Coolier - 新生・東方創想話

寅と鼠の音世界

2012/03/31 14:21:49
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 ギィ、ギィシ、ギッ。


「……ナズーリン、何してるんですか?」


 サァァ……サァァ……。


「……いや、どちらかというと、ご主人様が何をしているのかを聞きたいかな」
「ナズーリンが外を見ながら黄昏ていたので、どうしたのかな、と」
「……そうかい」


 パタッ、タッ、ポツッ、タタッ。


「別に、どうもしてはいないよ。ただ何となく、雨をぼんやりと眺めていただけさ」
「……そうですか」
「強いて言うなら……そうだね。雨音はどうして、こんなにもシン、と染み入るのか。……そんなことを考えていたくらいだよ」
「相変わらず、なんだか難しいことを考えてますね」


 ギィッ、ギッ。
 チャッ、ピピッ、ピチャッ、チャンッ。


「仏教の真理に比べれば容易いほうである気もするけどね。何せそちらは、極めるのに困苦を伴う」
「わからない物事を考える、という行為には、少なからず困苦が付き纏うものだと思いますよ?」
「頭でっかちの阿呆にとって、考えるという行為は快楽にも近いよ。私も例に漏れない。だから、悟りを目指した無を志せない」


 ポッ、タタッ、ピチャン、チャッ。
 サアァ……タタタタタタッ。


「……でも本当に、考えてみるとそうですね。雨音……いえ、水音でしょうか。どうして水がもたらす音は、染み入る響きを持つのでしょうか」
「雨音然り、小川のせせらぎ然り、水面の波紋もまた然り。まあ、瀑布の轟音や激流の水が砕ける音なんかのように、例外もまた存在するけれども。何故だろうね。何というか……土に染むように入ってきて、荒んだ想いも傷付いた心も、すべてを静謐の平穏に戻してくれるような……」
「……ナズーリン。やっぱり何か、考えてませんか?」


 サァァ、サア、ザァァ……サァ……。
 ピチャン、チャッ、チャチャッ、チャンッ。
 タタッ、タッ、パタッ、タッ、タタタタタッ。
 ポッ、ポツッ、ポッ、ポポッ。


「……少し、夢をね」
「夢?」


 ヒュゥ……タタンッ、タンッ、タタッ。
 ギギッ、キィーィ、ギッ。


「んー……っ、はあっ。別段話すほどのことでもないよ。それよりご主人様。私は不意に茶でも飲もうかなという気分になったのだけれど、どうする?」
「露骨に話を逸らしましたね……」
「どうかしたかい?」
「……いいえ、何も? 私の分もお願いできますか?」
「そのつもりで聞いたからね。折角だし、茶菓子も適当に見繕ってこようか。何となく、村雨餡の和菓子でも食べたいところだが」
「ああ、いいですねえ、村雨の棹物。久しく食べてない気がしますし、ちょうど、名前に『村雨』と入りますし」
「今降っている雨は、村雨というには淑やかだけどね。それじゃあ、少し待っていてくれ」


 ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ……。
 サァァアアアァァァ……。


「……夢、か」


 キィィッ……。
 パタッ、パタタッ。


「…………」


 ポツッ、ポッ、ポッ、ポツッ。


「…………」


 ……ピチャン。


「……っ」


 ギイ、ィ、ギッ。


「……ご主人様、何をしてるんだい?」


 ギッ!


「……いえ、何も?」
「……そうかい。お茶を淹れてきたよ。緑茶でよかったかな?」
「ええ、ありがとうございます」


 ギギッ、ギッ。ギュッ、ギュゥ。
 カタンッ。カチャ、カチャ、コトッ。


「残念ながら、村雨餡の菓子はなかったよ」
「おや、少し残念ですね……」
「代わりに、水羊羹を見つけた」
「おや。……水羊羹にも『水』と入りますし、甘さも染み入るような柔らかさで、これもまたいい菓子ですよね」
「理由付けが適当になってるね、ご主人様。しかし、ふむ……私は水羊羹の甘さを表すとき、『染み入る』よりは『溶け入る』とでも表したいところだがね」
「いえ、染み入るでしょう」
「いや、溶け入るだろう」


 カチャ、カ、トッ……。
 ……トッ。


「あっ!」
「わっ!?」


 ドタッ! バタン! ガチャッ、ガタン!


