Coolier - 新生・東方創想話

こあこあレンジ

2012/02/02 01:49:50
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―紅魔館、大図書館―
「えっと、これは何かしら?」
 怪訝そうな顔付きでそう訊ねるパチュリー・ノーレッジの視線の先には、博麗神社の賽銭箱よりも一回り小さい程度の大きさの金属の箱。前面には取手が付いており、開けて中に何かを収容出来る事が窺える。取手の横にはダイヤルが付いており、その上には「タイマー」と書かれている。他にも、「解凍」や「ごはん」などと書かれたボタンが幾つかある。
 そして、吸血鬼がその奇妙な箱の上に悠然と座り得意気な笑みを浮かべている。パタパタと忙しない羽が、彼女が上機嫌である事を説明していた。
「ふふっ。これは『電子レンジ』という物よ」
 その吸血鬼――魍魎跋扈する幻想郷に堂々と聳え立つ紅魔館の幼き主、レミリア・スカーレットは笑みを崩さずに答えた。
「デン……シレンジ?変わった名前ね」
 聞き慣れない単語を反唱し、パチュリーは率直な感想を口にした。
「えぇそうね。外の世界から流れ着いた物らしいわ。咲夜が道具屋の店主から貰ってきたの」
「ふぅん」
 誇らしげに説明するレミリアだが、パチュリーは興味無さげに返す。
 実際、特段興味も無かった。魔力も微塵も感じられないただの金属の箱などに魔女の好奇心は擽られない。気を引きたいのなら、貴重な魔術が記された書物でも持って来いという話だ。
 しかし、パチュリーのそんなつまらなそうな表情を見てもレミリアから余裕の笑みが消える事は無い。
「ま、最初はどうせそんな反応だろうと思ったわ。実際に使ってみましょう。そうね、まずは咲夜に紅茶でも淹れてもらおうかしら」
 そう言い、優雅に左手を挙げ、指を弾く。しかし、皮膚がただ擦れ合う音しかしない。が、レミリアはそれをまるで無かったかのように「ふふっ」と不敵に笑い、もう一度指を弾く。パチンッ。今度はいい音が大図書館に響き渡り、彼女は満足気に頷いた。
 なる程、カリスマとはつまり挫けず己を貫く事なのか。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
 パチュリーが感心していると、いつの間にやらメイド長、十六夜咲夜がレミリアの傍らに立っていた。主の合図を聞き、時間を止めて駆けつけたのだろう。こんな事は紅魔館では日常茶飯事だ。一々驚きもしない。
「咲夜、紅ち」
「かしこまりました、お嬢様」
「……咲夜」
「はい、なんでしょうか」
「主に食い気味で話すのはやめなさ」
「かしこまりました」
「…………まぁ、いいわ。では紅茶を頂くわ」
 お茶目な従者を寛大なる心で受け入れつつ、レミリアは何時の間にやら目の前に用意されていたティーカップに口を付ける。
 途端、その目は大きく見開かれる。
「咲夜!なんなのこれ!ぬるいじゃないの!」
 大声を上げて傍らに立つ従者を怒鳴りつける。
「お嬢様、それ程ぬるかったのでしょうか?」
 おずおずと訊ねる咲夜。
「えぇ、ぬるいわ。もうぬるぬるよ!」
 それはなんか、ちょっと違う。
「それは申し訳ありません。すぐに新しい物を用意いたします」
 咲夜は深く頭を下げる。が、申し出はレミリアにより断られる。
「待ちなさい。その必要は無い…………電子レンジを使うわ!」
 この上無く嬉しそうな顔で言い放つレミリア。
「……なんと!その手がありましたね!流石です、お嬢様!」
 電子レンジをまるで玉座と勘違いしているかのように偉そうに座り満開のドヤ顔を浮かべるレミリアを、咲夜は跪き目を爛々と輝かせ、心底感激した、といった表情で見上げる。
 レミリアはそれを充分味わいつつ、パチュリーの方を見る。
 そのパチュリーは。
「…………」
 二人の会話等に目もくれず、本に没頭していた。
「ちょっとパチェ!せっかく練習したのに!」
 レミリアはドヤ顔から一変、目を釣り上げて怒る。どうやら、後半の「紅茶がぬるい」からの件は事前に咲夜と打ち合わせ、練習までしてきたものらしい。従者から尊敬される自分を友人に見せたかったのだろう。
「だって興味無いもの」
 そんな可愛らしい見栄をバッサリ切り捨てて、パチュリーは再び本へと視線を落とした。
「こらパチェ!そんな本見てないで電子レンジを見て!凄いんだから!」
「…………」
「本当に凄いのよ!?貴方だって絶対に吃驚するわ!」
「…………」
「だからパチェ!お願い!一回!一回だけでいいから!」
「…………」
「この通り……!」
 情けなく両手を合わせて頼み込む友人に、パチュリーはパタンと本を閉じて溜め息で答えた。
「レミィ、一回だけよ?」
「ありがとうパチェ!ほら咲夜!早く準備なさい!」
 レミリアは餌を貰った子犬の様に嬉しそうにして、咲夜に指図をする。
「かしこまりました。パチュリー様、火符と水符、そして日符をこちらに」
「何よ。フロギスティックレインでもやるつもり?」
 パチュリーは訝しみながらも言われた通りに渡す。
「いえ、まぁ近い事を……。水克火、というのはご存知ですよね」
 咲夜がそれを電子レンジにペタペタと貼り付けながら訊ね、
「誰に言ってるの」
