Coolier - 新生・東方創想話

魔女達の武道会~I want to look your face~

2012/03/31 12:09:35
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(※作中に多少暴力的な表現があります。ご注意下さい)



 そして、パチュリーの右拳が、アリスの顔面を完璧に捉えた。
 左足は、アリスの足と交差するくらいに踏み込まれて、その全体重を乗せた拳は、アリスの華奢な身体を浮き上がらせ、数メートル離れた本棚へ押し込んだ。
 だるま落としの要領で、本棚の下部が後方へと滑り出す。しかしだるま落としと違って、本棚はそれぞれの段が繋がっている。よって、足元に全身スライディングを受けた本棚は、仰向けではなくうつ伏せになるよう倒れてきた。ばらばらと、詰め込まれていた本を雪崩させながら。それは雹のように硬く強くアリスへ降り注ぎ、最後に本棚そのものがアリスを押し潰し倒れ切った。
 巨大な図書館に埋もる蔵書。パチュリーが使役する小悪魔の手によって定期的な清掃がなされているにしても、それを全てに行き届かせるのは不可能なのだろう。数年と積もった埃が、一斉に舞い上がった。
 パチュリーは顔をしかめながら鼻と口を右の袖で抑える。
 少し離れたところで、魔理沙もそうしていた。
 魔理沙は呆気に取られていた。未だに狼狽することさえ出来ず、紅魔館のお洒落なチェアに腰掛けていた。
 そのチェアとセットになっているはずのテーブルは、魔理沙の目の前に無い。それは魔理沙からもパチュリーからも、少し離れたところに転がっていた。赤色の館に在って映える、テーブルを覆っていたであろう純白のテーブルクロスには、そのテーブルの脇に心細く落ちており、少しだけ赤黒い何かで染められている部分があった。
 今日のテーブルは、ティーセットや乙女達の細く白い腕を乗せるためだけでなく、アリスがパチュリーの顔を殴打するための武器として用いられた。赤黒い染みはパチュリーの血だ。
 口元を抑えたまま、パチュリーは左手を無作為に振るった。するとパチュリーを中心にして外へ外へと突風が吹き始め、一瞬の内に埃は同心円状に遠くへ飛ばされた。
 パチュリーが口元を拭いながら手を下ろす。生々しく乱雑な血化粧は、メイド長の口紅で遊ぶ吸血鬼の妹か、あるいは上手く血を吸えていない吸血鬼の姉かのように、鼻の下から口の周りを覆っていた。
 そうしてパチュリーが、鼻や口から流れていた血を拭うのと同じく、本棚のほうでも動きがあった。
 アリスが本棚を押し退けながら立ち上がった。それは見えない巨人に支えられているかと思えるほど無造作に、押し退けられて方向を変えて、本棚はまた別の所に突っ伏した。
 アリスも頭部から血を流す。パチュリーに殴られた鼻っ面と、どうやら頭のほうも切れてしまったらしい。美しい金髪が赤黒い接着剤によって所々が束となっている。赤いカチューシャに赤い天然のスリムリボンは、それも一つのファッションスタイルであるかのように見えた。

「な、何なんだよ一体……」

 無機質しか叫ばない静寂の中で、ようやく心に響く小さな音が一つ。魔理沙が何とか搾り出した、悲鳴のような声だった。
 しかしその声も虚しく、まるで人形か心の無い分身のような佇まいで居る二人には、少したりとも響かなかった。
 互いに意識があることを確認したアリスとパチュリーは、同じ速度で歩きながら距離を詰めていく。
 そんな二人を前に、魔理沙は立ち上がることさえ出来なかった。恐れていた。そして仲裁に入ることすら出来ない自分を、情けない軟弱者だと罵る余裕すら無かった。
 ただただ、微動だに出来なかった。この三つ巴は、蛇が二匹に蛙が一匹となっている。

「何なんだよ……」

 魔理沙が二度目の悲鳴を、更に小さくなった声で漏らした頃。アリスとパチュリーは向かい合った。
 拳を握って真っ直ぐに手を伸ばせば、拳の先が互いの鼻先へ薄く触れるか触れないかの距離。僅かに、アリスのリーチのほうが長い。そしてその状態から、二人は同じ動作で、左足を半歩前に出し、胸元へ拳を掲げた。
 合わせて丁度一歩分詰まった距離は、伸ばした拳が顔なり胴なりを殴るのに、最も適した距離となった。

