Coolier - 新生・東方創想話

Stage1 夢と異変と行動と

2012/06/13 15:16:25
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(長期連載…といっても20話前後になるかもしれません)
(オリジナルなキャラクター、設定が登場します。苦手、嫌いな方はスルー推奨です)
(設定的に星蓮船までなので神霊廊、登場のキャラは出てきません)




Stage1<夢と異変と行動と>





幻想郷は、日本の人里離れた山奥の辺境の地に存在するとされる。ここには妖怪などの人外のものが多く住んでいるが、僅かながら人間も住んでいる。
幻想郷は強力な結界によって幻想郷外部と遮断されているため、外部から幻想郷の存在を確認することはできず、幻想郷内に入ることもできない。同様に幻想郷内部からも外部の様子を確認することはできず、幻想郷から外へ出ることはできない。そのため、幻想郷では外の世界とは異なる独自の文明が妖怪たちによって築き上げられている。
なお、幻想郷は結界で隔離されてはいるものの、異次元界といったものではなく、幻想郷も外の世界も同じ空間に存在する陸続きの世界である。幻想郷は内陸の山奥に位置するため、幻想郷内に海は存在しない。


という今更な説明は意味がないな……私もここに来て大分経つから古参とも言えるが、それでも訳の分からない事は多くあり、訳のわからない異変が多く起きてきた。
霧、酒盛り、花畑、地震、神様、地底、宝船だのUFO、だったか? もっとも、私には関係の無い話だ。
いつも通りの日常で、輝夜と殺し合い、慧音の手伝い、竹林の案内、焼き鳥屋、1000年以上生きてきた中では割りと落ち着いた毎日だったと思う。
そういえば、一度だけ、異変に関わってしまった事があったか……。 
あれが切っ掛けで花の妖怪に目をつけられた……っというのは人聞きが悪いが、あの妖怪に気に入られてしまったと言える。

その時の話でもしようか?
思えば、あの時から私は口が悪くなったと慧音に言われたっけか……まあ、いいんだけどさ。
おっと、話がそれたな。
そうだな。
あれは……そう、UFO騒ぎが終わり、年が明けた頃の話だ。

















紅蓮は闇を赤く燃やす……。
黒いキャンパスに赤い絵の具をぶちまけては、直ぐに黒く塗りつぶしていくかのように……。
何度も何度も、それを繰り返す……。
永遠のようにも思えてくるそれは、まるで賽の河原にようだ。
ならば、ここは地獄なのだろうか?


ようやく、辺りの様子が見えてくる。
壊れた柵のようなもの、あちらこちらに倒れているのは人間なのだろうか?
剣がつき立てられ、矢が突き刺さり、炎が地を焼いている。
そんな光景が周囲に広がっている。
確かに地獄ではないのだろう。
だが、この光景を見て、天国と言えるのだろうか? 平穏だと言えるのだろうか? 
少なくとも人々の魂を罰する地獄ではない筈だ。
けれど、それに何の意味があろう?



ここの風景を例えるなら、その二つの漢字からなる言葉、そのものでしかないのだから……。



燃え盛る炎の間を抜け、青を基調とした華服を着た長い弐本の長刀を交差させながら背負う若い女が一人、炎を些かも恐れずに駆けてくる。
その女は時折立ち止まり、屈みこむと、倒れている者達に息があるかを確認しているようであった。
だが、どれも息が無いようで、その度に悲痛な表情を見せる。
そして、彼女が崩れた壁を軽く飛び越えて駆け出そうとした時だ。
飛び越えた反対側の壁に寄りかかるように女が、俯き加減に座っていた。
女の手には鋼の弓が握られ、その心の蔵には鋭い槍がつき立てられ、周り赤く染めている。

それに気がついた最初の若い女は、顔色を変えて、俯いたままの女に駆け寄る。
彼女の胸から槍を引き抜くと、咳こむように彼女は血を吐いた。
まだ息があったのだ。


「風音〔かぜね〕! 風音!! しっかりしろ!」
「……あ……雨観〔あまみ〕……良かった……ぶ、無事だったんだね……」
「あまり、喋るな。今治癒を……」
「無駄だよ……普通の武器ならともかく、加護を受けた武器じゃ……」
「やってみなければ分からん! ともかく……今は……っ!?」


胸の傷に手をあてようとした雨観の手を、傷を負った風音と呼ばれた女がしっかりと掴み、自分の傷から無理やり引き剥がす。
物凄い形相で、血で口を濡らしながら、風音は雨観を睨みつけた。


「無駄だと言っている! 私に要らん力を使うなッ……雨観はまだ生きている! 主の力になれる。役立たずな私と違ってな! あの人の所へいけ! ……ゴホッ、あのまま、じゃ……」
「風音!」
「……大丈夫……だよ。私もいくから……貴方と一緒にいくから……ずっと……ずっと一緒に、いく……から……」


そう言って笑顔を見せ、雨観と呼ばれた少女の頬を血で濡れた手で撫でると、力尽きるように掌が乾いた地を叩く。
それと同時に彼女の体から抜けでたような白い光が、雨観の体に吸い込まれるようにして消える。
やがて、砂のように風音の体は崩れ、風に吹かれて消えた。
空虚な感覚だけが雨観と呼ばれた少女の手の中に残る。


「風音……風音……風音ッ……!!」


雨観はその砂の一部を力一杯握り締めながら、何度も彼女の名を呼ぶ。
今にも涙が零れ落ちそうな顔で、何度も呼び続ける。
けれど、背後に迫る無数の気配に気がつくと、引き抜いた槍を握り締めながら、立ち上がる。
背後には、鎧を身につけた十数名の武装した兵士が、武器を構え油断なく、彼女を囲むように、ジリジリと距離をつめてきていた。


「……退け……天人ども……」


彼女の低い声が響き、兵士たちは脚を止める。
言葉と同時に、明らかに空気の流れが変わった。


「本当なら、ぶった斬って進むところだが、今は時間が惜しい。道を開けるのなら命だけは助けてやろう」


彼女の問いに兵士達は言葉を返さない。
その代わりに、後方にいた兵士の一人が弓に矢をつがえ、彼女に向かって放つ。
矢は風を切り、甲高い音を立てながら、彼女に迫る。
だが、直前で彼女は振り返り、剣も抜かずに素手で、その矢を叩き落としたのだ。


