Coolier - 新生・東方創想話

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2012/06/22 16:34:01
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  身体の奥底まで響くような、細胞の隅々まで染み渡るような、そんな振動が伝わり、私の身体は熱病に罹った時のように火照る。
 だが、気分は高揚し、熱はどんどん上がっていく。

  次の振動が来る頃にはもう、その事しか考えていなかった。
 ギシギシと、軋む音が、大きくなっていく。
 汗が滴るのを拭いもせず、私は一心に、それを待った。 
  
  「あ…来る…来る!」
 「へへ、そんな興奮しなさんな…やんごとなきお顔が台無しだぜ」
 「す、凄い……大きい…っ!」
 「ほら、よく見なよ、繋がってるところがもう、悲鳴を上げてるぜ」
 「ああっ…そんなにしては…! だ、だめ! 壊れて、壊れてしまいます!」
 「う…っ! やべ、もう…!」
 「ああっ!」


  ゴシャアアアアアアアアアアアアアアア

  『カーナンバー8556、シャイニングナイト、コースアウトだァアーッ! まさかの本命、コースアウトォーッ! 前日の雨で、足回りに難があったかァーッ!』
 
  「ギャーッ!」
 「牛が! 暴れ牛が! 吉川英治版宮本武蔵における最強生物が!」
 「逃げるんだよォー!」


  皆さんこんにちは、ご機嫌いかがですか。豊聡耳神子です。
 私は今、妖怪の山にある、『にほへ坂』へとやってきています。
 ここで最近、妖怪と人間、それ以外も巻き込んで大ブームとなっているのが、『G-1グランプリ』という催し物です。

  G-1のGは『牛車』のGで、その名の通り、牛車で峠を下るという、温故知新、和洋折衷、空前絶後のレースです。
 とは言っても、牛車など、誰でもすぐに用意できるというわけでもなく、極端な話、人が乗れるものであれば、無条件で参加でき、実際に参加している人々の様子を見ても、箒であったり、謎のマシンであったり、UFOのようなものであったりと、様々です。
 コースには不可視の結界が敷設されていて、高度を取れるような乗り物であっても、ある一定以上の高さを越えてしまうと、その場で失格になるため、必然的に、地面すれすれを飛ぶことを強いられます。
 複雑に曲がりくねったコースは、カーブの度に凄まじい負荷をかけ、それに耐え切れなかった者を、不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまう定めに追い込みます。
 おっと、言葉が乱暴でしたね。 

   
  「ひ、姫さまァー!」
 「大丈夫よ優曇華、姫のことは後回しにして、早いとこピット作業を」
 「そうは言いますが、首は170°くらい捩れてますし、腕は関節がいっこ増えてますよう!」
 
  先ほどクラッシュした牛車のクルーでしょうか、大慌てで牛車を修復していますね。ドライバーの…なんでしょう、どこぞの姫みたいな人は、何か変な塊になって放置されてますが。
 一応、参加する前に、事故って例え死んだり、重傷を負ったとしても、それは自己責任だヨ、みたいな念書を書かされるので、誰が悪いというわけでもありません。

  おっと、ピット作業が終わったようです。お姫様は何事も無かったかのように立ち上がり、牛車へと乗り込むみたいです。ああでも、相当脚に来てますね。

  「みっともないわよ優曇華、この私…にほへ坂の女豹の異名を持つ、蓬莱マウンテンシャイニングナイトを誰だと思って?」
 「姫、そっちはてゐです」
 「あと質問の意味がわからねえよ」

  何か色々やりとりをしていますが、その間にも、色々な選手、乗り物が、コースを爆走していきます。

  「ゲェーッ、このままじゃ周回遅れになりますよ姫様ァ!」
 「ふん、下賎の者たちがここぞとばかりに…永琳、ジ・エンドオブジェネシスKGYエヴォリューションターボタイプDの用意はいいわね!?」  
 「ピーキー過ぎて姫様にゃ無理でしょうけど、一応」
 「よし! んじゃあ一丁、ソルベルグばりにアレしてナニして勝っちゃうとしますかね!」
 「ソルバルウって何だ、鈴仙」
 「知らないわよ!」
 
   と、まあ、そんな感じですが、果たして大丈夫なんでしょうかね、アレ。


  『おーっと発走したシャイニングナイト選手、後方から来た藤原シスタースカーレット選手に突っ込まれたァーッ! 不死身の特性を活かした、必殺の黄泉落としが炸裂ゥウーッ! 爆発が起きたァーッ!』

