Coolier - 新生・東方創想話

忘却思考のネームレスワードレス

2012/03/17 01:31:10
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 ―1―


「私は誰だ!?」

 手に持っていた筆が垂直に落下する。
 目の前の掛け軸用には、難しい漢字がならんでいた。
 私が書いたのかな、多分。
 ここはどこだ?
 墓石が沢山ならんでいて、運動会でもやってそうなぐらい神霊達が漂っている。
 紺色の空に月が薄ぼんやりと見える。夜になりたてだ。
 胸元を見ると変な服を着ていた。紐がついているけれど、引っ張ると緩まる構造ではない。
 これは本当に私か?
 しまった、またやっちゃったなぁという感覚に陥る。
 自分自身の顔を確認しようにも、私はキョンシーだから鏡がみれない。
 なんでキョンシーは鏡が見れないんだっけ?
 ハテナが頭の中で運動会。

 キョンシーか、と納得して思い出した。
 そうだ、私は青娥様に仕えるキョンシーなのだ!
 忠実な何か!!
 そうそう、青娥様だ。

 青娥様青娥様・・・・・・

 頭の中が同じ仙女で溢れて仕方がない。
 会えば何もかもが思い出せるハズだ!
 まずは、自分の名前から尋ねなくては。
 
 ムクッと立ち上がり、青娥様を探しにいこうと意を決したところで、書道にまた気が付く。
 もうサッパリ読めなくなった漢字の集合体。
 とりあえず動かしづらい両手で手にとり、持っていく事にした。
 巻いてしまうと見れなくなりそうだったので、広げたままだ。
 もしかしたら、私の名前かもしれないし。


 ―2―


「こんばんは!」
「こんばんは!」

 墓地を抜けて、石を敷き詰められた道をぴょんぴょんしていると、妖怪に出会った。
 緑色の髪の毛に、茶色のふさふさがついている。
 箒を片手に元気がよろしい。
 彼女は興味津々って顔で、我が掛け軸を見ている。

「なんだか凄そうなものをもっていますね」
「え、これすごいのか!?」
「漢字がいっぱい並んでいる……私には読めませんが、これはもしや魔道書なのかも」
「うぉー!? 私が書いてたみたいなんだコレ!」
「どういう意味なの?」
「さぁ?」

 私にとっては、手がかりにならないならどーでも良かった。
 私は青娥様に会うのだ。漢字はその次にすぎない。
 例えこれが中華まんを沢山降らせる呪文だったとしても。
 いや、それだったら重要か……うむむ、困った。
 私が恐らく険しい顔をしていると、妖怪が具合でも悪いの? と尋ねてきた。

「心配ご無用。ちょっと記憶がぶっとんだだけです」
「それ心配しなくていいの?」

 私は3回もうなづいた。
 多分、この妖怪は私の事なんて知らないのだ。
 私の事は、青娥様しかわからない。


 ―3―


「ん、キョンシーもいるのか。こんばんは」
「こんばんはー!」
「むむ、何ヤツ!? こんばんはー!!」

 我々が鳥居の真下で、妖怪の夜食をいただいていると、変な帽子をかぶった女の人が階段をあがってきた。
 青い服に青い髪。ところどころに赤い模様も入っているが、雰囲気が理知的で冷たそうである。
 端整な顔立ちで、化粧っ気があんまりしない。
 巨乳だ。
 近づいてくると、柑橘類と子供っぽい匂いが微かにする。
 青い……あ、あれ、青娥様じゃね!?

「すいません、せーが様ですか?」
「いいえ、私の名前は上白沢慧音。教師をやっている」
「違うんですね。おっぱい大きいです。せーが様を知りませんか?」
「迷子になったのか。えーと、名前はなんといったっけ?」
「それがわかれば苦労がありません!」
「ああ、そういう事か……それとね、胸が大きい事はコンプレックスであることも少なくないから、謹んで発言しないと駄目だぞ」
「参考になります! せーが様が胸が大きいと房中術で便利と言ってた気がしましたので!!」
「そんな所は覚えているのか……」
「ところで先生、ぼーちゅーって何ですかね!」
「虫を退治することだと、覚えなおしなさい」
「なるほど、良くわからない」

 会話が高度だったのか、緑髪の妖怪が完全に空気と化していた。
 可哀想なやつだ。
 目があったが、どうぞご勝手にと言わんばかりにオニギリを食べはじめた。
 私もひとつもらったオニギリなんだけれど、中のオレンジの具はなんだったか……
 哀れなふさ毛を無視してもう一度先生のほうを見ると、私の持っている掛け軸を腰をかがめて眺めていた。

