Coolier - 新生・東方創想話

紅は幸せの色

2012/01/23 22:57:27
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「……フランが熱を?」

「はい。美鈴の報告によるとそのようです」

咲夜が言うのだから間違いはない筈だろう。しかしどうにも納得がいかない。

「今、フランは一人?」

「いえ、美鈴が傍についています。お嬢様に伝えてきてほしいと」

「…そう。フランのところに行くわ。咲夜、ついてきなさい」

「分かりました」

見た目以上に広い屋敷の奥へと足を運ぶ。そんなに多い回数は通らない通路。

いつも傍にいる咲夜にしか分からないくらいに早足で、レミリアは歩いていた。

(熱?というと風邪…ってことになるわよね。今までそんなことあったっけ……?)

フランドールの部屋は大図書館を過ぎた奥にある。

その大図書館の前を過ぎたあたりで、咲夜の足が止まる。

「お嬢様。パチュリー様にお伝えしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、そうね。私は先に行っているわ」

ここは知能に長けているパチェにも知らせておくのがいいだろう。相変わらず咲夜はベストな判断力だ。


懐かしくなるくらい久方ぶりに、我が妹フランドールの部屋の前に来る。

扉を開けて中に入ると、美鈴がフランのすぐ横にいた。

「…あ、お嬢様!妹様が……」

「咲夜から話は聞いたわ。熱がある?具合が悪そうなの?」

「は、はい。まだ眠っているようですが、うなされている様で、呼吸も荒く汗もおかきになっていまして――」

「分かったわ。とりあえず落ち着きなさい」

ベッドで寝ているフランの顔をそっと覗く。

…なるほど、美鈴が慌てるのも分かる。見るからに健康そうではない。

シーツの裾を掴んで苦しそうにしている。触れてみると…確かに体温にしては熱すぎる。


美鈴に話を聞くところ、フランと遊ぶ約束をしていて、門番の仕事の休憩の合間にここを訪れたらしい。

せっかくの休憩なのに…なんてことをレミリアは考える。

フランの『遊び』とは、すなわち弾幕ごっこに他ならない。

いつもなら廊下でいきなり攻撃されるのだが、この日に限っては大人しかった。

わざわざ迎えに行き、ドアを開けた瞬間攻撃されるのかな~、なんて身構えた美鈴の予想とは全く異なる結果となり、今に至ったそうだ。


「来たわよ、レミィ」

美鈴から話を聞き終えた頃に、パチュリーが部屋に入ってくる。

「あら、図書館まで運ぼうって考えてたのよ」

「このくらい自分で動くわよ。それに病人を動かすわけにはいかないでしょう?」

早速パチュリーはフランの容態を見る。

医学専門の知識があるわけではないが、魔法による治癒なら人並み以上だ。


しかし、様子を観察し始めてから数分、手のひらに薄青色の光を放つ球体を作り出す。

「…よく分からないわ。とりあえずこの部屋、換気させてもらうわよ?窓ないし…一度出ましょう」

「…つまり、この部屋って強力な病原体が潜伏してるってことですか…?わ、私ももしかして……」

フランの容態はこの部屋に関係があると思った美鈴が、顔を真っ青にする。

「美鈴、あなたは一生風邪とは無縁だから大丈夫よ。さぁ、出るわよ」

「え?咲夜さん、それどういう意味ですか~!?」

少々騒がしかった美鈴を無視して、ひとまず図書館へと移動した。




図書館に戻るなり、早速調べる…ということにはならなかった。

「あ、パチュリー様!妹様のご容態、どうだったんですか?」

パタパタと羽の音を鳴らしながら、上で本の整理をしていたであろう小悪魔が降りてくる。

「それが困ったものなのよ。まず吸血鬼が風邪を引く…なんてねぇ?レミィ」

「そうね。私も咲夜から聞いてまず初めに思ったわ。私とフラン、生まれてから今日まで風邪なんて引いたことなかったわ」

「凄いですね!私も一度も引いたことないんで――」

ゴスッ

「美鈴、少し静かにしてなさい」

咲夜に睨まれ、コクコクと頷くばかりの美鈴。


小悪魔には吸血鬼の事についての資料を探させ、落ち着いたところでパチュリーが話す。



吸血鬼は昔も今も変わらずに、そのステータスは存在し続けている。

特有の力。特に力の大きいレミリアやフランなら尚更だ。

高い再生能力。力、スピード。


吸血鬼の体は常に最善の状態で保たれる。

何百年もの間、その容姿が変わることのない理由のひとつでもある。

傷を負えば即時再生される。その血は重傷を負った者さえ癒してしまうという。

「…だから、風邪を引いて熱が出るなんてありえない。ってことよ」


一通り説明を聞いて、さすがの美鈴も理解に及んだらしい。

「…んま、つまりは様子見…ってことかしらね。ふあぁ……」

話を聞いて疲れたのか、レミリアが腕を上に伸ばして大きくあくびをする。

「…レミィ。フランはあなたの妹でしょう?少し真剣さに欠けるわ」

あなたの妹なのに…という意を込めて放った言葉だが、レミリアにはさほど届いてないらしい。

「だってあなたに分からないのに、私にどうしろっていうのよ…眠いわ」

「……」

はぁ…っとため息をつくパチュリーをよそに、レミリアは自分の部屋に戻ろうとする。