「馬鹿が! たった一つの己の命ですら粗末にするか!」


その言葉と同時に、矢を射掛けた兵士に向かって槍を投擲する。
距離が離れていたにも拘らず、槍はあっさりと鎧を貫きその兵士を一瞬で絶命させると、数十mも後ろに吹き飛ばして、地面に突き刺さった。
他の兵士達がそれに驚き、おののいて、一瞬彼女から眼をはなした。
次に彼女に視線を戻した時には、彼女は距離を一気に詰めていた。
そして、大きく飛びながら弐本の刀に手をかけてそのまま振り下ろした。
弐本の剣は二人の兵士の頭から、股まで切り裂いて両断し、赤い鮮血が水瓶を割るように辺りに飛び散る。
それを全く気にせずに、片方の剣を地面に突き刺すと、両断した兵士の剣を奪い取り、慌てて矢を射ろうとした兵士の首に目掛けて投げ放つ。
剣は首に突き刺さり、兵士はもんどりうって倒れる。

彼女は間髪いれずに、落ちていた槍の柄を踏み、立てて掴むと、後ろから切りかかって来た兵士の胴体を槍の柄の部分で貫き、穂先で目の前の兵の頭を突き刺した。
鬼神……その表現が正しい。
返り血の真赤に染まりながら、彼女は鬼のような形相で叫ぶ。


「主は………主はどこだッ! 主はッ! 我らのは主はどこにいるッー!!!」












燃え盛る炎によって照らし出された闇の空。
二つの人影が交差する度、青い光が弾ける。
交差して離れ、同時にお互いに向き直る。
片方は黒く長い髪の少女、もう片方は薄い灰褐色の髪をしており、背は同じくらいだが、年齢は灰褐色の髪の少女の方が上のように思える。
黒髪の少女はまだ十四、五歳前後、容姿は美しいが、白い和風の着物ののあちらこちらが切られ、白い柔肌から赤い鮮血が流れ出ている。
その胸には銀色の金属でできており、円の中に小さな葉の形をした飾りがついた、変わった首飾りが下げられている。
灰褐色の髪の少女の方は、黒い篭手をつけている以外は服装は戦闘用とおもえないほど軽装である。
こちらもやはり、頬や腕などに赤い筋が走り、血が流れ出していた。

どこかの傷が痛むのか和服の少女の方が、一瞬、体に走った痛みで表情を歪める。
灰褐色の少女の方が、その隙を逃さずに距離を詰めると自分の背丈の二倍はある巨大なサーフボードのようにも見える剣を振り下ろす。
黒髪の少女は後ろに軽く下がると同時に、両手を交差させる。
それとほぼ同時に、両の二の腕部分から青い光が伸び、剣の刀身のような形状になると、その巨大な剣の一撃を受け止めた。

青い光が火花のように散り、金属が削れるような高い音が鳴り響く。
巨大な剣をもった少女のほうが、舌打ちしつつ、これ以上押し切れないと判断したのか、自分から後ろに弾かれるように飛ぶ。
和服の少女が追撃しようと距離を詰めるが、不意に轟音が轟き、それに反応して急ブレーキをかけて止まった。

直後、砲弾のようなものが彼女はの目の前を通り過ぎ、巻き起こった衝撃と熱を片腕で防ぐ。
改めてみると、最初は何もなかったはずの地面にいつのまにか、数千を越えるような数の大砲のようなが設置されている。
しかも、それらは全て意思を持っているかのように、動いている少女に向けて、次々と砲撃してくるのだ。
それらをかわしながら和服の少女は、チラっと、剣を構えなおしている相手の方を観ると、彼女はふっと笑った。
恐らく、彼女が操っているのだ。

しかも大砲の性能も和服の少女が見たことあるような、火薬で矢を百m前後しか飛ばせないような代物ではない。
空中高く、千m前後を軽く、しかも垂直で射程圏内に納めるような代物だった。
上空に居たままでは間違いなくやられる。
少女は弾幕の中を一気に急降下して降りる。
それを追い、構えていた剣を背負った少女の方も追った。

急降下した少女は大砲の弾幕を掻い潜り、地面に降り立つ。
っと、同時に、両方の腕の青い光の刃が消える。

そのまま両眼を閉じ、両の拳を握り締める。
それと同時に黒い髪が風もないのに浮かびあがっていく。

銀褐色の髪の少女の手が黒髪の少女の方に向けられる。
それが号令であったかのように周りにあった無数の大砲が照準を彼女に向ける。
だが、発射されない。

先ほどまでアレだけドンパチしていた大砲がピクリとも反応しないのだ。
みると、大砲の木の台車が燃え上がっており、砲身が溶けていっていた。
それだけではない。
地面が溶岩のようになり、砂がガラスの破片となって、次々と割れていく。
彼女が両眼を開けて天に向かって咆哮すると、一瞬で周りの大砲の砲身がただの溶けた鉄となり、大地が彼女を中心として、厚い紙の上に落ちた線香花火の火の球が辺りを燃やしながら、紙を貫通していくように見えた
一瞬で活火山の火口のように、辺りを変貌させてしまったのだ。
その光景を上空で見ていた銀褐色の髪少女の方を、彼女はフラフラになりながらも、先ほどのように青い光の剣を腕から生やし、荒い息をしながら見上げ、睨む。
背の剣を抜きながら、健気に戦意を見せ続ける黒髪の少女を見下ろし、彼女は悲痛な表情で呟く。


「健気な……分かっていても進むしかないのだな……その苦しみ、余が解き放とう」


彼女は片手を少女の方に向けると、金色の光を纏った衝撃波が放たれる。
地にいた少女は飛び上がってかわすと、真っ直ぐに、剣を背負った少女の方に突っ込んでくる。
剣を斜めから、突っ込んでくる少女に一気に振り下ろすが、姿勢を限界まで低くしていた少女の黒い髪を数本斬るだけであった。
青い光の刃が剣をかわされた少女の胸を貫く。

一瞬、貫かれた少女は呻くような声をだし、赤い鮮血があふれ出し、それが両方の少女の顔に跳ね、赤く染める。
荒い息をしながら、和服の少女は両眼をギュッと閉じていた。
恐らく、貫く瞬間を見ていないのだだろう。
反射的にとじたに違いない。
だが、ふとその彼女の黒髪を撫でるものがあり、彼女は眼をあけた。
相手の少女が唇を赤く染めながら、微笑し、彼女の髪を撫でていたのだ。


