Coolier - 新生・東方創想話

さとりたんじょうび

2012/05/31 14:54:02
最終更新
サイズ
19.67KB
ページ数
1
閲覧数
1191
評価数
13/30
POINT
1480
Rate
9.71

分類タグ


「ハッピーバースデートゥーユーハッピバースデートゥユー♪」

 今日はおねぃちゃんの誕生日パーティー。おねぃちゃんの何回目になるのかか分からないけれど、とにかくおねぃちゃんの誕生日パーティー
 いつもわたしはおねぃちゃんに苦労ばっかりかけちゃってるから、せっかくの記念の日、一生懸命準備してみたよ。
 旧地獄街道でちょっぴり高めのお店を予約して、誕生日ケーキもわたしが口を出させてもらった特別性のとびきり美味しいやつ。
 おねぃちゃんは少し人見知りなところがあるから、パーティーの参加者はおねぃちゃんに自分で選んでもらったんだ。本当はサプライズパーティーにしたかったんだけどしょうがないね。 

「ハッピーバースデートゥーユーハッピバースデートゥユー♪ ハッピバースデーディアおねぃちゃーん♩ ハーピィバースデートゥーユー。おめでとー」

 わたしはパチパチパチと手を打って場をいっしょうけんめい盛り上げる。

「さぁ、おねぃちゃん。ケーキのロウソクを吹き消してー。ほら、ふーって」

 だけど、おねぃちゃんは難しい顔したまま動いてくれない。

「あれーどうしたの~おねぃちゃん。そんなしょぼんとしちゃってー。今日はおねぃちゃんの誕生日なんだからもっと盛り上がっていこうよ~。ほら、ケーキもおいしそうだよー。わたし早くたべたいよー。ほら、はやく吹き消してー」

 そしたら、おねぃちゃんがゆっくりと私の方を向いて、

「いや、だって……」
「うんうん。今日はおねぃちゃんが主役なんだから、なんでも言ってー」
「私、一杯誕生日会の招待状送ったのに……なんでこいししか来てないのかしら?」

 あっちゃー、やっぱり気付かれちゃったかー。もしかしたらおねぃちゃんに気付かれないまま最後までいけるかな~っと思ってたけど、流石にこれだけの広間に二人しかいなかったら分かっちゃうよね。

「貴女に言われたから勇気を出して招待状を送った星熊さんも水橋さんも、博麗の巫女や霧雨さんも皆来てくれるって言ってたのに……なんでこいししか来てないの? というかお空やお燐すら居ないじゃないの」
「ほら、みんなにも色々理由があるんだよ」
「理由ってなによ? こいしは知ってるの?」
「うん、わたしはよくお外に遊びにいってるから、何人かからは伝言を頼まれてるよ」
「伝言?」
「うん。あのね、お燐だけど、風邪をひいてるみたいだったからわたしがお医者さんのところに連れてってあげたよ」
「え、お燐が? そんな素振り全くなかったのに……」
「あと、お空はお友達の烏さんが倒れちゃったからずっと付き添いで看病してたいんだって」
「それも知らなかった……」

 あはは、おねぃちゃんは動物のこと可愛がってるようで実はあんまり気にしてないんだね。
 私ですら知ってることなのにご主人さまのおねぃちゃんが知らないなんておかしなお話。

「そ、それなら二人は仕方ないわね……」
「うん。二人ともおねぃちゃんに行けなくてごめんなさいって言ってたよ」
「なるほど。お燐とお空に関しては分かったわ。じゃあ他の人は?」

 こういう時に、じゃあパーティーは中止してお燐のお見舞いに行きましょうとか言えないからおねぃちゃんはいつまで経っても動物以外のお友達ができないのにね。
 もう、しょうがないおねぃちゃんだね。

「そうだね、赤と白の霊夢ちゃんが…………」
「うんうん、その言い方だと博麗さんが二人いるみたいね。で、博麗さんはどうして来ないの?」
「なんかダルいから今日はパスだって」
「ダルいってなによ! え、え、なんで?」
「ま、しょうがないよね」
「しょうがなくないわよ! 全然しょうがなくないわよ! 徹頭徹尾もしょうがなくないわよ! え? じゃ、じゃあなんであの子は参加するって言ったのよ?」
「ほら、よくあるよ。前の日まで行くつもりだったけど、いざ当日になるとなんかメンドクサクなること。そんな感じ?」
「どんな感じよ!? 一体全体どういう感じよ。確かにあるわよ? そういう風になっちゃうことあるよ? けど、せめて私の誕生会くらいは頑張りましょうよ。さり気なく結構気合い入れてた私が恥ずかしいじゃないの!」
「確かにおねぃちゃん、今日はいつもより良い服きてるね」

