Coolier - 新生・東方創想話

老いては子に従がわず『宴夜』

2012/03/30 03:07:02
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楽しい伊吹、鼻腔から香る酒の匂い。


私は大きな桜の下、月を仰いで寝ころんだ




   今度はきっと、殺し合うことなく




ひらひら舞い落ちる、桜の花が鼻先に留まる。






   きっと、また逢える










************************





老いては子に従わず「宴夜」
















白玉楼の朝は早い。

私は床から起きると、適当に邸内を歩き回った。


使用人たちから、「幽々子様、おはようございます」と幾度も声をかけられる。
それに適当に「おはよう」と微笑み返すと使用人たちも満足した様子でその場を忙しそうに去っていく。

白玉楼の使用人たちにちょっかいをかけたり、たまに唄を思いついたら紙に書き込んだりした。

西行妖を見上げる。

この前まで、いまかいまかと開くのを待ち望んでいたようにみえた花は、もうすっかり散ってしまった。


「いろはにをへどちりぬるを・・・」

ふと、頭に浮かんだ詩を口にしてみる。
なかなか、いい具合に口元になじむ唄のように思えた。

白磁の庭に散った花弁をちょいと抓んで鼻先でそよがせてみる。
いつも通り、何一つとして様変わりしない、白玉楼の日常がそこにあった。




幾晩か前に、妖夢が夜遅くに帰ってきた、
「ただ今、戻りました」
服や髪の毛、体中に乾いた血を塗りたくって。


その時の胸の内をとても一言で表すことができない。

血まみれの妖夢を問いただせばよいのか、それとも何にも触れずにただ腫物のように扱えばよいのか。

妖夢は息を荒げ、何かを恐れているかのように、忙しなく瞳をぎょろぎょろと動かし続けていた。

「妖夢」
私の投げかけた言葉に、妖夢はびくりと脅える様に肩を震わせた。

妖夢は体中に血糊をつけていたが、これと言って怪我をしている様子もない。
ただ、その尋常でない身なりを見るからに、誰かを斬ってきたというのは容易に想像できる。

妖夢の額からじわじわと汗がにじみ出ている、つい先ほど人を殺してきたのだろう。
首筋のあたりから蒸気に似た血気が立ち上っているようだった。


    もう、これは私の知っている妖夢じゃないわ


手や肩、体中を震わせて、昂ぶった狂犬を思わせる。
手を触れれば何をされるかわからない。
そういう、気違いじみた危うさを妖夢ははらんでいる。



そう考えた途端、目の前の女が私にとって醜悪な、度し難い害悪に感じた。


    この女はもう、傍に置くべきではない。


あの背負った太刀で人を殺してきたのだろう。

目の前の女から漂う、幼いながらも妖しく漂う色香。
銀色の髪の毛がゆらゆら揺れるたび、妖夢の品格がただならないものにしか見えない。

先日から続く白玉楼での異変。
妖夢の様子も威圧的で、今までのような従順さも失われつつある。
もう、この女は私の手に負える奴ではない。



   ここから去れ、帰ってくるな


「妖夢」
もう一度、呼びかけると、目の前の女が素早く私に目を移した。
その鋭い視線の中に、私と同格の、幻想郷に数えるほどしかいない大妖達の威圧感をまざまざと感じた。

妖忌もすでに白玉楼にはいない、おそらくはもう帰ってこないと予期していた私にとって、すでに目の前の女は危険因子以外の何物でもない。
追い払わなくては。


どうせ、ここ数日、妖夢の振る舞いは目に余るものがあった。
この場で、この女を追い払ってやればきっと胸のすく思いがするに違いない。


これは、意地汚く偉そうにしていた罰だ


妖忌にただ甘えていただけの女め


暗い情熱が私の胸を焼いた。
お役御免を言い渡したら、この女はどんな顔をするだろう?

意味ありげに、足元に視線を落とす。
目の前の女も私の視線につられ、俯いた。
あるいは、これからの自分の運命を感じ取ったのかもしれない。
ひどく静かな時間だった。

あまりの静けさに、きんと耳鳴りがする。



『どうか、笑って迎えてやってくだされ』
耳鳴りに紛れて、ふと、慣れ親しんだ剣士の声が聞こえたような気がした。
ちょっと首を回してあたりを見る。


    そうだ、ここは妖忌と最後に話した場所だ

    もうずいぶん妖忌と話していない思いがする

    妖忌はなんといっていただろうか・・・・・?


『孫は今、試練に立ち向かっております』
『妖夢が試練を終えても、今回の事は何も話さないかもしれない』

そうだ、私はあの頼みにした剣士と約束したことがあった。
一体何を約束していただろう。


『あいつのことを、許してやってください』
私の唯一の心の拠り所だった男の声は、どんどん語りかけてくる。

言葉がたくさん積み重なっていけばいくほど、
さっきまで狂犬の様だった目の前の人殺しは、次第に萎みはじめる。


私は目の前の女の正体が不意にわからなくなった。

「妖夢」
正体を見定めるために、もういちど目の前の女の名前を呼ぶ。
「・・・・」
しかし、もう女は私に目を合わせようとはしない。

『ですが、妖夢が試練を終えて帰ってきたときには』
私の心のよりどころは、いつまでも言葉をつないでいく。

その言葉は、呪いにかかった私の心をときほぐすようだ。


よくよく、目の前の女を注意してみると、あちこちに包帯を巻いている。
きっと刀傷だろう、深くえぐられた体はものすごく痛むに違いない。






『どうか、笑って迎えてやってくだされ』





心のなかの妖忌が、せつなく私に微笑んだ気がした。

「・・・・」

いつの間にか、目の前の女は、唇を噛んで、苦しそうに、不安げに肩を震わせていた。
捨てられ、雨にぐっしょり濡れて震える子犬みたいに。


「妖夢、おかえりなさい」


思い切って、唇を動かした。
そう私が口にした途端に、「あれっ」と思うほどに、目の前の女はまるで綿が水を吸い込むように小さくなった。


    私は、うまく笑えただろうか?
    ちょっと、頬がつって変な笑いになったかもしれない


妖夢がはっとした様子で顔を上げた。

「おかえりなさい」
私はもう一度、微笑み返した。
今度はきっとうまく笑えたに違いない。


「・・・はい・・・」


何度か、つっかえながらも妖夢がそれだけやっと返事をしてくれた。


途端に、なにかが妖夢の中の堰を切ったように妖夢がぽろぽろと涙をこぼした。
「ただいま、戻りました、幽々子さま・・・・」

もう、次からは、滝のように鼻水を垂らして、しゃくりあげる。
その姿は、無垢な子供のようで、まるでさっきまで感じていた昂ぶりや興奮をすっかり失っていた。

もしかしたら、今までに映った妖夢の狂態は、私自身の心の汚さだったのだろうか。


なんて弱弱しい生き物なんだろう。
小さい子供の様に泣く妖夢の姿に、胸が締め付けられる。


    私はどうして、あんな残酷なことを考えてしまったのかしら



一時でも、この忠実な家族の信頼を裏切ったことに、後悔が大波のように迫ってくる。
暗い、女のどろどろした情念に駆られそうになったことを恥じた。


「ほら、泣かない泣かない」
できる限り、自分の動揺を妖夢に悟られないよう努めた。

「は・・・い」
すっかり汚れてしまった手の甲でごしごしと荒く鼻を擦る。
その仕草は、いつもの妖夢だった。
「お風呂を沸かしましょう、替えの服も」

妖夢の手を取って、白玉楼の奥に案内する。
幼子をあやすように、優しく握ると、妖夢も握り返した。

「もう平気よ、大丈夫」
何度もそうやって語りかけると、妖夢も笑みをこぼした。
妖夢は「はい、はい」と何度も頷く。


自分の、知ったような淑女の振る舞いに胸が悪くなる、さっきまでこの自分を信頼する少女を裏切ろうとしていたくせに。


だけど、その時だけは、優しくありたかった。


いつものように妖夢が庭先で稽古を始めると、使用人たちがあせあせとそれぞれの仕事に取り掛かる。
あるものは庭の掃除をし、またあるものは私の朝餉の準備に大急ぎで取り掛かる。

「うん」
その喧騒を背にして、妖夢が白刃の稽古をしていた。
ただ、普段と少しその様子が違っている。
掛け声もかけずに、剣を鞘から抜いたり差したりしながら、そのたびに難しい顔をしているのだ。
妖夢は「ああでもない、こうでもない」と刃物を色んなしぐさで振るっていた。


「妖夢、そんなにむっつりしちゃって、お腹が痛いの?」
私は「厠はあっちよ」と指さしてみせる。
「ち、違います! 腹など下してませんよ!」
妖夢がやや顔を赤らめた。

「なら、用もないのにそんなに難しい顔をするものではないわ」
私は、どうでもないことに、妙にしたりとした声で、説教にも似た指図をする。



「はぁ」
「そういう顔は困っているときにするものよ」
「すいません」
妖夢が所在なさげに頭を軽く下げた。

こんな下らないことで呼び止める、自分がどうしても止められない。
妖夢に「私がお前の主人だ」と大きな顔をしたいわけではないのだ。
ただ、幼いころから知るこの少女にとって、私は母のような、あるいは姉のような越えられない、尊敬の対象として見られたい。


    私はまだ、貴女に教えられることがあるはず


その晩が過ぎてからも、私は親しげに、いつも以上に妖夢に声をかけ続けた。
妖夢は私の小言を、いつも以上に素直に「うんうん」と何度も頷いて相槌を打った。



妖夢が帰ってきた晩、白玉楼で起こった小さな異変、その間に何が起こったのか気にならないわけがない。
ただ、こうして、何かを思い出すよう、無心に目の前の見えないものを必死に睨みつける妖夢を見ていると、


「なにがあったの?」


などと問いかけることは場違いな、ひどく愚かな質問をすることになるかもしれない、と一人で悩んでいた。

「あっ」
「え?」


庭で稽古らしきことをしていた妖夢が、突然小さく驚きの声を上げた。
何かに気づいた様だった。
私も思わず、問いただすように小さな声をかける。


妖夢は夢中に剣を見つめている、私の声は聞こえなかったようだ。夢中で腰の剣を抜いたり収めたりする。
その様子はかつての、剣の稽古をしていた妖忌の姿をふっと匂わせた
剣士の世界というか、女の自分がとやかく口出しできない雰囲気を妖忌は纏っていた。
その立ち居振る舞いが目の前のちいさな女の子から伝わってくる。

「・・・・・」
私はこっそりと妖夢の背中に回り込み、

「それっ」


夢中で剣を振っていた妖夢に抱きついた。


「うわっ!?」



目を白黒させて、今までしっかりした足取りの妖夢が頼りなくよろける。
「どろどろ~」
手のひらを泳がして、おどろおどろしい幽霊のような仕草をしてみせる。なんのことはない、これはちょっとした戯れ。
いつものように妖夢にちょっかいをかけているだけだ。

「あ、危ないですよ幽々子さま。 稽古の最中ですよ」

予想通りの反応が返ってくる、妖夢のいつものしどろもどろとした困った顔が戻ると、なんだがほっとする。

「つまらないんだもの、剣の稽古ばかりしてて、私の事なんて知らんぷり」
「そんなわけありませんよ、これも白玉楼を守るためですから」

その言葉は、まるで気負いがない。

私は「ふん」と茶化して鼻をならした。
「なんだか、妖忌みたい」
妖夢は「あはは」と乾いた感じで笑って、


「だといいのですけど」
と軽くあしらったような感じで、特に気にしたようでもなく私を押しのけようとする。



    そんなにおすまししちゃって

    私はまだ、もう少しだけ幼いあなたを見ていたい



ぐいぐいっと、頬を妖夢のそれとすり合わせて、妖夢の背中に胸を押し付けてみた、これでどうだ。

「う・・・わ、ゆ、幽々子さま」
今度は顔を真っ青にしたり、真っ赤にしたり中々忙しそうだ。

「は、はしたないですよ」
そう、わたしはこの反応を見たかった。

「ふん、まだまだね、妖忌ならこのくらいへっちゃらよ」
慌てふためく妖夢に「明鏡止水には程遠いわね」とへらへら笑った。


「あー・・・ごめん、なんだか私たち全然およびじゃないみたいよ」
「おい霊夢、あれってどういうことだ?」

「ひえええええええ!?」
妖夢が大声をあげて私の傍から飛びのいた。
もう少し柔らかさを堪能したかったのに。

「あら、博麗の巫女に白黒魔法使い、なんの御用かしら?」
「うーんと、宴会の会場の相談だったんだけど・・・・」
博麗が白けた感じで「忙しいならまた後にするけど」と髪の毛をじりまわす。

「なぁ霊夢、なんで妖夢のやつあんなに顔が真っ赤なんだ?」
「ちょっと、そういう世界もあるのよ! あんまり首突っ込まないほうがいいわよ・・・」
来客二人がひそひそとこちらにもはっきり聞こえる声で耳打ちし合っている。
明らかに妖夢をからかっているのだろう。

「ちがいます! とんだ誤解です、全然そういうのじゃありませんから! 違いますから!」
予想通り、妖夢が食って掛かる。
「うわっ!  寄るな変態! 今度は私を襲う気か!?」
魔法使いのほうは実に芝居がかった仕草で、詰め寄る妖夢から一歩二歩身を引いていく。

「ああ、そろそろそんな時期よねぇ」
「そうそう、けど今回参加する奴が多くて場所に困ってるのよ」

博麗の巫女と適当に世間話をしている間も、馬鹿なからかいが続いている。
「私、そんなはしたない女じゃないです!」
「うわーやだやだ、男っ気がないと目覚めちゃうってか? えんがちょえんがちょ」


「くぅううう!」

いつもの光景、真面目な妖夢が下らないことでからかわれている。
その様子が安心するといったら、妖夢は怒るだろうか?