「……ぬ、ぬしの勝ちだ……もう苦しい思いをしなくても良い……のだ。余に勝ったのだ……御主がやる殺し合いは予で最後……だ」


その言葉と同時に、刺されていた青い光の刃が消え、剣を手放しながら、刺された少女の方が地面に向かって落ちていく。
和服の少女は手を伸ばし、落ちていく彼女を追おうとしたが、瞬間、自分の体の中から全身を叩かれるような衝撃と痛みが走り、自分を抱きしめるようにしながら、動きを止めてしまう。


「主ーーーッ!」


直後、あたりに叫び声が響いた。
そして、落ちていく少女を地面スレスレであの雨観と呼ばれた少女が抱きとめる。


「主……主ッ! くそっ! まだだ、まだ終わらせてたまるものか! これ以上、これ以上は!」


雨観はしっかりと彼女を抱きかかえながら、追っ手の兵達から逃げるように一気に飛び去る。
のこされた少女は、地面に降りながら、そのままうずくまり、そしてそのまま仰向けに倒れる。
体に走る衝撃が強くなる。
まるで、体を内部からバラバラに吹き飛ばしていくような、そんな感覚だ。
動けない。
そこから一歩も自分の意思で動けない。
痛みだけが強くなってきており、彼女はその痛みのたびに、自分の体がちゃんと繋がっているか、感覚があるかを確かめざるえなくなっていた。


怖い……怖い……怖い、怖い、怖い、こわい、こわイ、こワイ、コワイッ!


痛みに耐えながら、少女の心の中にその言葉だけが回っていた。
ふと見ると、左手のある地面が徐々に凍りつき始め、右手のある地面が徐々に燃え始める。
地面が彼女を中心として左側が凍り、右側が燃え盛っている。



瞬間、一際強烈な痛みが彼女の全身に走り、彼女は眼を見開き、恐怖と激痛で、耐え切れなくなり、悲鳴のような叫び声あげる。
彼女の見開かれた眼、その左の瞳が青い色から徐々に金色にかわっていき……そして……。























鳥の声が聞こえ、強烈な朝日が格子窓から差し込む
眼をこすりながら、私、藤原妹紅〔ふじわらのもこう〕は薄い布団から体を起こした。
妙にリアルな夢のようだった。
なんというか、そこに私が立ってみていたような……そんな夢だ。
汗でびっしょりなのは暑さのせいだけではないだろう。


「……ふう……全く、これで三日連続同じ夢……これは私の今年に何か影響してるのかしら? どういう暗示?」


顔を洗い、服を着替えながら、私はそんな事を呟いていた。
もっとも、新年早々、今年があまり良くないような出来事が続いているのだが……。


「妹紅さん! 妹紅さん! いらっしゃいますか!? お願いです! 助けてください!」


不意に戸をドンドンと叩き、慌てるような女の人の声が聞こえる。
私は一瞬いやな予感がした。
まさか……そう思い、直ぐに戸を開けた。
みると、小さな子供を抱きかかえた若い女性が今にも泣きそうな表情で戸の前に立っていたのである。
その子供の顔が真赤で汗でびっしょり、荒い息をしているところからみても尋常じゃない。

「どうかしたの?」
「良かった……助けて下さい! この子、朝からこんな調子で水を飲ませても全然熱が下がらないし、永琳先生の所にいくしかないって、貴方なら先生のいる所まで迷わずに案内してくれると聞いて、それで……助けて下さい!! お願いします!」
「分かったわ……着替えて、直ぐに案内するから、ほんの少しだけ待っていて」
「あ、ありがとうございます!」


母親はまるで私が助けてくれたというように、泣いてお辞儀をした。
ただ案内するだけなのに……。
私は奥にいくといつもの服装に着替えて、ふうっと溜め息をついた。
これで、既に新年始まってから一週間、百人近い人間や妖怪を案内したことになる。
永遠亭は恐らく大戦争だろう。
なにせ、輝夜の奴ですら手伝っているというのだから。
良い気味だとは全く思わない。


こんな異常事態は、私が幻想卿に来てから初めてだったからだ。
私は着替えて外に出ると、子供を抱きかかえ、母親をともなって迷いの竹林を進み始めた。
竹林の中は薄暗く、日差しすら差し込まない。
普段なら夏でも涼しいはずなのに、冬真っ只中の今、まるで真夏の日差しに照らし出されているように暑かった。
迷いの竹林の端とはいえ、竹林に囲まれた私の家は冬は寒いが夏は涼しいのだから。
新年からこんな調子なのだ。
冬の妖怪が外にでてこないのも分かる。
その上、原因不明の熱病が幻想卿の里に広がり始めていた。
人間だけではない。
妖怪も同じようにバタバタと倒れていったのだ。
奇跡的にも死者がでていないというのが、唯一の救いだった。


「うっ……」
「!! しっかりして。大丈夫?」
「ごめんなさい……す、少し眩暈が……」


竹林を進んでいる最中に後ろからついてきていた母親が急に蹲ったので、声をかけてみたが、やはり、この人の様子もおかしい。
手で触ってみると、子供と同じくらいに熱かった。
この人も恐らく……。


「掴まって。私が二人共運ぶから……」
「でも……せめて、子供だけでも……」
「大丈夫。この方が早いわ」


私は母親に肩を貸すと、一気に脚を早め、永遠亭のほうに向かっていく。
あの永琳が原因不明というくらいの病気なのだ。
ほっといておくと、大変な事なる。
あの紅白巫女は何をやっているんだろうか? 明らかに異変だって分かっているのに、何もしていないのか?
永遠亭の門の前につくと、誰もいなかった。
いつもなら見張りの兎位いそうなものなのだが……。

門を潜り中庭に入ると、廊下を忙しそうに兎が行き来している。
そういえば、これで入院患者も百名を越えるのか……永遠亭が大きな屋敷で、幸いだったと言える。


「お~い、誰かいないの?」


玄関で私が声をかけると、少ししてから、廊下を走る音が聞こえ、誰かが首だけ、ひょいと出した。


「あら、妹紅じゃないの?」
「……輝夜……忙しそうね」
「忙しいわよ。なんたって私が動かなくちゃいけないんだから」
「それを、自分でいうの?」



蓬莱山輝夜〔ほうらいさんかぐや〕……普段なら、私にとってはこんな穏やかに会話をすることが少ない相手だが、向こうも私もそうは言ってられない。
輝夜は私の抱きかかえる子供と、肩を貸している母親を見て、少しだけ表情を険しくした。


