Coolier - 新生・東方創想話

パチェコア事件簿『小さな殺人事件』

2012/04/12 01:43:29
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※最初に

東方でサスペンス劇場的なものを目指しています。
ですのでキャラ死があります。
誰が死んでも許せるという覚悟のある人だけ読んでください。




『小さな殺人事件』




 紅魔館。
 突然の叫び声に食堂にいたパチュリー、小悪魔、魔理沙の3人は部屋を飛び出した。
 声のした方に向かうとそこには一匹の妖精メイドが腰を抜かして座り込んでいる。そして、そのメイドの視線の先には階段の踊り場で倒れて冷たくなっていたチルノの姿があった。
「チルノちゃん!」
 小悪魔が急いで駆けよるがチルノはもう返事ができなくなっていた。頭部を激しく打ち付けたような痕が残っている。階段から突き落とされたようだ。
「まさかチルノが……」
 魔理沙が呟くのとほとんど時を同じくしてレティと大妖精も駆けつける。
 パチュリーはこれまでの出来事を辿った。



 雪の降るこの日、パチュリーは暖炉の火が轟々と焚かれる食堂にて昼食を終えた所だった。温かいカボチャのスープと食後の紅茶、親友との談笑を楽しんでいたわけだが、親友の吸血鬼レミリア・スカーレットがお昼寝のために寝室に行ってしまうとパチュリーも図書館に戻る事にした。暖炉の前の椅子から立ち上がり、食堂の扉に手をかけるとパチュリーは身震いした。
 パチュリーの図書館は紅魔館の地下にある。建物としては繋がっているのだが雪が降るような冬の日だ。廊下は寒い。食堂から図書館までの距離だって馬鹿にはできない。
「図書館に行くまでよ」
 パチュリーはそう自分に言い聞かせて扉を開けた。幸いにも図書館は地下にあるだけに冬でも快適な温度が保たれやすい。あとは小悪魔が温かい紅茶でもいれて待っていてくれれば。そんな淡い期待は窓の外を見た瞬間に打ち砕かれた。
 外では紅魔館の広い庭を使って小悪魔と妖精達が雪合戦をしていた。
 小悪魔、美鈴チームVSチルノ、大妖精チームだろうか。お互いはしゃぎながら雪をぶつけ合い、冬の妖怪レティがその様子を微笑みながら見守っている。
「この寒い中によくやるわね」
 パチュリーはそれ以上の感想を抱く事は無かった。そんなことよりも早く図書館に戻りたい。腕をさすりながら先を急ぐ。
 図書館はやはり落ち着く場所だ。古い紙の匂いもそうだが何より温かい。冬はやはり図書館に籠るのが一番だ。と、パチュリーは感じる。いつもの指定席に座る。紅茶を運んでくる使い魔はいないがそれに目をつぶれば何一つとして言う事は無いだろう。パチュリーは早速テーブルの上に置かれた本から一冊を手に取り読書を始めた。
 しかし、やはりというべきかそんな平穏は長くは続かない。
 本を読み始めて物の数分としないうちに、図書館にドタバタと小悪魔が駆けこんできた。その後ろに続くようにチルノに大妖精も図書館の中に騒がしく入って来る。
 一体今度は何事か。パチュリーは少しいらつきながら小悪魔に視線を送った。当の小悪魔は主の視線に全く気付いていないようで忙しくどこかに行ってしまった。
「ごめんなさい。騒がしくしてしまって」
 そう声をかけてきたのは3人に遅れて入って来たレティ・ホワイトロックだった。
「まったくよ」
 パチュリーはキャッキャとはしゃぐ妖精2人を眺めながら返した。ただ、この狂騒の首謀者が自分の使い魔だということに頭痛でも覚えそうな気持ちだ。
「コラ、図書館では騒がないの」
 走り回るチルノに注意するレティ。
 それを受けて大妖精はハッとしたように動きを止めるとパチュリーに向かって「ごめんなさい」と、頭を下げる。チルノは気にもしないように走り続けてはいるが。
「もう。チルノったら」
 腕を組んでため息をするレティ。
まるでチルノの保護者だな。パチュリーはそんな感想を浮かべる。途端、自分が保護者役を務めなくてはならない小悪魔の顔が浮かんできて、「そんなのはごめんだわ」と、想像の世界で小悪魔を引っぱたいてやった。
「みなさーん、お待たせしました!」
 ちょうど小悪魔が戻って来る。小悪魔は自分の身の丈の半分ほどはあろうかという何かを抱えていた。それと、どういうわけかいつもより胸が大きい気がするのだが気のせいだろうか?
「それはなんなのさ?」
 見た事の無い物品に真っ先に興味を示したのはチルノだった。小悪魔はそれを床に置くと不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ、チルノちゃんには縁の無い物でしたね、これはストーブです」
「ストーブ?」
 チルノと大妖精は顔を見合わせる。自然の化身たる妖精には馴染みの無い物だろう。
「ストーブというのは『トウユ』を燃料にして部屋を暖める言わば暖炉を小型化した魔法アイテムなんですよ」
 小悪魔は得意げに説明をする。些かの間違いがある事から鑑みて小悪魔も詳しくは知らないようだ。
 情けない。と、パチュリーは落胆する。
 レティはストーブがどんな道具か知っているのだろう、クスクスと笑っている。
