Coolier - 新生・東方創想話

八雲さんのアレを強引に広げた結果、八雲さん涙目の巻

2012/04/08 21:07:29
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 季節は春。桜景色は博麗の神社からも実に美しく楽しむことが出来る。それはさながら桜でんぶのように鮮やかで、何か腹減ってきた、と、その神社の巫女は以前魔理沙にそう言っていた。

「ふんぬぬぬぬぬぬ……!」

 そんな神社の巫女、博麗霊夢が、縁側の外で踏ん張っていた。一応言っておくが便所じゃない。中腰になって何かを引っ張っている、いや押している? とにかく、何かに対し力んでいた。

「……何やってんだ霊夢?」
「あ、魔理沙、ちょうどいいとこに来たわね」

 こっそり茶菓子をクスねに来たつもりの魔理沙であったがこの日は計画変更。奈良漬のような暇潰しの香りがしたからだ。

「ちょっとこれ見てよ。これをどう思う?」

 霊夢の目の前にあったもの。それはちゃぶ台……の上にある煎餅……のちょっと上。
 ちょうど賽銭箱の隙間と同じくらいの長さと幅の……、

「すごく……スキマだぜ」
「紫のやつまた私の煎餅勝手に齧ってったのよ」
「まるで泥棒だな」

 そこに開かれた小さな不自然空間を無理やり閉じようとしている霊夢の姿は、実に酒の肴になりそうな滑稽な光景であった。

「でも、これが何だってんだ?」
「いや、よく見てみなさいよこれ。中途半端に半開きなのよ? 何かすごいムズムズするじゃない」

 閉め忘れたのだろうか? 煎餅をクスねておきながら証拠を残してしまうとは、泥棒としては二流だなと魔理沙は思った。

「ん? 待てよ……?」
「何してんのよ魔理沙、スキマの中なんか覗いちゃって」

 その時魔理沙の頭上に豆電球が光った。やれやれこういう時だけは妙に頭の回転が速いと、魔理沙は思わず頬を震わせた。今なら桜花閃々を箒でパリィしたとしても何ら不自然ではないだろうとさえ思えた。

「なあなあ霊夢、こん中覗いてみろよ」
「何よ、覗いたって気色悪い目ん玉だらけ……」

 魔理沙も最初はそう思っていた。ところがどっこいほいさっさ。霊夢の目に映ったのは、自然な太陽の光に映される光景だった。

「何が見える?」
「和室ね……結構質素な。ちゃぶ台の上に雑誌が置いてあるわ……週刊二度寝って書いてある」

 スキマの先の誰かさんの家。それが誰の家なのか? それは言うだけ野暮だろう。推理小説のページにドッグイヤを作るくらい野暮だ。

「……ははーん」

 その時の霊夢の顔と言ったら、それはそれは黒い笑顔を浮かべていた。その巫女服が白黒だったとしても何ら不自然さが無い程に。

「閉めるなんて勿体無い……そう思わないか?」
「ふっふっふ、魔理沙も悪よのう……」
「いやいや巫女様ほどでは……」

 普段のんべんだらりと日干しの洗濯物のように映えない巫女は、こんな時に限ってノリがいい。だからこそ、魔理沙も霊夢を誑かすのだが。

「んー……でもこれ開くにしても多分一筋縄じゃいかないわよ? さっき閉めようにもびくともしなかったもの」

 仮にも大妖怪が作った穴だ。他人がホイホイ閉じたり開けたりは出来ないだろう。
 でももし開いたら……長年謎に包まれてきたあの八雲紫のプライベート大放出となることは間違いないだろう。どこぞの山の天狗じゃなくとも興味が湧く。

「まあ、とりあえず閉めて駄目なら開けてみろだ。私が下げてみるから霊夢は上げてみろよ」
「なんとかなるかしら……」

 一人で駄目なら二人でよいしょ。何事もトライが魔理沙のスタイルである。物ではないモノに触れるのはどうかという疑問も浮かんだが、穴があるなら輪郭があるのは世の道理だ。