「酷そうね。永琳は今直ぐに診察できないから、部屋で寝かせておきましょう。ついてきなさい」
「ええ……」
「あ、変な真似をしたら殺すわよ?」
「殺せるなら……でも、しないわよ。ここにいる私達以外の人が死ぬからね」


一瞬、むっとした表情をした私に、輝夜はクスっと笑いながら、廊下を歩く。
私とてここで暴れるほど非常識ではない。
そんな場合でないことは、誰が見ても分かる。
輝夜についていく途中、部屋をいくつか通ったが、いずれの部屋も数名が寝かされおり、皆苦しそうにしている。
本来、入院なんてことは、ほとんどさせないのだが、輝夜が永琳に言って特別に許されたらしい。
だが、いくら永遠亭が広いといっても限度がある、これ以上増え続けると、非常にマズイことなるのは永遠亭の内部構造に詳しくない私でも分かった。
長い廊下を進み、輝夜は奥の部屋の襖の前でようやく立ち止まった


「ここよ。布団は予め敷いてあるわ。といっても、そろそろ数も限界だけどね。」
「分かるわ。むしろよくあったわね。こんなに……」
「鈴仙とてゐ、ウサギたちの分も出したからね。あの子達、ここ三日間はずっと布団無しで、床か、柱で寝ているわよ」
「あんたはださないの?」
「永琳が煩くてね……私のだけ特別製だし、寝てる人同士で不公平感を出さないためよ。まっ、私だって昨日からまともに、寝てないんだから」


言われて見れば、他人が来ている時の輝夜にしては身だしなみが整っていないし、目のしたにクマができている。
輝夜は輝夜なりに、ちゃんと手伝っていた訳だ。
襖を開けると、奥の方で、寝ている子供傍にいた見慣れた女性が振り返った。
私は、その女性をみて意外ではないが、少し驚いた


「慧音じゃない? どうしたの? こんな朝早くから」
「妹紅? また患者さんか?」
「ええ、二人もね。ちっちゃい子と、そのお母さん」
「分かった。少し待ってろ……大丈夫だからな? 少しだけ待ってて」



私にとっては、友人であり家族でもある、上白沢慧音〔かみしらさわけいね〕は傍にいた子供に笑顔を見せて、頬を撫でる。
そして、立ち上がると私の方に近づいて、私が抱きかかえていた子供を受け取って抱きかかえ、直ぐ近くの布団の上にそっと寝かせながら、私の方を見た。


「お母さんの近くの方が安心するはずだ。お母さんの方はそこの隣にな」
「分かった」


慧音に言われるがまま、私は母親を直ぐ隣に寝かせる。
その間に輝夜は水で濡らしたタオル二つ持って来ながら、私に言った。


「慧音は昨日から手伝いにきてもらったのよ。こっちの手が足らなくてね。慧音なら永琳ほどじゃなくても医療の知識はあるし、応急処置とか看病なら、むしろ私達よりも上手いと思うしね」
「そうだったのか……」
「学校はこんな状態じゃ、開くこともできないからな。何もしないでいるよりは何か出来る事がないと思って来た訳だ。里の方も大分、酷いことになっている。もっとも、酷いのは里だけじゃなくて、妖怪の山の天狗にも被害がでているらしい。死者がいないのが本当に幸いだな」
「天狗に!? それは相当ヤバイわね」
「ああ、まあ、あの新聞記者は元気そうだったけど」
「馬鹿は風邪をひかないって奴かしらね? 妹紅みたいに……」
「なっ…!」
「……ただの風邪ならはるかにマシだっただろうな……」


輝夜の奴は冗談を言ったつもりだったようだけど、空気的に笑えるような状況じゃない。
異変というよりも災害だ。
本当に巫女の奴は何をしているんだ? いや、もしかして巫女の手に負えない事態になっているのか?


「ともかく、永琳を呼んできてくれないか? 母親のほうはともかく、子供がかなり酷い。このままだと本当にヤバイかもしれない」
「分かったわ。輝夜、永琳は診察室にいるの?」
「多分……一緒にいくわ。妹紅一人だと危ないしね」
「どういう意味?」


相変わらず、無駄なところで私につっかかってくる奴だ。
まあ、今はそういう絡みですら、なんとなく、落ち着く気がするけども。
輝夜について永琳の部屋にいくと、彼女はどうやらクスリの作成中らしく忙しそうに動いていた。
この永遠亭に住む医者八意永琳〔やごころえいりん〕の能力はありとあらゆる薬を作る事が出来る程度の能力だとは知っているが、その永琳ですら、対応策をうてていない現状は深刻だ。
私達が部屋に入ったことに気がつくと、彼女は手を止めて、疲れたように息を吐いて振り返った。


「また患者さん?」
「ええ、そうよ。永琳、疲れてるとは思うけど……」
「大丈夫よ。輝夜、このぐらいじゃ、まだね」


心配そうな表情をする輝夜に笑顔で彼女は答えたが、誰がどうみたって疲れているのは明らかだ。
百人以上の診察して、経過を観察して治療して、空いた時間はなんとか効きそうな薬を作って……休む暇なんて一秒もないのだ。
いくら、タフな彼女でもキツイものがある。
永遠亭の現状と同じだ。
この状況で、もしも永琳が倒れるような事になればタダじゃすまないだろう。
……アレ? フラグ? まさかとは思うけども……。


「大丈夫なの? 随分と寝てないように見えるわよ?」
「まさか貴方に心配されるとはね。私は平気よ? 妹紅。少し休んだら見に行くから、向こうで待っててくれるかしら?」
「あ、ああ……」


疲れたように椅子に座りながらも、多少妹紅を小馬鹿にする言い方もいつも通り。
別に私のことを軽蔑しているわけじゃないのだろうが、少しもうちょい言い方ってものがあるだろう?
もっとも、口の悪いのはここの住人共通か……私も人の事はいえないし……。
まだ、元気そうに、その時は見えていた。

その言葉を聞いて私も輝夜も背を向けて、廊下の方に戻ろうとした。
コトッっという、小さな物音。
その音に私はほんの、少しだけ振り返った。
眼の端、恐らく立ち上がろうとしたのだろう。
前のめりに、ゆっくりとあいつが倒れるのが見えた。
私のその表情に気がついたのか、輝夜が不思議そうな顔をして振り返る。

