Coolier - 新生・東方創想話

『お手紙ゲーム』 『月を好きになった夜雀』

2012/02/01 16:17:52
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『新・幻想郷縁起』 ~娯楽~ より抜粋




 今、幻想郷で密かにあるゲームが話題となっている。
 その名も『お手紙ゲーム』
 発案者は氷の妖精、チルノであり、
 ゲームの設定に矛盾が無いよう森に住む人間、霧雨魔理沙が細かい是正をし、ゲームとなった。
 ルールはとても簡単。

 一、出題者と解答者にわかれる。
 ニ、問題の書かれた手紙を出題者が解答者に渡し、解答者はそれを解く
 三、制限時間以内に解けたら解答者の勝ち、解けなかったら出題者の勝ちである

 ただこれだけの事である。
 更に細かいルールとなると

 四、出題者の問題の範囲は、紙一枚と鉛筆一枚で出来るまでのことにする
 五、出題者が問題を出すときには、制限時間を設ける。制限時間は問題の難易度等、出題者が考慮し決める


 これはあくまでもゲームであり、勝敗にこだわってやることではない。
 本質はゲーム名からなる『お手紙』にある。
 つまり直接伝えづらい事や、改まって言うほどでもないことを
 なぞなぞや暗号で誤魔化し、相手に手紙で送るというものだ。
 これだけ説明してもかなり分かりづらいと思うので、例を3つ紹介して、この項を綴じさせてもらう。




例、一



 妖怪の山の麓にある湖で、妖精たちが戯れている、いつもの光景である。
 そんな中で力の強い妖精、通称大妖精と、発案者チルノの会話。


「チルノちゃん、はい、これ!」
「ん? あ、お手紙ゲーム?! わーい、いつまでに解けばいいの」
「うーんとね、今日私とチルノちゃんがバイバイする時までかな。でも、結構簡単だよ」
「本当に? どれどれ」



   かんあしたかんおまつりにかんいこうかん


       ヒント、かんぬき
                        』




「どう?」
「……あと、10分待って」
「あれ、そんなに…… 結構簡単にしたつもり……」
「わかったああああああ! 『かん』ぬきだあああああ。いいよ! 人里のお祭りだよね! 行こう行こう」
「……うん!」


 このように、子供たちが遊びに使い、明日の予定などを約束する時に使われる。
 チルノがこのゲームを思いついた理由というのが、文字の練習であったことから、寺子屋でも度々使われている。
 次はその例を上げてみよう。


例、ニ



 先ほど明記したとおり、寺子屋の教育者である上白沢慧音は、
 この『お手紙ゲーム』を授業によく使用しており、このゲームの一番のベテランである。




「ほらほら、宿題を集めるよ。皆持ってきて」
「せんせい、私、お手紙書いたよ。読んで。慧音先生ならすぐ解けちゃうかもー」
「お、いいぞ、見せてごらん。ふむ……」


『慧音先生へ


  わたしは、昨日いっぱい勉強をしました
  テストが近いからです
  頑張れば百点を取れるかもしれないです
  すごくたのしみです         』



「うん、よく出来てるな。昨日勉強をいっぱいしたのか」
「はい!」
「よしよし、この手紙もよく出来てる。斜め読みだな」
「はい!」
「じゃあ頭突きだ」
「えーっ、なんで! 今褒めてくれたのに」
「それとこれとは別。確かに今日のテストは百点だし、この手紙も良く出来てるが、宿題を『わすれた』ことにはかわりない。ほら頭出しなさい」
「そんなー ひどいー」


 授業の一環でも取り扱っているが、このように個人的に出題する生徒もいるようだ。
 頭が柔らかくなるし、物事を色々な面で考えられるように応用力もつく。それにどうやったら解きやすいか
 相手を思いやる事もできる、とてもいい遊びだ、と上白沢慧音は語っていた。