 いつもは誰にも会わないからって適当に同じような服ばっかり着てるおねぃちゃん。一応毎日着替えてはいるらしいけど、わたしにはよくわかんない。
 なのに今日は妙にぴしっとして綺麗な服を着てる。素敵なおねぃちゃんがもっと素敵に見えるよ。頭にもピカピカした髪飾りついてるし、引きこもりのおねぃちゃんがいつ買ったんだろうね。

「誕生日だからね。似合ってるわ、おねぃちゃん」
「な、の、に~……なんで貴女はパジャマなの!? 参加者があんまり少ないから突っ込まなかったけど、もう突っ込んじゃうわよ。なんで貴女はパジャマを着て姉の誕生日パーティーに来てるの!?」
「えへへ、可愛いでしょ? このパジャマ」
「ええ、確かに可愛いパジャマね、こいし。でも、今話してるのはそういうことじゃなくてね……」
「ごめんね、おねぃちゃん。朝起きたら時間ギリギリでさ。せっかくのパーティーに遅刻したらおねぃちゃんに悪いと思って」
「だから寝間着のまま来ちゃったんだ?」
「うん」
「貴女のその気遣いは嬉しいけどね。やっぱりちゃんとした服装できてほしかったな」
「けど、もしわたしが遅刻してたらパーティーに誰も来なくて、おねぃちゃんはひとりぼっちで、お店の人から可哀想な目で見られることになってたでしょ?」
「正直すでに見られてるけどね!『8人で予約だったのに2人しか来てない。なにかしらあの子たち』ってさっき店員さんが思ってるのをサードアイで聞こえちゃったからね! 『おねぃちゃん誕生日おめでとう』の垂れ幕が目立って目立って恥ずかし過ぎるわ。言葉には出さないけど、私たち周りのお客さんから散々に思われてるのよ? もういいわ。他の人はなんで来ないの!?」

 もう……声が大きいなぁおねぃちゃんは。いつもボソボソと喋るのにこういうときだけ早口で耳にひびく声を出すんだから。
 もう少し落ち着いて話してほしいな。

「魔理沙ちゃんは急に別の用事ができたから来れなくなっちゃったって」
「そう、まぁ、それなら……」
「河童のにとりちゃんの誕生日パーティーに行くんだって」
「……………………ええ、私だって分かってるわよ。霧雨さんにとって、私より河城さんの方が近しいお友達だってことくらい。というかそもそも霧雨さんにとって私は友人なのかも怪しいけれど。だけど、だけど、だけどやっぱり直接に取捨選択されると心に来るものがあるわ……」
「そだね~」

 わたしは適当に相槌をうってみた。あんまり意味のない相槌。

「後の人はわたしもまだ理由聞いてないかな?」
「そうなの……星熊さんと水橋さんはなんで来ないのよ、もう……」

 おねぃちゃんはすっかり落ち込んでしまっているみたい。なんでだろうね?
 その時、私のポケットから振動がぶるぶると伝わってきた。確認してみると、それは一枚のオフダ。
 これは確かいつの間にかわたしのポケットに入ってた”ツウシンフダ”とかいうやつ。多分わたしがどこかへ遊びにいったとき誰かにもらったんだろうね。
 これに声をあてると遠くの人とお話できる便利なオフダ。それが振動しているってことは誰かが私とお話したいと言っているってこと。
 さっそくオフダに耳と口をつけておしゃべりをしてみる。もしも~し。