永琳の看護帽が床に転がり、彼女がうつ伏せで床に顔をこちらに向けながら倒れていた。
苦しそうな表情と、息の仕方……間違いない。


「永……琳……?」


輝夜がまるで夢か幻かをみたような声で呟いた。
ヤバイ、ヤバイとは思っていたが予感的中だ。


「おい、あんた、しっかりしなさい! 私の声、聞こえてる? 八意永琳!」


荒い呼吸をするだけで反応がない。
医療の知識はサッパリないが、さっきの症状が酷い子供と全く同じだ。
医者の不養生なんてレベルじゃない。
私が患者を案内してるのだ。
どんぐらいの患者を連れてきて、この医者がどのくらい働き続けだったかぐらい私には良く分かる。
実際、医者としては非常に真面目なのだ。
それが災いしたのは言うまでもなかった。


「輝夜! 輝夜!」
「永琳が……永琳……」
「今すぐ、あの兎と慧音を呼んできなさい。兎はあのスキマ妖怪のとこか巫女んとこに使いに走らせれば良い。後、誰も居ない部屋みたいな、空いてる部屋ないの?」
「永琳……永琳……」
「っ……」


私は立ち上がると、パニック状態になっている輝夜の前にいき、思いっきり頬をはたいた。
それで、ようやく我に返ったのか、はたいた頬を押さえながら、私の方を見る。
はたいた後で気がついたが、思えば、殺し合い以外でこいつをはたいた事はなかったような気がする。


「妹紅……?」
「しっかりしなさいよ! あんたが、ここの主でしょ? 主がしっかりしないでどうするの!? いいから落ち着きなさい。私が呼んでくるから! あんたは、あいつを、どこか誰もいない部屋に運びなさい。どこかある?」
「私の部屋なら。うん、大丈夫よ」
「分かった。運べるわよね?」
「……うん。大丈夫……」


輝夜が永琳に肩を貸しながら立ち上がるのを見て、私は頷き、直ぐに駆け出そうとした。


「……一発殴った御礼はちゃんとするからね」


私の背に向けて、輝夜がそんな言葉を吐いた。
やれやれ、そんな場合じゃ無いというのに……。
そう思ってチラっと振り返ると、輝夜は永琳の顔を心配そうに覗き込みながら、ゆっくりと、永琳が倒れないように歩いている。
あんなパニくった、らしくない輝夜ははじめて見た。
一度、ギャフンと参らせた輝夜の顔をみたいと思った事があるが、それに近いはずなのに、全く良い気分がしない。
直ぐに廊下を進み、さっき慧音のいた部屋へと向かう。


(……紅白巫女や白黒魔法使いはなにしてるのかしら?……このままじゃマジな死人がでるわよ。あいつは、あのスキマ妖怪はなにを考えているの?)






==博麗神社==




「暑いわね……」
「ああ、空に陽炎が見えるぜ」
「ええ、まさか、年明けから早々に、氷をいれた冷やし蕎麦で昼を過ごすとは思わなかったわね」
「ああ、作るのは楽だったけどな」
「作ったのはアリスだけどね」
「そうよ。あんた達も少しは片付けるのを手伝いなさい」
「ああ、作ったのはアリスだから、片付けるのもアリスに任せるぜ」
「食べたのはあんた達じゃないの!」
「食べる係だからな」
「食べる係だからね」


幻想卿の東の端の博麗神社、その神社の縁側で二人の少女、博麗霊夢〔はくれいれいむ〕と霧雨魔理沙〔きりさめまりさ〕はだらしなく、寝転がっていた。
食べ散らかされた皿を綺麗に片付けながら、アリス・マーガトロイドはそんな二人にそんな小言を言う。
無論、暑さでばてているこの二人が聞き入れるはずもないが、魔法の森というジメジメした場所に住居を構えるアリスにとってもこの暑さはキツイのだ。
本当なら、彼女だって片付けずに二人のように寝転がっていたいのだが、性分なのか、散らかっていると落ち着かないのである。
まあ、いわゆる地味に貧乏くじをひきやすいと言えるのだ。
そこの二人が大雑把な所がある分、苦労すると言える。
もっとも、今はそれは瑣末な事だ。
魔理沙がここに来るのはいつも通りだが、アリスがここにくるのには理由があった。


「それにしても霊夢、貴方、いつまでこうしてるの?」


ちゃぶ台を布巾で綺麗に拭きながら、アリスは霊夢に問う。


「なにがよ?」
「何がって……暢気に構えてるみたいだけど、これは明らかに異変でしょ? 解決に向かわなくていいのかしら?」
「そうだぜ、霊夢。いくら面倒だからって、流石に放置はまずいぜ? 面倒だっていうなら、今回休みで私が……」
「駄目よ」


霊夢がいつもとは違う鋭い口調で、魔理沙の話を遮り、体を起こした。


「駄目……って、なんで?」
「……紫の奴が、まだ動くなって言ったからよ。私も一昨日位に動こうとしたんだけどね。魔理沙の奴も動かすなって、動けって話は耳にタコが出来るくらい聞いたけど、動くなっていう命令は初めてだからね。だから、あんたも一人で勝手な事しないでよ?」
「なんで、動くなって命令が初めてだからって、そんな律儀に守る必要、あるのか? 現に今、里の方や山の方は大変な事になってるぜ?」
「少しは考えなさいよ。動けって、いうのは怠慢してるから働けって意味だけど、こんな明らかな状況で動くな、って事は何か裏があるに決まってるでしょ? あの紫が考えも無しにこの状況を放置する訳がないわよ。そんな事も分からないの? 相変わらず、脳筋なのね」


飽きれたような表情で霊夢は小馬鹿にしたように魔理沙に言うと、ちょっと魔理沙はむっとしたような表情を見せた。
しかし、怠慢、サボリ、怠惰などのイメージがある八雲紫〔やくもゆかり〕でも、事幻想卿の危機に関しては手を抜くことなどはまず有り得ない。
少なくとも何らかの考えがあるはずだ。
そこら辺は霊夢は紫を信頼しているのである。
もっとも、このまま放置する訳にはいかない……。


「それにしたって、どうするんだよ? 噂じゃあの永遠亭が入院患者を受け入れているって話だぜ? あの永遠亭が、だぜ? そんぐらい、切羽詰まっているってことなんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど……」