例、三

 友達同士の約束や、授業になども使われているこのゲーム。
 時に重大なことに使われている場合もあるそうだ。



「居るかしら」
「ん、座るとこは自分で作って座ってくれ」
「いいわ、今日は、その。これを渡しに来ただけだから」
「お? もしかして、『お手紙ゲーム』か。珍しいな、アリスがそういうの」
「い、いいから受け取りなさいよ!」
「うん。いつまでに解けばいい?」
「……いつでも」
「え、何だって?」
「えーっと、三日後よ。それ以上は待たないから! これ以上待たせるといい加減怒るわよ! じゃあね」
「なんだよ、あいつ。さて、どんなものかな」


『魔理沙へ、


  一、1  ニ、1  ニ、3  四、4  三、9
 
                   一から五、1から11まで』




――三日後



「よ、待たせたな」
「いいいいい、いいいい、い、らっしゃい」
「慌てすぎだろ。はい、今度は私からだ。受け取ってくれ。制限時間は三分以内」
「え、え、ちょっと、どういう事よ。まだ貴方答えてないじゃない」
「結構、面白かったぜ。50音か。漢数字が母音の『あ』から『お』、
 普通の数字が子音の『あ』から『ん』まで数えた数ってことだな」



『アリスへ 

 一、10  一、4  ニ、3  五、7 』


「……わ、……た、し……も……?」
「あぁ、待たせて悪かったな、アリス。その……『わたしも』、お前を『あいしてる』」
「……魔理沙!」
→はっぴーえんど


 と、なんと愛の告白までこのゲームを使用したカップルが存在した。
 この話をしてくれた霧雨魔理沙に謝意を表する。


 以上が、『お手紙ゲーム』というゲームの説明である。




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『月を好きになった夜雀』










 椅子と机を作り終えて河童は帰っていった。
 最近店に来る客が多く、屋台に備え付けの椅子じゃ足りなくなってしまったので、河童に頼んだのだ。
 私の鰻を、できれば座ってゆっくり味わってもらいたい。
 人がいっぱいで断ったこともあったが食い物屋としては不親切だ。
 なので、屋台とは別に持ち運びしやすい椅子と机を作ってもらった。これで備え付けも合わせて十人は座れるだろう。
 専門外とはいえ、河童が作るものは出来がいい。今度来たときはサービスしてあげよう。
 もう空が朱から闇に染まりつつある。月は目立ち始め、夜の静けさと共に虫の音色がやってくる。
 いい夜。歌いたいな。
 でもそろそろ客が来始める頃だから下準備だけ済ませてしまおう。
 おっと、外から賑やかな声が。


「きたよー、なんか外に机と椅子があったね。店舗拡大?」
「いいねぇ、積極的に商売やる妖怪なんてあんまりいないよ。早速、鰻もらおうか。こいつの瓢箪があるから酒はいらんぞ」
「いらっしゃいませー、相変わらずお二人仲がよろしくて…… あ、にとりさん」
「や、やっほー、さっきぶりだね。帰ろうと思ったら捕まっちゃったよ……」


 常連客の鬼二人と、さっきうちの椅子と机を作ってくれたにとりさん。
 顔がひきつってるわ。


「よしにとり、あれやるぞ。私の瓢箪から溢れ出る酒を河童に一分間絶え間なく流しこむ実験」
「か、河童は実験ってつければ何でも興味を持つと思わないで下さい! というかそれただのほぼ上限がない一気飲みじゃないですか!」
「なんだ萃香、面白い事思いつくじゃないか。どれ河童、やってみようか。私たちの言うことが聞けないのか?」
「ぱ、パワハラだ!」
「何いってるのかねぇ。嫌がらせじゃなくて面白そうだからやってるんだよ。ほれ」
「あはは、勇儀、正直だねえ」
「鬼だからな」
「本当に? 偶然! 私も鬼なんだ!」
「「あははははは!」」
「がばばばっばばぼぼぼぶぶ」


