Coolier - 新生・東方創想話

ヤマメちゃん大学生になる5

2012/02/06 12:33:19
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「いらっしゃいませー」
「アイコー1こ」
「はーい、アイスコーヒー1つでーす」

入店と同時に注文を済ませ、空いているテーブルに座ります。
ちなみにアイコーはアイスコーヒーの略、もともと麻雀用語らしいですけど最近は女子高生でも使うらしいですね。
つい数か月前まで女子高生だった私が言うのもなんですが。
レポートの提出期限が差し迫っているため今日の午前中はここ―Cafe 紅魔館―に居座る予定。
この喫茶店、名前の通り洋館のような外見をしていて初見ではなかなかそうとはわかりません。
まあ他にも変わった点はたくさんあるんですが。

「……何よ」
「いや、学校とかいいの?ちびっ子オーナーさん」
「誰がちびっ子よ。遊○王を見なさい、社長は高校生だけど学校なんてほとんど行ってないじゃない」
「漫画と現実の区別くらいつけようね」

私の視線の先に無駄に尊大に座っている少女もここの変わった点の1つ。
中学生にしてこの喫茶店のオーナーであるというから驚きです。
実際のところこの店を取り仕切っているのは彼女、レミリア・スカーレットではないんですがね。
レミリアはただふんぞり返って紅茶を飲みつつ漫画を読んでいるだけ。

「アイスコーヒーお待たせしました。あまりお嬢様をからかわないでくれるかしら」
「ああ、咲夜さん。からかってるわけじゃないから安心して下さいな」

アイスコーヒーを運んできたこの女性、十六夜咲夜さんこそが事実上の店の責任者です。
普段は他の店員に任せて咲夜さん自身は紅茶を淹れていることが多いのに珍しい。
さっき注文を取っていた……えーと、名前思い出せないけど、その人もいるというのに。
本格的に名前なんだっけ、赤っぽいイメージがあったような気がするけど……、

「うーん、赤……共産主義……中国?」
「だそうよ中国」
「いや中国じゃないですって……」

咲夜さんが乗ってくれたのにあえなく否定されてしまいました。
中国じゃないなら何だというんだ。
アヘン戦争とか漢方薬とかケミカルな話題には事欠かないあの大国ならなんでもありだろうに。
アヘンといえば数百年間にわたって薬草として使われ続けてきた麻薬の一種、
昔はアルコールより安かったので手軽に酔える飲料としてや、子供をなだめるシロップにも含まれていたというから驚きです。
当時はどれだけの数の慢性中毒者がいたんでしょうね。
しかし、違うとなると考えられるのは別の共産主義国でしょうかね。
あ、わかったかもしれません。

「そうだメーニン……じゃありませんっけ?」
「惜しい!けどどうしてそうなる!」
「なんかレーニンっぽい名前な気がしたから」

これも違いますか、そこそこ自信あったのに。
でも惜しいってことは少なくともチェ・ゲバラとか金正日とか毛沢東とかそんな名前じゃなさそうなのがわかりました。
さらに候補を絞りこもうと思案していると、耐えかねたのかメーニン(仮称)さんが口を開きます。

「メイリンですよ紅美鈴!あと私選挙で共産党に入れたことないですから!」
「ああごめんなさい、社会主義でもアナーキズムの方だったんですね」
「それならベルギー行くといいんじゃない?」
「無政府主義者でもないです!咲夜さんも便乗やめてくださいよ!」

こういう会話になるなら高校の政治経済や世界史の授業ちゃんと受けとくんでした。
社会の授業中はもっぱら寝てるか新曲の歌詞を作っているか化学を勉強してましたからね。
おかげでマルクス主義よりマルコフニコフ則の方が詳しいです。
『お金は寂しがりです。友達の多いところへ行ってしまいます』という言葉がありますが、
これが不飽和結合を持つ有機化合物においてもお金を水素に置き換えると成り立つという法則ですね。
りぴーとあふたーみー、マルコフニコフ則。

「「「マルコフニコフ則」」」
「べりーぐっど、そういえば咲夜さんは理系出身でしたっけ」
「比較物理学を一応専攻してたわね。教員免許とか持ってるからお嬢様の家庭教師もやってるわ」

なんというマルチ人間。
お店を持てるほどの調理スキルがありながらその学力とは神は二物を与えまくってますね。
一生食っていくのに困らないんでしょうね、羨ましい。
教鞭をとる咲夜さんを想像してみるとちょっと授業を受けてみたかったり。
ところで比較物理学といえば……、

