Coolier - 新生・東方創想話

Fragment

2012/02/15 12:39:32
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【一】
「・・・っあ!」
私の言ったその一言を終わりとして私の身体は地面に倒れた。力を使い果たしたってのもあるだろうが踏みとどまれないような攻撃を被弾したって事のほうが大きい。ちなみにこうやって倒れるのはもう慣れた事だ。おかげで石畳の冷たい感触ももはや暖かさすら感じるようになってきた。まったく慣れたくはないもんだな。
「今日も私の勝ちで終わりみたいね。魔理沙」
 そう私の前に降りてきて言ったのはやたらと改造された巫女服を纏って基本的にぐぅたらしてる博麗霊夢ってやつだ。
「あー負けた負けた。ちったぁ手加減してほしい位だぜ霊夢」
「情けは人の為ならずって言うじゃない。それにあんた手加減したら怒るくせに」
 だから私こと霧雨魔理沙も似たように返してやる。
「ほら手」
「お、サンキュー」
 私が起き上がろうとしていると霊夢が手を差し出してくる。だから私はその手を掴んで立ち上がった。この辺りももう慣れた事だ。



「はいお茶飲むでしょ」
「サンキュー気が利くな」
「いっつも勝手に飲んでくじゃないの」
「そりゃ神社に来たらお茶を飲まなきゃやってられんからな」
「アンタ神社をなんだと」
 縁側で座ってたらお茶を手渡されたので飲むことにした。うんやっぱり戦った後のお茶は美味いな。
「にしてもアンタも毎度毎度ながらよくもまぁ飽きもせず挑んでくるわね」
「なんだよ今更」
「いんや特には・・ただ思い返してみるとあんたとの付き合いも大分長いわねと」
 お茶をまったりと飲んでるとそんな事をぽつりと霊夢から言われた。まぁ確かに思い返してみると付き合いもだいぶ長いといえるかもしれない。元々変な縁から始まって今日まで続いてきたような間柄だったから。
「れ、霊夢の口からそんな過去を振り返る言葉が聞けるなんて!お前まさかもうそんな年r・・イタッ」
 そこまで言った辺りで頭を叩かれた。ちょっとした冗談のつもりなんだがな。
「だれがおばぁさんだ、誰が」
「いたた・・そこまでは言ってないしむしろおばさ・・いやなんでもないですはい」
「わかればいいのよ」
 あの目はやばかった。あれはなんというか弾幕ごっこのルール関係なしに何かに被弾しそうな勢いだったし。これからはこの冗談はやめておこう主に命的な意味で。
「ん」
 そこまで話してから私はふと思った事があった。さてどうしようか?・・などと考えたがそもそも性分として思い立ったら行動してみるってのがあるので帰ろうと思い立ち上がろうとした。
「どうしたの?」
「ん、ちょっと話してて思った事があってさ今日はもう帰るわ」
「え・・今日は夕飯はどうするの?」
「あ・・そういや今日だっけか。んー非常に悪いと思うが今日はパスで」
「そう・・なんだ」
「ホントごめん。埋め合わせはちゃんとするから」
 帰る事を告げると夕飯はどうするのかを聞かれて私は今日がその日だということを忘れていた事に気づいた。が、今はなんとなく思った事を実行したい気分だったのでいくらか考えた後私は霊夢に断りを入れた。
断りを入れたときの霊夢の残念そうな顔はそんな私の行動をすこし非難しているようにも思えてやっぱり残ろうかとも思ったが、私はわざとそれを無視して博麗神社を後にした。

 元々私は理論派というよりは実践派で思い立ったら即行動するというようなスタンスで動いている。まぁそんなだからアリスには計画性が無いとか言われ、パチュリーにはだから盗賊みたいになるのねと呆れられたりする。
 とりあえず家まで帰ってきた私は自室の引き出しに入っている本を全て取り出してベッドに並べてみた。これを出す事が思った事だった。
「ひぃふぅみぃ・・十冊か。我ながらにしてよく書いたもんだな」
 私はその中の一冊を見た。本の装丁は所々禿げボロボロになっていた。それを手に取ってみる。ズッシリとした重さを感じてちょっと驚いたがパラパラとめくってみればびっしりと書き込まれたその文章量で納得できた。これらは私の研究ノート。研究と言っても魔法の事じゃない。じゃあ何かと言うとこれは霊夢と初めて弾幕ごっこをした時から書いている私なりに霊夢の弾幕を研究したことを纏めた物だ。私はそれを初めのページから読み返してみることにした。


『 霊夢と初めて弾幕ごっこをしたのはおそらく紅霧異変の後だったと思う。不確かなのは日記の最初の日付から判断するしかないからだ。でもスペルカードルールが施行されてしばらくしてからレミリアは異変を起こした訳だから時期は間違っていないと思う。霊夢とはそれより前からの付き合いになるが・・まぁその辺りは話がややこしいし私としても恥ずかしい部分を多々含んでるからそこはいいや。
 最初スペルカードル・・あぁもう長いから普通にルールとかにしよう。とりあえずルールが施行された時は驚いた。とりあえずそんなルールの則るやつなんて居るのか?という感じだったから。ただこの命名決闘方ってやつは内容を読んでてすごく面白い戦い方だと思った。特にあの強さだけでなく美しさも必要ってあたりがさ。施行されてすぐ位からちょっとずつやり始めてたまにアリスなんかと弾幕してみたりしてさ。そんなこんなで何日か経った後に霊夢の所に顔を出しにいったんだ。そしたら霊夢が異変解決しに行くとか言うんで私はちょっとした興味本位で一緒についていく事にした。
 ・・・正直驚いた。紅魔舘の面々の弾幕もそうだったけど何よりそれらと対峙しても淡々と回避して自分の弾幕を叩き込む霊夢の姿に。気づいたら霊夢の弾幕に見とれていた。まぁ私自身もパチュリーとか美鈴とかと弾幕してすごい得る物も大きかったけどな。それで異変が解決された後思い切って霊夢に弾幕してくれって頼んでみたんだ。そしたらアイツ今と変わらずめんどくさそうにいいわよとか言って受けてくれたんだ。
 初の霊夢戦は完敗。私もそれなり色々考えてたし紅魔舘の連中にも効いたから良いところまで行けるんじゃないかって思ってさ。でも駄目、全く歯が立たなかった。その日は何も言わずそのまま帰って家で泣いた。それでしばらく泣いた後妙にスッキリしていつか霊夢に勝ちたいと思うようになった。それで私は対霊夢用として研究ノートを書き始めた』

