きを取り戻すと、
「……分かりました。ご武運を」
 そう言って、頭を垂れる。咲夜はその脇を静かに歩いて去っていった。
「ありがとう」
 微かにそう呟きながら―――。




 創は紅魔館の門前で、瞑目しながら相手の返答を待っていた。九割九分、来ないだろうと思っているが。
 遠い記憶の彼方にある、待ち人とのやりとりをふと思い出し、苦い笑みを浮かべた。
 その時、暑い炎天下のだれるような空気が一瞬で、真冬の身を裂くような空気に変化した。
 ―――来たか。
 少しずつ目を開き、眼前を見据える。創の顔が一転して険しいものになった。
 ギィ、と音を立てて開いた扉の中から、一人のメイドが姿を現す。銀色の髪に、青い双眸は冷たい氷を思わせる。両手には合計八本のナイフが握られ、真剣な眼差しで創を見ている。
 両者とも、暫くそのまま動かなかった。お互いをただ静かに見やるだけである。
「……貴方かしら? 美鈴を一撃で倒したというのは」
 先に口を開いたのはメイド―――咲夜だった。氷の双眸が創の全身を捉えている。
「いかにも」
 顔色一つ変えず、平然と答える創。
「確かに先刻、この場所において、紅美鈴と名乗る人物を倒した」
 再び、先ほどと同じように創の双眸が青く燃え上がる。
 咲夜の表情が一瞬、怯んだように見えた。彼女もまた美鈴と同じように感じている。目の前にいるのは人間でも妖怪でもない、そういった気配を―――。
「―――そう」
 一瞬の後、咲夜の表情は元に戻っている。だが、咲夜も目前にいる人物の正体に関しては皆目見当がつかなかった。ただ一つ分かるのは、
 ―――強い。
 その一言に尽きる。まだ闘ってもいないのだが、感じ取れる気配などから、咲夜はそういった結論を下した。
 自らの主にて吸血鬼、レミリア・スカーレットや、その妹にあたるフランドール・スカーレットの放つ気配と同等、もしくはそれ以上のものを感じ取ったからである。
「貴方はお嬢様に御用だとか」
「お嬢様?」
 創は思わず、疑問の声を口に出していた。
「この館の主に御用なのでしょう?」
「そうだが……ああ、なるほど」
 納得の表情を顔にする創。創にしても、この館の主がお嬢様と呼ばれるという事は予想していなかったのだろう。
 妖気を感じ取れる存在は人妖問わず数多く居ると言えども、対象の性別まで判断が出来る存在はいない。
「……確かに貴方は紅魔館の門番、紅美鈴を倒しました。しかし、貴方は紅魔館の主に会う資格を持っていません」
 創は無言で、その言葉に耳を傾けていた。
「私がお嬢様に会うべきかどうかを選定します」
「……闘いで、か?」
「ええ」
「……得物は?」
「どうぞ、御自由に」
 創は静かにバックを背中から降ろすと、中から一振りの大剣を取り出した。柄は一尺少々、刃の全長は創の背丈と同じ、或いは少し短い程度か。
 水鏡の如く磨き上げられた太い刃には一点の曇りもなく、一種の気品を周囲に漂わせていた。日本刀の美しさと西洋剣の威風を同時に感じ取れる。
「長ければ長いほど、良いというものではなくて?」
「言われなくとも」
 ゆっくりと大剣を下段に構え、創は咲夜を見据える。
「互いに、名前を名乗るべきかな」
「そうでしょうね」
 両者の間には一筋の風すら吹かなかった。それはこれから起きる嵐の前兆というものだろうか。
「出雲創」
「十六夜咲夜」
 互いに名を名乗り終わっても、両者は動かなかった。
 炎の瞳と氷の眼が相変わらず、互いを睨みあうのみである。それだけで、時間は一刻が十秒のように過ぎていった。