「咲夜さん、もしかしてあの岡崎・北白河研究室の出身ですか?」
「北白河は知らないけど岡崎教授なら私の恩師ね。知ってるの?」
「それはもう、理学部で知らない人間はいませんよ」

岡崎夢美教授といえば現在18歳の若さにしてうちの大学の教授を務める才女。
なんとまあ私より年下です。
さらに今年に入って、15歳の北白河ちゆりさんが同研究室の助教授兼助手に就いたことで知名度は鰻登りです。
二人ともマサチュー○ッツ工科大に飛び入学した経歴を持つとか。
その2人をいきなり教授と助教授として招へいしたうちの大学もすごいですが。
地元の犬鷲球団が元日本人メジャーリーガー2人を獲得したのとちょっと似てますね。
彼らは不振なんで教授達には悪いですが。

「なんでもパラレルワールドを理論的に実証したとか。平行世界を行き来可能な物質の存在を予言してましたね」
「私が院にいた時からその研究をしてたようだけど、当時はその物質を仮にマジック・マテリアルと名付けてたわよ」
「はあ……魔法物質ねえ」

30過ぎればなんとやら、と言いますがこの世に魔法なんてあるんでしょうか。
レティさんあたりならしたり顔で

「奇跡も魔法もあるんだよ」

なーんて言ったりするんでしょうね。
テ○東系列局がないからってニ○ニコでの放送にへばりついてたくらいですから。
インベーダーの契約の被害者にもリリカルな魔砲少女にもカードキャプターにもなる気はないので私は魔法とは無縁です。
アリスさんがまるで魔法でも使っているかのように器用に人形を動かしたりするのは見たことありますが。
あと魔理沙にマジックマッシュルームによく似たキノコを貰った程度でしょうか、魔法への接点。
成分を抽出したら、いわゆる空飛ぶ軟膏の原料になりそうなアルカロイドがゴロゴロ出てきましたよ。
空飛ぶ軟膏とは中世ヨーロッパで魔女が使って空を飛んだと言われたマジックアイテムです。
実際のところは強力な幻覚作用で空を飛んでいるかのような錯覚を与えるものだったらしいですが。
ちなみにその幻覚は極めて性的なんだとか。
私の媚薬コレクションに加えてみたらどうなるんでしょうか。

「魔理沙ならたまに裏の図書館で見かけるわよ」
「知ってます。おととい会ったときにはは蔵書7冊を無許可かつ無期限で借りてましたね」
「私の友人が図書館の本が減ってると嘆いてたけどあいつのせいだったのね」

レミリアの友人は読書家なんでしょうか。
見習ってレミリアも漫画以外の本も読めばいいのに。
漫画の台詞を真似して質問してきたって、今までに食べたパンの数なんて数えてませんよ。
いつ見ても米とキノコしか弁当に入っておらず和食派を自称する魔理沙ならあるいはどうかもわかりませんが。
パンがなければケーキを食べたらいいといったのはフランス王妃マリー・アントワネットでしたが、
当時時のフランスでは麦角病という小麦の病気が流行っていて、
麦角菌が発生させるリセルグ酸誘導体に代表されるアルカロイドは幻覚を引き起こし絶対王政打倒につながる暴動を誘発したそうです。
ゾンビ伝承か狼男伝説あたりも麦角菌ってかかわってたような気がするんですよね。
ちょっと記憶があいまいで自信ないんですが。

「それよりレポートのほうはいいのかしら」
「あ、いけね」

全然進んでませんでした。
これ出さないと単位危ういですからね。
留年とまではいきませんが、翌年再履修という状況はできれば避けたいものです。
時計を見ると時間は11時20分、そろそろ昼食を食べて大学に行かないといけませんね。
仕方ないからレポートは夜にやることにしましょう。

「咲夜さん、今日のランチは?」
「わかめごはんとマグロのオーロラソース掛け、プチトマトに春雨スープ、デザートに黄桃といったところかしら」
「何その学校の給食みたいなメニュー」

喫茶店のはずなのにランチが無駄に子供心を呼び戻す懐かしい献立。
というか洋風な要素プチトマトとオーロラソースしかないですね。
トマトって昔は毒があると信じられていたんですよね。
アメリカ大陸、ヨーロッパでいうところの新大陸で初めて発見されたトマトはその色などから毒を持つと言われていました。
今も血に似た色が中学二年生くらいの人々に好評ですね。
レミリアとかレミリアとか。
暗殺者に脅されてアメリカ大統領の食事にトマトを入れてしまったコックはピストル自殺をしたそうです。
しかし大統領に好評で、それ以降食用に使われるようになったとか。
先入観は時に新発見の妨げをするものですね。
常識のとらわれない発想が新たな常識を生む……ってそんな発言をした少女を最近なんかで見た気がします。