「美鈴、あなたは門番の仕事に戻りなさい」

「えっ。でもお嬢様…」

「いいから、言うことを聞きなさい。咲夜、今日はもう寝るわ。その前に紅茶が飲みたい」

フランの事を気にもかけない様子の主人を前にしても、咲夜は咲夜であり続けた。

「分かりました。では行きましょう」

その後ろに続いて美鈴が図書館を出ようとする。

「いい?誰もフランの部屋に近づいてはダメよ。何があるか分からないから。明日まで様子見よ。いいわね?」

本を読んでいるパチュリー以外の頷きを確認して、図書館を後にする。



部屋に戻り、紅茶を淹れている間、意味もなく翼を動かしたりする。

「…あの、いいんですか?妹様のこと…」

紅茶を淹れ終えた咲夜がレミリアに尋ねる。

「咲夜、余計な事は考えなくていいの」

紅茶を啜り、美味しい、っと一言。


「…咲夜は心配?」

不意に予想もしないことを聞かれて、一瞬困惑する咲夜。

「それは…心配です」

咲夜にはそれしか言えなかった。他にどんな言葉があるというのか。

「そう。もういいわ。紅茶、美味しかったわよ。今日はもう休みなさい」

紅茶を飲み終えたレミリアがベッドに座る。

「…分かりました。美鈴にもサボらないように言っておきます」

「そうね。フランの部屋に近寄らせてはダメよ。…それじゃ、お休み。咲夜」







「はい、お休みなさいませ。――お嬢様」



◆◆






レミリアが寝ると言った時間は夜である。いつもなら活発に起きる時間なのに相反する。

館の主人がお休みになるということで、いつもなら夜も明るい紅魔館はひっそりと不気味な暗さを漂わせた。

咲夜が妖精メイドにも伝え、明かりを消したのだ。つけている理由もない。


しかし咲夜には、明かりを消すもうひとつの理由もあった。



(今日に限って…明かりがついてないのは助かったわ。みんな寝たのかしら)

暗い廊下を音を立てずに、こそこそ歩くレミリアの姿がある。

飛べば音を立ててしまうので歩いているが、暗闇で誰もいないとなればその足は快調になる。

真っ暗な中、効きすぎる夜目を頼りにフランの部屋へと向かう。

(さすがにパチェはまだ起きてるようね。でも咲夜がいなかったのは助かった)

誰にも知られず…なんてことを考えているレミリアだった。


フランの部屋の前に着き、音を立てないように開け―――

「あれ?お嬢様じゃないで――」

「ふおおおおぉぉぉ!!!!!」

背後にいた美鈴の肩を掴み、グワングワンと揺さぶる。

「な、なななんであんたが、ここに居るのよ!!」

「お、落ち着いてくださいお嬢様…!妹様が起きてしまいますよ!」

割と苦しそうな美鈴を開放し、一回深呼吸…。

「…それで?なんでここに居るのよ。門番っていう仕事に館の見回りでも追加したのかしら…?」

いかにも不機嫌そうな表情のレミリアに、萎縮してしまう美鈴。

「す、すいません。妹様が心配で…。ここの門番をしていました」

ここの門番…という言葉を聞いて、少しの不満と怒りが呆れに変わる。

「…全く、近づいてはだめだと言ったのに」

「門を守るのが、門番の務めですから」

「ここは門じゃないでしょう。それじゃ外はどうしてるのよ」

「咲夜さんがしてくれてます」


「――えっ?咲夜が?」

あまりにも意外な展開に呆気にとられる。

『私はお嬢様には逆らえないわ。だから気分転換に門番を変わってあげる。あなたはここ以外で仕事なさい』

「っということで」

ここにきて、ようやくレミリアは理解する。




本当によくできたメイドだ。


「ま~これ以上は何もありませんね!どうぞ、お嬢様」

「…今日は大目に見ておくわ」

ニコッと笑顔を見せ、美鈴はその場を後にする。

「今日も紅魔館に異常なしっ!だ~れもいませんね~」

などを言いながら。


「…まったく、咲夜に美鈴も。困った子たちね」

少し頬がつり上がりそうなのを抑えて、ドアノブに手をかける―――が、開かない。


「…………ほう」

ドアに薄っすらと文字が浮かび上がってくる。見慣れた秀逸を感じさせる文字だ。

『素直になれないお子様にはお仕置きが必要ね?ごめんなさいと十回言ったら開けてあげるわ』

「……パチェめ」

今すぐ図書館に乗り込んでやりたいところだが、美鈴や咲夜の気遣いを無駄にするようでこの場からは動けない。

かと言って……

「…ご、………ごめ…。……くっ!!あの魔女め…!」

魔法の掛けられた決して開かない扉が、最大の敵と化していた。





◆◆


「パチュリー様、あんな意地悪してよかったんですかぁ?」

左手に紅茶。右手にコーヒーを持った小悪魔が尋ねる。

「ん~…紅茶にして。いいのよ。レミィったら、未だに私のことを欺けると思っているんだもの」

「はは…。欺くだなんて。恥ずかしかったんでしょうか?」

「昔っからあぁなのよ。出会った時から。照れ隠しもバレバレ。下手過ぎるのよ」







「親友を見くびらないで欲しいわ。フフフ……」



◆◆




十回分のプライドを捨てたレミリアは、静かに、なるべくそっと優しく、フランの傍に腰掛けた。

依然として苦悶の表情を浮かべているフランに、焦燥感が襲う。


そんなに悪いの?どのくらい苦しいの?いつまで?ずっとこのまま…なの?