「幽々子さま、なんとか言ってください! 変に思われてますよ!」
からかわれているのにも気づかず、必死な様子だ。魔理沙がにやにやとして私に笑いかける。


そういうことなら、少々私も悪ふざけにのってやろう。
「妖夢、あんなに私たち愛し合ったのに、私とは遊びだったの?」
「ふええええ!?」
「百合の花が咲いたわね」
「おい、ほんとに冗談だよな?」



自分でも悪ふざけが過ぎたような気がする。



****************************


正午の太陽がまだ高く上る時間だ、永遠帝の医者は里での薬の販売の後に白玉楼に足を向けた。

里での販売は中々に上々である。
まだまだ世の中には医者が解決すべき問題が山積みの様だ。



永琳が白玉楼を訪れるのはそのついで、ある約束のため。


「・・・貴女たち、なにしてるの?」
「おう、永琳じゃんか」
「いらっしゃい永琳、今日は来客の多い日ねぇ」

妖夢が魔理沙や霊夢たちに囲まれて、顔を真っ赤にしてなにか喚き散らしている。
「私は普通の女だ!」
「そりゃ、見ればわかるけど・・・いったいどうしたの?」

「ああ永琳、やっと来たのね」
輪の内の霊夢が永琳を手招きをして屋内にさそう。
「ほら、あれが患者よ」


「大けがした患者にしてはすごく活きがいいわね」
「よねぇ」とくすくす笑って、憤る妖夢を指さす。
どうやら永琳は霊夢が勝手に白玉楼に呼んだらしい。

妖夢は妖夢で「なにがおかしい!」と見当違いのことでぷりぷりと怒っている。

「魔理沙、もうやめときなさいよ、話が進みやしないわ」
「いや、私はもう誤解だって謝ったんだけどさ、こいつ私の話なんか聞いちゃいないぜ」

かっかしながら「馬鹿にして、もう知らない」だのとむくれて、妖夢の怒りはなかなか落ち着かない。

もしかすると女の怒りというのは理性では抑えが利かないものなのかもしれなかった。
「何の用ですか! 今私は忙しいんです!」
「どうもこうも、私は霊夢に来るように言われて来ただけなのだけど」

永琳の若干憮然とした表情、妖夢は何事かと思うほど素早く霊夢を睨みつけた。
「そんなおっかない顔しないでよ、別に他意はないわ」


霊夢は肩をすくめておどけて見せる。
「聞けばあんた、あれから碌に怪我の手当もしてないんじゃないの?」
「えっ?」
意表を突かれたように妖夢が豆鉄砲でも喰らったような顔をした。


「ちょいと用事があって永遠亭にいって聞いてみれば、貴女ろくに診てもらってないらしいじゃないの」
「えっと・・・それは」

腕のいい加減にまかれた包帯に目を落とす、その治療の具合はいかにも応急処置といった雰囲気で、それをそのまま放置したかのように包帯も少し汚れている。
「おい、霊夢その話は」
「いいじゃない別に、悪いことしてるわけじゃないわ」
あれからというもの、魔理沙はこの話題に触れることを禁忌のように嫌っていた。
そんな魔理沙の思いを知ってか知らずか、霊夢はさらに捲し立てる。

「貴女、放っておいたら医者にもいかないだろうし、勝手に呼んでおいたのよ」
「そうなの? 妖夢」

妖夢を見る幽々子の視線が、少し厳しいものになる。今まで白玉楼にいながら完全に蚊帳の外だった幽々子にとってこういう話題は見て見ぬふりができるものではない。
本来なら、幽々子こそ医者を呼ぶべき立場だろう。
それがいっそうに悔しい。


   悪い子ね


まるで悪さをした子供を咎める親の、思い通りにならないわが子への心の焔に似たものがあった。


それを敏く察したのか、妖夢もぶすっとした表情である。
「自分のことは自分で面倒みれますよ」
その言葉を口にしながら、腕の包帯を、大事そうにさする。
腕をその場にいる人間から隠すように後ろ手に回した。

「それができてないからわざわざ医者を呼んだんでしょうが」
「別に、医者などいいです」
「妖夢、いいから診てもらいなさい、これは主としての命令よ」

周りの視線に反して、ますますかたくなに腕を隠す。呼び出された永琳こそ好い面の皮だろう。
そこそこ場の雰囲気が険悪になったところで、
「医者上手にかかり下手とはよくいうわね」
永琳が「やれやれ」と溜息をつきながらとちょっと進み出た。
「まったく、私の患者は活きのいいのが多すぎて困るわ」
「・・・・・」
妖夢がまだ唇を尖らして、俯いたまま不愛想にしていた。
「ちょっと妖夢、いい加減になさいな!」
と幽々子がいさめようとしたが、永琳は「まった」とそれを制して説教らしきものを続ける。


「そういう人ほど、自分の身のことがよくわかってないものよ」
「私は違います」
「今入院している咲夜も、おんなじことを言っていたわね」


永琳は妖夢の態度なんてお構いなしに、商売道具を並べ始めた。
「忙しいほどわからなくなるものね、本人は大丈夫とはいうけど、けっこう具合も悪いわ。いまだに入院生活よ」
自責の念からか、「巻き込んでしまった」という後悔からか、どうしても永琳の言葉に耳を傾けざるを得ない。
妖夢が苦い顔をする。


「貴女にも仕事があるでしょうから、入院しろとは言わないけど、苦労してわざわざ出張した私の気持ちも考えて頂戴ね」

商売道具を並べ終わった永琳が手近な座布団をたたいて座るように催促する。妖夢も観念して素直にその指示に従い、座布団に座った。

「やれやれね」
「妙なところで意地をはるんだから」
「意地をはったわけじゃ・・・・」
「ったく、別にその汚い包帯が大事ってわけでもあるまいしよ」

変に大事そうに包帯をさする妖夢、その汚い包帯をとられている最中にもどんどんしょげた顔つきになっていった。

「あの、その入院してる咲夜さんですけど・・・・」
「んー?」
「そんなにひどいのですか? 大丈夫なんでしょうか?」


「ああ、そのこと?」
傷薬やら何やらを手際よく妖夢の傷に塗っていた永琳がとぼけた顔をする。

「ほんと、職業病ってああいうのをいうのね」
永琳が心底おかしそうに笑った。

「止めろというのに、入院してる最中でも家事手伝いをしたいって言い出したりとか、茶菓子をつくったりとかねえ、あれは医者でも匙を投げるわ」

その場にいた一同がどっと沸いた。
妖夢だけが「え、え?」とわけがわからなくてあたりを見渡す。


「咲夜さん、殴られて具合が悪くなったのでは?」
「はぁ? ああ、あの鼻血のこと? あんなのすぐに止まったわよ。 それよりも普段の過労のほうが大変ね、それで入院してるのだけど、なにか仕事をしてないと落ち着かないみたいよ」

永琳が「ほんと重症よねえ」と妖夢の頭を軽く、鞠のようにさわさわと撫でた。

周りがおかしそうにげらげら笑っている中、妖夢が「一杯喰わされた」と悟るころには、白い前掛けのようなものを首にかけられて収まりがよくなり、身動きが取れなくなっていた。

「そうそう、私たちその話をしに来たのよ」
場の雰囲気がようやく落ちつたところで霊夢が口をはさんだ。
「ほら咲夜があんなに簡単にのされちゃったでしょ?」
ふざけた様子で自分の頭を軽く手刀でたたく、咲夜が頭をたたかれた様子を再現しているのだろう。

「それなのにあんたがのうのうと戻ってきてレミリアがぷりぷりしちゃってさ」
毒のない口調で笑う。その様子を伺う魔理沙ははらはらとしているようだった。妖夢も引っ掛かる部分があったものの霊夢の話を黙って聞いていた。


「宴会の会場を紅魔館にしようって話もあったのに、ご機嫌斜めのレミリアが首をたてに振らなかったってわけ」
「あらあら、じゃあもう宴会はうちでやるしかないわねえ」


幽々子が「ねえ、妖夢」と妖夢を覗き込んだ。


「はぁ」
「よし決まりだぜ! 忙しくなるな!」

妖夢の周りが急にあわただしい雰囲気を増す。
「あれはどうしようか」「早く準備しなくちゃ」とそれぞれにやかましく相談をはじめる。

「ほらほら! 治療中にうるさいわ、適当に宴会の相談でもしてきなさいな」
永琳が「散った散った」と柏手を鳴らすと少女たちは「はーい」とそれぞれにやるべきことを思い出して散ろうとする。

「じゃ、私は戻ってみんなに知らせてくるわね」
「楽しみにしてるわ」
「じゃあ宴会でね、妖夢」


霊夢が少し飛翔して、手を振る。その表情は心なしか穏やかだ。
動けない妖夢は見上げる形でじっとしていた。

妖夢としては自分の関与するところがないままに決まったことなので、言うべき言葉も見つからず、



「はぁ、お元気で」
とよくわからない生返事で返した。





「・・・・ごめんね」




「え?」


今度は風の音にも消されることはなく、霊夢のつぶやきははっきりと妖夢の耳に届いた。

「なにがです?」と聞き返す暇もなく、霊夢は二人を残してさっと飛び去って行った。




******************************






「馬鹿な」

そう思わざるをえない。
斬った相手が気になって眠れないなどとありえないではないか。

「ほら、バンザイして」
「はい」
永琳さん――先生がてきぱきと傷の処置をどんどん終わらせていく。

さすがは医者というか、自分一人で手当てしていた時には感じなかった、程よい包帯の締めが心地よい感じがする。


先生を横目で見ると、額に汗を浮かべている。医者仕事もなかなか力のいる仕事らしい。

あの晩に自分で処置した包帯が取られると、なにかあの晩に誓った心がなくなってしまうんじゃないか、そんなことばかり気にしていた。
「どうかしら? 包帯の具合は」
「はい、いい按排です」


先生は「ならよかった」と治療に戻っていく。

「跡が残るわ」

ぼそっと、先生の耳元の言葉、ようやく切り出した言葉で先生の表情も暗かったが、私は全然かまわなかった。


    これで、忘れずにいられる


「そうですか」
もちろん、そんなことを言ったらおかしなやつだと思われるだろう。女の肌に醜い切り傷が残るなんて普通は落ち込むところだ。



「仕方ありませんよ」
けど、笑いを完全に抑えられなくて、おちゃらけてごまかした。
「自分で選んだ道ですので」

それが嫌だったなら、逃げればよかった。 
そうしなかったのは私だ。

私は勝ったんだ、そして幽々子さまは私を受け入れてくれたんだ。

だからそんな暗い顔をされると困るではないか。



「恨んでないの?」
「なにをです」
「おじいさんのこと、妖忌をよ」
先生は「貴女をこんな道に引きずり込んで」と少し声が震えているようだった。



なるほど、そういう考えもあるかもしれない。
世間から見たら、それが正しい考え方なのだろう。

ちょっと考えるふりをして、それからたっぷり時間をかけてから難しい顔をしてみせた。

「そうですね、恨んでます」
「・・・・・」


先生は「やはり」と、悲しい顔をする。先生はいったいどんな返事を予想していたのだろう。

だけど、私が人間らしく生きる場所はここ以外にないのだから。


「師匠がもっときちんと修行を手ほどきしてくれたら、こんな傷負わずにすみましたから」

いたずらっぽく笑って見せる。



先生はぽかんとしていた。この長寿の賢者をやり込めて見せるとは私も少しは腹芸ができるようになったのかな。

私は今まで勘違いしていたことがある。
それは今まで私が自分は偉い人間だと思っていたこと。

まるで自分が武家のご令嬢か何かだと思ってふるまっていたことだ。
自分は気高い剣士、だから白玉楼に住んで、立派な着物を着ていられるのだと。



だけど、実際、私は白刃を握りしめた、ただの乱暴者の娘だ。
それができなければここにいる価値なんてない。



「はああ・・・」
「どうしました? 先生」

先生が手を止める、さっきの私の言葉で気でも悪くしたのかも。
「はい出来上がり」

止めた手を、ちょっと上げて見せたと思うと、
「!? あったあああああっ!」
包帯のあたりを「ぱしり」とはたかれた。



「じゃあ次は肩を診るから、服を脱いで頂戴」
「あたたた・・・、し、死ぬかと思いましたよ」
「死なないわよこのくらいで」

「ほら、さっさと脱いで頂戴」と催促される。生意気な私への意表返しというわけだろうか。

私は「なんで叩くのか」とか「怪我人にする仕打ちじゃない」とか恨みがましく小言をはいていた。


綺麗に、新しくまかれた包帯、もうあの日が過去のものになったんじゃないかとちょっと不思議な気分になる。

実は、私はあの晩に、もう一度あの場所に戻っていた。


    とどめを刺し忘れた


よくよく師匠から言われていたことだ。最後の最後まで油断するなと。
敵を斬った興奮も冷めないままに帰ってきてしまった。
あの外傷ではどうせ長くはもたないはず、だがもしかするとということがある。
布団に入って震えていたときになってそれを思い出して、いそいで寝間着姿のままで剣を抱えて飛び出したのだ。



「先生、いいでしょうか?」
「なに? ちょっときついかしら?」
「いえ、そうではなくて」

夜が明けたころに、ようやくあの場所についた。

だが、あたりを見渡してもいるはずの人はいない、少し開けた場所にあるのは雨上がりの綺麗な水たまりの様な、輝く血溜まりだけだった。



「永遠亭で、・・・ええと、その、最近怪我人がやってきませんでしたか?」
「・・・・・」





先生は「どんな?」と聞き返す。
それはそうだ、病院に怪我人が来るのは当然のことにきまっている、少し考えて言葉を選ぶ。
「若い男です、大きな体で、狼のような鋭い顔。 それで白髪の総髪で・・・」

「私が斬った」と付け加えるか迷い、結局そこまでは言えなかった。他人にそこまで話してしまうのに抵抗を感じたからだ。

「半人半霊の?」
「いるのですか!?」
「いいえ、残念ながらそういう人はうちにはいないわね」


がくりと肩の力が抜ける、先生は特に気にした様子もなく私に服を脱ぐように指図する。

「な、なんでそのことを?」
「魔理沙が言いふらしてたわよ」
「もうそこらじゅうで噂よ?」と付け足されると、あの時神社でやはり公言するべきではなかったといまさら後悔した。


「それに、残念ながらそんな若い男なんて入院してないわ」

「そうですか・・・・」
だとしたら、あの男はどこに消えてしまったのだろう?
あの後すぐに妖怪に血の匂いを嗅ぎつけられて丸ごと食われてしまったのだろうか?