  だめでしたね。
 
  『あーっと場外乱闘が始まりました! これは危険! これは危険ですよ!』
  
  だめでしたね。
  
  

  「と、いうことなのですよ」
 「…」
 「はあ」
 「それは楽しそうねぇ」

  昨日のG-1から一夜明けて、私はその顛末を皆に話して聞かせました。
 正直、G-1の話を聞いた時は、下々の者の下品なたしなみ…そう思っていたのですが、実際に見てみると、その考えが大きな誤りであったことを、つくづく感じたのです。
 そして、私も参加してみたいと、そう思い始めたのです。

  「参加するのはいいのですが、ここには牛車なんてものはありませんし、牛もおりません」
 「あら、牛車はなくとも、乗り物はあるではないですか」
 「え?」
 「磐舟があるではないですか」

 布都は私の言葉を聞き、初めは何のことかと考えていたようですが、すぐに顔色を変えて、私に詰め寄ってきました。
 
  「だ、だ、だ、駄目です! 磐舟は駄目です! 先月、やっと1000年月賦が終わったところなのです!」
 「あら、頭金を出したのは私ですよ? つまり、磐舟の何割かは、私の所有物であり、普段はあなたが乗ることに異論はありませんが、使いたいときに使う、という権利も、私にはあるはずでは?」
 「し、しかし太子様…!」
 「大丈夫ですよ布都、生前、事務仕事ばかりしていたとは言え、葛城の教習所で学び、橿原の交付所で免許を頂いているのです」
 「う、嘘じゃ! 太子様は馬にも乗れぬお方じゃ! あの顔が怖いといって!」
  
  主を嘘つき呼ばわりするとは、お仕置きが必要なようですが、それは後回しにしましょう。
 私は布都の肩を抱くと、やんわりと懐柔することにしました。

  「噓なものですか、私が厩戸皇子と呼ばれていたのは知っていますね? つまり私は馬をはじめとする、ありとあらゆる乗り物に乗れる資質を持っているのです。私が何かに乗れば、それはたちまち私に応え、命を吹き込んでやる~、とか、お前に魂があるのなら~、とか、それっぽいことを言えばあら不思議!」
 「し、しかし…」

  もごもごと口ごもる布都ですが、それは舟なんかより私の身を案じているせいなので、私はそこでもう一押しすることにしました。

  「もし私が、次の大会…今週末ですが、それに出て、優勝してごらんなさい。素人が乗っているにも関わらず、あれだけの性能を出せるすごいマッスィーンだと、人々は騒ぐでしょう。そしてそれを仕込んだのは、この物部布都であると宣言してごらんなさい。もうモテてモテてしょうがないし、河童たちもこぞって、物部モデルの磐舟の製造に着手するでしょう」
 「それは…」

  布都はごくり、と、唾を飲み込み、首をふるふると左右に振ります。彼女については幼少の頃より知っていますが、この癖を出した時は大抵、欲望と理性が対峙している時なのです。

  「私に磐舟を貸し、一時の喜びを味あわせるだけで、見返りにロイヤリティと名声が手に入るかもしれないのですよ。どうです、悪い話ではないでしょう? それでもまだ渋るというのなら、遺憾ながら、十七条拳法により和を以って尊しとするしかありませんが」 
 
 
  「(要は舟貸さないと殴るってことよね?)」
 「(太子様は本当に頭の良いお方だ)」
 「(屠自古…)」  
 
 
  「わ、わかりました。ですが太子様、本当に、本当に、壊さないで下さいね?」
 「任せなさい。なに、聖徳太子大勝利、希望の未来へレディーゴーですよ」

  話はつきました。布都もわかってくれたようで何よりです。

 
  そして週末になりました。
 私は妖怪の山の頂上付近にある、石畳で出来た広場にいます。
 私は初出場なので、ここからのスタートになるのだそうです。
 ルールは簡単で、スタートしてから、各々が5周して、ここへ戻ってきた時点で終了。最も早くゴールした者が優勝ということです。
 最後方からのスタートということで、優勝する目は殆ど無いと思うかもしれませんが、全員が一斉にスタートするのではなく、最も後ろの者からスタート出来るということで、それを考慮すれば、勝ち目は十分にあるということです。

  「ああ、いい風が吹いていますね。いわゆるフォローというやつですか」
 「そうねぇ、はい神子様、これをおつけになって」
 
  青娥から渡された手袋をはめ、私は合図を待ちます。
 私以外の者たちは、最初にコースを一周して、観客たちにアピールをするのだそうです。よく見てはいませんでしたが、先日派手にやらかした姫様も、先ほど凄いスピードで発進していきましたね。