ここで待っていても、仕方ないのは事実だ。
魔理沙の言うとおり、このままは非常にまずい。
そう、霊夢が考えていた時だった。


「相変わらず、働く気がない人たちなんですね。そんなんだから、参拝者が増えないんですよ?」


っと、霊夢にとってはあまり有り難いとはいえない人物がフワリと神社の中庭に降り立った。
相変わらず、自信満々というかハイテンションというか、えっと確か……。


「おっ、緑色じゃないか? 久しぶり、っというほど久しぶりでもないが、久しぶりだな」
「緑色言うな! 私の名前は東風谷早苗です! いい加減、そういう呼び方は止めてください!」
「こちん……だ?」
「東風谷! ってなんですか!? なんで私だけ名前の呼び方に振り仮名がないんですか! 緑色だからですか! 二番じゃいけないんですか? セカンド巫女だからですか!? 2Pカラーだからですか!」
「セカンド巫女って……」
「えっと、ごめんなさい。確か……東風谷早苗〔こちやさなえ〕さん、だったわよね? 噂には聞いているわ。山の上に二人の神様と一緒に住んでいる外から来た巫女、だったかしら? 違っていたら、ごめんなさいね」
「…………」
「えっ? 何? どうかしたの?」


じっと見つめられて不思議そうな表情をするアリスに、早苗は近づき、がしっと両肩を掴んだ。


「……貴方だけがここでは私の味方です……………えっと……」
「……?」
「……アリス・マーガドルイドさん」
「私は呪術師じゃないわよ!」
「まあ、似たようなもんだろ? それよりも緑色の方の巫女、わざわざこっちまで来て、今日はなんの用なんだ?」


魔理沙の言葉に、早苗はむっとしたが、ツッコミ返す気力もないのか、諦めたように、溜め息をついて答えた。


「貴方達がサボってるから、信仰を得るチャンスだと思ったのですが、出かけようとしたら八坂様に、その前に博麗神社に寄ってきなさい、っと言われまして……」
「神奈子の奴にか? そりゃまたどうして?」
「私が聞きたいですよ。別に私一人でも平気、って言ったんですが、どうしてもいけって……」


不満そうにしている早苗だが、そんな早苗の後ろから、更に声をかける者達がいたのだ。


「あら? 珍しいわね? こんな面々がゾロゾロ集まっているなんて」
「本当ですね。今日は、宴会の日じゃないはずですが……」
「咲夜に……妖夢じゃないの? それはこっちのセリフよ。二人そろってどうしたの?」


アリスが驚くのも無理はない。
恐らく二人共、今日は約束して、ここに来ている訳じゃない。
霊夢からもそんな話は聞いていない。
にも関わらずだ。
こんな”都合の良い面々”がそろうなんて作為的として思えなかった。


「なるほどね……そういう事か」


霊夢が息を吐き、大幣を肩にのせながら、縁側から地面に降りる。
博麗霊夢、霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイド、東風谷早苗、十六夜咲夜〔いざよいさくや〕、魂魄妖夢〔こんぱくようむ〕……いずれも、違う勢力に属し、直接的な協力関係にあるものはいないが、いずれの人物にも共通点が
あった。
その霊夢の様子を見て、妖夢が怪訝な表情をした。


「どうかした? 霊夢?」
「……妖夢、あんたはあの亡霊に言われて、ここに来たでしょ? 暑いからなんとかしてきてちょうだいとか、なんとか言われて…」
「まあ、そうだけど……」
「咲夜、あんたもレミリアに言われてここに来た口?」
「ええ、お嬢様に言われて、巫女を働かせにいけ、とついでに、この暑さをなんとかしてきなさい、っと言われましたが……」
「ちょっと待て、なんだ? それは? つまり、三人とも解決してこいって言われて、ここに来たのか?」
「……どういう事なの? 魔理沙?」


咲夜が少し険しい表情をしながら問うと、魔理沙の代わりに早苗が進み出て答えた。


「私も、神奈子様にここに寄るように言われてきたんです」
「えっ? 貴方もなの?」
「……裏で示し合わせたわね。全員、異変解決の経験者だし、魔理沙やアリスなら言わずとも神社には顔を出すでしょうから」
「なるほどね……」
「でも、なんでまた、こんな大人数で?」
「そうですよ。いくらなんでもこんな人数じゃ……」
「紫や貴方のとこの神様はそういう風には、考えなかったってことよ」
「つまり……少人数でバラバラに解決の為に動いても解決できないと?」


妖夢の問いに霊夢は頷いた。
ぶっちゃけて言えば、今までの異変ならば、ここに居る面々の二人か三人が動けば解決できるのだ。
それがいきなり六人というのはちょっと異常と言える。
だが、それは霊夢達の意見であって紫達の意見は違うのだ。
異常な対応をしなくちゃいけない異常事態が起こっているという事だ。



「つまりね。紫達は私達全員で協力して解決に動かないと、今回の異変、対処できないって考えている、って事よ。その為にわざわざ、リスクをおかしてでも、時間を置いたのよ。お互いにプライドが高そうな上司が揃ってるしね……思った以上に事態は深刻だわ。紫達が原因に見当をつけているかは分からないけど……相手はただの妖怪じゃないでしょうね。見た事もない悪魔か……または早苗、あんたのとこの神様が警戒しなくちゃいけないほどの……神、か。どちらにしても、ちゃんとスペルカードルールで勝負してくれる相手……っという訳には、残念ながらいかない、かな?」
「……新年早々ついてないな。くじ引きは大吉だったはずなんだけどな」
「むしろついてるんじゃない? そんな相手に、少なくともいきなり警戒心無しで襲われるよりは、ね」



==是非曲直庁==



「う~ん………」


ここは地獄の三丁目……ではないが、死者の魂を裁く閻魔達と鬼達が作った公的機関、是非曲直庁 の一室。四季映姫〔しきえいき〕・ヤマザナドゥはその自室の机で肘をつきながら、考え事をしていた。
なにやら深刻そうな表情だが、彼女はいつも深刻そうだったり、険しい表情をしていることが多いので、別段珍しくもないが……。


「あの~四季様?」


彼女の下で働く死神、三途の川の船頭の一人である小野塚小町〔おのづかこまち〕が、映姫の顔を覗き込むようにして言った。
先ほどから小町はずっと、映姫に話しかけていたのだが、ずっと声が届いていなかったようである。
覗き込んでようやく、映姫は小町に気がついてたようだ。