 パチュリーは当然だ、といった具合に答えた。
「失礼しました。既知の通り、水の属性は火を弱めます。そして、電気とは火の属性に光を加えたもの。火符と日符で電気を生み出しながら……」
 符を貼り付け終えた咲夜は説明をしながら実際に符に魔力を注ぐ。普段使う事が無いだけあって、少しの熱と光を生み出すだけで相当の労力が必要なのだろう。口調は平坦なままであったが、その額にはうっすら汗が滲んでいた。
 やがて、生み出された熱は光を吸収し、バチバチと白い放電現象が起こる。が、これでは電気が強すぎる。
「水符で覆い、大きさを調節してやれば……」
 咲夜は今度は水符に魔力を注ぐ。すると、放電現象は徐々に小さくなり、やがて全て収まった。電気が消えたのではない。水符によって外部への流出が抑制されたのだ。内部には調整された電気が依然巡り続けている。
「電子レンジは、使えるようになります」
 ふぅ、と一息吐いて咲夜は説明を終えた。いかに完璧で瀟洒なメイドと言えど、慣れない魔法の実演には流石に疲れているようだ。立ち姿からいつもの余裕が感じられない。
「ふぅん。これでもうずっと使えるの?」
 その疲労感漂うメイドをやや気の毒に思いつつ、パチュリーは訊ねた。
「いえ。いかんせん消費量が多すぎて、使う度に電気を補充する必要があります。長時間使用なされる場合も同様に、途中で補充するのがよろしいかと」
 成る程、どれ程便利な物かはまだ分からないが、使おうとする度にこんな苦労していたのでは大変だ。元々魔法の得意な私の所に持ってきたのはそういうわけか。パチュリーは一人納得する。
「それで、これでその紅茶をどうするの?」
 そして、最初の疑問に立ち返る。使い方が分かっても、使い道が分からなければどうしようも無い。
「それは、私から説明するわ!」
 さっきまで少しの間静観していたレミリアが口を挟んでくる。美味しい所を苦労せずに持っていくのが彼女の信条だ。
「まず、このぬるぬるの紅茶をこの中に入れるわ!」
 だから、ぬるぬるは少し違う。
 レミリアは取手を掴んで無駄に勢い良くドアを開くと、ティーカップをその中へと入れた。
「そいて、このダイヤルを回すの!」
 そして、上に「タイマー」と書かれたダイヤルを幾らか回した。ギリギリ、という音がしたのはきっと古いからだろう。
「ほら、パチェ、中を覗いてご覧なさい」
「…………廻ってる」
 誇らしげにレミリアが言い、パチュリーは言われるままに中を見たままを口にした。箱の中では、言葉通りにティーカップが回っていた。
 それを見ながら、パチュリーは自分の記憶を思い返す。確か前に本で読んだ事があったはずだ。外の世界には、廻るカップを楽しむ風習があるらしい。確かその名を「コーヒーカップ」とか呼ぶんだっけ。これは紅茶のカップだから、多分その亜種なのだろう。そういう外の愉しみを幻想郷で享受出来る機会は少ない。せっかくだから、存分に味わおう。
「成る程、風流ね……」
 パチュリーは、うっとりした目をして呟いた。
「分かってくれたのね、パチェ!でも驚くのはこれからよ!」
 レミリアがとても嬉しそうにそう言った所で、箱はチンッと音を立てた。
「ほら、そんな事言ってたらできたわよパチェ!本当に凄いんだからね…………あちゃっ!さ、咲夜!」
 音を聞いたレミリアは箱のドアを開け、ティーカップを手に取ろうとして、素っ頓狂な声を上げた挙句従者の名を叫んだ。その情けない姿には、長年の親友のパチュリーも確かに驚かされた。
「かしこまりました」
 主が情けない姿を晒してるなうの状況にも顔色一つ変えなかった咲夜は、そう言うと箱の中からティーカップを取り出した。主が思わず素っ頓狂な声を上げたカップにも平然としている様子を見ると、体力は既に回復したようだ。
「つまり、その中に入れて放置すると熱くなるわけね」
 先ほどとは違って湯気が立っているティーカップを見ながらそう言うパチュリー。なんだそんな事か、という落胆を隠す様子は無い。
「ふふっ。甘い、甘いわパチェ!」
 さっきのがよっぽど効いたらしく、手をパタパタさせながらレミリアは不敵に笑う。この状況でもそれができるから紅魔館の主が務まるのだろう。きっと。
 そして、見兼ねた咲夜から氷袋を受け取りながら
「中に手を入れてご覧なさい」
 と続けた。
「ふぅん。まぁいいけど。…………熱くない。」
 その通りに手を入れてみたパチュリーははっと驚く。
 パチュリーは紅茶が温まった事から、箱の正体は外の世界の最新のオーブンだと推察していた。それは実際に半分は合っているようなものだが、オーブンだと推察していた彼女は中が当然それなりに高温であることを覚悟していた。少なくともむわっとした熱気が立ち込めているだろうと、そう考えていた。
 それが実際に手を入れてみた所、内部の温度は全くと言っていい程外と変わりが無かった。それだけでなく、ペタペタと内部の壁にも触れてみるが、どこからも高温を発していた気配を感じることさえ出来なかった。
 その事実は、パチュリーに驚きと、困惑と、もう一つ。
「対象物のみを加熱する――――それがこの、電子レンジよ。」
「……レミィ、これ」
「えぇ、いいわよ。元々そのつもりだったし」
 好奇心を与えたのだった。





