Coolier - 新生・東方創想話

この月の光を忘れないため

2012/01/09 12:27:32
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東方創想話158『幽玄の空、朝露の夢』の続きです。



















  シュガーサテラ…――

 名前を呟いた。
 雪が積もる森の中。
 私は名前を呟いた。
 その名前は私の名前。
 少女からもらった名前。
 その名前の意味を私は知らない。
 でもきれいだと思った。
 何となくきれいだと思った。
 「そう、それがあなたの名前。」
 私は顔をあげた。
 あげて少女を見た。
 紫の瞳をした少女を。
 少女は私を見た。
 見て空を見た。
 私も空を見た。
 光が瞳を染めた。
 その光が何なのか私は知らない。
 ただ眩しくはなかった。
 「この光はなに。」
 私は聞いた。
 空から降る光を。
 「月から降る光。」
 少女は答えた。
 手を翳しながら。
 私はその姿を見た。
 きっとその姿は差していた。
 空の月を差していた。
 でもつかもうとしているように。
 月の光をつかもうとしているように。
 私には見えた。
 だから手を翳した。
 私も手を翳した。
 月の光をつかむため。
 きっと二人ぼっちで。




 『この月の光を忘れないため』




 ―一―

 誰もいない森。
 いるとすれば魔法使い。
 桜のような花は咲かない。
 咲くとすれば妖しげな木野子。
 その森の続く足跡。
 始まったばかりの雪の足跡。
 生まれたばかりの妖精の足跡。
 その跡を追って見える家。
 独りの妖精が遊びに来る家。
 一人の少女が住む古びた家。
 そんな誰かがいた森。




 埃塗れの家。
 寂しげに建つ家。
 その家の前に私はいた。
 目の前にあるのは扉。
 その扉を見て私は気付いた。
 手を使わないと入れないと。
 私は手に物を持っていた。
 どこかに置かないと。
 私は手を見た。
 手は赤く染まっていた。
 手にあった雪は消えていた。
 あったのは赤と痛みだった。
 「どこにいったのかな。」
 私は頬に手を当てた。
 頬が冷たく染まった。
 私は頬から手を離した。
 私は手を見た。
 雪が消えた手を。
 冷たく染まった手を。
 私は微笑んだ。
 楽しく微笑んだ。
 私は扉を開けた。
 開けて家に入った。
 足音が響いた。
 小さく暗い家の中。
 差し込む光に揺れて。
 雪のように足跡をつけて。
 瞳を開けて消える闇みたいに。
 少女の夢に届かないように。
 私は歩くのを止めた。
 止めて少女を見た。
 差し込む光に舞う埃の中。
 片手に本を持って。
 椅子に眠る少女を。
 私は手を見た。
 手にはまだ赤と痛みがあった。
 私は歩いた。
 少女に近づくため。
 足音を響かせず。
 手を伸ばした。
 少女の頬に。
 冷たく染まった手が。
 ふれた。
 「――ッ」
 少女は瞳を開けた。
 開けて目の前を見た。
 目の前の私を。
 「えーと、シュガー。」
 私は少女を見た。
 夢から覚めた少女を。
 楽しく微笑んで。
 「朝だよ、メリー。」




 「もう朝なの、シュガー。」
 瞳を開けて少女はそう言った。
 言って窓を見た。
 「子供は早起きって言ったのはメリーだよ。」
 私も窓を見た。
 「でも、もうお昼ぐらいだけど。」
 そう言いつけて。
 少女はその言葉を聞いた。
 聞いて溜息を吐いた。
 「それならもっと早く起こしてほしいね。」
 少女は私を見た。
 「それなら冷たい手で起こしていいの。」
 私は手を見せた。
 「他にいい方法はないの。」
 少女は私に聞いた。
 「悪い方法ならたくさんあるんだけどね。」
 聞いたから私は答えた。
 少女の望まない形で。
 少女はもう一度溜息を吐いた。
 その姿を私は見た。
 見て私は微笑んだ。
 楽しく微笑んで。
 少女は私の手を見た。
 赤く染まった手を。
 何かを確かめるように。
 「――」
 少女は私の手を見た。
 「どうかしたの、メリー。」
 だから私は聞いた。
 私の手を見る少女に。
 彼女のことを聞いたように。
 「――凍傷、起こしてる。」
 少女は答えた。
 答えて椅子から立った。
 「とうしょうってなに、メリー。」
 私は聞いた。
 初めて聞いた言葉を。
 「後で説明するから、今お湯持ってくるから待ってて。」
 少女はそう言った。
 言って奥へ行った。
 その姿を私は見た。
 見て手を見た。
 赤く染まった手を。
 とうしょうという手を。