「なんですか? 小町?」
「やっぱり心配なんですか? 六天様の事」
「……貴方がちゃんと仕事しているか、を心配するよりは心配してませんよ? 呉葉は仕事はキッチリしますし、能力も問題ありません。あの八意永琳と比べると、確かに医者としての技量は無いかもしれませんが、仮にもうちの嘱託医です。その分、原因を探るには長けていますから。もしかしたら、里で流行っている病の原因を突き止められるかもしれません。彼女も幻想卿に行きたがっていましたしね。永遠亭の方で、私の紹介なら、っと承諾してくださいましたし……ただ……」
「ただ……なんです?」


小町の問いに、映姫は溜め息をつきながら、立ち上がった。


「あの人は幻想卿に知り合いは全くいませんから。幽々子や紫ですら、会った事はありませんし、何かトラブルを起こしてはいないかと……喧嘩っぱやいですし」
「なるほど……確かにそうですね(トラブルに巻き込まれて、じゃなくて起こしてって所があの人らしいけども…)」
「……やっぱり、決めました!!」
「び、ビックリした……急に何を決めたんですか?」


急に大声を出した映姫に驚きつつも、小町は聞く。
映姫が怒鳴りつける以外で大声を出すのは珍しい事だ。


「有給休暇を使います。確か一か月分位残っていた筈なので、多少消費しても問題ないでしょう。私も里の様子が気になりますし……」
「じゃ、じゃあ、四季様が有給取るならあたいも……」
「貴方に、そんなもの残っていると思いますか? とるなら欠勤、一万歩ゆずって通常の休暇扱いです」
「そ、そんな~殺生な、四季様~」
「甘えたって駄目です! 来るなら来る、来ないなら来ないで、私がいなくともちゃんと働いていなさいな。いいですね? 小町」
「う~……」


そう言って早々に部屋から出ていく映姫に対し、しばらく、う~っと唸りながら考えていた小町であったが、遂に半分やけくそ気味に言った。


「分かりました! 分かりましたよ~四季様。私もいきますから、置いていかないでください~」


慌てて大鎌を背負い直しつつ、部屋から出た映姫の後を追ったのであった。





==玄雲海内==





「待ってください! 総領事娘様! そんなに急いでどうするんですか!」
「そんなに? これでも衣玖 の為に精一杯、手を抜いてるんだけど?」
「それは分かりますが、何を慌てているのですか? 幻想卿の話を聞いた途端急に飛び出して!」



幻想卿の上空、かなり高い所から降りてくる二つの人影。
物凄いスピードで先を行く比那名居天子〔ひななゐ てんし〕を、帽子を手で押さえながら永江衣玖〔ながえいく〕は必死で追いかけていた。
衣玖がたまたま、天界により、本当にたまたま小耳に挟んだ噂を話した途端、表情を変えて、飛び出していったのだ。
こんな事なら、話さなければ良かったと思ったが、後の祭りだ。


「竜宮に引きこもってる衣玖は知らないでしょうね。でも、良く知ってるのよ。大陸の方じゃ、悪鬼で有名なのよ? 今回のことも多分あいつが引き起こしている」
「悪鬼、ですか? じゃあ、その悪鬼が幻想卿に何かを悪事を働こうとしていると?」
「違うわ! あいつは絶対にそんな事はしないわよ!」
「……総領事娘様はその方の事を知っているのですか?」
「それは……」


その言葉に天子は押し黙り、衣玖は訝しげな表情をした。
知り合い、というほど知り合いではない。
でも、天子は彼女の事を知っていた。


「……ともかく、急ぐわよ……あいつは、あいつは絶対にそんな事をしないんだから……絶対に……!!」





==太陽の畑==




太陽の畑、妖怪の山とは反対側の奥地に位置し、夏には眼もくらむような数の黄色い、綺麗な向日葵が咲いている事で有名だ。
冬の間はひっそりと雪の下、土の下で花達は眠るが、今年は悪い意味で例外だった。
赤い服を着、赤いリボンを頭につけた小さな人形くらいの大きさしかない女の子がそこで四つんばいになって何かを探していた。
土を触りながら、掘るというよりも周りの土を削りとっていくという形で、削っていき、何かを見つけると、暗い表情をしながら、後ろでしゃがみこんでいる女性に声をかけた。


「幽香、見つけたけど、やっぱり駄目。枯れちゃってる……」
「そう……ありがとう。メディ、持ってきてくれるかしら?」
「うん……」


白い日傘を差している緑色の髪をした背の高い女性の前に、その少女は立つと、彼女の差し出した掌に少し黒ずんだ球根を置く。
恐らく腐ってしまっているようだ。
けれど、彼女に触れてしばらくすると、やがて、腐った部分が消え、綺麗な状態の球根に戻ったのである。
少女は少しだけ表情を明るくし、球根を受け取るが、女性の方は深刻そうな表情で、少女が球根をとった土をd手ですくいながら言った。


「ここも土を変えないと駄目ね……このまま、植えても直ぐに腐ってしまうわ」
「でも、どうしよう、幽香。このままじゃ、今年は花が咲かなくなっちゃう……」
「そうね。眠りをこんな風に妨げられたら、花も上手く成長できないでしょうし、この天気にも困ったものだわ」
「このまま……このまま、こんな天気が続いたら、この子達、皆……しんじゃうの?」
「……」


土の上に置いた無数の球根や枯れかけている水仙の花を眺めながら、メディスン・メランコリーは後ろで、じっと立って、自分の庭とも言える太陽の畑の風景を眺めている風見幽香〔かざみゆうか〕を見上げながら呟いた。
彼女は少し黙っていたが、やがてニッコリと笑うと、メディの頭を優しく撫でる。


「大丈夫よ? この天気は暫くは続かないわ。ねえ、メディ?」
「何? 幽香?」
「暫くの間、この子達の世話、お願いね」
「えっ? いいけど、幽香、どこかにいくの?」
「ええ、そうね。ちょっとね。御礼をしにいこうと思って……」
「御礼……?」


メディが首を傾げると、幽香はゆっくりと歩き、日傘越しにこの暑い空を見上げながらまるで誰かに言い聞かせるように言ったのだ。


「そう。御礼よ。この天気にするだけなら、まだいいわ。あまつさえ、私の華に無断で手を出して平気な顔をしている、どこかの身の程知らずに、礼儀を教える事もかねて、”御礼”してあげないとね……」



















