Coolier - 新生・東方創想話

同じ歌なら狂わにゃ損損

2012/03/27 22:05:12
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 屋台。そこは人々の憩いの場所。

 屋台。そこは人々の癒しの場所。

 そこは溜息を共有する場所であり、

 そこはしがらみを分かち合う場所であり、

 そこは弱さを叱咤される場所であり、

 そこは過去を振り返る場所であり、

 そこは失敗を飲み干す場所であり、

 そして明日への光を見出すための場所である。











 しんと静まった森の中、月明かりが大地を照らすその空間、蟲や鳥達の鳴き声だけが、唯一のBGMとなる夜の世界。そんな大地の恵みに満ち溢れた森の中に、唯一人工的に作られた小さな世界がそこにはあった。

 紅く光るその灯りは、遠くから眺めれば小さな星のようにひっそりとしているが、近付けばその先に、確かな炭火と甘いたれの香りを感じることが出来るはずだ。そう、紅い星は提灯の明かり。小気味良く鼻を刺激する鰻だれは、砂糖の適度な甘味と、鰻の骨を磨り潰して混ぜ込んだ高濃度な旨味を予感させてくれる。

 夜雀、ミスティア・ローレライ。この屋台を切り盛りする女将の名だ。彼女が作り出す濃厚なたれが保障する八目鰻の蒲焼、背に生えた美しくもミステリアスな羽、たまにピコピコと可愛らしく動く耳、普段着のヒラヒラスカートから覗かせるニーソックスの魅力に誘われて、この人里から離れた屋台に脚を運ぶ者は少なくない。

 だが、それだけではこの屋台の本当の魅力を味わい尽くした事にはならない、と、一部の客は言う。この屋台には、御品書にはなく、ましてや食べ物でもない裏のメニューが存在するのだ、と。

 その裏メニューを頼んだ者はたちまち彼女の虜となり、日々の疲れや愚痴も忘れ、皆、笑顔で帰って行くのだとか。それを知る者はそのメニューを、口を揃えてこう言う。



  女将さんの歌、と。











「いらっしゃい。おんや、お久しぶりです」



 臙脂(えんじ)色の和服に身を包み、炭火の熱気に当てられ袖を捲り、額の汗を軽く拭ったところであった。女将、ミスティアは、久々に見るその客の顔を見てにっこりと笑みを見せた。



「席、空いていますか?」



 礼儀正しく暖簾を潜ったその女性、金髪に紫のグラデーションがかかった独特のロングウェーブヘア、金に輝く落ち着いた眼差しには、どんな人間でも妖怪でも受け入れる落ち着きと、一人の女性としての器の大きさが感じられた。



「見てのとおり、今日はまだがら空きですよ、白蓮さん」



 聖白蓮。命蓮寺に住まう大魔法使いである。彼女がこの屋台の隠れファンである事を知る者は少ない。直近の寅丸星でさえ、その事実は知らない。それには理由があった。



「白蓮さんが来たと言うことは、もしかして、またやっちゃいました?」



 会釈をし、席に着く白蓮を見ず、網に焼かれた自慢の八目鰻を裏返しながら、ミスティアは彼女に質問する。



「バレちゃいましたか、お恥ずかしい」



「白蓮さんは裏表が無いから、分かりやすいんです」



 苦笑しながら僅かにはにかむ白蓮に、ミスティアはくすりと笑みを零した。



「とりあえず、蒲焼でいきます?」



「ええ、あと熱燗もひとつ」



 寺に住まう者が隠れてこそこそ屋台で酒を嗜む、なんとも珍しい光景である。勿論それが受け容れられる場所だからこそ、白蓮もここに通うのだ。



 八目鰻が焼き上がり、白蓮が串に手を取ってから三十分程が過ぎた頃である。程よく酔いも回り、白蓮の頬も程よく赤い色に染まり始めた頃である。



「さて……そろそろ、今日は寅と鼠がどんな喧嘩をなさったのか話す頃じゃありませんか?」



 客から話をするよう促すのはあまりよろしくないことは、ミスティアも知っている。だが大魔法使い、聖白蓮がほろ酔い気分を楽しむためだけにここにくるような女性ではないことも知っているし、こうやって切り出されることを白蓮自身が望んでいることも理解しているからこそ、ミスティアは空になったお猪口にお酒を注ぎながら、彼女に問い掛けた。

