Coolier - 新生・東方創想話

雨の日、傘の日、帰り道

2012/04/02 14:15:30
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「蛙が一匹蛙が二匹、諏訪子様で三匹め……と」
 沼のほとりの小さな社、飛び跳ねていく保護者を見て、ため息ついでに空を見ます。向いた先から降る雨は、粒ぞろいを大盤振る舞い。にっくき雲は膨らんで、当分の間止みそうにありません。





「私としたことが、天気を読み違えるなんて迂闊でした」
 もう一度ため息、背を預けたお社の冷たさが身に染みます。ああ、本当なら、今はもうこたつでぬくぬくしているはずだったのに……
 諏訪子様と一緒に里まで買いだしに行ったのはいいけれど、帰りに雨に降られてこの有様、幻想郷の天気は読みづらいです。
 ここに棲む人妖と同じく、現人神たる私に対する敬意が欠けているような気がします。せめて家についてから降り出す配慮が欲しかった。あ、また雨足が強くなったこのやろ。
 しかも諏訪子様は雨が降るとはしゃぎだし、蛙を見るなりついていってしまうし。神様というのは案外無邪気なようです。
 というか、最近とみに無邪気さが増しているというか幼児退行している気はしないでもありませんが、取り繕った姿でいるよりはいいのかもしれません。
 神奈子様までああなったらさすがに悩みますが……悩むというか無理心中を仕掛けてしまいそうです。



ぼとぼとぽたん



 屋根をつたった水滴が、滑り落ちて地面を叩きます。なかなかにリズミカルです。
 雨は止まない、諏訪子様は戻らない、いつまでこうしていればいいのやら。
 諏訪子様、はしゃぎすぎて沼にでも跳び込んでなければい「どぼんちょ」いなと思っていたけど、無理ですね。沼の水面を見覚えのある目玉帽子が航行中、まだ春先だというのに、寒くないのでしょうか?

「はぁ」
 ため息三度目、世話のかかる保護者を持つと大変です、というかもう私が保護者な気がします。外では育児放棄なるものが問題となっていたようですが、私も思わず育神放棄してしまいそうですよ。
 まぁ、なんだかんだで、いつも怪我も病気もせず、けろけろして戻ってくるから問題はないでしょう。なかなかに頑丈な身体をしているみたいです。
 ちなみに、目玉帽子はそのまま潜航していきました。そのうち、手足が蛙になって帰ってくるかもしれません。水中飼育セットでも買ってくればよかったでしょうか、あ、でも小さすぎて入らないでしょうか……やはり放し飼い? でも何かしら問題を引き起こしそうなので、できれば紐をつけて目の届く範囲に……
 考えているのがばからしくなってしまいました。もういいや、雨が止んだらほっといて帰りましょう。
 でもこの雨はいつ止むのでしょう、土砂降りの雨に誘われて、気づけば周囲はガマだらけ、飛び出る蛙は何蛙? ああ真っ黒な雲が「うらめしやー!」

 ん? 今誰かに先を越されたような……

 もう一度試してみましょう。

「真っ黒い雲が「うらめしやー!」」
「はいはい一膳飯屋」
 見るより先に言葉を返して振り向きます。あ、あなたはいつぞやの……

「うらめしやおばけさんではないですか」
「しくしく、とうとう化け傘としてすら認識されなくなった」
「冗談です。何かご用ですか? 傘お化けさん」
「そうそう、でも私はただの傘お化けじゃなくて……」
「ビニール傘でしたね、ごめんなさい」
「あたいが五百円傘と申すか!?」
「キャラ作ってる上にかぶってる、この百円傘お化け」




ぼとぼといじいじぼとぼとじめじめ




「どうせ私は売り尽くし大特価一本百円の傘、雨の日にいやいや買われて家に着くなり捨てられるんだ。ああ、心がひもじい……」
 しまった。調子に乗ってる内に、またしても心の古傷をえぐってしまったみたいですね。結構深く。というか、このひと心の古傷はいくつあるんでしょうか?
 友人とは言えない程度の知人とはいえ、反射的に傷つけてしまったのは失敗でした。
 傘お化けさんはなんかしゃがんでのの字書いています、傘と一緒に。上手いです、傘の方が。
 
