Coolier - 新生・東方創想話

七夕の願い。真紅の短冊

2005/07/08 04:34:05
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 今日は七夕。
 諸説紛々たる七夕の起源、祭事方式は置いといて、今回は「織姫、彦星」に代表される民間祭祀に的を絞ろう。
 小難しいことは、不必要。
 ただ、天の川に引き裂かれた二人の恋人たちが年に一度、逢瀬を果たす特別ロマンティックな日であるとだけ言っておこう。
 そして、そのどさくさに紛れて、笹の葉に己の願望・欲求を素直に書き綴り、あわよくば叶えたまえ、とお祈りするのも小粋な夏の風物詩だ。
 
 さて。
 
 繰り返すが、今日は七夕の日。
 外の世界でも、此処、幻想郷でも、それは変わるものではない。
 僕ひとりであれば、そんな浮ついた風俗には興味を持たぬのだが、生憎…
 



  0.~今朝の日常の非日常の一幕。
 
 
「ねえ、霖之助さん。今日は何の日か知ってる?」
 いつも通りの口調。霊夢の気の無い問いかけ。
「ん? 今日か。そうだなぁ…あー、稲の開花日がちょうどこのくらいだね。この国では古来…」
「あー、そんなこと聞いてんじゃないぜ。まったく、ちょっと話を振ってやるとすぐこれだ。大体、お前さんは話が長くてくどい上に、意味不明な方向にどんどん脱線していくからな。本来ならばわたしの恋符で、跡形も無く軌道修正してやるところだぜ?香霖」
 いや、それは軌道修正とは言わないよ? 魔理沙…。
「あら、それはいいわね。でも、魔理沙。今日はあの日なんだから、魔符のほうがいいんじゃないの?」
 え。
 あの日…?
 そうか、もう魔理沙はそんな年になるのか。
 ふむ、人間の成長とは、光陰矢のごとし。
 少し目を離した隙に、音速はどんどん取り返しのつかないことになっていく。
 あの、霧雨本家で僕と夢の様なめくるめく日々を過ごした、小さくて可愛らしい魔理沙も、おとなの仲…

 ガスッ
 
「~~~っ! 痛いじゃないか!! いきなり何するんだい、魔理沙っ」
 痛たたたた…
 僕の後頭部から、ふっくらとした、愛らしいたんこぶが出産されてきた。
 なんてことだ。
 魔理沙、僕に産みの苦しみを味あわせるとは、いけない子だ
 
「ねぶらっ」 強烈な刺突が僕の、喉に

 ガハッ…ごほごほごほ。こ、殺す気か?
 しばらくの間、喉と後頭部を押さえて悩ましげに悶絶する僕を他所に、霊夢と魔理沙の会話のキャッチボールは続けられていく。

「…でね、………ということにしようかと思うの」
「ほほう。それはなかなか…………だな」
「でしょ? だからね、ごにょごにょごにょ」
「はは、そいつはいいな。うむ、そうと決まれば……おい、香霖」

 ゲフ、ガハァ…い、息が…
 
「霖之助さん、返事ぐらいしなさいよ。愛想悪いわねえ。そんなだから、碌にお客さんも来やしないのよ?」
「そうだぜ、香霖。まあ、にっこり笑顔で、とは言わないが、せめてその極めて胡散臭い笑みと口上はどうにかしたほうがいいと思うぜ」
 
 か、勝手なことを…
 
 脂汗を流しながら、懸命に「違う、君たちはトンでもない勘違いをしてるんだよ!?」と突っ込みを入れようと足掻くが、いかんせん、デリケェトな僕の身体は、いまだ沈黙を保ったままだ。