「それじゃあ、せーのでいくぜ?」
「準備OKよ?」

 手をかけてみると、なるほど確かに指が引っかかった。人が通れる大きさの穴にまで開くかどうかは疑問だが、力をかけることが出来るなら、穴があったら入りたい。入れないなら広げたい。

「いくぜ……せーの!」
「ふんっ!」
「ふぬっ!」

 腹の奥底に力を込め、二人は引っ張った。なるほど硬い。霊夢がてこずるわけである。しかし今度は二人がかり。そんな根拠のない小さな希望が、二人の心に火を着けていた。

「んぐぐぐぐぐ……!」
「ぬええぇぇぇ……!」
「イギギギギギ……!」
「ヒギイィィィ……!」

 しかしどうしたことか、全く開く気配はない。二人がどれだけ力んでも、半開きのスキマがその力に反応している様子はない。次第に二人にも限界が近付く。霊夢と魔理沙は互いに目を合わせ、残された力を振り絞った。

「魔理沙ああぁぁ!!」
「いっぱあぁぁつ!!」

 腹筋を急激に締めると、横隔膜が押し上げられ、自然と声が漏れ出すという。スポーツなどで声を出さないより出したほうが記録が伸びるというのには、そう言った科学的根拠がある。尤も二人がそれを意識して奇声を上げたかどうかは定かではないが。

「ぷはっ」
「ぐへっ」

 しかし大声一つで開くほど、スキマは甘くなかったらしい。神社の外まで響いたであろう大声に肺の空気を全て出し切り、二人はその場の尻餅をついてしまった。

「はぁ、はぁ……全然駄目ねこれじゃ……」
「ああ……やっぱ力任せじゃ駄目ってことか」
「いや、違うわ」

 既に諦めムードの魔理沙とはをよそに、霊夢は立ち上がる。

「力が足りなかったのよ」
「いやいやちょっと待て、今ので大体分かったろ? 感触からして1ミリも動いて無いんだぜ? 神社の鳥居を素手で運ぶくらい無理だってこれ」
「それなら鳥居だって動かすまでよ!」

 どうやら自らの手でスキマをこじ開けるまで諦めがつかなくなってしまったようだ。ぐっと拳を握りスキマを睨む霊夢を見て、魔理沙は思った。あー、これ変なスイッチ押しちゃったなと。

「魔理沙……ちょっと借りるわよ」
「え、霊夢……いや霊夢さん? それで一体何するつもりなんでしょうかねえ?」

 おもむろに霊夢が握り締めたのは、魔理沙の愛用している箒だった。とてつもなく嫌な予感が魔理沙に走った。いやこれは予感ではない、悪寒だ。

「こういう時は頭を使わなきゃ」

 躊躇なく、霊夢は箒の柄をスキマに突っ込んだ。

「あーなるほどね、梃子の原理を使って……て、ちょっと待て待て待て!」
「止めないで魔理沙! 私達はこいつに負けるわけにはいかないのよ!」
「無理無理無理無理! 折れるって! 箒折れるから絶対!」
「私の名前は博麗霊夢……幻想郷の巫女に不可能は無いのよ。無理の一つや二つくらい気合で押し通してみせるわ!」
「気合で何とかなる問題じゃないって!」

 ミシミシ音を立て始めた箒をむんずと掴み、魔理沙は何とか霊夢を引き剥がす。こんなに背筋が凍ったのは、魔理沙が仕掛けたヒップアタックに合わせてレミリアがグングニルを投げてきた時以来であった。

「フー! フー! 邪魔をしないで魔理沙……貴女から広げるわよ!」
「何言ってんだお前!?」

 霊夢は完全に興奮してしまっている。たかだかスキマとはいえ、妖怪が作ったものに軽くあしらわれているという現実が、霊夢を凶行に駆り立てているのかも知れない。魔理沙はそう思った。