 それにしても、こちらに来てから煮ても焼いても食えない方たちとばかり話していたせいで、知らず知らずのうちに言葉が刃というのを忘れていました。
 なるべく相手を傷つけないように、言葉を選ばないといけません。とりあえず慰めておかないと……

「しくしく」
「まぁそんなに落ち込まないで、あなたのおかげで雨にぬれずに済んだ人もいたんです。あなたは傘としての職責を全うしているじゃないですか」
「しくし……く?」
「ですからあなたは立派な傘ですよ」
「し……」
「まぁ直後に捨てられちゃったわけですが」
「しくしくしくしくしく」

 なんか楽しいかも……ではなく、この東風谷早苗としたことが、幻想郷に毒されてしまっていたようです。つい余計な一言を付け加えてしまいました。
 いかに清廉可憐な風祝の巫女といえども、幻想郷の悪影響下では若干の毒舌風味になってしまいます。
 でも向こうにいたときにもごく小さな言葉の棘で、ずいぶん友達をなくしてしまったような……ような……
 いえ、考えるのはやめましょう、悪いのは全部幻想郷、私は悪くありません。
 まずはこの哀れな幻想郷の犠牲者に目を向けて、手をさし伸べることにしましょう。
 目の前にはダブルのの字で嘆くおばけ少女、側にいるのは私だけ。これではまるで私が泣かせてしまったかのようです。
 これは色々とまずい気がします。具体的に言うと、山の神社の巫女が弱いものいじめをしているとかあらぬ評判が立つのが怖いです。信仰が集まりませんし。
 こんなに優しく美しい巫女だというのに、力のある者はどうしても恐れられてしまいますね。
 ここは、私がいかに正義仁愛の精神に溢れる現人神であるか、このお化けに知らしめてあげましょう。
何より、ここにいるのもそろそろ飽きてきましたし。

「傘としても役立たず、妖怪としても役立たず、ああ、私の存在意義って……」

「あの……もし」
 いじけている化け傘さんに、なるべくやさしく声をかけます。
 振り向く化け傘妖怪少女、傘の端から雨粒が落ちて、オッドアイが私を見ます。私は続けて言いました。

「こんなところでお化け傘に遭うなんて驚きました。でも、考えてみれば雨の日に傘と出会うというのは自然かもしれませんね。折角ですし、ちょっとそこまでご一緒しませんか?」




ぼとぼとぽったんげーこげこ




「いやぁ、わかってくれる人はわかってくれるもんだねぇ。三日三晩うらめしやーと呼ばれて飛び出るチャンスを待った甲斐があったよ~。こんにゃくは食べちゃったけど」
 隣を歩く化け傘さんが、愉快そうに話します。笑うたびに傘が揺れ、落ちる雫が地面を撥ねます、ちっともうらめしそうに見えません。ついでに、呼んだ記憶もないのですが。で、こんにゃくって何の話?
 
 色々と言いたいことはありましたが、家に着くまでは口に出さないであげましょう。このお化けさんにも色々と悩みはあるでしょうし、今泣きながら飛び去られてしまうと濡……後味が悪いですしね。
 さて、これでも私は名家の出、優雅な会話でお化けさんの信仰を集めるといたしましょう。

「ところでお化けさん、あなたの名前はなんというんですか?」
 まずは会話の基本から、お互いの自己紹介を始めましょう。こないだ遭ったときは、そんなことしていなかった気もしますし。
 私の言葉を聞いたお化けさんは、嬉しそうにこちらを見ました。

「ん? 嬉しいねぇ、私に名前を聞いてくれた人間は久しぶりだよ。最近の人間はあんまり私たちに興味を持ってくれないんだ」
 さっきの笑顔はどこへやら、ため息をつくお化けさん。喜怒哀楽の落差が激しい妖怪ですね。ところで……

「あなたのお名前は?」
「ん、嬉しいねぇ、私に……」
「それもう聞いた」
「しくしくしく、最後までボケさせてもらえない」
「最後まで突っ込まないつもりだったのですが……」
 会話は回る、されど進まず。
 この幻想郷には、会話らしい会話をしてくれる方はいないのでしょうか?