「あ、パルゥスィちゃん」

 オフダの向こう側は水橋パルゥスィちゃんだった。

「え、水橋さん!? こいし! なんで私の誕生日会に来てないのか、ちゃんと理由を聞いて頂戴!」

 おねぃちゃんがその会話相手に反応して食いついてきた 。おねぃちゃんは私がパルゥスィちゃんとおしゃべりしてる最中だっていうのに大きい声で私に声をぶつけてくる。迷惑なおねぃちゃん。
 それにしてもおねぃちゃんは来ない理由にとても拘ってるね。来ない人は結局来ないんだから理由なんてものを気にしててもしょうがないのにね。細かいおねぃちゃん。
 だけど、わたしはおねぃちゃんのそんなところが好きなんだけどね。
 わたしはおねぃちゃんに「わかった」と言ってパルゥスィちゃんとの話を続けた。

「あ、パルゥスィちゃん、ごめんね。それで、なにやってるの? なんで誕生会来ないの? おねぃちゃんとっても怒ってるよ? うん、鬼みたいになってるよ! うん、うん、それでなんで来れないの? え、勇儀ちゃんと? 今日? じゃあ上手くいったんだ。すごーい。うんうん……これから地上に? 二人っきりで? あーなるほどー。おめでとう、良かったじゃない。。パルゥスィちゃんずっと前から勇義ちゃんを誘おうとしてたもんね。そんな照れなくてもいいよ。うん、分かった。じゃあこっちでは上手く誤摩化しとくから……大丈夫任せて。おねぃちゃんはわたしの言うことはぜったい信じてくれるんだから。わかった。じゃね。デート頑張ってね。ふふっ……………………おねぃちゃん聞いて、パルゥスィちゃんはおばあちゃんが急に倒れちゃって来れないって」
「…………全部聞こえてたわよ」

 おねぃちゃんがすごい怖い顔でわたしを睨んでいた。
 
「パルゥスィちゃんは分かったけど、勇儀ちゃんはなんで来れないんだろうね?」
「今から水橋さんと地上に遊びに行くからでしょ!!」

 いよいよもっておねぃちゃんが恐ろしい形相になっていた。そっか、いまパルゥスィちゃんが勇儀ちゃんと地上に行くって言ってたもんね。やっぱりパルゥスィちゃんに二人分の招待状を渡してたのはダメだったかな? けどしょうがないね。
 わたしはおねぃちゃんの肩を両手で抱いて、落ち着かせてみようと試みる。

「まぁまぁまぁ、せっかくの誕生日にそんな怒ってちゃ損だよ、おねぃちゃん」
「誰のせいで怒ってると思ってるのよ!」
「わたしのせいではないよね?」
「う……た、確かにこいしはこのパーティーをひらいてくれてたし、ちゃんと来てくれてる……」
「そうそう、わたしがいるじゃない。今日は来なかった人を羨ましがらせるくらい楽しんじゃおうよ」
「そ、そうね。うん、ありがとう、こいし」

 そう言っておねぃちゃんは今日初めて笑ってくれた。
 やっぱりおねぃちゃんは笑っている顔が一番似合っている。いや、怒ってる顔も素敵だから簡単には一番は決められないかな。

「じゃあさっそく何かやろうよ、おねぃちゃん。実はね、わたし今日はパーティーゲーム持ってきたの」
「まぁ何かしら? 遅刻しそうになってたわりには気が利くじゃない」

 おねぃちゃんがじゃっかん毒を含んだことを言っているけど、特に気にせず鞄の中から一つ箱を取り出す。
 人里に遊びに行った時、パーティーならこれがいいよと小さな女の子から借りたやつ。
ちゃんと遊び方も教わったんだ。

「ほら、ツイスターゲーム」
「…………ツイスターゲームって、あれよね。ルーレット回して色を選んで参加者がくんずほずれつのドキドキゲームよね?」
「うん」
「女二人、しかも姉妹でそんなのやって何が楽しいのよ。女姉妹でくんずほずれつでドキドキって、そこまで私はロックには生きてないわよ」
「おねぃちゃん、ツイスターゲーム弱そうだもんね。じゃあ、王様ゲームでもやる?」

 これも里の男の子からパーティーでとっても盛り上がると教わったやつだ。そんなおませな男の子は私の友達の一人。
 男の子も女の子も、そのうちわたしに気付かなくなっちゃうんだろうけど、今だけは友達なの。