 「凍傷というのは冷たい物にふれて怪我をすること。」
 お湯に手を揺らして私は聞いた。
 聞いて私は見た。
 揺れて生まれる波紋を。
 生まれて消える波紋を。
 「ねぇ、シュガー。」
 そしてまた。
 「これからは凍傷を起こすまで雪遊びをしないこと。」
 揺れて生まれた波紋を。
 聞いて私は見た。
 「手が赤くなるだけなのに駄目なの。」
 私は少女を見た。
 見て私は聞いた。
 「下手すると指を切らないといけないの、わかった。」
 少女は答えた。
 答えて私を見た。
 強く優しく思って。
 私は頷いた。
 頷いて私は溜息を吐いた。
 「――雪だるまあげようと思ったのに。」
 吐いてそう呟いた。
 「雪だるま、なんのこと。」
 その呟きを少女は聞いた。
 私は少女を見た。
 見て顔を振った。
 「なんでもないよ。」
 私は言った。
 言ってお湯を見た。
 波紋が生まれる。
 それを見て思い出した。
 「ねぇ、メリー。」
 私は聞く。
 「なに、シュガー。」
 少女は聞く。
 「今日のお話はなに。」
 そう私は聞いた。
 聞いて少女も思い出した。
 私が来たらお話を話すことを。
 少女は言った。
 「今日は。」
 差し込む光で舞う埃の中。
 「そうね。」
 少女は微笑んで。
 「マッチ売りの少女ね。」
 そう――微笑んで。
 光が染める。
 私と少女を。
 波紋が消えた。




 ―二―

 赤く染まった世界。
 その赤は炎の赤。
 炎の赤は雨で消える。
 その赤は血の赤。
 血の赤は雨で流れる。
 その世界で少女は歩く。
 炎が照らす世界を。
 彼女を探すため。
 少女の手は赤く染まる。
 死人の山を崩して。
 彼女を探すため。
 少女は歩く。
 少女は聞く。
 声の無い世界を。
 雨も炎も静かな世界を。
 少女は見る。
 雨が降る空を。
 月と星は隠れる空を。
 少女は歩く。
 彼女を探すため。
 雨は降る。
 彼女を消すように。
 彼女を流すように。
 少女は止まる。
 少女は見る。
 空を見る彼女を。
 赤く染まった彼女を。
 少女は歩く。
 彼女に近づくため。
 彼女の赤が炎だと信じて。
 少女はしゃがむ。
 少女はふれる。
 赤く染まった彼女に。
 手が染まる。
 赤く染まる。
 少女は見る。
 空を見たかった彼女を。
 雨は降る。
 彼女が消えても。
 彼女が流れても。
 少女は見る。
 落ちたナイフを。
 少女は拾う。
 偶然落ちたナイフを。
 少女は見る。
 少女には必然のナイフを。
 少女は近づける。
 拾ったナイフを。
 赤く染まった手に。
 彼女に会うため。
 ナイフに力が入る。
 「そんな方法じゃ会えないわよ。」
 声が聞こえた。
 力が弱まる。
 少女は見る。
 菊色の髪をした少女を。
 きっと独りぼっちの少女を。
 「あなたは。」
 少女の声が漏れる。
 「キクリ、でも本当は菊理媛神、またはシラヤマヒメノカミかしら。」
 独りの少女は答える。
 「でも、今は意味のないことね。」
 独りの少女は歩く。
 少女に近づくため。
 彼女に近づくため。
 「会えないってどういうことですか。」
 少女は聞く。
 独りの少女に。
 「死んだ人を追ってその人に会えるとでも。」
 独りの少女は答える。
 少女を見ながら。
 雨が降る。
 消えてしまうのに。
 流れてしまうのに。
 彼女のように。
 独り少女はしゃがむ。
 しゃがんで少女を見る。
 視線が同じになる。
 「彼女に会いたい。」
 独りの少女は聞く。
 一人の少女に聞く。
 「会えるんですか。」
 一人の少女は聞く。
 独りの少女に聞く。
 「会えなければ言わないわよ。」
 独りの少女は答える。
 答えて続ける。
 「もう一度言うわ。」
 一人の少女を見て。
 「あなたは彼女に会いたい。」
 彼女のことを。
 雨が降る。
 赤い世界に。
 炎を消すため。
 血を流すため。
 消えてしまうと分かって。
 流れてしまうと分かって。
 少女は見る。
 雨が降る空を。
 月と星は隠れる空を。
 彼女と見た空を。
 きっと一人ぼっちで。
 「会いたいです、蓮子に。」
 少女は答える。
 ナイフが落ちる。
 落ちて音が響く。
 赤く染まった世界に。
 少女は見る。
 独りの少女を。
 「なら、ついてきなさい。」
 独りの少女は言った。
 言って歩く。
 紫鏡に向かって。
 少女は立つ。
 立って歩く。
 独りの少女の後を。
 彼女に会うため。