だがそれにしては、森の中は静かで、残骸もなく綺麗な血溜まりだけがあるだけだった。

私は、きっとあの男がまだどこかで生きているものだと考えることにした。


そう思うと、包帯をすぐに取り換える気持ちにはなれなかった。
もしかしたら、すぐにでも白玉楼に現れて私に逢いに来るのではないか。
この包帯まで取ってしまったら、あの時感じた、身を焦がすような想いまで取れてしまうような気がしたのだ。


    あの人は、またきっとやってくるだろう


休めるべき体をいたわらずに、白刃を握って待ち続けた。
夜も震える体を抱えて、眠れない。

言葉にできない熱いものが腹の底からこみあげてくる。



「先生」
「なにかしら?」

この気持ちを言葉にしなければ。ここにいる歳を重ねた賢者なら私の気持ちをなにか落ち着ける言葉を知っているかもしれない。


「私、不思議な奴にあったんです」

「・・・・・ふうん」
「無口なやつで、けど目の奥に不思議な光があるんです」
「へぇ、どんな人なの?」

先生も、私が話しているのがその件の剣士だというのはわかっているだろう。
けど、この人なら私の言葉をよく噛み砕いてくれるに違いない。

「ええと、年の頃は私とほとんど変わりがないなのにまるで古豪の様な老獪した凄みのあるやつで」
なぜだか、言葉が弾む。
こみあげてくる気持ちを何とか拙くても言葉にしてみる。
そうすると、あの男がまるで目の前にいるかのように感じた。


「それとなんだか私に似てる気がするんです」
剣士で半人半霊だというのならそれはもはや私と同種の人間と言っていいだろう。


「物腰にも隙がなくて、どこに住んでるのかもわからないんです、けど決まった時になると必ず現れるんですよ」
「どんな人か、私も会ってみたいわね」
「えっと、すぐには会えませんけど、いつかまたどこかで出会える気がするんです」

あの瞳の奥で燻っている不思議な光は、目を閉じると簡単に瞼の裏に映る。

「しかも、男のくせに変に色のあるやつで! ・・・・・・」
はっとして、言葉を切った。
斬った相手、敵の事をこんなにうれしそうに話してどうする。
これじゃあまるで私が気違いの女のようじゃないか。

「・・・・・」
だめだ、きっと変に思われただろう。
あの晩、あれから私は全く変だ。頭の大事なところが焼き切れたのかもしれない。
ぐっと、胸のつかえもとれないままに黙り込んだ。


これ以上喋っちゃだめだ。


「綺麗な髪ね」

先生が静けさを破った。
「ちょっと、揃えましょうか、このままじゃもったいないわ」
大きな手のひらが私の頭を撫でている。


おそらく斬り合いの時に刃物が頭に当たったせいだろう、確かに変に頭がはげたようになっていたり少し気になっていたのだ。

「治療のほうはもういいので?」
「一応はね、包帯と薬は置いていくけど、後で絶対に永楽亭まで来るように」

今度は鋏を取り出して「動かないで」と長い布を首からまかれた。
いきなり散髪だなんて、いったいどういう風の吹き回しなんだろう。


小気味よくサクサクと髪を切る音がする。
たまに手鏡を出して「どう?」と私の意見を聞いてくる。

よくわからなかったが、手際がいいと思う。頭のいい人は何でもできるのだなと思った。
「はい、いいと思います」

先生は「そう、よかった」とにっこりと笑う。


「好きなの?」
「へ?」
「その男の子のこと」

いきなりの事が続きすぎて面食らってしまう。
さっきの話の続きか、しかしまさかこんな形で話を振られるとは思わなかった。


「好きか嫌いか、どっちかよ、女が男を見るのはそのどちらかだけ」
「は、はぁ?」


スキとはどういうことか? スキというとあのホレタハレタのあれのことだろうか。



「嫌いならとっとと忘れなさい、そっちの方がすっきりするわ、気持ちの整理もつくってものよ」


斬り合った相手を取り上げて、いきなりホレタハレタなんて言われても返答に困る。



「好いているなら、そのまま想い続けなさいな。 そしたらまたいつかきっと逢えるわ」
「あのう、そういうスキとかキライとかではなくてですね」
「嫌いなの?」

どうにも話が通じない。



頭のいい人というのはこういうことをいつも考えているのだろうか?
そもそも、斬った敵の事をスキだと思う神経が普通ではないだろう。


「そういうのではなくてですね、私にとって好敵手というか、負けられない相手という感じで」
「じゃあ好きなのね」
「先生! もしかしてからかってます?」

先生は「まだお子様ね」と笑う。確実にからかっている。
「さあ、これでお終い」

私の首から布を取り去ってちょっと溜まった髪の毛を庭でさっと払った。
「まあ、決めるのは早ければ早いほどいいわよ」


見送る私を振り返って、ぱちりと片目をつぶって目まぜした。
私だったらできない目まぜをなれた感じでさらっとやって見せる。
その様子は先生がやっぱり大人なんだなと思わせた。

逃げるように道具を片付けて、言いたいことを好きなだけ言ってから先生は帰ってしまう。

大体、生きてるか死んでるかわからない相手にそんなこと考えても仕方がない。

「変な人だなぁ」
妙なことを吹き込まれた気分だ。



雑念を追い払うために、中断されてしまった稽古を再開しよう。
縁側から庭に飛び降りて、もう一度剣を構える。


もちろん、目の前にいるのはあの剣士だ。
あの晩の月明かりがどんどん目の前に広がっていく。


さっきは幽々子さまに抱きつかれてびっくりしたけど、まだ感覚が体に残っていた。


    危ない、危ない、忘れるところだった


腰を割り、そこに肩を入れると握った剣が力学的にするりと抜けるのだ。
これなら素早く、腕の力関係なしに体の身のこなしで抜刀できる。

きっと私はあの晩にこれをやってとっさに剣を抜いたに違いない。


    妙技だ


秘術と言っていいかもしれない、ただあまり身に覚えがないのが悔やまれる。
忘れないうちに、これを記録しておかないと。

そう、思い立って私は自分の部屋に戻って墨と硯を引っ張り出した。
箪笥に大事にしまっていた、師匠からの贈り物、魂魄家の代々受け継がれた巻物の隅を開く。

袖を捲って、何度かほかの紙に練習してから、注意深く筆を下した。

「うん、これでよし!」

その歴史の中に、初めて私の筆が入る。
師匠の達筆に比べるとまるでミミズののたくったようなまるっこいヘンテコな字だ。
けどなんだか私も師匠と肩を並べたような気がして、嬉しい。

「うーん」
師匠の筆跡をもう一度舐めるように眺める。
こうしてみると、師匠には悪いのだが、文面だけでは伝わらないことがまだあるように思える。
体捌きのこと、心構えの事、私が知るべきことはあまりにも多い。




    いつになったら帰ってくるのやら




人を斬ったこと。
私の勝利をほめるてくれるのは、きっと師匠だけだろう。
だから、もう一度


    妖夢、よくやった



そう、頭を撫でてほしい。

墨を乾かすために、広げたまま置いておこう。

きっと、私の後の代の魂魄家の人たちも私の残したこの巻物を見るに違いない。
きっと私よりも強い剣士もたくさん出てくるのだろう。
もしかしたら私のこのヘンテコな字をありがたがって拝むように見るのかも。
それを想像すると「ぷくく」と笑ってしまう。まさか誰もこんな小娘が書いた文字だとは思うまい。



「・・・ん?」


そこで、「あれ?」と矛盾に気づく。

今、魂魄家の人間は師匠と私の二人きりだ。
それで跡取りはというと私一人だけ。



「んん?」



私の後の代がこれを見るには、つまりは私が子供を産むなりして血筋を残さないといけないということになるわけで。

「妖夢―? 終わったかしら?」
「ああ、幽々子さま。 はい、終わりましたよ」

どうやらずいぶんと待たせてしまったようだ。
幽々子さまは「お腹が減ったわ」となにか珍味を所望のようだった。

「何か用意させましょうか」
「一緒に何か食べましょう」と使用人をこき使って、私には座に座っているように指図する。こうしてのんびりするのはなんだか久しぶりな気分がする。

「師匠はどこに行ったんでしょうね」
「・・・はぁ」

幽々子様の深い溜息。本当なら宴会を一緒にするはずだったのに、またこうして音沙汰なくまたどこかに行ってしまった。


「ほうっておきましょうあんな風来坊、またきっとひょっこり顔を出すに決まってるわ」
「それもそうですねえ」

目を細めて、憂鬱で物憂げな顔。 一挙一動が年頃の女の子のようで、幽々子さまがもっと身近な存在のように感じた。

「待つ女はつらいですね」
「まぁ」

幽々子さまが珍しく目を剥く。ちょっと頬に赤みが差した幽々子さまを拝めるなんて僥倖だ。


「妖夢もいうようになったわね」
「さっきの仕返しです」



二人して久しぶりに腹の底から笑ったと思う。
こんなふうに、笑いあえる家族がいる。
師匠がそこにいて、幽々子さまもいて。そんなことを夢想する。



私が子供を産んだら、どんなになるんだろう



家族が増えたら、今よりもにぎやかになるのだろうか。
魂魄家の跡取りとして、その重責を背負う。

自分が家族を持つなんて想像できない。自分の夫になるやつはどんな奴なんだろう。


ぱっと、あの男の姿が浮かんだ。
あれがそこの縁側で剣の稽古をしている姿を想像する。

師匠がかつて、私にしたように
わが子に剣の稽古をさせながら

大きな桜の中で、家族で集まり、
その様子を師匠が横やりをいれて口出ししたりして、幽々子さまが微笑みながらのんびり眺めている。

そして私もわが子の事を見守っている。


あの不思議な男とわかり合えたなら、どれだけ素敵だろうか。

『どっちかよ、女が男をみるのはそのどちらかだけ』



「妖夢?」
「は、はいっ!?」
「お茶、冷えるわよ?」

どうも、ぼうっとしていた。幽々子さまの声で我に返る。
訝しげな幽々子さまの視線が非常に苦しい。
あわててお茶をすするも、妙に白けた空気が否めない。


   最低だ、斬り合ったやつであんな想像をするだなんて

   自分が穢わらしく感じる

   やはり私はどこかあの日から頭がどうかしてしまったらしい




「ねぇ妖夢―」
「あ、甘いものでも用意しましょうか?」
猫撫で声のような、甘い響きが嫌な予感をさせる。


そう、全ては斬ってから識ればいいのだ。

あ、いや、あの男は斬ったから別にいいのか?

「さっき何考えてたの?」
「別に、何も」
「うそ、なにか考えてた」
「少しぼうっとしていただけですよ」
「またまたそんなこと言って、そんなに頬を紅く染めていても説得力がないわよ?」
「えっ!?」

あわてて頬を隠したが、幽々子さまは「嘘よ」とにんまり笑った。
どうやら幽々子さまにはまだかなわないらしい。

「教えなさいな、誰の事考えてたの?」
「だれでもありませんてば」
「つまらん意地を張っていると身のためにならないわよ?」

幽々子さまが豹のように飛び掛かり、私を羽交い絞めにした。
「っぷ!? あはははは!?」
「それそれそれ!」

私の横腹やら脇やらをくすぐる。そこは弱いのだ。
「止めて! 私、怪我人! あひゃははは!?」
「だったら観念して吐いちゃいなさい!」




その拷問は、私が降参の宣言をするまでずっと続いた。



***********************



「ああ、くたびれたわね」
竹藪の中、人が入れば確実に迷うといわれている迷路に永遠亭はある。

白玉楼の用事もすんで一仕事終えたという風に肩をとんとんと叩いて、永琳は自宅に上がった。

「ただいま・・・」
「あははははは! し、師匠! おかえりな、ップ! ひゃははっは!」
「・・・・・」

玄関口の目の前で、自分の弟子がのた打ち回りながら、心の底から嬉しそうに笑い声をあげている。
実に異常な光景だが、とりあえずおかしな鈴仙を見ていると逆になんだが落ち着いてきた。
冷静な態度で、永琳はのた打ち回る鈴仙を覗き込む。

「鈴仙、なんのつもり? そこで寝ていると風邪ひくわよ?」
「す、好きで寝ているわけでは・・! あはははっは!」

気の狂った弟子をとりあえず放っておいて、ずんずん家の中を進んでいく。
あちこちでウサギたちの苦しそうな笑い声が聞こえている。

「ああっ! お師匠様! お帰り! あと助けて!」
てゐが永琳を出迎えると同時に心底脅えきった表情で助けを求めてきた。
「あら、先生、おかえりなさい」

少し前にワーカーホリックと診断されて入院してきた咲夜。
きっかけは後頭部強打、様子見だったが、過労改善のために入院を余儀なくされた。

この変人は入院中にまた何かをやらかしたらしい。

「ただいま咲夜さん、それでこの地獄絵図はなにかしら?」
「笑う門には福来ると申しますでしょ?」

瀟洒な笑みでにっこりほほ笑む。
「私もなにか永楽亭のお役に立てないかと思って、皆にお茶をふるまっていたの」
「なるほど」

永琳は納得した。
つまりこいつは茶菓子と一緒になにか一服お茶に盛ったというわけだ。

――確かに咲夜という人間が、変なお茶を淹れる癖があるというのを聞いてはいたが、まさかここまでとは

何を盛ったかは見れば明らかだろう。
「咲夜さん、貴女には紅魔館のみなさんからよくいわれています。 今は焦らずに体を休めましょう」

正味なところ「何もしないのが一番助かる」と言いたかったが、この手の奇人に正論など通用しないのは承知済みだった。
今後咲夜の傍に薬を置くのは危険と永琳は判断した。

「お師匠様がいっても全然説得力がないよ」
「ちょっと黙ってなさいな、てゐ」

咲夜は「お洗濯お手伝いしましょうか、それともお掃除?」と瞳を輝かせている。

趣味を仕事にしてしまった人間のつらいところだろう。

「あんた、頭どうかしてるよ・・・」
青い顔をして、てゐがぶるぶると体を震わせている。

「し、師匠・・・お、おかえりなさい」
ぜいぜいと、どうにか息を吹き返した鈴仙が壁に体を預けながらすり寄ってきた。

「咲夜さん、一体何を淹れたのかしら?」
永琳が「今後の参考」とか付け加えると、嬉々として咲夜が説明を始める。

「みなさんの健康を思って、福寿草、それと幸せのことも考えて笑い薬も入れてみましたの」
鈴仙が「うわぁ」と恐ろしいものを見る目で咲夜をみた。


考えようによっては劇薬である。
心臓の弱い人間に飲ませたらそのままぽっくり死ぬのではないだろうか。

「どう鈴仙? つまり薬は時として毒にもなりえるってわけよ」
「は、はい。 身を以て知りました・・・・」

鈴仙が「貴重な体験でした」と感想を一つ入れて、咲夜から隠れるようにてゐと永琳の後ろに隠れる。

「それでお師匠様、売上のほうはどうだったのさ?」
「ふふん、天才の私に間違いなどなくてよ」

永琳が懐から巾着を一つ取り出す。
そこからはいい音がざくざくと聞こえてくる。

「あら、まぁ」
「今日はごちそうですね、 師匠!」
「やった! 今回の商品は大当たりだよ!」
「今日は皆でぱーっとやりましょ」
咲夜が「ご一緒しても?」と聞くと一同で「もちろん」と温かく笑った。


