Coolier - 新生・東方創想話

Between dusk and dawn

2012/04/05 00:58:54
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 今となっては遠い昔のことではあるが、人々は今夜みたいな新月を作り出しているのが妖怪や妖精といった存在だと信じて疑わなかった。
 元々人間という生き物は自分たちの手に負えないことを超自然的なものと結びつけ、畏怖し、崇めていたわけである。
 だから、月が満ちたり欠けたり、夜空から消えたりするという、なにやら恐ろしげなことは「とにかく妖怪の仕業にしてしまえ」と考えるのも頷けよう。
 そこで、夜の、闇の具現たる存在は生まれた。
 人々のニーズに合わせて、と言っても過言ではないかもしれない。
 そうであったと言うのに、人は闇を忘れた。あの身体に纏わりつく、どろりと濁った闇を忘れたのである。
 火や光が作り物になってから長い月日が流れる。恐怖の象徴だった夜と闇は忘れ去られ、その具現もまた幻想の中で時を過ごした。
 存在の殆どを封印という形で失った闇は、一体、何を思いながら、月のない夜空を見上げているのだろうか?

 黒々とした夜である。
 光の三妖精の一匹、ルナチャイルドは魔法の森で落ち葉を踏みしめていた。
 全身アイボリーの装いは黒い世界の中で目立ちそうなものだが、唯一の光源すら存在しない所為で、その姿は闇夜に融けている。
「はぁ……」
 物憂げな表情で、溜息一つ。三日月形の羽をはためかした。
 ルナチャイルドは月光の妖精である。その為夜間の活動が専門であるから、夜目も利く。
だが、自然が形どった存在である妖精は、何よりも自然の影響を受けやすい。やはりと言うべきか、新月の日は平常と言いがたいようだった。
そして、何故だか今夜はやけに酷いように思える。空に居るのが落ち着かないような、とんでもない夜に感じられるのだ。妙にソワソワとしているのが、自分でもわかっていた。
 手には小さな酒瓶が一本握られている。外の酒も稀に取り扱っていると言う奇妙な店、香霖堂から「途方もない」葡萄酒を一本、拝借してきたのである。
 翌朝、瓶の消失に気づいた店主が絶叫することになるが、真に関係のない話なので割愛する。
 さて、どうして彼女が盗品を抱えて木の下を独 り歩いているかと言えば、全ては押しの弱さが原因である。つまるところ、切れた酒を誰が盗りに行くかで揉めた。サニー
ミルクは「夜目の利く妖精二人のうちどちらかが行くべき」と主張し、スターサファイアに勝てる筈もなく、ルナチャイルドの完全敗北が決定して今に至る。

「まったく、サニーもスターも強引なんだから。これじゃあ私が便利な使いっぱしりみたいじゃないのよ」
 こうやって独り寂しく家に向かうのも初めてではない。過ぎ去ったことをとやかく言いながら、ルナチャイルドは深夜の森を進んで行くのであった。
「それにしても、これ、美味しいのかしら」
 手にした品をためつすがめつしてみる。香霖堂に目ぼしい日本酒がなかったので、適当にかっぱらってきた一本である。
「こんなにちっちゃいし。大丈夫かなぁ。サニーに文句言われそう」
 ボトルの容量は375ml。二合とちょっとの量でしかない。冗談抜きでサニーミルクなら一気飲みでもしてのけそうだった。本来ならそんなこと許される筈の無いワインなのだが、妖精には通じまい。
 
 そんな風にルナチャイルドが闇に濡れた森を進んでいくと。
「あれ?」
 ボトルへ向けた視線の中に、鮮やかな色が現れたことに気付く。
 一樹の根元に隠れるように落ちていたそれは、闇夜の中に在りながら色彩を寸分も失わぬ、鮮紅色の布切れであった。
 拾い上げてみると、その布は虫に食われたようにボロボロとなっていた。生地の手触りから言って、元は――――そう、例えばリボンか何かだったのだろうか。
「どうしてこんなところに……?」
 普段人が通るようなところではない。
「まあ、いいや。嫌がらせにサニーへのお土産にでも――――――」
 そこから落ちてきたような気がして、何気なく木を見上げた。
 見上げて、今夜という夜に家を出てしまった、自身の悪運を呪った。
 絶対的な黒の中に、煌々と輝く二つの赤。
「う、ぁ…………」
 
 それが何かの瞳なのだと認めた瞬間、一筋の緊張が背を伝う。瞳の持ち主は、少なくとも人の形をしていたが、当然ヒトに非ざるモノ。
 樹上から滲み、煙のように足元を這っていく貫禄が、妖精の足を地面に縫い付ける。
 
