Coolier - 新生・東方創想話

深海船長と大空大輪

2012/06/01 23:15:21
最終更新
サイズ
14.54KB
ページ数
1
閲覧数
1354
評価数
7/20
POINT
1310
Rate
12.71

分類タグ


 とある海辺のとある村に、とある少女が住んでいた。

 父は村で最も腕利きの船乗りで、母は病で床に伏せている。少女は家族には内緒で毎日の様に貝殻を採りに磯へと出掛け、採ってきた綺麗な貝殻を紐で繋げて首飾りを作ろうと計画していた。毎日毎日変わらぬ景色を見て、変わらぬ生活を送る少女にとって、この日は革命的だったとも言えるだろう。


 その日は随分と晴れていた。程好い暖かさの春の事、水仙の柄が入った蘇芳色の薄物を着た少女は慣れた動作で岩から岩を飛び移り、何時も足を運んでいる磯へと向っていた。貝殻を拾いながら聞く波の音が心地良い。果てし無く広がる蒼々たる大海原は宝石の様で、時折白波が立っている。近くには大岩があり、其処に立って拝む景色は彼女のお気に入りである。
 しかし、今日は先客がいた。薄紫色に見える綺麗な髪を一つに結った、年端が同じ程の少女。異人の様に整った顔立ちに、白地に藍色の柄の入った洋服を着ている。何処となく気品を感じさせる少女は視線に気付くと、あっ、と小さく驚いた声を上げた。薄物を着た少女はその少女の元に駆け寄り、きらきらと輝く笑顔で声を掛ける。

「何してんのー?」

 話しかけられた少女は海を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。

「……海、キレイだなって」
「えへへ、こっから見える海はカクベツよ」
「その、あなた…だぁれ?」
「私、村紗水蜜。あんたは?」
「雲居、一輪」

 いい名前ね、と言いながら水蜜は、さも楽しそうに一輪と名乗った少女の手を掴み満遍の笑みを浮かべた。その笑顔につられて、水蜜のペースに飲み込まれつつある一輪も微笑む。
 岩の上に座る二人の頭上を飛ぶウミネコの鳴き声と小波の音が響く。それに硝子みたく透き通る様な声を混ぜたのは一輪だった。

「水蜜はお嬢様なの?」
「そうよ。私の父上は村で一番の船乗りだもの」
「なら人気者なんでしょ?私と違って、お友達いーっぱい居そう」
 
 その言葉に水蜜の表情が曇った。一輪は何かマズい事を言ってしまったのではないかと焦る。重い空気の中、水蜜は小さく溜息を吐き、水平線を見据えた。その先には漁船が一隻。

「友達が居たら、こんな所に一人で来ないわ」
 
 そう洩らした水蜜の横顔は何処か切なげで、それでいて何かを割り切っている様だった。海風が二人の間を通り抜ける。

「村の子は私に近付かないのよ。まぁトーゼンよね、身分が違うもの」

高慢で、傲慢で、自分の立場を鼻に掛けた言い方。一輪は苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

「それより一輪はどこに住んでるの?この村の子じゃないでしょ?」
「私?私はここからちょっと歩いたところにある小屋に、命蓮様と一緒に居るの」
「みょーれん?」
「うん。すっごいえらい人よ。私はよく知らないけど、水蜜の住んでる村に用事があるんだって。だからしばらくはこのあたりに居るかも」
「そっか。そしたらまた会えるね」

 水蜜は、へらりと嬉しそうに笑う。そんな会話をしている内に、先程迄の天気とは裏腹に青かった空は水平線の向こう側から段々と鉛色に変わりかけていた。風が強くなってきて、海鳴りがする。直に嵐が来るだろう。

「私そろそろお家に戻るね、一輪も嵐が来る前に帰ったら?」
「うん、わかった…水蜜は明日もここに来るの?」
「雨が降ってなかったら。だから一輪も明日またここに来てよ、もっと一輪とお話したい!」

 私も、と答えた一輪と水蜜は最後に笑い合い、手を振って別れた。



 水蜜の帰宅後、一気に嵐はやってきた。滝の様に流れる雨と、戸を揺らす風は夜になっても治まる気配はなく、それどころか一層強まっている気さえする。狭い部屋の中で水蜜は一輪の事だけを考えていた。彼女の声は綺麗だなぁ、何をするのが好きなんだろう、私とお友達になってくれるかな――考えたら切りが無い。
 一方の一輪も、同じ様に水蜜の事を考えていた。各地を転々としている彼女にとって、同じ年端の話し相手は居ない。だからこそ水蜜と会えた事を、水蜜以上に喜んでいる。何時もと違ってちょっとそわそわとしている一輪に、命蓮は何かあったのかと訊いてみると、一輪は無邪気な顔で唯笑いかけた。