「はい、給食よ」
「もうランチとも言おうとしないんですね……」

しかしその味はさすがに一級品、特にマグロのオーロラソース掛けが絶品です。
この量と味で680円は安いですね。
学食のカレーはもっと量多くても安いですが、毎日カレーだとさすがの私も飽きますし。
というか飽きた。
私が軽快に箸を進める一方、レミリアはほとんど食べてませんね。

「どうしたのさ、もっと食べないと大きくならないよ。胸とか胸とか」
「あんたに言われたくないわ」
「シャラップ!……で、どうしたの?」
「う~……嫌いなものばかりなのよ」

軽く涙目でフォーク片手に皿をにらみつけるレミリア。
やばい、かわいい。
この世にロリコンが多い理由がわかった気がしました。
ふと横を見るといつのまにか咲夜さんが鼻にティッシュを詰めています。
平静を装っていますが既に赤く染まりつつあるティッシュと隠し切れない顔のニヤニヤが私はロリコンですと主張しています。
しかも手には超小型スパイカメラ、撮影ボタンとおぼしきものを目にもとまらぬ速さで連打しています。
レミリアは一瞬懇願するような顔を咲夜さんに向けようとするもかぶりを振り、必死に強気を装って改めて咲夜さんに向き直ります。

「さ、咲夜?このメニューはどういうことかしら」
「お嬢様に好き嫌い無く健やかに育ってほしいと願いを込めて作りましたわ」
「好き嫌いがあったって将来世界の覇権を握る私には関係のないことじゃないの!」

なんだろうこの超理論。
それにどうやって世界の覇権を握る気なんだ。
私が脳内ツッコミを入れている横ではレミリアがますますヒートアップ。

「時代が時代なら咲夜が食事に私の嫌いなものを入れたという事実は死刑に値するものなのよ!?」
「私は今を生きる人間ですので。それに、将来お嬢様が世界の覇権を握ったと仮定しましょう、その際……」
「仮定じゃなくてそうなる運命なのよ!」
「失礼しました。では訂正して、お嬢様が世界の覇権を握ったその後世界ではあることが起きるのです」
「あること……?」

レミリアが思わず身を乗り出して咲夜さんに詰め寄ります。
しかしそれをかわして少しタメを入れる咲夜さん。

「はい……のちの世の雑学書に、レミリア・スカーレットは好き嫌いが多かったと書かれてしまうのです」
「なんですって!?」

深刻そうな顔で言った割にはどうでもいい咲夜さんの発言に絶叫するレミリア。
えーと、ここは笑うところなんでしょうか。
ジャンヌ・ダルクやJ・F・ケネディなんか雑学書には下ネタしか書かれてませんよ。
それにくらべたら好き嫌いを書かれたくらいでは私はなんともないんですが。
レティさん曰く歴史は戦争とエロで出来ている。
その言葉を聞いてあきれ返ると同時にもう少し高校で歴史を勉強しとくんだったと後悔したのは秘密です。
この喫茶店に入ってからすでに2回ほど後悔していますし、ここは一念発起して勉強しなおしてみますかね。
どこから手を付ければいいんだろう。
フランス革命みたいに化学が絡んでくるところがとっつきやすいんですが。
帰りに図書館によってそういう本を探そうと決めて、スルーしてたレミリアと咲夜さんの会話に意識を移すと

「い……嫌よ……レミリア・スカーレットは好き嫌いが多くてカナヅチで日の光が嫌いだと書かれるなんて悪夢だわ……」
「あの……そこまでは言っていませんが……」

まだやってるのかよ。
好き嫌いは健康に良くないとされていますが、たまにプロスポーツ選手でも極度の偏食家っているんですよね。
元巨人軍の日本最速記録を持つ某クローザーはピザとスパゲッティばかり食べていたと聞きますし、
男子体操のエースはブラック○ンダーを主食がわりにしてるそうですよ。
明らかにビタミンが足りてないと思うんですが、サプリメントか何かで補ってるんですかね。
私も自分で合成した栄養素のサプリメントを常備していますよ。
少しレミリアにあげたほうがいいでしょうか。
あ、もしかして学校いかないでここに居座っているのは学校の体育で外に出るのが嫌だからとかそんなしょうもない理由じゃないでしょうね。
ソフトボールにサッカーにバレーボールにテニスと精力的に汗を流した高校までの私を見習え。
大学入ってから運動量は落ちましたけど。
おかげで夏だというのにまた体重が増えましたよどうしてくれる。
ちなみに私もカナヅチなので水泳はパスでお願いします。