「魔法アイテム!スゲー!」
 チルノは感激している様子でストーブを叩いた。ガンガンという音がストーブの中で反響している。それを見て小悪魔はますます胸を張る。
「でも小悪魔、こんなものどこで手に入れたのかしら?」
 パチュリーの記憶では図書館どころか紅魔館にそんな代物は無かったのだが。
「香霖堂という道具屋で店主さんが使っているのを譲ってもらったんですよ」
「ほう。で、そのお金はまさか本を売って工面したんじゃないでしょうね」
「ま、まさか~」
 ただし、新しい本を買うように咲夜からもらったお金だった。当然それは黙っておく。
「そうよね。そんなことしたらどんな目に会うか小悪魔はよくわかっているでしょうからね」
「ハハハ……」
 小悪魔は乾いた笑い声を洩らしながらポケットから取り出したマッチでストーブに火を点す。程なくしてストーブの上部鉄板が熱を帯びてくる。
「うわ、あったかいよ」
 大妖精が手をかざしながら声を上げた。チルノもそれを真似する。
「アチチチ」
「チルノちゃんには火が強すぎたみたいですね」
 小悪魔が目盛をいじって火力を調整する。
 そんな様子をパチュリーとレティが遠巻きに眺めていた。
「でも、最近のストーブってすごいのね。昔は煙突がついていたわよね」
 そう呟いたのはレティだった。
「燃費が良くなって煙が出なくなったそうよ」
「へぇ」
 などと会話をしているがパチュリーには一つ疑問に思う事があった。ストーブなどなくても地下図書館は十分温かいのだ。何故ストーブを?
 その疑問は訊ねる間もなく解決する。小悪魔は懐から小さな風呂敷を出した。風呂敷を入れていた分だけ小悪魔の左胸は少し小さくなった。ということは右胸にも何か仕込んでいる事になる。
「これが今日のメインですよ!」
 風呂敷を解くとアルミホイルに包まれた何かが出てきた。さらにアルミホイルを開くと中には切り分けられた餅が入っていた。その餅を、包んでいたアルミ箔ごと鉄板の上に乗せる。
「なるほど焼き餅を作ろうというのね」
「これがしたかったんですよー」
 まさかそのためだけにストーブを購入してきたとは思いたくないのだが。
 不安を抱くパチュリーとは対称にチルノと大妖精の2人は餅が膨らむのを今か今かと見つめている。そんな様子を見ていると悪い気はしなかった。
 少し膨らみ始めた餅に醤油を塗って裏返す。すると香ばしい匂いが一気に広がる。
 そうやってできあがった餅を砂糖を溶かした醤油の皿に乗せる。
「うわぁ、うまそー」
 チルノは早速餅を口に運ぼうとするが焼きたての餅は熱くて中々食べられない。
「チルノちゃん熱い物苦手ですものね」
 小悪魔が笑う。
「なめるな!」
 一体何を強がっているのかチルノは餅を口の中に詰め込むとアチチとやりながらもなんとか飲み込んだ。余程無理をしたのか目に涙まで浮かべている。
「ほら、口の周りに醤油ついているわよ」
 レティがハンカチを取り出してチルノの口元を拭った。いいお姉さんだ。
「でも一個だけじゃ足りないね」
 あらかた食べ終わった頃合いに大妖精が呟く。
確かにこいつらは昼食の時間に雪合戦なんかしていたんだから足りないだろう。パチュリーが思っていると大妖精の言葉を待っていたように小悪魔が右の懐に手を入れた。
「そんな事もあろうかと準備してきましたよ」
 先程と同じように風呂敷を取り出して小悪魔の胸は左右両方ともいつも通りの大きさに戻った。
 中にはやはり餅が入っており小悪魔は早速焼き始める。
二回目の餅焼きの頃には焦げた醤油のいい匂いはすっかり充満しており、その匂いにつられたのか図書館の入口には妖精メイドが集まっていた。
「あ~あ、あんなに集まっちゃって」
 パチュリーが視線を送ると妖精メイドは一瞬だけ散るが、目を離すとすぐに集まる。
「私達だけ食べたら悪いかな」
 大妖精が気を使うような言葉を口にする。
と、また集まりだした妖精達を一喝する声が響いた。
「こんなとこでサボってると咲夜に叱られるぜ!」
 背後からの大声に驚いて妖精メイド達は散り散りに逃げだした。その様子を見て声の主、霧雨魔理沙がニッと白い歯を見せて笑う。
「あれ?魔理沙さん!魔理沙さんも匂いに吊られてやってきたんですか?」
「私はネズミか。最近ご無沙汰だったからな。ちょっとパチュリーの顔でも拝みに来たんだぜ」
 その言葉にハッと頬を染めるパチュリー。それを見逃さない小悪魔はそっと主に耳打ちする。
「餅じゃなくてパチュリー様が目当てだったようですね。よかったですねー。焼き餅にヤキモチ妬かなくて済みましたよ」
「くだらない事言わないの」
 睨まれた使い魔はヒヒヒと笑う。
「ん?何の話してるんだ?」
「何でもないわ。それより小悪魔、魔理沙の分の餅も持ってきなさい」
「あ、そうでした。魔理沙さんの分無いんでした」
「悪いな」
 小悪魔は小走りで紅魔館のキッチンへと図書館を後にした。
 魔理沙は手近な椅子を持ってきてパチュリーの隣にドカッと座る。
「外は寒いから助かったぜ」
 ストーブに手を翳しながら言う。
「小悪魔が買ってきたのよ」
「買った?」
「香霖堂よ」
「ちゃんと金払ってんだな。感心、感心」