「おーんなー姉妹がたった二人で王様ゲームやーってー。何が楽しいのよ! あれかしら? 一番が王様にキーッス♡とかやるの? そんなのおかしいわよ!」
「おねぃちゃんは文句が多いなぁ。何様のつもりなのかな? あ、そうか王様のつもりなのか。もう、おねぃちゃん、王様気分になるのはくじの後だよ?」
「ちがうわよ!………そうよ、私は誕生会の主役様よ! 今日は誰しもが一年に一度主役になれる日なのよ! だから今日は私が一番なの!」
「おねぃちゃんが一番なら、わたしは王様ってことかな?」
「だまらっしゃい! とにかく、今日はもっと私をたてなさい、こいし!」

 おねぃちゃんが開きなおってわたしに言ってきた。おねぃちゃんの言い分は少し乱暴だけど、確かにわたしもそう思う。誕生日はなにもしないでもその人が主役になれる、とっても素敵な日。おねぃちゃんが怒るのも無理はないかも。
 だけど、わたしはそんなことよりも、おねぃちゃんが顔を真っ赤にして怒ってるのがおかしくっておかしくって堪らなかった。
 いつもはおしとやかっていうか、物静かなおねぃちゃんが両手をぶんぶん振ってプンスかさせているのはすごく愉快な光景に見える。

「うひひ、おねぃちゃん、顔真っ赤」
「~~~っっ……う、うっさい。もういいわよ。今日はもうお開き! 誕生会はおしまい! 私、帰る……」

 思わず頭に中のことを声に出してしまったら、おねぃちゃんはとうとう涙目になっちゃった。あらら。
 このままじゃあこの楽しい時間も終わっちゃうよ。それはちょっと嫌だな。
 なので、わたしはこのパーティの最後の切り札を出すことにした。

「待っておねぃちゃん」
「うう、ぐすん……なによ……」
「実はね、今日はおねぃちゃんのためにプレゼントを買ってきたの」
「………うそ」

 おねぃちゃんは赤くなった瞳を手で拭いながら、ちょっとだけわたしに興味を戻してくれた。
 わたしは自分の鞄の中から金色のリボンでまかれたプレゼントの箱を取り出した。
 それを見てちょっとだけだけど、嬉しそうにしてくれるおねぃちゃん。
 そして、わたしはその箱をそのままおねぃちゃんに手渡した。

「あのね、おねぃちゃん。今日はおねぃちゃんのことを一杯怒らせちゃったけどね。本当は本当におねぃちゃんのこと、いつもいつも、とってもとってもありがとうって思ってるんだ。今日は怒らせちゃってごめんね。これ、里に行った時、一所懸命おねぃちゃんのために選んだんだ。これだけは誰にも相談せず、おねぃちゃんのことを想って自分で選んだんだよ? これ、使ってくれると嬉しいな」
「こいし……」

 やった、おねぃちゃんが喜んでくれてる。

「こ、こいし。これ、今あけていいかしら?」
「うん、もちろんだよ。むしろいま開けてほしいな」

 おねぃちゃんはそれを聞くと、そっと金色のリボンに手をかけて順番に袋を開けていった。
 おねぃちゃんはきっと中身を気に入ってくれると思うんだ。実はこの日のために、こっそりおねぃちゃんの欲しがってるものを聞いてたんだから。
 おねぃちゃんの欲しがってたものは地上ですぐに見つかったよ。あんまり高価なものを欲しがってたらどうしようかと思ったけど、わたしのお小遣いでも十分に買えるもので良かった。

「こいしのプレゼント、一体なにかしら?」
「ふふふ、それはねぇ~」
「あら待ちなさいな、こいし。中身を言うのは私が見てからよ」
「えへへ……がまんできないよ。あのねあのね、その中身はね~」
「ああ、もう、こいしったら」
「それはね、ノリだよ、おねぃちゃん」
「………………………え?」

 おねぃちゃんの箱を開ける手がピタリと止まった。あれおかしいな?
 わたしは慌てて自分の発言にフォローを入れる。

「あ、ちがうちがうよ、おねぃちゃん。そっちのノリじゃないよ」
「え、あ、ああ、そっちのノリじゃないのね。お姉ちゃんったら勘違いしちゃったわ」
「海藻の海苔じゃなくって、DeNAのノリでもなくて、紙とかを引っ付ける糊だよ、もちろん」