 女将さんには敵いませんね、と、白蓮も観念した様子で笑った。



「実は……と言ってもいつものことではあるのですが、星がまた無くし物をして、それを知ったナズーリンを酷く怒らせてしまったのです」



「して、その無くし物とは?」



「……ナズーリンのダウジングロッドです」



「うわぁ……」



 さすがにないわ。そんな表情を押し殺しながらも、ミスティアは思わず声を漏らしてしまう。



「星に悪気があったわけではないのです。普段からナズーリンに探し物ばかりさせて悪いから、今度は自力で探そうとこっそりダウジングロッドを拝借した結果……」



「それすら無くしてしまったんですね」



「あ、鰻をもう一本追加でお願いします」



「はいさ」



 ますますないわ。濁ってしまいそうな瞳を瞬きさせながら、ミスティアは鰻を下ろし始める。



「それだけなら良かったのですが、怒ってしまったナズーリンが思わず星を「この駄目虎!」と罵倒してしまったのが原因で大喧嘩になってしまいまして……しまいには二人揃って家出してしまう始末……困ったものです」



「三日もすりゃあ帰って来ると思いますけどねえ。小事の喧嘩の結末なんて、そんなものですよ」



 手馴れた様子で鰻を串に通しながら、ミスティアは落ち着いた様子で意見を述べる。まあ、星達が家出やら喧嘩やらをするおかげで、白蓮は彼女らに気付かれずに小さな贅沢を楽しむことが出来ているのだが。

 一輪達には人里に所用があったとでも適当に誤魔化せば事足りる。皆が白蓮を信じているからだ。そんな白蓮は、実は少し黒いのかも知れない。



「ええ、恐らく早ければ明日にでも帰って来るでしょう。ですがいつもこう喧嘩ばかりされると、私としては気が気ではなくて……」



 上品にお猪口を口に運び、白蓮は視線を落とし、ふうっと色っぽい溜息を吐く。そんな彼女にちょっときゅんとしながらも、ミスティアは静かに鰻を網に乗せた。



「なるほど、話は分かりました。それでは鰻が焼けるまでの間……」



 じゅうっと静かに脂を焦がし始める鰻を確認し、ミスティアは妖しく微笑んだ。



「ここは一曲、歌いましょうか?」



 白蓮が顔を上げた時、カウンターには既にマイクとCDプレーヤーが置かれていた。ミスティアには最初から分かっていたのだ。白蓮が求めているものが、八目鰻でもなく、酒でもないことを。



「それじゃあ、一曲お願いしようかしら」



「ふふ、今日は新曲を仕入れてきたんですよ」



 待ってましたといった様子で、白蓮の表情が明るくなる。それだけあれば準備は万端だ。



「それでは聞いてください。唄、ミスティア・ローレライ。作詞、作曲、鰻谷プロ。曲は、ナズトラマンの歌!」



「なずとら……?」



 白蓮がはてな顔をしたのをよそに、ミスティアはCDプレイヤーの再生ボタンを押した。流れてきたのは軽快な管楽器のリズムだった。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ナズトラマンの歌」  作詞・作曲/鰻谷プロ



