Coolier - 新生・東方創想話

伝える温度、伝わる想い

2012/01/31 01:32:19
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 十六夜咲夜が一日にこなす仕事の量は膨大だ。
 炊事、洗濯、掃除、買い出し、それに加えて主の身の回りの世話や、働くことに熱心でない部下への叱咤、様々である。
 季節はもう、そんな咲夜の吐く溜息が白く空へと溶ける頃。流れる風が耳を刺し、芯まで凍らせる、そんな日であった。

「あぁ、嫌な季節だわ」

 買い物かごを両の手にぶら下げ、咲夜は独りごちる。すんすんと鼻を鳴らしながら紅魔館へ向かう咲夜の表情は、どこか沈鬱。
 今日何度目になるかわからない溜息を吐いてみても、気分は明るくはならない。それでも、みんなの前では表情に出すまいと咲夜は軽く頭を振った。

「ただいま」
「お帰りなさい、咲夜さん」

 門前に降り立ち、部下に帰宅を告げる。
 にこやかな表情で咲夜を迎えたのは、紅美鈴。紅魔館で門番をしている人物だった。

「今日も寒いですね」
「ほんとね。嫌になっちゃう」
「あ、荷物持ちますよ」
「ん、ありがと」

 何気ない、いつもどおりの会話の中で咲夜は美鈴に荷物を手渡そうとした。
 ――その時。

「つっ……!」

 咲夜の顔に一瞬の苦痛。美鈴はそれを見逃さなかった。

「どうしました、咲夜さん?」
「……いえ、なんでもないわ。ありがと、ここでいいわよ。引き続き門番お願いね」
「あ――」

 打ち切るように咲夜は館内へと消えていった。
 残された美鈴は、伸ばした手を宙ぶらりんに立ち尽くしていた。







「あぁ、いけないいけない」

 厨房に入り、食材をしまい込む中、咲夜は先ほどの失態を悔やんでいた。
 咲夜は周りの人間に弱みを見せることを嫌う。それは、彼女の主であるレミリア・スカーレットという存在に起因する。

「私は誇り高き、レミリア・スカーレットの従者。いつだって完璧でいなくちゃ……」

 自分に言い聞かせるようにつぶやいた言葉。そうして咲夜は、いつの間にかうなだれていた顔を上げる。

「さ、おゆはんの準備をしなくっちゃ」

 どこか覚悟めいた表情を浮かべ、咲夜は手袋を外した。







 夕食が終わり、紅魔館は徐々に一日の終わりへと向かっていく。
 風呂に入る者、部屋で読書をする者、音楽を聴く者、様々である。
 割合自由な生活を送ることのできる紅魔館であるが、門番部隊だけはそれに当てはまらない。いつなんどき、泥棒が現れるかはわからないのだ。
 とはいえ平和な幻想郷。今日そこまで厳重な警備を強いる必要はもはやないのだが、門番は門番のライフスタイルがあるのだろう。美鈴は相も変わらず門の前で警備を続けていた。

「美鈴」
「あ、咲夜さん」

 凛とした表情で門前に佇んでいた美鈴だったが、咲夜を見て頬をゆるませた。

「あなたも物好きで、馬鹿ね」
「いきなりご挨拶ですねぇ」
「だってそうでしょ? せっかくの交代制なんだから、わざわざ引き受けなくたって」

 美鈴はよく仕事をサボるというイメージは、これが原因であった。
 一日が眠りについても、終わりがないのが門番という仕事だ。ゆえに、門番は美鈴をトップに交代制を敷いている。
 それなのに、美鈴は夜のシフトも自ら買って出ているのだ。

「好きでやっているんですよ」
「だーかーら、物好きで馬鹿って言ったの」
「なるほど――って馬鹿は余計じゃ?」
「余計なもんですか。あなたは優しすぎなのよ。部下想いも程々にしなさい。体を壊しちゃうわよ」

 ぐいぐい詰め寄る咲夜に美鈴は少し困惑気味。

「全くもう」
「たはは……」
「ま、いいわ。差し入れを持ってきたのよ。今準備するわね」
「ありがとうございます」

 シートをひろげてテキパキと準備をする咲夜。その後ろ姿を見て、美鈴はぽつりとつぶやいた。

「……まぁ、それだけじゃないんですけどね」
「なんか言った?」
「いえ、なにも」
「? できたわよ。いらっしゃい」
「はーい」







「わぁー」

 美鈴はきらきらした目で、いそいそとサンドウィッチを取り出し、包みを開ける。その横で咲夜は水筒から温かい紅茶を注いでいた。

「んぅ~!」

 差し入れを口にした美鈴が目を細めて言う。

「シャキシャキとしたレタスとハムの塩味が後から顔を出すバターの風味、マヨと上手く合わさって絶品です!」
「そ、良かったわね」
「えぇ、良かったです」

 一呼吸置いて、美鈴は言った。

「――これで咲夜さんが隠し事をしないでくれたら、もっと最高なんですけどね」

 紅茶を淹れる手が止まる。

「なんのことかしら?」
「バレバレですよ、全く……咲夜さんは頑張り過ぎです。さっき咲夜さんは私のことを馬鹿って言いましたけど、咲夜さんの方がよっぽど馬鹿です」
「カチーン、なんで私が馬鹿なのよ」
「馬鹿じゃないんですか?」
「馬鹿じゃないわ」
「へー、じゃあ手袋外してくださいよ」