ぐ~
 と、そこまで読み返していたら急に腹の音が聞えた。カーテンを開けて窓の外を見てみる。
「なんとまぁ綺麗な月がってもう夜かよ!?」
 随分と長く読みふけっていたらしい。そりゃ腹も減るはずだ。とりあえず一旦読むのを止めて食事を作る事にした。



【二】
「なんだか随分と眠そうですね魔理沙さん」
「んぁーあぁなんだ小悪魔か。ちょっと昨日は本読んでたらついつい夜更かししちまってさ」
次の日、私は眠い目をこすりつつ紅魔舘に向かった。あそこは借りに行くときは騒がしいものだが普通に客として通るとやたらと静かなもんだ。
どうやら本を読みながら眠りかけていたらしく子悪魔に尋ねられて少し起きた。
「魔道書ですか?」
「ん、違う違う自分の日記みたいなもんかな」
「あら貴女日記なんて書いてたの。随分と乙女ね」
「うるさいな、私が日記とか書いてたらいけないのかよ」
「そういうわけではないわ。ただそういうのは得意な方では無いとは思っていたからね実践派さん」
 茶々を入れてくるパチュリーを軽く無視して本をまた読み始める。けれどふと気になってパチュリー達に聞いてみることにした。
「そう言うってのならお前らは日記とか書くのか?」
「私が?書かないわよ。流石に魔法使いなんてやってると一日一日について書いてられないし、何よりそんな物書いているより魔道書を書いているほうが数倍いいわ」
 これはパチュリーの言。流石魔法使いというべきかもな、まぁ私にはこんな所でじっと本ばっか読んで研究してるのは性に合わないけどさ。
「私は書いてますよ。パチュリー様と契約してからずっと書いてます。流石に毎日ではないですけど」
 微笑ながらそういうのは小悪魔。冊数を聞いてみたが三桁を越えてるらしくもう数えていないらしい。今はこれですと言って持っていた日記帳を見せてくれた。
「へぇ、可愛らしい日記帳だな」
「はい。毎回パチュリー様が選んでくれ・・・あ」
 パチュリーが軽く咳払いをしてきた。心なしかパチュリーの顔が赤いような気もしたがそれは黙っておくことにする。ここまで来るとこの二人がどういう間柄なのかおぼろげにわかってきた。三桁越えでかつ毎回とか相当な仲なんだろうな。その親密さを見ていると胸が辛くなるような気もしたがそんな訳が無い。気のせいだ。
「おやおや随分と仲がよろしいようで」
「!・・魔理沙っ」
「さっきのお返しってやつだよ」
 私は少し意地悪そうな顔を浮かべつつそんな風に言ってやった。予想通りパチュリーの顔は更に赤くなった。
「つーわけで、お邪魔虫な私はとっとと退散するぜ」
 なんか後ろのほうでパチュリーが色々言ってるような気がするが全部聞き流して私は紅魔舘から飛び去った。


「もぅまったくあの泥棒は」
魔理沙が去ったのを見届けてからパチュリーはそう呟いた。
「あはは、でも今日は何にも盗られてませんよ」
 そんなパチュリーを気遣いつつも小悪魔はちょっと自信ありげに答える。そんな小悪魔にパチュリーはため息をつく。
「そもそも今日の魔理沙は「客」として紅魔舘に来たのだから盗っていくわけ無いでしょう」
「え!?あー、そうでしたっけ」
 それを聞いた小悪魔は恥ずかしさからか顔を赤らめた。
「全く・・」
 そういいつつパチュリーは自分が目を向けていた本に視点を戻す。
「(でも今日の魔理沙はどことなくっボーっとしてたようにも見えたわね、何かあったのかしら)」
 一度はそう考え、しかしパチュリーは魔理沙について考えることをやめた。なんであれそれは魔理沙自身の問題であり私には関係の無い話だ。興味のあることはとことんまで追求するが興味がなければどうでもいい、結局パチュリーは魔女としての所以に従うことにした。

『 今日もまた霊夢に負けた。いろいろ頭の中で不慣れな理論とか戦略とか頑張って立てているが悉く打ち破られる。努力を怠った事は一度も無い。元々自分がルールの中においても不利な立場にあるのは理解してる。私は魔法使いだけどアリスやパチュリーみたいに種族として魔法使いになってる訳じゃないから身体能力があいつらと比べて劣ってるし魔力の量だって天と地ほどに差があるのはわかってるんだ。このスペルカードルールってやつは確かに人と妖怪の力の差を均等の位置に持ってきてはいるがその身体能力の差までは埋めることはできない。それに・・それに私が妖怪と戦っても生き残っていられるのはスペルカードのおかげだという事も知ってる。スペルカードがなけりゃたぶん私は美鈴にすら負けているだろう。実際赤霧異変の時も何度かそういう事を考えたことはあったし。でも私はそれを思い知らされるのが嫌だから今まであまり考えないようにしてきたのに・・・ちくしょう!流石にこうも負けが続くとその辺りを嫌でも考えさせられてしまう。・・・・・・とりあえず今日はここまでにしよう・・続きはまた明日』

 そこまで読んで私は本を閉じた。なんというかあの時の苦悩を思い出してちょっとこの後を読む気になれなくなったから。そのままベッドに横になる。
 あの当時の私はそうとう苦悩したはずだ。昔も今も努力によって越えられないものはほとんどないと考えているからあの時の努力を重ねても何も変わらず時間だけが過ぎるってのは自分の無力感を嫌というほどに思い知らされた。正直何度かもうやめようか迷ったりもした。
「だけど・・あの時あきらめてたら今の私はここに存在できなかったはずだぜ」
 弾幕の楽しさを実感し始めたのもこの後々位だった。それにあきらめてたらこの思いにも気づけなかっただろうし。
そんな事を考えてると眠くなってきた。いいや、今日はとっとと寝て明日また続きを読もうと思う。おやすみなさいわたし。