ざくざくいい音で鳴る袋をじっと見つめる咲夜。

「お医者様って儲けになるのですね」
「そんなことないわ、ほとんど慈善事業よ」

照れ隠しに「赤貧よ、赤貧」と永琳があわてて巾着をしまいこむ。

「気になりますわ、今回の商品ってどんなお薬なのかしら?」
「ああ、そういうこと?」
「あ・・・の、師匠その話はあまり・・・」
「あらいいじゃない、別に減るものじゃないし」

永琳は「咲夜さんもいつかはこれにご厄介になるわ」と付け加えた。
「そそ! まさしくこの薬は人間を幸せにする薬ってわけさ!」

てゐがその薬とやらを手に取って、偉そうに解説を始める。

「熱く燃え上がった男と女、永く語り合った愛の歴史」
語り部のように、身振り手振りを加えて芝居かかった仕草で愛らしい表情をふりまくてゐ。

それを苦い顔で鈴仙は見ている。
「けど、それも長く続けばいつのまにか愛は冷え、あのころの情熱も薄れゆく・・・・」
「やめなさいってば、てゐ」
てゐは「いいじゃないかね、ノリの悪い奴だね」とそれを適当に流す。

「要は媚薬よ、媚薬」
「あら輝夜、ただいま」
「おかえり永琳、その調子じゃ売り上げは上々の様ね」



部屋の奥から箱入り姫がしゃなりしゃなりと姿を現す。その顔は絶世の美女という恐ろしく整った顔立ちのくせに、にやにやと変に笑っている。
「紅魔の狗も元気そうでなによりね」
「あらご挨拶ですわね・・・・それより、媚薬? どういうことかしら?」
「もーやめましょうよーこの話題」

気まずそうに鈴仙がてゐを止めにかかる。てゐは「まぁまぁ」と生返事。

「はっはっは! 媚薬? そんなちゃちなものじゃないよ! このダイコク印の薬はもっとすごいもんさ!」
「実は最近、妙な依頼をしてきた人がいてね、そのついでにできた薬を売りさばこうって話になったのよ」

永琳が咲夜に付け足して説明する、「まぁ、平たく言えば」とちょっと威勢をそがれるてゐ。

「はぁ、媚薬っていうと、あのやらしい気分になる薬のことかしら?」
「やめましょうよーこの話―」
鈴仙は顔をすっかり紅くして、てゐの足に取りすがる。
「だから違うって! これはそういう危ない薬じゃないよ! いわば若返りの薬さ!」
「これを飲めば、倦怠した夫婦仲も一発解消ってわけよ」

輝夜がからからと笑うと、咲夜は「まぁ」と手を口元にあてて目を剥いた。

「そして夫婦はまた自分たちの愛を確認し合うってわけさ」
てゐが「これが里で馬鹿受け!」と、下世話な、それでいて澄んだ笑みを浮かべた。
鈴仙は顔を真っ赤にしてもう何も言わない。

「けど、そんな不老不死の薬をばらまいていいのかしら? ちょっとまずくありません?」
「ああ、それなら心配ご無用よ」
永琳がすっと進み出る。



「コトが終われば、元に戻るの。もっと正確に言えば興奮がおさまればってとこかしら?」
「師匠!」


「一夜の夢物語さ」
てゐが鈴仙の悲鳴のような抗議を無視して続ける。

「薬を使えばもっとも心身充実していたあの頃に、その一夜限りの夢現に酔いしれ、情熱を忘れることができなかった奴だけが、なにもかもが新しかった頃に戻れるのさ」

てゐが「あはは」と面白そうに笑う。
「じゃあ、仮に今私が飲んだとしたら?」

「咲夜、貴女は今一番充実した人生を歩んでいるわ、そういう人間が飲んでも特に変化はないの」


「不老不死は人の夢だけど、それは言い換えれば人の世を外れる禁忌の薬、それを売りに出すほど傲慢にはなりきれないわね」

「蓬莱の薬なんて不完全な薬とは違う、一夜限りの夢、永遠の夢を与えてくれる薬、それがこれなのよ」
輝夜が「まぁ私は元から俗世なんて超越してるけれどね」と絹のような美しい髪を一払いした。

「とまぁ、そうはいったものの、どんな薬も使い方を間違えれば毒になる」
永琳が肩をすくめた。
「実はそれを使ったおじい様がちょっと張り切りすぎたのか、大けがをして今入院しちゃってるってわけよ」
「それはご愁傷様ね」
「どんな遊び方すればあんな怪我になるのやら」
てゐが「うしし」とにやけた。

「かかり上手な人かと思ってたけど、してやられたわ」
永琳が「やれやれ」とため息をつく。
「その方、具合はどうなのかしら、悪いの?」
「うんにゃ、今は安定してるよ、一時はどうなるかと思ったけどね」

咲夜はつい最近の晩のあわただしさを思い出した。
あれは怪我人が運び込まれたせいだったのか。
あまりかかわりを持つべきではないと思っていたが。


「薬も使いようですわね」
「ですよね、まさにその通りだと思います」

恨みがましく鈴仙が咲夜を見つめる。先ほどとんでもないお茶を出して地獄を味あわせた人間の言葉とはとても思えない。


美鈴がひょっこりやってきて、妖夢の決闘の結果を伝えに来た時のことを思い出す。

「もう! 今度からはこんなことに首を突っ込まないで下さい!」
「あーもう、わかったわよ! 私が悪うございました」



普段の立場とは違った雰囲気に、少し新鮮な面白みがあったと思う。

お嬢様がご立腹とのことを伝えられたときは少々肝が冷えたが
「どうせいつもの気まぐれだから平気ですよ」
とにんまり笑う美鈴の声にほっとした。


「はぁ・・・・、これじゃあ貴女の事を指導できる立場じゃないわね」
「お嬢様の事ならほんとに平気ですよ、咲夜さんが入院したって聞いてみんなすっごい大騒ぎでしたから」

身振り手振りで大げさな仕草をする美鈴は、馬鹿みたいに明るかった。

――まさか、慰めてくれてるのかしら?

「はぁあああ・・・」
「ど、どうしましたか? 咲夜さん」

美鈴が不安そうに咲夜を覗き込む。

    私も未熟ね


紅魔館の中では偉そうにしているが、咲夜は一番幼い存在なのだ。
力の有無以外にもまだまだ自分が知らなければならないことは多いのかもしれない。


「妖夢さん、勝ったそうですよ」
「そうなんだ」


突然切り出された話題に動揺してしまい、美鈴からふいっと顔をそらす。
やはり、紅魔の狗を名乗る以上、負けは悔しい。

「強いんですかね」
「かもね」

美鈴の妖夢への言葉が、咲夜への侮辱に聞こえてしまう。
それに気付いたのか、美鈴があわてて咲夜にあれこれと言い訳を始めた。

「ほら! 勝負は時の運です、どんな強い人も勝ち続けられるわけじゃありませんから!」
「それに、卑怯な不意打ちなら仕方ありませんよ!」

ぐっと拳を握りしめて美鈴は力説する。
その様子が咲夜にはちょっと面白く、そして自分が少し惨めに思えた。


「死んだら言い訳もできないわよ」
「あうう・・」

わざといじけたふりをしてこの同僚をからかうのも悪くない。
普段ではめったにない無いことで心配されるのも案外悪くないものだ。
簡単な会話の後に、皆と宴会の会場で会う約束をして、その場はお開きになった。




その間に、美鈴から勝負の詳細を教えてもらった。
美鈴は「聞いた話です」と言っていた。


右袈裟に切り裂かれた体、致命傷。
決着した日時。

若返る秘密の薬。
運び込まれた老人。






    もしかすると、もしかするかもしれない




「・・・・」
ちょっとした井戸端会議になった永遠亭の一角で咲夜は、ぎりりと静かに歯噛みした。


「ところで」と咲夜が続ける。

「その方、会えませんか?」
「ん? なんで?」
「長い入院生活だと、おしゃべりの相手もほしくなりますわ」
にっこり「いいでしょう?」と微笑む。



鈴仙が「ほうほう」としきりに頷く。

「はぁ、そういうことなら・・・」
と、肯定の気配を鈴仙が発すると、

「イナバ、ちょいまち」
とてゐがそれを手で制した。
「あー・・・どうなの、お師匠?」
「そうよねぇ」
伺うように覗き込むてゐに永琳は苦笑を漏らした。

「実はまだ面会できないのよね、絶対安静でね」
「そうでしたか」
やんわり断られたれたことに「それは残念ですわ」とちっとも残念そうじゃない口調で咲夜も笑った。


「ま、それはともかく」とその場の雰囲気を斬るように輝夜が柏手を一つ鳴らした。
「今晩のご飯は楽しみにしてて頂戴な大盤振る舞いよ」
「ご随伴に預かりまして、光栄ですわ」
「働かざる者食うべからず、貴女たち、キリキリ働きなさい!」
少女たちは「はーい」と元気よく返事をし、それぞれの持ち場に去っていく。



「じゃあ私は皆さんのためにお茶を淹れてきますわ」
「あんたはもう何もするな!」



********************************




「小指で握れ、薬指はそれよりも緩く握れ」
「はいっ」

幼い少女は健気に頷いた、必死な顔に愛おしさがこみあげる。

「中指はさらにゆるく、次もさらにゆるく握れ」
「はいっ!」

だがここで甘い顔はできない。


「違う! こうだッ!」
きつく小さい手を握る、小さい体が強張るのがわかる。



自分の下っ腹も変に苦しくなるが、甘い顔は決してできない。


「肩の力を抜くのだ」

少女は、自分の言葉に従順かつ要領よく従った。
「はぁ」と息を吐いて、じっと動かなくなった。


「振ってみろ」


少女は意を決して、木剣を振った。

「・・・・」
振った後で、自分の顔を恐る恐るといった感じで振り返った。


「もう一度だ」


もう一度、握りを確認し、肩の力を抜き、また打ち下ろした。

「そうだ、その握りをよくよく忘れるな」


    天秤がある


自分の腰よりもずっと低い、丸い頭をがしがしと撫でまわした。


「はい!」
こんなにも嬉しそうな顔をどうしてできるのだろうか?

胸から込みあがってくるものに耐えられなくて、それを言葉で抑え込もうとした。

「一番腕力のあるものが、最速の剣を振るうわけではない、体で振るのだ」
「はいっ! じいさま!」
「爺様ではない、師匠と呼べっ!」
「はい! ししょう!」


短いが、これが一番古く、一番鮮明な想い出。


もうあの時には戻れないが、
今でも、あの手の中にあった温かさを覚えている。












「ようやく起きたわね」
「・・・・む」


男が寝台から体を起こした。

変な感覚だった。
体中痛みでどうにかなりそうなのだが、それを押さえつけるような力が芯からあふれてくるようでもあった。



「妖忌」
「なんだ」
「大した回復力ね」



妖忌と呼ばれた男は「ふん」と不愛想に鼻を鳴らして答えた。
声の方向には永琳が壁に寄りかかって男を見ている。

清潔感のある、綺麗な感じの部屋だ。
光が膝元に柔らかに差し込んでいる。


「これは」


光に手をかざす。
その手は若々しく、爪は歪に歪んでもおらず肌のきめは細かい。
それに反するように腕は軽く動かすたびに武骨に盛り上がる。

三日三晩続いた決闘に現れた剣士。
その容貌はあまりにも若かったが、声色や身のこなしは妖夢の祖父にそっくりだった。

「勝手で悪いけど、また使わせてもらったわよ」
永琳が指を指す方向には、点滴が釣ってあり、それが若者の腕に伸びていた。

「なにかと都合がいいの、私にも貴方にも」
「斬られて、何故俺は生きている?」
「そりゃ医者ですもの」

今度は両手をみると、ちゃんと二つある。
若者の記憶が正しければ、もう腕は一本しかないはずだ。
「医者とはすごいものだな」
「一週間は寝てたわ」
「体がだるいわけだ」

永琳の方に改めて向き直る。


「怒っている顔だな」
「やっぱり分かる? さすがは無敵の剣士様ね」
「でもないらしいがな」

若者は「ははは」と乾く嗤った、そのあっけなさに永琳の怒りがふつふつこみあげる。

   なにがおかしい


「よくもまぁ嘘八百並べてくれたわね」
「すまん、これしか思いつかなった」

若者は頭を下げる。
「お前は悪くない」と簡素に感想を付け加えただけの人の気持ちなど一寸も考えてない風だった。



空が白けたころに、急患がやってきた。
幻想郷で一番有名な二人組がそれを担いで転がり込んできたのだ。
担ぎ込まれた若者の顔をみて、永琳は全てを悟った。
同時に取り返しのつかないことをしてしまったと後悔もしたが、その時は命を救う方が大事だった。

その後、事態を霊夢から聞かされ、なにもかもが老獪な老人の嘘だったと理解する。
まんまと口八丁で騙されていいように使われたという怒りもこみあげた。

妖忌が妖夢との稽古で負かされ、入院してきたその晩に永琳は妖忌にある依頼をされた。



     あのころに戻りたい



妖忌の言葉は無茶な言い訳じみていて、肝心要をはぐらかしたものだった。
それにしたって、まさかその老人が自分の孫と斬り合いを望むとは思いもしなかった。


     どうせ老い先短い老人の頼み
     
     最後の最後で夢を見させてやるのもいいのかもしれない


やり残したこと、後悔を滲ませた背中を見るに忍びなくなり、めちゃくちゃな理由を並べる哀れな老人に薬を渡した。
それが全ての間違いの元だった。





白玉楼で起こった小さな異変の始まりになる。





妖夢に嘘を並び立てて、ありもしない巻物を捏造した。
決闘に呼び寄せて殺し合いの席に参加させた。

その真意をどうしても理解できない。

あるいはこの老人がただの物狂いになったのかもしれないと永琳は思っていた。

「元には戻さなかったわ」
永琳が厳かに妖忌に告げる。

もう、今までのように体を動かせない。
それを暗に言っていることを妖忌は知った。

「やればできたけどね、貴方にはそれでお似合いよ」

永遠亭の医者でもってすれば妖忌に奇跡を起こすこともできた。
永琳からすれば、これが精いっぱいできる妖忌への仕打ちだった。

「前みたいにはもう動けないわね」
「よい」

永琳は嘲笑ったつもりだった。乱暴者にふさわしいあり方だと。

    もう戦うことを止めてほしい

そういう気持ちに永琳は気づかない。

妖忌は永琳の言葉をどういう風にとらえたのか、なにか勘違いしているのだろう、

「あっ!? 駄目!」

寝台から降りようともがき、
その調子で寝台から音を立てて落ちた。
「本当に動けんな」
しりもちをついて、またおかしそうに笑った。
あるいは、立ち上がって元気な姿を見せたかったのかもしれない。