 う、と咲夜は言葉を詰まらせた。
 バレている。
 そう気付いたのだ。

「……やだ」
「外してください」
「やーだ」

 ぷい、とそっぽを向く咲夜。

「子どもですか! えーい実力行使!」
「きゃー! やめて、やめなさいよ!」
「とりゃっ!」
「あんっ」

 するりと外された手袋の下は、痛々しいほどに荒れていた。

「うぅ……」
「あーあー、こんなになるまで放っておいて!」
「これでもケアはしてるわよ! でも、水仕事が多いから……」
「はぁ……ちょっと待っててください」

 溜め息を吐きながら美鈴は詰め所に消えた。
 そして戻ってきた美鈴の手には小さなボトル。

「それは?」
「ハンドクリームです。私特製の。漢方薬入りだから効きますよ」

 そう言って美鈴は、すっと咲夜の手を取り、自分の手と一緒にそれを塗り出した。

「ちょちょちょ、ちょっと!?」

 咲夜は慌てて制止を試みるも、美鈴は無視。

「怪我を隠しちゃうような真似をする子どもには、無理やりするくらいでちょうどいいんです」

 ぬりぬり。
 ぬりぬり。

「むぅ……」

 悔しいが、気持ちいい。
 咲夜は諦めた表情で、溜め息を吐いた。

「……ねぇ、咲夜さん?」

 視線は手に置いたまま。美鈴はつぶやく。

「お嬢様の手前、カッコつけたいのはわかりますけど、それじゃ疲れちゃいますよ。せめて、私の前くらいでは、弱いところを見せてくれてもいいんじゃないですか?」

 ね? と。
 そう言って咲夜の目を見る美鈴。
 咲夜はなんだか恥ずかしくて、目を背けた。

「……あ、弱点発見。目を見つめられるの、だめなんですね」
「そんな、こと、ない、わょ……」

 そう言う咲夜の顔は真っ赤っか。

「……馬鹿」
「あー、また馬鹿って言った」
「だって美鈴が馬鹿なんだもの。バカバカ」

 咲夜が予想していた反論は、なかった。

「……まぁ、馬鹿かもしれないですけどね」
「美鈴?」
「ねぇ、咲夜さん」
「なによ」

 美鈴の視線は、いつの間にか咲夜から外れていた。

「わた、私が、夜の当番を引き受けてる理由が、こうして咲夜さんに逢うため、だって言ったら……やっぱり、私って、馬鹿でしょうか?」
「んにゃっ……!」

 赤い顔で、にへらと笑みを浮かべる美鈴と、これまた赤い顔で口をパクパクさせる咲夜。
 再び視線がぶつかる。
 手はつながったまま。

「……か」
「え?」
「おおばかって言ったの! 馬鹿!」

 言葉とは裏腹に、ハンドクリームを塗りこむ咲夜の手が、それに応えるように動いていた。

「……えへへ、ごめんなさい」
「……馬鹿」

 凍える季節、紅魔館の門の前だけは、なんだか暖かかった。







 了
こんばんはづきで御座います。

ストレートなめーさく。
『手袋』『弱点発見』というお題を使い50分で書き上げるという企画ものを加筆修正。

少しでも愉しんでいただけたのであれば、それが私のロマン。
葉月でした。
葉月ヴァンホーテン
http://hadukian.web.fc2.com/c82.html
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コメント



0.2600簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
寝る前最後の一品に、おいしいめーさくをいただきました。
ごちそうさまでした
6.100名前が無い程度の能力削除
めーさく料理、確かにいただきました。ごちそうさまです。
これで朝食が浮いた。
10.100白銀狼削除
貴方のロマン、確かに伝わりました。
ご馳走様でした!!!
12.90奇声を発する程度の能力削除
とても素晴らしかったです
ごちそうさまでした
15.100名前が無い程度の能力削除
こういう暖かくなる感じ、大好物です

御馳走様でした
20.無評価名前が無い程度の能力削除
これは美味なり!もう思い残すことはない

ご馳走様でした!!!
21.100名前が無い程度の能力削除
おっと評価し忘れてた
22.80名前が無い程度の能力削除
こんな紅魔館に就職したい…
ご馳走様でした!!
30.100名前が正体不明である程度の能力削除
ごちそーさまなんてしない。
おかわり!
34.100名前が無い程度の能力削除
あ゛ま゛っ!
36.100名前が無い程度の能力削除
》んにゃっ……!
(アカン)
41.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんが乙女かわいい!!
48.100名前が無い程度の能力削除
まだ足りん おかわりだ もっとだ
50.90がいすと削除
漢方入りハンドクリームとなッ!?
ハンドクリーム、水仕事をすると結構欲しくなる。シアバターは塗った後が心地いいけど硬くて使い勝手悪いのがなぁ……
そうか、漢方入り。匂いが気になる。
53.100名前が無い程度の能力削除
ストレート、だがそれがいい
御馳走様でした
55.無評価葉月ヴァンホーテン削除
>1
ありがとうございました!

>6
お粗末さまでした!

>白銀狼さん
伝わってよかったです。

>奇声を発する程度の能力さん
愉しんでいただけて何よりです。

>15
これからも書いていきたいと思います。

>20
ありがとうございます!

>22
はたから見てても恥ずかしくなっちゃいそうです。

>名前が正体不明である程度の能力さん
すいません、おかわりは来月からなんですよ。

>34
渋い緑茶でもどうぞ。

>36
咲夜ちゃんはカッコいいのもいいけど、私は可愛い方が好きです。

>41
可愛い女の子かと思った? 残念可愛い咲夜ちゃんでした!

>48
ですからすいません、来月からなんですよ。

>がいすとさん
なんか効きそうな単語入れてみたかったのです。

>53
ありがとうございました!
57.100はまづら削除
ニヤニヤが止まらんぜ
58.100名前が無い程度の能力削除
糖分補給補給。
72.100コメントする程度の能力削除
これで飯三杯はいける