Coolier - 新生・東方創想話

愉快で平和な監禁生活

2012/03/05 03:31:53
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◆4日目

 そんなこんなで久々のパチュリー喘息騒動は夜の内に終結し、無事に朝を迎えられた四日目。
 「昨日は悪かったわね」との侘びと、「体調はそこそこ回復したわ」との報告と、ついでに「そういえば話があるって言ってなかった?」との質問に、朝からパチュリーが現れ、霊夢は朝食をモリモリと摂りながら「賭けについて」との話をした。
 パチュリーは若干嫌そうな顔をしたが、賭けの事を出されて断る事も出来ずに、渋々ながら引き受け、小悪魔に資料と材料を部屋に持ってこさせ。そして、

 「でもさぁ、感知速度も速くなきゃダメだし、感知可能範囲も大事じゃない?」
 「それで強度も上げろと? 無理ね。どれかを犠牲にしなければ。大事なことは優先順位を決めること」
 「むむっ……じゃあ、強度は最大値で。不干渉の法と、閉塞を祇(ぎ)と不可侵の儀をこう……異相断層呪列もちょこっと入れて……こんくらいに調整して」
 「それだと、感知可能範囲が著しく狭まるけど?」
 「いい。そっちは別の手でいくから、感知関係は全部取っ払う。その代わり封魔術を入れる」
 「そう……じゃあ、こんな感じになる」
 「ふぅむ?」

 と、朝からずっとこんな感じにやり取りをして現在は昼下がり。
 霊夢の対面には勿論パチュリーがいて、机の上には大きな羊皮紙が広げられていた。
 そこへ使い込まれた羽ペンで、数式やら図式やらを精密に書き込んで行くパチュリー。羊皮紙は机の上のみならず、膝上や足許、床にも複数枚散らばっていた。ある紙には知らない言語での言の葉が綴られ、ある紙には霊夢の小難しいオーダー内容を、ある紙には博麗の印やちょっとした法則など、ある紙にはパチュリー固有の魔術式が……と、様々な事柄が描かれた羊皮紙が散乱し、それ以外には分厚い魔導書の類が床の上に無造作に転がっていた。
 昼食もそこそこ、朝からずっとこうして議論を重ねている二人だったが、漸く構築する術式の輪郭が見え始めたところで、ふとパチュリーは問うた。

 「でも、こんな事してもあまり効果は得られないと思うわよ? 並みの妖怪だったら一溜まりもない筈だけれど……相手は並みの妖怪じゃないどころか、こっちよりも何倍も上手なのは明確でしょう?」
 「んなこと承知の上だっての。でも良いの。それくらいには本気だって示せるだけでいいの」
 「……口で言えば早い」
 「あたしは言葉よりも態度で示す派」
 「はぁ……」

 面倒臭い。と、パチュリーの口から思わず漏れる。
 霊夢はそんなパチュリーに「うっさいっ」と一喝飛ばして、ちょっとなんとも言えない不思議な書き心地がする特殊な羊皮紙へと、慣れない羽ペンで術式を書き込んで行く。
 霊夢はぶっちゃけ書き辛いと言いたかったが、賭けの件を出したからといっても付き合せているのはこっち側なので、今はやめておいた。

 「で、閉塞空間へと入れてからはどうする? これだけ強力だと、下手すれば指先一本動かすことも出来なくなるけど?」
 「そこは違う術を併用してカバーするわよ」
 「……そっちも考えないといけない?」
 「そーそー」
 「……誰が?」
 「あんた」
 「……」
 「はい、頑張れ」
 「……はぁ」

 パチュリーは溜息を吐きながら、落ちていた書物の一つを拾って頁を捲った。

 「そうなると固有空間に連動させて、上手く……稼動範囲を決める? いや、でも……あぁ、そういえば面白そうな呪文が……」
 「面白そうって、あんたねぇ……」
 「問題ない。この場合にこそ役に立つ筈……貴女にも解るように魔法の名前を訳すると、『繋がれた犬』という感じになるわ」
 「い、いぬ?」
 「猫でも可」
 「はぁ?」

 よく解らん。と、霊夢はお手上げとなり、パチュリーが術式を組み込んだシミュレーションを終えるのを本でも読んで大人しく待つ事にした。が、本は全部横書きでミミズが走っているような文字だったので敢え無く撃沈。
 普段ゆっくりな動作しかしない筈のパチュリーが、手を高速で動かして術式と数式の緻密に構成して呪文を構築して行く様を見る方が目に楽しかった。
 程なくしてパチュリーから呼び声が掛かり、仮縫い状態の術を出来映えを眺める。図面を見ただだけではさっぱど解らないが、簡易的なシミュレーションをチェスの駒を使って演じてくれたので解り易かった。

 「ふーん。なるほどね……」

 霊夢はふむふむと何度も頷いて、そうしてまた良い事を思いついたとばかりに、口を端を悪者っぽく上げた。

 「なんだっけ? 犬なんだっけ?」
 「猫でも、鳥でも、鰐でも、猿でも可」
 「テキトーだなぁ。ま、なんでも良いけど。でさ……」

 霊夢はパチュリーの耳元に顔を近づけてこしょこしょと内緒話。
 パチュリーは「むきゅむきゅ?」と頷いて、しかし徐々になんとも言えぬ辟易したような顔へと表情を変化させていった。

 「……本気?」
 「マジ」
 「……はぁ」

 そうして、今日何度目か分からない溜息を吐いたのだった。


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