 瞳を開けて広がった世界。
 そこは赤くなかった。
 夢の続きのように黒かった。
 でも夢とは違った。
 月明かりが照らす黒だった。
 私は周りを見た。
 埃塗れの部屋。
 物が乱雑した部屋。
 独りの妖精が寝る部屋。
 そうして私は気付いた。
 ここは自分の家だと。
 正確に言うと海辺の廃屋だけど。
 私は起き上った。
 起き上って歩いた。
 月明かりの照らす中を。
 窓に近づくため。
 私は歩くのを止めた。
 止めて空を見た。
 月が浮かぶ空を。
 彼女も見た月を。
 「ねぇ、蓮子。」
 気付けば森にあった家から。
 「あなたもこの月を見ているのかな。」
 ナイフを持って。
 私は閉じた。
 彼岸と海の。
 私は開けた。
 混色の瞳を。
 私はナイフを服に入れた。
 入れて思い出した。
 「雪だるま、なんのことかな。」
 私は呟いた。
 今日少女が言ったことを。
 「あげるなら近くで作れば溶けないのに。」
 私は振り向いた。
 振り向いて少女を見た。
 眠る妖精の少女を。
 楽しく微笑む少女を。
 「手袋、作った方がいいのかな。」
 そう呟いて。




 ―三―

  マッチ売りの少女――

 大晦日の夜。
 ある少女はマッチを売っていた。
 冷たい空の下。
 凍えながら。
 きっと一人ぼっちで。
 少女には父親がいた。
 父は優しかった。
 でもある日母が死んだ。
 それらから父は厳しくなった。
 雪が降る日に。
 少女にマッチを売らせるように。
 それでも少女は父親が好きだった。
 だから少女は大晦日。
 マッチを売るため頑張った。
 頑張ったけどマッチは売れなかった。
 一本も売れなかった。
 少女は家に帰った。
 凍えながら帰った。
 父はお酒を飲んでいた。
 帰ってきた少女になにも出さず。
 少女は父に言った。
 一つも売れなかったことを。
 父は少女に怒った。
 怒ってマッチを取り上げ。
 外へ追い出した。
 冷たい外へ。
 少女は家の前で謝った。
 それでも父は出ない。
 少女は家の前で泣いた。
 それでも父は出ない。
 少女は絶望した。
 少女は歩いた。
 冷たく染まりながら。
 誰もいなくなった夜の道を。
 少女は倒れた。
 倒れて瞳を閉じた。
 そのまま落ちてくる闇を見続けて。
 服になにかあることに気づいた。
 少女はなにかを服から取った。
 それはマッチだった。
 少女はマッチを見て。
 火をつけた。
 少女はその火を見た。
 見て少女は思い出した。
 母が生きていたころを。
 父が優しかったころを。
 少女は思い出して。
 そのまま瞳を閉じた。
 幸せそうに微笑んで。




 「おはよう、メリー。」
 扉を開けて私は言った。
 言って雪玉を少女に当てた。
 「――ッ」
 少女は瞳を開けた。
 まだ半開きだった瞳を。
 少女は私を見た。
 見て窓を見た。
 まだ明けかけの空を。
 「ねぇ、起きるのにはまだ早くない、シュガー。」
 少女は頬に手を当てた。
 当たった雪を払うため。
 「早く起こしてって言ったのはメリーだよ。」
 私は手に息をかけた。
 雪玉を作ってて寒かったから。
 「確かにそう言ったけど。」
 少女は溜息を吐いた。
 吐いて窓を見た。
 私も窓を見た。
 雪の積もった外を。
 「ずいぶん積もったね。」
 私は呟いた。
 「そうね。」
 少女も呟いた。
 呟いて椅子から立った。
 「なにをするの。」
 私は聞いた。
 「寒いから紅茶を作る。」
 少女は答えた。
 答えて奥へ歩いた。
 その姿を私は見た。
 見てその後を歩いた。
 「なに、シュガー。」
 少女は聞いた。
 「紅茶作る所見ていい。」
 私は言った。
 「いいけど面白くはないわよ。」
 少女は私を見た。
 「それならメリーに悪戯して面白くする。」
 私は答えた。
 楽しく微笑んで。
 少女はもう一度溜息を吐いた。