 そして再び固まるおねぃちゃん。
 わたしはそんなおねぃちゃんに対して、何かをするか、何かを言った方がいいのは分かったけれど、何をしていいか、何を言えばいいか分からなかったから、じっとおねぃちゃんを見ていた。
 そしてそれからちょっとして、おねぃちゃんは固まったままの表情でまた手を動かし始め、わたしのプレゼントの中身を取り出し、眺めた。
 オレンジ色した、ちょっと大きめの円錐型の物体。中には琥珀色の液体が入っている。
 それはわたしが里の文房具店で買ってきた糊だ。中身がたくさん入っていてお得らしい。
 おねぃちゃんはつい先週、地霊殿の糊が切れて困ったと呟いていた。
 だからわたしは糊を買ってきたんだけど…………う~ん、おねぃちゃんの顔を見てると、どうも違ったみたい。
 なんだか今日は、ううん、今日”も”かな? わたしはおねぃちゃんに上手くできないなぁ。
 わたしはおねぃちゃんにいつも心配ばっかりかけてるから誕生日こそは恩返ししたいと思ったんだけど、どうも残念なことになっているみたいだね。
 せっかく沢山の人を呼んだのに、わたしの他には誰もおねぃちゃんの誕生日を祝ってくれないし。
 せっかくパーティーを盛り上げるゲームを教えてもらったきたのにおねぃちゃんは気に入ってくれなかったみたいだし。
 せっかくおねぃちゃんが好きな果物を沢山入れてもらったケーキを用意したのに、ロウソクを消すのを忘れてて、すっかりロウだらけになってるし。
 せっかくおねぃちゃんの為に用意したプレゼントも何だかピントがずれてたみたいだしね~。
 まぁ仕方ないかな。わたしはわたしだし。おねぃちゃんはおねぃちゃんだし。
 いままでも大体そうだったし、今回もそうだっただけだもんね。

「おねぃちゃん、ごめんね。なんか違ったみたいだね。それはもう捨てていいよ。ごめんね、本当にごめんね」

 そうだ、誰かこの糊を必要としている人にあげてしまおう。捨ててちゃうのはもったいないからね。
 そう思って、わたしはおねぃちゃんが手に持っていた糊を取ろうとした。
 だけど、わたしはその糊を手に取ることが出来なかった。おねぃちゃんがその糊をしっかりと握って離さなかったから。
 わたしがおねぃちゃんの方に視線を向けると、その顔はにこりと笑顔だった。

「あら、どうして捨てる必要があるのかしら? 丁度いま糊が切れてて必要だったのよ。貴女から貰ったこの糊、大切に使わせてもらうわ」

 そういっておねぃちゃんはその糊をそっと箱にしまい戻してから、自分の鞄の横において、もう一度座席に座り直した。

「こいし、なにをぼーっと突っ立っているの? 早く座りなさいな。まだパーティーは始まったばかりよ?」
「え、だけどおねぃちゃんはもう帰るってさっき……」
「貴女のプレゼントを見て気が変わったわ。さぁ、早くケーキを食べましょう。私はまだロウソクをフーッと消してないわ。私、それが楽しみで昨日は寝れなかったくらいなんだから」
「でも……ケーキはロウソクでぐちゃぐちゃだよ?」
「そんなものロウのところだけ取ってしまえば良いでしょう? こんな美味しそうなケーキ捨ててしまうなんてもったいない。私の好きなリンゴやメロンが入っているみたいだし」

 わたしは少し面食らったけれど、おねぃちゃんがあんまり急かすものだからとりあえず座ってみた。
 それから改めてロウソクをお店の人から貰ってケーキに刺していった。おねぃちゃんの年齢はわたしにもおねぃちゃんももう覚えてないからとりあえず11本。そして順に火をつけていく。
 その様子を見るおねぃちゃんの顔は、なぜだか、うきうき顔でにこにこ顔だ。
 さっきと同じことをしてるのに、不思議。
 