「……」

 声にならない何かが、魔理沙の口からあふれた。
 それが二人のゴングとなった。

『ウウウウウウウウウウウウウウ!!』

 唸りを上げるその声は双方に同じ。ア、だとか。オ、だとか。そんな声を出してしまうと、歯を食いしばることが出来ないから。必然的に二人が発した気合はシンクロする。
 何も隠すことなく、思いっきり振りかぶった利き腕――右腕の直線的なパンチ。やや上背があるアリスの拳はパチュリーの眉間へ、そしてパチュリーの拳はアリスの顎へ突き刺さった。
 やや違いはあれど似た動きで、二人はぐらりと後ろに傾く。しかし、それは決してノックアウトの予兆ではない。いつの間にかもっと広く前後斜めに開かれた二人の足は、決して前や後ろには倒れないという強い意志を示していた。
 倒れるならば、それは意識を飛ばして、膝から崩れ落ちるだけだ。
 波打った二人の上半身は、それをバネにして返す刀で次は左腕。またしても近い動きで二人の身体は捻れ、今度こそは美しく点対称に、同じフックパンチが互いの右頬へめり込んだ。
 もう一度、身体が大きく捻れて。
 示し合わせたように、左頬へ右腕が突き刺さった。
 殴り。殴り。殴り、また殴る。
 もはやそれだけの狂気でしかない。その行為から、何の意図も、意味も、意志も、流れて来なかった。拳でものを語る? 馬鹿な、拳は決して言葉を発したりしないのだ。

『ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!』

 いつの間にか唸り声も濁ってきた。もうどれくらいの時間、そうやっているのだろうか。
 しかし、ついに均衡の破れる時が見えてきた。
 数回に一度、パチュリーが反撃の拳を振るえなくなってきたのだ。アリスのほうに比べて回転率の遅れが大きい。
 原因は恐らく二つある。一つは単純に体格の差。リーチが少し違えば、相手に突き刺さる拳の深さも違ってくる。筋力も同じで殴る回数も同じなら、この衝撃の差は長引けば長引くほど響いてくる。
 そしてもう一つは、『凶器』の存在だろう。
 アリスの顔面に比べて、パチュリーの顔面のほうが腫れており、また裂傷が多い。
 その理由は、アリスが人形師であることだ。
 アリスの十指には、それぞれに金属で出来た指輪が嵌められているのである。あまり凹凸のある指輪ではないが、それでも積み重なる打撃の中において、この硬さは徐々にパチュリーと対して、リードを奪うに充分な存在感を発していた。
 終わりがやってくるのは、パチュリーの腕が鈍ってから程なくして。
 アリスがパチュリーを五度殴る途中、ついにパチュリーは一撃さえ殴り返すことが出来なかった。
 ゆっくりと、それでも意地を感じさせる緩慢な動きで、パチュリーの膝が落ちていく。
 その様子を、アリスは動きを止めて見る。
 後はこのまま、パチュリーが意識を失うだけだ。
 だけのはずだった。
 床に膝が着く瞬間。最後の最後、本当に最後の一滴だけ、根性とさえ言ってしまうのが過小であると思える何かを絞り出して、正面に正拳突きを放った。
 それは、その高さにあって意図せず、アリスの鳩尾へ深々と突き刺さった。
 二人はひたすらに顔面を殴り合っていた。その証拠に、二人の拳が血で染まっているのは、相手の顔から流れた血よりも、自分の拳から流れでた血による割合が大きい。
 そんな中で、疲弊した身体に突然放たれたボディブロー。
 いつの間にか二人の間に結ばれていた、顔しか狙わないという暗黙の了解を、意図せずに打ち破る形となってしまったが。その一撃は、一瞬でアリスの下半身を消し去った。
 パチュリーのような意地を見せる間でもなく、糸の切れたマリオネットのように、アリスの膝は落ちた。
 そして二人の膝が床に着くのは、ほとんど同時であった。
 地面に膝が落ちた後は前にのめり込むよう倒れて、二人の体は支え合うようにして重なる。
 人という字が、出来た。

「……あっ、あ、ああ……」

 唐突に訪れた静寂。唸り声が響き続けていた時間の、百分の一にも満たない時間で告げられた決着に、此処でようやく、魔理沙は立ち上がった。
 そして、すぐにへたり込んだ。膝は、これ以上ないほどに笑っていた。足が、身体が、一切が言うことを聞かないくらいの、衝撃だった。
 笑う膝に反して、顔はどんどんとひしゃげていく。泣き顔に歪んでいく。堪え切れるわけは無かった。ほんの数秒後に、魔理沙は泣き出した。