 「メリーの紅茶っておいしいね。」
 紅茶を飲んで私は言った。
 椅子に座って言った。
 「そう言ってもらえるならうれしいわ。」
 少女は紅茶を飲んだ。
 椅子に座って飲んだ。
 その姿を見て思った。
 「寒いって思っているのに椅子で眠るんだね。」
 私は聞いた。
 椅子に座って寝る姿を思いながら。
 「確かにそうね。」
 少女は答えた。
 きっと同じことを思って
 「どうして。」
 私はさらに聞いた。
 「癖かな。」
 少女は答えた。
 それを聞いて私は笑った。
 楽しく笑った。
 少女は溜息を吐いた。
 吐いて音が鳴った。
 私は窓を見た。
 少女も窓を見た。
 雪が落ちていた。
 古びた家の屋根の上から。
 古びた音と一緒に。
 「大丈夫かなこの家。」
 少女は呟いた。
 「気付けば雪に埋もれたりして。」
 私も呟いた。
 少女はまた溜息を吐いた。
 吐いて椅子から立った。
 「どうしたの、メリー。」
 私は聞いた。
 なにかを思い出した少女に。
 「ちょっと待ってて、シュガー。」
 そう言って歩いた。
 椅子に紅茶を置いて。
 物が乱雑した机へ。
 少女は机から物をどかした。
 なにかを探すように。
 しばらくして少女はどかすのを止めた。
 止めて少女はこっちに来た。
 なにかを持ちながら。
 手の形をしたものを持ちながら。
 「それはなに。」
 私は聞いた。
 手に持ったなにかを。
 「手袋と言って手に着ければ凍傷にならない物。」
 少女は答えた。
 答えて手を伸ばした。
 手袋を持った手を私に。
 「これシュガーにあげるね。」
 私は手袋を受け取った。
 受け取って少女を見た。
 見て私は言った。
 「ありがとう、メリー。」
 楽しく微笑んで。
 少女は紅茶を取った。
 取って言った。
 「そう言ってくれるなら。」
 微笑んで。
 「作ったかいがあるわ。」
 そう――微笑んで。
 その笑みを私は見て。
 見て紅茶を見た。
 そして紅茶に映る。
 私の顔が。
 少女の笑みと同じ感情の顔が。
 紅茶に映った。
 「どうしたの、シュガー。」
 少女の顔も映った。
 それを見て少女を見た。
 紅茶に映る少女ではなく。
 私を見る少女を。
 微笑んだ少女を。
 そう――微笑んだ少女を。
 「ねぇ、一つ聞いていい、メリー。」
 私は聞いた。
 手袋を持って。
 「いいけどなに、シュガー。」
 少女も聞いた。
 私を見て。
 私は紅茶をもう一度見た。
 私の顔が映る紅茶を。
 さっきと変らない顔が映る紅茶を。
 見て少女を見た。
 私を見る少女を。
 微笑んだ少女を。
 「ねぇ、どうしてメリーはそう。」
 そう――

 「そう、悲しく笑うの。」

 悲しく微笑んだ少女を。
 音が鳴った。
 私は紅茶を見た。
 雪が落ちて。
 私の顔が映る紅茶を。
 古びた音と一緒に。
 変わらない顔が映る紅茶を。
 声がなくなった世界に。
 少女の顔を見ないため。
 きっとそれは鳴った。
 きっと独りぼっちで。
 「きっとそれは。」
 声が聞こえた。
 少女の声が聞こえて。
 私は少女を見た。
 微笑む少女を。

 「蓮子がいなくなったから。」

 悲しく微笑む少女を。




 ―四―

 海が揺れる
 紫鏡の彼方の海が。
 少女は瞳を開け。
 その景色を見る。
 どこまでも続きそうな海を。
 少女は見る。
 少女が乗る船を。
 揺れる船の上を。
 少女は気付く。
 独りの少女がいないことに。
 でも船は運ぶ。
 揺れる少女を。
 彼岸花が咲く岸へ。
 彼女へ導くように。




 雪が降る。
 白く染まった雪が。
 海風に吹かれて。
 少女は歩く。
 彼岸花が咲く中。
 彼女を思い。
 雨が降る。
 優しく残酷な雨が。
 雷に照らされて。
 少女は歩く。
 薔薇が咲く草原。
 彼女に会うため。
 風が吹く。
 閉じた空の下の風が。
 枯れ葉を舞わせて。
 少女は歩く。
 桜が咲くビル街。
 きっと一人ぼっちで。
 雨が止む。
 人が消えた世界に。
 小さな湖を作って。
 少女は止まる。
 月を映す湖の前。
 少女は見る。
 髪の色は秋に枯れた葉色。
 瞳の色は薔薇と空の混色。
 肌の色は雪に染まる菊色。
 そんな彼女を。
 「蓮子。」
 彼女は見る。
 髪の色は雨を照らす雷色。
 瞳の色は彼岸と海の混色。
 肌の色は風に舞った桜色。
 そんな少女を。
 「メリー。」
 視線が合わさる。
 合わさって揺れる。
 湖の月が揺れる。
 少女は歩く。
 彼女の下へ。
 「ねぇ、蓮子。」
 月明かりの京都。
 忘れられたビル街。
 「私も死ぬから。」
 人が消えた世界。
 月の光を拒む道。
 「いつまでも一緒にいて。」
 彼女に向けて。
 彼女を見て。
 少女の思いを。
 言った。