「絶対安静よ! 気でも違ったの?!」
「これは、今襲われたら、今度こそ死ぬなぁ」
「いいから戻りなさい!」
どうにか永琳の肩を借りて寝台に戻った。

「俺はもう歩けんのか」


「そうは、言ってない、ただ前のように激しい動きはできないのよ」
永琳はさっそく後悔を始めた。
健気に歩こうとした男の心の姿勢に早くも、ぐさりときた。

「長いリハビリが必要よ」
じっと見つめてくる妖忌の視線に耐えられなくて、目を伏せながら話す。

「りはびり、とはなんだ」
「練習よ、今迄みたいに生活できるように訓練するの」
「なんだ、また歩けるのか」
「簡単に言うけど、かなりきついわよ?」

永琳なりの脅し、のようなつもりだったが、
妖忌は「なるほど」と頷いて、

「安心しろ、稽古がきついのはなれている」
と妙に真面目くさった顔で言った。


「よくよく考えれば、斬られたのは初めてだ」
「そりゃそうでしょうよ」
「あれだけ人を斬ったのだがな」

ぐっと、喉元が詰まる。

「・・・・」

やはり、若者の瞳には不思議な光がある。
眼差しの内に複雑な心が入り混じっているようだ。

「先生、お前は正しいよ」
「あっ」

妖忌は大きな、固い手のひらで永琳のやわい手を握った。
すごい力で、とても振りほどけそうにない。

「俺はろくでなしだ、世にも稀に見るな」
「・・・・」
「お前の怒りも、至極当たり前だ」

目をそらしていたが、ちょっと視線を上げると、目があった。
喉仏が上下している様がよくわかる。
肩と首の肉のつき方が違う、まるで一つの鞠のように膨れ上がっている。
「どうして救う気になった、あるいは・・・今から恥をかかせる為に突き出すか?」
若者の瞳は妖夢の言う通りで底の知れない魅力がある。



   目が離せない



   吸い込まれそうになる





それを何とか耐えて、
「仕方ないわ、医者は悪人でも怪我人を助けないといけないのよ」
とやっと言葉にした。

「そんなものか」
「不本意だけどね、さぁ包帯を換えるわよ」

包帯を換えるために、簡易な服を脱がせた。
隆々とした背中が脈打っている。


    危なかった


    何が危ないのかはよくわからないが、とにかく危なかった


その気になれば、あの大きな手のひらは永琳のちいさな女の手など握り潰してしまえるのだろう。
そのことを思うとぞくりとする。


「妖夢には会ったか?」
背中越しに語りかけてくる。

存外、色っぽい声色をしている。
普段からは想像もできないのに、薬の効果とはいえ恐ろしいものだと永琳は思った。


「まぁね」
「どう思った、妖夢を」
「どうって、何がよ?」
「一人前に見えるか? あいつが」

一人前かどうかといわれると、永琳にはよくわからない。
永琳は剣の世界など知らないからだ。

ただ、永琳の目に映る白玉楼にいた妖夢は
どこか吹っ切れたような、そんな自信があるように見えた。


「いつも通りよ、いつも通り」
そんな肯定的なことを言ってしまえば、このろくでなしの行為を容認してしまうことになる。
口が裂けても言ってやるものかと、永琳は固く誓った。

「いつも通りか」
「そ、いつも通りよ、代わり映えなんか全然してないわよ」

永琳はそっけなく言ってやった。


     断じてこの男を喜ばせるようなことを言ってやりたくない


「そうか、いつも通りか」
妖忌は永琳の思いを知ってか知らずか、何度も頷く。
その顔は心なしか満足げですらあった。

「はぁ・・・・」


   こいつには何を言っても無駄だ



妖夢のあの弾んだ声を思い出す。

永琳もこの若い男の鋭い容貌をみて思うところはある。

あるいは男と女がひそかに逢いたった二人きりで殺し合うというのは
男女でまぐあったり、愛を語らったりするよりも濃密なものなのかもしれない

永琳は憮然とした思いを押し殺して、黙々と治療だけすることにする。


「心配せんでも、もう剣は握らんよ」
いきなりそんなことを言った。

もしかすると一流の剣士というのは人の心を読むのかと、永琳は内心焦った。

「なによ、いきなり」
平坦な声を装ったが、動揺していた。





「もう十分だ」





その体には、あの時の様な落胆の色は見えない。
人生を終えようとしていることに後悔を滲ませた、いじけた顔つきではない。





「先生、ありがとう」






少し振り向いて、しかし永琳の目をしっかり見つめた。
ほんの一瞬の間のことで、すぐにまた背中を向ける。
その笑みは男臭く、朗らかで、素直だった。

彼女らしくもなく、いつものように、ひねくれた言い回しも思いつかない。
黙然と治療するしか能がなくなった。

山積みの包帯を手に取って、それを大きな体に巻く。


「いい按排だ」
「そう、よかった」

永琳は力を込めて包帯を回すが、一回りも二回りも大きい体を相手にするのは骨が折れる。額に汗がにじんでくると、どうにも自分がこの男の手玉に取られているなと思う。


   こんな体たらく、弟子たちには見せられそうもない
   
   どうにかこの生意気な男に一杯喰わせることはできないか?



「緩いぞ、ほどけそうだ」
「まったく、五月蠅いわね」

永琳はうんうん唸ってもう一度包帯を胴体に巻きなおす。

永琳が包帯を無心に巻いていると、
「むう・・・・」

と若い妖忌が居心地が悪そうに体を逃げるようによじった。

「ちょっと、逃げないで」
「押し付けるな、こそばゆいぞ」
最初は妖忌の言葉の意味が分からなかったが、しばらくしてようやく真意が分かった。



普段なら医者として、気にも留めないことだったのだが、このときは恐ろしく気恥ずかしくなって、永琳の耳たぶが、かっと充血するのがわかった。

「助平、真面目にしなさいな」
「だから素直に言ったのだ」


妖忌が不愛想に「ちっ」と舌打ちをするさまが憎たらしかったが、永琳はそれと同時にこの老獪した若者をからかう方法を思いついた。

このときは、永琳もどうかしていたのだろう。
永琳は、にやっと口元を釣り上げて、妖忌に微笑む

「それとも、どうする?」
「?」

すっと、妖忌の座る隣に身を寄せて


「貴方みたいなかかり下手には、手取り足取り、正しい薬の使い方を教えてあげる?」
首筋に細い指先をつるつると這わせて、耳元で大きく囁いた。

きょとんと妖忌は間抜け面をしていたが、しばらくして寝台で妙にすり寄る永琳の真意を理解した。
その考え込んでいる間も、永琳は妖艶な笑みを崩さずにじっと男の目を見ていた。


    さあ、あわてふためけ


と、弟子が知ったら泣くようなことをやらかしているが、当人は平然としている。

「妖夢も、なんだか熱っぽくあなたのこと話してたわよぉ?」
妖忌は相変わらず怪訝な顔をしている。
「幽々子の事もそうだけど、貴方も罪作りな男よねぇ」

当然のことだが、永琳は別にこの若者と本気で寝ようとかそんな尻軽なことをしようとしているわけではない。

自分の主導でこの老獪な若者にうんと恥をかかせてやりたいだけだった。



  自分の圧倒的な魅力に心奪われてしまうこの男を、いいようにあしらってやろう


その程度の考えだ。


     このままじゃ、不公平よ


ずっと昔に消えてしまった焔が灯るように、永琳の胸を焼いた。


      まだ私も引退てわけにはいかないわ


たっぷりの自信につられて、永琳は口元を釣り上げる。
「あい、言いたいことは分かった」
「あら、察しがいいわね」



妖忌は深い溜息をつく。
永琳の笑みは並の男ならそれだけで永遠の恋に囚われそうな妖艶さだった。

「先生」
「なぁに?」


永琳がぐっと若者に身を寄せた。
若者は意外にも、永琳を憐れむような、馬鹿を見るような目つきで見つめた。


「先生、儂より年寄りなんだから、もう無理をせん方がいいぞ」
「・・・・」
「婆さんは婆さんらしく、爺は爺らしくおとなしくした方がいい」



永琳が「なるほど」と一言つぶやいて、すっと立ち上がる。
その表情は心なし引きつり、こめかみに青筋を浮かべていた。


「第一、儂の細君はお主なんかよりもいい女だった」


年寄りくさい、昔の妻らしい女の自慢話を始める。
妖忌は「慎みがない」とか「もっといい女になってから言え」などと恐ろしいことを素面でしゃべり続ける。



「おい、先生。 包帯がほったらかしではないか」
「・・・・」

妖忌が万歳の恰好のままで固まったまま、首だけで永琳の方を伺う。
「先生、はようせんか、腕が疲れてきた」
「うるさい、少し黙っててお爺さん」
「!? あったぁああああああ!」


傷のある肩の部位を永琳が思い切り叩いた。

「ここまで私をコケにした奴は初めてよ」
「し、死んだらどうする」

身をよじってのた打ち回る妖忌を尻目に「死にゃしないわよ」と冷徹な実験動物を見るような目で見る。

「女に恥をかかせたらどうなるか教えてあげるわ」
「む! な、なにをする!?」

永琳が寝台の四隅み取り付けられた拘束用のベルトに太い腕をを括り付け始めた。
本来は痛みや精神的な混乱から、暴れる患者を取り押さえるための真面目な医療器具である。

妖忌はあれよあれよと括り付けられて、無駄に寝台の上で足掻く。

永琳がまな板の鯉になった妖忌をみてにやりと微笑む。

「そこまで言われて黙ってたら女が廃るわよねぇ」
「離せばばあ!」
「この爺は減らず口を!」

寝台の上で騒音をどすどすと立て、掴み合いの様相を呈した。

「老い先短い爺にいい思いさせてやろうって言ってんのよ!」
「余計なお世話だ! 気色悪い!」

厚みのある体を揺さぶるとそれだけで寝台が頼りなく軋むが、それでも永琳に取り押さえられて逃れられそうになかった。

「ああ、思う存分抵抗していいわよ、どうせ動けないでしょうし」
「おのれ、卑怯な!」
「ふふふ・・・」


頬の上気する永琳はこの世のものとは思えないほどの色気があったが、妖気は迷惑そうな雰囲気を隠そうともしていない。
妖忌の上に馬乗りになって妖気の簡易な服を剥ぐように、に白い指を這わせた。






「さぁ、観念なさい!」






「し、師匠・・・? 何をしてるんです・・・・?」






「あっ! 馬鹿! なんで黙ってみてないのさ!」
「あー・・・永琳 別に私たちにかまわないで続けていいわよ」
妖忌に襲い掛からんとしていた永琳の後ろで、永遠亭の有名人たちがそれぞれ色んな顔色をして、その様子を病室の扉から伺っていた。

鈴仙が顔を真っ青にして真新しそうな白い包帯を抱えている。

自分の師匠のご乱心を「信じられない」と呆然と見ており、その後ろではてゐと輝夜がへらへらと寝台の上の二人に手を振っていた。

「信じらんない・・・医者として、人として・・・・」
鈴仙がわなわなと唇を震わせて目じりに涙を浮かべていた。


「まぁまぁ、お師匠も坊さんみたいな生活してんだ、たまには役得もしないと」
「永琳も人の子よねぇ」

二人は鈴仙をひやかすのか宥めるのかよくわからない言い訳をしながらにやにやと笑っていた。

永琳は男に馬乗りになりながら、しどろもどろと愛弟子に弁解を始める。

「あの、鈴仙? これにはちょっと訳があるのよ」
「・・・・」
「おい! いい加減俺から降りろ!」
永琳の下になっている妖忌はじたばたと脱出しようとまだもがいていた。
「汚い、大人って汚い」
「ほら、こうして患者の具合を近くでよく見ないといけないでしょ? 聞いてる鈴仙?」

寝台の上で拘束された男子に馬乗りになる女の説得力などたかが知れていた。

「ほら、お師匠もたまにはそんな気分になるって!」
「そうそう、永琳も神様じゃないのよ」
「・・・・・」
鈴仙が年頃の娘相応の嫌悪をあらわにしてぐすぐすとべそをかき始める。





「ししょうのばか――――!!」




顔をくしゃくしゃにした泣きっ面で罵倒した後、鈴仙はなにやら喚きながら奥にすっ飛んで行った。

「お師匠、鈴仙には私からよく言っとくから」
「ごゆっくりー」

呆然とする永琳に「晩御飯たのしみにしてるわ」とか「うるさくしないでよ」などと気ままな台詞を残して二人も足取り軽く去って行った。


「・・・・ああ」
「おい、色きちがい、腹が痛むから降りろ」

憮然とした顔、大人しくなった妖忌がぼそりと呟き、永琳の下から顔をのぞかせる。
ちょっと気の毒だと思ったのか、声がほんのりしおらしい。

「先生、お前はいい女だと思うぞ。 ただ俺の女に比べるとちょっと見劣りするというだけだ」
妖忌は窮地を脱したと思ったのか、これ幸いと慰めにならない慰めを饒舌に並び立て始める。

下手な同情は時に侮辱に似ている。


「うるさい、色ボケじじい!」
「!? あったあああああぁぁ!」
「やっぱり一度くらい死になさい!」


頬と腹に渾身の平手を喰らい、動かない体をぶるぶるとふるわせる。
永琳は捨て台詞を残してどたどたと部屋から遁走していった。


「こら! 縄を解いていかんか、藪医者め!」

その姿勢で固定されたままの妖忌が叫んだが、どうやら誰の耳にも届かなかったらしく、竹の葉の囁きしか返ってこなかった。





しんと静まり返る病室。
竹のすり合う音がさわやかに聞こえる。

老人は「晩飯まではこのままだろうな」と括り付けられた若い四肢を見つめて深い溜息をついた。



実はというと、妖忌としては「身持ちをしっかりしろ」と言いたかったのだが、それではなんとも恥ずかしかったのであんな憎まれ口を叩いてみたのだ。


「・・・ちと、もったいなかったかな?」
永琳の艶めかしい唇を思い出すと、鼓動が一際大きくなる。
少しばかし惜しい気もしたが「自分の歳を考えるとあれでよかったのだろう」と一人で正当化するしかなかった。

「・・・む」
竹の青臭い匂いと、柔らかい日光が頬をかすめる。
ふと老人は窓の景色をみる。


耳を澄ませて、気配を探ると色々なものが妖忌の瞼の裏に映った。

ざぶざぶと、なにか洗濯をしている音。
あわただしく医者たちがものを運んでいる姿。


子供がなにやら泣いて、喚いている姿、それを優しく宥める姿。
鼻腔をくすぐる茶の匂い。


どこかで仕事をさぼっている奴。

永い武道の生活から、寝たきりの老人は、その場から動かないでも沢山の光景を動かないで感じることができた。

そのどれもが、真剣そのものな表情をしている。
だがそこは、その老人が経験した風景の中で一番幸せな世界だった。

怪我をして動かない体、真剣勝負で負けてしまった。
最早剣を握ることはできないのだろう。

もう、自分に重責を背負うだけの力もないと思うとやはりさびしい気もする。
だが、妖忌の中であの時のような、寂れた後悔はない。



「晴々だ」




すぐそこから聞こえてくる、竹の囁きのような澄んだ風が妖忌の心をさらっていった。


窓辺に視線を移すと、鮮やかな景色が飛び込む。
その喉かな風景はいつか暮らした、我が家に似ている。





    帰った時にどんな顔をすればいいのやら






苦笑しながら、これからの生活に思いを馳せる。
もう動かない腕、弱り切った足腰。
もう、やんちゃができる歳でもなく、それに相応しくもない。

もう自分は重責を背負いたくても、周りがそれを認めてもくれないのだろう。




「なんだ、俺にもあったんだな」




  自分の最後は、どこか知らない土地、野ざらしにされてくたばるだけだと決めていた
 それなのに、自分は年老いて、こうしてのうのうと面倒を見られて生きている

  いまの自分と、ほかの市井の爺どもと何か変わる所があるだろうか?