「なんっ……なんだよッ……何なんだ……何なんだよ……これ……これッ……!」

 足が動かない。前に倒れそうになって腕を突っ張るも、その腕さえも容易に折れ曲がった。地面にへばりつく。蛙そのものだった。それでも、魔理沙は二人へ近づいていった。這いずるように。此処で初めて、魔理沙は蛞蝓【なめくじ】になれただろうか。

「説明してくれよ……」

 二人からの言葉はない。

「一体なんだったんだよ……なんっ……なんだったんだ……何なんだよ……」

 二人からの言葉はない。二人の元へと辿り着いた魔理沙は、二人に横から寄りかかるよう、しがみついた。誰も力を入れて支えることなど出来ず、二人は横向きに、そして魔理沙はうつぶせに倒れこむ。

「何なんだ……本当に何なんだ……わけわかんねぇよ……せめて……せめて……せめて何したかったのか……それだけ教えろよ……」

 魔理沙は泣きながら、うわ言のように呟き続けた。
 泣きじゃくる魔理沙の顔を見て、気のせいか意識が途切れたはずの二人は、笑っているように見えた。

























『こんにちは。週刊魔理沙ちゃんの時間です。
 先日、本気の殴り合いを見せて魔法使いの霧雨魔理沙さんを心的ショックによる昏睡状態に追いやった、アリス・マーガトロイド及びパチュリー・ノーレッジの加害者両名は、「魔理沙の泣き顔を見たくてやった。後悔はしていない」と供述しています。
 なお、殴り合いを行なっていたのはアリス氏が制作した自作のコピー人形と、パチュリー氏が創造した自作のコピー精霊だったということで、本人達は至って元気のまま、魔理沙さんが入院している永遠亭へと、平然な顔で見舞いに行っているようです。今のところ、面会は許されていません。
 専門の自警団によると、「このような事案は魔理沙さんの周囲では日常的に行われているようなので、今回に関しても特別に与するつもりはない」とのことですが、これは魔理沙さんを愛するがあまり常軌を逸した行動を取り続ける「魔理沙ちゃんファン倶楽部」による、賄賂を用いた権力の買収ではないかという見方もあります。
 今の幻想郷に、魔理沙さんの安息の地はあるのか。我々天狗報道は、これからも“極めて中立的な立場”から、この問題を追って検証していきたいと思います。
 以上、現場の射命丸文でした』



パチェ「それにはじめの一歩とか読んだばっかりだったからね」
アリス「魔理沙も可愛いから仕方なかった」




※白黒つけました
水上 歩
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コメント



0.1010簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
ダメだこの二人…
3.100名前が無い程度の能力削除
そのうち魔理沙死ぬだろうな
4.80名前が無い程度の能力削除
ストレスで魔理沙の胃がマッハ・・・
ですがその気持ちは分かります、可愛いなら仕方ありませんね

>アリス氏が特注した自作のコピー人形
注文したのか自作したのか白黒つけるべきです
7.70名前が無い程度の能力削除
知り合い二人が唐突にこんな事始めたら誰だって魔理沙みたいになるなw
とりあえず神社に避難すると良いと思うよ。
9.90名前が無い程度の能力削除
YouヤンキーかボクシングのSS書いちゃいなYO
指輪ありの拳で殴られても立ち上がってくるパチェ(コピー)を褒めるべき
13.80名前が無い程度の能力削除
とりあえず主がはじめの一歩とか読んだばかりなのはわかった。
どうせコピペばっかりだろ・・・と思ってクリックしたけどいい意味で裏切られた。

面白かったです。
18.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙は泣いていいw
19.90名前が無い程度の能力削除
これはひどいwww
魔理沙の反応は多分正常
21.90名前が無い程度の能力削除
可愛い子には泣き顔をさせよ
22.100名前が無い程度の能力削除
一体なんだったんだよ……なんっ……なんだったんだ……何なんだよ……
23.100名前が無い程度の能力削除
>何なんだ……本当に何なんだ……わけわかんねぇよ
本当だよw
25.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙ちゃんファン倶楽部じゃ仕方ないね!
28.100愚迂多良童子削除
>>人という字が、出来た。
この文章で吹き出したw
31.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙ちゃんだもんね。
37.90名前が無い程度の能力削除
いい百合だ…?
38.100完熟オレンジ削除
魔理沙ちゃん可愛いもんね、仕方ないね。