 後日、昼を過ぎた頃に漸く雨は止んだ。ムシムシとした空気は酷く不快で、汗ばむ身体に薄物が張り付き水蜜は溜め息を吐く。下駄をからんころんと音をたてながら歩く水蜜と擦れ違った子供数人は、振り返って彼女の小さな背中を見ながら話を始める。

「あっ…村紗だ。今日も海辺に行くのかな、独りでいっつも何してるんだろ」
「いいじゃん、ほっときなよ。あんなワガママなヤツなんかとは遊びたくないし」
「ちょっと家がユウフクだからって調子乗りすぎだよな。行こうぜ」

 その会話が水蜜に聞こえていたかと言えば、勿論聞こえていた。しかし水蜜は表情を一切変えずに歩き続ける。何時もの事ね、と内心呟きながら。

 海辺まで歩くと、潮の香りが彼女を迎えた。きょろきょろと辺りを見回すと、昨日の変わらない服装の少女が一羽のウミネコと睨み合いをしている。水蜜は大きく息を吸い少女の名を呼ぶと、ウミネコが飛び立つのと同時に少女は声のする方を見て、あからさまに嬉しそうな面持ちに変わった。

「水蜜!」
「へへー、待った?」
「ぜーんぜん、今さっき来たの。ねぇ、今日はあっちの方行ってみたい!砂浜!」
「いいよ、案内してあげる!」

 どちらからとも言わず手を繋いで顔を合わせてはにかみ、一輪の言う“あっち”の方向に歩き出す。岬に立つ灯台が近くに見えてきた所で不意に水蜜は一輪の手を振り解いて少し離れた所まで走って行き、しゃがむ。一輪も後を追い、水蜜に合わせてしゃがみ込むと、何かが水蜜の手に握られている。貝殻だ。

「わあ…キレイ……」

 白く、傷一つ付いていない貝殻を見て一輪は思わず声を上げた。よくよく辺りを見れば、同じ様な貝殻が沢山落ちている。水蜜は落ちている貝殻を次々と拾い上げ、その小さな手ではとても持ち切れなくなっていた。

「そんなに集めて何するの?」
「えへへー、一輪には内緒よ!」

 何でー、と不満を含んだ声色でぼやく一輪を横目に悪戯っぽく水蜜は笑った。


 山間に日が掛かる頃、水蜜は一輪と別れて帰路に着いていた。彼女にとっては小さく粗末な家からは晩餐の良い匂いが漂ってきて、ぐう、と腹が鳴る。早足に変わった水蜜の手から貝殻が幾つか落ちた。

「あっ……」

 拾おうとしても両手が塞がっていて拾えない。どうしよう、と拾えない事と空腹から半ば泣きそうになっている水蜜の元に、向かい側から袈裟を着た僧が歩み寄ってくる。僧は貝殻を拾い、水蜜の手に乗せた。

「…ありがと、ございます」

 笠を指で目だけが見える位置まで上げ、にっこりと笑みを浮かべた若い僧は笠を再び目深に被り直してから一礼をして去っていき、水蜜は不思議な雰囲気を醸し出していた僧の背中が見えなくなるまで見詰めていた。
 水蜜が帰宅すると、病で床に伏せていて動く事すら困難な筈の母が彼女を出迎えた。母曰く、僧侶様が魔法をお使いになられたのだとか。水蜜の脳裏には先程の僧の姿が浮かんでいた。



 ある日の事、二人は同じ海辺の砂浜で、砂で山を作って遊んでいた。掘っては崩れる穴を何とかして開通させようとしている一輪の手が不意に止まる。

「………あのね、水蜜に言わなきゃならない事があるの」
「どしたの?変な顔して」
「明日、この島を出るわ。命蓮様の用事が終わったらしくって信濃の方に行かなきゃいけなくなっちゃった」