 うわあ、鬼に金棒ならぬ鬼に瓢箪だな。
 上司がこんなんで山の社会は大変そう。
 

「ありゃ、にとりもう倒れちゃったよ」
「河童は弱いねえ。どれ、外の椅子の上に寝かせてくる」


 良かったですね、にとりさん。早速貴方が作ってくれた椅子が役に立ちました。
 使ってるの貴方ですけど。


「んー美味い美味い。あつあつが出てくるからここはいいねえ」
「眼の前で焼いてますからね。屋台のいいところはそれですよー」
「おい、萃香。ふと思いだしたんだが…… 今日、山の神んところ行く約束だったな」
「あーそういえば、山をちゃんと治められてるか確認ついでに飲み比べしようとしてたんだったね」
「だよな。そういうことなんで、悪いね。約束は破れないんだ。その、今焼いてるやつのお代も払うから、おかみさんが食べておくれ」
「じゃあまたね。今度はゆっくりさせてもらうよ。おかみさんの歌も聞きたいし」
「お待ちしておりまーす」

 まさに嵐が去ったとはこの事。
 残ったのは焼き途中の鰻。別にお代良かったのに。なんだか悪い事したな。



「やっているかい?」
「いらっしゃいませー ……お一人ですか?」
「珍しい? ……ところで外で河童が溺れていたんだけど」
「あ、にとりさんも残っていたか。ほっといて大丈夫ですよ。いつものことなんで」
「河童はいつも溺れるものなのか。まぁいい、冷やをいただこうかな」
「はい。そうだ、この鰻はサービスなんでどうぞ。多く焼いてしまったんです」
「そうか、それなら頂こう。……というか、静かだね。以前出会ったときと全然違う」
「あはは、そうですか? ……はいどうぞ。静かなのは貴方の影響かも」
「いただきます、ふむ、演奏はしていないんだが」
「あなたの落ち着いてる雰囲気の……ですよ。帽子、預かります」
「ありがとう ……うん、美味しいな。それに、酒はやはり静かに飲むものだ。一人で、君と話す位が丁度いい」


 そう言って目をつぶり、夜の音を楽しむ騒霊姉妹の長女。
 揺れる金髪、綺麗な顔立ち、それに彼女が醸しだす独特の雰囲気に、
 私は不覚にも少しときめいてしまった。


「そ、そうですか」
「あぁ、妹達を連れて来なくてよかった。あれらは騒々しいから」
「騒霊なのに、貴方は静かすぎるんですよ」
「ふふ、そうかもしれないね」


 そうして、笑顔。
 一度意識するとこういうのは抑えられないもんなのだろうか。
 とても、綺麗。


「あの、ルナサさん」
「……なに? 名前で呼ばれるのは初めてだね」
「い、嫌でしたか?」
「いや、全く。それで?」
「また、来て下さい。貴方の…… 雰囲気が好きになりました」
「……これまた直球だね。良いよ。私も気に入ったし、また来るよ」
「……はい、お待ちしております、帽子です」
「どうも、ご馳走様」
「月」
「ん?」
「月、好きなんですか? 帽子についてる」
「……うん、月は静かに輝く。静かながらも皆に見られ、評価される。私はそういう風になりたいと思っているんだ」
「いい、ですね」
「そうかい? それじゃあまた、静かな夜に」
「はい」



 ……直球過ぎたかな。
 今になって顔が火照る。うわー好きですとか言っちゃった。
 なんか、上手く話せなかったなあ。私らしくもない。
 恥ずかしい。
 なんでだろ、たった少しだけ話しただけなのに、ルナサさんの事が頭から離れない
 ……歌おう。
 歌って一旦冷静になろう。


「ひとめー みたときー すーきーにー……」
「みすちいいいいいいい」
「うわ、に、にとりさん。起きたんですか」
「ひどいよー…… た、たすけてくれたって、いいじゃ、ない、ぅおえっ」
「あ、ここでもどさないで! 川に行って川!」


 ふぅ、夜はこれからだ。
 これから忙しくなる、ピークに合わせて準備しなくっちゃ。


「おーい」
「はーい、いらっしゃいませー」






――――――――――





 昨日は忙しかった。
 椅子と机がいつもよりある分、留まる客が多いということになる。
 そういえば、椅子と机があるから移動しにくくなっちゃったな。
 まぁ、人里が近いこの森の近くは何かと便利だ。
 いつもより多めの買出しをし屋台に帰ると、
 そこには昨日、私の心を動かした彼女がいた。