 「――だめ、メリー。」

 言った。
 彼女の思いを。
 少女を見て。
 少女に向けて。
 「メリーは生きて。」
 月の光を拒む道。
 人が消えた世界。
 「死ぬなんて言わないで。」
 忘れられたビル街。
 月明かりの京都。
 「生きて、それが私の。」
 少女の下へ。
 彼女は歩く。
 視線が合わさる。
 合わさって揺れる。
 湖の月が揺れる。
 「願いだから。」
 彼女は言った。




 そして少女は会った。
 花を持った三人の少女に。
 きっと独りぼっちの少女に。




 夢を見た。
 幽玄の空の。
 朝露の夢を。
 私は瞳を開けた。
 開けて夢を思う。
 彼女と会った夢を。
 一人ぼっちの夢を。
 私は周りを見た。
 埃塗れの家。
 物が乱雑した家。
 変わらない私の家。
 見て瞳に映った。
 独りの少女の姿が。
 眠る妖精の少女の姿が。
 それを見て。
 私は起き上った。
 起き上って歩いた。
 扉を開けて。
 雪が降る森へ。
 足跡がついた。
 ついて雪が隠した。
 私は森を見た。
 夜が染める森を。
 帰り道はない森を。
 それでも歩いた。
 忘れない場所へ。
 私は空を見た。
 黒く染まった空を。
 月と星は隠れた空を。
 彼女と見た空を。
 「悲しく笑うの、ね。」
 私は呟いた。
 今日言われたことを。
 少女に言われたことを。
 きっと微笑んで。
 悲しく微笑んで。
 私は歩くのを止めた。
 止めて私は見た。
 小さなお墓を。
 花が飾られたお墓を。
 彼女のお墓を。
 私は見た。
 飾られた花を。
 夢の続きの花を。
 「ねぇ、蓮子。」
 少女の桜を。
 人を殺した桜を。
 少女が封印した桜を。
 「どうして私に言ったの。」
 少女の薔薇を。
 人に嫌われた薔薇を。
 少女とあの子の許した薔薇を。
 「生きてほしいって。」
 少女の彼岸花を。
 地獄に落ちた罪なき彼岸花を。
 少女が背負い続ける罪の彼岸花を。
 「私には生きる意味なんてないのに。」
 私は見て。

 「あなたがいたから私は生きていられたのに。」

 言った。
 雪が降る。
 静かな森。
 足跡を隠して。
 マッチの火を消して。
 少女の思いも隠して。
 足音が響いた。
 私は振り返った。
 振り返って私は見た。
 「シュガー。」
 私は言った。
 手袋をした少女に。
 気配を隠した少女に。
 少女は私を見た。
 見て少女は歩いた。
 私の下へ。
 「ねぇ、メリー。」
 雪が降る森。
 夜が染める森。
 「前に言ったよね。」
 雪が足跡を隠す。
 帰り道なんてない。
 「生きないことって死ぬことって。」
 小さなお墓。
 花が飾られたお墓。
 「死ぬことって遠くに行ってしまうことって。」
 彼女のお墓。
 忘れない場所。
 「それはもう会えなくなることって。」
 少女は言った。
 私を見て。
 私に向けて。
 悲しく。

 「メリーはどこか遠くに行っちゃうの。」

 少女は言った。




 ―五―

 白く染まった世界。
 目の前にいるのは少女。
 その少女を見た。
 見て言った。
 「――」
 でも言えない。
 言葉にできない。
 それでも私は言った。
 「――」
 でも言えない。
 気付けば言う言葉がなくなった。
 気付けば何を言ったのか忘れた。
 だから私は歩いた。
 少女の下へ。
 でも届かない。
 歩いても近づけない。
 それでも私は歩いた。
 歩いて走った。
 それでも届かない。
 気付けば体が疲れていた。
 気付けば歩くのを止めた。
 私は少女を見た。
 白く染まった世界。
 その世界に立つ少女を。
 服からなにかを取った。
 「――ッ」
 私はそれを見て走った。
 身体が疲れても。
 身体が痛くても。
 少女の下へ。
 ナイフを取った少女へ。
 でも届かない。
 「――」
 私は叫んだ。
 言えないから叫んだ。
 でも届かない。
 境界に阻まれて。
 ただ見ることしかできなかった。
 少女の姿を。
 届かない少女を。
 ナイフが近づく。
 手に近づく。
 力を込めて。
 微笑んで。

