Coolier - 新生・東方創想話

従者に愛を込めて~前編・お嬢様、門前に立つ 後編・シェフスカーレットスペシャル~

2012/04/07 15:01:18
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ある朝、紅魔館の主、レミリアは、真剣な表情で、カレンダーを眺めていた。
その様子に気が付いたのは、彼女の従者である、咲夜だ。

「うーん」
「あら、お嬢様。どうなさいました? 顔面が歪んでますよ?」
「もうちょっと、別の表現は出来ないの?」

どうにも嫌な気分になる発言を受け、レミリアの顔面が更に歪む。
が、今更こんな事で腹を立てていては、この館の主人は、やっていられない。
一般的な精神を持つ者がレミリアの立場になれば、三日で胃に穴が開くだろう。
紅魔館の住人は、曲者揃いなのだ。

「ちょっとさ、気になる事があって」
「と、言いますと?」
「ほら、父の日とか、母の日ってあるじゃない?」
「ありますね。五月くらいでしたっけ」
「あれってさ、日頃の感謝を表す、みたいな行事じゃない?」
「まあ、多分そうですね」
「で、思ったんだけどさ」

そう言いながら、レミリアはカレンダーをパラパラと捲る。
一月から十二月があっという間に過ぎ去ったところで、こう言った。

「主人が自分の従者に感謝する日って、見当たらないのよね」
「はあ、確かに‥‥あ、勤労感謝の日っていうのがありますね」
「それは、別に自分の従者に限った話じゃないでしょう? 里で生活してる人間とかに、社会を回してくれてありがとう、って日じゃない?」
「うーん、そうかも知れませんね」

どちらともなく、二人は窓の外に目をやる。
数少ない窓から見える景色は、霧に覆われてるが、その向こうにある人里では、誰もかれもが今日も汗水垂らして働いているだろう。
勤労感謝の日は、恐らくそういう者達のための日だ。

「と、いうわけで、私は考えたわ。無いなら、作ってしまえばいいのよ」
「従者に感謝する日を、ですか?」
「その通り。自分で言うのも何だけど、私はいつも、あなた達におんぶに抱っこ。ちょっと、どうかと思うわけよ」
「そうは言いましても、お嬢様なんですから。おんぶされて抱っこされてるのが仕事っていう部分もありますし‥‥ほら、赤ん坊は泣くのが仕事、とか言うじゃないですか」
「言いたい事はわかるけど、その例えは釈然としないわね‥‥」
「それに、具体的にはどういう日なんですか? 従者の日」
「そうねえ‥‥まあ、普段任せている仕事を、主人が代わりに頑張る日ってところかしら」

レミリアの答えに、咲夜は暫し考え込む。
そして、すぐに首を振った。

「ダメですね。私達、何人いると思っているんですか」
「ん?」
「大部分は私が担当しているとは言え、妖精達も、数に物を言わせて、そこそこな量の仕事をしてますからね。いくらなんでも、一人でそれの代理をするとなると‥‥」
「うっ」

咲夜の指摘は尤もである。
一匹一匹の担当する仕事量は微々たるものでも、館内には無数の妖精メイドが働いている。
ちりも積もれば山となるのだ。
加えて、広い紅魔館での膨大な仕事を遂行出来ているのは、咲夜の時間操作能力によるものだ。
それを、レミリア一人でカバー出来るとは思えない。

「それに、お嬢様に仕えているのは、館内で働いている者だけじゃありませんからね。美鈴達の仕事も代わるおつもりですか?」
「館の中で仕事をしながら、門も見張って、もしも誰かがやって来たら応対して、場合によっては戦って‥‥」
「出来ますか?」
「頑張れば」
「無理です」

きっぱりと言い放つ咲夜。
主人の間違いを正すのも、立派な仕事なのだ。

「うーん‥‥じゃあさ、あなた達の仕事を、少しずつ手伝うって言うのは?」
「少しずつ‥‥と言いますと?」
「例えば、しばらくは私が門番を代わりにやって、夜ご飯も私が作る、みたいな」
「ああ、なるほど。‥‥それなら、可能かも知れませんね」

食い下がってくるレミリアの様子から、咲夜は察した。
要は、退屈なのである。
で、あるならば、一度思うがままにさせてみてもいいかも知れない。
万が一上手くいけば、御の字である。