 レミリアと咲夜が電子レンジを残して引き上げていった大図書館にこだまする声はパチュリーと小悪魔の二種類。
「と、いうわけなのよ」
「成る程、それは凄いですね」
「でしょ?特定空間内とはいえ、対象のみに熱を与える。スペルカードにも応用出来ると思わないかしら?主に図書館の防衛の際に」
「そうですね、蔵書を巻き込まずに泥棒だけを狙い打ち出来るのは素敵ですね」
「流石こあ、よく分かってるじゃない。本にはどれも魔法によるコーティングは施してあるけど、それだけじゃ心配だもの」
「まったくですね。コーティング魔法も古くなれば劣化しますし」
「そうそう、結構管理大変なのよね」
「…………ところで、パチュリー様」
「ん?何かしら?」
「どうして私はこの箱の中に入れられてるんですか!?」
 思わず叫ぶ小悪魔。しかし無理もない。彼女は今まさに、己の契約者によって彼女にとって未知の空間に閉じ込められようとしているのだ。
「この箱?デン・シレンジというちゃんとした名前があるのよ」
「今問題にすべきは名前じゃありません!」
 小型魔法を掛けられて、既に小悪魔は電子レンジの中にインしている。あとはパチュリーがドアを閉めれば密室の出来上がりだ。
「メカニズムを知るには、中からが一番かなって」
「絶対危険ですって!考え直して下さい!」
 契約者であるパチュリーが本気で命令すれば悪魔である彼女に抗うすべは無いのだが、それでもささやかな抵抗を続ける。当然だ。閉じ込められるだけで嫌なのに、更に熱せられるとか恐怖以外の何ものでもない。
「まぁまぁ。貴方冷却魔法使えるじゃない。いざとなったら凍結魔法もあるし」
 そこを突かれると痛い。貴方なら大丈夫、という信頼の言葉でもあるわけだし。
「そりゃそうですけど……」
「それに私はずっと観察してるし、ヤバそうだったら止めるから」
 信頼されているのなら、当然自分も信頼で返さければならない。
「うう……」
「ほら、いい子だからお願いね、こあ。」
「分かりましたよ……」
 優しい表情で頼み込むパチュリーに、小悪魔は簡単に折れる。こういう「お願い」は命令と同じくらい効果的で正直ずるいと思う。
「じゃ、ごゆっくり」
「ゆっくりは嫌です!」
 そんな会話を最後に、パチュリーは電子レンジのドアをパタン、と閉めた。密室の完成だ。
「えっと、まず火符と日符で、次に水符ね」
 先程咲夜に教えられた通りに魔法を使う。咲夜と違うのは、初めて扱うにも関わらず全く苦戦する様子が無いことだ。朝髪を漉くように、自然に魔法を発動させていく。
「こんなものかしら」
 調整のための水符など正直必要なかったが、一応全体を覆うように掛けてパチュリーはそう呟いた。
「さて、あとはダイヤルを回すだけね」
 今度はレミリアがやってみせたようにダイヤルを回す。危なそうなら途中で止めればいい、そう判断したパチュリーは最大まで回しておいた。いい所で中断されるのをなるべく防ぎたかったのだ。
「それじゃ、グットラック、こあ。」
 そう言ってパチュリーはダイヤルから手を離した。
 静けさの中にジー、というダイヤルの戻っていく独特な音がやけに響く。
 さて、紅茶でも飲みながらこあを観察しよう、とパチュリーは事前に用意してあったティーポットに手をかけた。その時だった。
「おーすっ!」
 心地よい静けさは、闖入者によってかき消された。ノックもせずに、ドアを乱暴に開けて図書館へ侵入してきたそいつは、やたら元気な声で挨拶した。
 それが誰かは、もう声だけで分かる。いや、例え声で判別出来なくともこんな風に入ってくるのはどうせ一人だけだ。
「何のよう?今忙しいのだけど、魔理沙」
 だから、わざわざ振り向かずにそう言った。しかし、返ってきた言葉は少し意外だった。
「今日はアリスもいるぜ」
 その言葉に、ピクリと反応する。振り返ってみると、確かに魔理沙の隣にはアリスがいた。いつも通り上海人形を傍らに連れていて、申し訳無さそうな顔をしている。魔理沙の乱暴を止められなかった事に責任を感じているのだろうか。
 それにしても、アリスがここに来る事は珍しい。来ない事は無いけど、来るのは異変の時ばかりだ。
「何か、異変でも?」
 故に、アリスの名前を聞いて最初に思いついた事はそれだった。場合によっては自分も動かなくてはならない。
「いや、そういうわけじゃないぜ。ちょっと知恵を借りたくてな」
 魔理沙の返答に、一瞬張った緊張の糸はすぐに緩まった。
「じゃあ悪いけど、私は忙しいの」
 異変じゃないなら、暇な時に出直してきて欲しい。パチュリーはすぐに魔理沙と珍しい訪問者に興味を無くし、紅茶を注ぐ作業を終わらせレンジに目を戻した。中でこあが廻ってる。まだ余裕そうだ。
「そう言わないで、お願い。私も魔理沙もお手上げ状態なのよ。もうパチュリーしか当てがなくって」
 アリスは引き下がらない。紅茶を飲みながら金属の箱を眺めている様子を忙しいとは思えなかったからだ。
 パチュリーとしても、そんな風に頼られて悪い気はしない。それに、それなりに優秀な魔法使い二人が行き詰まる問題に興味が無い事は無い。が、優先順位は変わらない。
「頼むぜ、本を半分返してもいい」
 む、それは魅力的……じゃなかった、前提がおかしい。全部返せ。
「貴方しか頼りが無いの……お願いっ」
 駄目だ。今は他にやるべき事がある。しかし、ここまで頼み込まれると無碍にはしずらい。
 パチュリーは電子レンジの方を見る。まだ大丈夫そうだ。それに、小悪魔には魔法がある。本当に危なかったら電子レンジくらい壊せるはずだ。
「……分かったわ。ここで話を少し聞くだけならしてあげる。でも、本当に少しよ?」
 だから、パパッと終わらせてしまおう。電子レンジもちょくちょく見るのを忘れなければ大丈夫だろう。
「おぉ、流石はパチュリーだ。恩に切るぜ」
「ありがとう、パチュリー」
 アリスはともかく、普段礼儀のれの字も無い魔理沙にまで感謝されるのは滅多に無い経験で、少しこそばゆい。
「本当に少しだけだからね。一体何について悩んでるのかしら?」
 少しという事を、かなり強調した表現をしたのは、自らにも念を押すためだ。話を聞いて、分かるなら答えて分からないなら諦めてもらう。わざわざ調べる事はしない。参考資料は、アリスが一緒だからまぁ貸してやってもいい。
「……実はね、完全自立人形がもう少しで完成しそうなの」
 そう切り出したアリスの話の内容は、当初の予想以上にパチュリーの好奇心を刺激するものだった。





