Coolier - 新生・東方創想話

ある妖怪の日常

2005/06/13 00:51:34
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ぬぅ、暑いのう。
この陽射しは、老体には堪えるわい。
ついこの間まで冬の如き寒気が漂っておった気がするんじゃが……
ワシももう年かのぅ。
……そりゃ年なのは確かじゃろうなぁ。
何しろ今が何年だったのかも思い出せんわい。
フォホホホホ。
……むなしいのう。


 ぐゎらん ぐゎらん ぐゎらん ぐゎらん ぐゎらん ぐゎらん ぐゎらん ぐゎらん

んがっ! な、なんじゃ!?

「お嬢様、順番が違いますわ。先に賽銭を入れるのです」
「そんなのどうだって良いじゃない。こんなものただの集金装置に過ぎないわよ」
「はぁ」

な、なんたる暴言じゃ!
わしはいたくぷらいどを傷つけられたぞ!
お嬢ちゃんには少しお仕置きを……

どさ どさ どさ 

……まあ、良しとするかの。
永くを生きたワシが、このような小さな事象で腹を立てるのも大人気ないじゃろう。
しかし、入れてくれるのは良いんじゃが、もう少しこんぱくとにまとめてはくれんかのう。
この紙幣というものは、いまいち大味なんじゃよ。

「ところで、何か願い事はあるのですか?」
「そうねぇ、無いことも無いけど……」
「あら、少し意外でしたわ」
「どういう意味よ」
「いえ、お嬢様でしたら、願うなどという不確実な手ではなく、強引に押し進めるのではないかと思いました」
「私を力馬鹿みたいに言わないで頂戴。……こればかりは自力でどうこうできる物じゃないのよ」
「……」

そうかも知れんのう。
ワシが手を貸すまでもなく、嬢ちゃん一人でも実行は可能じゃろうが、
それが臨む結果を生み出すとは限らんからな。
ま、時間はいくらでもあるのじゃから、好きなだけ考えるが良い。
……と言えないのも辛いのぅ。
何しろ、それが嬢ちゃんの悩みなのじゃからなぁ。
難しいもんじゃて。









「ふう、暑いわねぇ」
「そうですねぇ」

客か!? 
……違うな。こやつらが客である筈も無いわい。
しかし、どうやって結界を乗り越えて来たんじゃろうなあ。
さては上を飛び越えて……いやいや、そんな論外の結界が存在する訳もあるまい。

「どっこいしょ、っと」
「……おっさん臭いなぁ」

むぎゅ

こ、こ、こ、こやつ、座りよった!
ワシを椅子か何かと勘違いしておるのか!
ええい、大体この神聖な地に、亡霊なんぞという不浄の塊が堂々とやって来とる事自体がおかしいんじゃ。
ここは一つお灸を据えてやるかの。
そいやっ、と。

「……あれ?」
「ん、どーしたの?」
「えーと、気のせいでなければ、幽々子様から煙がもうもうと立ち昇ってるように見えるのですが」
「へ? あら、本当だわ」
「そうですか。良かった、てっきりまた目がおかしくなったものかと」
「やーね妖夢ったら」
「……」
「……」
「……」
「あち、あち、あち、あち、あついいいいい! アンデッドは火に弱いのぉーーーーーーーーーーー!」
「幽々子様ぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」

フォホホ、飛んで帰りよったわい。
ワシの手にかかれば亡霊なんぞこんなもんじゃ。
ま、この程度しか出来んとも言えるがの。

……ええい、一人突っ込みは寒くてたまらん。
外はこうも暑いというのに、ワシは身も心も懐も凍りつきそうじゃ。
誰か、信心深い奴でも来ないものかのう。








「……」

ほ!?

「……」

な、なんじゃ、この娘は。
気配をまったく感じんかったぞ、おお怖い。

 どさ どさ どさ どさ どさ

こ、こりゃ、変なものを入れるでない。
生者の食い物はワシの口には合わんのじゃ。
……とは言え、一応は貰っておくかの。
喰える時に喰っておかんと不安じゃて。
もごもご……

 がらごろがらごろがらごろがらごろがらごろ

や、やめんか、こら。
そんなに振っては落ちて……

「あだっ!?」

ああ、言わんこっちゃないわい。

「……まったく、何をやってるんだお前は」
「うー……」
「気が立っているのは分からんでもないが、仮にもここは神を奉る神聖な場所だぞ。
 少しは作法というものを見直せ」
「そんなのもう忘れちゃったわよ」
「なら私が教えてやる。いいか、まずは鳥居をくぐる所から……」
「ああ、もう、五月蝿いなぁ。別にいいでしょそんなの。
 どうせ、こんな寂れた神社に奉ってあるのなんて、ロクな神様じゃないわよ」
「……」

酷い物言いじゃのう。
ほれ、隣の嬢ちゃんも呆れとるわい。
……まぁ、ここが何の社かなんぞワシも知らんのじゃがな。

「で、一体何の用があったんだ? わざわざ神社まで来るなんて」
「そりゃ当然、願い事よ」
「……分かりやすいな」

 ぱしぃん!