==永遠亭==



「どう? 永琳の具合は?」


溜め息をつきながら、輝夜の部屋から出てきた慧音に外で柱に寄りかかりながら待っていた妹紅が問うと、慧音は難しい顔で首を振った。


「良くないな。輝夜の声に対しても反応が無いし、当然ながら原因はサッパリ分からん。兎の話では明日には、閻魔様の所から手伝いの鬼が来てくれるという事らしい」
「鬼か……大丈夫なの?」
「ああ、向こうで医者をやっているから問題ないそうだ。これで少しは……ッ!」
「慧音!」


一瞬、フラっとした慧音を妹紅は慌てて抱きとめた。
少し、体がいつもより熱いように思える。


「す、済まない。妹紅。ちょっとフラっとしただけだ。気にするな……ははっ私まで倒れる訳にはいかんからな」
「…………慧音……」


気丈に笑って答える彼女に対して妹紅は唇を噛んだ。
どの部屋でも病人が多すぎる。
皆が苦しんでいる
輝夜だって、永琳だって、永遠亭のやつらは憎い敵ではあるが、今はそんな状況ではない。
こんな閉鎖的な奴らですら、幻想卿の為に頑張っているのだ。



「慧音……」
「なんだ? 妹紅?」
「……出かけてくるわ。暫く……戻らないかもしれない」
「何? 出かけるって、どこに……まさか、この異変を解決しにいくっていうのか!?」
「………そうよ」
「無茶だ! 妹紅! 危険すぎる! いくらお前が不死身だからってそれは……」
「私がここにいたって出来ることは何も無いッ!」
「!? 妹紅……?」


今まで慧音に怒鳴ることなんて一度も無かった彼女の迫力に、慧音は一瞬気圧された。
妹紅は廊下から部屋の襖を開けて中で呻き、苦しんでいる人たちを見ながら続けた。


「私が……私がここでこの人たちにしてやれることは何も無いんだよ。兎の奴らや慧音みたいに上手く手当てしてやる事も出来ない。輝夜のように永琳の傍でじっと看病して、傍にいるような事も出来ない」
「そんな事は無いだろう? さっきだって十分に……」
「違うんだよ……慧音。それが私の最善じゃない。この人たちにしてあげられる、私の今出来る最善の事じゃない。今出来る私の最善の事は……」


外へと通じる襖を開けて、照りつける太陽と空を見上げながら、キッパリと言い放った。


「異変を解決して、早く皆を苦しみから解放すること……それが私の最善なんだ。それに……」
「それに……?」


慧音の問いには答えずに妹紅はさっきの輝夜の顔を思い出していた。
顔面蒼白でまるで、死んでいるかのように、この世の終わりでも見たかのようなあの表情。
いつも自信満々で人を小馬鹿にして、それでいて、世界で唯一、お互いに本気で殺しあえる相手……お互いに永遠の時を生きていける相手……。


(あいつの、あんな表情は……見たくない)


妹紅は廊下から外に出ると、振り返り、慧音にニッコリと笑って見せた。


「あんまり無茶はしないでね。慧音」
「……止めても無駄か……妹紅の方こそ、気をつけて……無茶はするなよ」
「大丈夫。アテがあるとは言えないけど、必ず、早急に解決してみせるから、必ずね」


そう言い切って頷いた妹紅に、慧音は微笑して見せた。
昔はもっと、他人に対しても冷めた感じで距離を取ろうとしていたのに……こんなにも他人の為に何かしようと考えるようになったのかと……。
一体、誰の影響か……まあ、輝夜に対する対抗意識も無くはないだろうが良い傾向だ。
妹紅は一度、輝夜の部屋の方を見たが、ふわりと宙に浮くとそのまま、永遠亭の壁を越えて飛び、竹林の上を滑るように飛び去っていった。


「妹紅……気をつけて……」


慧音は、その後ろ姿を見ながら呟く。
その時、慧音は気がつかなかったが、輝夜の部屋の襖が開き、輝夜がそこからじっと見送っていたのである。
やがて、妹紅の姿が見えなくなると、輝夜はゆっくりと目を閉じ、何かを考えながら、静かに襖をしめたのだった。







==続==
最初から長くて読みにくい……東方初心者なのにこのノリは無い気がするけども……
放浪の旅と暇な時間をどうにか何かして潰そうかと考えているうちにここにたどり着きました。
何かと東方の知識レベル的にも初心者ですが、肌寒い眼で見守ってください。

長期にする場合の、前の話へのリンクの仕方が分からないという懸念があったりなかったり……とりあえず、ノンビリといきたいと思いますので宜しくお願いします。
双蓮
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コメント



0.110簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
続きより先にちゃんとした推敲を。誤字脱字変換ミスなんでもござれで見るに耐えません。
4.60名前が無い程度の能力削除
二次創作なのに作者の我が強すぎる。

どんな展開になるかは分かりませんが、東方の名の付いた別の物にならないことを祈ります。
5.60名前が無い程度の能力削除
×幻想卿→○幻想郷
よくある誤変換だ、気を付けろ!

連載ですとこれくらいの分量があった方が読みやすいですよ。これからの展開に期待しています
6.20名前が無い程度の能力削除
今後叩かれても書き続ける努力をしてください
それしか言えないです
8.70名前が無い程度の能力削除
“この手の作品”にしてはかなりマトモじゃねーですか。こう、キチンと面白い作品を作ろうとしてる気概を感じる。

だが残念かな。ここ創想話では、“この手の作品”ってだけで拒否反応、またはスルーされることが多々、いや大多数と言っても過言ではないのです。

郷に入れば郷に従えと言いますが、この作品を投稿され続けるとなると、ハッキリ言って辛すぎる道のりになると言わざる負えません。

作者さんが悪いんじゃないんです。需要と供給の問題なのです。どんなに腕の良いセールスマンだろうと、北極でアイスを売るなんて出来やしません。

それでも売ろうとするとなると、圧倒的を圧倒的に超えたセールストークを修得するか、凍え死んでも良いから食べたくなるような超絶美味なアイスを提供する他ありません。

んなもん無理でしょう。失礼ながら駆け出しの未熟な作者さんには。



SSを投稿する場はここだけではありません。探せば他に、作者さんが投稿するSSに共鳴する投稿サイトは必ずあります。

それでも茨の道を行くと言うのなら止めません。が、楽しいSSライフを送りたいと思うならば一度ご検討なさると良いかと思われます。