 最初の数秒は、特に何という事も無かった。どうやって熱を与えているのだろう。それを見つけ出したら、パチュリー様に褒められるかな。ぼんやりとそんな事を考えていた。
 体に異変を感じたのは、体感にして10秒を過ぎてから。全身がぶわっと泡立つような感覚がした。身体を形成する細胞の一つ一つが振動しているような、そんな感覚。それでもまだ、耐えられる。悪魔である私は人間に比べ頑丈に出来ているのだ。箱の外を見てみると、パチュリー様は誰かと話していた。会話は聞き取れないが、また泥棒でもやってきたのだろうか。まぁいい。パチュリー様がこの箱の構造を解き明かした時が泥棒稼業の最後だ。ふふふ、その瞬間が愉しみだ。それにしても、少し暑くなってきた。
 熱源はどこだろう、と周りを見渡してみる。オレンジの光が怪しく光っている以外、それっぽい物は見当たら無かった。きっとあれが関係しているのだろう。箱の外ではパチュリー様が紅茶を注いでいた。
 ふむ。この暑さは、どうもおかしい。まるで、体の内面から熱が発生しているようだ。それに、さっき暑くなってきたと感じたばかりなのに今はもう灼熱だ。汗がダラダラと流れてくる。異常な程のスピードで体温が上昇していくのが分かる。これは冷却魔法で体を冷やす必要がある。そう感じ詠唱をしようとした瞬間だった。口から、吐瀉物が勢い良く吹き出してきた。嘔吐感は無かったのに。見てみると、血が多量に混ざっている。これは流石にやばいかもしれない。箱の外を見てみる。パチュリー様は来客と話していた。どうやら泥棒だけでなく人形使いまできていたらしい。そんな事はどうでもいい。パチュリー様、こっちを見て。私に気づいて。
 大きな声を出そうと叫んだつもりだったが、出たのは弱々しい掠れた声だけだった。喉にも異常があるようだ。お願いですから、こっちを向いて下さい。そう祈ってみるが、箱の外のパチュリー様は相変わらず来客と話中のようだった。仕方ない。今はとにかくこの熱をどうにかしなくてはならない。掠れた声でなんとか詠唱し、冷却魔法を試みた。
 結論から言うと、冷却魔法は殆ど効果が無かった。そもそも寒流を生み出して対象物を周りから冷やしていく魔法なのだが、幾ら外側から寒気を与えても、内から沸き上がる熱には意味が無かった。
 だから、もう箱を壊す事にした。パチュリー様のお気に入りだからなるべくやりたくは無かったが、もはやそうも言ってはいられない。左手に魔力を集中させ、金属の壁すら貫く槍を強くイメージする。レミリアお嬢様の技に似ているのは憧れからだ。イメージした槍がまばゆい炎として具現化される。この暑い中で炎とはとも思うが、これが一番の得意属性なのだ。
 炎の槍を壁に向かって投げつける。小型魔法を掛けられていても魔力量は変わらない。こんな箱を壊すことくらいわけないはずだ。技名は特に叫ばない。叫ぶ余裕なんて無い。でもそれも、これで終わりだ。箱を壊した事でパチュリー様に怒られるかもしれない。そうしたら家出してやろう。
 炎の槍が、壁に衝突した。
 壁は槍に貫かれ、轟音を立てて崩壊。そこから涼しい空気が入りこみ、私は晴れて自由の身になる。パチュリー様が心配そうに駆け寄り、何度も謝りながら治療をしてくれる。「箱、壊れちゃいました」と言うと、「ううん、そんな事どうでもいいの。貴方が無事で良かった」と目に涙を浮かべて言ってくれる。だから私も、ちょっと忘れられた事くらいどうでもよくなって、パチュリー様を許しちゃう。そうして二人で紅茶でも飲む、普通の素敵な日常が帰ってくる。
 そのはずだった。





