Coolier - 新生・東方創想話

刻み込まれた存在。

2005/06/09 01:37:48
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①この作品は、作者水無月剣羅のオリジナル設定が一部含まれております。
②一部、百合的な描写が含まれています。
③以上の事を了解の上で、本文をお読み下さいませ。

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 全ては、あの日から……私の親友レミィのために、この幻想郷を霧で包んだあの日から
始まった。
 今まで、そのような事が私の辞書の中に刻み込まれる事になるなんて。
 思ってみた事もなかったから。


 門番の中国を、更に私の使い魔までも倒した人間の魔法使いは、私の魔法さえも突破し
て、別ルートで紅魔館に突入していた博麗神社の巫女と共に、咲夜やレミィを倒した。
「私の魔法は、そんなに突破するのが簡単だったかしら?」
 私は、あの日以来私の図書館に入り浸るようになった魔法使いにそう尋ねた事がある。
 魔法使いとして長く生きてきたし、知識を司る者として、私は、図書館に仕掛けていた
魔法に自信があった。それを突破されて、正直悔しかったから。
「……簡単?パチュリーの魔法がか?」
 大きな茶色い背表紙の本を読みふけっていた魔法使いは、ふと顔を上げると私に向かっ
て苦笑した。
「簡単だったら、あそこでマスタースパークを使うかよ。あの時図書館に仕掛けてあった
魔法は、パチュリーにとってとっておきだったのかも知れないが……マスタースパークは、
私にとってもとっておきのものなんだぜ?とっておきのものを、簡単なものに対してそう
そう使わないよ。勿体無いだろ?」
「……でしょうね。」
 私は、微かに嘆息した。そして、同時に安心する。
 確かに、この魔法使いの性格だったら、簡単なものに対してとっておきのものをそう簡
単に使うような事はしないだろう。
 という事は、私が仕掛けた魔法は、とっておきのものだっただけの価値はあったのだろ
う。突破されはしたが、あの時、この魔法使いは、私の魔法に悩み苦しんだという訳だ。
 少し、揺らいでいた自尊心が立ち直る。
「それで?」
 私は、つとめて冷静に魔法使いを見た。
「その本、どうするつもりなの?」

「そうだな。」
 魔法使いは、本をぱたんと閉じた。
「いつも通り頂いて―――」
「あげていないわよ。『貸している』だけ。」
 私は、冷ややかに魔法使いの言葉を訂正する。
「その本に限らず、今まで貴女がここから持っていった本全てもね。早く返して頂戴。」
「相変らず、手厳しいな。」
 魔法使いは、再び苦笑した。
「でも、この本は頂いていかないぜ。今度来た時、また見させて貰うからな。」
「だから、私は貴女にあげたつもりはないと―――え?」
 私は言いかけてはっとする。
「今度来た時にまた見るって……持っていかないつもりなの?珍しいわね。」
「寄る所があるんだ。」
「寄る所?」
「香霖堂さ。いいアイテムが入ったと昨日連絡があって。」
「そう、それなら納得出来るわ。」
 私は肩をすくめる。
 香霖堂の噂は、あの日以来出入りするようになった魔法使いだけでなく、博麗神社に足
繁く通うようになったレミィや咲夜の口からも聞いている。色々なアイテムを置いていて、
店主が相当癖のある人間だと。
 いつもここから本を持って行く時、目的の本以外にも何冊も抱え込んで両手をいっぱい
にして帰って行く魔法使いである。まして、香霖堂が噂通りの品数と品揃えで、かつ店主
が癖あり人物なら……。
「何が納得出来るんだ?」
 魔法使いは不思議そうに私を見る。
「何でもないわ。」
 私は、ふいとそっぽを向く。
「それより、行くならさっさと行けば?私は、誰かさんがちらかしてくれた本を整理整頓
しなければならないんだから。」
「冷たいな。」
 わざとらしく悲しんでみせてから、魔法使いは、立てかけてあった箒に手を伸ばす。
「それじゃあ、私は帰るぜ。」