「わかりました。では従者の日、ありがたくお願いしたいと思います」
「ふふ、大船に乗ったつもりでいなさい」
「ただ、外で働いている子達に関しては、私は決められませんので‥‥美鈴に話を付けて下さいね」
「わかってるわ。じゃあ早速話しに行って、そのまま働いてくるわ!」
「わかりました。では、お夕飯は期待していますので」
「任せなさい!」

自信満々に答えると、レミリアは玄関へ向かって行った。
空いたティーカップを片付けようと、咲夜が目線を落とす。
そこには、開かれた状態の本が置いてある。
見出しには「尊敬される上司は、率先して仕事をこなす!」の文字が躍っていた。






「と、言うわけで、今日はあなた達に代わって、私が門を守るわ」
「‥‥本気ですか?」

さて、門前へとやって来たレミリアは、早速美鈴に話を付けていた。

「本気も本気。日傘も持ってるわよ」
「しかし‥‥お言葉ですが、お嬢様」
「何よ」
「私達はですね、別に、門を守ってるわけじゃないんですよ」
「へ? 門番なのに?」
「いえ、まあ、門も守りますけどね? もっと大切な事があるんですよ。ねえ?」

ここで美鈴は、傍にいた妖精達に話を振る。

「その通りです! 私達が最優先で成すべきは、お嬢様を守る事!」
「守るべきお嬢様が門前にいらっしゃるとしたら、ぶっちゃけ、門なんてどうでもよくなります!」
「どうしてもと仰るならば‥‥お嬢様を守るため、お嬢様を倒してでも止めてみせます!」
「いや、それはおかしい」
「あり?」

ともあれ、彼女達の言う事もよくわかった。
守る対象が一番前線に出ているなんて、妙な話である。
宝箱にかけた南京錠が、一番高価だというようなものである。
違うかも知れない。

「しかし、お嬢様の好意を無にしたくないのも事実。そこで、こういうのはどうでしょう」
「どういうの?」
「お言葉に甘えて、お嬢様に門を守って頂きます」
「うんうん」
「そして、私達はお嬢様を守ります」
「うんう‥‥何それ」
「ですから、館を守るお嬢様を守る私達、という、鉄壁の二段構えですよ」
「それ、意味あんの?」
「ありますとも。それじゃ、早速仕事に戻りましょうか」

結局レミリアは、美鈴に流され、案を受け入れた。
その結果、いつもの門前にレミリアが追加されるという風景が出来あがったのである。
ステージ3にして、ラスボスの登場だ。
これが体験版だったら、難易度調整がおかしいゲームだと思われてしまう。

「‥‥ねえ」
「はい?」
「今回の趣旨は、あなた方を労おうって事なのよね」
「わかってますよ?」
「これ、普段と変わらないじゃん」
「いえいえ、大違いじゃないですか」

美鈴は、ニコニコと笑って答える。

「少なくとも、誰かが襲って来たら、タコ殴りに出来ます」
「そのセリフ、笑いながら言わない方がいいわよ。すっごい悪い奴に見える」
「あらま。それは心外ですね」

そんな会話をしていると、一匹の妖精が割って入ってきた。

「お嬢さま! これ、差し上げます!」
「ん? これ、何?」
「お花で作った首飾りです! きっと似合うと思って!」
「いいの? 嬉しいわ。綺麗な花ね」
「湖の畔に、穴場があるんですよ。珍しいお花もたくさんあります!」
「そうなの。今度案内して頂戴」
「勿論です!」

すると、その声を聞き付け、他の妖精もワラワラとやって来た。

「あ! ずるい! 私だってお嬢さまとお話したいんだから!」
「私が先だよ!」
「何よ! 順番守ってよね!」
「いいわ! こうなったら、どっちがお嬢さまと先に話すか、勝負よ!」
「ちょ、ちょっとあなた達‥‥」

これを皮切りに、レミリアは妖精達に囲まれ始める。

「め、美鈴。なんとかして頂戴」
「あはは、モテモテですね。しばらく私が見張ってますから、ゆっくり話し相手をしてあげて下さい」

レミリアの動揺をよそに、妖精達は嬉しそうに話しかけてくる。
今日はどんな夢を見た。
蝶々を捕まえたと思ったら、実は蛾だった。
鬼ごっこをしてたら本物の鬼を見付けた。