 感心する魔理沙。その腕をグイッと引っ張る手があった。チルノだ。
「餅食べたら魔理沙も雪合戦しよ!」
「雪合戦か~、寒いんだよなぁ」
「いいじゃん、やろう。さっきは小悪魔にやられたから今度こそ勝つんだ」
「へぇ、あいつ雪合戦強いのか?」
「汚いんだ。中国盾にして雪玉投げてくるんだ」
「だから雪だるまになってたのか」
「雪だるま!?」
 パチュリーが声を上げる。チルノはエヘンと胸を張る。
「伸びてるうちに雪だるまにしてやったんだ」
「美鈴さん大丈夫かなぁ」
 大妖精は少し心配している様子だ。もっとも、雪だるまにする時は一緒になって美鈴を転がしたのをレティは知っているんだが。
「なぁに、ああなったら寝るに寝れなくて門番になるだろう。ま、侵入者がいても動けないだろうがな」
 雪玉の中に埋もれて顔だけ出してる美鈴の姿を想像してパチュリーは吹きだしそうになった。
「だから今度は小悪魔を雪だるまにするんだ」
「こんなこと言ってるけどいいのか?大事な使い魔雪だるまにされて」
 魔理沙がパチュリーに視線を送る。パチュリーはそっけなく答える。
「いいんじゃない」
「お、主から許しが出たな。じゃあ私も一肌脱いでやるか」
「ホントに!やったー」
 チルノは大はしゃぎでとび跳ねる。そして、
「じゃあ私、先に準備してくる!」
 と、嬉しさのあまり図書館の外に駆けだしていった。
「雪合戦の準備って何するんだよ?」
 魔理沙が呟く。
「雪玉たくさん作っておいたり、塹壕掘ったりじゃないのかしら?雪玉の威力なんてたかが知れてるから塹壕戦は有効よ」
「えらく本格的だな。お、餅が焼けそうだぞ」
 魔理沙は餅を掴むと「アチアチ」と手で交互に持ちかえながら砂糖醤油につけた。
「あ、魔理沙さんの分まだ小悪魔さん持ってきてませんよ」
「いいだろ、小悪魔もチルノもいないんだし」
「でも……」
 と、レティの方を見上げる大妖精。
「いいのよ。チルノが戻って来たら私のをあげるから」
 そう言ってレティは餅を皿に乗せると大妖精に渡した。それを見て大妖精も餅を食べ始める。
 二つ鉄板の上に残したまま各々餅を食べる。昼食をとっていたパチュリーの分は魔理沙がちゃっかりと頂いていた。ふと、パチュリーは使い魔の事が頭に過る。
「そういえば小悪魔遅いわね。餅を取りに行っただけなのに」
「ん?確かにそうだな?まさか無かったから今餅ついてたりして」
 小悪魔はそんなに殊勝じゃない。
 と、魔理沙が立ちあがった。
「どこ行くの?小悪魔を探しに?」
「いいや、トイレだ」
 そう言って魔理沙は図書館を出て行く。
 ついでに小悪魔を見てきてくれればなあ。と、パチュリーが思っていると餅を食べ終わった大妖精が元気よく立ちあがった。
「私、見てきます」
「そう?じゃあお願いしようかしら」
 パチュリーは小悪魔の身よりも餅に何か仕込んでいるのではないかという方が心配だったために頼むことにした。大妖精は大妖精で館の中を探検できると心躍らせているようだ。少なくとも、餅にタバスコを仕込む小悪魔を止める程度の常識はありそうだからよしとする。
 大妖精が出て行って数分すると今度はレティが
「じゃあ私はチルノを見てこようかしら」
 と、席をたった。図書館にはパチュリーだけが残される。
 それからさらに数分、魔理沙が戻って来る。
「あれ?みんなどこ行ったんだ?」
と、ぼやきながら先程と同じ椅子に座る。すぐには誰も戻って来ない事を見てとった魔理沙はストーブの上の餅に手を伸ばした。
「焦げるよりいいだろ」
 パチュリーは見て見ぬふりをした。魔理沙が餅を口に運んだ瞬間、図書館の扉が勢いよく開いた。
「うぉっふ!」
 突然の事に魔理沙は餅を喉に詰まらせてしまいそうになる。
「なんた!?」
 振り返ると大妖精が息を切らして立っていた。ただ事では無さそうな雰囲気にパチュリーは立ちあがる。大妖精は大きく息をしてから
「た、大変です!小悪魔さんが階段から落ちて、死んでます!」
「はぁ?」
 小悪魔が死んでいる!?魔理沙は半信半疑そうにパチュリーの方を見遣る。そしてパチュリーもまたにわかには信じる事ができない。だが、大妖精が嘘をついているようにも思えない。
「行きましょう」
 パチュリーは持っていた本を置くと大妖精に案内されて小悪魔が死んでいたという現場まで飛んだ。
 そこは紅魔館の地上部分と地下図書館を繋ぐ唯一の階段、その踊り場に散らばった餅と零れた醤油、だが肝心の小悪魔の亡きがらはどこにも見つからない。
「し、死体が、消えてる……」
 大妖精が呟く。
「死体が消えてるだって?そんな馬鹿な事あるわけないだろ?」
 と、魔理沙。
「でも、本当にここで小悪魔さんが死んでいたんです!ほら」
 大妖精が指し示す餅と醤油の跡。ここで小悪魔の手から落ちたようだ。
「だが、死体が無いんじゃあな」
「消える死体……」
 パチュリーが呟く。
「いくらなんでも咲夜が片付けたなんてことないだろうし」
 黙って片付けてしまったとしたらメイド長の神経を疑う。
その時、大妖精がパチュリー達の背後を指さして「ヒッ」と小さく悲鳴を上げた。
 パチュリーと魔理沙が振り返る。
 そこには死んだはずの小悪魔が立っていた。