 てくてくぼたぼたてくてくげこげこ 



 二人並んで雨の林を進みます。少し暗い林から、たまにぴょこりと蛙が出てきて、そのままぴょこぴょこと消えていきます。今のところ、諏訪子様は混じっていないので一安心です。
 さて、このお化けのお名前は、小傘さんと言うようです。小というほど可愛い傘ではない気がしますが、おかげで二人入れるのでよしとしましょう。
 小傘さんは、スキップしそうな勢いで、楽しくてくてく歩いていきます。スキップされるとびしょ濡れになりますからやめて下さいね。

「いやぁ、雨はいいねぇ。弾む雫が楽しくて、思わず水溜りで跳ねてしまいたい位」
 陽気に言う小傘さん、なんか、その瞳がすでに水溜りをロックオンしています。しまった、このひと諏訪子様と同類です。
 冗談ではありません。このままでは、お馬鹿な妖怪を上手に使って……もとい、親切な妖怪と仲良くなって濡れずに帰る私のプランが台無しです。慌てて暴挙を止めにかかりました。

「いえ、あなたと違って、私は防水じゃないのでやめて頂けますか?」
「なんだ、防水じゃないんだ。最近の人間は遅れてるねぇ」
 私の言葉に聞く耳持たない小傘さん。
 あなたに遅れてるとか言われていると、さすがに殺意が湧いてくるのですが。というか……

「傘が持ち主を濡らしにかかるだなんて……傘としての役割を放棄していませんか? 捨てますよ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ちゃんと雨風は防ぎますから捨てないで下さい。もうゴミ捨て場で震えるのは嫌なんです」
「よろしい」



てくてくぽったんてくてくすわげこ



 時代遅れのお化け傘と歩く間に、ちょっとずつ雨が弱くなってきたようです。
 雲の切れ間に明かりが見えて、雨粒がきらきら光っています。水溜りは木々を映して、たまにぽたりと揺らいでいます。外の世界ではあまり見ない、見ても気にしなかったそんな景色が見えてきます。
 それと、草の合間にはげこげこ言ってる蛙たち、見覚えがあるのが一匹ほど混じっていたのは気にしないことにしましょう。

「あのー早苗さんや」
「なんでしょう小傘さん」
「今のか……」
「雨が降れば蛙は出てきますよねー何もおかしなところはありません♪」
「でもあの蛙(?)あんたのところの……」
「……私の神社には蛙を集めてげこげこ啼いてる神様なんていません」

 見なかったことにした特大蛙、お茶目な目玉帽子がチャームポイント。ああ、これで我が社の信仰は大丈夫なのでしょうか?
 というか、いらないところで諏訪子様とうちの神社の知名度が上がっているようで気になります。その割に私の名前が覚えてもらえてなかったのは気になりませんが!
 それにしても、巨大蛙を祀る神社とか思われていないといいのですが……ん? 間違ってないのかな。
 ですが、お気楽極楽な低レベル妖怪廃棄物はそんなことはあまり気にしないようです。まぁそうでしょうけど。

「蛙の信仰は集まってるみたいでいいじゃない」
「……いくら蛙の信仰が集まってもそのまま丸呑みしちゃいそうな方がうちにはおりまして、あと人の心を読まないで頂けますか、貴方の能力は確か『人に忘れられる程度の存在価値』だったでしょう?」
「しくしく、とうとう能力ですらなくなっちゃった。でも、ここまでストレートに貶されるとかえって気持ちいいよ。これがさでずむっていうやつなのかねぇ」
「もう突っ込みませんよ?」
「?」
「……素ですか」



げこげこすわすわげーこげこ



 騒がし世話なし悪意なしなお化け傘と一緒に、ぱちゃぱちゃと道を歩きます。
 雨はもうあがっていました。いつの間にか、いらいら気分も消えていました。
 空はすっかり夕焼け色で、道の所々に落ちています。思わず足を踏み入れたくなりました。