 動け、動け、動け動け動け――――
 
「ま、そういうことで、香霖。必要物資の調達はお前に任せるぜ」
「その間、わたしたちは神社で飾りつけの準備とかしているから」

 スタスタスタ。妙に楽しげに、二人は扉の外へと
 
「…………ぶはっ! おい、霊夢っ、魔理沙っ! どうして頭脳労働専門の、この僕がそんな野良仕事を」

 しばし吹っ飛んでいた時間を強靭な意志力で回復し、僕は叫んだ。が…
 返事が無い。既に手遅れのようだ。
 むぅ、おおおな…か。
 


  1.笹林に香霖の風雲


 ガサガサガサ
 ち、なんて鬱陶しい草木なんだ。
「……ふぅ」
 額に浮いた汗を拭う。
 ひんやりとした僕の柔肌が、ネトリと汗に濡れた。
 気持ち悪いな、くそぅ
「なんだって僕がこんな力仕事をしなくてはならないんだ。大体、僕のような文学青年を捕まえて「霖之助さん、お祭りの準備に笹が必要だから、悪いんだけどそこら辺の山に入って盗って来てくれない?」などと戯けたことを抜かすとは。…これは問題だよ。どうやらこの頃の僕は、霊夢や魔理沙の言動に振り回され、いいように弄ばれているような気がしてならない。此処は一発どかんとぶっといアレを探し出して、あいつらの度肝を抜いてやるのが最上の仕返しと言えるだろう。そうに違いない、いや、そうあることは遥かいにしえの預言書で定まっている運命の四行詩」
 ぶつくさぶつくさ。
 唇をちょっぴり大胆に尖らせながら、僕はあることないこと、不平不満を並べて晒した。
 ギラギラ照り付ける陽光が眩しい。
 ふむ、北風と太陽の寓話か。
 なんとなく、昔に読んだ少々アダルトな物語を思い出す。
 ふぅ…
 熱い、な。
 どうやら、太陽は僕の衣服を脱がせたくて仕方が無いらしいね。
 いやらしい、お・ひ・さ・ま☆(ぱちん)
 
 ……。
 
 ――ゴロゴロゴロ
 
「おや、どうしたことだろう。つい先ほどまで、あんなに燦々と輝いてた太陽が」
 まずいな。こいつは一雨来るかも知れない…。
 
 ポタ…
 ポタタ…
 ぴちょぴちょぴちょ
 
「早速か。なんともせっかちだね」
 あー、対降雨攻性殲滅防禦装備【雨雲破壊爆弾】はお店に置いていてしまったしな。
 あれさえあれば、雨雨降れ振れ母さんが【蛇の目】(怖いな、なんかこの単語は)でお迎え嬉しいな…♪
 な展開に遭わずに済むんだが。
 はぁ…如何にこの僕が、天地陰陽の理を知る香霖堂店主がこんな無様を晒すことになるとはね…。
 とはいえ、そう――
「僕にだって、わからないことぐらい…………ある」
 現在の装備は、腰に引っさげた皮鞘に収められた【鉈】のみ。
 喜色満面で天にコイツを振るっても…
 雨雲を断ち割るには、少しばかり火力が足りない。
 残念だが、僕が濡れることは、あらかじめ定められていた天の采配のようだ。
 
「ま、いいさ。せいぜい僕の雨に濡らされたあられもない姿を存分に堪能するといい。それぐらいのサービスはしても罰は当るまい」
 
 
 
  2.濡れる男
 
 
 ざぁぁあああああああぁぁぁああああ
 
「こいつは…思ったよりも、勢いが…堪らないぞ」
 頬や全身にぶちまけられる、天から注がれる涙。
 まるで、我慢ならん。
 なんという勢いだ。
 涙というより、これじゃあ…
「おっと。思考が危うい方向に逝きそうになった。だが、無理も無いか。ふふ、絵になりすぎなんだな、雨に打たれる美青年っていうのは」
 ……。
 どこからも突っ込みが来ない。
 魔理沙の箒も、
 霊夢の長針も、
 咲夜のドスも、
 妖夢の二刀も。
 安心安全なのは結構だが、張り合いに欠ける。
 彼女たちに得意な得物で刺されるのも、案外気に入ってたりするのかな?
 僕は。
 五月雨のような切なさが胸を満たす。
 ……ナーバスすぎるぞ、僕。
 しばし、目を閉じて天を仰ぎ、顔面に気持ちのいいシャワーを浴びる。
 火照った顔を、ひんやりとした冷撃が癒してくれた。
 今のは、ちょっと……寂しかったよ?
 危うく、寂しさで死ぬところだった。
 もしかして、彼女たちも、今頃そう感じているのかもね☆(クスッ)
 
 
  ざあざあざあざあざあざあざあ……
  
  
 天は、何も答えてはくれなかった。
 
 
 