 ふと、その姿が掻き消えた。
「え?」
 先ほど少々触れた通り、ルナチャイルドは暗中においても相当の視界を有している。にも拘らず、まるで本当に闇に融けたみたいに消えて――――

「今晩は」
「――ひっ!?」

 あまつさえ、同じように目の前に現れるだなんて。
「あら、可愛い妖精さん。 驚かせてしまって御免なさい」
 身体に纏うのは黒と白のツートンカラー。ルナチャイルドより頭二つ分高いところにある真っ赤な瞳は、月光色の髪に飾られて静かな輝きを放っている。
 間近に出現したそれは――陳腐な表現になるが――ゾッとするほど美しかった。最後にいいものが見れたと思えるほどに。
 音を消す能力しか持たぬ、貧弱な妖精と、目の前の迫力。力の差とか、優劣とか――考えるのも馬鹿らしいくらいに明瞭過ぎた。
 しかし、八つ裂きにしてやろうとか食い殺してやろうとかいった殺気は、まったく感じられない。力ある妖怪は総じてそれを隠すものとは言え、穏やかな声色で言うのである。
「妖精がこんな時間にお散歩しているなんて珍しいけれど――――私も退屈していたところなの。少しお話に付き合ってくださると嬉しいわ」
 にこりと目を細め、「もし良かったら」と。
 少なくともその間は首が繋がったのかな、とルナチャイルドは意外と冷静に、そう思った。



 僅かに歩いて、案内されたのは森が少し開けた所。見上げれば、森を覆う枝の重なりに、そこだけぽっかりと穴が開いていて。それで、星空が覗いて見える。今夜は、空に
一際輝いている月が無い所為で、いつもはそれに隠れるような星たちが目立った。
 そんな空き地の真ん中に、大き目の切株が一つ、それを囲む椅子がふたつ。まるでどこからか拾ってきたようにちぐはぐで、薄汚れた二脚である。
「ここが私の家、みたいね」
 他人事のような口振りで、傍らの彼女が言った。家というのも冗談ではなさそうで、切株の下には縁の欠けた湯飲みとかグラスとか、申し訳程度の生活用品が落ちていた。
「どうぞ腰掛けて頂戴。少し汚れているけれど」
「ど、どうも」
 蛇に睨まれた蛙というか油の切れた歯車みたいな感じというか、ルナチャイルドはぎくしゃくと椅子に腰を下ろした。
 しかし、ちょっとした気紛れで一回休み必至のこの状況。にもかかわらず、不思議と恐怖は感じない。
 目の前の妖怪の、その笑顔は優しくって――どこか惹かれているのも事実だったから。
 
 妖怪は、ルーミアと名乗った。

「ルナちゃんって、チルノちゃんのお友達でしょ?」
 訊きながら傾けるのは漢字で埋め尽くされた湯飲み茶碗。鯵とか鮪とか鱧とか鮟鱇とか言われても幻想郷の人々にはピンとくる筈もないが。
「チルノのこと、知ってるんですか?」
 一方、答えるルナチャイルドの手にはタンブラー。中身は言わずもがな、パクってきた葡萄酒である。最初は機嫌をとることを目的として献上したのだが、二人で楽しむことになった。
「知ってるも何も、お友達よ。一緒にかくれんぼもするくらい」
「か、かくれんぼ!」
 悪戯げな笑みを浮かべたルーミアが、これまたからかうような調子で口にしたことは、少なくともルナチャイルドの想像の範疇を超えていた。なんてったって、あまりにあんまりな光景である。
「そういえば、かくれんぼの達人を発見した、なんて喜んでいたわ。貴女たちだったのね」
 ルーミアの呟きはしかし、クエスチョンマークが頭の中でこんがらがったルナチャイルドの耳には入っていない。
 そんな必死な顔を見て、ルーミアはくすくすと可笑しそうに息を漏らした。
「ふぇ?」
 状況の掴めないルナチャイルドは首を傾けるばかりである。「こんな人がいるなら、今度からチルノにちょっかいだすのやめよう」と結構深刻に考えていたところであった。
「ああ、御免なさい。可愛かったものだから」
 口元の笑みは変えず、しかし瞳には僅かな鋭さを覗かせる。
「ほんの数刻前まで、私は貴女やチルノと同じような容姿をしていたの――――封印が解けるまで」
「ふういんがほどける、って、もしかしてこの布、ですか?」
「そう、そのリボン。『彼女』の記憶も引き継いでいるけれど、木の上でぼーっとしてたみたい。そしたら突然はらりと落ちるんですもの。喜び半分驚き半分って感じだったわよ」
 