 場所を食堂に移してパチュリーは小悪魔から事情を聞いていた。
 小悪魔が死んでいるというのはどうやら大妖精の早とちりで、小悪魔は気絶していただけのようだった。安心した大妖精は気が緩んだのかトイレへと席を立った。
 しかし残された食堂で小悪魔はパチュリーと魔理沙相手に一つの主張を繰り返した。
「私は背中を誰かに押されたんですよ!暗殺者です!紅魔館に暗殺者が忍び込んでいます!」
 机をバンバンと叩きながら大声で叫ぶ。そのたびにテーブルの上の燭台が揺れる。
「暗殺者か~。もっとましな言い訳考えろよ。勝手にすっ転んだだけだろ」
「違います!確かに背中を押されて突き落とされたんです!」
 そう言って背中を魔理沙に見せるが手形が残るはずもない。羽があるだけだ。
「仮に、何者かがあなたを階段から突き落としたとしても、どうして止めを刺さなかったのかしら?気絶してたんでしょ?」
「それはあれですよ。私の気絶が見事だったからじゃないんですか?大妖精さんも私が死んだと思っていましたし。命拾いしました」
「ずいぶん間抜けな暗殺者ね」
「だぜ」
 まるっきり信じていないパチュリーと魔理沙だったが小悪魔としては使い魔として主と紅魔館を守る責務を感じずにはいられない。
「とにかく気をつけてください。パチュリー様は妖精と違って一度死んだら生き返ったりしないんですから。魔理沙さんもですよ」
「そうね。気をつけるわ」
「これを咲夜さんと美鈴さんにもお伝えしなくては!」
 息巻く小悪魔。やれやれと肩を竦める魔理沙。パチュリーは少し安心したようなため息を漏らす。
「きゃあああああああああ」
 パチュリーの安堵も突然の悲鳴によりかき消される。
 小悪魔は予感めいた物を感じてすくと立ち上がった。
「第二の被害者です!」
 まさかそんなはずは……。だが、悲鳴は事実。パチュリーは勢いよく食堂を飛び出した小悪魔の後を追いかける。
 声のした方に向かうとそこには一匹の妖精メイドが腰を抜かして座り込んでいる。そして、そのメイドの視線の先は先程小悪魔が気絶していた階段とは別の階段、一階から二階へと続く階段の踊り場で倒れ、冷たくなっていたチルノの姿があった。
「チルノちゃん!」
 小悪魔が急いで駆けよる。だが今度は小悪魔の時とは違い気絶ではない。チルノはもう息をしていなかった。
「まさかチルノが……」
 魔理沙が呟くのとほとんど時を同じくしてレティが二階から、そして大妖精も駆けつける。
「何か叫び声が聞こえたようですけど……チルノちゃん!」
 大妖精はチルノの体に飛びついて何度も揺らす。
「チルノちゃん!チルノちゃん!起きてチルノちゃん!」
 小悪魔はそっと離れると震えるレティの横にたった。
「まさか、あなたの言っていた暗殺者の仕業?」
 レティが話しかけると小悪魔は頷いた。
「きっとそうです。チルノちゃんも私と同じように階段から突き落とされて……」
 そう話す2人の様子をパチュリーはジッと眺めていた。