「どこに向かってしゃべってるのよ」
「いやー、最近エア友達が流行ってるらしいじゃん」
「ああ、今度アニメ化するあの……」

やっぱり最近レティさんに思考が毒されてるような気がします。
駄目だ駄目だ、私はどう見ても18歳には見えないロシア系美少女とのその後を描いたエロゲーのHシーンを恍惚の表情で見るような人にはならんぞ。
能見といったら猛虎軍団のエースのほうだ、そうにきまってる。
結局レミリアの強情に負けた咲夜さんはレミリア用に食事を作り直し、手つかずの給食は美鈴さんに回ってきました。

「咲夜さんの手料理だなんて嬉しいです!一口ごとに100回噛んで味わって食べますね!」
「後で680円払ってね」

金取るのかい。
噛む回数を増やすと満腹中枢が刺激されて少量でも満腹感が得られると言いますが、100回は多いんじゃないか?
多分液状になって噛めないんじゃないかなあ。
一方のレミリアは咲夜さんが作りなおしたフィッシュアンドチップスを頬張っています。
イングリッシュ大歓喜の脂っこい魚フライを昼から食すとな。
今はいいかもしれませんが将来にわたって多大な悪影響をおよぼすんじゃないかと気が気じゃないです。
若いっていいね。
ところでマグロのオーロラソースはダメなのにフィッシュアンドチップスは大丈夫なんですね。
普通逆だと思うんだけどなあ。
そんなことを考えているとおもむろにドアが開いてお客さんが入ってきます。

「お邪魔するわよ」
「ふぃらっひゃいまふぇ~」
「美鈴、行儀が悪いわよ。ああ、これはパチュリー様ごきげんうるわしゅう」
「……敬語でなくてもいいのよ咲夜、私は客としてきたんだから」

あれ、パチュリーさんだ。
もっぱら裏の図書館に居座って本を読み、時折魔理沙が本を借りパクするのを見つけては、
分厚い辞典の角で制裁を加えようとするもあまりの体力のなさに結局断念してしまう可愛いところのあるパチュリーさんだ。

「凄まじく余計な修飾部の混じった紹介をどうもありがとう」
「へへー、どういたしまして。よかったら今後もしましょうか」
「全力で遠慮させてもらうわ」
「なにはともあれ、なんで咲夜さんはパチュリーさんにそんな下から出てるんですか?」

本人はそこまでしなくていいと思ってるようですけど。
当然の疑問を口にしたものの、その返答は思わぬところから帰って来ました。

「そりゃあパチェは私の親友だもの、咲夜も気を遣ってなんぼよ」
「え?でも背とか明らかに違うし……」

まあパチュリーさんもそんなに背が高いわけじゃないが、ちびっ子レミリアに比べればまだある方と言えましょう。
胸は私の完全勝利だ、咲夜さんと美鈴さんには完敗だけど。
咲夜さんは前はもうちょっと小さかった気がするんですが。
ここ2ヶ月ほどでやけにでかくなった気がするのは私の気のせいなんでしょうかね。
成長期とかとうに過ぎてるはずなんですけど。
まさか咲夜さん女性ホルモンの服用を……?
私にはさっぱり効かないんですが。
媚薬効果もあるらしいけどそっちもさっぱりですね。
この分だと個人輸入を検討している成長ホルモン入り米国産牛乳も効かない予感がしてきました。
だからメリケンはグラマーが多いんだとか言いますけど実際どうなんですかね。

「背と胸はどうでもいいとして、お嬢様の言うとおりパチュリー様はお嬢様のご友人ですから」
「えらい面倒な友人を持ったものね……」

さりげなく胸とか言ってる咲夜さんは鬼に違いない。
まあその理論で行くと下着を勧める時に自分のサイズのものをよこしてくる勇儀さんは完膚なきまでに鬼ですが。

「学校も行かないからてっきり友達いないのかと思ってたよ」
「覇王に仮初の友人なんていらないわ。いるのは信頼できる盟友だけでいい」
「とか言ってる割にはヤマメと話してる時のレミィは一人で漫画読んでる時より楽しそうね」
「そ、そんなこと……っ!」