【三】
『 今日ってか昨日は宴会の日だった。また夜頃に人妖問わずワイワイガヤガヤ日付が変わっても騒いだ。宴会って楽しいなとつくづく思う。異変を解決していく度に宴会に参加するやつらが増えてきて段々賑やかになっていくのは楽しい。昨日なんて理由は知らないがアリスとパチュリーが飲み比べやってやがった。二人ともそんなに酒が強いほうでもないっていうのにじゃんじゃん飲んでくから周りもけっこう囃し立ててたな。まぁ顔の色が赤から青に変わる前に(というかその前からだったような気もするが)ドクターストップとか言うのがかかって終わったけどな。霊夢との弾幕はあいも変わらず私の連敗記録が更新中だ。一時は大分落ち込んだ事もあったけど今はなんていうか吹っ切れた気がする。まぁ吹っ切れた要因の一つに妖夢と話した事なんかもあるな。あいつはなんか自分の師匠とかいう人に追いつけるように日夜鍛錬をしてるんだとか言ってた。多分あの弾幕においての動きの速さはあいつの鍛錬の賜物ってやつなんだろう。私の方がまだ速いけどな。そん時の私は色々迷ってた。その内ついぽろっと自分の心中を妖夢に話始めてた。今から考えるとけっこう恥ずかしい。
でも私的にも誰かに話してみたかったのかもしれない。結構行き詰ってたからな。
 私が話してる間妖夢は静かに聞いていた。それこそ相槌の一つも無しでだ。そして私が話し終わった後ゆっくりと自分の事について語り始めた。妖夢の話を聞いてる内に私と妖夢は少し似てるなと思った。なんていうか私たちは越えたい或いは追いつきたい大きな目標があって未だそこに辿り着いていないってあたりが。違ってる事といえば私は今は迷ってて妖夢は今でも努力を続けている事だろう。私は妖夢に「同じ努力を続ける事に意味はあるのか」と聞いてみた。そしたら「それが例え徒労に終わるとしても同じ事をしてはいけない訳では無い。だからその努力は決して意味が無いなんて事は無い」と返してきた。結局それを終いにして宴会は終わりを告げた訳だがあの言葉は今こうやって日記を書き記している間も私の中に刻み付けられている。今日は久々にすがすがしい気分で寝れそうだ』

 我ながらにして思うことが一つ。よく書けたなぁと。記憶があまり定かではない(妖夢の話だけははっきり覚えている)のだがそれでも私も相当飲んでいた筈だ。だいたい宴会が終わると酔いつぶれてるやつらの惨状にはひどいものがある。何人かは別の誰かに介抱されつつ帰っていったり、また何人かはそばで吐いてたり、或いは明らかに酔ってる筈なのに平常時とほとんど変わらない仕草で帰っていくやつなんかも居る。私は基本的にベロンベロンに酔っ払って神社で横になってそのまま泊ってったりする方が多いからこの日記を書いた日はレアケースと言えるだろう。それだけ妖夢との話し合いで興奮したのかもしれなかった。
 などと考えつつ窓を開けてみた。開けた直後日差しが私の視界を攻撃してきた。
「うぉ、眩しっ」
 空は快晴だった。今日も飛ぶには絶好の日だろう。とりあえず眩しいので日光をカーテンで遮る。それから出かける為に身支度を整える。今日は特に何処に行こうかとかは考えていないので適当にぶらついてみよう。そう思うと私は箒に跨って空へと飛び上がった。

「あ、魔理沙さんじゃないですか」
 飛行中かけられた声の方向を見ると友人の一人の東風谷早苗が居た。
「おぅ、早苗じゃないか。ちわー」
「何ですかそれ・・ち、ちわー」
 手をヒラヒラさせてそれに応えてやると苦笑しつつ早苗も同じ行動を返してきた。
「ん、その袋なんだ?」
「あぁこれですか。さっきまで里の方で色々買い物をしていたもので」
「にしても・・・けっこう買ったんだな」
 早苗の腕には確かに買い物袋の容量を超えた量の野菜やらなにやらがたっぷりと入っていた。心なしか重たそうだ。
「買ったのは少しなんですけど色々サービスしてもらっちゃいまして」
 えへへと早苗を頭を掻く。
「けっこう重そうだな・・・手伝うか?」
「え、いえいえこの位なんとかなりますから大丈夫ですって」
 私の申し出をそんなとんでもないと言ったような顔で早苗は断った。しかしたいしたことないアピールをしているがもはや頼もしさより重さに振り回されているような印象しか受けなかった。なので私はちょっとだけスピードを上げると早苗から買い物袋を半ば強引に引ったくった。
「あ、ちょ魔理沙さん」
「まぁいいだろ。私としても重さに振り回されてるような姿は見てられないからな」
「いやそれはそうなんですが・・ってちょっと待っ」
 私は更にスピードを上げて神社に向かうことにした。なんか後ろの方で待ってとか豆腐がやばいですよとか聞えた気がしたがまぁ気のせいだろ。

「お茶が入りましたよー」
「お、サンキュー」
 私は早苗からお茶を受け取ると一口飲んで一息ついた。
「ふぃー生き返るー」
 そう言って私はごろんと横になる。床の冷たさが今の私には気持ちよく思えた。
「でも助かりました。ありがとうございます」
「礼なんていいっての」
「いやでも魔理沙さん何処かに行く途中とかだったんじゃないですか?例えば・・霊夢さんの所とか」
「ど、どうしてわざわざそこで霊夢の名前を持ってくるかなぁ・・いや特に行く当てはなかったんだけど」
 またお茶を啜る。やっぱりお茶ってうまいなぁなんて思っていると・・
「正直な話霊夢さんとはどこまで進んだんですか?」
 私は勢い良く飲んでいたお茶を早苗に向かって吹きだした。
「へぶっ」
 妙な声を上げてのけぞる早苗。赤面する私。端から見れば異様な光景だがそんな事はどうでもいい。
「お、おまっ、いきなり何言ってやがるんだ!」
「むしろいきなり何するんですか!不意打ちでスペカ発動ですかマス茶―スパークとかそんなのですか!」
 私が早苗に言ってるのかと思ったら私の方が圧倒されていた。というかマス茶―スパークってなんだよ。
「う・・まぁなんだその落ち着こう」