片手に持ってる 道具は宝塔

自慢の手癖で すぐ失くす

星蓮船から聖のために 来たぞ 

我らの ナズトラマン



手にした ロッドが ビュビュンと唸る

お宝探しの 専門家

めんどくさいけど主のために

来たぞ 我らの ナズトラマン



見つけた 宝塔 ピカリと光り

レーザー くねらす 輝きだ

法界目指して 聖のために

来たぞ 我らの ナズトラマン



―――――――――――――――――――――――――――――――――――







 ふうっと一息吐き、ミスティアはマイクを置いた。



「相変わらず、女将さんの歌はなんだかすごいですね」



 大分酔いが回って来たのか、トロリとした眼差しでミスティアを見つめる可能性の姿は、先程よりもなまめかしい色気を放っていた。



「歌は元気なのが一番ですから」



 ああもうセクシー過ぎてほっぺたつまんでやろうかという気持ちを抑えながら、ミスティアは鰻を裏返した。



「ところで、ナズトラマンって何ですか?」



「最近幻想郷で流行ってる漫画ですよ。神話の国からやってきた正義のヒーローナズトラマンが、悪の巫女の侵略から世界を救うために頑張るんですがなかなか勝てなくて四苦八苦する話です」



「なんだかやるせないヒーローですね」



「そこがまた面白いんです」



 下がってきた袖を捲り直し、ミスティアは特製の鰻たれを脂の乗った肉に丁寧に塗る。



「やるせないことばかりだけど、それでも挫けず頑張れば、いつかは悪の巫女だって倒せる。それがなかなか出来ないからやるせない」



 そして山椒をひと摘まみし、まんべんなく鰻にまぶしていく。



「虎と鼠も本当は仲良くしたいのに、なかなか仲良くいかないからやるせない。でもそれを乗り越えれば、きっと最高の絆へと姿を変えます。人間関係は一日で大成するもんじゃありません。気楽に見守るのが一番ですよ」



「……そうですね。鰻のたれも、一日にして成らず……今は熟成させる時期なのかも知れませんね」



 蒲焼きの乗った皿を受け取り、白蓮はようやくその表情を和ませた。



「待つだけで目的が達成出来るなら、苦労はないわ」



 暖簾がめくられなかったので、二人は新たな客が入ってきたことに気付かなかった。何故暖簾がめくられなかったのか? 彼女の背丈が、暖簾の位置よりも低かったからだ。



「最近よく来ますね、メディスンさん」



 金髪ショートボブの可愛らしい毒人形、メディスン・メランコリーは、ツンとした様子でミスティアを睨んだ。



「来ちゃ悪い?」



「滅相も無い」



 ふんっと軽く鼻息を出し、メディスンは白蓮の隣の席によじ登る。その仕草が何か可愛いから思わず突き倒したくなったが、ミスティアはぐっと堪えた。



「とりあえず、蒲焼きにしますか?」



「前も言ったけど、屋台の時だけ敬語使うの止めなさいよ」



 ミスティアの質問には答えず、メディスンはむすっとした表情を崩さない。



「女は夜に化けるものですよ、メディスンさん」



「……ま、いいわ。今日はおでんにしてくれる? 大根と竹輪とはんぺんで」



 人形がおでんを食べるとは些か滑稽な話だが、大事なお客の機嫌を損ねる訳にはいかない。はいさといつも通りに返事をし、ミスティアはおでんの調理にかかった。



「……」



「……なによ?」



 先程まで隣で蒲焼きの熱をふうふうと冷ましていた白蓮の視線に、メディスンは気付く。



「貴女はお人形さん?」



 首を傾げてこちらを見つめる白蓮に、メディスンは目を細くして彼女を睨んだ。



「ええそうよ。自分勝手な人間達に捨てられて、妖怪になっちゃった哀れな人形」



 聖白蓮は魔法使いであり、元人間でもある。そんな彼女の奥底にある人間の気配を感じ取ったのか、メディスンは不愉快そうに彼女を睨んでいた。



「そうでしたか……」



 しかしその棘のある言葉は、白蓮との距離を離すことは無かった。むしろその言葉をきっかけに、彼女はメディスンを抱き締めたのだ。



「な、なななん!?」



「きっと長い孤独を耐えてきたのですね。言葉を持たぬ者の叫びを聞く事無く、貴女達に辛い思いをさせてしまった……これはきっと、人間の罪なのでしょう」



 おやおやとそれを横目にするミスティアには気付いていない。究極の博愛主義者である白蓮にとって、今目に映るのは、癒える事の無い心の傷を残した(と白蓮は勝手に思っている)メディスンだけだった。てっきり凹むか機嫌を損ねて言い返してくるかと思っていたメディスンは目を白黒させるしかない。