実に妖精らしい、他愛もない内容ばかりだ。
レミリアがそれに律儀に答えるものだから、話が途切れる事は無い。
その後も、ゆっくり、たっぷりと会話が続いた。
尚、先ほど喧嘩をしていた二匹は、23分52秒、ラ・マヒストラルで、先に話しかけた方の妖精に軍配が上がった。





「さあさあ、そろそろ見回りの時間でしょ? 行って来なさい」
「はーい」
「お嬢さま、また後で!」
「はいはい、気を付けてね」

時計の短針が一周した頃、美鈴の言葉で、妖精達は仕事に戻る。
解放されたレミリアは、美鈴の隣へと戻った。

「ふう、大変だったわあ」
「お疲れ様です」
「何だかんだで、一緒にお散歩したり、虫を探したりする約束しちゃったわ」
「あらあら」
「でもまあ、こんな機会も、あまり無かったしね。たまにはいいかも」
「ね? 十分な労いになってたでしょう?」
「‥‥まあ、ね。そうだと嬉しいわ」

紅魔館で働く妖精達にとって、レミリアは愛すべき主人。
しかし、普段はこんなに近い距離で、ゆっくり話をする機会には恵まれていない。
今回の件は、彼女達にとって、何よりのご褒美だったのだ。

「でも、美鈴は? 私の労う相手には、一応あんたも入ってるんだけど」
「私ですか? そうですねえ‥‥じゃあ‥‥」

美鈴は、あごに指を当てて考える。
そして、こう言った。

「思いっ切りビンタさせて下さい」
「ははは、明日三倍で返していいならやってみなさい」
「やめときます」

普段と変わらない会話。
だが、そんな平穏な時間こそが、美鈴の求めるものなのだ。

「‥‥しかし、何も無いと、物凄く退屈ねえ。妖精達もいなくなっちゃって」
「そうですね」
「あなた、毎日こんな思いしてんの?」
「まあ、そうですね。後は、お嬢様に借りてる漫画読んでたり」
「そりゃ昼寝もしたくなるわ」
「でしょう? 今度、ここにベッド支給して下さいよ」
「やだ」
「どうして?」

美鈴の質問に、レミリアはプイッとそっぽを向いて答える。

「そんな事して、美鈴が館に戻って来なくなったら、寂しいもん‥‥」
「お嬢様‥‥」
「何ちょっと喜んでんのよ。バカじゃないの」
「むむ‥‥」
「ははははは」
「ひどい‥‥本当に嬉しかったのに‥‥」
「え? ちょ、いや‥‥まあ、完全に嘘だったわけじゃ‥‥」
「何慌ててるんですか。バカじゃないの」
「きーっ!」
「あっはっは」

傍から見ていると、非常に不毛な。
だが、本人達にとっては、それなりに楽しい会話。
戻ってきた妖精達も加え、普段より少し賑やかな時間が、門前に流れていった。





「あっと、もうこんな時間ね」
「何か予定でもあるんですか?」
「この後、中の仕事も手伝うのよ」
「中の?‥‥お嬢様がですか?」
「そうよ。文句ある?」
「だってお嬢様‥‥四角い部屋を丸くどころか、一文字に掃いて終わりそうじゃないですか」
「うん、否定は出来ない。でも今回は大丈夫よ。なんたって、ご飯作るんだもん」
「え?」

それを聞き、美鈴の顔面が引き攣る。
しかし部下達は、その表情の変化にも気付かず、大はしゃぎだ。

「えーっ! じゃあ今晩は、お嬢さまの手料理が食べられるんですか!?」
「そうよー。あ、せっかくだから、あなた達のリクエストでも聞きましょうか。何食べたい?」
「ええ? それじゃあ、それじゃあ‥‥」
「普段、あまり出ないものがいいよね!」

美鈴は全力でジェスチャーを使い、制止を試みる。
が、それを気に留める者は誰もいない。

「あ! 中華! エビチリが食べたいです!」
「お、いいわね」

否、気付いた者はいた。
しかし、美鈴の衣服が災いし、料理のジャンルを決定付けるだけになってしまったのだ。

「エビチリね。エビチリ。うん、いいんじゃないかしら」
「やったー!」
「それじゃ、私はそろそろ戻るわ。期待してなさい」

そう言い残し立ち去るレミリア。

「楽しみですね!」
「はは‥‥うん、まあ、楽しみにしてるといいわ‥‥」

残されたのは、嬉しそうにはしゃぐ妖精達と、額に手を当てて項垂れる美鈴であった。






館内に戻ったレミリアは、厨房では無く、図書館へと向かった。
せっかく料理を作るのだ。
他の者の意見も取り入れ、豪勢な食事を振る舞おうではないか。
そう考えたレミリアは、まず親友の意見を聞く事にしたのだ。