 水蜜の手も止まった。驚いた、と言うより至極悲しそうな顔をして首をゆるゆると横に振る。

「え…やだよ……そんな、急すぎない…?」
「ごめんね。でも、必ずまた会いに来るから…それまで待っててくれる?」
「やだ。いやだ!私も一緒に行く!」

 水蜜は幼子が駄々を捏ねる様に嫌々といい続ける。一輪は、水蜜が一度言い出すと他人の話を聞かなくなるのを知っていた。だからこそ、あえて突き放そうとした。

「この際だから言わせて貰うけど、私、水蜜のそういうワガママな所大ッ嫌い。だから友達できないんでしょ?」
「……………」
「身分が違うから村の子が寄ってこないって前言ってたけど、そうじゃなくて性格に問題があるからじゃない」

 鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしている水蜜を、哀れみの意を込めた眼差しで見詰めて、一輪は言った。手に付いている砂を落とし、一輪が立ち上がる。

「明日、卯の刻には舟に乗らなきゃいけないからもう帰るね」

 踵を返して去って行く一輪を呼び止める事もせず、水蜜は唯々呆然と座り込んでいる事しか出来なかった。
 そして翌日の卯の刻、村の岬に命蓮と一輪は居た。荷物を積み込み、もう何時でも出航出来る状態である。一輪は浮かない表情をして、何度も何度も村の方を見ていた。

「心残りでもあるのかい?」
「いえ…その……」

 命蓮の問い掛けに曖昧に返事し、小さく息を吐く。波の音だけが岬に空しく響いている。
そんな静寂を、下駄の音が引き裂いた。蘇芳色の水仙柄の薄物を着た、見知った顔が息を切らしながら駆けてくるのが一輪の藤色の目に確かに映った。

「水蜜…?」
「ごめん!もう私の顔なんて見たくなかっただろうけど、伝えたい事があって」

 水蜜は肩でしていた呼吸を整え、一輪の目をしっかりと見詰める。今まで見た事のない、彼女の真面目な顔付きに、息を呑む。

「私、自分でもわかってた。高慢でワガママばっかり言ってるから友達ができないんだって。人に上手く自分の気持ちを伝えるのが苦手で、恥ずかしくって…でもちゃんと直すようにするから!だから……その時は、私と、友達になってくれる…?」

 最後は目線を逸らして、やや口篭っていたが、彼女にとっての言いたい事はきちんと伝えた。一輪はくすりと微笑む。

「ばかね、私はもう水蜜と友達だって思ってるわよ」

 それを聞いて口を結んで、俯いた水蜜の薄物に雫が落ちて染みを作る。一輪の目元にも、涙が浮かんでいた。

「なぁに?水蜜ったら泣いてるの?」
「一輪だって私の事言えないじゃないのよ…っ」

 ぐすぐすとしゃくり上げながら、水蜜は手に持っていた白い物を、もう片方の手で涙を拭きながら渡す。それは何時しか海辺で拾った貝殻に、穴を開けて組み紐を通した貝殻の首飾り。

「これって…」
「あの時の貝殻で作ったの。ほんとは自分がつけるために作ったんだけど…一輪の方が似合うよ」

 つけてみた首飾りはちょっと大きめで歪だったが、一輪はそれを凄く喜んだ。
 出航の時間が迫る。既に舟に乗っている命蓮に名を呼ばれた一輪は水蜜に、またね、と伝えて舟に乗り込んだ。船頭がゆっくりと舟を漕ぎ始め、ある程度遠くなった所で、水蜜は舟にむかって叫んだ。

「私、一輪がまた来てくれるの待ってる。いつまでも、ずっと、ずーっと待ってるから!」

 一輪が手を振り替えしてくれたのを水蜜は確認すると、もう泣くまいと決めていた筈なのに堪え切れず止め処無く涙が溢れた。






***********************

 その後、長い年月が流れた。二人の少女は片時も互いの事を忘れる事は無く再び会える時を夢見ていた。彼女等の齢が十七を超える頃、水蜜の元に一通の手紙が届いた。達筆で、奥床しい文章だ。

 「拝啓、村紗水蜜様。紫陽花が大輪の花を咲かせる頃となりましたが、いかがお過ごしですか。私は今信貴山に建つ寺に居ます。此処での生活は悪くはありませんが、幼い頃に貴女と見た海が恋しくて仕方ありません。
別れ際に交わした約束は覚えていますか?少しは素直になれましたか?貴女を想うと胸が苦しくなります。もう一度声が聞きたい。この手紙が届く頃、其方に伺います。例の海辺で待っていて下さい。敬具 雲居一輪」