  平和な世界を感じて、日がなく暮らす余生
  そんな普通の老人の人生が自分にもあったのだ

    自分が、自分の祖父や、父とようやく同じ境遇にたどり着けたこと
   
    
    それはただ老いて、何もできなくなるだけじゃない

老兵は死なず、ただ去るのみ

――それは言葉通りの意味だけじゃない
ようやくそう思えることができた。

後は弟子、愛孫にまかせてゆっくりすればいい。
真実を話すときも、自分が軽蔑され、腹を切る様なことになっても仕方ない。
なすがまま、孫の思う通りにさせてしまえ。



孫も、いつかは婿をとり、自分の手から完全に離れてしまう。
なにもかも、子供の思う通りにさせてしまえ。


もう自分は剣士ではない、唯の爺なのだから。











「老いては子に従え、と言うしな」











そのまま体の力を抜き、そっと横たわる。
なにか今まで憑き物のように背中にあったのもが消えた。


   もう、背負えない

   よく、頑張った


郷愁に似たものが胸にいっぱいになる。
ふっと目をつぶると、今までの事が飛び去るように瞼の裏を過ぎ去っていく。


剣を初めて握った時の事、初めて人を斬ったこと

妻を娶ったこと、子供ができたこと、家庭をもったこと。

孫を立派に育てると決心した時の事、老いたこと、足腰が弱くなったこと、家出したこと。

孫が立派になったこと、はじめて負けたこと。




その中に、あの女の剣士が紛れて自分の事をじっと見つめていた。
松明の灯火で、揺らめく影に見え隠れする女は、自分の妻に瓜二つだ。





    老人が女に微笑みかける

    それはまるで陽炎のように消えた
    



    あの晩がまるで夢だったように







      もう、夢も覚めていい頃だ









老人はそのまま深く眠りについた








**************************





「仰ぐその様人知れず 住まう土地なく沙汰もなく」

琵琶をかき鳴らす音、屋敷の中で香ってくるのは海の幸の匂いと酒のそれだ。
海のない幻想郷では魚は貴重品、小町が持ってきたのだろうか、膳の上には山盛りの刺身。


「いくつ年月を経たことか 何れ人にも忘れ去られて」


今日は宴会の主役といっていい萃香の出番だ。
今日のために練習した琵琶と唄を披露すると、熱気と懐かしむような寂しさが座敷をいっぱいにした。

「なれどそれは人の欺き 狩られゆくものたち」

幻想郷の有名人たちが集って、大所帯で酒を飲みかわしている。
夏の終わりに、こうして寂しさを紛らせるために集まるのだ。


「荒ぶる神と讃えられもせば 悪しき化生と打ち払われて」


その輪の中に一人だけ入れなかった少女がいた。



銀色の髪をゆらゆらさせて、ひとりぼっちになっている。
妖夢が一人だけ、欠けた月を見上げていた。

思うところは一つだけだった。
あの晩に感じた、焔に似た焦燥と不安。

一言にするにはあまりに大きすぎるものを形にできず、妖夢は黙り込んだ。





――月が綺麗だなぁ






後ろの宴会の熱気がまるで別の、遠い場所でしているんじゃないかと錯覚した。

物腰丁寧な妖夢、目のあった少女たちのぎこちない仕草に、妖夢は彼女たちが自分を怖がっていることを悟った。

幽々子にもこの妙な雰囲気を感じる。
しきりに妖夢に微笑んで話しかけるのだが、あまり場も持たなかった。

幽々子には早々に「酒で気分が悪くなった」と伝えて風通しのいい縁側に陣取る。
妖夢の思うことも幽々子にも伝わったのか、しつこく妖夢を座の中心に入れようと誘った。

すねた子供をなんとか輪に入れようとする親の心境だろうか、あるいは家族を受け入れてもらえない悔しさだろうか。

妖夢はそれを「休んだら、良くなりますよ」と、やんわり断った。

「心配されている、他ならない幽々子さまに」
と思うだけで、ほかからの扱いは気にならない。
主に認められることだけで、お庭番に必要なことをすべて得ることができた。

生活の全て、心の充足。


相当幽々子はしぶっていたが、浮かない顔をして座に戻って愛想を振りまき始め、妖夢はそれを遠くから眺めることにした。

妖夢の考えは的を射ていた。
少女たちの多くは、妖夢を恐れる、とまではいかなくても、気味悪がった。
あるものは妖夢に威勢を張り、あるものは遠ざけようとした。

少なくとも普段通りの対応ではない。


    同族を殺した、人殺しと仲良くなることなんて誰が望むだろう


宴会の輪から外されている。
普段なら絶対に落ち込んでいじけて幽々子に泣きを入れているはずだった。

だけど、今は嫌な気分はしない。



   別に仲間外れにされているわけじゃない

   どう扱えばいいか、少しみんな迷っているだけだ



   その証拠に誰も何も言ってこない

   他ならない幽々子さまが私を認めている
   誰も私をここから追い出すことは出来ない




「私はここにいてもいいんだ」







胸を張って、一人縁側で月を眺める。
今は腰の剣は必要ない、体から少しだけ離れたところに転がしている。


その様子は、人によっては虚勢を張るいじけた小娘の小さな背中に見えるだろう。
下らない、理由のない白けた雰囲気を振りまいて、宴会の邪魔をしているようにも見えるかもしれない。

だがこうしていると、あの剣士が







      試合おう





などと言って、自分の前に現れるような気もして、とても宴会の輪の中に入れる気がしなかった。

「やっぱり、邪魔になりますかね」
数人がちらちらと妖夢を伺っているのを感じる。いつまでたっても宴会にも参加しない、煮え切らない様子の妖夢が気に入らないのだろう。

「自分が宴会の熱気に水をさしているな」と少し考えを改め、適当に厨房でも手伝っていれば体も立つかもしれないと思い、軽く腰を浮かそうとした。

「かつての絆は絶え果てる 永遠に消えた・・・・」
「ん? どうしたんだい、萃香」

座の中央でべんべんとご機嫌な様子で琵琶を鳴らしていた萃香が指を止めた。

宴会といえばこの鬼の出番で、皆が集う誰よりもこの日を楽しみにしていた。
宴会初めの方は、これでもかと愛想を振りまいて馬鹿騒ぎをしていたのに、さっきからどんどん不機嫌になっていく。

妖夢が腰を浮かせようとしたあたりで、眉がつりあがった。


唇を尖らして、琵琶を放り捨てた。
「あ、おい!」
「萃香?」


周囲の奇異の視線も無視して、そこらへんに転がっている酒をつかみ取り、小走りで縁側に向かう。

「え、ええ?」
「・・・・」

腰を浮かせて移動しようとしていた妖夢の隣に腰を落ち着けた、ご丁寧に座布団まで敷き始める。
目を丸くする妖夢にお猪口をひとつ差し出す。


「ほれほれ」
「は、はい」
出鼻をくじかれた妖夢は体なくそれを受け取ると、萃香がそれに酒をいっぱいに注いだ。

「はぁ、ありがとうございます」
「いい匂いだ」

妖夢の近くで、深く胸の奥から空気を吸い込み、鼻をひくひく鳴らして匂いを楽しんでいるらしい。
妖夢としてはいきなり萃香が自分の傍に座って、静かになった宴会を無視していることに面食らった。

周囲の視線が集中している、妖夢は「あはは」と変な笑い方でぺこぺこと周りに頭を下げる。
その妖夢の煮え切らないような様子をみて萃香は相変わらずの膨れた顔をする。

「何やってんだい?」
また萃香がぶすっと不機嫌な声色になる。
「何って・・・・皆さん楽しんで唄を聴いてたのに、これじゃあなんだか悪いですよ」
「なんだい、じゃあ何か? あたしがたのしんじゃいけないってか?」
「と、とんでもない!」

妙にどすの利いた声にどきりとして、それ以上の追及はできなかった。


    一体、どういうつもりだろう?



最初は萃香が無理にでも妖夢を宴会に参加させようと引きずり回すつもりなのかと思ったが、どうも違う様だった。
酒を飲みなおし始めた萃香は少し機嫌を取り戻し始めたらしい、にこにこしている。

「いい香りだろう、酒蟲の酒だよ」
「はい」

妖夢は恐れいったまま、酌を受け入れた。
お礼にと妖夢も酌を返すと萃香もまた快く受け入れた。


妖夢にも不思議とうまいと感じさせる本当にいい酒で、舐めるように味わった。

    かまってくれているのかな?


萃香の顔を覗き込むと、それに答えて萃香はにかっと朗らかに笑った。
一人で寂しくしていた自分に、萃香が慰めて隣に座ってくれているのだと妖夢は解釈することにした。

「さっきの唄」
「ん?」
「いい唄でした、かっこいいです」


無言に耐えられなくて、妖夢が話題を振った。
この鬼にできる話と言えば、唄と酒の話だけなのでちょうどいいと思い、唄の話にした。
「自分で作ったって聞きました、音楽ができるって素敵ですよね」
「ああ、あれかぁ・・・・ん~」
「?」


言葉を濁す萃香。酒をぐいっと口に含んでよく味わい飲み込むんでから、ぽつりぽつりと話を始めた。

「一から十まで作った訳じゃないんだよねぇ、実は」
「はぁ」

はにかんで、恥ずかしそうに笑う萃香は年頃の娘のようにも見えた。

「結局間に合わなくってさ、教えてもらった唄なんだよ」


萃香が語るには、大昔、ある人間と酒を呑んだ時に教えてもらった唄らしかった。

その歌をさっき唄って好評を得ていたらしい。
「みんな気持ちよく聞いてるから、あえて言うこともないと思ってね」

質問されたら、やはり白状したのだろう。
そういうところは本物の正直者らしいな、そう妖夢は思った。

「外の世界も、ここと変わらないんですね」
「・・・そうだね」

ぐいっと酒を呑んで、「はぁー」と熱い溜息を満足そうについた。

「そいつの話なんだけどさ」
「はい」

興がのったのか、どうやら昔話をしたいらしい。
妖夢にとっても、萃香の、ましてや外の世界の話とあっては無視なんてもってのほかの話題だった。


「まぁ私も、あっちじゃ結構知れた名前でね」
「なるほど、名前は酒鬼ですか?」


萃香が「あはは」と機嫌よく笑った。こういう表情は妖夢はあまり見たことがない。
萃香が腹を割ったような話を、妖夢にすること自体が稀だった。

「そんで、そこの有名な侍が私と「酒でも飲んで仲直りしよう」って言ってきたんだ」
「仲直り? 喧嘩でもしてたんですか?」
「変な話さ、勝手に頼りにされて勝手にお供え物をもってきたと思ったら、次には泥棒だの、ロクデナシだなんていうんだ・・・・まぁ、間違っちゃいないけど」
「・・・・・そんな」

不意に、寂しげな雰囲気に呑まれて妖夢は俯いて酒を舐めた。
初めて「酒はすごい」と思った。どんな話をしていてもこれを呑めば体が立つのだから。

「まぁ、仲直りするって言うんだから嬉しくなっちまってね、自分の棲家に呼んだら、そいつがごちそうをもってやってきたのさ」
萃香が身振り手振りで「こんなでっかい魚!」と嬉しそうにめいいっぱい体を広げる。

「酒樽も山みたいに持ってきたね」
「今日の宴会みたいですねぇ」

萃香が「えへへ」とにやつく、「聞き上手な奴だったよ、話も面白くってさ」と嬉しそうに付け足した。

「うん、そんであたしが『人が私を有難がったり、かと思えば怖がったりして、腹が立つやら、寂しいやら』みたいなことを言った時に、その侍が即興で唄ってくれたんだ」
「へえええぇ」
「そんで、ちょっとあたしもほろっと来ちゃってさ、めいいっぱい酒も呑んで、あの時は本当に楽しかったなぁ」
「はぁあああ・・・すごいなぁ」


驚嘆して馬鹿みたいに溜息をつく妖夢、萃香は「そうだろう」と満足してまた妖夢に酒を差し出す。

鬼は嘘をつかない、強者は小細工を弄さないという気持ちがそうさせる。
鬼たちはそのことを誇りにしているし信条にしている。







「そんで、あたしが酔っぱらってうとうとしちゃった辺りでさ、そいつが剣を抜いたんだ」
「えっ」


萃香が妖夢の傍にある剣に目を移す。

「あたし、一度だけ退治されちゃったことがあるんだよ」
「・・・・」
「くやしかったぁ」

萃香が夜の中でも強く光る月を見上げると、大きな瞳にきらきらと光が反射した。
その顔は少し寂しそうな、複雑な表情だと、妖夢は思った。

「だから、この歌はよく思い出すんだ」
「・・・・そうでしたか」

不意の展開に驚き、また憐憫に似たものも感じた、萃香も同じだったろう。

だが妖夢はそれほど動揺はしなかった。
どこか、落ち着いたところで話を聞いていた。


  初めて逢った、あの夜
  あの剣士は不意打ちをした
  だとすると、どんなことを思ってあんなことをしたんだろう


「なんで、あんな嘘ついたのかね? 正々堂々勝負すればいいのにさ」
ぼそりと、独り言のように語りかけた。


   これは、萃香さんの悩みなんだろうか?