そんな言葉が頭を駆け巡り、不安に変わっていく。


「フラン……」

いつからか別々の部屋になり、長い間見ることのなかった寝顔。

「久しぶりに見たと思えば、寝顔にしては酷い顔よ?いつも元気すぎる癖に…。しっかりなさい。フラン」


「……」

後ろを振り返り、誰も居ないことを確認する。もちろん鍵は閉めた。

「ほんと変な子。風邪なんて引いて。苦しいのなら、うつしてくれてもいいのよ?私は強いから、あなたみたいに苦しまないわ」


「…さま」

うなされているのか、苦しそうに寝言を呟いている。

「どうしたの?寝るときにお腹でも出しながら寝たんでしょう?いつまで経っても――」






「…お姉さま………」






「……えぇ。ここに居るわよ?フラン。今日は…まぁ、特別よ?誰かに言ったりしたらダメよ?しょうがない子ね…」


そっとフランの手を握る。壊れてしまわないように、本当にそっと、優しく。

「…あなたもこれくらい、握るものに気を遣えたら、壊してしまうこともないのに」



◆◆



――朝。いつもなら深い眠りにある時間だが、夜に眠っため必然的に目が覚める。


「……ん」

まさか深く寝入ってしまうとは思っておらず、手にある大切な感触を確認する。

そこで寝ている妹の顔は、最後に見たときよりも穏やかなものになっていた。

触ってみた感じ、熱はもうないようだった。


「…ほんと、人騒がせな子だこと」

その寝顔に安堵し、ほっと胸を撫で下ろす。なんとか、なったのかと思う。


コンコン

「妹様?起きておられますか?体調のほどはいかがかと」

「…熱はもう無いみたいよ」

「あ、お嬢様。こちらにいらしていたんですね。全く気がつきませんでした」

ドア越しに微笑んでいる咲夜の表情が、まるで手に取るように分かる。

「はぁ…もういいわ。入ってらっしゃい」

「でも、そう言われましても」

たじろいでいるのか、中々入ってこようとしない。

「あなたも確認しなさい。ほら、早くお入り」

「…鍵が、掛かっています」

ガチャガチャっと音がする。そういえばそうだった。鍵を掛けたのを忘れていた。

「あぁ、今開け――」

っと立ち上がろうとしたレミリアが、止まる。


ぎゅっと握った手を、フランは離そうとしなかった。






「鍵を持ってきてあけて頂戴、咲夜」




◆◆




「…で?」

「何よ。とぼけるつもりなの?」

「とぼけるも何も、何のことかさっぱり?」

「へぇ…そう。この館にはあなた以外に魔法使いが居るみたいねぇ?」

レミリアはというと、わざわざまたパチェをフランの部屋に呼び出していた。

手を握られているから動けない、という風にパチュリーは見た。

「あら?フランも魔法使いじゃない」

「屁理屈はいいから」

「屁理屈とは言わないわ。言い訳よ」

ハァ…。っとため息。ラチが明かないので、本題へと入る。

「診て頂戴。大分落ち着いたと思っているのだけれど」





「……お姉さま?」


びっくぅぅっっ!!っと翼をピーン!っと硬直させ、フランに向き直る。

「ふ、フラン!?起きたの?もうバカッ!なんであなたはそうなのよ…!」

まだ目も半開きなフランを胸に抱く。

紅魔館の主としてではなく、フランの姉としてのレミリアを、パチュリーは一瞬だけ見ることができた。



「…く、苦しい」



◆◆



「美鈴」

「あ、咲夜さん。どうしたんですか?」

「いきなり走り出さないこと、奇声をあげないこと、興奮しないこと、いい?」

「??どうしたんですか?いきなり。それじゃぁ変質者じゃないですか」

はははっっと笑う。

「妹様が目覚めたわ」

「いいえええええ!?!?ほおおおおお!!!…お!?」

駆け出した美鈴に足を掛ける咲夜。当然転ぶ体勢へと変わる。

「なんのっ!」

地面にぶつかる直前でハンドスプリング、からのロンタードによって華麗に着地。そしてまた駆け出す。

「…困った子ね。でも、私より先には着かせないわ」



◆◆


とりあえずレミリアの部屋へ移動することになった。

「どこも痛くない?」

「うん」

「まだ具合悪い?」

「ううん」

「お腹すいてない?」

「少しすいた」

「…自分が誰だか分かる?」

「ちょっとー!いい加減しつこいってば~」

さすがにいつものレミリアとは様子が違うことに不信感を抱いたフラン。

「フラン。察してあげなさい。レミィはあなたが心配で心配で仕方なかったのよ」

「ちょ、パチェ!喉掻っ切るわよ!!」

鋭く刃物のような爪を向ける。

「あら怖い。じゃあフラン。ひとつ面白いことを教えてあげるわ。あなたの姉は昨晩ね?十回――」


「だぁーー!!黙らんかこの黒魔女めがぁ!!!」

「レミィ。酷い言葉遣いよ」

口論を交わす二人の様子に、ぽかーんとしてしまうフラン。

「お姉さま、 心配してくれたの?」

「えっ?」