「とにかく落ち着け、深呼吸だ! 吸って!」
「スー!」
「吐いて!」
「スー!」
「吸ってるだけじゃ駄目だろォ!」

 悲しいかな、もはや妖怪に負けられないという巫女のプライドだけが、霊夢を突き動かしていた。





「……おんや?」

 時計の針が十時を過ぎた頃である。それは射命丸文がちょうど人里で新聞のネタ集めを終え、暇潰しがてら空中散歩を楽しんでいる時であった。博麗神社の方角から妙な大声が聞こえたのだ。

「これはこれは……んふふ、大スクープの匂いがしますね。それもとびっきりの」

 神社は良いネタの名産地だ。春の色が濃くなってきたこの時期はまさに旬。桜の香りに紛れて匂う極上のスクープの香りに誘われ神社に降り立った。そんな彼女の視線の先に映ったものは、

「いいか霊夢、深呼吸だ深呼吸!」
「ひっひっふー……ひっひっふー……!」
「近いけどそうじゃない! 頼むから落ち着いてくれよぉ!」

 映ったものは……なんだろう、これ。だった。

「えーと……お邪魔しました」

 スクープだと思った匂いはどうやらトラブルの匂いだったらしい。文は早々に撤退すべきと判断した。しかし背を見せようとした僅かな間、魔理沙と目があった。それが運の付きだった。

「ま、待ってくれ文!」

 呼吸をしているのか呼吸困難なのか分からない霊夢を放置し、魔理沙は文に近付いてくる。これはまずい! 咄嗟に飛び立とうとした文だったが、魔理沙が彼女のスカートを鷲摑みしたのが僅かに早かった。

「ってどこ掴んでるんですか!」
「た、頼むから協力してくれ! 私を一人にすんな!」
「わ、わわわわーかったから取り合えず手を離してください! 脱げちゃう! スカート脱げちゃいますから!」

 脱げるどころかスカートが破けそうな勢いである。妖怪の山一の脚線美(自称)を誇るブランド物の生足と、なんとなく気分で穿いた勝負下着を公の場で大公開するわけにはいかない文は、渋々地面に足を降ろした。

「やっぱり梃子の原理を……!」
「だからやめろってんだよ馬鹿!」

 そして魔理沙は再び箒に手をかけようとした霊夢に容赦なくヒップアタックをお見舞いしたのだった。

「で……一体何があったんですか?」

 結局、茶の間でしばし休憩をとることにした。霊夢も魔理沙も散々スキマを引っ張ってからは内輪で揉めていただけだったのだが、それが予想よりも体力を消耗してしまったらしい。お茶で喉を潤し、霊夢もようやく落ち着きを取り戻した。

「見てのとおり、あのスキマを何とかして抉じ開けようとしてたんだが、うまくいかなくてな」
「へえ、スキマを……確かにあの中に入ることが出来たら大スクープも間違いないですねえ」
「だろ?」

 流石は新聞記者、飲み込みが早い。近隣妖怪の中でも比較的頭の切れる。文なら、何か良い策を思いつくかもしれない。魔理沙は話に食いついた文を見てほくそ笑んだ。

「で、一体どんな方法で開けようと?」
「力技で」
「箒で」
「馬鹿なんですか?」

 流石幻想郷最速の天狗。見事な速さで霊夢と魔理沙を切り捨てた。

「大体筋力で空間開けるんだったらこの世のマッチョは皆好きなとこに行きたい放題じゃないですか。仮にも妖怪の賢者が操る未知数の能力なんですよ? 対抗するんだったらもっと頭を使うべきだと思いま……す?」