「……何楽しげな目で見ているんですか?」
「何でもないよ~」
「む」

 口笛吹きながら……いえ、正確には吹こうと頑張っているだけみたいですが……私を見るお馬鹿傘、馬鹿に馬鹿にされるとなんか腹が立ちますね。

 でも……

「たまには馬鹿になるのもいいかもしれませんね」
 私はそう言って 足元の夕焼け空を蹴散らします。水玉がぱちゃぱちゃ撥ねました。洗濯物が増えるけど……まいっか。

「そうそう、目の前にあるものを楽しまないと。ハプニングがあってこその人生さ」
 続けて踏み入る小傘さん、ばしゃりと大きく水面が弾けて、ものの見事に私を直撃。

「妖怪のくせに人生?」
 言葉と一緒に足をひとふみ、お化け傘の中は、大雨警報が発令中です。でも、なんか、なんか楽しいです。
 私の濡れずに帰るプランはどこかに消えました。あーあ、妖怪にしてやられましたね。お返しに、今度遊……退治しに行くことにしましょうか。

「いいじゃないか、細かいことは。幻想郷ではなんでも楽しむものなのさ」
 そう言う小傘さんはびしょ濡れで、私もきっと同じです。
 これじゃ諏訪子様のことを笑えませんね、そういえば諏訪子様はどこに……と見渡せば、目の前に見覚えのある人影が……



「お帰り、早苗。びしょ濡れじゃない、諏訪子じゃあるまいし」
 楽しそうに言いました、神奈子様です。

「もしかして、蛇の目でお迎えに来てくださったんですか?」
 神奈子様の手には、昔懐かし蛇の目傘が三本。諏訪子様は、傘があっても絶対に入らないと思いますが……

「ま、ね。諏訪子はともかく、早苗はどっかで雨宿りしてると思ったから。諏訪子はいてもどうせ傘には入らないでしょうけど」
 ため息をつく神奈子様
 それでもしっかり傘を持ってきてくださるあたり、神奈子様は面倒見がとてもいいのです。

「ですね。私も、最初は雨宿りをしていたんですけど、ちょっと楽しいハプニングがありまして」
「楽しいハプニング……ね」
 何かを見透かしたような笑顔に、私も笑顔で応えます。

「折角のお出迎え、申し訳ないのですが……」
  ぺこりと一礼。

「ま、いいさ。こういうのはあった方がね」
 神奈子様は頷くと、私の隣に視線を向けて……

「友達?」
 尋ねます、何かを期待する視線が二つ。いえ、草木の間からももう一つ? 私はこっくり頷き答えました。


「はい、ちょっとした、ハプニングの結果で」




『おしまい』
「ところでこの子の名前は?」
「馬鹿な小傘さんです」
「しくしく、とうとう苗字にされちゃった」

 お読み頂きましてありがとうございました。お久しぶりのゆのつです。読んでほんわかして頂けたなら幸せです。
 帰り道のちょっとした出来事を楽しめるような、そんな気持ちになれればいいなぁと思いつつ、ではまたそのうち。
浜村ゆのつ
http://www.rak2.jp/town/user/oogama23/
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コメント



0.520簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
やっぱ良いな~こういうお話、癒されます
2.100名前が無い程度の能力削除
こがさなひゃっほい
3.100名前が無い程度の能力削除
これだから梅雨時ってのは嫌いになれないね
7.10名前が無い程度の能力削除
ほのぼのかなあ。ちょっと毒舌過ぎやしないかな。
遣える神にも敬意がないし、ほのぼのとは違う気がする。
17.100名前が無い程度の能力削除
これくらいの毒舌、幻想郷じゃ日常茶飯事だと思いますよ。
あと雨で喜ぶ諏訪子様かわいすぎ。小傘もかわいい。
19.100euclid削除
リズムのある文体とシュールな情景、
そして本音と建前の裏返っていく様が読んでいて面白かったです。
20.10名前が無い程度の能力削除
一方的に毒を吐いてひたすら片方がしくしくしてるのは幻想郷的じゃないかな、って。
互いに皮肉ををぶつけ合ってほしいの