当たり前に心配していたわけであるが、なんとも口から言葉が出てこない。

「その…。まぁ、そういうこと…かしらね」

パチュリーがクスクスと笑っているが、それに気づけないくらいに動揺する。

「…ありがとう、お姉さま」

レミリアが予想していたはずもなく、フランはレミリアに抱きついた。

「っ!…うー……」

綺麗に輝いているフランの翼を見ながら、レミリアはゆっくりとその頭を撫でていた。



◆◆



その後、美鈴が姉妹の様子を把握すると、咲夜に頼んで料理をすることになった。

「いい感じに元気出るの、私作れますよ!」

チャーハンを作ると言い出した美鈴に不安を抱きつつも、その味は咲夜が驚くものだった。

「美鈴、凄いね。咲夜のと同じくらい美味しいよ!」

フランも気に入ってくれたようで、美鈴は満面の笑みを浮かべていた。



いや~あの時はびっくりしまいたよ~妹様が――

ん~あんまり覚えてないけど、苦しかった―――


食事の場には、館に居る者全てが集まった。もちろん妖精メイドたちも、小悪魔も。



「フラン、今日はもう寝なさい。まだ本調子じゃないんだから」

「うん…」

「どうかしたの?具合が悪い?」

「あの…ね」

「うん?」

普段は見ない仕草に、自然と胸の鼓動が高まるレミリア。とても可愛げがある。


「……一緒に、寝てもいい?」



「…しょ、しょうがないわね。来なさい」

「うんっ!ありがと」


レミリアの部屋に行くと、大きなベッドの上にバスンッ!っと飛び乗る。

「ん~!あたしのベッドよりふかふかしてる~」

(…はしゃいじゃって。もう元気そうね)

無邪気な笑顔を見せているフランが、とても愛らしい光景に思えた。

いつからか、こんなフランの表情を見ていなかった。

「んー…ふあぁ。お姉さま~」

「はいはい。私は寝相悪いわよ?」

「あたしも悪いかもしれない」

そういえば悪かったわね、なんて、どこからか分からない記憶が蘇る。



「ベッド大きいよね。普通に二人で寝れる~」

元々二人用だもの。

「枕もおっきい~。それに柔らかっ」

それも二人用。一緒に頭を置く場所だもの。

掛け布団も、身長に対するベッドのサイズも。



全て二人のためだけにあるベッドだもの。


「手繋いでいい?寝返りでパンチされないように!」

「ふふ。おかしい子ね。いいわよ」

いつものフランとは様子が違う、なんて些細な事は、気にしていなかった。


何百年も生きておきながら、こんな身近に幸せがあったのを忘れていたのだ。







「「おやすみ」」



◆◆




「一緒に居てもいい?」



一騒ぎあった次の日の朝に、フランがレミリアに言った言葉。

普段のフランは館内をうろうろしているか、美鈴と遊ぶか妖精メイドたちに悪戯をしているかに限定される。

決して外には出ない。出させないようにレミリアが決めた。

レミリアはフランとの関係はあまり良い状態ではないと自負していた。

フランの行動を制限して、彼女からいろいろな楽しみを奪ったと思っているからだ。




だから、今更な彼女の態度や仕草に妙に惹かれていた。




「コーヒー?」

「そう。紅茶とは違う飲み物なのよ?」

偶然咲夜が飲んでいたものを、紅茶と一緒に持ってこさせた。

「飲んでみたい!」

「かしこまりました」

慣れた手つきでフランにコーヒーを淹れる。

「でもフラン?それは大人の飲み物って言うのよ?」

「大人?私たちって大人じゃないの?」

「あなたはまだ子供のようなものでしょう?」

「ええ~?大人ってどういう基準なの?咲夜、人間だと何歳から大人?」

レミリアの分のコーヒーを淹れ終えた咲夜は、少し考える。

「……20歳くらいでしょうか?私もまだ大人には該当しないと思います」

「え?20歳?それじゃお姉さまってもう老けまくってるんじゃ…」

「どこが老けてるのよっ。大人の基準は年齢で決まるものじゃないわ。それがこのコーヒーにかかっているのよ」

何か論点のずれた意味の分からない事になったが、その時咲夜は自分の年齢について考えていた。

(…あれ?私は自分が何歳か正確に覚えていない…。しかも時間を止めた中で生きている分他人より老化が進んで…そういえば最近……う、うわぁあああああ!!!!!)

咲夜が自問破滅を終えた頃に、レミリアはフランに説明し終えていた。

「つまり、ノンシュガーで飲めたら大人ってこと?」

「飲めるだめじゃだめよ?味わえなければね」

「の、飲めるよこれくらい。…ん」

得体の知れない黒茶色の液体を口に含み……

クワッ!っと目を見開く。

「にっがっっっ!!!ダメだこれはっ!」

「ふふ…。これが大人の品格というやつよ?」

あぁ、美味しい。っと余裕の笑みを浮かべながらコーヒーを優雅に飲む。

「えええ…。たった五年の差なのに…。あと五年以内で飲めるようにしないと」

(砂糖入れてからコーヒー淹れてよかった…。咲夜は気づいていたみたいね)