「住所不定無職 藤原妹紅! 輝夜が死にますように! 輝夜が死にますように!
 輝夜が死にますように! 輝夜が死にますように! 輝夜が死にますように!」
「……もう十分に分かった。分かったから帰ろう……」
「輝夜ぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

わ、訳がわからんぞい、まったく。
ともあれ、必死なのは伝わったが、流石にその願いは無理じゃのう……
そもそも誰かを殺す事なんぞワシの範疇ではないからの。
ま、例え出来たところで無意味じゃ。
その問題は、おぬしらの間で解決する他無かろう。

『ああ、分かっている。世話をかけたな』

んあ?
何じゃ今のは。
気のせいにしてははっきり聞こえた気がするんじゃが……。









「……はぁ」

む、客か。
……って何じゃ、いつものお嬢さんではないか。
これ、そんなに暗い顔をするでない、ワシまで気が滅入るわい。

 ちゃりん

おお、いつもすまんのぅ。
では頂くとするかの。
もがもが……うむ、まったりとしていてコクがあり、それでいてしつこくなく清涼なる後味。
何度食しても飽きる事のない至高の味じゃ。

 がらん ごろん がらん

 ぱん ぱん

うむ、二拝二拍手一拝。
この基本が大事なんじゃよ。
だと言うのに、最近の輩と来たら……

「……さと……ますように」

……ぬ、いかんいかん。聞き逃してしまったぞい。
ま、問題ないじゃろう。どうせいつもと同じじゃ。
しかしお嬢さんや。
毎日来てくれるのはありがたいんじゃが、その願いはとうに叶えた筈じゃぞ?
もし成就してないのなら、それはお前さん自身の問題じゃろうて。

「……はぁ」

と、これ、お嬢さんや。
帰る前に、忘れ物に気付いてみてはどうじゃな。
そう、それじゃ。
大事なものなんじゃろう。そんな真っ黒な姿になるまで……
なに? 最初から黒いじゃと?
むう……確かにそうと見えなくもないわい。
しかし、ワシにはこれが以前は白かったように思えるんじゃがのう。
それも白いだけではなく中身も別……


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ひょ!?
こ、この殺気は何事じゃ!?
す、すまん。ワシが悪かった。
これに関しては二度と詮索せんから勘弁してはくれんか?

……ふぅ。
このワシを恐れさせるとは大したものじゃ。
仕方ない、この件は黒歴史にするわい。
……我ながら言いえて妙じゃな。


「……一雨来そうね」

にゃに?
おお、まことじゃ。
この空模様では一雨どころか、雷も落ちかねんわい。
しかし、天気の変わり目にも気付かんとは……本当にボケてきたのかもしれんのう。
……いかんいかん。ねがてぃぶしんきんぐは禁物じゃ。
病は気からと言うではないか。
強く生きろワシ!







「ん? 今誰かいたような……気のせいかしら」

む、来たようじゃな。

「さーて、今日の成果は、と」

残念じゃが何時も通りじゃ……んがっ。
ぬう、相変わらず乱暴に扱ってくれるもんじゃ。
もう少しおしとやかにならんと嫁の貰い手も無くなるぞい。
まあ、行く気があるとも思えんがの。

「ふぬーーーーーー!!」

ふが、ふが、そんなに振っても何も出んぞ。

「……はぁ、我ながら無駄な努力よねぇ」

ふう、どうやら諦めたようじゃな。

「これで連続空振り180日突破か……というか、180日前も本当に入っていたか怪しいもんね」

ああ、確かに入っていたんじゃろう。
あの日はワシが寝過ごしていたのでな。フォホホ。

「まったく、この世界にゃ信心深さを残した奴なんて居ないのかしらね」

まあ安心して良いぞ。
ご利益は十分に与えておるでな、りぴぃたーには事欠かんじゃろう。
もっとも、おぬしは気付いておらんじゃろうがな。
ワシのいる限り、博麗神社は安泰じゃて。
フォホホ……


どうも、YDSです。
博麗神社の賽銭箱がいつも空なのは何故か?
と軽く妄想してみたところ、こんな形になってしまいました。

舞台は一応、永夜抄EXの翌日辺りを想定しています。
妹紅が切れているのもその為です。

そういえば、昔は賽銭って金銭じゃなかったんですよね。
とすると、この金喰い妖怪も威張るほど長生きでは無いのかもしれません。
YDS
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コメント



0.3290簡易評価
1.60てーる削除
九十九神かと思いましたが
ここまでくると妖怪というより精霊・・というより神霊なのでしょうかね

霊夢・・・強く生きろ・・(つロT;)
4.70名前が無い程度の能力削除
賽銭、食われてたのか…そりゃ空振り180日も突破すらーな。
というか気づけよ霊夢。(苦笑
15.60削除
えー話や(ほろり
17.無評価七死削除
ああ、オイラっちもこんな妖怪になりてえなぁ。
しかし霊夢にバレた時がどうなるか?見てみたい~見てみたくない~(((;゚皿゚)))
22.50他人四日削除
深い作品だと思った。
27.60名無し毛玉削除
これですべての謎は解けたッ!…とか思ったりした時期がオレにもありました……
47.70沙門削除
 カネゴン!!だったりして。耳袋みたいな奇譚で面白かったです。鳥居とかにも何か居そう。