「ねぇ、おねぃちゃん」
「なぁに、こいし? あ、火傷しないように気をつけなさいよ」
「あ、うん。それでね、なんでおねぃちゃんは笑っているの?」

 わたしは思っていたことをおねぃちゃんに聞いてみた。

「おかしなことを聞くのね。今日は私の誕生日パーティーなんだから楽しいのは当然でしょう?」
「でも、さっきまでおねぃちゃんは怒ってたよ?」

 わたしがそう言うと、おねぃちゃんは少し考え込んでから、

「それはね、こいしのプレゼントが私に思い出させてくれたのよ」
「思い出させたって……何を?」
「ふふ、大事なことをよ」

 そう笑っておねぃちゃんはケーキの取り皿とフォークを私の前に置いてくれた。

「誕生日だからね、お姉ちゃんもちょっと舞い上がっちゃって忘れていたわ。こいしはこいし、私の妹だものね……」

 それを聞いて、わたしはなんでだろうね? ちょっと胸の辺りがむずむずしてたんだ。
 少し懐かしくって、少し切なくって、それでそれでほんわりと温かくって。
 昔はよくこんな気持ちになってたんじゃないかって気がするよ。
 おねぃちゃんの嬉しそうな、楽しそうな顔を見ていると、わたしはおねぃちゃんの妹でいられてよかったなぁって思う。
 わたしが変なことをしてもおねぃちゃんはいつも優しい顔で許してくれる。
 わたしがずーっと外に遊びに行ってても、帰ってきた時には怒るんでもなくって「おかえり」って言ってくれる。
 あのね、おねぃちゃん。わたしはいつもはおねぃちゃんになんでもないって風にしてるけど、ほんとはね、おねぃちゃんのこと大好きなんだよ。
 言葉にはしないけどね、ふふふ。
 でも、今日はなんだかいつもは見つからない言葉が浮かんできちゃってるんだ。
 さっきプレゼントを渡すとき、おねぃちゃんにありがとうって言ったけどさ、おねぃちゃんにありがとうって言えたってことがわたしは少し嬉しかったんだ。
 いつもはそんなこと言えないから。
 ううん、こんなことを考えてたら胸のざわつきが大きくなってきちゃった。
 なんだろうね、なんだろうねこれは?
 おねぃちゃんに聞いてみようかな? どうしようかなぁ?
 うん、聞いてみよっと、うふ。

「ねぇ、おねぃちゃん」
「そうよね、こいしはこいしだもの…………私の誕生日にまともなプレゼントを送ってくれるはずないわよね」
「………………え?」
「ごめんなさいね、こいし。私は期待しすぎてしまっていたみたい。貴女にちゃんとした誕生日会がひらけるはずないものね。他の参加者も来ないって? そんなの分かりきっていたじゃない。なぜ私はショック受けてるのかしら。嫌われ者の私の誕生日を祝ってくれるのはせいぜい家族くらいじゃない。しかも心の壊れた妹だけ。お姉ちゃん、貴女の糊を見るまでそんなことも忘れてたわ、ダメなお姉ちゃんね。さぁこいし。ケーキを食べましょう。嫌われ者の私たちに相応しいロウにまみれたケーキをね」

 そんなことをまくしたてて、おねぃちゃんはくすくすと口を動かした。
 ああ……わかった。この胸のざわつきは多分、心ってやつだね。けっこう前に自分で捨てたつもりだったけど、案外残っているものなんだ。
 心かぁ。そうそう、こんな感じだったよね。胸がきゅんときて、締め付けられるようで……それでいて、すんごいむかつく気分になるんだよね。
 わたしも忘れてたよ。こいつはこういう人だってことをさー。

「ねぇ、さとり」
「なぁに、こいし。いきなり私のこと呼び捨てにして」
「今日は誕生日だからさ、いつも思ってるけど言えないこと、おねぃちゃんに言っていいかな?」
「あら、なにかしら。構わないから言ってごらんなさい」
「あのね、おねぃちゃんは人に嫌われるのは、おねぃちゃんが人の心が見えちゃうからだと思ってるみたいだけど、ほんとは単におねぃちゃんの性格が悪いから嫌われてるだけだよ?」
「…………知ってるわよ。そんなこと」

 あ、なんだおねぃちゃん、ちゃんと自分で分かってたんだ。ちょっと安心したよ。

「さてと、じゃあケーキを食べましょうか。こいし、歌を歌ってちょうだい。そうね、どうせ二人しかいないのだから、私も歌うことにするわ。さ、いくわよ。ハッピーバースデートゥーミー、ハッピバースデートゥミー♪」