「…ん?そういえば咲夜は?」

「あれ?そーいえばいつの間にかいなくなってるねぇ」




◆◆




フランの居た部屋には本がある。勉強させていたというわけではないから、おとぎ話や架空の物語のものが多い。

借りたら永遠に返すことのない魔理沙とは違い、律儀に借りて返してを繰り返していたらしい。

「え~?部屋に本が増えたら動きにくくなるじゃん」

ごもっともだ。あの盗人に聞かせてやりたいわっ。


フランと一緒に居る時間が有り余るほどに増えた。

休んでいるときに、フランは自分が見た本の話の内容を詳しく話してくれた。

その中には、吸血鬼が主題となっている話もあって、私のほうが凄いわ、なんて言った。


一日中一緒に居ることが多くなったせいか、フランは自分の部屋に戻ろうとしなかった。

「あの部屋が嫌いになったの?」

フランと居る分には申し分ないほど、退屈な時間とはかけ離れていた。

しかし、仮にも何百歳という齢。今更一緒に寝る…なんて少し恥ずかしいのもあった。

「別にあの部屋でもいいけれど…それじゃお姉さま、あの部屋に来てくれる?」

「…ん。それじゃぁ変わってないじゃないの」

「別にどこの部屋でもいいんだけれど…。そ、その、お姉さまが居てくれるなら」




レミリアに電流が迸る。



◆◆




「どうなさいました?お嬢様」

ここは庭が見渡せるテラス。紅茶を飲むときに日傘を用意してよく訪れる場所。

フランのことは美鈴に任せて、ひとまず自分が信頼できる咲夜に話を伺おうとしていた。

「…咲夜、正直に答えて頂戴」

「なんなりと」

「フラン、おかしくない?」

「…少しおかしいですね。あ、いや別に妹様の事を悪く言うつもりなどなくて――」

「分かっているわよ。そう、やっぱりおかしいわよね」

自分だけが感じているものではないと分かり、ひとまず安心。

「どんな風におかしいと思う?」

「どんな風に…ですか。まずここ一週間ほど、ずっとお嬢様と一緒に行動なさっていますね」

あの騒動の日から今日までの一週間と半日。フランがレミリアから離れたのはトイレの時くらいのものだ。

「あと、妙に明るく元気になったと。前から元気はあったのですが、それは生活的日常に向いているものではなく、遊んでいる(弾幕ごっこ)時でしたので、そこに違和感を感じますね」