「でも大丈夫です。ここは全てを受け入れる世界、幻想郷。必ず貴女を受け入れてくれることでしょう。もし何かあったら、命蓮寺の門を叩いてください。私はいつでも、貴女の味方ですよ?」



「わ、私は別にそんなつもりは……」



 主導権を奪われ、そして白蓮の温もりに包まれ抵抗するにも出来ないメディスンは口篭ることしか出来なかった。一方白蓮は、





「それにしても貴女……綺麗な髪をしていますね。お人形さんみたい」



「人形って言ったでしょ」



「とりあえず撫でさせてください」



「うえ?」



 白蓮は半ば強引にメディスンを抱き抱えると、そのまま自分の膝に乗せて彼女の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。



「ちょ、ちょっとあんた!?」



「ああ~懐かしいですねえ~……昔子供の頃に大事にしてた人形を思い出します」



 完全にメディスンの頭を撫でくり回すのに夢中になっている。そう、白蓮は酒臭くなっていた。



「こ、こらー! 私は人形の地位向上委員会会長なのよ! そんな私を玩具扱いしないでよ!」



「まあまあいいじゃありませんか。人形は撫でられてこそ華なのです。長所は大事にしなきゃいけませんよ?」



 もはや聞く耳持たずでメディスンを愛でる白蓮。傍から見れば不機嫌な子供を弄くる母親に見えなくも無い。



「ちょっとミスティア! 貴女もこの飲んだくれなんとかしなさいよ! 面倒なお客をあしらうのも女将の仕事でしょ!?」



「いいじゃないですか。人見知りを治すいい機会ですよ?」



「こういうのはセクハラって言うのよぉ!」



 にこにこと大根の茹で上がり具合を確認するミスティアに、メディスンは半泣き顔状態である。何でもいいから助け舟を出してくれ。彼女の瞳はそう語っていた。



「やれやれ、仕方ないですねえ……それじゃあとりあえず」



 ミスティアはおもむろにマイクを掴んだ。



「ここは一曲、歌いましょうか?」



 その言葉に、白蓮の手がピタリと止まる。その様子に、ミスティアは一瞬だけ薄笑みを漏らした。



「おや、お人形さんも歌を聴きに?」



「気に食わないけど、こいつの歌は妙な中毒性があるのよ」



 夜雀の店の裏メニューを知っている。その共通点が、二人の距離をちょっとだけ縮めたらしい。白蓮はそれ以上メディスンを弄る事無く、メディスンは白蓮の膝の上に乗ったまま、ミスティアの歌声を待っていた。



「それではお待たせしました。本日二曲目はメディスンさんお気に入りのこの一曲!」



 ポチっとCDプレーヤーの再生ボタンを押して準備は完了。森を騒がしくする準備はOKだ。



「それではお聞きください。唄、ミスティア・ローレライ。作詞、作曲、鳥町隆史。曲はMEDICINE!」







―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「MEDICINE」  作詞・作曲/鳥町隆史



いつまでも 毒を作りたい

鈴蘭を 大事にしたい

人形にも人権があると



使い捨て 忘れられる

新品に買い換えてる奴

子供の頃の愛着は無いのかい?



言いたい事も言えない人形の口じゃ MEDICINE

叫び声が届くことなく捨てられる OH OH



汚れ捨てられる現実に

終止符打つために

戦う事も必要なのさ





棚の上 座りこんで

いつまでも 愛されると

捨てられるまで信じ続けてた



呆気なく 幸せ終わり

無意識に 視線を落とし

朽ちてゆく事を受け入れるか?