 あと、怒りもちょっと、と湯呑みに口をつける。倣ってルナチャイルドも淡い黄金の液体をちびりと舐めた。途端口腔に広がる芳醇なる甘み。安い酒だけじゃ駄目なのである。一度高品質なものを飲んでみれば世界が拓けよう。
「考えてみれば、おかしくもないかもね。――――いい加減古いリボンだもの。幻想郷ができた頃の」
 酔っ払ったという様子もないが、ルーミアは饒舌だった。それも無理もないかとルナチャイルドは大人しく聞きに徹することにしている。
「もう、どうでもよかったんだ。だって、もうすることもないの。私は用済みだからここにいるわけだし」
 静かな時間が流れていく。夜が、丁度更け切った頃なのだった。
「チルノたちと、何も考えずに暮らしていた時の方が、よっぽど幸せだなぁ、って思ってたところ」
「これから……どうなさるおつもりですか?」
 妖怪は暫しの沈黙を仮初めの回答とし、妖精に問い返した。
「ルナちゃんは、どうしたらいいと思う?」
 妖精も、答えなかった。
 どんな案だって、目の前の妖怪を満たしてくれはしないだろうと、はっきり理解できたから。
「あまり選択の余地はないでしょうね。それだけ、ここにとって私の存在は邪魔なのだから」
 その言葉の意味はよく分からなかったが、一言一言が、重くルナチャイルドにのしかかる。
「つまらない話になったわね。御免なさい、ルナちゃん」
「いえ、そんなことは……」
 ルーミアは、ゆっくりと顎を反らし、夜天を見上げる。

「静かな闇を楽しみましょう、折角の新月ですもの」
 
 
 ルーミアの言葉が終わった瞬間、闇が濃密に色付いた。
 そう形容する他ないような変化は、墨を零したみたいに一瞬で世界を覆う。

「うわぁ……!」
 人ならば、いや、大部分の妖怪でさえもゾッとする光景を、ルナチャイルドは歓声を上げて受け入れた。
 色鮮やかな黒。唸り、震える暗夜。静謐かつ沈黙の、透明に濁った空気。全てを抱きしめて、全てを飲み込む暗れ闇。それは、最早知る者のない本物の闇の姿――――。
「すご、ぉ…い」
 それは息を吸い込むごとに口腔を満たし、彼女の存在を犯してゆく。まるで、濃厚な蒸留酒のようにねっとりとした舌触りで――身体がほんのり熱を持つ。
 

 二人は何時の間にか席を離れ、世界の変化に見入っていた。

 くるり、とルーミアは華麗なターンを見せ、腕を広げた。
「まるで、ステージみたいだと思わない?」
 開けた森の草っぱらは木々の書き割りを従えて、なるほど舞台のように広がっている。
 
 ただ――――
「照明係はお休みみたいだけど、ね」
 そう、明かりは全く無い。
 けれど、ルナチャイルドには、この暗闇それ自体がスポットライトのように思えてならなかった。ワンシーンを切り取り、役者を浮かばせる、目映い光。

「ルナチャイルドさん、私と、踊っていただけませんか?」
 からかうような調子はこれっぽっちも無く、あくまでも真摯にルーミアは一礼する。
「私、ダンスなんてしたことありませんよ……盆踊りならともかく」
 そうは言いつつも、ルナチャイルドも真面目に作った顔を綻ばせる。
「そうね、私も。残念だわ、こんなことなら習っておくんだった。今踊れたなら、きっと楽しかったでしょうに」
 踊れたら、よかった。
 心からルナチャイルドは思う。
 このステージで、踊ってみたかった。
 
 妖精と妖怪は、星の輝きすら溶かし込む黒を仰いでいた。ふと見上げた妖怪の背中にどうしようもない寂寥感を覚えて、ルナチャイルドは眉を曇らせる。
 外の世界にも、幻想郷にさえもその居場所がない。
 夜に生きるはずの妖怪でさえ、本物の闇を駆逐したのだ。
 ――――何も、していないのに。
「そんなのって…」
 彼女とこの魅力的な闇は全く以って同じなのだと明瞭に悟った。それでも、納得するなんて――できない。
「……そんなの、酷過ぎます」
 