 水蜜はその手紙を折り畳み、懐に仕舞って息を吐く。

「まるで恋文じゃないの…それにしても急ね、全く」
 
 今昔と比べ少しだけ変わった海辺の景色を眺めながら水蜜は呟く。潮風が彼女の黒髪を弄ぶ。ウミネコの居なくなった海辺は物悲しく、岬は廃れ、大規模な災害と飢饉で村人は減ってしまった。
波で削れた大岩の上に薄物が汚れようと構わず仰向けになって空を仰ぐ水蜜の視界に、紫雲が映る。それと共に、紺色の頭巾を被った娘が顔を覗き込んできた。

「あら、お昼寝でもする予定だったの?」
「…一輪……?」
 
あれっ、うわ、えっ、と心底驚いた様子の水蜜は、そうよ、と笑いながら返した一輪の頬に両手を添えてぺたぺたと触ったり撫でたりを繰り返す。

「嘘……凄い美人さんになってる…私の知ってる一輪じゃないわ…」
「何言ってんの、水蜜も充分可愛いじゃない」

 お互い照れ臭そうに頬を紅潮させる。ふわりと飛んできた紫雲が一輪に寄り添ったのを見て、水蜜は些か眉を眉間に寄せた。

「それ何?雲?」
「見越入道。私が退治したらついて来ちゃった」
「妖怪退治なんてやってるんだ」
「偶々よ、偶々。……何かこの辺風景変わったわね」

 そりゃあ十年くらいは経ってるもの、と返す水蜜の目線は水平線を向いていて。漁船はもう、浮いていない。

「――ねぇ、一輪は大きくなったら何になりたい?」
「うん?…水蜜は?」
「私は…私は、海になりたい。だってほら、海は私に似て綺麗でしょ?」

 水蜜の性格は十年近く経っても何一つとして変わって居なかった。これも彼女らしさか、と半ば諦め気味に、水蜜に悟られないよう溜息を吐く。海を見る彼女とは対照的に一輪は空を見上げる。

「なら、私は雲になるわ。それで水蜜の事をずっと見守っててあげる」

 何時しか貰った貝殻の首飾りが、風に揺れてからりと音をたてた。



 冗談で話していた事が、まさか本当になるとは誰も思っていなかっただろう。久し振りに顔を見せた一輪は再び寺に戻ってから、あまり連絡を寄越さなくなり、その間に色々な事があった。
 命蓮が死に、その姉は死を恐れたが為に、己が死なない様魔術や妖術の類に手を出し、妖虎は毘沙門天の弟子となり、そして―――


 命蓮亡き後は、姉である白蓮に帰依している一輪は何時も通りに寺で修行に励んでいた。齢は二十歳を越えた頃の事。白蓮は数日間寺を空けると言い、隠岐の方面へと出掛けて行った。何でも妖怪が悪行を働いるから退治して欲しいと依頼が来たらしい。白蓮は、表では妖怪退治を依頼されていても裏では妖怪達を助けていて、今回も助けた妖怪を連れてくるのだろうと考えつつ、一輪は参道の掃除をしていた。隠岐と言えば、彼女の古い友人が居る。全く連絡を取らなくなっていた事を思い出した一輪は久々にまた手紙でも出そうと決めた。
 確かに白蓮はとある妖怪を連れて寺に帰ってきた。白蓮の傍らに居る、水に濡れた娘の妖怪を見た瞬間に一輪の心臓が跳ね、呼吸が一瞬止まる。記憶の隅に残る蘇芳色の水仙柄の薄物に、海風に揺らされていた黒髪に、笑顔がよく似合っていた顔に――その娘は紛れもなく村紗水蜜であった。
 一輪が彼女の名を呼んでも、深海を想起させる光の届かない深い緑色をした瞳は此方を向く事はなく、譫言のように何かを呟いている。何より一輪が絶望したのは、水蜜が最後に自分が見た時の姿のままであった事だ。後程白蓮に話を伺うと、寺に居る友人に会いに行こうと舟に乗っていた所、気の狂った船頭に腹部を刺され、暴れた船頭の所為で舟はバランスを崩し転覆してしまい、未練から成仏仕切れずに舟幽霊となってしまったそうな。
 一輪はそれを聞いて酷く後悔した。わざわざ私の元に来るが為にそんな事になってしまい、償いたくても償えないと。