  『さぁー今夜もやってきたぜG-1グランプリィィイィッ! 司会は私、射命丸文でお送りするぜェーッ! OKファッキン野郎ども、まずはイカれたメンバーどもを紹介するぜェーッ!』
  

  河童の技術で出来ているというモニターに、一名ずつ、走行している様子が映し出され、司会の口上が入るようです。
 ライバルの様子をチェック出来るので、私たちはその前に陣取り、じっとモニターを眺めます。

  『さぁーまずはポールポジション、旧地獄からやってきた美しき火車! デッドパンサー、カエンビョー、リーーーーン!』 

  ゴッシャアアアアアアアア
 
  「…ピックアップトラック? パンサー? …豹?」
 「車なので問題はないのでは? むしろ馬力がありそうで厄介ですね」
 「ねこだ!」
 「ねこが運転出来る車ってすごいわねぇ」

  『お次は我が妖怪の山の誇る、頼もしい技術屋! 情け無用の妖怪相撲! カワシロ、ニトーリーーーー!』

  ズシャアアアアアアアア
 
  「…何じゃあれ」
 「水陸両用って感じですね…河童モービルとでも言えばいいのか…」
 「相撲関係ないよね?」
 「ないわねぇ」

  『さぁまだまだ来るぜアスホール野郎ども、次に来るのは勝率ナンバーワンを誇る、そう!』
 「KA! GU! YAAAAAAAA!」
 『永遠亭のヴァンガードプリンセス、寿命知らずの姫君! にほへ坂の女豹! 蓬莱マウンテンシャイニングナイトォオオオオーーー!』

  ギュアアアアアアアア
 
  「…牛車ってあんなスピードが出るものなのか…あと豹多くないか」
 「来ましたね、本命が…」
 「蓬莱…なんだって?」
 「シャイニングウィザードとか何とか」

  『さあ、来た来た! シャイニングナイトとは因縁浅からぬ相手! 燃え盛る華麗なる不死鳥、踊れ鳳凰幻魔拳の手の中で…! フジワラノ、モーーーーコーーーーウ!』
 
  ゴァアアアアアア

  「異名長い! あと語感悪い!」
 「こちらの牛車は単気筒タイプですね、馬力は出ませんが代わりにコーナリングで詰めるタイプと見ました」
 「とうふ屋じゃないんだ」
 「ああでも、牛に86って焼印押してあるわよ」

  『さぁ次で最後だ、野郎ども、しっかりと声出してけよ! この山のビッグボス! 山坂と湖の権化! 注連縄の女豹! ヤサカ、カナーーーーーコーーーーー!』
 「カナゴザマァアアアアアア!」
 「カナコたんマジ神霊ーーーーーー!」
 「カ、カナちゃーん! かなちゃーん! か、かーっ、カナナーッ!! カナーッ!!」
 「おっぱいもませてェエエエ!」
 
  ドゥンドゥンドゥンドゥンドゥン(ユーロビート)

  「…丸太…? 丸太? 丸太に乗っとるぅううううう!?」
 「前回見ませんでしたが、凄まじい声援ですね…さすがにこの山の重鎮というだけはある…」
 「いや太子様、丸太に突っ込まんのですか! 丸太に突っ立って腕組んでるだけですよ!? 動力は斜面による自由落下のみですよ!? しかもまた女豹だし! 女豹多過ぎるじゃろ! ここはサバンナなのか! 違うじゃろ!」
 「神ならばあの程度は朝飯前なのでしょう」
 「あの音楽どっから鳴ってるんだろ」
 「注連縄じゃない?」

  『以上五名がスターティングメンバーだぜ! そして今回は、命知らずのつわものがもう一人! 頂上広場にいる奴らはもう見てるだろうが、紹介しよう! 神霊モテモテ王国出身、天平部屋! ハッピー・ニュー・イヤー(耳)・パンサー! トヨサトミミ、ミーーーーコーーーーー!』
    
  ワァアアアアアア

  「また豹だーッ!?」 
 「てへへ、女豹って響きはこう、女心を刺激するものですねえ」
 「太子様、超クール! 帰ったら抱いてー!」
 「ちなみにあのプロフィール、神子様が徹夜で考えたのよ」
 「うるせえな! うるせえよ! もうお前らおかしいよ! 落雁だと思って岩塩かじって少し死ね!」

  先ほど紹介された五名は、あっという間に私の目の前を通過し、それぞれのスタートラインに立ったようです。
 私は布都が呼び出した磐舟の運転席に座り、シートベルトをかけ、キーを回します。
 エンジンが回転するにつれて湧き上がる、えもいわれぬ高揚と、動悸…久しく忘れていた、この感覚…身体の奥が、熱を持って疼くのがわかります。
 サイドブレーキを下ろし、ハンドルを握る私…そう、私は今、天平の空に飛ぶ、鳥となるのです!