「な、なにをやってるんだご主人様! 吃驚しただろう!?」
「ご、ごめんなさい……まさかお皿が手から飛ぶなんて……」
「ただでさえ抜けてるんだから、もう少し気を付けてだね……っと、まあ、説教はやめておこうか」


 パタッ、パタッ、タタッ、タッ。
 サアァ……サァ……。


「……ん、美味いね」
「ええ。程よい甘さが染み入るような……やっぱり、そんな感じでしょう?」
「いや、私はやっぱり溶け入るだと思うが……」


 ピチョン……ピチャン……。


「……まあ、どちらでも構わないね」
「ですね」


 ズズ、ズズッ……。


「……う」
「?」


 ズズッ、コトッ。


「……ナズーリン。お茶、ちょっと苦いです」
「おや、濃くしすぎてしまったかな? 私はこれくらいが好きなんだが、甘党のご主人様には苦かったかもしれないね」


 ズズズ、ズズゥ……コトッ。


「まあ、甘い水羊羹と合わせてるんだ。甘さと苦さ、ちょうどいい取り合わせだと思って納得してほしい」
「飲めないほどではないですし、いいんですけどね……」


 カチャッ、ット……。
 ズズッ、ズッ、コトッ。


「…………」
「…………」


 ピチャン、ピチョン。
 タッ、パタッ、パタタッ、タタッ。
 ポッ、ポツッ、ポポッ、ポッ。


「……雨、止んできましたね」
「ん、そうだね。あちらのほうでは雲の切れ間も見えだした」


 パタッ、タッ、タッ……。
 チャッ、ピチャッ、チャッ、ピチャン。


「……そのうちのんびり、川まで歩いてみたりしようかな」
「染み入る響きの、その理由を知るために?」


 タッ、……タタッ。
 ヒュゥゥォォォゥゥォ……。


「……考えるために、さ」


 ギュッ、キュゥッ。


「それなら行くときは、私も誘ってくださいね?」
「ご主人様が暇だったら、ね。穀潰しの私なんかと違って、ご主人様は忙しいだろう? なにせ本尊代理だ」
「ええ、忙しいのはそうですけれど……暇でない時を見計らうのは、駄目ですよ?」


 フゥゥゥゥゥ……。
 ザァァァァァ、ザワ、ザワワァザアァ……。


「……勿論だよ」
「そうするつもりでしたね?」
「いやいや何を言ってるのかな? 部下を疑うなんて悪いご主人様だな。いやあ、雨は止んだが風が少し強くなったかもしれないねえ」


 ガチャッガチャッ、カチャン、カタッ。


「さ、さあ、それじゃあ片付けてくるよ」
「あ、私がやりますよ。用意してもらいましたし」
「いやいや、こういう仕事は部下に任せてくれて構わないんだよ。それよりも、今はお茶していたくらいだし、暇だろう?」
「? ええ、はい」
「誘ったほうがいいのなら、いっそこれから行ってしまおう。幸いなことに、雨もちょうど止んだしね」


 …………。
 ……ピチャン。


「っは、はい!」





 
 
金之助です。
短い、ちょっとした日常を書いてみました。書き始める前は「雨」をテーマに書こうと思っていたのですが、書き上がってみたら「音」がテーマになったような気がします。
地の文はすべて擬音語で書いてみましたが、日常の音って難しいですね……。

星とナズーリンです。今回は平和的に書けたのでよかったです。この流れで今までの感じになったら流石にあれですが(笑)
二人は主従のままだったらいい関係なんだと思います。そこより先に行こうとすると……といった感じで。
ナズーリンが見ていた夢がどんなものかは……うん。

前作のあとがきで書いたような、ほのぼの系の話になったんじゃないかな、と思います。

感想批評、大歓迎です。今回は特に地の文が地の文なので、わかりにくいとかありましたらそのあたりもどうぞ、忌憚なく。
過去作、そしてこれからもどうぞ、よろしくお願いします。読んでくださり、ありがとうございました。
金之助
http://david490alf.blog97.fc2.com/
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コメント



0.430簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
雨の静かな雰囲気が出てて良かったです
3.無評価名前が無い程度の能力削除
この場合の地の文で、余韻や間を三点リーダで表現するのは違和感がある
13.100名前が無い程度の能力削除
擬音語と会話の組み合わせが、二人の声までも想像させるようでいいですね。
音から二人が語り合う空間まで想像できて素敵でした。