【少女沈静中】


「「すみませんでした」」

 あのままだと話の終わりが見えなくなりそうだったので互いに落ち着くことにした。その間に早苗は顔を洗ってきて、私は床を拭いていた。
そしてややあって互いに謝った。

「まぁその悪かったな。あまりに予想外の事言われてつい、な」
「私も状況的にあれじゃ吹かれても仕方なかったですね」
「にしてもマス茶―スパークって・・くっくっく」
「そ、それはもう忘れてください」

「でもその様子だと特に何も進展ないみたいですね」
「進展って言われてもな・・」
 ちょっと拍子抜けした様な顔で早苗は言った。その物言いにちょっとだけムッとしたが事実は事実だし仕方ない。
「あぁそういえば魔理沙さんが勝ったら霊夢さんに」
「わーわーちょっとそこでストップ」
 慌てて早苗の会話を止める。
「おまえ、これ誰かに聞かれたら・・」
「神奈子様も諏訪子様も今は出かけていらっしゃるのでその心配はご無用ですよ」
「そうかそれなら・・いやいやよくないよくない」
 誰も居ないから大丈夫という早苗につい頷きそうになったがハッとして首を横に振った。
「ふふ、顔が赤いですよ」
「早苗な、他人事だと思って」
「いや、だって魔理沙さんが勝ったら霊夢さんに告白するんですよねーって聞こうとしただけじゃないですか。そんなに赤面するなんてやっぱり魔理沙さんも乙女なんですね」
 そう言っておかしそうに笑う早苗。
 駄目だ。弾幕じゃどうとでもなるがこっち方面の話だとてんで私は弱くなる。特に早苗には勝てる気がしない。そもそも私が霊夢に抱いた感情を恋だと気づかせてくれたのが早苗なのだから勝てる要素なんて何処にもなかった。
「うるせぃ」
 私はぷいと横を向いた。我ながらにして子供っぽいとは思ったが恥ずかしいんだから仕方が無い。
「っていうかじゃあ早苗のほうはどうなんだよ」
「え、私ですか?」
「そうそう。確か文と付き合ってるんだろ?そっちこそ進展とか無いのかよ~」
 あんまりからかわれてるのも癪なのでちょっと反撃に出てみることにした。
「あはは、こっちは進展というかなんというか。というか文さんがちょっと恥ずかしがりやな部分もありまして・・あ、でもちゃんと良好な関係でお付き合いさせてもらってますよ」
 いわゆる普通の当たり障りない返事されたが少なくとも今の私が同じようなことを言えるようになるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。



「それにしても改めて思いますけど」
「ん?」
「よくそんな目標を自分に課すことにしましたね」
「あぁそれか・・やっぱり元々の目的はアレだったからな。それを達成してこそようやく言える踏ん切りがつくんじゃないかなと。早苗からしても無理な目標だと思うか?」
「んー難しい所ですね。そもそも私にはあの人に勝てる気がしませんからアドバイスを挙げられるわけではないですし・・・でも絶対に勝てないかと言われればそんな事は無いと思うんですよね。実際魔理沙さんも何度か霊夢さんに勝てそうな時があったと言ってましたし」
「言ってた?誰が?」
 思わず聞き返した。いったい誰が言っんだ。そう言うと早苗は周囲をきょろきょろと見回した後こっそりと耳打ちしてきた。
「本当は内緒なんですが実は文さんが以前から何度かお二人の弾幕を拝見していたらしくその時にそう思ったらしいです。あ、これ文さんには内緒ですからね」
「そっか・・・文がそんなこと。絶対と決まった訳ではないのなら私にもまだチャンスはあるって事だよな」
 正直文がそういう風に評価をしていたことに驚いたし何度か見られていた事は恥ずかしかったがその評価は私に気力を与えてくれた。
「そうですよ!もっとポジティブに考えましょうよ」
「だな!・・うっし」
 私は立ち上がった。
「あれ、何かありました?」
「ちょっと霊夢のとこ行ってくる」
「おぉ遂に告h」
「それはいいから」
 私は神社の境内で箒に乗る。
「それじゃ行くわ。色々とありがとな」
「魔理沙さんっファイトです」
 早苗からの応援に私は大きくガッツポーズで応えながら守矢神社を後にした。




「はぁ魔理沙さんも大変ですねぇ・・」
 魔理沙が次第に小さく遠くなっていくのを見ながら誰に聞かせるでもなく早苗はそう呟いた。
 早苗が魔理沙から相談を受けたのは自身たちが幻想郷に対する挨拶も兼ねて起こした異変が終わった数週間後だった。魔理沙は最初自分がどういう状態にあるかというのがいまいちわからなかった。なので詳しく聞いた所早苗にはどうやら魔理沙が恋煩いを起こしているという結論に至った。
「でも魔理沙さんらしいと言えばそうなんでしょうね」
 はぁーと息を吐く。
「そりゃ、あの人間はそういう性分の方ですからねぇ」
「やっぱりそうですか?」
「そりゃ、見てて気持ち悪い位真っ直ぐですから」
「気持ち悪いって・・・あ、あれ?」
 そこまで言いかけて早苗はこれはおかしいと思った。独り言の筈がいつの間にか会話になっている。早苗は恐る恐る後ろを見た。
「どうしました早苗さん?そんな、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして。それはともかくとしてやはり独り言をつらつらと声に出して話していると危ない人だと思われますよ?」
 そこには早苗のよく知る、もはや早苗のパートナーと言っても過言ではない人物、射命丸文が立っていた。
「あ、文さん」
「はい、あなたのパートナーにして最愛の伴侶の文ですよ?」
そんな事をこともなげに言い出す文。だが聞きたいのはそこではない。知りたいことを恐る恐る聞いてみる。
「あの・・いつから居たんですか?」
「何をそんなにおびえてらっしゃるのかは知りませんが少し前に仕事の方が終わりましてこちらに戻って来た時にちょうど早苗さんが魔理沙さんを見送っている現場に遭遇しましてね」
「それならすぐに声をかけてくださればよかったのに」
「ちょっとした悪戯心が働きましてね」
 そう言って背中の羽を揺らす。
「でもまぁ次回からそうしますね・・・・とはいえ」
「?」
「ま、マス、マス茶―スパークというネーミングは流石にどうかと思いますよ・・ふふ」
 言い切った直後に笑い出す文。それを聞いた瞬間早苗の顔は恥ずかしさに赤くなった。
「最初からじゃないですか!!」
「いえね・・ふふ・・私としても早苗さんの事を考えたら・・くくく・・言わないでいたほうがいいかと思ったんですが・・あぁすいませんこれ以上は笑っちゃいます」
 笑いをこらえつつどうにか釈明しだした文だがどうにも堪えきれなくなって吹きだした。
「あ・・・」
 早苗は羞恥で顔を真っ赤にする以外何も出来なかった。