「パチェ、あんた今日、何食べたい?」
「何よ、いきなり。そうねえ、強いて言うなら‥‥ミートグラタ」
「今日は私が作るから、遠慮しなくていいのよ」
「サラダ」

まさに電光石火。
既にほとんど口から出ていた答えを、レミリアの発言と同時に修正するパチュリー。
これぞ、磨き抜かれた頭脳の為せる技である。

「サラダ? いいけど‥‥随分お手軽ね」
「うん、サラダ。サラダが食べたいの。なるべくシンプルなやつ」
「まあいいわ。‥‥で、あなたは?」
「え?」

多少不満を感じつつも、了承したレミリアは、友人の傍に控える小悪魔に尋ねる。

「わ、私もいいんですか?」
「当然。今日は従者の日。パチェの使い魔であるあなたは、私の使い魔も同じよ」
「従者の日?」
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま、ですか。なるほど‥‥それじゃあ、お言葉に甘えて」

簡潔な説明を受けた小悪魔は、食べたい物を考える。
色々と思い付くが、あまり手間のかかる物を言うのも気が引ける。
先ほどから必死に念を飛ばしてくる、パチュリーも気にかかる。

「では、何かデザートが欲しいですね。甘い物が」
「あ、いいわね。考えてなかったわ。ナイス判断」
「ありがとうございます」
「でも、あまり手の込んだ物は出来ないわよ?」
「はい。わかりました」
「じゃ、他にも聞いてみるわ。また後でね」

図書館を後にするレミリアの背中を見送り、パチュリーは小悪魔に声をかけた。

「‥‥ナイス判断」
「へ?」
「シンプルならシンプルである程都合がいい。そういう事よ」
「はあ‥‥」





次にレミリアが向かったのは、図書館よりも更に地下。
フランドールの自室だった。

「フラン、入るわよ」
「んえ!? あ! ちょっと待って!」
「え?」

時すでに遅し。
フランドールの声を聞いた時には、レミリアは既に扉を開けていた。

「‥‥‥‥」
「‥‥ご、ご機嫌よう。お姉さま」

机に突っ伏し、あからさまに何かを隠しているフランドール。
その体勢のまま、入口のレミリアに顔を向けている。

「何してるの?」
「な、なんでもない! なんでもないから!」
「何よー。見せてくれてもいいじゃない」
「ダメ! 絶対ダメ!」

レミリアが近寄ると、更に必死になって机の上を隠すフランドール。
彼女の体の下には今、試行錯誤を繰り返した、自作のサインがいくつも書かれているのだ。
実の姉にこんな物を見られたら、死ぬしかない。

「‥‥まあいいわ。フラン、今日の夕飯、何が食べたい?」
「え? 何でお姉さまが聞きに来るの?」
「今日は、私がご飯を作るのよ」
「へえ! それじゃあね‥‥ハンバーグ!」
「ふふ、あなたは本当にハンバーグが好きね」
「うん! 二番目はカレーで、三番目はフキの煮物!」
「三番目だけ、ちょっとおかしいけど。まあいいわ。わかった」

そう言って、レミリアはフランドールから離れていく。
姉の手料理が食べられるとあって、期待に胸躍るフランドール。
そんな妹に、姉は一つ、アドバイスをした。

「あのねフラン。平仮名で「ふらん」がシンプルで可愛いと思うわよ」
「ぎゃあああ!」

ばっちり見られていたのである。





一通り希望を聞いて回ったレミリアは、厨房へ入った。
そこには咲夜を筆頭にメイド達が待機しており、手伝う気満々であった。
必要であろう、器具や材料も既に揃っている。

「お待たせ。悪いわね、準備してもらって」
「いえいえ。では、早速始めましょうか」
「あなた達はいいわよ。休んでなさい」
「しかし‥‥そうですね。では、仰る通りに」
「あ、そうだ。あなた達にも聞いておくわ。今日、何か食べたい物は?」
「そうですねえ。急に言われましても‥‥」
「ちなみに今のところ、エビチリにサラダ、ハンバーグとデザートを作る予定よ」
「豪勢ですね。では、スープなど如何でしょう? ちょうど、コースっぽくなりますよ」
「あら、いいわね。わかったわ。何のスープがいい?」
「コンソメ!」
「コーンポタージュ!」
「酸っぱくて辛くて、エビの入ってるやつ!」