  3.出会い系洞穴【香霖洞】にて
  
  
 ぎゅっ。
 
 じゃぁぁーー
 
「ふーーー。助かった」
 僕は今、フンドシ一丁のあられもない姿でこじんまりとした洞窟に身を隠していた。
 さしもの雨小僧たちの熱烈なストーキングも、此処には物理的に及ばない。
 クスクスクス……ざまぁみろ。
 寒さにかじかんだ紫色の唇が、歪に吊りあがった。
 渾身の膂力で絞り殺した衣服から、じゃぶじゃぶ水滴が落ち、黴臭い床土を濡らす。
 雨に濡れた衣服なんぞいつまでも着ていたら、風邪を引いて死んでしまうからな。
 よって、少し快感ではあるが、人間や大半の妖怪たちが常識として身に纏う衣服のすべてを剥ぎ取り、男らしくギュッと絞込み、さっきのどさくさに紛れてすれ違いざまに斬り殺してきた三本の笹を上手く組み合わせた即席物干し竿に丁寧に掛けてゆく。

「~~♪ ふ、ふふ~~~ん♪」
 その日に食うものすら覚束なかったサバイバル生活を思い出し、鼻歌が奏でられる。
 いつも、こんな野蛮なことをするのは御免被るが、たまにはいいかもな。
 なにより、いつ妖怪や人間が侵入してきてもおかしくない場所で、このような無防備な姿を晒すことに軽い興奮を覚える。
 霊夢や魔理沙はあずかり知らぬことだが、僕はほんの少しばかり常人とは違う趣味を持つ。
 この趣味を理解してくれる人妖は、自由の満ちる場所である幻想郷でも、ごくごく一部の同志しか居ない。
 例えばそれは、
 あぶらあげが、大好物な狐さんだったり。
 例えばそれは、
 目が真っ赤に充血した時の犬冥土だったり。
 例えばそれは…
 
「……ぐっ。嫌な男を思い出してしまった……」
 禁忌。
 ヤツは半分人間にも関わらず、ありとあらゆる妖魅どもより、なお恐ろしい異形。
 その名を口に上げるだけで、僕の純粋なる魂魄は汚濁にまみれ、ドス黒く穢れる。
 もし、迂闊にその禁忌の妖名をこっそり囁いて、


 ☆ ☆ ☆
 
 
『……おう、呼んだか』
『ウホッ! いい剣士』
 僕の内心の驚きを他所に、背後に忍び寄った男は【おもむろに】隙無く着こなした和装束の前をはだけ…
『 殺 ら ね え か 』 にやり、両手に物騒な得物を構える。しゃきーん。
『え……』ど、どうしよう…僕好みの得物(彼は刀剣マニアでもある)
『ヤリたければ、こっちに来な。俺がリードしてやる』(稽古をつけてやる、という意味であろう)
『でも、今の僕の得物は、無骨な鉈一丁だよ? 君の刀とは、あまりにリーチが違いすぎやしないかい…?』
『いつまでも草薙とかいう野郎にこだわってんじゃねえよ。俺が、もっと凄い世界を教えてやる』(ありとあらゆる武具を用いた戦闘方法、ということでしょう)
『で、でも…』僕個人の戦闘能力では、この男に太刀打ちできる筈が…
『つべこべ抜かすな。やるのか、やらねえのか』
 逡巡。戸惑い。
 神出鬼没な彼のこと。
 この機を逃せば僕のコレクションにくわえるべき標的が、他の奴との博打のカタに巻き上げられ、失われる可能性も…
 乗るか(勝ち目の無い博打に)
 反るか(海老ぞり?何ですかそれは)
『やさしくしてくださいね』(手加減しろ、ということ)
『おう、俺に全部任せろ』(殺しはしない、ということ)


 ☆ ☆ ☆
 

 怖っ!
 なんておぞましい想像を…。
 僕はあまりの恐怖に身を掻き抱き、ガタガタと、仔猫のように震えた。
 何気なくあたりを見回すと、そこには真っ赤な布切れが。
 ん?
 さっきまであんなもんあっただろうか。
 不審に思い、僕はソロソロと周囲を警戒しながら布切れの所まで四つんばいで這い進む。
 
 ……。
 
 む。これは…火を起こすのにちょうどいいシロモノかも。
 握力を鍛える為に常日頃から持参していた、鉄球型火打石が役に立つときが来たか。
 まてよ。
 そういえば…
 今日は七夕。
 短冊に願いを込めて吊るし上げる、欲望成就の日。
 こんな状況ではあるが、だからこそ、
 