妖夢はいくらか言葉に迷ったが、正直なところを言うことにした。
それしか自分に出来ることは無いと思ったからだ。
「萃香さんは強いから、そうでもしないとやっつけられないと思ったんですよ、きっと」
「ふぅん、そうかね? あたしはてっきり、からかわれてるもんだと思ったよ」
「そんな理由で、不意打ちなんてしませんよ」


――少なくとも私はそうだった



妖夢が酒瓶をもって萃香の杯に注いだ。

萃香は「そうだね、あんたが言うならそうなんだろう」と笑った。

「強い人でも、不意打ちされたら負けることもあります」
「ふぅん? じゃあさ、不意打ちされてもやられない奴って、どれだけ強いんだい?」

萃香は口調と姿勢は緩いが、目の色だけはどこか血気じみている。

妖夢を凝視するが、そんな萃香の変化にも気づかずに、
「?・・・・さぁ? きっとものすごく強い奴なんじゃないですか?」
と、何気なく返事をした。
「じゃあさ、そいつはあたしよりも強いってことかね」
「うーん、そういうことになるんでしょうか」

なみなみ自分の杯に酒を注ぐ妖夢、萃香は「まぁ待ちなよ」と妖夢の杯を奪う。


「あぁ~返してくださいよ~」
ちょっと酔い始めたのか、「えへへ」とだらしなく笑い萃香に縋り付く。

「見てたよ、昨日の事も」
「へぇ?」
「あんたが逃げたのも、不意打ちしたのも、されたもの」
目を細めて、にやりと微笑む。
「生きて帰ってくるとは、大したもんだ・・・」
「そうですかぁ」

独り言のように昔話をしていた萃香。
ただ、その侍を恨んでいるわけもなく、妖夢に言われるまでもなく、自分を酒で酔わせたのもあちらの懸命な作戦だということはもう割り切っていた。


昔話をした萃香の真意は別にあった。

技術、心を練磨し、それを比べあう試合。
あるいは、その形は出会い方によっては卑怯と思われる形になるかもしれない。



ただ、その試合の先にある結果。
その死という結果を納得したうえで、力を比べあう形。

どんな豪傑でも、斬り合いは怖い。

そういう危機的な状況を克服した者。
恐怖に直面しながら、戦った人間。
身を業火に焼くような経験だけが心の充足たりえる。

「ほれほれ」
「あたたた」

萃香が自分の頭を妖夢の腹に突っ込んでぐりぐりとこすり付けた。

一見けろりとしている妖夢。

つい最近まで「自分は強い」と喚き散らしていた小娘とは思えない。
その腹の中に静かに押し込まれた勇気や恐怖の香り、それを胸いっぱいに吸い込んだ。

   いい香りだ


酒の匂いではなく、妖夢の雰囲気が、だ。


その勝負の恐ろしさをそのままに受け止め、乗り越えたやつが本当の強者だと信じていた。

「痛いですよ」
「そうかい」
そういうやつが、無敵の鬼を退治する強敵たりえる
萃香は密かに、妖夢とこうして会うのを楽しみにしていた。


    この剣士と、自分は一体どっちが強いのか



もう、ずいぶん昔に忘れてしまった匂い
妖夢から仄かに漂う、生臭い血の香り、陰惨な殺しの雰囲気を嗅ぎたい


    あわよくば、試合たい


宴会が始まれば、妖夢はきっと自分と勝負してくれると萃香は勝手に夢想していた。
けど、妖夢がいつまでものほほんとしているので、痺れをきらして、こうして傍に来たのだ。

「ほら、たちなよ」
「はぁ」

萃香がぐいぐいと手を力強く引く。


「勝負しよう」

    この剣士は自分よりも弱い、それを証明しなければならない。


「酔ってますし」
「いいじゃないかね、勝負の場所を教えておくれよ」
「困りますよ」


萃香はへらへらと笑っていたが、妙な気配を纏っている。
普段から考えられないようなぎらぎらと光る瞳で、妖夢を森の奥にさらおうと手のひらを引っ張った。

「時間はとらせないよ、ちょっと勝負するだけさ」
「しかたないなぁ」

妖夢があわや腰を浮かせたあたりで、


「やめなさい、この不良妖怪」
「あたっ」

いつの間にか萃香の後ろにいた霊夢に拳骨をもらった。
「まったく・・・今日は喧嘩はなしよ」
「あぁ、霊夢さん~」

まだ酔っているのか、ご機嫌な様子で霊夢の足元に擦りつく様に座り込む。
「ああ! うっとうしい! 引っ付くな!」
「なんだい、水差すんじゃないよ霊夢」
「今日は喧嘩はなしよ! まったく・・・油断も隙もありゃしない」

霊夢が縁側の座布団を指さして「座れ!」と怒鳴った。
「みんなやってることだろ、なんであたしだけ駄目なのさ!」


「あんたがやろうとしたのは「ごっこ」じゃないでしょ」



「あんたみたいのに暴れられると面倒なのよ」
霊夢がどっかと座布団を引っ張ってきて縁側に座った。
「ほら、刺身持ってきたわよ」
「わぁああ、お魚だぁ~」
「酔っ払い、あんたもさっさと座る!」
「はぁい」
「ちぇ・・・」

妖夢が霊夢の隣に座ると、実にしぶしぶといった感じで萃香もその隣にちょこんと居直った。

妖夢を挟んで仲良く並ぶ。
「ほら、あんたの酒あるでしょ。 呑ませなさいよ」
「あいよ」

そこはなぜか渋らずに素直に差し出した、もうぎらついた生臭い血の香りは漂ってこない。


「妖夢も、鬼なんかについて言っちゃだめじゃない、危ないわよ」
「すっごい、お刺身だ!」

海の幸に目を輝かせる妖夢は自分の窮地に気づいてなかったらしい。
それに「はぁ」とため息を付いて霊夢は説教をはじめた。

「あんた達みたいなのの鬱憤を紛らわせるために宴会してるの」
「そういうのは酒と一緒に飲み込んじゃいなさい」

「・・・・」
唇を尖らせて納得いかない様子の萃香だったが、霊夢が酌をすると少し機嫌がよくなったのかぐいぐいと熱い息を吐きながら飲み始める。

「ほら、あんたも」
「はい」
霊夢が酒瓶を差し出すと妖夢が杯を差し出した。
それを一息にぐいと飲み干す。

「おお~」
「意外と飲めるようになったじゃない」
「これ、おいしいですね」
「あたりまえさ、あたしのとっておきだよ」

酒で話が乗り始める。
次第に三人の周りはのどかで、静かな風が漂った。

「隠れ秘められし天手力は 比べるもの無し」
「あら」
「あはは」

すっかりご機嫌になった萃香が唄の続きを歌い始める。
先ほどとは打って変わった感じで気持ちよく歌っているようだ。

「黄昏過ぎてぞ宵のくち宴に集えよりわらよ」
「さっきまでぶすっとしてたくせに」
酒を手に霊夢が苦笑する。それを気にせずに、萃香は歌い続ける。

「ほい、ほい」
妖夢が唄に合いの手を入れて拍手を入れ始める。
「じゃあそれなら」と、霊夢が琵琶を抱えてそれをかきならす。


  住まう土地なく天の沙汰もなく 隅に闇にといきを潜め



  人の生きる縁には 常に根ざす者たち




  されどその怖れそれさえも すべて絆が為

 





その唄の合間に、琵琶を鳴らしていた霊夢が、
「妖夢」

ふとつぶやいた。
「はい?」
「あつかましいかもしんないけど、お互いがんばりましょ」
「・・・・はぁ」
「こんなのがうようよしてると、私もいろいろ大変でね」
ご機嫌な萃香の頭をぺしぺしと軽くたたく。


「夜霧のまにまに月満ち満ちて 仰ぐその様人知れず」
「そうは見えませんけどね」


元気に唄をうたっている萃香は世界で一番平和な生き物に見えた。
おもわず妖夢は苦笑する。

「かもね」

遠回しな言葉だったが、妖夢は霊夢の言葉を「私は友達だ」と言ってくれてるんだと感じ取った。


霊夢は霊夢で別の事を考えていた。

この年の頃の変わらなさそうな少女。
そのあどけない、抜けたような女が自分の力で居場所を勝ち取ったことに、少しだけ自分と境遇を重ねた。

あるいは、自分はすこし運命の天秤が偏ればあの日、あの雨の中に見た巫女の様な存在だったのかもしれない。


ちょっとした幸運でもいい、彼女は勝ち取ったんだと思う。
この少女とは仲良くはなれないかもしれないが、あるいは似たような生き物なのかもしれない。

    生き残った妖夢が、


    ほんの少しだけ、かつての博麗たちの生き方をみせてくれた


後ろ盾のない、負ければそこで終わりの生き方にもう疑問を持つことはないだろう。

お盆に少しだけのった御馳走とお酒を隅っこで抓みながらいつまでも歌い続ける。
その音色はまるで、この世界に妖夢たちしかいないように隅々まで響き渡った。
  





**************************




「・・・・」
座敷の中でいっぱいの御馳走に箸をさまよわせていたのは魔理沙だった。
「ほら、魔理沙 あーん」
「・・・・」

魔理沙の近くにはたくさんの友人たちが魔理沙を取り囲んで、魔理沙にかまってもらおうとその場で大騒ぎしていた。

「魔理沙さーん、これ食べてもいい?」
「それあたいの!」
「でねぇ、このまえすごい外の機械拾ってきちゃったんだよ」
「魔理沙、実は読んでもらいたい本があるのよ」


友人たちは朗らかに魔理沙を取り囲んで、今や座敷では魔理沙が主役のようになっていた。
いつも宴会で主役の萃香と、取り締まるのが常の霊夢が遠くにいるから。



    なんだよ



「ねえ魔理沙、ようやく全自動の人形ができるかもしれないの!」
「ふん、そんなのあたしのからくりに比べたら大したことないね、なぁ魔理沙!」

「そもそも錬金術は生み出すよりも、この世の理を調べるためにあるわけでしょ、貴女たちは邪道よ、貴方も魔術師ならわかるでしょ、魔理沙」


「・・・ああ、そうだよな」

「ええ~」

「そこまでいわれちゃ引き下がれないね!」

散らかった床には、あわただしい喧騒のような賑やかさが絶えなかったが、魔理沙はひとりぼっちになった気分だった。

遠目にみる霊夢が楽しそうだったからだ。

いつも、二人で協力して異変を解決したり。
いっしょに遊んだり、弾幕勝負したり。


「魔理沙?」
「どうかしたのかい」

   


    ・・・・なんだよ

    霊夢の友達は私だろ?








魔理沙はすっと立ち上がって、萃香や霊夢達のいる縁側まですたすたと歩み寄った。

「んや?」
「魔理沙さん」
「あら、魔理沙、どうしたのよ」

      どうしたの、じゃねぇよ


思わず舌打ちしたくなる気持ちを抑えて「まぁな」と適当に言葉を濁した。
「おう、そこの半人前」
「む」
「半人前」の言葉に反応した妖夢に、顔を鼻先まで近づける。

「チャンバラだかなんだかしらねぇが、そんなのに勝ったくらいで調子に乗ってもらっちゃ、しまらねぇぜ」
「なにぃ~」
「おお!」

売り言葉に買い言葉といった具合にあっという間に両者とも喧嘩腰。
その喧嘩腰の雰囲気に萃香が鼻息を荒くした。

突然始まった芝居かかった口調の魔理沙、周りは「始まった、始まった」と魔理沙たちに視線を一気に集める。

「もう、魔理沙」
「霊夢、ちょっと黙ってな」

魔理沙はあわてて間に入ろうとする霊夢を不機嫌そうに「あいや」と手で制した。

「お庭番なんざ大したことないさ! お前が本当に強いって言うんなら、私と勝負だぜ!」
「ちょっと魔理沙! 妖夢はもうべろべろじゃないの、そんなの卑怯よ!」
幽々子がらしくもなく声を荒げて抗議を始めた。

「こっちも呑んでるから条件は同じだぜ」
「うっ・・・大体、妖夢は病み上がりで怪我もしてるの! 安静よ安静!」
「やいやい、幽々子! 興が覚めちまうだろうが!」
「そうだそうだ!」


周りが妖夢の擁護に回っていた幽々子を咎め始めた。

「妙な水をさすなんざ、宴会の席で無粋ってもんだぜ」
「ぐぬぬ」
どんどん眉を吊り上げる幽々子。














「その調子じゃ、案外真剣勝負で勝ったってのも嘘だったのかもな?」













と、魔理沙があざけるような口調になり始めたころに、

「愚か!」

と妖夢が叫んだ。
「ん!?」
「全く、愚かそのものです! ねぇ幽々子様!」
「へ? よ、妖夢?」

妖夢が力いっぱいに膝を叩いて、怒鳴った。

「この愚か者に一つ恥をかかせてやりましょう!」
「おお!」
「やれやれ!」

妖夢の鶴の一声に周りがどっと沸いた。

「そうこなくちゃな! 臆病者に宴会に来る資格はないぜ!」
「笑止! その言葉、のしをつけてそのままお返ししてやります!」
いきなり霊夢達の周りが騒がしくなった。

賭けの準備を始める者、酒を縁側にありったけ運ぶ者、勝手に両者の介添えにつくもの。

「妖夢! あれだけ大見得切って負けたら承知しないわよ! 負けたらクビよ!」
「く・・・くび・・・・」
妖夢の顔が引きつる。

「ちょっと、変な追い込みかけてあげないでよ」
人事だと思って、どうでもいい感じで霊夢が一応たしなめた。

「おまえ、魔理沙に勝ったことあんの?」
「愚問です! 負けようがありません」
「勝ったことないんじゃないかい」
萃香が「馬鹿かい?」と不思議そうな顔をしている。

「魔理沙! あんな半人前ちょちょいとのしちゃえ!」
「スペルカードの出し方を考えましょ」
「最初から全力火力だよ! 一気に決めるんだ!」

なんやかんやで決まった両陣営で少女作戦会議中・・・。

「うん、楽勝楽勝・・・」
「妖夢、膝が笑ってるわよ?」
「職がかかってるからねぇ」
あまりいい作戦も思いつかないままに、妖夢陣営は妖夢を送り出した。

「よっと」
「何してるのよ?」

妖夢が腰の紐をするすると解く。
「幽々子さま」

妖夢が幽々子の前に屈んで幽々子と目を合わせる。

「妖夢、勝ちなさいよ」
「はい・・・・これ預かっていて下さい」





妖夢が幽々子に差し出したのは、長い身の丈ほどもある剣。
それを幽々子の手をとって握らせた。




「・・・・・」
「では、いってまいります」
「・・・・負けたら承知しないわよ」
幾許かの逡巡の後に、幽々子はそれを受け取り、抱きかかえるように握りしめた。

「よーし、そろそろはじめるぜ」
「その心意気やよし!」

両者は白玉楼の上空に高く飛び上がった。

「さーて、手加減してやるから、本気でかかってきな」

余裕たっぷりといった具合で、箒の上で起用に立ち上がって挑発するように手招きした。


「ふん! 魔理沙さん、本気で今の私に勝てるとお思いで!?」
「・・・・」





内心、その言葉に焦る。
魔理沙の脳裏には、返り血を浴びた月明かりに照らされた女の姿がちらちらしていた。

   みえなかったんだ


魔理沙には、あの晩、二人の剣士がどう決着したのかは目で追えなかったのだ。
魔理沙の眼にはただ二人が瞬間移動してぶつかったようにしか見えなかった。
そしたら大男が倒れてた。