「まさかとは思うが、これは命連寺から持ってきたのかな」
「私が書いていたみたいなんだが、先生読める!?」

 先生は苦笑いをした。
 ひと呼吸してから、

「これほど達筆に漢詩をかけて、意味がわからないとは。こちらの方が訳がわからないよ」

 と、嘆いた。
 私だってわからないんだ! と、叫んで切り刻みたいのを我慢する。
 先生はそこにいる緑髪より恐らく賢いだろうから、もう少し詳しく聞かねば。
 
「この文字列はなんでしょう。仙術の書でしょうか」
「これは漢詩だ。途中で終わってしまっているが、読んだことがある」
「へー! どんな意味か答えよ!!」
「幾ら書物を読んだって本当の処はわからない。もしも誰かに尋ねられたら、自分の心に訊けと答えなさい……」
「なんか頭が良さそうですね!」
「図書館の魔女辺りが喋っていたら感服する所だね。これをキョンシーが書いたという事実には驚かされるよ」

 ふむふむ、なんだか格言らしい。
 けれども、私の名前やお饅頭の呪文じゃなかったのが残念でならない。
 いつの間にか現れた緑の髪の妖怪は説法ですね、と少々食いついて先生と話を始めた。
 先生は妖怪の頭を撫でる。
 よしよし。
 あ、なんか思い出しそう。

「さてと、そろそろ白蓮様と打ち合わせをしに行きたいから、また今度」
「先生、誰それ。何の要件?」
「それは聞き捨てならないよ! 白蓮様はこのお寺の偉い方なんだ」
「えっと、それって冠位にするとどのぐらい偉いの? っていうか、冠位ってなんだっけ?」
「か、か、え?」
「君達も一度、うちの寺子屋に来るといい」

 先生は妖怪と一緒に寺の方に歩いていった。
 何でも、明後日の社会科見学とやらの話が云々。
 私は名前を探す使命があるので、ついていかない事にした。
 先生ですらわからないとは、一体何者なんだ私。
 これからどうしよっかな。
 私はその場でグルグルっと回転する。
 どこが回ってるのかも良くわからない。沢山まわって止まった方角に向かおう。
 
 ぴたっ

 私の頬っぺたに肉の当たった感触がする。
 キョンシー故に鈍いけれど、柔らかいものが当たったのがわかった。
 すぐ近くで覆盆子の匂い。
 背中の辺りに体が密着している。
 女性だ、巨乳。
 完全に背後をとられている訳だけれど、危機感が発生しない。
 私はこの謎の人物を知っているぞ……
 これは――

「だーれだ」
「せーが様!!!」
「あらあら、大正解」

 頭を撫でる感触も、間違いない。


 ―4―


「やっぱり、文字記憶は深追いしすぎるとパンクしちゃうみたいね」

 というのが、掛け軸をみた第一声だった。
 筆と掛け軸を私に渡したのは青娥様だそうだ。
 神霊廟への帰り道、私の様子を見て色々考えていらっしゃる。
 でも、私には何を考えているのかわからない。

「里の先生と話していたみたいだけれど、面白いお話は聞けたかしら」
「あんまり覚えてないなー……せーが様、そんな時から見ていたのか」
「突然回りださなければ、もう少し様子を見てたんだけれどね」

 へー、と私は気のない返事をする。
 ずっと探していたのに、黙って見てたなんて酷いじゃないか。
 怒りそうなのに気が付いてか、青娥様はまた頭を撫でる。
 この撫でている事に、意味があるのか。
 
 洞窟を進むに連れて、辺りは明るくなる。
 欲深い霊魂達は一時期に比べるとすっかり減ってしまったけれど、未だに破裂しそうな強欲をかかえ、救いを求めてさ迷っているそうな。
 赤だったり、緑だったり、青もある。ほわほわと光り輝いている。
 青娥様は白いベストを羽織っているが、青い髪を結っている上にスカートなんかも青い。
 きっと死んじゃったら青い神霊になって、元気に壁を通り抜けるんだろう。

「そういえば、さっき先生にあったんだ。誰だったか忘れたけど」
「その様子も見てたわよ」
「そんな時から見ていたのか」
「うんうん、それで何かあったの?」
「あ、えーと、寺を見学しに今度来るんだって。一緒に行ってもいいですか?」
「なりません」
「なんで?」
「この掛け軸の通りよ」

 私が持ちっぱなしだった紙を指差す。
 そうだこれどういう意味ですか、と私がたずねたら

「貴方らしい、言葉だったのよ」

 と、囁いた。
 なんだか冷たく感じた。

 洞窟の終着点は、偉そうなオッサンの絵が描かれた扉だ。
 神霊廟を閉ざす分厚さ。
 威厳というよりも拒絶しているみたいだ。何かを。
 でも、そんな厳かさを無視して青娥様は体を半分めり込ませる。
 邪仙の為せる技だ。すげー!