 人差し指を立てながらうんうんと一人納得した様子で説教する文。しかし言い終わる頃には既に二人のしかめっ面がずいっと目の前にあった。

「なら文、あんたには何かいい案があるわけ?」
「え?」
「頭のいい新聞記者様だもんなあ、無いわきゃないだろ……?」
「あ、いや、えーとその……」

 あたふたしたところでこの二人の気が治まるわけが無い。頭の足りない者は足りない者なりに、考えて行動をしているものなのだ。それを貶されたことへの反感は大きい。文はそれを忘れていたのだ。

「まさかとは思うけど偉そうなこと言っておいて、何も考えてませんでしたとは言わないわよねえ……?」
「あ、あはは霊夢さん、ちょっと目が怖いですよ……?」

 尻餅ついたまま後ずさる文を、二人はじりじりと追い詰める。とうとう壁際まで追い込まれ、文はひぃっと声を漏らした。

「あ、そうだ文、私いいこと思いついたわ」
「い、いいことですか……?」

 追い詰められた小鹿のようになりながらも営業スマイルを作ってみせる文に、霊夢はにっこりと、実に爽やかに微笑んだ。

「あなた、あのスキマに幻想風靡しなさい」
「ええぇぇ!?」

 あまりにあんまりな提案である。幻想風靡、幻想郷最速であることを象徴する、文の超高速突進技である。

「なるほど筋力が駄目なら突進力だな」
「さ、さっきまでの話聞いてました!? そんなでどうこうなる問題じゃないですって!」
「やってみなけりゃ分からんだろう」

 魔理沙は既に乗り気だ。いや、この場合どんな案だろうとも、自分に被害が及ばないなら彼女はなんだって賛成する。霧雨魔理沙はそういう女だ。

「文、このスキマを見事ぶち抜いた暁には、貴女は幻想郷で最高の新聞記者になれるのよ?」
「さ、最高の新聞記者……?」
「前人未到の八雲紫のお宅訪問……こんなチャンスは滅多に無い。そうでしょう?」
「た、確かにそうですけど」

 そう、これはあくまでも偶然に起こった出来事なのだ。あの紫がスキマを閉じ忘れるという失態。それに出くわす機会は今後訪れることは無いだろう。これは若手新聞記者に訪れた千載一遇の大スクープ独占のチャンスでもあるのだ。

「それにね、私はやって欲しいって頼んでるんじゃないのよ?」
「え……?」
「やれ」
「強制ですか!?」

 結局、文はやる羽目になった。お茶を飲んでいる時にカメラを魔理沙に奪われてしまっていたのだ。既に人質は取られている。やるしかない。

「よーし、それじゃあ早速張り切って当たって砕けなさい」
「ぐぬぬ……この一件は高くつきますよ……!」
「大丈夫大丈夫、文がスキマをぶち破る瞬間は、ちゃんとカメラに収めてやるから」

 霊夢はぼりぼりと煎餅を齧り、魔理沙は滅多に触らないカメラを弄りながら呑気に高みの見物を決め込んでいた。ぎりりと歯を軋ませながらも、文はスキマから徐々に距離を取る。助走距離を取っているのだ。文の突進が最高速度に達する瞬間にスキマに激突しなければ、このスキマを抉じ開けるのは難しいだろう。

(通常の二倍の距離から、両足の跳躍による加速で更に倍、回転を加えて突進すれば、幻想風靡は次元の壁すら破壊する! はず!)

 とりあえず脳内で出来る限りのシュミレーションは行った。あとは自分の力を信じて、その手でスクープを掴み取るだけだ。

(やれやれ困ったものですね、どう考えても無謀なのに……)

 一枚の桜の花びらが、文の頬に貼りついた。気付かぬ間に汗を垂らしていたらしい。文は自嘲する。明らかに勝算の低い賭けであるにもかかわらず、自分は興奮しているのだ。盛大に脳震盪を起こすリスクより、かつてない一大スクープを取り上げたいという欲が、頭のいいはずの天狗を愚行に駆り立てていたのだから。