見つめることも出来ない硝子の瞳じゃ MEDICINE

自分だけをずっといつでも信じていたい OH OH



誰かと生きてく日々を

また取り戻したいから

自分の足で 今歩きだす





六十過ぎて飲みたいそんなお薬は 皇潤

人形の私には興味が持てない



言いたい事も言えない人形の口じゃ MEDICINE

叫び声が届くことなく捨てられる OH OH



汚れ捨てられる現実に

終止符打つために

戦う事も必要なのさ



―――――――――――――――――――――――――――――――――――







「いつ聞いても飽きない歌ね」



「物を大事にする事を強く訴えかける、魂を感じさせる一曲でした……でも皇潤は飲みません」



 二曲目が終わり、メディスンは満足気に手を叩き、白蓮は感動に瞳を潤ませていた。



「ふふ、花の異変の時は何かと大変でしたが、メディスンさんも今では大事なお客さんの一人です。人形の地位向上運動、私も応援していますよ?」



「ふん、貴女に応援されなくたって、私は立派な人形社会を作り上げて見せるわよ」



 憎まれ口を叩きながらも、メディスンは表情を緩ませ、ミスティアが差し出したおでんを受け取った。



「うぅっぷ……わらひもれきれば大事にして……」



 そこに三人目の客が入ってきた。青い髪、青い服、そして青い顔をした河童だった。



「おやおやにとりさん、その様子だとまた鬼に絡まれましたか?」



「ご名答……とりあえずお冷ちょーらい……」



「はいさ」



 カウンターに突っ伏すにとりに苦笑しながら、ミスティアは冷や水を一杯差し出した。



「随分と酔い潰れてるみたいだけど、まだ飲むつもりなの?」



「出来れば帰りたいんらけど……飛んだら気持ち悪いし……歩くろも疲れたから休ませて」



「重症ねこれは」



 そのまま溶けて水にでもなりそうなにとりに、メディスンは呆れた様子で溜息を吐く。



「飲み過ぎはよくありませんよ? 酒は百薬の長とは言えども、薬も量を間違えれば毒なのです」



「鈴蘭と同じね。自分の限界は見極めるべきだわ」



 心配そうににとりの顔を覗く白蓮に、メディスンも同意する。



「うーひゃいっす! わらひだって自分ろペースで飲みたいんれすぅ! でも、れもぉ……!」



 お冷を片手に、にとりはたちまち顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めた。



「鬼に飲めっへ言われひゃら、断るわけひゃいかにゃいやらいれすかぁ!」



 すっかり泣き上戸だ。どうやらよっぽどこっ酷く飲まされた様子のにとりに、流石の三人も閉口するしかなかった。



「山のおともらちも連れて来いって無茶振りされて! 頑張って人数増やしたから被害も拡散するって思ってらろに! 被害者増えるだけらし! わらひがみんなに白い目で見られるし! わらひの取り置き飲まれたひ! もう゛鬼と飲むのいやらあぁぁ……うぉっぷ」



「ちょ、ここで吐かないでくださいよ!? 桶は裏ですから!」



「うぶ、らいじょぶ……もう失う物なろ何もなひ……胃袋には」



 目からだけじゃなく危うく口からも大洪水が起こりそうな様子のにとりを慌てて立たせようとするミスティアだが、にとりはかろうじて堪えた。



「そんなに酷いんですか? 鬼の方々は……」



「悪い人達じゃないんですけどねえ……一度お酒が入ると歯止めがかからなくなると言うか、泥沼化すると言うか、野放図になると言うか……」



 ミスティアも鬼の酒癖の悪さにはほとほと困り果てているようだった。それを聞いて、白蓮はどんとカウンターを叩いた。突然の振動に、にとりも思わずひゅいっと飛び上がる。



「酒とは楽しむためにあるもの。人を不幸に陥れるためにあるものではありません。酒を強いるその行為、それは人に対しても酒に対しても失礼な行為……私が寺にいた頃と飲兵衛は変わっていないな。誠に思慮浅く、軽挙妄動であるッ! いざ、南無三!」



「ちょ、ちょっとどこ行こうとしてるんですか!?」



 こんな夜中に鬼相手に喧嘩でも売りに行こうと思ったのか突然立ち上がった白蓮を、ミスティアは慌てて引き止める。タダ飯されてはたまったものではない。どうやら白蓮も相当酔いが回っているらしい。