 少女が赤く染まった。




 ぼやけた世界。
 思いはまとまらない。
 私は瞳を開けた。
 開けて広がった世界。
 そこは光が差し込む世界。
 夢のように白くない世界。
 埃が舞っていた。
 光の染まりながら。
 それを見て瞳に映った。
 小さな手袋が。
 机の上の手袋が。
 「私の手袋。」
 私は呟いた。
 少女からもらった手袋を見て。
 見て気付いた。
 「メリーの家。」
 私は起き上った。
 起き上って歩いた。
 少女の家を。
 あの後少女と帰った家を。
 埃に足跡をつけて。
 少女の寝る所へ。
 「メリー、朝だよ。」
 私は言った。
 言って私は見た。
 少女の寝る所を。
 少女のいたはずの所を。
 「――ッ」
 私は布団を捲った。
 捲っていなかった。
 少女はいなかった。
 私は周りを見た。
 暗く小さな家。
 光が差し込む家。
 埃が光に揺れる家。
 少女が欠けた家。
 私は走った。
 走って瞳に映った。
 少女からもらった手袋が。
 私は手袋を取った。
 取って手に着けて。
 私は走った。
 足跡が残る森。
 雪が積もった森。
 「メリー。」
 朝日が染める中。
 月が落ちた中。
 「どこ行ったの。」
 枯れた木の森。
 雪を飾る木の森。
 「返事をして。」
 太陽が昇る中。
 白く染まった中。
 「お願いだから。」
 夕日が染める世界。
 誰もいない世界。
 「メリー。」
 風が揺れた。
 私は止まった。
 止まって空を見た。
 太陽が落ちる空を。
 少女と一緒に見た空を。
 私は見た。
 森の続く足跡を。
 私は歩いた。
 足跡の先を。
 夕日が染める中。
 少女がいると信じて。
 私は見た。
 小さなお墓を。
 花が飾られたお墓を。
 彼女のお墓を。
 少女の姿を。
 「メリー。」
 私は呟いた。
 呟いて少女を見た。
 お墓の前に立つ少女を。
 ナイフを持った少女を。
 ナイフが手に近づく。
 夢と重なった。
 「だめ、メリー。」
 私は走った。
 走って少女を倒した。
 「――ッ」
 少女が雪に倒れた。
 私も雪に倒れた。
 私は少女を見た。
 少女も私を見た。
 視線が合わさった。
 「死んじゃだめ、メリー。」
 私は言った。
 「お願いだから。」
 手を伸ばして。
 「生きて、メリー。」
 少女にふれるため。
 なにかが風を切る。
 手が痛みに染まった。
 私は手を見た。
 手は染まっていた。
 赤く染まっていた。
 夢のように。
 「メリー。」
 私は少女を見た。
 ナイフを持った少女を。
 赤く染まったナイフを。
 持った少女を。
 「どうしてそんなこと言うの。」
 声が聞こえた。
 少女の声が。
 「蓮子もシュガーも。」
 ナイフから赤が流れて。
 「生きてほしいって。」
 雪が赤く染まる。

 「私には生きる意味なんてないのに。」

 夢のように。
 少女は立って走った。
 私も立って走った。
 少女を追いかけるため。
 でも転んで。
 起き上ったときには。
 少女の姿がなかった。
 足跡を追った。
 少女の足跡を。
 でも雪が降って。
 気付けば少女の足跡は。
 隠れてしまった。
 私は見た。
 雪が降る森を。
 少女がいた森を。
 手を見た。
 赤く染まった手を。
 切れた手袋の手を。
 少女からもらった手袋を。




 ―六―

 空を見る。
 夕日が染める空を。
 どこまでも続きそうな空を。
 少女は彼女を見る。
 彼女も少女を見る。
 見て二人で笑う。
 笑って二人は話す。
 楽しいことを。
 面白いことを。
 幸せなことを。
 出会ったときのことを。
 話し合って少女は見る。
 夜に染まった空を。
 「ねぇ、メリー。」
 彼女も見る。
 月が浮かぶ空を。
 「これからもずっと。」
 海みたいな空を。
 夢みたいな空を。
 「友達でいようね。」
 微笑んで。