 創がやや屈み込む姿勢になる。咲夜の右腕が後ろに回る。
 それが始まりであった。
 咲夜の右腕から放たれた四本のナイフは、創の喉元、胸、腹部、脚へそれぞれ狙撃銃のように、速く正確な狙いで放たれた。
 ナイフを虫を払うように、創は左手に持ち替えた大剣で打ち払い、咲夜の元へ飛び掛る。
 対する咲夜は向かってくる創に残り四本のナイフを投げると、隠し持っていたナイフを一本ずつ両手に持ち、同じく創の方へ飛び掛る。
 大剣と双刃が交わり、甲高い音を立てて火花を散らす。そして音が鳴り終わる瞬間には、再び刃が交わり、まるで協奏曲を奏でるような剣戟が続いた。
 ふと、咲夜の脳裏に二刀を振るう半霊の庭師の姿が思い浮かぶ。しかし、その庭師と目前にいる男は、刀剣を扱う以外は全てが違っていた。
 まず雰囲気。庭師が炎のような激しいものしか出せないのに対して、創はまるで水であった。時には激しく、時には静かで、時には鋭く、時には穏やかな雰囲気を出しているのだ。
 次に無駄な動きが無いこと。フェイントのようなものも一切無い。それでいて、一挙一動の動作は疾風の如く行われる。
 このように挙げ続ければキリが無いが、最後に挙げるとすれば、刀剣の持つ本質といったところだろうか。
 庭師の持っている二刀―――楼観剣と白楼剣に比べて、創の持つ大剣は明確な使用用途を表に出してはいない気がするのだ。確かに殺傷能力はあるだろう。だが、それとは別の意味で相手を殺ぐような、そんな印象を咲夜はひしひしと感じていた。
「―――ッ!」
 そんな考えを浮かべていた咲夜の前髪が散る。大剣の切っ先が前髪の部分をかすったのだろう。
 もう少し前に出ていたら眉間を斬られていたかもしれない。
 創の大剣による一撃は、まるで生き物のように変幻自在の軌道を描いて咲夜に迫り来る。
 ―――こうなったら、アレを使うしかないわ。
 長期戦は不利。ならば、一撃必殺において勝負を決するしかない。
「プライベート―――」
 鈴の音のような美声で、咲夜は言葉を紡ぐ。自らの身体に秘められた、最大の武器を鞘から抜く為に―――。
「スクウェア」
 空気が、止まった。巻き起こった砂塵が浮いたまま静止し、周りから聞こえていた蝉の声も聞こえない。時間が止まっているのならば、それは当然のことだろう。
 咲夜が自らの能力、『時間を操る程度の能力』を以てして作り上げた時空の密室。当然、それはこの能力を持つ者にしか干渉する術を持たない。
 目前の男にしても、それは同じだろうと咲夜は思っていた。しかし、
「驚いた。何かの能力者だと言うことは薄々感じ取っていたが―――時間律操作能力とは」
 感嘆するように目を細める創。時の密室において、彼はその影響を全く受けずにいた。
「―――――」
 咲夜は唖然とするより他なかった。自らの能力が通じない存在は、五百の年を生きた吸血鬼である自らの主くらいだ。
 通じないと言っても、この技で多少は遅らしたり早めたりすることも出来る。完全に止める、と言った意味合いでは通じない。
 しかし、目前の存在はそれを全て否定している。咲夜の時間を操る程度の能力ですら、創の前には無力であった。
「信じ―――られない」
 自分でも気付かない内に、驚きの声を漏らす咲夜。僅かにだが、その身体が震えていた。
 こんなことは一度も無かった。何故? どうして? 私の能力で時間を操れないなんて―――。
「貴方は―――誰なの?」