「あーお姉さん、あいつらはろーせこっ酷く絞られても反省しないらろうし、お姉さんに手間かけさへる訳りゃいかないよ……それより、わらひはわたひの苦悩を理解してもらえたらけでありがたいよ……今日からお姉さんも盟友らね」



「盟友、ですか?」



「おうよ~……河童は礼儀正しいんらよ? らからお姉さんの親切は忘れないのさ」



 思いが伝わっただけで、にとりは満足したらしい、ぐいっとお冷を飲み干し、にとりはミスティアを見詰め口を開いた。



「それに鬼との喧嘩見てるよりぁ、女将さんの歌聞いた方が、わらひにとっては楽しいからねえ」



 それを聞き、白蓮もメディスンも表情を明るくする。夜雀屋台の裏メニューを知る三人目の登場に、店内は自然と生気を漲らせ始めた。



「歌をリクエストされたからにゃあ、応えぬわけにはいきませんねえ。それじゃあ今日はとっておき、タチの悪い酔っ払いを吹っ飛ばすにゃ持って来いの一曲を披露しちゃいましょうか!」



「流石はおかみさん! 分かってらっしゃる!」



「今日はオンステージね。騒がしい夜になりそう」



「歌っておくれおかみひゃんー! わらひの不幸をかっ飛ばせー!」



 客のテンションは異常な程に上がっている。それは全て、ミスティアの予定通りだ。今夜も始まる。狂喜の宴が。



「それではお聞きください。唄、ミスティア・ローレライ。作詞、作曲、一青妖。曲はもらい吐き!」









―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「もらい吐き」  作詞・作曲/一青妖



 ええいああ 君から「もらい吐き」

 伊吹 勇儀 ふたり一気



 ええいああ 椛も「もらい吐き」

 飲ませたの 誰です





 鬼から お酒だらけの酒屋に

 連れられる 仕事中

 山の連中

 連れて来いと 無茶振り

 で、『ふっ』と 神がよぎる uo-i



 文をよく知る 新聞記者には 

 話せないし 酒弱い ha~

 居酒屋の中 この暴れっぷり

 ヤマメ キスメ

 ただ…引いて…ヒイテヒイテ



 ええいああ 君から「もらい吐き」

 おろろ おろろ ふたり一気

 ええいああ 稔子「もらい吐き」

 飲ませたの 誰です





 アルハラ 言葉にすればする程

 意味がない アル中

 あけようと 決めた取り置きだって

 とうに飲み干されれちゃった。 uo-i



 PM12:00(ジュウニジ)過ぎて、落ちるパルスィ

 限界来ない 飲ンデレラ ha~

 明日倒れる 始めの一歩

 つまみで 許して欲しいホシイホシイ



 ええいああ 君から「もらい吐き」

 おろろ おろろ ふたり一気

 ええいああ こいしも「もらい吐き」

 飲ませたの 誰です





 ええいああ おろおろ「もらい吐き」

 伊吹 勇儀 ふたり一気

 ええいああ さとりも「もらい吐き」

 飲ませたの そう 文です



 ええいああ 君から「もらい吐き」

 おろろ おろろ ふたり一気

 ええいああ 鍵山「もらい吐き」

 飲ませたの 文です



 ええいああ 君から「もらい吐き」

 伊吹 勇儀 ふたりぼっち

 ええい 秋葉も「もらい吐き」

 強いのはそう 鬼です



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 狂喜の宴は朝まで続いた。すっかり出来上がった白蓮はメディスンを弄繰り回し、メディスンもそんな白蓮にされるがまま延々と人形と毒薀蓄を語り続け、にとりは水を浴びるように飲んだ。



