Coolier - 新生・東方創想話

今の宝石

2012/05/21 20:25:47
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竹さえ眠りこける丑三つ時。
迷いの竹林は静寂と宵闇とに包まれ、高くそびえる竹たちは、その瑞々しい緑色を漆黒に紛れさせる。
僅かに照らすのは、竹の葉の間から少しばかり落ちる月明かりのみ。
時折走る風が竹を揺らす事にのみ、時の流れが感じられた。
幽霊でも出てきそうな──本当に出てくるが──竹林の中を、一人の少女が歩いていた。
腰許まで伸ばした白い髪。それに多くの紅白模様のリボンが結ばれ、少女の白い肌や、同じく紅白の服装とも相まって、美しく調和していた。
器量の方も、目を見張る程の美貌があったが、それより目立つのは瞳だった。
意思の強そうに吊り上がった、大きく紅い瞳。
それは、人を惹き付けるような、しかし誰もその奥に秘された心を伺い知れないような不思議な魅力を湛えていた。
力強い。芯が通っている。この少女、藤原妹紅の雰囲気を表す言葉はそのあたりだろうか。

妹紅はしばらく歩き続けていたが、やがて少し開いた空間に出ると、足を止めてどこか一点を睨みつける。
その視線を追った先には、また一人の少女が居た。
艶やかな黒髪を長く伸ばし、それは髪一本の乱れも無く整っている。
なんとも形容しがたいような、しかし美しい衣服に手元が隠されていて、素肌は顔しか晒していなかった。
その顔もまた美しい。まさしく絶世の美女、傾国の美女と言える程の、それでは足りなく思える程の美貌だった。
しかし、その美しさはどこか夢のようで、手を伸ばしたらふわりと消えてしまう、そんな儚いような感じを受ける。
例えるなら火の中で舞う胡蝶。あるいは絹糸に吊られたガラス玉。
蓬莱山輝夜からはそのような印象を受ける。

妹紅と輝夜。二人は対照的であったが、幾つかの内の共通点の一つ。
不老不死の蓬莱人であること。

二人は何も言わず、ただ視線をぶつけあっていたが、少しの時を経て、片方が動き出す。
妹紅の背中から湧き出る炎。またそれから吹き出る熱風と火の粉が、冷え固まった竹林の時間を溶かす。
炎の翼がごうと音を立て、妹紅は背中に月を背負い飛び立つ。
翼の羽ばたき一つ一つが弾となり、やがて弾幕へと昇華する。
紅く揺らめく大量の弾が、未だ微動だにしない輝夜へと殺到する。
そして、やっと輝夜は動き出した。動かないまま。
輝夜の姿勢は変わらない。同じ体勢のまま浮き上がり、妹紅の弾幕を紙一重で避けている。
二人はここでも対照的だった。力強く羽ばたく「動」の飛翔。音さえ出ぬような「静」の飛翔。
輝夜は妹紅の弾幕を全て避け、攻勢へ転じる。輝夜の手には一本の枝が握られていた。
蓬莱の玉の枝。
輝夜の出した難題の内のひとつ。妹紅と輝夜の因縁の原因。
妹紅の炎の光を受け、か細く、しかし目の覚めるような美しい煌きを見せる銀色の枝。
その末端にいくつか実る、色とりどりの珠。
これもまた、輝夜と同じく儚げな美しさを見せていたが、やがてそれは消える。

蓬莱の玉が光りだす。

先のようなか細く弱い光ではなく、溢れんばかりに湧き出す強い光。
光を反射する月ではなく、自ら光を放つ太陽。
魔力を持ち、それを感じられる者なら、その太陽が膨大な魔力を溜め込んでいる事も分かっただろう。
実際に、妹紅はその危険性を察知し、威力を減衰させる為の弾幕を放ちながら身構えている。
そして、珠の光が一際大きな光を放った時、大量の光弾が妹紅に迫りくる。
妹紅の弾幕を無残に消し飛ばしながら、七色の光弾は高速で飛来する。
それでもなお、その珠の美しさは変わらなかったが、呆気に取られて眺めていれば一瞬で塵になってしまうだろう。
妹紅はそんな事など百も承知で、蓬莱の玉の枝が光を放った時には、弾幕の飛んでくる道を予測し、その隙間を通る道を構築し、
炎の翼を羽ばたかせて回避を行なっていた。
しかし、光弾は妹紅とすれ違った後数秒も経たない内に方向を変え、妹紅に追いつくほどのスピードで迫ってきていた。
全ての弾を回避して輝夜へ一撃を食らわせんとしていた妹紅は、これにいささか驚いたようで、ほぼ直角で上へと飛んだ。
だが、不意を突かれた為か加速が一瞬遅れる。真後ろの光弾の放つ魔力が妹紅のブーツに当たり、ばちばちと弾けていた。
このままでは妹紅は光弾に飲み込まれ、その膨大な力を全て受ける事になるだろう。

しかし、妹紅の手の内には秘策があった。文字通り、手の内に。

妹紅を覆っていた炎の翼が突如離れ、その場で炎の壁となって光弾を押し留める。
そして妹紅は、光の交錯する壁の中に、先ほどは食らわせられなかった光を放つ。
それは炎の壁を、さらには光弾さえをも貫き、輝夜の許へと一直線に飛ぶ。
突然光の中から出てきたそれを見て、輝夜は一瞬驚きを見せたが、先のように紙一重で回避する。
その光は輝夜とすれ違った瞬間に広がり、大量の弾となって球を形作る。
弾幕は基本的に放散していくものだ。だから、これは輝夜にも読めていた。
だが、体の向きを変えて弾幕を避け、駄目押しにもう一度蓬莱の玉の枝を振るおうとしたその瞬間。