盟友ことパチュリーさんに指摘されて真っ赤になるレミリア。
ついでに私もなんか恥ずかしいです。
友達いると楽しいですけどね。
女子のほとんどいない理学部で同じ学科に魔理沙がいてくれたお陰でノート借りる相手には困りませんでしたし。
私が貸してばっかりの気もしますがね。
この間の自然科学実験のノートまだ返してもらってないから今度ラーメンでもおごってもらおう。
……って思いだした、午後は授業あるじゃん。
時計を見ると12時40分過ぎ。ここからバスに乗らないといけないことを考えると完全に遅刻です。
レミリアとパチュリーさんが友だちになった経緯とか色々聞きたかったけどそれはまたの機会にしましょう。
ステロイド剤でも飲んだら足速くなって間に合うかな。
無理に決まってますけど。

「すいません大学あるので!ごちそうさまでした!お金ここにおいておきますね!」
「あら、頑張ってね」

咲夜さんの温かい言葉を背に店を飛び出しバス停まで全力疾走。
時刻表を確認すると……、

「うわ、理学部キャンパス経由のバス20分後かよ……」

無駄だとは思うけど魔理沙に代返とノートを依頼しておこう。
携帯を取り出しメールを作成します。
魔理沙はめったにメールを確認しないから望みは明らかに薄いです。
万が一寝られたら私は誰にノート借りればいいんですか。
男子は全員クラス会の際に飲み潰してるから気後れしてるのか近寄ってこないですし。
まあ酔った勢いで絡まれたしセクハラ発言受けたし反省してて当然です。
私は飲まなかったけど魔理沙も相当酔ってたなあ……。
まあノートくらい貸してくれるだろ、メール送信っと。
さっきはラーメンおごってもらおうかと考えてましたけどこれじゃあチャラになるかもわかりませんね。
そう思いつつ顔を上げると目の前に少女の顔が。

「うわっ、何!?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと気になったんだけどあなたもしかしてうちの大学の黒谷ヤマメ?」
「え、そうですけどなんで私の名前を……」

馴れ馴れしく話しかけてきたこの人、どっかで見たことがあるような……。
でも会話するのは初めてですし、どうやって私の名前を知ったのか。
私の疑問などお構いなしに彼女は会話を続けます。

「やっぱり!あなたのことは数回新聞で見たことがあるわよ。2年前の化学オリンピックの代表候補だったでしょ」
「ええ、そんなこともありましたけど」
「紹介が遅れたわね。知ってるかもしれないけど、私の名前は岡崎夢美。理学部物理学科比較物理学の教授よ」
「……ああ、岡崎教授。通りでどこかで見たことが」

ってなんじゃそら。
さっき咲夜さんと話してたばかりの時の人がなんでこんなバス停に、というか私の顔を覗き込んだりしてたんだ。
あと代表に選出されなかった私の顔と名前を覚えているなんてどんな目の付けどころしてんだこの人。
見事落選したあとはサマー○ォーズごっこなんかをやったものですが。
よろしくお願いしまーっす!って。

「お会いできて光栄です。でもなんでこんな所にいるんですか?」
「なんでって、そりゃバスに乗るからでしょう」
「私の記憶だと、教授は車を複数台所持しているとウィ○ペディアに書いてあった気がしますが」
「だってねえ……フェ○ーリから見る山の自然も素敵だけどバスに乗りながら眺める街の風景も素敵じゃなくって?」

さりげなくフェ○ーリって言ったぞこの人。
めっちゃ高級車じゃないですか。
それに今教授の言った山の自然ってうちの大学のある山のことですよね。
変わった感性の持ち主だなあ……。
だからこそ18歳にして教授やってる天才なのかもしれませんが。

「理学部の人員は全員把握しているわ。あなた、センター試験の数ⅠAと化学と物理満点だったそうじゃない」
「日本史6割しか取れてないですけどね」
「更に言うと2次試験の化学も満点だったそうじゃない」
「英語派手にやらかしましたけどね」
「2年連続化学グランプリ1次試験満点だったとも聞いたわよ。素敵ね」
「どんだけ調べたんですか!?」

2次試験の実験で余計な物作って減点食らいまくったから目立つような成績じゃないと思ってたんですが。
目ざとい人がこんな所にいるとは夢にも思ってませんでしたよ。

「化学知識の方に目が行きがちだけどあなたの通ってた高校に問い合わせたところ、あなた実験のほうが得意みたいね」
「高校にまで問い合わせたんですか!?」
「どんなに優れた理論も証明できなければただの空論。私も思いついたことはすぐ実験に移すようにしているわ。気が合いそうね」

まだ子供らしさの残る顔つきから大人びたウインクを繰り出す岡崎教授。
そういや年下なんですよね。
高校から絶対余計なことまで伝えられたんだろうなあ……。
このまま関わってたらそのうち歌わされるような気がしてきました。
そして向こうから話しかけてきて勝手に気が合うことにされているとは図々しい。
それにしても比較物理学の実験って具体的にどういうことをやるんでしょうか。