「ふむ…。やはりね」

確かに最近のフランは明るい。確かに美鈴と弾幕ごっこはしているが、見ていて危なくない。

「…こういうこはよく分からないので、申し上げにくいのですが」

「何?何でも言って頂戴な」

やや言い出しにくそうな咲夜。一体何を考えているのだろうか。

「見ている感じですと、お嬢様を慕っているかと。妹として、姉のことは好き、というのだと思います」

分かっていたようで、あまり分かっていなかったことが、咲夜の言葉で理解した。

レミリアは確かに、今までにないフランの好意を幸せに思っていた。

それは今までになかったから分からなかった。遠い昔にあったのかもしれないが、本当に記憶の片隅に残っているかどうかという程。

「フランが、私を…ねぇ。咲夜はそう思うのね?」

「はい。お嬢様も嬉しそうに見えます」

「私もそう思うわよ?レミィ」

ほとんどくるはずのない場所に、パチュリーが足を運んでくる。

「あら、珍しいじゃない。話は聞いていたの?」

椅子に腰掛け、咲夜の淹れた紅茶を手元に置く。

「まぁね。最近のあなたたち、やけに仲が良いと思ったけれど、やっぱりそうなのね」

仲が良い。レミリアにとってそれは、とても魅力のある言葉に思えた。


「…本当に昔のフランみたいね?」

「…え?」

昔のフラン、という言葉が、なぜパチュリーの口から出たのかが分からない。

「どういうこと?」

「別に、特に意味なんてないわ。ただ、昔もあんな時期があったんじゃないの?って私は思っただけ」

「………」






「レミィ。あなたはいつも強情を張るけど、今回は必要ないと思うわよ」



◆◆



「レミィは?」

「はい。今日も妹様と」

「そう。微笑ましいわね…」

台詞通りに、パチュリー自身も微笑んでいた。親友の幸せそうな顔を久しぶりに見たからだ。

「しかしパチュリー様。あんな風にお嬢様に言って良かったんですか?私にはさっぱり分からないのですが」

「…レミィは受け入れているように見えて、本当はそうではないわ。だってレミィの態度は普段と変わらないでしょう?」

「…確かにお嬢様はお変わりありませんが、紅魔館の主としての威厳を気にしておられるのでは?」

咲夜の淹れた紅茶を飲みながら、傍らで文字を書きながら眠ってしまった小悪魔の頭を撫でながら話す。

「…大切な人からの好意を素直に受け取れないのは、私もレミィも似たようなものよ。でもね、レミィの壁になっている想いは深いものよ」

「…私にはよく分かりません。専属メイド長として不甲斐ないばかりで…」

「あなたが来る前のことよ。せっかくだから少し話すわ。あなたもそれを理解しておいて頂戴」





◆◆




「外に行くの?」

「えぇ。神社に行って来るわ」

「あたしも行きたいーー!」

「うーん…。咲夜、いいかしら?」

普段はあれほど厳重に注意しているのに、こうして咲夜に呼びかけたということは、レミリアの意思は固まっていると咲夜は思う。

「お嬢様がよろしければ、いいのではないでしょうか?私も同伴いたしますので」

「そ、そう。咲夜がそう言うなら、せっかくだし…」

「ほ、ほんと?ほんとに良いの?ありがとぉーー!!」

可愛げにレミリアに抱きつくフラン。最近では珍しい光景では無くなっていた。

「……霊夢たち、どんな反応するかしらね」

門で見送ろうとした美鈴が驚いたのは、すぐ後のこと。





◆◆




「あややっ!?魔理沙さん私のせんべい盗りましたね?」

「盗ってないぜ。せんべいに聞いてみな」

「そうですか、そうですよね。それではそのお肉の乗ったお腹に聞いてみるとしましょう」

寝そべっていた魔理沙がガタッと起き上がる。

「聞き捨てならないな!まるで私が太っているみたいな言い回しだぜ?」

「いや~ね?私はきっとそれはそれは凄い事になっているんじゃないかとですね?新聞のネタにする日が来るのを楽しみにしていたんですからね!」

「こーら。せんべい一枚で…何くだらないことしてんのよ」

奥からお茶を持ってきた霊夢に一蹴される。現在、幻想郷は真昼間だ。

「あ、霊夢さん。これはどうもどうも」

「どうも、じゃないわよ。なんで参拝客は来ないのに反比例して、あんたらみたいな妖怪が来るんだか」

「今日は文様について来ました。お邪魔しますっ」

そう言うと、椛はペコリと頭を下げる。

「はいはい、気にしないで頂戴。こっちの礼儀しらずとは段違いで歓迎よ」

「おーい、霊夢。今こっち見たよな?」

「見てないわよ~。ほら、早く飲みなさい」

「あ、サンキュー」

扱いやすいなぁ…なんて一瞬思ったり思わなかったりの霊夢だった。

「おんや、霊夢~。あたしのお茶は?」

日の当たらない居間で寝そべっている妖怪が一人。

「あんたお酒飲んでるんだからいらないでしょ」

最近博麗神社に依拠している萃香は、自分にだけもてなしがなかったのに不服だったらしい。

「そーれは違うぞ~。飲み物とは等しく水分。生き物は水分を取らないと生きて――」

「んで、文は何しに来たの?」

ムスッとする萃香は置いておき、珍しくついて来ている椛の事も気になったので尋ねてみる。

「いやぁ、霊夢さんはネタに事欠きませんからね。日課として立ち寄ったら萃香さんが起きていらしたので、即退散しようとしたんですが…」

『おーい、天狗。酒でも付き合えよ~たまには~』

「なんて言われまして…」

チラッと萃香を見る。

「なんだい?文。不満でもあるのかい?」

「いえいえ滅相も。頭が上がりませんよ」

「ちょっと魔理沙、さっきから食べすぎじゃない?」

「食べ物は食うためにあるんだぜっっ」

「いつか箒が折れても知らないわよ」

幻想郷では特に珍しくもない光景だが、今日は少しばかり違う。

「…ん~?吸血鬼の匂いがしてきたな~。それも二人」

寝そべっていた萃香が体を起こして言う。

「文様。あれって…」

「どーしたんですか?椛。……おや」

存在が感知できている者の反応とは対称的に、霊夢と魔理沙の反応はさほどではなかった。

「どうせレミリアでしょ?そういえば最近来てなかったわね」

「咲夜も大変だな~。逆らわずついてるのが凄いぜ」

また面倒なのが増える…なんて思った矢先、萃香の台詞が遅れて頭に入る。

「「二人?」」

霊夢と魔理沙が同時に顔を向けると、そこにはレミリア、フラン、そして咲夜がいた。

「霊夢、来てあげたわよ」






「あ、そ、そういえばあたしは用事があ――」

「に、げ、る、なーーー!!!!」

箒で飛び立とうとした魔理沙の足を掴む。

飛び上がった勢いが下に向いて、うつ伏せのまま地面へと落下する。

「はぐっっ!!かー…ぁ。い、痛いぜ…」

「魔理沙、久しぶり!大丈夫?」

日傘を持って魔理沙へと駆け寄る。手を繋いでいたレミリアが自然と引っ張られていく。

「お、おう。久しぶりだなフラン。てかなんで外に居るんだ?また霧でも発生させたのか?」

しかし、相変わらずの快晴。特に興味のない鬼、ネタに燃えた天狗、状況の掴めないコンビが出来上がった。