 嗚咽の漏れたような声は、怒りと悲しみに濡れている。
「勝手過ぎるじゃないですか、人間も妖怪も……」
 ルーミアは、整った微笑を妖精に向けた。
「ありがと、ルナちゃん。でもね、そういうものなのよ。人であれ妖怪であれ。はたまた妖精であってもね。忘れるのよ、昔のことは」
 笑顔からはっきりと彼女の感情を見てとって、ルナチャイルドは肩を震わせた。
「それに、邪魔者はいない方が過ごしやすいでしょう?」
「そんなの……そんなのって……っ」
 誰が、こんなことを。
 誰が、邪魔者だなんて。
「あんまりじゃないですか…………!」
「大丈夫よ、ルナちゃん。大丈夫だから」
 永い時を経た上での、達観。
 月光の妖精が口を差し挟む余地なんてあるわけないけど。
「ルーミア、さん……」
 
 他人事には違いないのに、どうしてこんなに悲しいのだろう?

 俯いたルナチャイルドを、ルーミアが黙って抱き寄せる。
「服、濡れちゃいます」
「構わないわよ」
 闇が、夜が冷たいなんて嘘だ。
 こんなに暖かくて、こんなに優しい。
 でも。
「ありがとう、ルナちゃん。ありがとね」
 彼女にだって、向けられるべきなのに。その優しさが、その温もりが。
 ルナチャイルドも細腕を相手の腰へ回し、上目遣いに妖怪を見つめた。
「私、ルーミアさんのこと、何にも知らないです……。だから、何も、言えません。何も、出来ません」
 腕の中の、壊れものみたいな存在は、ちょっとした力で壊れてしまう。それでも、万が一にも取り落とすことの無いように力を込めて。
「だけど、今だけは、私の手の中にいて欲しいんです――――いてください」
 
 そうやって、妖精と妖怪は、お互いの両手の中に、壊れ物を抱き締める。

「今夜会えたのが、ルナちゃんで本当に良かった」
 胸の中にルナチャイルドを包み込みながら、ルーミアは静かな口調で言った。
「でも、そろそろ――お開きにしないと」
「また……会えますよね?」
 その言葉が、永の別れに聞こえて、ルナチャイルドは濡れた声で問うた。
 ゆっくりと身体が離れ、互いの視線が触れる。
「さあ、どうだろうね」
 袖を離さない妖精の真っ白な腕へ、一瞬だけ、ルーミアは視線を落とす。
 そして、どこにすべきかと僅かな逡巡を見せてから、そっとルナチャイルドの額に口づけた。
「ルーミア、さん……?」
「私のことは忘れてもいいから……ううん、私は忘れて。だけど、本物の闇の表情――忘れないで」
 するりと妖精の腕から抜け出したルーミアは、鬱蒼と茂る森へと独り対峙する。
「お迎えもいらっしゃるようだし、お別れね」
 しかして、闇の中から何かが飛び出したのと、聞き慣れた声の掛けられたのは、殆ど同時であった。
「なにやってんの、ルナ! とっととずらかるわよっ!」
「さ、サニー?」
 有無を言わさず虚空へと引きずりこまれる。そこには、光の三妖精、その残り二匹の姿があった。
「このままじゃ、私たちまで退治されるでしょーが!」
 その声にルナチャイルドは振り返る。
 博麗の巫女と、いつぞやの、スキマ妖怪――。
 二人が身に纏う雰囲気は、普段のそれではない。何よりも重い殺気を隠そうともしていなかった。

「早く、音、消してっ!」

 ヒステリックにサニーミルクが叫ぶ。
 言われるままに音を消して、手を取られて引きずられるように駆け出して。
 それで、最後に視線を向ける。
 ルーミアは柔和な微笑みをこちらに向けて、ひらひらと手を振っていた。何事か言っているようだったが、聞こえない。能力を使ってしまったから。

 口の動きだけでは分からなかった。
「じゃあね」だったのか、「またね」だったのか――――

 分からなかったが、それは確かに「またね」ではなかった。









 紛い物の闇が訪れる前に、その様相をしっかりと目に焼き付けておいて欲しい、とルーミアは思う。

「お久しぶりね、紫」

 妖怪、八雲紫は答えず、黙ってこちらを見据えている。
「闇というモノは、あくまで自由気ままなの。束縛なんてされるもんですか。上辺だけを征服した気でいるのよ、皆」
 胸中に残った物を吐き出すみたいに、ルーミアは言葉を紡ぐ。
 それは、決して先の妖精にはぶつけられなかった、積年の澱である。
「その本質部分を捕まえることなんて、どこの誰にだって、出来る筈ないわ」
 