「ああ、実験?あまり比較物理学関係ないわよ。」
「じゃあ魔法物資とかいうやつのですか?」

実験段階まで入っているとしたらもう見つかっているんでしょうか。
パラレルワールドに行けたりとかするのかな。
そしたら科学の発展しなかった世界に行って薬作って一儲けとかしてみたくはありますが。
と勝手に妄想を膨らますこと数秒、教授の返答はもっと現実的なものでした。

「それはまだ見つかってないからねえ……。存在を確認する実験とかはしてるけど」
「じゃあ他の実験を?」
「そうよ。アンドロイドの制作とか、そういうの」
「え?伏せ文字がないってことはあのロボットみたいな方のアンドロイドですか?」
「その発言はやけにメタいけど、まあそういうことになるわね」

すげえ。
どこまで天才なんだこの人。
これだけ万能な人がいれば鉄腕ア○ムやドラ○もんも夢じゃないかも。
いま挙げた2つは原子力で動いているのでちょっと不安ですが。

「ちなみに原子力を動力源にしているわ」
「やめてください。お願いですからやめて」
「背中のハザードシンボルが可愛いのに……」

やっぱり理学部には変人しかいないんですね。
ハザードシンボルが可愛いってどういうこっちゃ。
そういやドラ○もんって食べた物を原子炉でエネルギーに変換してますけど排泄はしませんよね。
まさか食べ物を100%動力にしてるわけじゃないでしょうし、余ったのはどうしてるんでしょうか教授。

「熱として放出してるんじゃない?」
「じゃあ最も変換効率のいいどら焼きならともかくほかの食べ物なら食べた直後は熱くて触れないなんてこともあるんじゃ……?」
「素敵じゃないの」
「どこが!?」
「うちのま○ちやる~ことにもそんな機能つけようかしら」

すいません、前者の名前をレティさんから聞いた覚えが有るんですが。
教授もそっち系の趣味なんですか。
レティさんといいマイさんといい魚屋の二階に縁の深い知り合いが多いような気がします。
そうでなくても文さんがキスメにイケナイ知識を吹きこんでて今度ピクリン酸で爆撃してやろうかと計画しているのに。
変態は三次元方面だけで手一杯です。
ピクリン酸やトリニトロトルエンは有名なニトロ化合物で爆薬にも利用されていますが、
先日キスメのやってたマイン○ラフトなるゲームでトリニトロトルエンを使って掘削作業っぽいことをしていたのは驚きました。
量間違えたらフィールド全部吹き飛びかねませんよあれ。
TNT爆弾で無人島が軽く壊滅する動画がネットにありましたし私もほんの少量で河原にクレーターをこさえたことがあります。
むちゃくちゃ怒られました。
ええい、また話がそれた。

「それで、教授は魚屋の二階に行くような趣味はあるんですか?」
「私そういうのは全部ネット通販で済ますんだけど」
「おおう、ある意味全く否定しなかった!?」
「アメリカにいた頃から周りにそういうの多かったからねえ」

さすがCool JAPANは伊達じゃない。
突っ込み相手がまた一人増えてしまったことに若干の落胆を隠せません。
ボケていたほうが疲れなくて済むんですが最近は突っ込んでばかりな気がします。
こりゃ関西じゃ暮らしていけないな。
その後も岡崎教授と他愛もない話をしていたわけですが時間の進むの遅いこと遅いこと。
レポートを書こうとしていたときはあっという間だったのに待ち時間となるとこうだからたちが悪い。
バスが来る予定時刻までまだ12分もあります。
とそこに1台の高級車が。

「あー、いたいた。探したぜ」
「ちゆりじゃないの。どうしたのよこんなとこまで」
「今日はゼミがあると言ったはずだぜ?」
「バスが来ないんだから仕方ないじゃない。遅刻もやむなしよ」

教授も遅刻だったんですか。
いいなあ迎えが来て。
でも教授と助教授両方とも出払ってて大丈夫なんだろうか、岡崎ゼミ。

「あ、そうだ。ヤマメも乗ってかない?どうせ途中まで一緒の道でしょ?」
「え……いいんですか?」
「いいからいいから。早くしないと次の授業間に合わないわよ」

まあ間に合ってないんですけどね。
それとどう見てもその車二人乗りですよね。
私どこに乗ればいいんですか。

「私が運転するからちゆりはトランクにでも入ってなさいよ」
「えー……」
「ほらさっさと!」

助教授殴られてるし。
なんかすごく申し訳ないんですが。
それと、さっきから気になってたんですが……、

「確か教授が18歳で助教授が15歳ですよね?」
「そうだけど」
「免許持ってるんですか?」
「アメリカ時代の州の免許ならあるわよ?事故らないから安心していいわよ」
「日本じゃアウトじゃないですか!」