「やぁ」
「あ……昨日は、どうも」
「屋台を閉めるのは、どれくらいになるの?」
「丑の刻くらいですかね…… 結構不定期ですけど」
「そう、じゃあそれくらいに来るよ。またね」


 それだけ言ってあっさり帰ってしまう。
 その間、私は何か気の効いたことを言おうか考えていたのだけれど、何も出来なかった。
 小さく、待ってます、と言ったが彼女には聞こえていただろうか。
 なんでお店が閉まってから来るのかが不思議だった。
 お店を閉めた後に来るんだったら、鰻やお酒目的じゃないのかな。
 ……言いたいことが会えないときに限ってどんどん出てくる。
 実際あったとき、私の言葉は出てきてくれるだろうか。
 普段幻想郷を練り歩き、即興の歌を作って歌っている私とは思えないほどの弱気な発言だ。
 ……さ、準備準備。今日も昨日みたいに忙しくなるぞっ。







「にとりさーん、起きて。片付けらんないよ」
「みすちいいいいい、もう、あの鬼たちどうにかしてよおおおおお」
「いや、私には無理ですって」


 ふぅ、今日も終わった。
 あっという間だったな。この忙しさがずっととなるとさすがに滅入っちゃうな。
 これから改善しなくちゃいけなくなる。
 とりあえず、明日はお休みにしよう。


「本当に…… あの、ばかおにたちは…… ぐっ、う、ぉえ、帰るねっ。ていうか川に行ってくるねっ」
「あー、はい、いってらっしゃい」


 一人になり、辺りはしんとは静まり返って
 ごそごそと私が後片付けをする音だけがする。
 そろそろ来きそうだ、私は何故か本能的にそれを感じた。
 夜空には静かに主張している月がいる。
 それはルナサさんを想像させる。これから夜が来るたびに考えてしまうのだろうか。
 

「ご苦労様、月を見ているの?」
「あ、は、はい。綺麗だなって」
「そう。ふふ、片付け手伝おうか」
「いや、そんな、悪いです。それにもう、終わりますからっ」


 急いで片付けを済ます。
 今から何をするのか、何が起きるのかわからないけど
 二人きりのこの静かな時間をルナサさんと過ごしたい。


「この後、時間ある? というか、無かったら私が来た意味が無いんだけど」
「も、もちろんっ。明日はちょうど休もうと思ってたので、買出しも急ぎじゃなくていいですし」
「本当? 良かった。じゃあ付いてきて、あ、この椅子を借りていってもいい?」
「え、ええ? どうぞ」


 そう言い、ふわりと飛び去ってしまう。
 私は慌ててその背中を追いかける。こういう時は隣にいってもいいのだろうか。
 そんなことを考えているうちに着いたのは、大きな木の根元。
 そこにはぽつん、と楽器が立てかけてある。
 バイオリンより大きいこれは…… えー、と。チェロかな。


「チェロ……ですか」
「流石。歌を嗜んでいるだけあって、楽器にも詳しいね」
「いや、たまたま見たことがあっただけです」
「本当は持ってこようと思ったんだけど、重くってね。よいしょ」


 これをうんうん唸りながら運んでいるルナサさんを想像し、少し頬が緩む。


「君に、曲を贈ろうかと。ちゃんと私が演奏するよ」
「わ、私に…… そんな、え、どうしてですか?」
「君が私の雰囲気を好きだと言ってくれたからね」
「あ、う……」
「柄にもなく、少し嬉しくてね。この夜にぴったりな静かな曲を贈りたいんだ。いいかな」
「そんな、嬉しい。……ぜひ」


 まさか、わざわざ私のために運んで来てくれてなんて。
 持ってきた椅子に腰掛ける月の帽子の少女。
 楽器を構える彼女の表情は真剣ながらも妖美で少し、憂いげであった。
 もちろん、どきっとする。
 チェロの音が、夜の森に響く。
 あぁ、たったひとつの楽器でこれだけ心が落ち着くものなのか。
 高く響くチェロの音は、私の心を弾ませてくれる。
 低く響くチェロの音は、私の心を和ませてくれる。
 彼女の演奏した音は私を魅了させる。
 なんて、心地の良い音。
 なんて、魅惑的な音。
 演奏が終わると私は無意識に彼女へ送るため、拍手をしていた。