 再び場所を食堂に戻しパチュリー達は一同に会していた。雪だるまにされた美鈴も救出されて暖炉の前でブルブル震えていた。
「さて、今回のチルノ殺人事件だけど……」
 パチュリーが切り出すと小悪魔が横から
「それと私の暗殺未遂事件です」
「チルノと小悪魔の事件だけど、私は犯人はこの中に居ると思っているわ」
 その言葉に当然のことながら一同は驚く。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!これは暗殺です」
「いいえ、違うわ。これら一連の犯行が暗殺者の仕業でないという証拠はいくつも残っているわ」
「証拠?」
「一つに、侵入者はいなかった。そうよね、美鈴」
 パチュリーが訊ねると美鈴は毛布に包まったまま頷いた。
「はい。魔理沙さんの他には誰も侵入してません」
「本当かよ?居眠りしてたんじゃないのか?」
「雪だるまの中で居眠りできると思ってるんですか魔理沙さん」
 確かにそれは無いな。と、魔理沙は思った。
「二つに、小悪魔は殺されそこなったわ」
「それは私がターゲットじゃなかったからですよ。無駄に手を汚さない凄腕の殺し屋です」
「だったらあなたは何故襲われたのかしら?」
「え?」
「あなたは犯人の顔を見ていないのでしょう?ならば小悪魔を襲う理由は小悪魔自身がターゲットだったという可能性。でもこれは小悪魔が生きている事からも違うというのは明らかね」
「えぇ!じゃあ私はなんで突き落とされたんですか?痛かったんですよ」
 小悪魔は少しズレた不満を漏らす。
「まぁ恐らくは、あなたが死のうが死ぬまいが関係なく酷い目にあわせてやろうという考えだったのね。あわよくば殺害ってとこかしら」
「ひっどいですねー」
 そう言いながら小悪魔は一同を見渡した。
「お前何か恨まれてるんじゃないのか?」
 魔理沙が冗談めかして笑う。
「身に覚えは無いんですがね~」
 小悪魔は首を捻った。
「じゃあなんでチルノもやられたんだ?」
 魔理沙が訊ねる。
「小悪魔とチルノは同じように階段から突き落とされていた。目的は小悪魔の時と同じでしょうね。妖精は殺してもそのうち生き返るわけだし。小悪魔とチルノに恨みを持っていた人物はいないのかしら」
 小悪魔の視線は美鈴に注がれた。
「私とチルノちゃんに雪だるまにされた美鈴さんなら……」
「美鈴には雪だるまにされてたっていうアリバイがあるぜ」
「……そうですね」
 納得する小悪魔、美鈴は恨めしそうな顔を小悪魔に向けた。
「とにかくさ、動機はわからんからアリバイ調べようぜ。アリバイの無い奴が犯人だ」
 魔理沙の提案にパチュリーは頷いた。黙って聞いていたレティと大妖精は不安そうに顔を見合わせた。