「…………」
 創は口を開かない。
「答えて……、本当の貴方の名前を」
 咲夜の問いに、創は返答をしなかった。
 返答をしたところで、自分にとって何のプラスにもならないし、この娘の自尊心をひどく傷つけるだけかもしれない。創はそう考えていた。
 もっとも、実は神様です、なんて言ったところで、誰が信じるものだろうか―――といった思いもあったのが事実だが。
 細めていた目を元に戻し、咲夜の方へ目を戻す。そこには先ほどまで冷静な態度であった誇り高き銀の狼が、捨てられた子犬のような態度に一変していた。
 ―――まいったな。こんなに情けをかけたい、と思うのも。
 日本神話の神も、人間を長くしていると情けを覚えるのか。
「……確かに、出雲創という名前は仮のものに過ぎない。真名は伊邪那岐命という」
「伊邪那岐命……」
 咲夜の表情は変わらなかったが、少しだけその態度が元に戻り始めたことを創は感じ取った。
「貴女の時間律操作能力が働かないのは、この身が神属ゆえ。……納得していただけましたか?」
 だが、咲夜は頭を横に振る。
「……いいえ」
 ―――私は神を信じない。
 何故なら、それは虚構で固められた偶像だから。
「私は」
 ―――私は神を信じない。
 何故なら、それは信仰の為に人が作り出した幻影だから。
「神を」
 ―――私は神を信じない。
 何故なら、それは究極の幻想であるから―――。
「信じない……!」
 止まっていた時間が動き出す。同時に、咲夜の纏っていた氷のヴェールが消え、変わりに焔の如く熱い闘気が放たれている。
「貴方が神様というなら―――実証を見せて欲しい!」
 その言葉には、今まで咲夜が周りに見せることのない感情が含まれていた。
「実証?」
 怪訝な表情を浮かべる創。時間が止まっていても動ける、という答えでは駄目なのだろうか、と心中で呟いた。
「私の能力で作った、『咲夜の世界』においても貴方が動けるのでしたら……貴方を神として認め、主に会わせる資格も与えましょう」
 咲夜の世界―――。咲夜の『時間を操る程度の能力』を最大に発揮して、時という時を完全に掌握、制御するという咲夜の最終奥義である。
 自らの能力で作り上げた自らの世界。展開できるのは短時間だが、この奥義で時間を止められなかったことは今までに一度もない。
 咲夜は自らのプライドを懸けて、神を名乗る存在に挑戦する。
 私が作り上げた世界―――誰にも干渉されることも、否定されることも無い世界。私だけの世界を打ち破れる? 神を名乗る者!
 創は、
「……いいだろう」
 と返答すると、大剣を地に刺して手から放した。武器のせいではない、ということの証でもあるし、武器を持たないという意思表明でもある。
「なら……始めましょうか? 『咲夜の世界』を」
 咲夜の顔には汗が光っている。恐らく、プライベートスクウェアの長期展開に要した負担が大きかったのだろう。
 そんな状態で更に時間を操れば、咲夜自身の身が保たないかもしれない。それでも、咲夜は自らの世界を作るだろう。
 神を信じない、という信条を貫き通すが為に―――。
「十六夜咲夜、奥義―――」
 創はその言葉から、咲夜の覚悟を察した。だからといって、自らがこの挑戦にわざと負けることは許されない。わざと負ければ、咲夜の恥辱が一生のものとなりかねない。
 故に、創は咲夜の世界を否定するより道はない。神を否定する咲夜、時間によって作られし世界を否定する創。両者の存在意義を懸けた、一瞬の決闘が始まる―――。
「咲夜の世界」
 再び、時が止まる。完全な静寂があたりを支配した。
 咲夜は目を閉じている。目を開いた時、そこにあるありのままのを受け入れよう―――と決意していたのだ。
 ゆっくりと瞼を開いていく咲夜。視界に創の立ち姿がぼんやりと見えてくる。
 咲夜は目を完全に開ききる。創の姿もはっきりと映ってきた。その時、創の顔が頷くように上下した。
 それで咲夜は悟った。自らの作りし咲夜の世界を否定されたことを。
 そのことを認識した直後、咲夜の意識は暗転した―――。