「すごい、とても綺麗でした。……なんと言っていいかわからない程」
「その感想はとても嬉しい。楽器の音色というのは言葉で表すほど簡単じゃないからね」
「はい、その、私が言うのも何ですけど、大きくて激しい音じゃなくて静かな音でも存在感というのは確立できるものなんですね」
「そこまでベタぼめだと照れるよ。ありがとう」
「いえ、私の方こそ、ありがとうございます。私のなんかの為に……」
「わざわざ自分を卑下することはない。それと、頼みがあるんだけど」
「な、なんでしょう、私に出来ることなら何でもっ」
「歌ってくれないか。私のために」
「え?! 私がですか……」
「ダメかな」
「いえ、でも……」
「君の歌が聞きたいんだ」


 そんな風に言われて断れる訳ないでしょ。
 ずるいなぁ。でも、嬉しいなぁ。


「じゃ、じゃあ僭越ながら」
「ふふ、お願いするよ」



――――――――――



 歌い終わり、彼女の方を見やる。
 なにか驚いたような顔をしてるけど……
 気に入ってくれなかったのかな。


「その……」
「あ、ごめん。素晴らしかったよ」
「……本当のこと言っていいんですよ」
「いや、本当だよ。正直驚いていたんだ。君はこんなにも落ち着いて、感情を込めて歌えるんだね。すごく感動した」
「……はい。貴方のことを想い、歌を選んで歌いました」
「…………そ、うか。ありがとう。以前私が言ったこと、覚えていてくれたんだね」
「えぇ」
「ふふ、元気な曲を歌うと思ったから。びっくりしたよ」


 また、そんな風に笑う。
 ばか。


「じゃあ、今度は一緒にやろう」
「え?」
「私が演奏するから、君が歌うんだ。……そうだな、それにはこっちがいい」


 ぽん、とバイオリンが現れる。
 彼女のおなじみの姿だ。
 そして始まった演奏会。
 歌って、演奏して、笑い合って、私と彼女は手をとりあって音を楽しんだ。
 とても楽しくて、これがもう幻想なのかと勘違いしてしまうほど楽しくて。
 気づいたらもう空に月は目立たず、辺りは明るくなっていて。
 また今度店に行くよ、と言って彼女は言ったけど。
 別れる時間は辛くて、苦しくて。
 私に笑顔を残し彼女は帰っていった。
 ……私も屋台に戻らないと。


「あ、おかえり…… ちょっと座らせてもらってるよ」
「……現実に戻してくれて、どうも……」
「え、何の話? うぷ」
「なんでもないです。早く帰ってくださいね」
「み、みすちーが冷たい」


 そこには二日酔いに悩まされるにとりさんがいた。
 一気に私を現実に戻した彼女は昼を過ぎた頃、山に戻っていった。
 今度は鬼に見つからないといいわね。


「ふぅ」


 今夜は店を開けないことにしたので、今日は一日暇だ。
 買出しも明日やればいい。
 昨日の大きな木の所まで行き、枝に座り一息つく。
 歌でも歌いながら、気持ちの整理をしよう。
 といっても、明確すぎる気持ちのことだが。
 私は彼女に惚れた。
 私は、ルナサ・プリズムリバーの事を好きになった。
 たった二日間で。
 彼女の醸し出す大人びた雰囲気、楽器の音色、そして彼女の言動、行動、笑顔。
 全てにおいてやられた。惚れてしまった。
 彼女と一緒に居たい。
 どうしたらいいのだろう。彼女に伝えていいのだろうか。嫌われないだろうか。
 伝えるとしたら、どうやって? 告白? まさか、歌で? そんな事私に出来るだろうか。
 彼女は喜んで、感動したと言ってくれたけど。
 あぁ、もやもやするなぁ。