輝夜の周りを覆っていた光弾が収縮し始めた。

想定外の事態に輝夜は焦る。光弾の間をすり抜けようとしたが、高速で弧を描いて回っているようで、抜け道が見つからない。
玉の枝での相殺も考えたが、光弾ひとつひとつは小さめであり、魔力は圧縮されているようで、玉の枝での相殺は不可能だろう。
今から新しい弾幕を放つ時間も無い。
だんだんと狭まっていく球の中で、輝夜はふっと笑いを浮かべ───

光弾に包まれ、その姿は見えなくなった。


「あーあ、久々に負けたわぁ」
仰向けに倒れた輝夜の体を、地面を覆っていた草が柔らかく受け止めてくれる。
脱力したように目を瞑る輝夜の許へと、竹の中から出てきた妹紅は歩み寄る。
先ほどの弾を放った反動で、竹やぶへと突っ込んだようだ。服はところどころ破れ、痛々しい生傷が顔を出していた。
「これじゃあまるで私が負けたみたいじゃない」
妹紅が呆れたように笑う。
傷だらけの妹紅とは違い、輝夜には傷どころか汚れさえ無かった。
「まさか、拡散の後に収縮する弾とはね。あのスキマ妖怪も同じようなのを撃ってきたっけ」
「インペリシャブルシューティングの改良。威力は弱いけど使い勝手は良いわ。まだスペルにはしてないけど」
「命名は?」
輝夜の問いに、妹紅は少し考える素振りを見せたが、思い付いたのか口を開いた。
「不死鳥の鳥籠、とか?」
「不死鳥、って。あんたはもう少し語彙を増やしなさいよ。フェニックスとか不死鳥とか、同じ意味じゃないの」
呆れたように笑う輝夜を見て何か思い付いたのか、妹紅はにやりと笑って言う。
「じゃあ、なよ竹の揺り籠」
それを聞いた輝夜は一つ溜め息を吐いたが、妹紅と同じように何かを思いつき、口を開く。
「じゃあ私のさっきの誘導弾は、一石不死鳥ってのにするわ」
「駄洒落みたいだわ」
妹紅が鋭く突っ込みを入れる。
先ほどまで殺し合っていた者達の会話とは思えないが、二人の会話はいつもこのようなものだった。
皮肉を言い合い、冗談を言い合い、笑い合う。いつだって「合い」の連続だった。

「はあ、それにしても久しぶりに勝ったわ」
したり顔で言う妹紅。
「あら、でもこんな一回の勝利なんて、私とあんたの永遠の中じゃ埋もれてるわ。
庭園の中に、一つだけ紛れた宝石みたいにね」
例えを混ぜた輝夜の反論に、妹紅も返す。
「そういうものは拾って磨いて飾るわよ。そうすれば目立つ」
「目立ったとしても、どうしても負けの歴史は目に入るわ。隠し通せないわよ」
「池の中にでも放ってやれば見えないわ」
「自分の見たいものだけ見る、って事ね。ずいぶんと楽観的だわ」
まあ、そうしないと気が狂っちゃうでしょうけど、と輝夜は言い、立ち上がる。
「じゃ、私は帰るわ。次は私が勝つからね」
お決まりの台詞を言い残し、輝夜は背を向けて歩き出す。
「次も私が勝つわ」
お決まりの台詞にお決まりの台詞で返し、妹紅もまた歩き出す。
二人の背中が離れていく。
これが今日の殺し合いの様子だった。




家の戸を開けると、慧音が困ったような呆れたような笑みを浮かべて妹紅を見、次いで優しげに言葉を掛ける。
「おかえり」
柔らかな声音に今日の疲れを溶かしながら、妹紅も答える。
「ただいま」



私は私の見たいものだけ見る。
私は私の好きな今だけを見る。
「いつか」なんて見たくない。見ない。
私は慧音が居て、輝夜が居て、いろんな人が居て、私が居る今を見るんだ。
創想話初投稿です。nakaと申します。
いやー疲れた。すっごい疲れた。
まとまって作品を書き上げるのは初めてかもしれないです。
しかもこの短編でこの難産… 長編書いてる人にはやる気と集中力を分けてもらいたいですね。
今後もだらだらと短いバトル物(?)を書いていきます。予定ですが。

あと、「妹紅」って変換するには「いもうとこう」ってやんないといけないんですよね。
「輝夜」は「てるよ」で出るのに。

何はともあれ書き上げられて満足です。
ではでは、ここまでお読み頂いてありがとう御座いました。
nakaでした。

追記:誤字修正致しました。
naka
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コメント



0.120簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
そこでユーザー辞書登録ですよ
2.90名前が無い程度の能力削除
短く纏まってて読みやすかったよー
これからも頑張って
3.80奇声を発する程度の能力削除
終わり方も良く面白かったです
6.70名前が無い程度の能力削除
むしろそれが気持ち良い生き方だろ
とりあえず自分は「いもうと べに」変換派です
7.無評価naka削除
皆さんコメントありがとうございます。
>>1さん ユーザー辞書ですか…確かに楽ですね
>>2さん ありがとうございます 
最後あたりは気持ちが高ぶりすぎて駆け足になってましたw
>>3さん ありがとうございます 励みになります
>>4さん いもうとべに…気付きませんでしたorz
8.90楽郷 陸削除
誤字報告
「妹紅の炎の光をを受け、か細く、しかし目の覚めるような美しい煌きを見せる銀色の枝。」
を、が重複してる?

戦闘後の会話でタイトルの意味がわかるのですが、タイトルを含めてその部分の会話が好きです。