 雪の足音。
 森に響く音。
 その音を感じた。
 だから雪は降っていない。
 雪はその音を隠すから。
 だから私は歩いていた。
 森には誰もいないから。
 響くのは私の足音だけだから。
 でも、それはきっと。
 あのときと変わらない。
 「一人ぼっちなのかな。」
 私は空を見た。
 雪が止んだ空を。
 月と星は隠れた空を。
 「ねぇ、蓮子。」
 黒く染まった空を。
 現のような空を。
 「ここは幻想郷だよ。」
 幻想の理想郷。
 忘れられた者の楽園。
 「あなたの目指した世界。」
 変わらない古き日出ずる国。
 生きる者たちが住む世界。
 「私たちが目指した世界。」
 秘封倶楽部の始点。
 そして。
 「だから蓮子。」
 人を殺す桜の少女。
 「あなたの眠る所で。」
 嫌われた薔薇の少女。
 「私は死ぬから。」
 罪の証の彼岸花の少女。
 「いつまでも一緒にいようね。」
 秘封倶楽部の終点。
 私は歩いた。
 忘れない場所へ。
 菊の花を持って。
 独りの少女からもらった。
 菊を持って。
 彼女に会うため。
 雪の足跡。
 森に続く跡。
 雪は隠さない。
 それはきっと。
 きっとそれは。
 いたから。
 私は歩くのを止めた。
 止めて見た。
 小さなお墓を。
 花が飾られたお墓を。
 彼女のお墓を。
 そして。
 私を見る。

 「――シュガー。」

 少女の姿を。
 陰が染める。
 私と少女を。
 声が消えた。
 私は少女を見た。
 私を見る少女を。
 切れた手袋をした少女を。
 「どうしてここに。」
 私は聞いた。
 傷つけた少女に。
 少女は私を見た。
 少女を拒んだ私を。
 瞳を背けないで。
 少女は歩いた。
 私の所へ。
 私を見つめて。
 「ねぇ、メリー。」
 雪の足音。
 森に響く音。
 「私ね、メリーに。」
 雪の足跡。
 森に続く跡。
 「見せたい物があるの。」
 少女は答える。
 少女は歩くのを止めた。
 「だから、ここにいたの。」
 少女は手を伸ばした。
 私に向かって。
 「だからメリーに。」
 私の手と。
 「見に来てほしいの。」
 合わせるため。
 私はその手を見て。
 その手に私は。

 手を合わせた。




 白く染まった世界。
 目の前にいるのは少女。
 その少女を見た。
 見て言った。
 「あなたの名前は。」
 少女は振り返った。
 振り返って私を見た。
 そして頭を傾げた。
 「なまえ。」
 そう言った。
 私はそれを聞いた。
 聞いてわからなかった。
 わからなかったから聞いた。
 「なまえっていう名前。」
 それを聞いて少女は。
 また頭を傾げた。
 それを見て私は気付いた。
 「名前がわからないの。」
 そう聞いた。
 少女は私を見た。
 見てなんとなくだけど。
 少女は頷いた。
 「名前というのは。」
 私は説明した。
 名前の意味を。
 私は少女を見た。
 見てなんとなくだけど。
 少女は頷いた。
 「あなたにも名前があるの。」
 そう聞いた。
 聞かれて私は答えた。
 「マエリベリー・ハーン。」
 彼女に聞かれたように。
 少女はそれを聞いた。
 聞いて歩いた。
 「それなら。」
 雪に足跡をつけて。
 「どうして私には。」
 私に向かって。
 「名前がないの。」
 生まれたばかりの妖精は。
 そう聞いた。
 それを聞いて私は。
 だから私は。
 「それなら私がつけてあげる。」
 そう言った。
 私は少女を見た。
 私を見る少女を。
 「本当。」
 私に聞く少女を。
 「本当。」
 そして私は空を見た。
 月が浮かぶ空を。
 星が浮かぶ空を。
 「そうね、あなたの名前は。」
 彼女と見た空を。
 私は少女を見た。
 見て私は言った。
 「シュガーサテラ。」
 砂糖の衛星と。