余談だが後日この件を文は自分の新聞にて載せた事によって早苗に弾幕的な意味で逆襲されることになるがそれは別の話である。



【四】
『霊夢の強さを調査する為という目的でしばらく泊めてくれと霊夢に頼みに行った私はなんなんだろうな。まぁそれを了承した霊夢もなんなんだか。
私がそういう考えに至ったのは少し前にいっそ発想を変えてみるかと思ったからだ。夜が終わらない異変の時に私はアリスと一緒に異変を解決しに行った時に霊夢と弾幕をすることになった。霊夢自体には(こっちが二人だったからというのもあるが)勝ったがそこで私は月を背景に戦う霊夢の姿に少し見とれていた。私は霊夢との弾幕を続けていく内に霊夢のその強さの元を知りたくなってきた。簡単には霊夢の見ている物に興味が湧いてきたんだ。でも私は霊夢と同じ場所に自分が立ってるとは思えなかった。だからそれなら霊夢の側で霊夢を見ていたいと思ったんだよ。
了承されて数週間程経つが霊夢について色々とわかってきた。霊夢の強さについてはよくわからんが今まで関心が無かったあいつをとりまく環境ってのがなんとなくわかってきたと思う。
・・・アイツも苦労してきたんだなと思う。普段からお茶飲んでぐうたらしてるだけの巫女かと思ってたが意外と(これは失礼か?)綺麗好きだったしぐうたらって程ぐうたらでもなかった。少なくとも私よりはしっかりした生活をしてると言える。
 ちなみに霊夢はここ最近妙に調子がいい。時期的には私が定期的な泊まりこみを頼みに行ってからだ。何かあったのかと一度聞いてみたりはしたが明確な返事は無くてはぐらかされてる。ま、霊夢の事だから何かしらあったんだろ。とりあえず霊夢のことはこの位でいい。問題は私だ。
 霊夢とは正反対に最近私は調子が悪い。見た目に表れるほどに不調という事ではなくむしろ内面的なものだという事はわかっているんだが原因が不明だ。この不調は私が霊夢と接してる時にたまに起きるというのは最近わかった。霊夢に風邪でも移されたかと思ったが自分の家に帰ると不調は嘘のようになくなるので訳がわからない。いったい私はどうしたんだ?』


 全速力で神社に行こうとして、私はこの前の気まずい別れ方を思い出した。このまま神社に行っても結局気まずいままだ・・・そう判断した私は人里に向かった。
 人里に来たのは霊夢の贔屓にしている菓子屋に向かう為だ。卑怯な手だとは思ったが私は物で釣る作戦に出た。
 その菓子屋は大通りに店を構えている。結構な老舗らしく実際私が子供の頃にもあった気がする。霊夢曰く「ここの饅頭はもっちりとした食感でかつ程よい甘みで絶品なのよ~私もたまに少ない賽銭をはたいてついつい買っちゃうのよねぇって何言わせんのよ馬鹿」だそうだ。後半がどう見てもとばっちりだ。
「いらっしゃいませー」
 暖簾をくぐると店員が快く出迎えてくれる。店内には菓子を見ている客がちらほらと居た。
「たしかこの辺りに・・・」
「そこの方ちょっとすまないがそこの菓子折りを取ってはいただけないだろうか」
「これか?って」
「おや、どこかで見た顔だなと思えば霧雨じゃないか」

 菓子を探していると見知った相手に声をかけられた。
「あ、なんだ慧音か」
「む、なんだとはなんだ」
 そこには腕を組んだ慧音先生こと上白沢慧音が居た。
「悪い悪い・・・ってか苗字で呼ぶなよ。私には魔理沙って名前があるんだから」
「あぁそうだったな。悪かったな魔理沙」
 深々と頭を下げてくる慧音に私は慌てて顔をあげるように言った。先生なんてやってるからなのか生来の物なのかはわからないがコイツは真面目すぎる。私には真似できないな。とりあえず話を戻そう。
「慧音もここの菓子を買いに来たのか?」
「先日ふと思ったので買いにな」
「ありがとうございましたーまたどうぞ」
 私たちはそれぞれに買い物を済ませた後店から出た。
「なぁ魔理沙今暇か?」
「んぁ?」
「いや、暇なら茶でも飲んでいかないかと思っただけだが」
 店を出た直後に慧音からそんな風に誘いがあった。まだ霊夢に会う心構えが完全に出来ていなかった私はその誘いにありがたく誘われることにした。
「まぁ適当に座っていてくれ。今お茶でも運んでくるから」
「ん」
 慧音に案内されてやってきたのは慧音の家。家自体が大きく見えるがそれは半分が寺子屋の教室となっているからだろう。慧音曰く「その方が効率がいいだろ」との事だ。今、私は慧音の家の居間に座って茶を待っている。室内を見回してみた。慧音が几帳面な性格だという事を加味しても随分と整頓されている気がする。少なくとも私の家とはえらい違いだ。

「どうした、そんなにきょろきょろして」
 慧音がお盆を持って居間に戻ってきた。そしてお盆に載せていたお茶菓子とお茶を机に置いていく。私と慧音はお茶を飲んで一息つくことにした。お茶を飲んで茶菓子を一つつまむ。
「あれ、これさっき買ったやつじゃないか。自分用に買ったって言うのに早速振舞っていいのか?」
 私が今しがた食べたそれはさっき慧音が店で買っていたやつだった。そう言うと慧音は
「ん・・まぁ茶菓子は茶菓子だ。これが本来の用途というものだろう。だから気にすることはない」
 と言った。
「それよりもだ」
 そんな事は気にするなと言わんばかりに話を変えてきた。
「付き合せてすまなかった。だがお前は急いでいたんじゃなかったのか?」
「あ・・いやうん、確かにそうなんだけど」
「どうした?」