 咲夜が意識を取り戻すと、そこは紅魔館の玄関脇に生えている大樹の陰だった。
「気が付いたか」
 声の方向を向くと、咲夜に対して背を向けた創が、大剣をバックにしまっている。
「貴方は―――本当に神様なんですね……」
 ふふ、と微笑みを浮かべる咲夜。
「神なんて、実際は大層なものじゃない」
 投げやりに吐き捨てる創。背中を向けているので咲夜が顔を見ることは出来ないが、何処か哀しみの混じった声に咲夜は聞こえた。
「神という存在ほど、その実像が曖昧な存在もない。裏を返せば、誰だって神にはなれる」
「でも、貴方は神様なんでしょう?」
「周りがそう言うからな」
 創はゆっくりと立ち上がって、バックを肩にかける。
「今日は、これでお暇させてもらう。次来る時には、お嬢様に会わせてくれよ」
「今、会っていかれないのですか?」
 頭を振る創。
「ああ。今日は―――もういいんだ」
 そう言って去っていく創の後ろ姿を、咲夜はただ呆然と見つめていた。




 好奇心を満たす。ただそれだけの為に、相手の身体だけでなく心を傷つけた。

 そんな後悔の念が、創の胸中に深く渦巻いていた。 

 日はもうすぐ、西に落ちようとしていた。




最初に謝ります。紅魔館住人ファンの皆様、すいません(特に咲夜さんファンの方)。
こんなの咲夜さんじゃない! と言われる覚悟は出来ています。自分も咲夜さんのファンですが、一応こんな感じなんです。我的咲夜像。
それにしても、ここ最近は本当に地獄でした。
先週の水曜に夏風邪を引いて四十度の高熱にうなされ、文章なんて論外で、構想すらまとまりませんでした。
ようやく土曜に熱が引き始めて頭がスッキリとした頃にようやく構想が出来るものの、これでは駄目だな、と一日でゴミ箱に。
構想を半ば無理矢理にまとめて文章を作成するものの、ノートパソコンで作成していた為にバッテリー切れが起こって、保存していなかった文章は忘却の海へと……。
そんな感じで、ようやく完成した作品です。

前作の『出雲一人 八雲三人』に比べると、少々(かなり?)バトルものが混じっています。文法が変になっていないかなぁ、と少々不安です。
今回の創の服装は、ただ単にバトルものをするならこの服装で良いだろう、と安直に決めたものです。幻想郷には、純粋な和風衣装着ている人少ないな、とも思ったので。
今回も、感想や御指摘、批評をくださると光栄です。まだ未熟な身ですので。
出来れば裏設定などをここに書きたいなー、などと思っているのですが、長くなってしまいますので、それでは、また。
鬼瓦嵐
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コメント



0.650簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
これは面白い…!
次章にも期待しております。
くれぐれもお体はお大事に。
8.70沙門削除
>「私が出るわ」
思わず「この私が出る!! 」とゼクセクスを思い出した年寄りです。オリキャラ最強設定は敬遠されがちと聞きますが、咲夜さんスキーな私は、このお話では嫌みを感じませんでしたので、これからもバランス取りとお体に気を付けて頑張ってください。あるニコチン中毒者より。
16.無評価鬼瓦嵐削除
一日で2つも感想を貰えるとは、筆者として本当に嬉しい限りです。

>これは面白い…! 次章にも期待しております。くれぐれもお体はお大事に。
期待を裏切らないように、次章も面白い作品になるよう精進します。……身体は何処かの紫モヤシさん並に貧弱ですが。

>これからもバランス取りとお体に気を付けて頑張ってください。
創は最強という訳でもない、と筆者である自分は思っているんですけれどね(苦笑)。
とりあえず、書いていく内に神である彼の弱さ、というものを巧く表現出来たらいいな、と思っています。
22.100名前が無い程度の能力削除
おもわずD○Oとジョ○ョの決闘を思い出してしまったw