「で、ここの魔力回路をこっちに繋げれば……」
「あ、成る程」
「流石だぜ……」
 三人の魔法使いは一つの机を囲い魔法談義をしていた。魔法の熟練度からパチュリーが一方的に二人に教える事が多かったのだが、魔理沙とアリスの持ち込んだ相談には新しい発見も多く、彼女としてもとても勉強になっていた。
「ほら、一段落ついた所でお茶でも飲もうぜ!私日本茶な!」
 魔理沙が大きく伸びをして言う。リクエストすれば何でも応えてくれると思っているのだろうか。
「無いわよ。紅茶でいいでしょ?」
 とはいえ、休憩を挟む事には大賛成なので軽くいなす。頭を使ったからというより、久々に長く喋ったのが疲労の理由だった。早急に喉を潤す必要があると感じられた。
「あ、クッキー焼いてきたの」
 アリスががさごそと鞄に手を入れて言う。わざわざ手土産を持ってくるとは、どこかの魔法使いにも見習わせたい。
「お、気が利くな」
 どこかの魔法使いが言う。こら、それは私の台詞だ。
 パチュリーは内心でつっこみながらティーポットから古い茶葉を捨る。茶筒を開けて新しい茶葉を中に入れ、湯を入れる。わざわざ沸かす必要は無い。魔法で湯のまま召喚できる。
「それにしても、パチュリー」
 一連の動作を見届けた後、アリスが思い出した、という具合に言った。
「何かしら?」
 抽出されるのを頬ずえ付いて待ちながらパチュリーは応える。
「私達が来た時、何を見てたのかしら?何かの箱みたいだったけど、私の方からだと良く見えな」
「いけない!」
 アリスの言葉を遮って、パチュリーは立ち上がる。話に夢中になって。すっかり忘れていた。中の無事を祈りつつ、電子レンジの方へ駆け寄る。血相を変えて走るパチュリーを見て、何事かと魔理沙とアリスも慌ててその後を追った。
「こあ!」
 電子レンジの目の前まで来たパチュリーは、勢い良く扉を開く。
 ぼんっという、何かが弾けた音がした。
 突沸。密閉された環境化では圧力は温度と共に上昇する。そして、圧力の上昇はそのまま沸点の上昇を意味する。つまり、室温での沸点を越えているにも関わらず液体が中々気体にならない、そういった現象が密室では起こり得るのだ。そんな状態の密室をいきなり開け放つと、圧力の低下とその衝撃により一気に液体が沸騰する。それが今、起こったのだ。小悪魔の血液で。
「…………」
 無残に四散した小悪魔を眺めながら、パチュリーはただ黙る事しか出来ない。目の前で起きた現象に、思考が追い付く事が出来ない。
 呆然としたまま中を眺めていると、壁についた焦げ跡に気が付いた。思考が滅茶苦茶であっても、パチュリーが優秀な魔法使いであることには変わりがない。それが瀕死の小悪魔が必死に放った魔法の一撃の跡であることはすぐに分かった。そして、その一撃が電子レンジの破壊に至らなかった理由が、小悪魔の自身の想像異常の疲弊と、パチュリーがレンジを覆うように掛けた水符が障壁になったからだとも。
 そんなパチュリーを見ながら、魔理沙もアリスも掛ける言葉を見つける事が出来なかった。安易な同情の台詞は、自分達が押しかけなければという自責の念が打ち消した。
 重苦しい静寂の中、パチュリーが一言だけ呟いた。
「おっチンだわね」
こんにちは、初投稿です。
小説自体を書くのが初めてなので拙い文章だとは思いますが、読んでくれた方々ありがとうございました。
これからもちょくちょく投稿していけたらなぁと考えています。名前の通り(分かりにくいですが)てゐとれいむが好きなので二人の話も書いていきたいです。
レンジでチンされた時に起こる内容ですが、色々調べたのですが正確にどうなるかを示す資料が無かったので、集めた知識を集約して想像で補完しました。
てゐれいせん
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コメント