「文……あんたの一撃が、幻想郷の歴史を変えるわ」
「安心しな。歴史の証人はちゃんと二人いるからな」
「大袈裟ですよ二人とも。でも……」

 頬に付いた花びらを手に取り、文は霊夢と魔理沙に微笑む。

「幻想郷最速記録が上書きされるのは、間違いないでしょうね」

 その花びらを握り締め、文はその先にあるスキマに照準を合わせた。

「文々。新聞記者、射命丸文……幻想郷最速の名に懸けて、スキマを貫く!」

 極限にまで脱力を維持していたふくらはぎは一瞬で硬直し、文の跳躍を受けた地面は深く陥没した。既にその場に文はいない。風は人の目には映らない。一陣の風と化した天狗は一切の恐怖をすて、一片の迷いもなく、一点だけを狙い定め、

「幻想風――」

 ゴシャッ

「ぶっ――!」

 そして彼女は風になった。





「あら、何かしら今の音」

 アリス・マーガトロイドがその大きな衝突音を耳にしたのは、博麗神社の鳥居をちょうどくぐった時だった。以前霊夢に半ば強引に頼まれていた服の修繕を終え、それを届けに来たのだ。

(また誰かと弾幕ごっこでもやってるのかしら。暇な連中は呑気なものね)

 面倒事に巻き込まれるのは御免だが、折角ここまで来たのだ。届けるだけ届けて早く帰ろう。アリスは音のある方、縁側へと足を運んだ。

「あー……やっぱ駄目だったか」
「ちょっとは期待してたんだけどがっかりね」

 そこにいたのは霊夢と魔理沙、そして、ボロ雑巾のように倒れて目を回している新聞記者だった。

「はあ……一体何やってるわけ? 二人そろって天狗苛めでもしてたの?」
「あら、アリスだわ」
「お、アリスだぜ」

 つんつんと箒で文の死体(?)をつつくのを止め、二人はアリスに注目した。



「スキマを無理やり天狗で壊そうなんて、ずいぶん無茶を考えたものね」
「まあ、結局失敗に終わったんだけどね。天狗は見ての通りよ」

 一通りアリスに説明を終え、霊夢は文を指差す。スカートがめくれあがった状態で失神している文は、未だに目覚める様子はない。

「見事にパンもろ状態で気絶してるわね」
「ええ、残念だけど彼女は散ったのよ……パンもろ状態で」
「……可哀想だからパンチラくらいで許してあげなさいよ」
「それもどうかと思うぜアリス」

 とにかく文をパンチラ状態で休ませながら、アリスは腕を組んでうーんと唸った。

「まあ筋力は論外として、文の本気の突進でも壊れないとなると結構な頑丈さよね……」

 結局アリスは誘わずともスキマに興味を示した。魔法使いの性か、未知の研究対象を目の前にして血が騒いだのだろうか?

「何かいい案無いか?」
「案ねえ……」

 魔理沙に聞かれ、流石のアリスも表情を険しくする。しかし出来る女、アリス・マーガトロイド。頼りにされてその期待を裏切るほど軽薄ではない。

「筋力で駄目、突進力で駄目、ならば……」
「ならば……?」

 次の言葉に、霊夢と魔理沙は固唾を呑んだ。

「合体技……かしら」
「が、合体技……?」

 曖昧な言葉に二人は首を傾げる。

「文一人の本気で駄目だったなら、全員の力を集結させてあのスキマに打ち込む以外に方法は無いんじゃないかしら」
「えー……でも多分あのスキマじゃファイナルスパーク撃った所でびくともしないぜ?」
「だからこその合体技なのよ。霊夢の夢想封印、魔理沙のファイナルスパーク、そして私のレミングスパレードを合せた時……どれほどの破壊力を生み出すと思う?」