「よっと、もやもやする歌が聞こえてきたので来ました。歌の途中で失礼します」
「あ、あら、どうも」
「清く正し…… 言うのめんどいですね。ちょっとお聞きしたいことが」
「な……何ですか」
「昨日ここらへんで演奏会があったみたいなんですよ。しかも歌付きの」
「それを…… どこで?」
「妖精たちが噂してたんですよ。本当かどうか形跡だけでも、と確かめに来たらここで貴方が歌っていたんです」
「そう……」
「教えてください。昨日、何があったんですか?」
「彼女が演奏して、私が歌っていただけよ。別に記事になることではないわ」
「ふーん、そうですか。演奏したのは三人全員ですか?」
「……そうよ」
「嘘ですね。メルランさんとリリカさんはソロ公演で今は白玉楼、命蓮寺に居るはずです」
「……カマかけたの?」
「いえ、確認ですよ、確認」
「無礼な鳥ね……」
「ってことは貴方と長女のルナサさん二人きりだったんですね。昨日は」
「そうよ、もういいでしょ。あっち行ってよ」 
「……仲いいですね。どういう関係で」
「べ、別にまだどんな関係でもないわよ」
「まだ、まだって言いましたね、いま! まだって!」
「あぁ、本当にもう、どっか行ってよ」
「どうせ好きだって告白していないんでしょう? チキンなんだから」
「貴方もでしょうに」
「はい、そんな貴方に、『お手紙ゲーム』って知っていますか?」
「……なにそれ」


 記者は私にその遊びの説明をした。
 こんなものが流行っていたのね。全然知らなかった。


「それで?」
「だから、これで彼女のハートを射止めちゃいましょう。魔理沙さんの時は記事にできなかったのですが、今回こそは!」
「結局自分の為なのね。はい、帰って。歌が聞きたいのなら黙ってここにいなさい」
「ちぇー じゃあお手紙を渡すときは私に言ってくださいね。見に来ますんで、じゃあ」


 そう私に言い残し、翼を広げ一瞬で飛び立っていく。言うわけ無いでしょう。
 でも、手紙なら言いやすいかも…… それにそういうゲームがあるんだったなら……






――――――――――




 今夜も店は繁盛した。
 今日はにとりさんがいない。逃げ切れたんだね。
 忙しいけど、どこか物足りない。
 最後まで残った鬼たちが帰り、辺りは静まり返る。
 ふと、月を見る。今日も綺麗。
 来ないかな……
 静かに輝いてる月にすっと影が出来た。
 私はわざとその影を気付かないふりをして、片付けをすすめる。
 

「こんばんわ。今夜も良い月だよ」
「あ、いらっしゃいませ。そうですね、私もさっき見惚れちゃいました」
「こんな遅くにきて良かったかな」
「えぇ、それに、その、閉店間際のほうが静かに二人で話せますよ……?」
「確かにそうだ。やはり酒は静かな方がいい。冷やを」


 今夜も来てくれた。さっき月を見ていたのは貴方が恋しかったからです。
 二人、だけの時間。えへへ。
 

「どうぞ、……その、外の机片付けてくるんで、ごゆっくり」
「あぁ、ありがとう」


 やはり、意識してしまうと緊張してしまう。
 彼女のことを好きになれば好きになるほど、それは大きくなる。


「手伝おうか」
「いや、大丈夫です。お客さんにそんな事……」
「いいんだよ、それに私は君に会いに来たんだ」
「…………はい、じゃあ、お願いします」


 そんなことを言われたら私はどういう顔をすればいいの?
 私にはわからない。貴方がどういう気持ちでそう言っているのかが。


「よし、こんなものか」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ座ってゆっくり話でもしよう。君に渡したいものがあるんだ」
「え?」


 彼女はそう言って屋台に戻っていった。
 渡したい物? 
 なんだろう。顔がほころぶ。彼女からプレゼントなんて。


「そうそう、『お手紙ゲーム』って知ってる?」
「え、えぇ」


 ついさっき知ったんだけど。
 ……まさか。


「なら良かった。はい、これは君への手紙だ」
「え、あ、ありがとうございます」
「えー、と制限時間を決めるんだよね。じゃあ、私がこれを飲み終わるまでに」
「はい、じゃ、じゃあ早速」