0.560簡易評価
1.30名前が無い程度の能力削除
微妙
2.20名前が無い程度の能力削除
何でわざわざ後書きでオチの説明してるの?
3.無評価名前が無い程度の能力削除
後書きに半分嘘を感じる。
7.40とーなす削除
うーむ……ギャグというよりもブラックジョークかなあ。
はっきり言ってしまうと、これをギャグ作品として評価するにはパンチ力不足に思います。キャラが謂れのない虐めを受ける部分が強烈(ほのぼのした前半部とのギャップを含め)すぎ、かつオチにその部分を払拭するほどのインパクトが無い感じがします。
また、最後がやりたかっただけにしては途中が長く、またギャグ成分がほとんどなくてスカスカなのでだれてしまう。もっと脇を小ネタで固めるか、テンポよく纏めて5kbくらいのブラックジョークな掌編に纏めるかした方がよさげ。
9.10名前が無い程度の能力削除
小悪魔可哀想という感想は空気読めてないのかしら自分・・・
でもそうとしか思えない
あとがきか後日談的に小悪魔復活の小話でもあれば後味の悪い感じが無くなるんですけど
これもやっぱり作品の空気読んでないって感じなんですかね・・・
11.90名前が無い程度の能力削除
ギャグ?
13.40名前が無い程度の能力削除
これ小悪魔が爆死しただけじゃないか。
14.80名前が正体不明である程度の能力削除
創想話にようこそ!
15.無評価名前が無い程度の能力削除
注意書き入れろ。タグにグロ注意を足せ
それでネタバレになるならそれまでだろ
ここに投稿するもんじゃなかったってことだよ
たくっ、胸糞わりー。読むんじゃなかった
16.無評価てゐれいせん削除
>2
後書きで説明したのは、駄洒落をただ言わせるだけで作品を終えたので、そこを何もフォローしていなかったからです。もしかしたら分からない人もいるかもと思いました。