「待ちなさい。」
 私はくるりと振り返り、念を押した。
「本っ当に、今日は本を持って行っていないのね?」
「本当に持ってないって。」
 魔法使いは言うと、ひらひらと両手を振ってみせた。
「服の下とかにも隠してないでしょうね?」
 私は、つい数ヶ月前に服の下に隠して本を持って行かれたばかりだったのでそう言った。
「だ~か~ら~、今日は本当に持って行っていないって。」
 再び苦笑した魔法使いは、己の服を摘む。
「何なら、この場で証明してみせようか?」
「―――やらなくていいわよ!!!」
 服の下に隠していないか証明する、それはすなわちこの場で服を脱ぐ事だ。図書館でそ
んな事をやられてはたまったものではないので、私は全力でお断りした。
「分かったわよ、分かったから早く行きなさい!!!」

「はいはい。疑いが解けた所で、心置きなく行きますか。」
 魔法使いは言うと、箒にまたがりかけ……ふとそれを止めた。
「―――って、そうだ。」
「?」
 私は、魔法使いが慌しく飛び去っていく事を想像していたので、まさか彼女がこちらに
向かって歩み寄って来ているとは思いもよらなかった。
 だから私は、傍に立った魔法使いに静かに問い掛ける。
「今度は何?」
「二~三日中に、また来るぜ。本の続きを読ませて貰うのと……」
 悪戯っぽく笑った魔法使いは、言いながら、いきなり私の頬に軽く口付けを送ってきた。
「パチュリーに会いにな。」

「!!!!」
 一瞬、頭が真っ白になる。反対に、顔は真っ赤だろう。
 私はそれを自覚しながらも、いきなりそんな事をしてきた魔法使いに文句のひとつかふ
たつ、もしくは魔法のひとつかふたつをお見舞いしてやろうかと思い、慌てて意識を引き
戻す。
 だが、既に遅くて。
 魔法使いは、さっさと図書館を飛び出してしまっていた。
 遠くで何かが跳ね飛ばされる音と同時に、
「あ~~、い~~やぁ~~~~!!!」
 という悲痛な中国の叫び声が響いている。―――何が起こったのかは明白だ。
 (全く……来る時も騒々しければ、帰る時も騒々しいんだから。)
 私は小さく溜息を吐いて、魔法使いが読み散らかしていった本を拾い上げ始める。
 二~三日後にまた来ると言っていたのだから、その二~三日後にはまた同じ事態になる
のかと思うと、頭が痛くなってくる。

 あの日の前まで、私の辞書にはその概念はなかった。
 けれど、今は明確に刻み込まれている。
 魔法使い―――霧雨魔理沙。彼女の名前と、彼女の存在。彼女がこの静かな館と図書館
に巻き起こす数々の騒動。それによって誘発される厄介事と、対照的な楽しげな笑い。
 そして。
 騒々しくて仕方がないはずの彼女の訪れが、私の中で、既に普遍のものになっている事。
 来たら来たで心労は尽きないが、来ない時よりは遥かに気が楽で。
 彼女が「次はいつ来る」と言い残して去って行った後は、彼女が再びやって来る日を、
心の何処かで楽しみにしている私がいる事。
 レミィとフランと、咲夜と中国。―――彼女達以外に、私の心に住まう存在が現れたと
いう事。



 霧雨魔理沙。
 新たに私の辞書に刻み込まれた、私のかけがえのない存在の記録。
はじめましてorこんにちは。水無月剣羅です。
ストーリーは、魔理パチュです。途中でレミリアと咲夜が霊夢の所に通うようになった描写や、魔理沙の箒にはね飛ばされる美鈴(笑)の描写がありますが、パチュリーの一人称での魔理パチュです。
魔理沙がいる時間が、いつの間にか当たり前の事となりつつあるパチュリーという設定で描いてみました。
批評・感想等頂けましたら光栄です。
水無月剣羅
http://kimitoosanpo.fc2web.com/
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