これマスコミに取り上げられたら一大事ですよ。
ただでさえ注目されてるんですから少しは自重してもらわないと大学にも迷惑がかかるんですが。

「……私が運転しますから教授は助手席に行ってください」
「『助手』席って名前が気にくわないんだけど」
「警察のお世話になるよりましでしょう!?」
「まあ、ちゆりはトランクだし他にスペース無いから座ってやるわ」

わがままだなあ……。
取っててよかった運転免許。
でも……もしぶつけて傷でもつけたらどうしよう。
免許持ってないのにこんな高級車持ってる教授のせいにしましょうかね。
うん、私に運転させざるを得なかった状況が悪いんだ。
とりあえず控えめにアクセルを踏み込む……踏み込んだはずが、

「ちょ、ちょっと教授!アクセル軽すぎやしませんか!?スピードもう少し落としたいんですけど!」
「えー、私は普段更にギア1段挙げた状態で運転するわよ?」
「そんなことしたらスピード違反で捕まりますって!」

かなり軽く踏んでるのに法定速度ギリギリが出るんですがなにこれ。
免許取るときでもこんなに緊張して運転した事無いですよ。
スピード超過の恐怖とぶつけて傷をつける危険性の板挟みになりながら何とか1・2年の学ぶ山の麓のキャンパスに到着。
……教授たちだけでここから山の中の理学部キャンパスに行かせて大丈夫かなあ。

「くれぐれも人目につかないように、あとスピード違反にならないようにしてくださいね」
「大丈夫よ、警察にはちょっとしたコネがあるから無免許運転スピード違反くらいはみのがしてくれるわ」
「そういう問題じゃないっ!」

つくづく心配です。
二人が年下ということもあってどうにもほっとけない。
仕方ない、送って行きますか。

「私はトランクより座席のほうがいいんだけれどな」
「つべこべ抜かすな!」
「……もう勝手にしてください」

喧嘩してる二人を見たら送って行く気が失せました。
次の授業の準備でもしてよ。
確かドイツ語でしたかね。
アイン、ツヴァイ、グーテンモルゲン。
教科書を取り出そうとしていると教授が歩み寄って来ました。
ゼミはいいんでしょうか。

「ヤマメ、携帯のアドレスいい?」
「え、あ……はい」
「レポートとか困ったら私に連絡するといいわ。単位は保証させるし研究室来てくれれば教えてあげるから」
「ありがとうございます。……教授、なんでそんなに私にかまってくれるんですか?」

友達なら足りてるんですが。
教授の友だちが少ないのだとしたらそれは性格のなせる技だとしか言い用が無いのでどうしようもない。
しかし教授は私の思惑など意に介さずいつの間にか手に持っていたいちご牛乳の感を開けながら続けます。

「面白そうだから、じゃ駄目かしら」
「良くしてくれる分には構いませんがそのドヤ顔やめてください」
「あと私とちゆりに敬語はいいわよ。普通に夢美とかちゆりとか呼んでいいから」
「だからそのドヤ顔をやめろと」

さすがに教授職にある人を呼び捨てにするのもためらわれるし夢美教授とでも呼ぶことにしましょうか。
どうやら夢美教授の中では私は『夢美教授と愉快な仲間たち』に含まれてしまったようですが……、
一体どうなんのかね。
今は懸案だったレポートを教授の力で何とかして貰えそうなだけで御の字ですしそれについては何も言わないでおきますか。

「じゃあ私授業に行くんで、事故には気をつけて」
「はいはい、任せといて」

走り去る赤い高級車に手を振りながら携帯を取り出して二人のアドレスを確認します。
……あれ、メール来てる。
見ると件名には『霧雨魔理沙』とあります。
背中を疾走する嫌な予感を払いのけて内容を確認すると、そこには2行の短い文章が。

『すまん寝てた。他をあたってくれ』
「『豆腐の角に小指をぶつけて死ね』……っと」

文さんと一緒に粉塵爆発の刑に処してくれる。
火薬はもちろんTNTだ。
虚しい怒りに燃える私の背中に夏の太陽がひたすら熱エネルギーをぶつけて行きましたとさ。
めでたくないめでたくない。