 私は慧音にどう言えばいいか答えあぐねていた。端から見ればあのやりとりは喧嘩で済ませられるかもしれないが私にとっては相手が相手だけにただ喧嘩で片付けられる物では無いからだ。
「?」
 ちらりとバレない程度に様子を伺えば慧音が怪訝な顔でこちらを見ていた。このままはマズイ・・
「あ、いや実は霊夢とちょっと喧嘩しちゃってさ」
「それで伺いづらいと?」
「そうそう。まぁたいした喧嘩ではないんだけどさ」
 このまま黙り続けるのは無理だ・・・そう思った私はひとまず喧嘩という事でごまかした。
「そうか・・・ふむ」
 まだ腑に落ちない所があるのか慧音は黙り込んで考え始めた。・・・すくなくとも嘘は言っていない。とはいえこのままここに居ればぽろっと言い出してしまうかもしれない。私は慧音の家を後にしようと立ち上がった。
「待て魔理沙」
 挨拶もそこそこに去ろうとしていたが慧音に呼び止められた。そしてまた座らされた。
「な、なんだよ」
「なぁ魔理沙。私はこれでも里で先生を勤めている。私が教える子供達も居てそれぞれがそれぞれ色んな事を考えて勉学に励んでいるんだ」
 座っていきなりそんな事を語り始めた。
「慧音、私そろそろ」
「そう言わず聞け。・・・それでだ、私は先生として子供達が勉学に励めるように色々と考えてやる必要があるんだ。その為に子供たちの悩み等を聞いていたりするから大半の悩み事には強いんだ」
「何が言いたいんだよ」
 慧音は何を言いたいんだ?いや、実際には次に慧音が何を言い出すのかはある程度検討はついていた。

「気心の知れた友人の家に菓子折りを持って謝りに行くなんて何処の誰がするというんだ。本当は喧嘩じゃない或いは喧嘩は何かの延長線上に起きた事で本当は別に何かあるんじゃないのか?」
 言葉が出なかった。正直驚いた。私は一度も慧音に事情を言ったりしてないのに慧音はこの短時間でここまで核心に近い所を突いてくる。
「話したくなければこれ以上の詮索はしない。だけどな、話すことによって楽になれる事もあるから私はいつでも話しは聞くぞ?」
 私は慧音に今抱えてる悩みを話す事にした。

【少女説明中】

「はははは」
 私は包み隠さず自分の悩みを全てを話してみた。そしたら今目の前で盛大に笑われた。なんだそれ・・・こっちは結構真面目に話したってのに
「はは、いやすまない。ただどんな悩みだろうと心構えをしていたんだが・・その・・予想の上だったものでつい・・ふふ」
 慧音はしばらくそうして笑って居たがややあってから落ち着きを取り戻した。
「・・つまり魔理沙は霊夢の事が好きで先日霊夢とちょっとしたトラブルを起こして顔を会わせづらいと。ここまではいいか?」
 私は慧音に頷き返した。
「そうか・・・正直に言っていいか?」
「あぁ、何でも言ってくれよ」
私がそう言うと慧音はやや唸った後きっぱりと言ってきた。
「下らない知恵入れてないでとっとと謝りに行ってこい。少なくともお前の考えたやり方では余りに余所余所しくて謝ろうが謝らなかろうが同じ結果になるだけだぞ」
 え・・・
 私が何も言い出せないで居るのをどう受け取ったのか知らないが慧音は更に言葉を紡ぐ。
「別に恋愛に対し奥手だとかそういうのは別に構わんさ。けれど、その謝り方は間違ってる。だいたい霊夢にしたってお前がそんな余所余所しい方法で謝りに来られてどう思うと思っているんだ。似合わない事はそうそうするものでもないぞ」
 ちょっと傷ついた。視界が滲んだ。泣いてるのかもしれない。
「に、似合わないってなぁ・・そりゃ私だってこんなの柄じゃねぇよ。けど・・・けど・・」
 不意に視界が真っ暗になった。次いでなんだかやわらかい感触。
「強く言い過ぎたようだな・・すまない」
 頭の上の方から慧音の声が聞えた。どうやら私は慧音に抱き締められているらしい。なんだか心地よかった。
「魔理沙は霊夢の友人なんだろう?」
「うん」
 慧音は優しく諭すように私に語りかけてきた。私は頷いた。
「そしてそれは霊夢からしても同じだと思う。・・なぁ魔理沙、もしお前が霊夢と喧嘩して、後日が霊夢が菓子折りでも携えてまるで他人行儀な振る舞いで謝りに来たらどう思う?」
 それは・・嫌だ。そんな状況を作るのも嫌だ。好きな相手にそんな事されたら私は・・正常でいられるんだろうか・・
「嫌だ」
「ならそれは霊夢側でも言える事なんじゃないか?」
あ・・
「わかってもらえたか?」
一気に頭がはっきりとしてきた。「自分がされて嫌な事を人にしない」・・つまりはそういうことだった。
「・・あぁ」
「そうか。それが言いたかっただけなんだ」
 私は慧音から離れた。自分の袖で涙を拭う。私はもう大丈夫だ。


 外に出てみるとやや日が傾き始めていた。もう少しすれば夕方になりやがて夜になるだろう。視界は鮮明だが浮ついてる感は否めないので夜に飛ぶのは避けたかった。
「随分長く引き留めてしまったようだな」
「おっと、謝るのは無しだぜ」
 謝ろうとする慧音を手で制す。そのまま私は箒に跨った。
「むしろ色々悪いな、主にその服とか」
 慧音の服は私が泣いていた事もあって湿っていた。涙で染みた服の着心地は良いとはいえないだろう。それ以外にも悩みの相談に乗ってくれたというのもあってむしろ謝るのはこっちだろう。
「服は洗えば問題ない。なかなか有意義な時間を過ごせたよ。それよりもう大丈夫か?」
「あぁ、おかげでな」
 迷いなんてものはもう無かった。頭の中のモヤモヤが無くなるっていうのはやっぱりいいな。
 とは言えそろそろ話している訳にもいかんだろう。そう思い私はそっと地面を蹴る。速度は遅めにし、ゆっくりと上昇していく。
「じゃ、行って来るわ」
「あぁ言って来い」