 「ねぇ、シュガー、どこまで行くの。」
 少女の手と繋いで私は言った。
 少女に言われた通り。
 瞳を閉じて。
 「もうちょっとだから待ってて、メリー。」
 少女は答えた。
 答えて手を引っ張った。
 強く引っ張った。
 「――ッ」
 体勢が崩れた。
 私は転びかかった。
 私はなんとか体勢を直した。
 直して私は手を握った。
 「シュガー、今のわざと。」
 私は言った。
 強く握って。
 「ごめん、メリー。」
 少女は謝った。
 謝って歩いた。
 私も歩いた。
 手を繋いで。
 雪の足音。
 二人分の足音。
 その音を感じて。
 どうして手を繋ぐのだろう。
 あんなに死のうと思ったのに。
 手を伸ばした少女を見て。
 思いがあやふやになって。
 死にたいのか。
 それとも。
 生きたいのか。
 思いがわからなくなった。
 少女の見せたい物を。
 私は見てみたいから。
 せめて死ぬ前に。
 少女と一緒にいたいから。
 でもそれは。
 それはきっと。
 きっとそれは。
 少女があそこにいたから。
 足音が止む。
 少女が歩くのを止めた。
 私も歩くのを止めて。
 「目開けていいよ、メリー。」
 少女の声を聞いて。
 私は瞳を開けて。
 瞳が染まった。
 光に染まった。
 月が照らしたと思った。
 世界を照らしたと思った。
 でも違った。
 月なんてそこにはなかった。
 ただそこは。
 雪が光っていた。
 色の無い光が。
 雪からあふれて。
 世界を染めていた。
 その光を見て。
 私は気付いた。
 目の前の雪に。
 雪だるまがあることに
 手作りの雪だるまが。
 三つあることに。
 「――これは。」
 声が漏れた。
 漏れて響いた。
 光に染まった世界に。
 「これ、光っててきれいでしょ。」
 少女は答えた。
 答えて前に歩いた。
 「本当は凍傷を起こした日に。」
 雪の足音。
 「ここの雪の雪だるまをあげようとしたけど。」
 森に響く音。
 「溶けちゃってて。」
 雪に隠れない音。
 「だからここで作っていたんだ。」
 その音さえ。
 「私と。」
 この雪の光に。
 「メリーと。」
 染まって。
 「蓮子の。」
 隠れてしまうそうで。
 「雪だるまを。」
 少女は私を見た。
 私も少女を見て。
 視線が合わさった。
 風が吹き。
 雪が舞い。
 光が踊る。
 「どうして。」
 風が揺れて。
 「あんなことをしたのに。」
 雪が解けて。
 「どうしてこんなことをするの。」
 光が染める。
 そして。
 「だって。」
 もう一度。
 「私とメリーは友達でしょ。」
 繰り返す。
 風が吹き。
 雪が舞い。
 光が踊る。
 ねぇ、メリー。
 風が揺れて。
 これからもずっと。
 雪が解けて。
 友達でいようね。
 光が染める。
 膝がついた。
 雪についた。
 「どうして気付かなかったのかな。」
 声が漏れる。
 「友達だから。」
 漏れて響いた。
 「生きてほしいって。」
 光に染まった世界に。
 声は光に染まった。
 「ねぇ、シュガー。」
 私は少女を見た。
 「私、生きたいよ。」
 色の無い光に。
 「生きていたいよ。」
 染まった少女を。
 「どうすれば生きられるかな。」
 手袋をつけた少女を。
 私は見て。
 少女は見て。
 答えた。

 「そう願えばいいんだと思う。」

 微笑んで。
 涙があふれて。
 抑えようとしても。
 あふれてしまって
 少女を抱いて。
 強く優しく。
 思って。
 光が強くなった。
 私は空を見た。
 空には月があった。
 あって月が照らして。
 より強く雪の光が。
 世界を染めた。
 その空を見て。
 少女が手を伸ばした。
 月が浮かぶ空へと向けて。
 「どうしたの、シュガー。」
 私は聞いた。
 手を伸ばした少女に。
 「――月の光をつかもうとしてるの。」
 少女は答えた。
 光に染まった世界で。
 「どうしてつかもうとするの。」
 私は少女を見た。
 涙があふれた瞳で。
 月の光をつかむ少女を。
 「忘れないためだよ。」
 少女は手を伸ばす。
 楽しく微笑んで。
 私は空を見た。
 月が浮かぶ空を。
 彼女と見た空を。
 「そうね。」
 私は手を伸ばした。
 少女と見る空を。
 月の光をつかむため。
 きっと二人ぼっちで。




 ― ―

 誰かがいる森。
 いるとすれば魔法使い。
 桜のような花は咲かない。
 咲くとすれば妖しげな木野子。
 その森の続く足跡。
 終わりかけの雪の足跡。
 生まれたばかりの妖精の足跡。
 その跡を追って見える家。
 独りの妖精が遊びに来る家。
 一人の少女が住む古びた家。
 そして。
 二人の少女が楽しく笑いあう家。
 そんな二人の少女がいる森。
四作品目、夜空空夜です。

前作『幽玄の空、朝露の夢』の続きです。
前作の謎だった部分を説明したつもりです。それでも謎な部分はあるんですが。

キクリの自己紹介で「シラヤマヒメノカミ」が片仮名なのは変換できなかったからです。
夜空空夜
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
こういう感じのお話はやっぱり良いですね
2.100名前が正体不明である程度の能力削除
河城みとりくらい有名になってほしい。
6.100名前が無い程度の能力削除
シュガーサテラが出るとはこのリハクの目を持ってしてでも見抜けなかった
いいのう
8.100名前が無い程度の能力削除
b
9.80名前が無い程度の能力削除
是非よければこの流れでもう一作程読みたい所