  『さぁー泣いても笑っても死んでも、もう止められない! スタートと行くぜ、3!』
 「ニィイイイイイイ!」
 『1!』

  『GOGOGOGOGOGOGO!』

  誰よりも聡い、両の耳が、その合図を拾います。
 私はアクセルを踏み込み、加速に備えました。

  ドゥン

 「ん?」
 
  ドゥン

 「んん!?」
 「あ…」 
 「あ、あれ? 太子様?」
 「進まないわね? なるほど、ぶっちぎる自信があるから、あえてハンデをあげるということか」
 「布都! 進みません! 発進しませんよ!」
 「…太子様…」

  ギアはしっかり入っている…はず。あとはアクセルを踏むだけ…私は足元を見ます。
 しかしどういうことでしょう、アクセルとブレーキの他に、もう一つフットペダルがあるではありませんか。
 
  「布都ー、この舟、アクセルが二つあります!」
 「…太子様…それはクラッチです…」
 「くらっち? くらっちとは何ですか? すごいアクセルですか?」
 「太子様…磐舟はMT舟です…」
 「…つまり、どういうことですか? 馬より難しいものですか?」
 「太子様…太子様…」
 「…はい」
 「AT限定はやめとけっつったろうがァアアアアアアアアアアアア!」

  すごく凄い面白い顔をしてそう叫んだ布都が、私にどくように指示し、皆を乗せます。
 
  「…帰ろうか」
 「…うん」
 「…そうね」
 「ちょっと、布都! 屠自古! 青娥まで! 何なのですか! レースはこれからですよ!」
 「うるせーこの暗黒ボーカロイド! ATとMTの違いも知らないで何がレースだ! 葛城まで行ってMT免許取ってから喋れ!」
 「だから! MTとは何なのですか! Dに入れないと走らない舟なんて聞いたことがありませんよ!」
 「うるせェエエエエエエ! もう帰ってD-LIVEでも読んで寝ろ!」
 「あー! 何なのですか! アー!もー!」


  こうして、私のG-1グランプリは幕を下ろしたのでした。
 皆さん、車の免許を取る時は、よほどのことが無い限り、AT限定はやめましょうね。


 おわる
       
 二作目…のはずが、書いてる途中でこっちの話を思いついたので、突貫工事で仕上げました。正直、不真面目(内容が)が過ぎるとは思いましたが、何事も経験ということでお赦し下さい。
 三作目が、今書いてる途中の作品になるかと思われます。そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
ナイスガッツ寅造
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コメント



0.800簡易評価
3.90ぺ・四潤削除
ああもう。あなたの勢いほんと好きだわぁー。
とりあえずこの神子さまにきのこの山をあげる。
5.50名前が無い程度の能力削除
あれだけフラグ立てたんだから、舟スクラップにしないとおさまりがつかないぜ
8.100名前が無い程度の能力削除
これでもかと詰め込まれたネタの数々が大変面白かったです。
9.90名前が無い程度の能力削除
あの前フリでスクラップが無いだと!?
10.80奇声を発する程度の能力削除
ネタが多くとても面白かったです
13.100名前が無い程度の能力削除
AT限定でサーセンwww
しかしD-LIVE愛読者なのにMTとATの区別もつかんとは…太子様…
14.80名前が無い程度の能力削除
ワロタwww
ルマンは日本勢散々だったからな~バカジマとか
19.80名前が無い程度の能力削除
超速展開ごちそうさまでした
笑えたけどわからなかった!
わからなかったけど笑えた!
21.100名前が無い程度の能力削除
"にほへ坂"に爆笑して喘息が再発しちまったじゃねーか どうしてくれよう
22.70名前が無い程度の能力削除
じゃ布都がちょっとくどかった以外は面白かったです
23.90名前が無い程度の能力削除
千年以上眠っていた間に知識の欠落があったのか、教習所の教え方に問題があったのか…
しかしながらこれだけ煽っておきながらこの落ちはひどいですねぇ
26.100名前が無い程度の能力削除
リッジ的な意味でソルバルウに反応してしまったのは私だけでいい
32.90名前が無い程度の能力削除
まあ、後からMT可にするのは面倒ですからねぇ。運転するような仕事の方はMTのほうが。しないなら要らないけど。