それを合図にし私は上昇速度を速めた。それに伴い風が巻き上がる。そして私は勢い良く飛びだした。
「    」
 飛び去る直後慧音が何かを言っていたような気がした・・


「慧音ーっておわっ」
 魔理沙が飛び去る直後に下で聞き覚えのある声が聞えた慧音は魔理沙の飛ぶ姿を見上げるのを止めて視線をそちらに向けた。
「あの黒白・・もう少し周りを見とけっての、いたた」
 そこには慧音の数少ない友人の一人であるもこた・・もとい藤原妹紅が尻餅を付いていた。
「今もこたんって言おうとしたろ」
「何を言ってるんだ?」
 とりあえず立たせないと話が進まない・・そう考えた慧音は妹紅に手を貸すと立ち上がらせた。
「ありがと慧音」
「どういたしまして」
「そういやアイツ慧音の家から出てきたけど何かあったのか」
「ん・・ちょっとな」
 慧音は少しはぐらかして答えた。元より言うつもりなど無いのだから。
「まぁそんな事よりもだ。今日例の菓子屋に言って茶菓子を買ったんだが少し多めに買いすぎてしまったみたいでな。」
「そんなに大量に?太るぞ慧音」
「む、失礼な」
「あーちょっとした冗談だからその・・頭突きは勘弁」
 慧音が頭突きの初期動作に入るのが見えたので慌てて謝罪する。流石にあの頭突きは勘弁願いたい。
「あーでもそうなるとなぁ・・」
「ん?・・そういえば妹紅後ろ手に何を隠しているんだ?」
 妹紅の隠した物を覗き込むような形で慧音が尋ねる。
「いやなんていうか、実は」
 そう言ってやや遠慮がちに持っていた物を出すとそれは果たして同じ菓子であった。
「妹紅これは?」
「ちょっと私もそういえばあそこの菓子最近食べてないし買おうかなーどうせだったら慧音と一緒に食べようかなーと思ってさ」
「そうだったのか」
「あー・・・でも要らなかったかなこれだったら。元々一人で食べるようだったわけだし・・」
 寂しそうな表情を浮かべる妹紅を見て慧音は意図を知る。そして思わず顔がほころぶ。
「あ、いやそんなことはない。嬉しいよ妹紅」
「あ、そう?そっか。や、まぁ私としても一人で食べるよりは慧音と食べる方が嬉しいし」
 照れ隠しのつもりかそっぽを向いて妹紅は言う。
「それならばこんな所で話しているよりとっとと家の中に入らないか?」
「そうだなー」
 妹紅が家の中に入っていく。慧音も後に続こうとするが途中で空を見上げて既に飛んで言った恋する少女に小さくエールを送
った。
「(・・・まぁ両人共に似た想いを抱えてるのならそう難しい問題でもないだろう)」






【5】
『 今日は重大発表を書く事にする。今まで霊夢への思いとか、弾幕研究とかひたすらに十冊近く書いていたこの日記。唐突だが今日で終わりにする。ここんとこ近くで霊夢を見ていて思ったんだ。最近の私の不調は霊夢と居るからなんじゃないかって。まぁそこまではいいんだけど「実は霊夢と居ると不調になるんだ私」とか本人に面と向かって言えんのか?言えないだろ普通。私は言えない。そんなこんなで色々迷っていた私はアイツに話を聞いてみる事にした。この前妖怪の山の頂上にいきなり現れた神社、そこの巫女である早苗にだ。聞いた話では外の世界から来たとからしく、そんなのなら今の私のこの不調についても何かわかるんじゃないかと(ちなみに早苗の所に行く前に永琳の所には寄ってみたがその病気は治せないってのと病ではあるけれど病気ではないという二つのよくわからんアドバイスをされた)。
 結論から言えば確かに病ではあったけど病気じゃなかった。早苗は私の話を聞くなり「それはあれですLOVEですよ、恋ってやつですよ」と鼻息荒く言った。そこで私は気づいた。自分が霊夢に対して友情以上の感情を抱いていた事に。ってか文字で書くとすごい恥ずかしいな「友情以上の感情」とか。
 あの時はそれを実感してしばらく悶えていたが今は心の整理をつけている。と言っても完全にではなくある程度なんだけどな。
 まぁ、そんな訳で私は私の本当にやりたい事っていうのを見つけたから今日で日記はお終い。もしかしたら未来の自分がこれを見返すかもしれんから今の私がひとつ言っておいてやる。
 未来の私がまだ霊夢に勝ってないなら、それでもあきらめてないならお前の進んでる方向は間違ってなんかいない。だから迷うんじゃねぇ。今の私が未来の私であり、未来の私が色々苦悩した過去が私なんだから間違いなんてあるはずもない。
 だってそうだろ?
【私は霊夢が好き】
なんだからな!』


博麗神社に降り立った時、日はとうに暮れていて私は一瞬賽銭箱の前に居る人影が霊夢だとは気付かなかった。

「随分遅かったじゃないの」
「え、あ、あぁごめん」

 ここに来て私は自分の短所の一つを思い出してしまった。私は自分自身の事に集中しすぎて今日という日が泊まる日だという事をすっかり忘れていた。

「昼ごろから色々準備してたのも無駄になっちゃったわ」
「その・・・ごめん」
 何やってんだ私は。霊夢の表情が見えない。いや見たくない。でも何か見えてくる。霊夢は私に背を向けているはずなのに。
・・なんか今の今になって感情の堰が決壊しそうになる。あれ・・おかしいなあれだけ慧音の所で泣いたってのになんか私はまた・・


「とまぁちょっとからかって見たわけなんだけど、どう?これでこれからはあんまり遅れないように・・・・ってま、魔理沙?魔理沙?どうしたの?え、ちょ魔理沙ってば」
「なん・・でも・・ない・グス」
「なんでもないってあんたそれ」
「大丈・・夫だから」