◆◆



現在は少し曇り。太陽は隠れていた。

「うおぉっと!紅魔館の外でもやっぱ変わらずだな!」

「今度は負けないよ?『禁弾』スターボウブレイク!!」

弾幕勝負をしている魔理沙とフラン。その写真を撮ったり応援している文と椛。観戦する萃香。

咲夜はレミリアと霊夢から、やや離れた場所にいた。



「へぇ。いろいろあったのね」

「まぁ、そんなところ。なんていうか、利口になったのかしら。あの子」

レミリアは何週間か前の話、フランの熱が出てからの出来事を霊夢に話していた。

「でも、あの子って確か…」

「…えぇ、館に閉じ込めていたわ。いつからか私が危険だと判断して、外には出さないようにしていたの」

「そうだったわね。あの時に見たフランは、もっと凶暴性があったわよ。殺す気できてたし」

霊夢はお茶を啜る。ちなみにレミリアもお茶を飲んでいた。

「魔理沙曰く、気が触れてる、って事だったわよね?でも話を聞く限りじゃ…熱が出て治ったとしか思えないわ」

「そうね。私もあの子の中に潜む凶暴性をいつも考慮していたわ。今回も連れて来るのは凄く悩んだ。でも、治ってしまったのかしら」

「そんなの、あたしには分からないわよ。でも、まぁ」

そこで一回、言葉を区切る。

「前はフラン、あなたの事をあいつ呼ばわりしていたのにねぇ。手まで繋いじゃって。それに聞けば聞くほど、良い妹になってるじゃない」

「そうね。なんだかここ何百年かが嘘みたいに。可愛い妹になったわ」



「それで、あんたは何故か悩んでいると。納得できていない。……でしょ?」



「…そうね。あなたに、聞いてほしいの」

今から切り出そうとしていたレミリアが驚くほどに、霊夢は表情、話し方からレミリアの心を読み取った。


「…らしくないわね。まぁいいわ。魔理沙相手だと結構時間かかりそうだし、暇つぶしに…聞いてあげるわよ」

「…そう。ありがとう」

ありがとう、なんてらしくないなぁ…なんて思ったりの霊夢。




◆◆




フランが笑顔で自分に向かってくるのを見て、とても困惑したわ。

嫌われている、という自覚があったから。

私はフランの事を大切に想っていた。今でも変わらない。

それでも私のしてきたことは、酷い事だったのよ。



幻想郷に来る昔から、吸血鬼である私たちは、その巨大な力を振りかざしていた。

今見たいに紅茶を淹れるなんて考えられない、人間だけが食べ物だと思っていた。

何人もの人を殺してきた。妖怪であるから仕方のないこと。

人々が恐れる姿を見て、自分の力の程を知り、楽しんだ。誇りだった。

あの頃は、私の方がフランよりもずっと凶暴だったと思うわ。



毎日楽しかった。慣れた血の匂い。体に染み込んでいるこの匂いがたまらなかった。

物心ついて何百年か。フランは外の世界を見たいと言った。

ここが外の世界じゃないの?っと思ったが、噂に聞く神隠しがあることを思い出した。

幻想世界に消えて行ってしまった人間、妖怪がいる。

見つけようと思えば、容易いものだった。

消えた人間の後を追ったからだ。



初めて来た幻想郷。私とフランは期待に胸を躍らせた。

戦うことが何よりも好きだった。私は吸血鬼の存在を知らしめたかった。

そこらに居た妖怪は張り合いがなかった。

幻想郷にはくだらない掟があった。神社の巫女には手を出してはいけない。

一方的に狩られる状態に不平を抱きながら、何もできない。なんて情けない。



私は一帯の妖怪たちを屈服させ、軍門に下らせた。

聞く話によると、強い妖怪はいるらしい。だが、ほとんどは地に深く潜り、あるいわ別の世界に行ってしまった。

未だに幻想郷に数少なく残っているが、その姿をあまり見せないという。

これだけ暴れても尚、その姿を見せぬ。巫女も噂に聞くだけ。いないのと同じだ。

空想に縛られているのか、とさえ思った私たちは、人里の人間を襲うことにした。

そうそう。そうやって恐れ、喚いて逃げ回ればいいんだ…。


『吸血鬼…か。なんともプライドの高い面倒なのが来たもんだ』

人を襲うときに、一匹の妖怪が出てきた。人間を庇おうとする。

私とフランは嬉しかった。ようやく戦えそうな奴が出てきたのだから。




強かった。言い訳なんてできないくらいに。

たった一撃で体が粉々に吹っ飛んでしまうような、圧倒的な力だった。

何度再生したか分からない。体力が無くなり、気がついたら屋敷の庭に寝かされていた。


『ここに住め。それと、この幻想郷でのルールを教える』

人里の人は襲ってはいけない。必要以上に殺生をするな。など。

紅魔館との出会い。そして幻想郷での始まり。


当然死活問題になる。あるだけの人間を殺して…ということはできない。

でも、フランは手加減ができなかった。

貴重とさえ思えるようになった人間という食料を、一瞬で消し飛ばしてしまう。

前のように暴れたい、と言う。私はそれを許可することはできなかった。



ここでのルール。それを守らなければ、あの妖怪にきっと殺されてしまうのだろう。

フランは大切な、たった一人の妹。肉親である。失いたくはない。

自分に向けてくれる、私だけのフランの笑顔。愛くるしい仕草。

何日も何も食べずに、私は心に決めた。



最初に甘やかしたのがいけなかったのだ。暴走して人を数人殺めた。

その日から、フランの部屋を館の奥底、まるで地下という場所に移した。

鉄格子とかそんな牢獄ではない。普通の部屋。フランにも、悪い事をしたという意識はあった。

ただ、彼女は私に比べて、少しだけ幼かった。

私はフランと少しだけ距離を置く事にした。

今すぐにでも抱きしめたいほど愛しい…我が妹。

だが、心を鬼にして、フランを館の外に出さないようにした。

本当に、たまに。食べ物が必要になった時だけ、一緒に行動した。

今思えば、私は何かを間違っていたのかもしれない。


「だって、こんな方法しか思いつかなかったのよ」



◆◆




霊夢は黙ってレミリアの話を聞いていた。

すぐ近くで弾幕勝負をしている音が聞こえなくなるくらい、レミリアの話には真に迫ったものがあり、集中していた。

「…それで、私に…」

何を求めているの?っと言おうとした霊夢だが、自分が言うべき言葉ではないと押し黙る。

レミリアの心は、もう分かりきっていた。

「私は、あの子の姉として振舞う権利なんてないのよ。自分がしてきたことの酷さは、自分が一番分かっているわ」

なのに…っと言う。

「それなのに、あの子に優しくされて、昔のようにされて!それで自分を自分で許して…フランに甘えたのよ。なんの隔たりもなく接してきたあの子に…」









「…何の隔たりもないんでしょ?フランにとっては」



「…え?」







「あんた、いろいろごちゃごちゃと考えてるようだけど、それは単に独りよがりってやつよ。自分でフランに酷い事をしてきたのに、今更フランの好意が受け取れない、っていうんでしょ?私にしてみれば…くだらない話よ?それは」