一斉に声が飛び交う。
まるで、朝市にでも来たようだ。
このままでは収集が付かなくなると感じたレミリアは、片手を高々と掲げた。

「あいこも負けと見なすわ! せーの、最初はグー!」

紅魔館流の平和的解決を図った結果、無難に野菜スープで落ち着いた。
結果が出るまでに、十分近くの時間を浪費したのが、痛いところである。
ともあれ、こうしてメニューが決まり、いよいよレミリアの一人舞台が幕を開けるのだった。





それから数十分。
食堂に、咲夜や美鈴以下、レミリアに仕える者達が集まっていた。
勿論、フランドールやパチュリーも一緒である。
そこに、満を持してレミリアが入室する。

「いらっしゃいませ。ビストロ・スカーレットにようこそ」
「ビストロ?」
「本日は、普段私のために働いてくれる皆に感謝を込めて、精一杯美味しい物を作らせて頂きます」

いつ用意したのか、白くて長い帽子を被ったレミリアが、ぺこりと頭を下げる。
どうやら、レストランの設定のようだ。

「本日のお品書きでございます」
「お品‥‥ビストロなんだから、メニューでいいと思うんですけど」

配られた紙を見てみる一同。
内容は、以下の通りだった。


前菜   エビのチリソース炒め
スープ  本日のスープ
サラダ  季節の彩りサラダ
メイン  特製ハンバーグステーキ
デザート アイスクリーム


メニューを見た一同から、歓声が上がる。
本格的なコース料理とまでは行かないが、それなりに充実した品揃えだ。

「では、料理が出来あがるまでの時間、暫しご歓談下さい」

レミリアは再び頭を下げると、大きな拍手に見送られ、厨房へ戻って行った。

「さて‥‥美鈴、何持って来た?」

レミリアが立ち去ってすぐに、パチュリーが席を立ち、美鈴の元へ移動する。

「私はトランプを。パチュリー様は?」
「人生ゲーム。それとまあ、本」
「いいですね。じゃあ、先にトランプから始めましょうか」

この会話に、咲夜は疑問符を浮かべる。

「美鈴にパチュリー様。一体何を?」
「待ち時間の暇潰しよ。大富豪からでいい?」
「いいですよ。みんなー、トランプやるよー」
「暇潰しって‥‥少しくらい、大人しく待ってましょうよ。お嬢様に失礼じゃないですか」

この言葉には、多くの妖精達が賛同する。

「少しくらいならいいけどね‥‥まあいいわ。参加したくなったら言いなさいよ」
「二人なら、ブラックジャックですね」

こうして、美鈴とパチュリーはトランプを。
他の面々は、雑談をしながら、待ち時間がスタートした。





一時間半ほど時間が流れ、そこには、仲良くトランプを囲む面々の姿があった。
既にゲームは何周も回り、数回目の大富豪が生まれている。

「咲夜。意地を張ってないで、あなたも参加したら? もし抵抗があるなら、本貸しましょうか」
「け、結構です。私はここで、お嬢様を待っています」
「ふーん‥‥あ、結構いい手札ね。貰ったわよ」
「何を仰る。三連勝させて頂きますよ」





それから更に一時間。
食堂には、ルーレットを回して駒を進める者。
トランプを続ける者。
それを一人眺める者という、グループ分けが出来あがっていた。
この間に、咲夜の腰が何度も椅子から上がりかけたのは言うまでも無い。
その時だった。

「ちょっとー。悪いんだけど、何人か、料理を運ぶのを手伝って貰えないかしら」

待ちに待った、レミリアの声が響く。
退屈を持て余していた咲夜は、これ幸いと呼びかけに応えた。
他の何名かも引き連れ、厨房から食堂へとエビチリを運搬した。

「わあ、美味しそうですね」
「お嬢様、他の料理は?」
「何言ってんの。コースなんだから、まだ出ないわよ」
「あ、そうですよね」
「今から二品目に取り掛かるから、ゆっくり食べてて頂戴」
「え?」