 その説明を受け、二人は黙る。きっと想像も出来ないほどのエネルギーがスキマを襲うだろう。何よりも合体技というその響きだけで、二人はごくりと唾を飲んだ。

「やってみる価値は、ありそうね」
「やらずに後悔するよりは、やって後悔、だな」
「決まりね」

 三人は腕を前に突き出し、それぞれの拳を軽くぶつけた。かつて永夜の異変で争い合った三人がこうして手を組むことになろうとは、誰が予想したであろう。この奇妙な巡り会わせに、三人は笑みを零したのだった。

「まずは準備段階。爆薬をたんまり仕込んだ大江戸からくり人形をスキマに大量に埋め込む」

 その数10体。小さなスキマに押し込まれたからくり人形は頭だけ顔を出し、こちらを見ていた。

「アリス……これなんかすっごい罪悪感あるんだが」

 せめて頭を突っ込んで尻だけ見せる状態にして欲しかった。流石の魔理沙も大量の人形に見つめられては気が引けた。

「大丈夫よ。修理はあとでちゃんとやるし」
「迷いは捨てなさい魔理沙。これは失敗の許されない最後のチャンスなのよ」
「……分かったぜ。思いっきり撃ち込ませてもらう」

 三人は位置についた。今まさに、来るべき新たな歴史が刻まれようとしていた。大妖怪、八雲紫のスキマを物理的に破壊するという大偉業。一陣の風が、少女達の髪を躍らせた。ついでに文のスカートをめくった。

「私の人形達がスキマに近付いた瞬間にスキマにありったけの攻撃を加える……いいわね?」
「いつでもOKだぜ」
「これで終わるのね……この長い戦いも」

 風が止んだ。アリスはすうっと息を吸い込み、霊夢は静かに気を集中させ、魔理沙は八卦炉を真っ直ぐに構えた。

「人形「レミングスパレード」!!」





「まったく、藍にも困ったものね」

 八雲紫が家に戻ったのは、陽が十分に昇った午前の日であった。結界の管理をしている藍が呼ぶものだから何かあったのかと行ってみたら、何でも新しい弾幕の開発に成功した、とのことであった。

「まさか橙の幻影を弾幕にして撃ってくるとは思わなかったわ」

 新しく開発したという橙型弾幕。相手は手出し出来ずに死ぬ、とのこと。勿論紫は却下した。それを見た橙本人がへそを曲げることが目に見えていたからだ。

「いくら結界の管理が暇だからといっても、もうちょっとまともな趣味の一つでも作って欲しいものね」

 正直に時間を無駄にしたと思えた。寝起きでアクティブなことをするものではないとつくづく思う。こういう時は早く自室に篭り、有意義に睡眠を取るのが一番いい。部屋の襖を開け、紫は目を丸くする。そこには見慣れぬものが宙に浮いていたのだ。

「あら……何これ」

 そこに浮いていたのは、横一列に並べられた人形の尻だった。どうやらスキマに挟まっているようだ。

「あらやだ。閉め忘れたのかしら」

 やはり寝起きで動くものではないな。紫はそう思いながら人形を押す。しかし動かない。ぎっしりと敷き詰められているため、押すことも引くことも出来ないのだ。

「誰の悪戯かしら」

 閉め忘れたから文句は言えないが、随分と手の凝ったことをしてくれたものだ。やれやれと溜息を吐き、紫は中途半端に開いたスキマを抉じ開けた。

「今よ! パワーをスキマに!」
「「いいですとも!」」
「は?」
「夢想封印!!」
「ファイナルスパーク!!」
「どぅええええええええええええ!?」

 開いた瞬間紫が目にしたものは、大量の人形達、色鮮やかな光の弾、極太のレーザー砲、それらが全て自分に向かってくる光景だった。そして脇で倒れている誰かの派手なパンツだった。

「ぬぅん!」

 慌てて紫はスキマを締めた。しーんと静まり返る室内。響くのははぁはぁと息を荒げる自分の呼吸音だけだ。何個かこちらに残ったままの人形を見て、紫はしばらく動けずにいた。正直心臓が止まるかと紫は思った。大きく深呼吸し、紫はようやくその場にへたり込んだ。