勝負の詳細は霊夢の語る所をマネして言ってみただけ。






   こいつは、もう私じゃわからない場所にいる






「ふん、一回格の違いってもんを教えとかないとな」
魔理沙が素早く札を取り出す。
それに応じて、妖夢も高らかに開戦を宣言した。

「白玉楼御庭番頭 魂魄妖夢 斬れぬものなどあんまりない!」
「魔法使い 霧雨魔理沙 いくぜ!」


きらきらと幾何学模様の光線があたりに散乱し始めた。


「おお~」
「やっちまえ!」
「妖夢! がんばれー!」
「魔理沙、そんなへっぽこ半人前なんかやっつけちゃえ!」

戦いの様子を見守る少女たちの声にも力が入る。


「くらえ! 『天界剣「七魄忌諱」』!! 」
「しゃらくせぇ! 『恋風「スターライトタイフーン」』!」

「たまやー」
「こちやー」
「ちょっと、変な合いの手入れるのやめてもらえます?」

熱い声援に答えるように、二人の美しい弾幕はいよいよ激しくなる。

美しい光線が博玉楼の上空で弾けては消えた。


その勝負は長引くように思われたが、案の定というか、なんというか、勝負はあっというまについた。

「決まったぁ!」
「ああ~・・・」
その瞬間あちこちで「きゃあー」と黄色い声が上がった。

負けた方が上空から錐もみして墜落。

すぐそばの池に「どぼん」と落ちた。


勝者が空から敗者を見下ろす。
「どうだ! まいったか!」
勝者が勝ち名乗りを上げて、どんどんと祝砲をあげてびゅんびゅん飛び回る。



そのうち、負け犬が「ぷかり」と池から浮かんできた。


「こ、こんなはずでは・・・」






妖夢が池の中の藻かなにかを頭から足の爪まで引っ付けてのろのろと這いあがる。

「うへぇ・・」
「うわーっ! きたね、えんがちょー!」
「はあ・・・」

「ううう・・・」
萃香がげらげら笑って指を何度も交差されてころげまわり、霊夢は深い溜息をついて心底失望したといわんばかりにこめかみに指を当てていた。

空の上では魔理沙が「あっははは」と大げさに笑いまくっている。


「よ~う~む~!!」
顔を真っ赤にした鬼のような形相で幽々子が負け犬を睨みつけていた。

「はん、白玉楼の御庭番てものぜんぜん大したことないな!」
「こらーっ! 妖夢、何してるのよっ! 赤っ恥じゃないのよ!」
「わあああぁああああ!! すいません! どうかお役御免だけはご勘弁を!」

惨めに負けた妖夢は地面に額をこすり付けて平謝り、その仕草は実に哀れっぽく、まるで漫才のようで周りの笑いを買った。



   なんだ、いつもの半人前の妖夢じゃないか


「始まってるわね」
「本当ですねー」
「どうせ白玉楼の半人前なんてそんなものだと分かっていたわ!」
「やっと来たわねレミィ」
紅魔館の連中がぞろぞろと大挙して押し寄せてきた。
どうやら病院まで咲夜を迎えに行っていたらしい。
永琳も珍しく紅魔勢とつれ立って現れた。

「幻想郷の頂点はこの紅魔館よ!」
「ねぇ、もうレミリアに呑ませたの?」
「わかります?」
「咲夜さんの退院祝いだとかでめちゃくちゃ飲んでましたね」
「まずはそこの半人前! あんたから血祭りにあげてやるわ! 咲夜!」
「悪いわね、そういうわけでだから、もう一戦よろしくね」
よたよたする妖夢に追い打ちをかけるように、さらなる勝負の申し込みが追加される。

「うっ・・・の、望むところ」
「今度こそ勝ちなさいよ!」
「その前に、負けた方は大杯の酒を呑みほしてもらうよ」
「げげ・・・その酒は・・・」

会場で一番きつい酒、つまりは萃香の酒を見ているだけで気持ち悪くなりそうなほどに大きな酒にあふれんばかりに注いだ。


「それ、いっきいっき!」
「妖夢ちゃんの、ちょっといいとこ見てみたい!」


会場の雰囲気にすっかり飲まれて、そのままの勢いで熱い奔流が喉を一気に下った。

「・・・っう・・・・」
酒の気持ちよさを通り越して、頬の赤みがちょっとうすくなって代わりに顔色が蒼くなり始める。

「・・・なんだか悪いわね、勝たせてもらうわよ」
「っぷ・・・・この程度、全く問題ありません・・・・」
ふらふらと、冬の蚊とんぼのような様子で、善戦むなしくあっさり敗れた。
またしても池に墜落して藻をくっつけてふらふらと帰ってきた。

「貧弱ぅ、貧弱ぅ! うちの咲夜には到底かなわないわね!」
レミリアは「してやったり!」と戦果にご満悦の様だった。

「顔色悪いわよ? 大丈夫?」
「・・・全然平気です」

酔いと敗北感にさいなまれて妖夢の顔色はすっかり悪くなっていた。
周りにはそれを面白がって、妖夢の前に酒を差出し「飲め飲め」と冗談のように騒ぎまくった。

「妖夢株、大暴落だぜ」
「誰のせいだと思ってんのよ」
「正直、ちょっとやりすぎたと思う、反省してるぜ」

「さあ、負けたら酒を呑みほす!」
「うぐぐ・・・」

またしても大杯に満たされた酒を呑む羽目になる妖夢。

それを一気に飲み干した直後、

「あ」
ばたんとぶっ倒れた。

「・・・くく」
「ん?」
「どうしたい?」


ぶっ倒れた後に妖夢はぷるぷると体を震わせたのかと思ったら、
「っぷ! あっはははははははは!!」
「うわっ?! 妖夢が壊れた!」





「ぷははは、ぶあはははっは!!」




腹の底の空気を絞り出すように、渾身の力を込めて笑った。


何か、腹の底に溜まっていた泥を吐き出すように、力いっぱい笑った。









「おいー! 水もってこい」
「大丈夫か?」
「水を飲ませて、しばらくそっとしておいたほうがいいわね」
自分たちで呑ませたのに、あれこれと妖夢を運んだり、水をもってきたりと周りは忙しそうだった。
「よし! 次はあたしと勝負だよ!」
「よーし、こい!」

妖夢が風通しのいい場所に移されると、少女たちはまた別の弾幕ごっこに興じ始めた。

「まったく! 妖夢ったらだらしない!」
「ちょっとばかし、ましになったと思ったらこれだものねぇ」
「あ、ちょっと幽々子、いいかしら?」
「永琳? なによ、もう!」

口ほどには怒りを感じない幽々子の怒り顔、むしろなんだかほっとしているような、嬉しそうな顔でもある。


「大切なことよ、とっても」

その幽々子の嬉しそうな顔に、ひそひそ小さくと耳打ちをするように囁いた。












「妖忌さん、『来年の春に帰ります、一緒に桜を見ましょう』ですって」






幽々子がはっと永琳に振り向くと、永琳はにこっと微笑み返した。
「・・・・ふん」

またそっぽを向いて、頬を赤らめた。


「勝手なやつ、いつも好き放題してるんだから」
「そんなもんよ、男なんて」
「ふふ」

西行妖を見上げると、そのてっぺんに少し欠けた月が乗っかるように輝いていた。

少しだけ地面に残った西行妖の桜の花が、弾幕の風が、それとも秋の風にさらわれて優しく舞う。

「貴女も気苦労が絶えないわね」
「なによ、もう・・・」
「ま、それも楽しみの内ってやつかしらね」
永琳が一献傾けて幽々子の杯に注ぐ。
その杯のなかに花弁が一片落ちた。

「あら、桜酒」
「おいしそうね」


二人はくすくすとわけもなく笑って、お互いに酒を注ぎ合った。






「ところで、どこで妖忌に会ったの?」
「秘密」








***************************






私は風通しのいい場所に運ばれて、静かに横にされた。

「・・・・・負けちゃったかぁ」
喧騒はもう周りから遠ざかって、皆が弾幕ごっこで遊ぶ、和気藹々とした様子を眺めることにした。


「はは・・・」


     なんだ、私はまだ弱いじゃないか



ごろりと寝返りを打つと、大きな大木、西行妖が月まで届くようにどっしりと構えているのが見える。

「・・・・」

     月を見ていると、あの晩のことしか考えられなくなる


     どうやら私は、心とらわれてしまったらしい


       過ぎる年月を幾つ経たことか いずれ人にも忘れ去られて



萃香さんの唄が聞こえる、少しだけ寂しそうな唄だと思った。

「忘れられないだろうなぁ、いつまで経っても」


       幽かに残る幻は いつか見た萃夢想


そこで唄はいったん止まった。
もしかしたら、あれは一晩の夢だったようにも思える。
ただ、腕のうずき、温かさが「そうじゃない」と私に何度も訴えかける。


あの晩に手にしたもの、もう絶対に忘れない。


   もう一度あの夢を見よう


桜の花の香りを吸い込む。
念じながら、私は瞼を閉じた。



楽しい伊吹、鼻腔から香る酒の匂い。
私は大きな桜の下、月を仰いで寝ころんだ。



   今度はきっと、殺し合うことなく


ひらひら舞い落ちる、桜の花が鼻先に留まる。






   きっと、また逢える





欠けた月を仰ぎながら、私は一人眠りに付いた


















   おわり
作者のねおです
こっそりあげてます


やりたかったこと


「妖夢は敵を倒した、妖夢はレベルが上がった、妖夢は一人前に進化した」

これだけです。



思いついたときに「じゃあ誰と戦わせよう?」と考えて行き着いたのがあの剣士という形になりました。

神主の語るところには、「東方の戦いはあくまで女の子のおままごと、そこに男が入るようになればそれはもうおままごとじゃなくなる」ということらしかったので




  じゃあ屈強な男を入れて、だれか本物の戦いをしたら面白いんじゃないの?


というのが動機でした
それで剣士である妖夢に白羽の矢がたったわけでございます。


作者としては、陰惨な喧騒、怒鳴り声、暴力という普通の人間なら避けて通りたい状況を書きたかったのですが、「かっこいい」というコメントもいただいて驚きました。


ちらほらどころか、いくつも話しきれない場面、要領を得ない箇所もありますが、そこは読者の皆さんにおまかせです。


え? 結局剣士は誰だったのか?
もう一度読んでいただければ幸いでございます。


萃香の唄はみんな大好きあの唄のパクリでございます
本当にすいません、いや、これはパクリじゃない! 宣伝してるんだ!


長文、不定期という形に関わらず最後まで根気よく付き合ってくれた方々、コメントしてくれた方、点数を入れてくれた方には頭が上がりません。

では、機会があればまた作品を投稿できればとおもいます。


がんばって見直してはいるのですが、誤字脱字、表現の不適切などあれば教えていただければ幸いです。





)ノシ
ねお
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コメント



0.720簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
長期に渡る執筆、おつかれさまでした!
妖夢の変化を取り巻く心情・・・魔理沙の不安、霊夢の共感、幽々子の嫌悪感、
それぞれに勝手な勘違いを含めつつ感情が高まっていく描写、なんだかリアルです。
個人的に昭和臭漂う男女観と幻想郷のマッシュアップがこの作品の魅力で、
永琳の「診察」は最後によくぞやってくれたな!と楽しませてもらいました。
5.100愚迂多良童子削除
永琳も若いなw
もしも本気で萃香と妖夢がぶつかったら、果たしてどちらが勝つんでしょうね。
弾幕勝負は弱くても、実戦では強いキャラって浪漫あるよなあ。美鈴とか。
ともあれ、完走お疲れ様でした。
10.100名前が無い程度の能力削除
先に誤字報告。
>永楽亭
永遠亭

一気読みして追いつきました。まずは完走お疲れ様です。
こういう雰囲気の作品は大好き。
11.無評価ねお削除
修正いたしました
指摘ありがとうございます
恥ずかしい、今の今までこれで正しいと思っていた

>>4さん
どうしても最後に日常に戻ってきたと思わせる描写をしたかったので、内心ひやひやしながら楽しくかきました、それぞれの心情を書きたいがために描写が飛び飛びでわかりにくかっただろうと思います、最後まで読んでいただいてありがとうございます
>>愚迂多良童子さん
妖怪退治にはお酒と剣が一番ポピュラーだそうでございます。
美鈴の冒険劇もきっと面白そうですね、いつか書けたらと思います。
根気よくお付き合いしてくれてありがとう、おかげで最後まで書くことができました。
14.80名前が無い程度の能力削除
面白かった
が、魔理沙は一度痛い目にあってほしかった
自分がルールに守られていることに鈍感すぎる
18.100名前が無い程度の能力削除
最高でした!一人前になれた妖夢 一人前とは何か理解した霊夢 それを肯定出来ず半人前に留まりながら、二人を見つめる魔理沙 自分勝手で一人前になることを拒む魔理沙ですがそんな彼女だからこそ今の地位にいられたんでしょう 自己愛も含めた愛に対して妥協出来るのが大人だということですかね?より優先すべき愛のために勝たなくてはいけませんので