 私はそんなおねぃちゃんの姿を黙って見てたから、誕生日のうたを歌ってるのはおねぃちゃんだけになっちゃってた。
 お店のなかではかなり目立ってたけど、うん、いまさらだね。
 自分一人で勝手に歌い始めて、一人で全部歌って、一人で歌い終わってロウソクを吹き消すおねぃちゃんを見てたら、やっぱりおねぃちゃんはおねぃちゃんなんだなぁと思ったよ。

「ハッピバースデーディアわったしー♩ ハーピィバースデートゥーミー! おめでとーわったしー、パチパチパチパチ……………うう……」

 可哀想なおねぃちゃん。だけどやっぱりわたしのおねぃちゃん。
 
二作目です。

さとりもこいしも愛情を表現するのが苦手なんでしょうね。
ばつ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.540簡易評価
4.無評価名前が無い程度の能力削除
愛情が垣間見えないんだよなぁ……
9.70名前が無い程度の能力削除
oh……
もっと愛をおくれよこいしちゃん……
13.100名前が無い程度の能力削除
なんでか分かんないけど泣いてしまった
14.70名前が無い程度の能力削除
愛情表現するのが苦手っていうテーマはよくわかったけど、ベクトルがマイナスすぎてこっちまで落ち込んでくる。
15.100名前が無い程度の能力削除
胸にきた
ノリさんで笑ってしまったので
16.40悲しみを背負うことができるだけの能力削除
救いは無いんですか!?

┌(┌^o^)┐<無いね
17.90名前が無い程度の能力削除
こういう話好きです。幸せにもなって欲しいけど。ギャグが混ざっていなければ100点
18.60名前が無い程度の能力削除
作品のテンポは良い
ただ物語の収束させかたがちょっとイマイチかな
ハッピーエンドにしろとは言いませんがこういうオチならもっとリズムを変えるとか
落差をしっかり出したほうが良いと思います
19.80名前が無い程度の能力削除
いいじゃない本人たちが幸せならっ!
21.無評価名前が無い程度の能力削除
>>4様
嫌われ者の中の嫌われ者のさとりと、心をなくしたこいし。自分の中の古明地姉妹をかいてみました。

>>9様
お互い愛情はあります。ただ愛情を上手く相手に伝える事ができません。端から見れば愛情がないように見えます。あるいはそれは全く愛情がないのと同義なのかもしれません。

>>13様
僕も途中自己投影してしまって悲しくなりました。

>>14様
古明地姉妹はマイナスの中の明るさが似合うと思います。

>>15様
DeNAって皆さん分かるんですかね? 昔は当然誰でも分かる事だったんですけどね。今は知らない人も多いみたいで。

>>16様
救いはあります。この姉妹は人と接しなくても生きて行く事ができます。普通の人はどんなに人間嫌いでも社会の中でしか生きていけませんから。

>>17様
暗い中の明るさを出したかったので。

>>18様
個人的には最後のオチのためにテンポを変えたつもりだったのですが、足りなかったみたいですね。精進します。

>>19様
そうですね。それに彼女たちは、一人ぼっちじゃないという至上の幸福がありますし今回は出てきていませんがお空やお燐もいますしね。
22.10愚迂多良童子削除
序盤はまあまあ笑えた筈なのに、後半で一気に心抉られた・・・
このさとりはちょっと直視出来ない。
23.40名前が無い程度の能力削除
パルゥスィの『ゥ』が気になって仕方なかった。
会話中の描写が少なく、ノリについていけなかった。

なんて言ったらいいのか分からないけど、惜しかった。
24.90名前が無い程度の能力削除
頑張れさとり様!
25.無評価名前が無い程度の能力削除
>>22
直視できないからこそ「嫌われ者の集う旧地獄でも郡を抜いて嫌われている」んじゃないでしょうか。こういう比べ方はナンセンスかもしれませんが、他の漫画で心を読めるキャラでもそこまで酷い嫌われ方はしていませんし

>>23
「パルゥスィ」も「おねぃちゃん」も、滑舌の悪さの演出ですね。描写の少なさも完全に僕の実力不足です。演出と分かりやすさのバランス、描写の多さ少なさのバランスは今後も研究していきたいと思います。

>>24
さとり様もなんだかんだいって現状に満足しているんじゃないでしょうかね。
30.100名前が無い程度の能力削除
ノリ突っ込みのコントっぽいところが好きです。
31.90名前が無い程度の能力削除
惨めなさとりさん可愛い…