 アリバイの聴取は1人ずつ別室でパチュリーが行う事になった。残った面々は食堂で美鈴が見張っている。
 まずは小悪魔だ。
「パチュリー様、まさか私が犯人だと思ってるんですか?」
「あなたの気絶が偽装で被害者を装っているという可能性もあるわ」
「酷いです!自分の使い魔ぐらい信じたらどうですか!魔女でなし」
「……冗談よ。あなたが襲われた時の状況を聞くのよ」
 そう言ってやると小悪魔は「なぁんだ」と笑顔を取り戻す。こんな時に笑っているのもどうかと思うが悪魔なのだからしょうがないのかもしれない。パチュリーは気を取り直す。
「で、あなたが突き落とされた時間は?」
 訊ねてはみるがおおよその見当はついている。小悪魔が倒れていたのは地下図書館と地上を結ぶ唯一の階段だ。そこに倒れていたということはチルノ、大妖精、レティが図書館を出た後でなければならない。しかしもっと正確な時間が必要なのだ。
「う~ん、時間と言われるとわかんないですね。時計なんて見てませんから。あ、そういえば厨房にいる時にチルノちゃんがきました」
「チルノが?」
「ビックリしましたよ。突然声をかけてくるんですもの」
「そう。ところで、餅を取りに行くのずいぶん時間がかかっていたようだけど」
「え!あ、あぁ……」
 小悪魔は目を泳がせた。
「餅に何かイタズラを仕込んでいたようね」
 蛇のように睨むと小悪魔は苦笑いを浮かべた。
「大変だったんですよ。お餅を茹でて柔らかくしないとタバスコを注入できなくて。チルノちゃんが来た時にはもう終わってましたけどね」
 はぁ……。パチュリーはため息をついた。しかし興味深い証言が得られた。チルノが厨房を覗いた。これは何か意味があるかもしれない。パチュリーはその事を頭の片隅にとどめた。



 小悪魔はメモ帳片手にそのまま部屋に残り、次なる証人魔理沙が呼ばれた。
「まさか私を犯人だと疑ってるんじゃないよな?」
「小悪魔と同じ事言うのね」
 それが気に入らなかったのか魔理沙はそれ以上は言わずに椅子に座った。
「私のアリバイはお前が証明してくれてるだろ。小悪魔が出て行ってからはずっと一緒にいたんだからな」
「そうかしら」
「ん?」
「少なくとも一回だけ図書館を出ているわ」
 魔理沙は記憶を辿ってから抗議の声を上げる。
「トイレに行っただけだろ」
「小悪魔とチルノが図書館を出て行った後にね。どこのトイレに行ったのかしら?」
「いつもどおり図書館の横だよ。その他のトイレなんて場所すらしらねーよ」
「最後のは嘘ね」
 魔理沙は頷かないが否定もしない。
「もう一つ、あなたがトイレから帰って来るまでに大妖精とレティが出て行ったけどすれ違ったりしてない」
「あぁ、大妖精は見かけたな。ちょうど階段を昇って行くところだったから私には気付いてなかったけど、多分そのすぐ後に小悪魔の死んでない死体を見つけたんだろう」
 そう言って魔理沙は小悪魔に向かって笑いかけた。



 次に部屋に入って来たのは大妖精だ。
 大妖精はまだチルノが死亡したという現実から立ち直れていないようだった。
「妖精はまた復活するんでしょ?生き返った妖精は記憶を無くすのかしら?」
 純粋に疑問を口にする。
「そんな事ありませんけど、死ぬ直前の記憶はほとんどないです」
「その口ぶりだとあなたも一回死んだみたいね」
「霊夢さんや魔理沙さんに吹き飛ばされた事なら何回か……どんな弾幕でやられたかは覚えがないですけど」
「ふーん」
 チルノが復活してもそう容易く犯人はわからないだろう。その方がやりがいがあるのだが。
 大妖精への聴取を再開する。
「あなたは小悪魔の様子を見に行ったわよね。具体的にどこに行ったの?」
「えっと、いろいろです」
「いろいろねぇ……。厨房には行った?」
「場所がわからなくて……」
 大妖精は苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、倒れている小悪魔を見つける時の状況を教えてくれるかしら?」
「ええっと、一階を探しても小悪魔さんが見つからなかったから、行き違いになっちゃったかなって思って、図書館に戻ろうとしたんです。その時に……」
「つまり階段を降りる時に見つけた」
 パチュリーが確認すると大妖精は頷いた。
「そうです」