「……」

そっとレミリアの帽子を取って、頭を撫でる霊夢。


「私には家族がいない。それに、本当に大切に思えるものなんて、突き詰めれば自分自身っていう答えが出るわ。それが私」

「でもあんた、自分以上に悩んでしまう、大切な存在があるんでしょ?あんたが苦しい思いをしてきたのも、全部…フランのためなんでしょ」


「姉としての権利…なんて、権利って何よ?あなたがフランの姉である以上、その他に何があるって言うの?あんた、そんなに弱い存在だったのかしら」

「……」


「…私は、あんたが姉としてフランにしてきた事……立派だと思うわよ。確かに自分では納得できないかもしれない。でも、フランはもう…そんな些細な事、気にしてないわよ」


「あんたは思う?フランが自分を憎んでいる、なんて。私なら、ここが参拝客で溢れ返っても、そんなこと思わないわ」


「……霊夢…」



「あんたらしくないわよ。姉がこんなんじゃ、フランは誰に頼ればいいのよ。まったく…しっかりなさい、レミリア・スカーレット」





「こんなに想われてる…フランが少し羨ましいくらい。―――やば、結構恥ずかしいわね」






「霊夢…」


「あ、あぁ、あのね?忘れてくれてもいいのよ?なんか真正直に話したら体が熱くなってきて………レミリア?」




顔を覗き込んできた霊夢から、顔をそらす。



それは誰にも見せた事のないもの。自分も初めての体験。




「…へぇ。吸血鬼って……赤い涙を流すと思っていたわ。血が濃そうだし…ね」




「…ふん。勘違い…しないで頂戴」







「吸血鬼の涙は…赤いのよ。――だからこれは……涙なんかじゃないのよ。バカ霊夢」



はいはい、っと、もう少しだけ…霊夢はレミリアの頭を撫でていた。








◆◆



「パチェ?」


「あら、戻ってきたの?」


「たった今ね。その…パチェ、ありがとう」


「…何のことか、分からないわよ?レミィ。でも、ありがたく受け取っておくわ」


「…うん。フランを連れて来るわ。あの子、読みたい本があるらしいの」


「えぇ、歓迎するわよ。―――レミィ、ちょっと待って」


図書館を出ようとしたレミリアの後姿を見て、呼び止める。


「どうかしたの?」


「…翼の外側、模様が入っているわ。前からだっけ?」

「模様?そんなものないわよ?私には」


確かにレミリアの翼は漆黒の、シンプルなデザインの翼だ。


しかし、縦にひし形のような模様が描かれている。


「あら…気づかなかったわ。何かしら」


「んー…気にすることでもないのかしら。でもその模様、フランの翼にそっくりね」


「……そうね。可愛らしいわ。フランが気づくまで、内緒にしていて頂戴」


「はいはい、行ってらっしゃい」






「良いわね、レミィ。大分幸せそうよ」




「パチュリー様!さっきの本の続き、ここに置いておきますね!」






レミィ。私だって幸せよ?今ある生活、悪くないわ。





あなたも私も、こんなに近くに幸せがあることが……幸せなのよ。
初投稿となります。皆様読んで頂いてありがとうございました。

読み返してみて、誤字等直して行きたいと思います。

文才なんてものには乏しく、なるべく見やすくなれば良いと思い、自分なりに善処しました。

つたない文ですが、私の書きたかったこと、皆様に伝われば良いなぁ…っと思います。

感想書いて頂けたら嬉しいです。私は、紅魔館組みが大好きですのでっ。


えっと、一応後編を考えていますが、これで終わった方が区切りいいんじゃないか…なんて思ってます。

そこはまだ検討中ということでよろしくお願いします。フラン可愛いです。

追記:コメントありがとうございます。書いた後で、あそこはあぁ書いたら良かったかな~なんて思いましたが、今ある作品が私の作品である、ということでよろしくお願いします!
本文の表現についての指摘ありがとうございます。いやはや無知でして…いろいろ間違っちゃいました!
表現の手直しはしない事にしていたのですが、納得できないところ、直させていただきました。感謝いたします!
心は紅
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コメント



0.1500簡易評価
1.100名前が正体不明である程度の能力削除
創想話にようこそ!
続きか…
BAD ENDはごめんだな。
読んでて暖かい気持ちになった。
2.100奇声を発する程度の能力削除
>奇声をあげないこと
ピクッ
とても幸せな気持ちで一杯です
7.100名前が無い程度の能力削除
個人的には、どんなエンディングでもいい。
終わってほしくない、もっと読んでいたい、という気持ちがあるだけ。
もちろん、ここで終わっても面白い作品であることに変わりない。
だから、その辺は作者さんの裁量次第。
新しい作品を書き始めるとかでもいいんじゃない?

あぁでも、やっぱり続いてほしいなー!
失敗してもいいから、読んでみたいなー!
12.100名前が無い程度の能力削除
これで初投稿だと・・・
14.90コチドリ削除
本日の秀逸な地文。
>十回分のプライドを捨てたレミリアは、静かに、なるべくそっと優しく、フランの傍に腰掛けた

同じくグッときた会話文。
>「…あなたもこれくらい、握るものに気を遣えたら、壊してしまうこともないのに」

あくまで俺の主観ではあるのですが、文法・表現・語句の選択など、ぶっちゃけ首を傾げる文章も多かった。
けど、上記のものも含めて「良いセンスしてるなぁ」という感想の方が上回りますね。
スカーレット姉妹、紅魔館の面々、ひいては幻想郷が平和で幸せそうならいいじゃねぇか、ってのは勿論あるんだけど、
熱を出しました、一晩看病しました、目覚めたらフランドールが可愛くなったました、の流れに説得力不足を
感じたのも正直なところです。

後編でそこら辺に補足がつくなら大歓迎。そうじゃなくても全然問題はないんですけどね。
初投稿お疲れ様でした。うん、面白かったです。
15.90名前が無い程度の能力削除
甘々姉妹はいいものだ…!
初投稿お疲れ様でした。よき紅魔館をありがとうございます!
25.100名前が無い程度の能力削除
グッ
26.100名前が無い程度の能力削除
GJ・w・b
レミフラはいいものだ
32.80名無しな程度の能力削除
中程までは冗長かなぁ…なんて思っていました。でも最後のほうの霊夢のセリフで、これは良い作品だと思い直しました。
これからも楽しみにしてます!