 彼女は私に何を伝えたいというのだろうか。
 期待と不安。でも彼女の想いだ。ちゃんと読まなきゃ。






『ミスティア・ローレライ様へ

   貴方は私にとっての月である。
   私は貴方にとっての月でありたい。

          ルナサ・プリズムリバー』












「どう?」
「え? どうって、これ……」
「残念、私はもう飲み終わってしまったよ。私の勝ちだ。じゃあまたね」
「いや、待って! ルナサさん!」


 彼女はそう言って出ていってしまう。
 このまま行かせちゃいけない。私は彼女の肩ををつかみ制止する。


「行かないで! 私も……!」
「あ、いや……」
「…………照れてる」
「……」
「ルナサさんが、照れてる」
「こ、こういうのは初めてなんだ……」
「顔、真っ赤ですよ」
「う……」
「……ルナサさん、私も渡したいものがあるんです」
「……なに?」
「これを」
「手紙……」
「制限時間は…… 私が貴方を抱きしめるまで」
「え? それって、うわ」


 嬉しい。離したくない。
 貴方と私は。
 

「ま、まだ手紙読んでいないんだけど」
「もう読んでも遅いですよ。私、もう抱きついちゃっていますから」
「そうだけど…… 読むよ」




『ルナサ・プリズムリバー様へ

    私は月が好きです。
    それは、空に浮かんでいるものでもなく
    帽子についてる月でもない。

              ミスティア・ローレライ』




「私にとって、ルナサさんはもう、十分輝いています」
「……うん」
「わ、私にとって、貴方は、月です。私は、その月が、好きなんです」
「そう…… 私にとってもミスティア、君は月だ」
「はい…… ありがとう、ございます」





 そう言ってルナサさんは私のことを抱きしめ返してくれた。
 そして、私の涙だらけの顔にそっと口づけを交わして、
 お酒臭いかも、と今までにない、すごく照れくさそうな顔で笑った。
 


 何も考えられなくなる一方で、私はどこかでかしゃりという音がしたのを聞いた。








『月を好きになった夜雀』
終わり
もちろん、射命丸はあの後ルナサのところにも行きましたよ。
記事のために。
それと、前半に設定を組み込ませてもらいました。
この設定でもう一話執筆しています。
読んでいただきありがとうございました。
あと、にとりは好きです。こんな扱いだけど好きです。本当に。

追記:誤字訂正しましたー ありがとうございます。
ばかのひ
http://www.pixiv.net/member.php?id=2198302
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コメント



0.680簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
てっきり、今夜は月が綺麗ですね的な流れになるのかと思いました
静かな雰囲気が良かったです
2.100名前が正体不明である程度の能力削除
このルナサの話し方は好き。
3.100名前が無い程度の能力削除
最後のルナサかわえぇ
次回作も期待
4.100名前が無い程度の能力削除
けーね容赦なし(笑)
5.100名前が無い程度の能力削除
このルナサいいね~
良い雰囲気のお話でした。
6.100名前が無い程度の能力削除
この組み合わせは・・・!
文ちゃん、良い仕事をしましたねw
7.100名前が無い程度の能力削除
面白いぜ
9.無評価名前が無い程度の能力削除
静かな雰囲気がとてもいいですね。大人って感じがします。
11.100愚迂多良童子削除
ヒューッ! 女将さんやるねえ。
>>こいつの瓢箪がいるから
あるから?
16.70名前が無い程度の能力削除
こういう珍しい組み合わせは好きよ
18.80とーなす削除
いい感じにしっとりした恋愛話でした。
20.100名前が無い程度の能力削除
照れるルナサにきゅんとなった
21.100名前が無い程度の能力削除
仕事終わりの疲れた身体に染み入る物語でした。
大好き。
22.100名前が無い程度の能力削除
平安時代の和歌みたい。素敵。
24.100名前が無い程度の能力削除
射命丸GJ!!
25.100名前が無い程度の能力削除
純粋にお手紙ゲーム面白そう。こっちの世界でも流行ればいいのに
27.100名前が無い程度の能力削除
うほっ!いやはや!うひひひひひ!最高じゃ!
31.100名前が無い程度の能力削除
何よりもにとりが可愛かった
35.100名前が無い程度の能力削除
よいじゃない