「うわぁ、こりゃ随分と盛り上がってたみたいだね」



 妖蟲、リグルが屋台を目にしたのは、ちょうど太陽が顔を見せ始めた時だった。ミスティアはとっくに調理器具を洗い終え、店じまいの準備に取り掛かるところであった。



「あら、リグルおはよう」



 営業を終えたミスティアの口調は、いつもの無邪気で奔放な夜雀のそれに戻っていた。



「この様子だと、昨日は随分盛り上がった……いや、狂ったみたいだね」



 客は三人揃ってカウンターにヘッドスライディング状態になっている。引っ叩きでもしないと起きそうにない。



「ま、私の歌を一晩中聴いてりゃお酒無くてもハイになっちゃうよ」



 そこにいたのは客思いの優しい女将では無く、人間に悪戯をし、したり顔をする意地悪な妖怪だった。



「しかしみすちーも人が悪いよ。お客さん狂わせて出来上がらせちゃおうなんてさ」



「あら、私はただお客さんのためを思ってやってるだけよ? 屋台で盛り上がらないなんて、屋台の意味が無いじゃない」



 反省の様子無いミスティアに、リグルも呆れるるしかない。

 そう、ミスティアにとっては、お客を楽しませるのにコツなどいらないのだ。ただ歌えばいい。歌えば客は高揚する。歌えば客は盛り上がる。盛り上がれば満足する。狂気の宴こそ、彼女にとって至高の宴だったのだ。



「みすちーが歌いたいだけなんじゃないの?」



「私はお客さんが喜ぶと思って歌ってるよ? まあ、歌えば勝手に喜ぶけどさ」



「やれやれ、ミスティアの歌で一番狂ってるのはミスティアじゃん」



「どういう意味よそれ」



「歌わないと狂っちゃうってこと」



 ミスティアは暖簾を降ろしながら怒って見せるが、リグルが本気で憎まれ口を叩いていないことは知っていた。何故ならリグルも妖怪だからだ。ミスティアと同じ、人間に悪戯をすることが大好きな妖怪だと知っているからだ。



「ま、いいじゃない狂ったって」



 んーっと伸びをしながら、ミスティアは笑顔でこう言った。



「狂っても狂わなくても歌は歌。同じ歌なら狂わにゃ損損よ」











 屋台。そこは人々の憩いの場所。

 屋台。そこは人々の癒しの場所。

 そこは溜息を共有する場所であり、

 そこはしがらみを分かち合う場所であり、

 そこは弱さを叱咤される場所であり、

 そこは過去を振り返る場所であり、

 そこは失敗を飲み干す場所であり、

 そして明日への光を見出すための場所である。

 そのためには全てを吐き出さなければならない。

 そのためには全てを曝け出さなくてはならない。

 そのためには自らを変えなくてはならない。



 そこには、小さな狂気が隠れているのだ。











「ほらお客さん、始発ですよ?」
「グータラ節」



チョイと十分のつもりで二度寝

いつの間にやら正午過ぎ

気が付きゃ川原のお船で昼根

これじゃ幽霊減るわきゃないよ

分かっちゃいるけど働かない





さて、いつも読んでくださってる方々、今回も顔を覗かせてくださりありがとうございます、久々です。

今回の作品は……ジャンル何なんですかねえ。ギャグなのかシュールなのか、はたまたホラーなのか……書き終わった今でもよく分かりません。

東方キャラの中ではミスティアが一番好きであり、それを形にしてみたらこんな感じになっちゃいました。

歌の方は……今回一番の博打でした。まあ何事もやってみなけりゃ分かりませんってことで採用。

おかみの魅力とちょっぴり怖い(?)妖怪的な面も楽しんで頂けたなら幸いです。

この作品で一番狂ってたのは、もしかしたら作者自身だったのかも知れませんね。

そんなとち狂った作者ではありますが、今後も楽しんでいただけましたら幸いです。では、また。
久々
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コメント



0.580簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
歌のアレンジが面白くて良かったです
3.50名前が無い程度の能力削除
>ジャンル
コメディ。スケッチコメディ。
もらい吐きで笑った。
6.80名前が無い程度の能力削除
もらい吐きはよかった
10.70名前が無い程度の能力削除
お客さんが楽しんでいるなら、狂気でもいいのかも知れない。