 大丈夫・・・なんて言ってみるけど涙は一向に止まらなくて・・なんかもう何があって泣いてるのかもよくわからなくなって、好きな人の前ではあんま恥ずかしい所見せたくないんだけどな・・なんて思ったりして

「魔理沙」

 温かくて優しい感触
 一瞬涙が止まる。
 何が起きたのかわからない。

「魔理沙」

 あぁ・・でも一つだけ
 今霊夢に抱き締められてる事だけはわかった。





【6】
 どの位長い間そうしていたのか分からない。いやもしかしたら一分も経ってないのかもしれない。でも私にはそれが長い時間の様に感じられた。

「落ち着いた?」

 頭の上から霊夢の声がかけられる。もうこの時にはさっきより幾分かはマシになってて、むしろ私と霊夢は同じ位の身長なのに上から霊夢の声がするのはなんでなのか・・なんて事を考えてたりした。

「あぁ」
「よかった」
「ごめん」
「別にいいのよ。私の方こそちょっとからかうつもりだったのにごめんね?」
「いや、いいんだ。というかこの前あんな風になっちゃったからさ」
「この前・・あぁ。ふふ、魔理沙にだって用事の一つや二つある訳だしそんなに気にしてないわよ・・・ってもしかしてそれ気にして?」
「よかった・・」

 抱き締められる腕の力が強まるのを感じた。私もそっと抱き締める力を強める。

「もう、大丈夫」

 それからしばらくして私は霊夢から離れた。改めて流した涙の惨状を見る。

「あー・・なんか別の意味でごめん」
「うわ、アンタ結構泣いたわね」

 霊夢の服は私が流した涙でベットベトになっていた。これは罪悪感出る。

「てか、アンタその顔・・ぷっくくく」
「え?」
「いやなんでもな・・ふふ・・あはは」
「お、おい。何笑ってんだ」
「いやだって・・なんか色々台無しになりそうな顔して・・あー駄目だこれ。ちょっとだけ笑ってもいい?」
「はぁ!?ちょ、ちょっと待て」
 私は袖で自分の顔をごしごしと拭う。そんな変な顔してんのか私は?

「あはは」
「おい、霊夢もう笑うなって。・・・もしかしてまだ変な顔してんのか私は!?」
「いやいやそうじゃなくてね」
「?」
「いやね、さっきまでどんよりムードだったってのにちょっと経ったらもうなんか笑えてるってのがね」

 そういえばそうだな。ほんの少し前まであんなに泣いてたのに、もういつもみたいになってやがる。

「そうかもな。ははっ」
 
私も思わず笑い出す。

「うん、それでこそいつもの魔理沙ね」
「いつものってなんだよ。あれか?能天気で馬鹿っぽく笑ってるのがいつもの私って事かぁ?」
「よくわかっていらっしゃることで」
「ってかだいたいな、そもそも霊夢があんな所で普段まずありえないようなしおらしさを見せやがるからな」
「ちょっとそれは聞き捨てならないわね。何よ?普段の私はろくに期待もできない賽銭が入るのを日がな一日待ちながらぐうたらしてるのが私だとでも」
「よくわかっていらっしゃることで」
「あんたねぇ」
「なんだよ」


「「ぷっ・・・」」
「あははは」
「ははは」

 そうこれだ。どんだけの事があろうとちょっとした事で直ぐに笑いあえる。これも霊夢を好きなった内の一つか?
 そこでふと気付く、私は前より自然に好きって言葉を言えてる気がする(まぁ当人に対して言えるって訳じゃあないが)。
 そうだよな・・・過去の私が日記に書いた通り私は間違ってなんかいないんだ。

「さて、このまま二人で笑い合ってたらあっという間に時間が過ぎちゃうわ、簡単に何か作るからあがってって」
 そう言って霊夢はくるりと背を向け神社に向かっていく。
 今なら言えるんじゃないか・・そう思って私は声をかけようとする。しかしそれをすんでの所で止めたのもまた私だった。今告白しちゃうことも出来るけど・・私には私らしい方法ってのがあるからやっぱり今は言えない。
 いつかは霊夢に勝って、

「どしたの魔理沙」

私は言えるのだろうか?この思いを?

「え、いやなんでもないぜ」

 今はまだなんとも言えない、けれどいつか絶対越えてみせる。

「?」
「ほら早く行こうぜ。もう私お腹ペコペコでさ」

 私は霊夢の手を取って歩き出した。

「ちょっと魔理沙っ。作るのは私なんだから・・ふふ」

 霊夢・・見てろ、いつかお前に勝って、その時に自信を持ってお前に伝えるからな。

 好きだってな!




【終】













【霊夢sideが新たに選択できるようになりました!】
お初お目にかかります。
某SNSでせかされたりせかせれてなかったりでどうにか書き上げた物を投稿させていただきます。

純粋にレイマリで一本いつか書いてみたいなって思っていたんですよ。まぁみたいな・・って思いながら一年位何もしてなかった訳ですが。
色々初投稿故に拙い部分もあるかもしれませんので、もしよろしかったら改善点や感想などを頂けると助かります。


一番下のメッセージはどこかのゲーム風に。こうすれば自分の中で直ぐに次を作ってやるぞって気になるじゃないですか?


3/17現在 執筆中。三月中は・・・どうだろ
零音
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コメント



0.570簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
良い
2.100名前が無い程度の能力削除
レイマリひゃっほーう!
男勝りで格好良い魔理沙もいいけど、乙女魔理沙は素晴らしい。
それを再認識させてくれるマッタリとしたお話でした。b

それにしても、霊夢さん既にデレデレじゃないですかヤダー
3.100名前が無い程度の能力削除
これだから魔理沙はかわいいんだぜ!
霊夢サイドも気になります。
5.90奇声を発する程度の能力削除
とても良いお話でした
6.100名前が正体不明である程度の能力削除
創想話にようこそ!
次回も期待していいかな?
11.無評価零音削除
>2 感想ありがとうです



>3 今日から霊夢サイドはじっくりと作って行こうかなと


>6 期待されたからには応えてやらにゃあなんとやら、大丈夫だ問題ない
12.100名前が無い程度の能力削除
見事なレイマリ
次にも期待
17.100名前が無い程度の能力削除
どっちもかわいすぎるレイマリ最高ですな