 最後にレティの番がやってくる。
「悪いわね待たせて」
 パチュリーが言うがレティは静かに首を振って椅子に座った。
「図書館を出て行った順番に話を窺ってるの」
「だから私が最後だったのね」
「えぇ、じゃあ早速だけど、あなたはさっき小悪魔に『暗殺者の仕業』と訊ねていたけど、どうして小悪魔が自分の背中を押したのが暗殺者だと騒ぎたてていた事を知っていたのかしら?」
「それは――」
 レティが言おうとした瞬間パチュリーの背後に立つ小悪魔が口を開いた。
「パチュリー様達が来る前にレティさんに会ったんです」
「私達の前に?」
「ええ」
 レティが頷いた。そして今度は自分の口から
「踊り場で倒れている小悪魔を見つけて、近づいたら起き上ったのよ。そうよね?」
「はい。それでレティさんに暗殺の危険を教えたんです」
「それであなたは?」
「チルノを探しに行ったわ。妖精で生き返るとはいえ心配でしょ」
「でもチルノは見つからなかった?」
 パチュリーが訊ねるとレティはやはり静かに頷いた。
 小悪魔は主にそっと耳打ちをする。
「パチュリー様、少し無神経ですよ。レティさんはチルノさんを暗殺者から救えなかった事を後悔しています」
「あなたまだ暗殺者だなんて言ってるのね」
「時代遅れですかねぇ?」
 そんな問いには答えずパチュリーは続ける。
「あなたは外に出て行ったチルノの様子を見に図書館を出て行ったけど、その時もチルノは見つからなかったのかしら?」
「そうよ。外にいなかったから一度図書館に戻ろうとして小悪魔を見つけたの」
「だから次に探した時は二階を探した」
「え、ええ」
 レティの声は少し上ずった。



 全員の聴取を終えたパチュリーは小悪魔に紅茶を一杯持って来させた。
 一息ついてから使い魔の方を見遣る。
「容疑者は3人ね」
 小悪魔はあまり気が進まない様子だ。
「はぁ、でも大ちゃんもレティさんもチルノちゃんを階段から突き落とすとは思えないんですけどね」
「だったら魔理沙が犯人とでも言うの?」
「あ、それはパチュリー様に都合が悪いですね」
 パチュリーはため息を一つ。
「例え魔理沙が犯人だとしても、真実をねじ曲げる事は魔法使いとしてできないわ」
「そうですか?私は自分のためならいくらでも事実をねじ曲げますけど」
 これ以上続けてもらちが明かない。パチュリーは先を続ける事にした。小悪魔のメモ帳とペンを手にする。
「今回の出来事を時系列に並べてみる事にするわ」
 そう言ってペンを走らせた。

『小悪魔、餅を取りに図書館を出る』
『チルノ図書館を出る』
『魔理沙、トイレに行くために図書館を出る』
『大妖精、小悪魔の様子を見に行く』
『レティ、チルノの様子を見に行く』
『魔理沙、トイレから戻って来る。この時大妖精を見かける』
『大妖精、倒れている小悪魔を見つける』
『レティ、倒れている小悪魔を見つける。小悪魔が意識を取り戻す』
『パチュリー、魔理沙、大妖精、小悪魔と合流』
『大妖精、トイレに行く』
『チルノが倒れているのが見つかる』

「さて、小悪魔が階段から突き落とされたのはどこかしら?」
 問われて小悪魔は頭を捻った。
「うーん、大妖精さんは階段を降りる時に私を見つけたんですよね。だったら、魔理沙さんがトイレから戻った後ですね」
「まぁ証言通りならそうなるわねぇ」
「なんだか違うと言われてるみたいです」
 小悪魔が頬を膨らませる。パチュリーはそんな使い魔に説明をしてやる。
「いい、大妖精が図書館に飛び込んできて、あなたが死んでると言った時は魔理沙がトイレから戻って来てそんなに時間が立ってないわ。魔理沙が階段を上がる大妖精を見かけて、あなたが転落、大妖精が今度は階段を下ってあなたを見つける。これら一連の動きが短時間で起きているとしたら大妖精の動きが不審すぎるでしょ?」
「確かに。階段を上ったり下りたりしてますね」
 ポンと手を打って納得する小悪魔。
 と、その時。部屋の扉が勢いよく開いてレミリアが鬼のような形相で入って来た。その目は小悪魔を睨みつけている。
「小悪魔!また貴様の仕業か!」
 ヒィと、悲鳴を上げながら小悪魔はパチュリーの背後に隠れた。パチュリーはというと、今日は突然の出来事が多すぎてもう驚きはしなかった。
「レミィ、どうしたの?」
 驚くほど冷静に親友を宥める。
 レミリアもパチュリーの無事な姿を見て少しだけ落ち着いたようだ。
「またあいつがイタズラしてたんだ」
「身に覚えはないですよー」
 小悪魔はパチュリーの陰に隠れながら言った。
「一体どういうことかしら?何かされたの?」
「パチェの所に本を借りに行ったんだ。そしたら図書館の中が異常なほど熱くなっていてな!どうせ貴様の仕業だろ!お前は私の親友を蒸し焼きにするつもりか!」
 レミリアは素早く手を伸ばして小悪魔の腕を掴んで引きずりだした。罰を与えんとばかりに震える小悪魔に腕を振り上げる。
「あ」
 声を上げたのはパチュリーだった。あまりに拍子抜けな調子で言ったのでレミリアは気を取られた。
「ストーブの火を消し忘れたわ」
「ストーブ?こいつのイタズラじゃないのか?」
「……ええ、そうね。色々あったから」
 小悪魔はレミリアの腕を振りほどいて再びパチュリーの陰に隠れた。
 振り上げた拳のやり場に困ったレミリア。だがこのまま何事も無かったかのようにするのは館の主としてできない気がした。降ろした手を腰に当てると威厳たっぷりに
「まぁ今回は良かったが、もし誰かを困らすようなイタズラをしたら承知しないからな。パチェも小悪魔を監督する立場として悪い事をしたら罰を与えてくれよ」
 そこでパチュリーに話を振るレミリアに、小悪魔は失礼とは思いながらも卑怯だと思った。
 よくもまぁこんなレミリアと友達でいられるなぁ。その感想がそっくりそのまま自分に帰って来る事になるとは思ってもいない。
 一方でパチュリー自身は何か得心したような表情をしており、小悪魔は今後のお仕置きを思いゾッとした。