その言葉に、美鈴とパチュリーを除く一同が固まる。
あれだけ時間をかけて、まだ一品しか手を付けてなかったのだ。

「‥‥ま、まあいいわ。さあ皆。頂きましょう」

気を取り直し、配膳された皿の前に戻る面々。
待ちに待ったご馳走を目の前に、期待が高まる。

「それじゃ、いっただっきまーす!」

一口、二口。
味を確かめるように、長めに咀嚼する。

「‥‥うん‥‥」
「うわっ‥‥かっらいなコレ‥‥」

パチュリーと美鈴が口を開く。

「なんか味が‥‥味が薄いですね」
「色の割には味が薄くて‥‥でも、相当辛いわね」
「コクが無く、ただ後味辛いってやつですかね‥‥」
「ノドに痛い‥‥」
「‥‥‥‥」

テンションも低く、淡々と味の批評をする二人。
そのテンションにつられ、他の者も微妙な顔を浮かべたまま、前菜を平らげる。
口には出さないが、概ね、二人と同じ感想を抱いていた。

「‥‥次はスープだっけ」
「それならまあ、今よりは待ちませんね」
「エビチリ作りながら、多少仕込んでたでしょうしね」

その予測通り、次に呼ばれるのは多少早かった。
それでも、一時間近くが経過しようとしていたが。

「‥‥あ。これ、結構飲める」
「私は、あんまり好きじゃないかなあ‥‥」
「まあ、塩味の野菜入り汁‥‥あ、これ、鍋ですね」
「あ、本当。肉とか魚の入ってない鍋。‥‥まあ、でも美味しくは‥‥」

再び率直な感想を言い合う二人。
この時点で、他の面々も気が付いていた。
レミリアの料理は、決して美味しくないと。
だが、それは多くの者にとって予想の範疇。
予想外だったのは、その不味さが地味だと言う事である。

「‥‥これ、コショウかけていいかな」
「あ、いいかも。‥‥うん、多少美味しい!」

そう。手を加えれば美味しく食べられる程度の、適度な不味さなのだ。
奇跡的に美味しく仕上がるわけでも、劇的に不味いわけでもない。
実に反応に困るタイプの味なのだ。

「さて‥‥次はサラダ‥‥」
「まあ、今回は早いでしょう」

その言葉と同時に、完成を告げる声が届く。
流石に生野菜で何時間もかかるわけは無かった。

「サラダって、パチュリー様の希望でしょう」
「ええ。まあ、生野菜ならね。なんとでもなるでしょう」
「本日のサラダは、季節の野菜に、オーロラソースをかけて召し上がって頂くように。との事です」
「えっ」「えっ」

二人にとって、予想外の出来事だった。
サラダでは簡単過ぎると感じたレミリアが、ドレッシングを自作したのだ。

「オーロラソース‥‥ケチャップとマヨネーズのやつですね」
「私これ、あんまり好きじゃないのよね‥‥」
「そもそもこれ、サラダにかける物ですかね?」

だが、生野菜だけを食べるのは、些か惨めである。
仕方なく、特製オーロラソースをどっぷりとかける。

「うわっ、酸っぱい」
「何これ。‥‥あ、酢だ」
「ケチャップとマヨネーズに、酢も入ってるんだ‥‥」
「‥‥これ、今までで一番つらいかも」

ついに、今まで大人しく食べていたメイド達からも、嘆きの声が漏れ始めた。

「‥‥フランさま。辛かったら、残しても構わないと思いますよ」
「うん‥‥でもさ」
「フランさまは、元々あまり生野菜が得意じゃありませんからね。ソースのせいだとは、気付かれないと思いますよ」
「うん‥‥ごめんね、お姉さま」

そう言って、フォークを置くフランドール。
面々は、待ち受けるメインディッシュに備え、再び時間を潰しにかかる。
その瞬間、周りの目が向いていないのを確認し、フランドールに声をかけた妖精は、自分の分のサラダもフランドールの皿に移す。
実に狡猾な妖精だった。





「宇宙人に会って10ドル貰う、と」
「あ、また子供産まれました」
「また? もう、車に乗り切れてないじゃないの」
「咲夜さん、お盛んですね」
「やめて」

さて、次はメインという事もあり、暇つぶしにも熱が入る。
ルーレットと盤を囲む集団の中に、ついに咲夜の姿が混ざった。

「どうでもいいけどさ」
「はい?」
「これが咲夜の人生だとしたら、私達の人生って、ボード何枚使うのかしら」
「ああ。まあ、軽くこの部屋一杯は使うでしょうね」
「内容もさ、こう‥‥「三日くらい寝て過ごす。三回休み」とか、そんなのばっかりになりそう」
「「巫女に本気でやられる。ゲームから離脱」とか」
「ああ、あるある」
「やめてくださいよ」