「……ただいまー。あー、無駄に疲れた一日だった」
「お帰りなさい~、待ってたのよ~」
「ん?何を?」
「これよこれ!ほら見て!」

帰宅した私にレティさんが見せつけてきたのは……、

「ディ○ニーリゾート2泊3日招待券?どうしたのさこれ」
「アリス母からのプレゼントよ~。遊びにいらっしゃいって」
「へ?その言い回しだとまるで……」
「そうよ、お母さんはあそこのいわゆるVIPらしいわ」

アリスさん……、なぜそんな重要なことを私たちに黙ってたんだ。
そうと知っていたらもっと暑さで薄着になってるアリスさんの寝相写真もっと神綺さんに送っていたのに。

「7枚あるわ。友人共々まとめて来いってことらしいけど……」
「キスメ、文さん、てゐさんは呼ぶとしてあと1枚あるね」
「それがお母さんが魔理沙をご指名なのよ」
「神よ、感謝します」

夢の国で文さんと一緒に天の国へ誘ってやる。
アリスさんが魔理沙と幼なじみで本当に良かった。
絶好の機会じゃないか。
そうと決まれば早速爆薬その他を調達しようじゃないか。
もしくはテトラフルオロホウ酸でも料理に仕込んでやろうか。

「それ、いつなの?」
「8月13日からよ~。ちょうど夏○ミと同じスケジュールかしら」
「それでそんなに喜んでるんだ」

8月13日が待ち遠しくて眠れませんね。
……ディ○ニーに消されないようにしないと。
お久しぶりです。
ヤマメちゃん大学生になる第5話です。
過去の作品はいつもどおりタグのケミカルギャグからどうぞ。
野球シーズンが終わると同時に燃え尽きてましたが春季キャンプが始まってエンジンかかって来ました。
嘘です。
実際には、化学ネタが底をついて内容に困ってました。
まさか自分の知識がここまで浅いとは。
というか文章にしてもそれなりに面白い化学ネタをあれしか知らなかったとは。
それに引きずられるかのように普通のギャグもイマイチ納得がいかない……ものの現在のベストを尽くして書き上げてみました。
今回はいつもと違ってアリスやレティは出番控えめ。
代わりに新キャラ、特に夢美の出番多め。
教授大好きです。
東方キャラで一番好き。
それはさておき、本文でも書いたとおり次回はディ○ニーリゾートです。
消されないように、それ以前に書き上げられるように頑張ります。
高井
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コメント



0.640簡易評価
1.70奇声を発する程度の能力削除
今更、中国ネタはどうかと思いますが面白かったです
7.100上海人形削除
続編待ってました!これで受験に勝てる!次回も楽しみに待っています!
8.100名前が正体不明である程度の能力削除
お、来た来た。
10.90名前が無い程度の能力削除
今回も面白かったです!
15.100名前が無い程度の能力削除
お久しぶりです。
ディ◯ニーですか・・・
気をつけてくださいねw
16.100名前が無い程度の能力削除
なんだろう、面白かった。個人的には好きです。
17.100名前が無い程度の能力削除
科学ネタ面白くて楽しいですw
消されないよう程々に頑張って下さい~
18.100名前が無い程度の能力削除
ハハッ♪
19.100名前が無い程度の能力削除
アブナイアブナイw
20.100月宮 あゆ削除
レティさんの教養には驚きましたが…ヤマメが一年目でこれだと4年後には同レベルの知識を持っていそうな気がする。

岡崎夢美が言っている「ま○ちやるーこ」は「マ○チやるーこ」の方がいいと思います。来栖川エレクトロニクスのロボットですよね?あと夢美さんせっかくなら、バナナを食べないとフリーズする、ぜんまいが主動力のロボットもお願いします。

紅魔館のcafeといい旧作の夢美とちゆりなどの新キャラがすばらしく随所に仕込まれている科学ネタ以外にも豊富なネタバリエーションで楽しく読ませていただきました。
最後に今までの作品楽しく読ませております。
次回作を期待しています。


追記
ヤマメ、リト○スEXやったらレティの気持ちわかるよ、きっと クドは18歳に見えなくても18歳なのです!
22.無評価高井削除
>月宮あゆさん
感想ありがとうございます。
一応補足しておくと、ま○ちは厳密にはTo Heartのマルチではありません。
東方夢時空靈夢ENDで靈夢が夢美から貰ったアンドロイドの名前が「ま○ち」だったのでそれに従ってみました。
もちろん元ネタはマルチなんですがねw
る~ことも同様です。
ヤマメの反応からするとわかりづらかったかもしれませんねw
23.100名前が無い程度の能力削除
毎度毎度楽しみしていました!
自分の大好きなヤマメや教授のSSが増えるだけでうれしいです。
ディ○ニー編も楽しみにしています。