>4
ご指摘有難うございます。最後の洒落でなくただ小悪魔をチンしてみたくて書きました。ネタはもっと増やすよう心掛けます。

>10
三点リーダは偶数個が基本ですよ。

>16
なるべく簡潔に書いたのでグロテスクさはあまり無いと判断をしたのですが、気をつけます。
18.90名前が無い程度の能力削除
わりと面白かったですけど
ギャグの内容を後書きで説明するのもなんか締まらないと思います
19.無評価てゐれいせん削除
>13
あとがきのオチ説明部分カットしました
20.10名前が無い程度の能力削除
前半からのギャップを狙ったのでしょうね。わかるわかる。
グロければ中身無くともブラックジョーク。なるほどなるほど。
ちょっと科学的な要素も入れてインテリっぽく。うんうん。
小悪魔をチンしたくて.....と自分は異彩なキャラで。かっこいー。

ついでに、三点リーダーは偶数が基本......真偽はともかく、ネットで聞きかじった知識も忘れずにってね。はっはっは。

え?次回作?もう三年くらい成長してからの方がいいと思うよ。
21.無評価名前が無い程度の能力削除
久しぶりに最悪の気分
キャラ死に注意くらい入れときやがれ
ギャグでもなんでもねーよ
二度と来るなよ
22.10名前が無い程度の能力削除
何か書こうと思ったのですが
既に21さんが言いたいことを全部言って下さってました。
23.無評価名前が無い程度の能力削除
これは……
別のとこでやったほうがいい気がする。
あと、これはギャグなんですか?
全くギャグ要素を感じられず、
途中でギャグ、とタグにあったことを忘れてしまう程でした。

これじゃただこあちゃんが弾けとんで終わりじゃないですか。
28.無評価名前が無い程度の能力削除
やりたい演出のため(この作品の場合レンジでチン)だけに作品を書くには、そこの場面に持って行くまでの流れで苦労するものです。
それが奇抜な演出であればあるほど難易度は増します。
今回はその最たるものだと思いました。
こんな難しいものを
「これがやりたかっただけだろ」
と読者に気づかれずやりとげるには、残念ながら作者さんの実力が足りなかったのではないでしょうか。
科学的な考察文についても、その知識を書き連ねたかっただけと言う感じで、起こっている現象を延々説明されていると作品としてのテンポが若干落ちてしまっています。
ただこれは淡々とした説明と、小悪魔が無惨に死ぬと言う事象のギャップを感じさせようという演出とも言えますし、結局は加減の問題ですね。クドくならない程度なら良かったという話です。