「わ、私……そんなに恨まれてたかしら……?」

 ばくばくと止まらない心音。スキマの先にいたのは間違いなく、巫女と魔法使いと人形使い。三人が殺気立った顔でこちらに本気の攻撃を仕掛けていたのは間違いなかった。

「……」

 紫は背筋が凍るのを感じた。何をしたかは分からないが、自分は殺されかけた。その事実だけは消し去ることの出来ない事実だったのだから。

「……あ、明日菓子折りでももって謝りに行こうかしら……」

 紫は布団に潜り、その日一日震えて過ごすことにした。しっかり寝て、明日の夕方くらいまで飽きるくらい寝てから霊夢に菓子折り持って謝りにいこう。紫はそう決めた。やはり寝起きに動くのは良くない、良くないのだ。紫は心底そう思った。









 翌日、紫は博麗神社に恐る恐る足を運んだ。そして霊夢にこっぴどく怒られた。

 何故、スキマを閉じたのかと。

 それを聞いた紫が神社の茶菓子を全て奪い去り、一週間引き篭もったのは言うまでもない。

 ~完~
 麦とホップの黒にハマってます。久々です。
 今回は完全にやりたいこと前面に押し出した感じの話になりました。
 今度はアリスをまともに書いてあげたいとか言っておきながらこの体たらく。ごめんアリスさん。
 スキマを開く(物理)。とりあえずこの発想だけで突き抜けちゃいましたね。実にストレートです。直線勝負です。結論、全員馬鹿です。
 今度はもうちょっと頭を捻った作品を作ってみたいものですね。しかしなんで自分の作品はこうカオスなのが多いんだろ……?
 当初は紫さんに攻撃食らって頂く予定でしたが、本気で死にそうなので却下したのはここだけの話。

 今回も読んでくださった方々、ありがとうございました。次回こそはシリアスなお話で会いたいものです。では、また。

※ タグにアリスがハブられていたため追加いたしました。
久々
[email protected]
https://twitter.com/#!/hisabisa4
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コメント



0.2760簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
>尤も二人がそれを意識して奇声を上げたかどうかは定かではないが
ピクッ
アリスの発想が怖すぎるww
9.100名前が無い程度の能力削除
制圧前進あるのみ!
そりゃ引きこもりますわな…
17.100名前が無い程度の能力削除
皆さんどこか少しずつズレている気がしますが、これが通常運行な気もします
しかし、都会派的な発想とは何なのだろうか
27.100名前が無い程度の能力削除
ファイナルスパークと夢想封印で押し出した文で爆弾人形を起爆。これなら確実にスキマもやれる!
42.100名前が無い程度の能力削除
速度を上げて物理で開けばいい……文ちゃん、御愁傷様です。
43.80名前が無い程度の能力削除
みんな待て、霊夢たちがズレてるとかいうけど
「昼間も外出したいというだけで、世界を霧で包んだ」
「ついうっかり、冥界とこの世の境界を閉じ忘れた」
「月の使者が来ると思ったけど、よく考えれば、ここって結界の内側だから、これるわけありませんでした。てへぺろ」
こういうのが普通の世界において、「レベルを上げて物理で殴ればいい」っていう発想なんて、むしろ健全なんじゃなかろうか
46.100名前が無い程度の能力削除
>翌日、紫は博麗神社に恐る恐る足を運んだ。そして霊夢にこっぴどく怒られた。
>何故、スキマを閉じたのかと。

博麗神社で合体技が炸裂したんですね、わかります
50.100名前が無い程度の能力削除
面白かった(小並感)
52.90名前が無い程度の能力削除
>魔理沙が仕掛けたヒップアタックに合わせてレミリアがグングニルを投げてきた時以来であった。

詳細求。バカやってるのは好きです。
53.60名前が無い程度の能力削除
FFじゃねーかw
普通に楽しかったのでこの点をば