「極限状態でこそ、願いはストレートに伝わるもの、かもしれないし……ね」


 決めた。
 この真っ赤な布で、
 スカーレット・クロスで、
 
 短冊を 作ろう。
 大きな 大きな
 短冊を。
 心を込めて、希望を込めて、
 誠心誠意、ありえない程、丹精に作ろう。
 
 
「ウフフ。僕のフンドシの中には、こんなこともあろうかと…」

 もぞもぞ
 
 ごそごそ
 
 にょきっ
 
「弘法の筆…とまではいかないが、紫に魔力符30枚(とても高額)と交換してもらった、外の世界の筆。その名も…油性魔法筆(マジック)!」

 さて、これで…
 
 きゅぽん。
 
 かきかき
 ぬらぬら
 ずりゅっ(おっと、手が滑った)
 ぐいぐい
 
 ……。
 
「よしっ! 完成だっ」 ウフッ

 素晴しい…
 書の才能もそうだが、
 この文面の、なんと風流かつ率直なことよ。
 これならば、天の川を越えて、願い星にとどくであろう。
 雨が降ってようが、
 槍が降ってようが、
 取るに足らん。
 それほどに、改心の出来だ。
 ああ、僕は…自分が、怖い。
 
 すりすり
 
 真紅の短冊に頬擦りをした。
 いとおしい君のために、僕は頑張ったよ?
 さあ、彼女に届け、この想い!
 
 ぎゅっ
 
 笹の枝に、と言うよりは竿に、赤い布切れを結わえた。
 
 これでよし。
 
「ふぅ…素敵だな。この場に自慢できる者がひとりも居ないのは、残念だよ」

 ぬたり
 
「でも、なんかウキウキするから、叫んじゃおうかな」

 ぬたり
 
「世界の真ん中、幻想郷の中心で愛を叫ぶ」

 ぬたーり
 
「それが、僕! 森近」

 ……ニタリ。
 
「霖」

 ゴゴゴゴゴ……
 
「之」

 もうすぐ、彼は生まれてきたことを後悔するような絶望に、身を委ねることになるだろう。
 
「す」

 察しのいい方なら、あの「真紅の布」の正体が分かる筈だ。
 

 そう、幻想郷広し、と言えど、香霖の他に【フンドシ】という漢アイテムを愛好する野郎はただひとり。
 
 それは、図らずも彼が先刻、夢想した…
 
「け……うわ、なにするだ!やめ
 
 
 
 
 
 
 
 
久しぶり過ぎて、誰の記憶にも無いと思うのではじめまして。

七夕☆ラブストーリーです。

それ以外の何者でもありません。

もう、時間無いんで、この辺で。

死んできま(以下記入無し
しん
http://sinnsi.fc2web.com/
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コメント



0.1200簡易評価
1.100駄文を書き連ねる程度の能力削除
しんさん復帰キターーーーーーーーーーーーー!

相変わらずコーリンが変態だったり、
咲夜さんの武器をドスと解釈したり、
とにかくぶっ飛んだ幻想郷をありがとうございました!
フゥゥハァァ 興奮冷めやらぬわ!
2.80名前が無い程度の能力削除
前ン
9.80沙門削除
 頭の中で某サイトで鍛えられた想像力がオーバーレブ中。
 仁王立ちする偉丈夫が叫ぶ。
「久しいな若造。命永らえたければ、我が屍を越えて行け」
 狂喜の夜が始まるみたいな。
17.70名前が無い程度の能力削除
なんかねいろいろと台無しだよ IN 七夕 って感じでとってもいい感じ 
22.80武藤渡夢削除
うひゃひゃ、ヤパーリこうでねぇと。しん殿、復活おめでたい。
大自然がツッコミとはイカスじゃないですか。文句無しで一気読み。
壊れた時にこそ、役に立つものってあるしね(何が。
ここまで逝くと、いっそスガスガシイです。ぬふふふ・・
24.80さしみ削除
ウホッ! いい七夕……
みんなガタガタ震えてるよ!
29.無評価風邪引きE・K削除
読んですぐ点入れちゃったのでフリーレスで。
すごく面白かったです。復活を心待ちにしていた甲斐があるというもの。
でもしん氏はれみりゃあ好きの偉い人と認識してましたが、もはや香霖のエロい人になりつつあるような…。インパクトあり過ぎ(笑
では、次回も楽しみに待つとしますです、ハイ。