「友とは、こういう時に傍に居てあげる存在ではないでしょうか?ムラサの傷を癒せるのは一輪…貴女だけです」

 白蓮は一輪の頭を頭巾越しに撫でてやると、泣きじゃくりながら一輪は頭を何度も何度も縦に振った。

 永い間孤独だった水蜜の傷を癒やすのは簡単ではなく、白蓮以外が彼女に割り当てられた部屋に入ろうとすると威嚇をするし、必要以上に近付こうとすると本気で殺そうとしてきたりと、過去に遊んだ仲であっても容赦無かった。それもその筈で、彼女の溺死する前の記憶は綺麗さっぱりと消えていたようだった。一度リセットされた関係が、ある程度修復されたのは、一輪が妖怪と化し、白蓮が封印されて二人が地底に封印されてからである。



***********************

「……り…」

「い…り」

「一輪!朝だよ!」

 頬に走る僅かな痛みと冷たさで一輪は目を開けた。呆れ顔の水蜜に頬を軽く叩かれていたのだと理解する頃には、彼女は鏡を見ながらセーラー服のスカーフを整えている。ボロボロの薄物だと恥ずかしい、という事で何処からか白蓮が調達して来たセーラー服を纏う姿はこの上なく決まっていた。

「魘されてたけど大丈夫?」
「ん、うーん…昔の夢見てたみたい」
「夢ぇ?珍しいね一輪が夢見るなんて」
「……そうね。姐さんもう起きてるの?」

 錨の模様の入った帽子を被り、顎に手を当ててニヤリと笑ってから水蜜は襖を開けに歩く。

「とっくに起きて説法してる。あっ朝ご飯昨日のカレーの残りね」
「はいはい、後アンタはいい加減カレー以外の料理覚えなさいよ」

 余計なお世話ですー、と舌を出して茶化す水蜜の頭を小突いた一輪はいそいそと着替えを始めた。朝日が目に眩む。他愛ない話をしながら着替える一輪を、水蜜は胡座をかきながら待つ。

「食べたら一緒に出掛けましょうか」
「えー、何処行くのよ」
「湖なんてどう?」

 普段着に着替えて髪を結い、頭巾を被った一輪は水蜜と共に部屋を出ようと数歩歩んだ所で、何かを思い出した様に部屋に戻り棚を漁る。小さな箱を開けて取り出したのは、白い貝殻の首飾りで。大きすぎず、丁度良い位置で胸元を飾る首飾りを見て、水蜜が言葉を紡ぐ。

「それいっつも付けてるよね、気になってたんだけど何なの?」
「これ?これはね……」


Deep sea captain AND sky flower.
(私の大切な人から貰った宝物よ)
初めまして、ねるがると申します。お読み頂き真に有難う御座いました。我輩は普段はあまりこういった場に投稿せず、完成した作品は倉フォルダにぶち込んで人目に付かぬようにしてるようわからん種族でして、これが初投稿となります。
6月1日はムラいちの日って事で、お蔵入りしていたプロットを掘り出して書いた次第です。しかしこのザマである。
やや説明不足というか付箋回収が出来ていないというか、あれっ?ってなる所があったりするので、その辺はまた別の話で書いていきたいぞなもし。
それではまた、御縁があったら生暖かい目で見てくださいな。


致命的な誤字を見つけてもう穴があったら入れたいでしゅう…修正しました@6/4
コメントジェットストリーム有難う御座います、お返事は近い内に…
ねるがる
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.650簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
うむむ、いい話じゃないか。
下手に凄惨な心象風景を描写されるよりも、淡々と物語が進行してしまっているこの感じは好みだ。
ムラいち好きにはさらに堪らないね。
是非続きをお願いしたいところ……でも伏線ならぬ付箋は回収しなくて良いかなw
4.90奇声を発する程度の能力削除
この二人のこの距離感が良いですね
8.100名前が無い程度の能力削除
ああ、こんな過去も良いものですね
最後がね、もう…
9.100愚迂多良童子削除
ああ、これは切ない・・・
いつか思い出す日が、来るといいなあ。
15.100名前が無い程度の能力削除
割と大変なことを淡々とした口調で語るのが、人生の先輩から回想話でも聞いているような感覚を受けまして
切ない話でも爽やかな読後感でした
17.100名前が無い程度の能力削除
切なくて素敵なムラいちでした。
ありがとうございました。
18.70名前が無い程度の能力削除
普通に良かった。別の作品も読んでみたいですね。