不毛な会話ばかりが続き、ゲームに身が入らない。
それもその筈。
既に二回目の人生を謳歌している最中なのだから。

「‥‥遅いですね」
「もう、日付変わってるわよ」
「エビチリ食べてから、何時間経ちましたっけ」
「軽く三時間は‥‥」
「食事の途中なのにお腹が空いてくるって、凄いわよね」
「オーロラソースなら余ってますよ。飲みます?」
「‥‥後一時間待たされたら、本気で考えちゃうかも」
「あはは」

皆の目が死に始めた頃、ついに待ち兼ねていた声が響く。

「さあ! メイン料理が完成したわ!」
「わあ」

今までと同様、数人のメイドが手伝い、それぞれの分が配膳される。
大きめの肉の塊に、カリッと焼けたベーコンが乗っており、見た目は美味しそうだ。

「さあ、後はデザートだけね。行ってくるわ」

レミリアは再び席を外す。
もしかしたら、自分に気を遣わずに感想を言わせるため、敢えていなくなるのかも知れない。

「どれどれ‥‥あ、ベーコンは美味しい。カリカリだわ」
「ソースも‥‥悪くないですね。シンプルで」
「肝心の本体は‥‥あ! いけるいける! 不味くないわよ!」
「え? あ、本当だ! ちょっとパサパサしてるけど、完全に許容範囲!」
「少し冷めてるのが気になるけど、まあ、この量だしね」

恐る恐る口を付けた二人から、いい意味で驚きの声があがる。
それを合図に、他の者も食べ始める。
レミリアとの付き合いが長く、遠慮無く意見を言う二人は、いつの間にか味見役になっていたのだ。

「おいしい!」
「ガッツリ肉っぽくて、私これ好きかも」
「これ、ソースがいいですね。甘ったるくなくて」
「ご飯が欲しい!」

次々に賞賛の声が飛び交う。
時間が開いており空腹だった事も手伝い、メインディッシュは、あっという間に胃袋に収まった。

「いやあ、予想外でしたね」
「本当。後はデザートだけでしょ? 今回は、まあ、大丈夫ね」
「料理の評価が大丈夫っていうのも、失礼な話ですけどね」

そんな話の最中、レミリアがついに最後の一品を完成させた。

「これが、本日ラストになります。デザートはアイスクリームの‥‥」
「え? の?」
「特製ソースがけでございます」
「ソ、ソース!?」
「オレンジの果汁に、ウォッカをベースとしたお酒を加え、大人向けの味に仕上げました。ご堪能下さい」
「‥‥‥‥」

そして始まる、最後の配膳。
出来ればアイスだけ食べたかった。
それが、この場にいる者の共通した気持ちである。

「う‥っ」
「さ、酒くさい‥‥」

僅かに顔を顰めるが、今までと違いレミリアが食堂に留まっている。
あまり大袈裟に拒絶は出来ない。
意を決し、一口。
今回は、全員同時だ。

「‥‥どうかしら?」
「ううっ‥‥つ、冷たくて、口の中が‥‥ひんやりした感じになりますね」
「ソースがこう‥‥複雑な香りで」
「アイスとソースが混ざり合って‥‥独特の味になってて」

皆一様に、褒めているように聞こえる微妙な言葉選びをする。
が、全員涙目である。

「で、ですが、あの‥‥多少お酒が強すぎるかも、知れませんね」
「あら、本当? ごめんなさいね」

元々お酒に強く無かった一匹の妖精が、意を決して素直な感想を述べる。
これに対し、レミリアは申し訳なさそうに答えた。
その反応を見て、皆はある事を思い出す。
今回の主旨は、レミリアが自分達を気遣っての事。
そのために、決して得意では無い料理を頑張ってくれたのだ。
自分達が暇を持て余している頃、レミリアは一人、奮闘していた筈だ。
それを思い出した時、咲夜がレミリアの指に傷を発見した。

「お、お嬢様。その傷は‥‥」
「ああ、これ? やっぱり、あなた達みたいに上手くやれないものね。恥ずかしいわ」

よく見てみると、レミリアの手には細かい傷がいくつも付いている。
その瞬間、メイド達は感極まった。

愛するお嬢様が、私達のために傷を負ってまで料理を振舞ってくれたんだ!