 美鈴の監視のもと軟禁状態で食堂に待たされている容疑者3人であったが、魔理沙はそろそろ痺れを切らし始めていた。都合よく、すっかり温まった美鈴がウトウトし始めている。
 今なら抜け出せる。立ち上がろうとした時に食堂の扉が開きパチュリーと小悪魔が入って来たので魔理沙の逃亡計画はとん挫した。
「犯人がわかったわ」
 突然発せられた言葉に部屋にいた全員が驚く。
「本当か!じゃあ早く事件解決して解放してくれよ。私はもう帰りたいんだ」
 そう言った魔理沙の背後に小悪魔が立った。ニッコリと笑う小悪魔に魔理沙は嫌な予感がした。
「ええ、この中に私に嘘の証言をした者がいるわ」
 パチュリーは全員を見渡してから静かに告げる。
「魔理沙、あなたは私に嘘をついたわね」
「な、私は嘘なんてついてないぜ!」
「いいえ、あなたは嘘をついたわ。あなたはトイレから戻った時に大妖精を見たと言ったけれど、だったら大妖精より後に出たレティとすれ違わなければおかしいのよ。あなたはトイレになんか行ってない。でもトイレに行ったと思わせるために何か嘘をつこうと考えた。そこで咄嗟に大妖精を見たなんて言ったのよ。あなたが図書館に戻ってきてすぐ大妖精が階段で倒れた小悪魔を見つけたから、てっきり大妖精が直前に出て行ったと思いこんでね」
「おいおい、私がそんな嘘ついてどうするんだよ」
「差し詰め、トイレというアリバイを作ってのいつもの窃盗かしら?」
 すると魔理沙は声を上げて笑った。
「私は図書館の外に出たんだぜ。それは見てただろ。第一、この服に本なんて隠せないぜ」
「そうかしら。小悪魔」
「はい!」
 魔理沙の背後に立っていた小悪魔が魔理沙に掴みかかった。
「おい、やめろ!何するんだ!」
 暴れる魔理沙だったが所詮は人間。身体的な力では小悪魔に分がある。小悪魔は魔理沙のスカートのポケットに手を入れて中から小さな試験管を取り出す。
「ありました!ありましたよ!」
 魔理沙から奪い取った物品を天高く掲げながらパチュリーに駆け寄った。
「あなたが盗もうとしたのは本じゃなくて魔法薬の材料だった。さっき図書館の外にある薬の保管庫を見てきて確認したわ」
 魔理沙は小悪魔に一瞥をくれてやると不貞腐れたように椅子に座った。
「ああ、そうだよ。私が盗んだよ。でも私は誰も突き落としたりなんかしていないぜ」
「ええ、魔理沙は殺妖精事件の犯人じゃないわ。ただし魔理沙が嘘をついているとわかった時点で大妖精が本当の事を言っている事が確定したわ。つまり、小悪魔が突き落とされた時に大妖精は一階にいたということよ」
 しかしそう言われても誰もピンとこなかった。大妖精が本当の事を言っている事に何か問題があるのだろうか?パチュリーは続ける。
「チルノは庭に出たものだと思っていたけれど小悪魔が厨房から出る直前に厨房を訪れているわ。そしてチルノの様子を見に行ったレティもチルノが庭にいなければ当然館の中に入ったでしょう?」
「えぇ」
 レティが答える。パチュリーはほくそ笑んだ。
「つまり、小悪魔が階段から突き落とされる時館の中にはチルノ、大妖精、レティの3人がそれぞれいた事になるわ。紅魔館全体を考えれば広くて特定はできないけれど、あなた達の行動範囲は階段と厨房、庭を中心にした一階の限られた空間でしかない。誰かが小悪魔が突き落とされる現場に居合わせても不思議じゃないと思うのだけど」
 パチュリーの視線は俯く大妖精に注がれた。
「あなたは最初、『小悪魔が階段から落ちて死んでいる』と告げたわ。小悪魔が突き落とされるのを見ていたんじゃないかしら?」
 大妖精は首を激しく横に振った。
「見てません!私は何も見てません!」
 その様子を見てパチュリーは大きく息をついた。
「あなたがそこまで庇うという事は、小悪魔を突き落としたのはチルノね」
 ハッと大妖精は顔を上げる。その顔が正解だと語っていた。
 魔理沙が当惑した表情で立ち上がる。
「チルノが小悪魔を?でもちょっと待てよ、チルノだって同じ目に会っているんだぜ」
 パチュリーは続ける。
「チルノとしてはほんのイタズラのつもりだったんでしょうね。月並みだけど子供というのは時に残酷なものよ。悪ふざけだったのか、雪合戦で負けた腹いせか。ただ、小悪魔が突き落とされる時までチルノが生きていた事がわかれば後の犯行時間は限られてくるわ。犯行が可能なのは館の中を歩いていたレティか、私達と一緒にいたけど途中で席を立った大妖精」
「だとしてもだぜ、こいつらがなんでチルノを殺さなきゃならないんだ?動機が無いぜ。それこそ小悪魔の復讐って言うなら分かるけどよ」
 魔理沙が疑問を口にする。
「ええ、そうね。小悪魔にやったことの仕返し。動機としては十分ね。でもこの状況下でもう一つだけ動機がうまれるのよ」
「動機が?」
「チルノが悪い事をした時、それを叱るのはあなたの役目ね。レティ」
 パチュリーは今まで黙って話を聞いていたレティを指さした。一同の視線がレティに注がれる。
「チルノが小悪魔を突き落とす場面を大妖精の他にもレティ、あなたは見ていた。そして大妖精が去った後に小悪魔の無事を確認したのね。小悪魔がチルノの仕業だと気付いていない事を知ったあなたはチルノを叱らなければならないと思った。その後あなたがチルノを探したのは罰を与えるつもりだったからよね」
 小悪魔はレティがチルノの姉のような、保護者のような存在である事を思い出した。
「でも、いくら罰だからって本当に突き落とすなんて」
「突き落とすつもりなんて無かった!」
 レティが突然声を上げた。
「私は小悪魔に対して謝るようチルノに言おうとしただけなのよ。でもチルノが言う事聞かなくて、腕を掴もうとした時に弾みで」
 声を荒げて自供をしたレティを目にして小悪魔はパチュリーの方を見た。
 自分の主が敢えて『罰』などという言葉を口にしたのはレティから自白を引き出すために思えた。もしもこの事件がレティが冷酷な殺人者ではなくチルノを愛しているがゆえに起きた事件ならば、罰を与えたなどと言われて我慢できるとは思えない。
「だからってこのまま黙ってるつもりだったのかよ」
 魔理沙が責めるような口調で言ったがレティは怯まなかった。
「じゃあ魔理沙は言えるの?生き返ったチルノに『あなたを殺したのは私よ』って」
「それは……。できる事なら言いたくないけどさ……」
 魔理沙は口ごもった。レティは次にパチュリーの方を見る。
「あなたも黙っていてくれるかしら?」
「あなたがそうして欲しいならそうするわ」
 パチュリーの言葉に小悪魔も魔理沙も驚く。だがパチュリーはさらに続きの言葉を発した。
「でも、小悪魔にした悪い事を謝らせるんだったら、まずはあなたがチルノに謝らないといけないわね」
 レティはハッと息をのんだ。
「さ、そろそろチルノが生き返る頃ね。私は図書館に戻ろうかしら。いくわよ小悪魔」
「えっ、はい」
 部屋を出て行くパチュリー、慌てて続く小悪魔と入れ替わるようにチルノが部屋に入って来た。
どうして自分がここにいるのかよくわかっていない。そんな顔をしながらレティを見上げる。
 レティがチルノから目を逸らして立っているのを小悪魔は不安げに見送った。
少し残酷な気もする。だが、真実はレティの口から語らなければならないのだ。チルノのこれからの成長のためにも。そして何よりレティとチルノがいつまでも仲良くいるためにも。
 そう信じて小悪魔はドアを閉めると主の背中を追ったのだった。
 東方でサスペンス的な話が読みたかったので書いてみました。
 創想話には初投稿なので不具合が出てないかビクビク。
 1話完結の第1話ではありますがイベントで別の話を2話出しているので実際は3話目。ただし時系列的には一番最初です。(いるとは思えないけど生身の本を持ってる方へ)
 またそのうち2話目も投稿したいです。
 よかったらこちらにも感想を
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TG
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コメント



0.460簡易評価
7.90名前が無い程度の能力削除
文は下手に詰まっていることもなく読み易かったのですが、簡単な漢字変換がなされていない箇所が多かったのがちょっと気になりましたね。次回はここを注視して推敲されると良いかと思います

話は良かったです。サスペンスと云われるとう~ん、てなりましたが(笑)
次回作、期待して待っています。あと無性に餅が食べたくなってきた!!
8.80名前が無い程度の能力削除
「ほう。で、そのお金はまさか本を売って工面したんじゃないでしょうね」
「ま、まさか~」
 ただし、新しい本を買うように咲夜からもらったお金だった。当然それは黙っておく。
ただし、の使用法に違和感が。

それと、唐突に推理が始まるので、そこにいたるまでの過程をもっと丁寧に書いたほうがいいと思います。
11.30名前が無い程度の能力削除
妖精って便利だよね