 そうして、最後に、にこりと微笑みを向けてやる。

「女心と一緒でね」


 暫しの間、闇は色褪せる。






 明くる日の新聞に掲載されていたのは、ルーミアの記事であった。
 封印が解けたらしいので、博麗の巫女が詳細を確認し、事実らしいので封印をし直した、というのが記 事の内容だった。
 もっと苦戦を強いられると覚悟していた巫女は、件の妖怪の力に拍子抜けしたらしい。
 完全に封印が解けていてあの程度の力というのは、おかしい。夜の力も衰えたのかしら、とは巫女のコメントである。


「今度こそあの巫女に一泡吹かせてやろうと思うわけよ」
 現在は神社に程近い三妖精の家。
 その中で、サニーミルクはそう宣言した。
 彼女がそのような宣言をすること自体珍しいものではなく、いつも通りである。
「いつもやってるじゃない。圧倒的に失敗が多いのだけれど」
 そういうわけでスターサファイアもいつも通り、やんわりと受け止めている。
「努力を重ねて何とかするのよ。いつかは巫女も吃驚するでしょ」
「そういうものかしらね」
「そういうものよ。というわけで今夜もやるわよ。早速――――」
「悪いけど、私はパス」
 サニーミルクの言葉を遮り、不参加を表明したのはルナチャイルドである。

 既に、外出の支度を済ませていた。

「じゃ」

 二匹の妖精が何かを言う前に、ドアは閉じた。
 なぜかを問われるような事態になるよりかは、さっさと逃げるに限る。



 再び新月が巡ってくる。
 あれから、ちょうど一月が経った。
 香霖堂へ行ってみようとルナチャイルドは考えている。
 またあのお酒があったら、持って行こう。
 そしたら、また彼女に会えそうな気がする。
 気がするだけだ。
 きっと叶わない。
 だって彼女はもう一度封印されてしまったから。


 でも、幼い容姿をした妖怪には会えるかもしれない。
 その妖怪は大食らいだという話を聞いたから、お弁当も忘れずに。
 ワインを飲みながら、お話しようと思うのだ。
 そしたら、覚えたてのフォックストロットの練習なんかも、しちゃったりして。
 
 だから、「またね」だと、自分に信じ込ませて。









 しかし、人は、もっと闇というものを恐懼するべきである。
 幻想の外は言うに及ばず、中でさえも人が、闇を忘れつつある。だから。幻想郷においてそれが力を取り戻すのは、極めて自然なことであった。
 それが今までと同じ形を取るかは、この際無関係で――例えばもっと「自然な」方法を選ぶかもしれない。


 あれから何度目の新月だろうか。百を超えてから数えるのをやめてしまった。

「ああ――――」

 昔年の思い出が刻まれた赤い布切れを手に、暗闇に目を眇めて。
 
 三日月の剥がれ落ちるように、今宵再び、闇の具現は生まれる。
初めまして、になる方が多いかと思います。初めまして、テラガンミィです。
普段は夜伽の方で、えっちな、しかし大してえっちでもない小説を書いていたりします。
この作品も、夜伽で上げたものを、ねちょを抜き、かつ大幅に改良を加えた別物として完成させたものだったりします……。

大変恐縮ではありますが、最後に、少し宣伝を…………
来る例大祭、妖精メイド合同本に参加させていただきます。例大祭に来られる方は、是非ともお立ち寄りください。サークル名「Fairymaids」、場所は「さ-23b」で御座います。

それでは、また縁がありましたら……。
テラガンミィ
https://twitter.com/#!/teraganmi
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コメント



0.320簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
元の作品はみていない、そもそも諸事情によりみることはできないのだが。
良い話だと思う。面白い。だけれども、作品を見て思ったことがちらほら。
まず、入りが弱い。作品の開幕から何もつかめない。
それと、結構ちぐはぐ。つながりが薄くて、内容があまり頭に入ってこなかった。
表現は美しい上、切り口もよかった。故に、非常に残念な作品だと思う。
点数はこのくらいで。

これからもがんばっていただきたい。今までの作品の改良、ではなく真新しい作品ならば、もっといい評価が得られるだろうと自分は思う。
3.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。闇と月、いい組み合わせですね
5.80奇声を発する程度の能力削除
面白い組み合わせだなと思いました
11.100名前が無い程度の能力削除
向こうのものも見た事がある者です。
相変わらずこの雰囲気はいいねぇ。