「さて、今夜はどうするの?」
「私は墓でボチボチ寝ます!」
「そうね、今日はそれがいいかもしれない」
「せーが様は墓地で寝ないんですか?」

 口の端をあげていた顔が、無表情になる。
 手を組んで考え始めた。
 洞窟内に風が通る音がする。
 ぴゅーぴゅー。

「名前は思い出したのかしら?」
「あ、そういえばそうでした。なんだっけ?」
「それすらも忘れてしまったのならば、墓に戻って考え直しなさい」

 えぇ!?
 弱った。
 青娥様は肩まで体をめり込ませる。
 わわ、このままでは置いていかれてしまう。
 ぴゅーぴゅーが強くなる。
 掛け軸は揺れている。紙の音はやかましい。
 どうしようどうしよう。
 もう顎までしか見えなくなっている。
 ああ、青娥様青娥様青娥様!
 また離れてしまう。折角会ったのに、扉の向こうに行ってしまうのか。
 何を言おう。
 掛け軸が地面に落ちる。

 ぴゅーぴゅー。

「頭がいっぱいだったのです!」

 叫んでみた。

「青娥様で頭がいっぱいだったのです! 私はいっぱいいっぱいです!!」

 出来る限り正直に。

「漢詩も! 自分の名前も!! 今はいいんです!!!」

 己のままに。

「もっともっと撫でてください! もう何もわからなくて一人なんて、嫌だ!」

 私には名前があったじゃないか。
 そう、それは――





「私は宮古芳香だ!! 覚えておいてください!!! 宮古!!!! 芳香!!!!!」







 青娥様は微笑みながら、門を開けてくれた。
 私は急いで腕を伸ばしたまま抱きつく。
 胸の弾力と生きている心臓の鼓動が温かい。
 それに手だ。私を撫でる。
 よしよし。
 
「あら、久しぶりだわ」
「名前を思い出したことですか?」
「違うわ、涙が出ている。目の器官が正常に動作しているんだわ」

 顔に水がかかっていると思ったら、どうやら私は泣いてたみたい。
 そういえば懐かしい気がする。

「これはいけない事ですか?」
「とても良いことよ。自覚がないとしても、貴方が忘却や孤独に恐怖したなら、生に近づいた事になる」
「ならば、もっと泣きます!」
「好きなだけどうぞ」


 でも、涙はもう出なかった。
 あったかい青娥様が近くにいるから、泣けなかった。


 ―5―
 
 私は青娥様とお布団で眠る。
 寝るときは服を脱ぐタイプだそうで、私も服を脱がされた。
 すっぽんぽん!
 青娥様は大変麗しゅうございますですね。
 私がきゃいきゃい言っていると、寒いから早くいらっしゃい、と青娥様が布団を叩く。
 よいしょ、と言いながら腰掛けるとガバアッって押し倒された。
 抱き枕にするように、私は扱われている。
 あれ、私の体は冷たいんじゃないのかな?

「服、着てきましょうか? 折角布団に入るのに冷たいだろー」
「あらあら、これがキモチいいのよ。まったくもう可愛いんだから。芳香こそ、寒くない?」
「あったかすぎてヤバイ!」

 それから、青娥様は寝息を立ててしまった。
 むぎゅむぎゅ。
 近くにいるのに、私の頭の中は青娥様でいっぱいだ。
 パンクしてしまうかもしれない。
 うわぁ、これは寝られるのかな。寝不足になると、お肌がピンチです!


 そういえば、ついさっきこのお部屋に飾った掛け軸には、こんな文字が書いてある。

『縦読垣沙書
 不如持一句
 有人和相問
 如実知自心』

 ……
 どうでもいいや!


 隣にいらっしゃるせーが様のぬくもりしか、私の頭は考えられない。


 
 ―おしまい!―





  
*がっつりあとがき。二郎ぐらいあとがき。


原案:誰何さん
ついったー上でせいよし界隈随一の誰何さんが「1ツイート分SS」のお題募集をしており、私が更にそのSSを元に書いたのが本作である。
流石、せいよし界隈でも多くのソムリエールから高い評価を受ける氏の原案にはおぅふおぅふすら感じたが、Dr Pepperは良く効いた。
作中内の漢詩は良寛という人のモノになっています。出来れば、よしかちゃんの元ネタにしたかったのですが、その点だけが残念。

という訳で、よしかちゃん作品です。オススメは奇をてらわないよしかちゃん。
がいすと
http://twitter.com/geist_G_O_D
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コメント



0.480簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
芳香の可愛いらしさがあって良かったです
13.70名前が無い程度の能力削除
読めない漢詩を、自分でもちょっと調べたりしていましたが。
上の方でけーね先生が、ちゃんと開陳してくれていたのですね。
こころとは何でしょうな。真理とかも。
14.100久々削除
>>巨乳だ。
……ごくり。
いや、まあこれはいいとして、芳香の魅力を遺憾なく発揮した心温まるお話でした。
純粋っていいですねやっぱり。死んでなお成長する。そんな人生を歩んでみたいものです。
それにしても青娥様、優しいスパルタ教育をしなさる。ナイスツンデレ。いいですともいいですとも。