諸々まとめると、不快に思う人も多いかもしれない、と客観的に自分の作品を評価できているべきだったのかと。
29.60名前が無い程度の能力削除
おそらく元ネタは『ネコを乾かすためにレンジでチン!』だと思うんですが、これがアメリカでジョークとされる理由は
その行為そのものではなく、その後の裁判において勝訴を勝ち取ったからなんですよね。
アメリカの行き過ぎた裁判制度を笑うための逸話という感じで。

この物語にしても、例えば後書きとかでこぁがひょっこりと現れて「あ~、びっくりした」なんてセリフでもあれば
ジョークで済まされるんですが、それがない。
そのためこぁの残虐なラストだけが浮き彫りになって読後に不快感しか残らないという結果になっています。
水符、火符、日符を使った電子レンジ起動は面白かったので、次はもう一工夫して頑張ってください。
30.10名前が無い程度の能力削除
オチのわりには無駄に長い
31.90名前が無い程度の能力削除
なかなかのグロでした。
ごちそうさまでした。
33.100名前が無い程度の能力削除
くっだらねえww
台無し加減がツボに入りましたw
34.無評価名前が無い程度の能力削除
キャラいじめ目的のSSはどうかと思う
36.30名前が無い程度の能力削除
チンされるのが妹紅やぐーやなら不快にならなかった。
死なないキャラがいるんだからそっちにすればギャグとして許容できたろうに。
いじめネタやりたいんなら掲示板の空気を読むことを考えなさいな。
38.無評価日間賀千尋削除
そんなに小悪魔嫌いなの?
嫌いなキャラ虐めたいなら貴様の脳内でやってろや。
40.無評価名前が無い程度の能力削除
別にグロそのものが悪いと言うわけではないんです。
話の展開上「グロもやむなし」と読者を納得させる何かがあれば。
またキャラへのちょっと歪んだ愛情表現の一つとして、いじめたり傷つけたりしたくなる気持ちになる人だって他にも居ます。
私だって共感できます。
でもその愛情表現は多少なりとも屈折したものであると、常識として理解しておくべきです。
例えるなら、自慰は誰だってやりますが、誰もがやるからと言って往来でおっぱじめれば逮捕されます。
かといって自分のためだけに書いて満足しろってことではなく、それを優先的に受け入れてくれる発表の場であげれば良かったという話です。
私の知る限りそういう場所はいくつかあります。
そういった場所に投稿して、初めて文章として面白いか否か評価を受けられます。
厳しい言い方ですが作者さんはまず、他人の気持ちを考えられる常識を持つべきだと思いました。
43.無評価名前が無い程度の能力削除
ボウヤ、ただの妄想はチラシの裏で留めておきな。
44.70名前が無い程度の能力削除
ここでこういう話を見るとは思っていなかったので良い口直しになりました。
ですがレンジに入った時に魔理沙達が来た辺りでこうなるのは読めてしまいましたね。
文章自体は割と好みなんですがそこからの落とし方があんまりにも弱かったのが残念です。
47.50がいすと削除
うーん、倫理観はたしかに0点なのだけれど、文章の質はこの東方創想話においては結構高い気がする。
私もこの手の話は苦手だし、成る程どうかと思う。また、ここの読者がキャラ愛が強いのもレスから良くわかった。
そういう意味で、簡易匿名最高点と同じ、50点はつけたい。
ようするに、パチュリーだけでなく、作者さん自体も力の使い方や使う場所を誤ってしまったのだと思う。
48.90名前が無い程度の能力削除
人選ぶかもしれんけど、アリじゃん?
49.100名前が無い程度の能力削除
50.80名前が無い程度の能力削除
最初からグロタグあればもっといっても良かった
51.100名前が無い程度の能力削除
作品の良し悪しを決めるのは倫理観の有り無しじゃなく、発想の良し悪しと文章の上手加減だと思うので
52.無評価名前が無い程度の能力削除
もっとリアリティを上げて、違うところに投稿すれば評価は高かった。
54.100名前が無い程度の能力削除
嫌いじゃないです
55.10名前が無い程度の能力削除
何を伝えたかったのかわからないです。ギャグにしては残忍すぎて笑えなかった。

これでは小悪魔嫌いなの?虐待したいの?と思われても仕方ないと思います。

けど文章自体はいいと思います。内容は不快でしたが。
60.50ナナシン削除
まぁ大丈夫じゃない?
腐っても悪魔だし