「お嬢さま! 今日の料理、素晴らしかったです!」
「これで、私達は明日からまた頑張れます!」
「そ、そう? でも、あなた達の作る物に比べたら‥‥」

口ではそう言っているが、レミリアの表情から察するに、満更でも無さそうだ。

「じゃ、じゃあ‥‥あなた達がここまで喜んでくれるなら‥‥またいつか、こういう日を設けるわね」
「‥‥‥‥はい! 是非!」

長めに空いた間が、何を表しているのかはわからない。
しかし、威勢よく答えたその返事は、一切の偽り無い、心からの気持ちであった。







「さて‥‥おい、そこの紫と緑」
「は、はい?」
「何か言いたそうね」
「いや、私達は別に‥‥」
「不満を言うつもりは‥‥」
「じゃあ、なんでそんなに必死になってソースとアイスを仕分けてるのよ」
「あ、いや‥‥正直に言いますと‥‥」
「ソースは、いらなかったかな、みたいな‥‥」
「え?」
「あと‥‥サラダも、普通のドレッシングでよかったかなー‥‥と」
「‥‥本当に?」

メイド達の方を振り向いたレミリアの視線の先では、全員が遠慮がちに頷いていた。
最初は後半部分だけを書くつもりで、その時にはもっと、わかる人にしかわからない、パロディ全開で行こうと思ってました。
が、話の導入のために前半も書いて、色々空想をしている内に、最終的にこんな感じになりました。
その結果、勾配の無い平坦な物語になった感はあります。

ので、いつか、レミリアと咲夜・美鈴・パチュリーが醜く罵り合う、初期構想バージョンも書こうと思います。


書いてる途中で唐突に、どうしても「ラ・マヒストラル」という単語を使いたくなったので無理やり捩じ込みましたが、完全に不自然になりました。
誰か、ラ・マヒストラルを使って何か書いて下さい。お願いします。
ブリッツェン
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コメント



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5.100名前が無い程度の能力削除
微妙にまずい料理を作るお嬢さまが新鮮で面白かったw
7.100奇声を発する程度の能力削除
アットホームな紅魔館でした
8.100名前が無い程度の能力削除
よかった増えるアレは無かったwww
9.90名前が無い程度の能力削除
前作では、レミリアがあまりに不憫で途中で読んでいられなくなりましたが、
今回の雰囲気は好きでした。なので初期構想バージョンではなくて良かったです。
このレミリアなら、きちんとアドバイスさえすればおいしい料理が作れそうですね。
12.100名前が無い程度の能力削除
おぜうの手料理ならどんなにまずくても食える!むしろ食いたい!
13.90とーなす削除
なんかこう……中途半端に不味い料理出されるとこっちもコメントに困るw
普通にセンスがありそうなアレンジの利かせ方してるから、ちゃんと咲夜に教えてもらえば料理上手くなりそう。
ほんわか紅魔館で心が温まりました。
14.90名前が無い程度の能力削除
元ネタ知ってると一層面白いw
次は農場を開墾するところからですかね?
16.100名前が無い程度の能力削除
フレンドリーお嬢様
そりゃ部下にも好かれますよね
17.90月宮 あゆ削除
レミリアの努力、上に立つ者の心意気が私は好きでした。
結果が出なくてもやる意味、努力が皆に伝われば今後良くなっていくと信じたい
だからこそ後半の一部分は良かったと思います。

追記
初期案よりこちらの方が私は好きです。
20.70名前が無い程度の能力削除
たまにこういうの読むと安心するぜ
23.90名前が無い程度の能力削除
ピストルシェフのスカーレットさんじゃないですかー!
32.100名前が無い程度の能力削除
元ねたわかんなかったけど、面白かったです
37.90名前が無い程度の能力削除
肉の上にベーコンとか、ウォッカとか、体に悪そうですな。
42.100立ちスクリューができない程度の能力削除
レミリア「おいパイ食わねえかぁ」
54.100名前が無い程度の能力削除
器を作るところから始めるわけじゃないんですね((
61.100名前が無い程度の能力削除
レミィの美味しい?レストランですね