Coolier - 新生・東方創想話

さなてんは今日の三時のおやつ

2012/01/02 19:57:07
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――最初は、神社が欲しかった。それだけだった。

 コツコツ。神社の石段を登る靴の音。もうそんな時間か。この神社の巫女、東風谷早苗はその音を
聞きつけ、掃除の手を止めた。鳥居の向こうの石段に目をやれば、見覚えのある帽子がひょこと現
れる。黒い帽子、そしてその帽子に生えている桃の果実。間違いない、あの子だ。次の一段でその
少女と早苗の目があった。
「こんにちは、早苗! 今日もお茶を頂きに来たわ!!」
比那名居天子。天人でありながら、天界に飽きてしょっちゅう地上に遊びにきている少女であった。
なんでも昔、博霊神社を乗っ取ろうとしてあの八雲紫にボッコボコにされたとかいうので早苗も最初は
警戒したのだが。
「あら、今日も神社を乗っ取りに?」
早苗は天子に手を振る。最初のうちは真面目に守矢神社を征服しようとか考えていた天子だった
が、早苗にすっかり毒気を抜かれて普通に茶飲み仲間として定着したのであった。
「そうね。こうして毎日入り浸って、最終的に私の神社にしてあげる」
天子は毎日三時になると必ず現れ、そして早苗とのお茶を要求する。彼女の言葉の本意はどうあ
れ、天子は満足そうであるし、早苗も悪い気はしないようだ。
「あはは~。天子さんがそういう目論見を少しずつ続けるのは無理そうです」
早苗は箒を置き、天子を本殿の縁側に案内する。さすがに中に入れるようなことは無いようで。
「どうかしらね。それよりほら、今日も桃、持ってきたわよ」
天子は手にした篭を自分と早苗の間に置いた。かぶさっている絹の布を早苗がそっと取り払うと、天
界で採れたという瑞々しい桃が四つ、綺麗に並んでいる。
「わぁ、ありがとうございます! 神奈子様~! 諏訪子様~! 今日も桃農家のご令嬢が桃を持っ
てきてくださいましたよ~!」
早苗は目をキラキラさせ、履物を脱ぎ棄てて本殿の中にパタパタと駆けて行った。毎日同じ桃だとい
うのに、毎日同じように目を輝かせて喜んでくれる。そんな彼女の後姿を見送り、天子は少し申し訳
無くなる。
「こんなものしか持ってこれない私を傷つけまいと頑張ってくれてるのかしらね」
そんなことで傷つくことは無いし、むしろそういう気の使われ方をすると来づらくなる。いや、もしかす
るとそれが狙いか……? 天子はふと、そんな考えに至った。
「お待たせしました~」
お茶を持って戻ってきた早苗を見て、一瞬でもそう勘繰った自分の事が恥ずかしくなった。どうにも、
彼女の純粋そうな立ち振る舞いを見ていると“この少女に裏などない”と思わされるのだ。
「誰が桃農家よ」
そんな思考を振り切って、天子がいつものように早苗に言う。若干、さっきまで自分が考えていたこと
を誤魔化すように。
「あら? 似たようなものではありませんか」
早苗がにこにこと笑い、そして自分と天子の間にお盆を置く。お盆の上には、湯飲みに並々と注がれ
た緑茶二つと皿に乗っかった桃二つ。そしてつまようじ二本。
「それはあれよ、神社とお寺が似たようなものでしょって言われるようなものよ」
緑茶を手に取り、天子はそう喩える。
「似たようなものですよー?」
早苗の返答に、天子は危うくお茶を吹きだしかけ、そして気管に入り込んでしまったのかケホケホと
小さくむせた。
「ごめん、私のたとえがいけなかった。無職と管理職ぐらいの差があるわ」
「つまり、桃農家が管理職で天人が無職ですか」
うん、やっぱり裏は無いな。早苗の容赦ない回答に天子は改めてそう確信する。
「まぁ……そうね」
やっぱりこの喩えはよくなかったな、と心の中で天子は思う。そして、こうも思う。もし早苗なら“やっ
ぱ、今の喩えはナシ、ナシです~!”とか言うのだろうと。心の中に仕舞っておくぐらいなら吐き出して
しまうのが彼女だもの。
 けど、そういうところがいいのよね。天子は一人、そんな考えにふける。
「わぁ~、手がべとべとになっちゃいました」
と、天子がそんなことを考えている間に早苗は桃を剥きはじめていた。おぼつかない手つきで、それ
でも頑張って桃の皮を剥いている。
「あらら……ちょっと貸しなさい」
半分ほど剥かれた桃を受け取ると、天子は慣れた手つきでそれを剥いていく。天界に住まう以上、こ
のスキルは必須だった。何せこれしか食べ物がないのだから。
 皮を剥き終えると、彼女はつまようじを使って器用に切れ目を入れ、桃を一口サイズにカットしてい
く。普通は刃物でもなかなか上手くいかないのだが、彼女はそれを難なくやってのけた。早苗がそん
な天子の事を若干頬を赤らめて見ていることには、天子は気がつかなかったが。
「はい、お待たせ。もう、毎日剥いているのに慣れないわね」
天子はそのうちのひとつにつまようじをプスッと突き立て、そして僅かに汁のついた指をペロッと舐め
た。
「そうやって天子さんがやってくれちゃうから覚えないんですよ~っ! けどありがとうございます!」
そう言えばそうか。自分は教育者には向いてないんだろうな、と天子は思う。普段はえらそうに忠言
するのだが。
「ではいっただっきま~す!」
かぷり。つまようじに刺さった桃のピースを口に運び、そして口に放り込む早苗。甘く、瑞々しい桃の風
味が口の中いっぱいに広がる。
「むぐむぐ……う~ん、おいひ~れす!」
「のみこんでから喋りなさい」
いつもの味でありながら、いつも通りに満面の笑み。天子はその笑みを見るといつも、なんだか変な気持
になるのだった。自身が女性でありながら、早苗の事を愛おしく思うような。どうにも、早苗の笑顔には
不思議な力があるようだ。男女を問わず惹きつけられるような、そんな笑み。これが現人神のカリスマと
いうものなのだろうか。
「いいじゃないですか、聞き取れたんだし」
「天界ではそういう事するとすっごーく怒られるのよ?」
「そんな天界が窮屈で地上に遊びに来てるんじゃなんですか?」
「まぁ、そうね」
地上でもやっぱりそれをやったら怒られるような。天子は思うも、声には出さない。実際天界にいる間
より、こうして早苗の隣にいるほうが楽しいのは事実なんだし。
「ところで天子さん、桃食べないんですか?」
早苗がつまようじに刺した桃を天子に差し向け、首を傾げて尋ねる。
「私はいいわ。帰ればいくらでもあるし」
「そんなこと言わないでほら」
あーんしてくださいよ~! と、早苗は桃を天子の口に持っていく。
「あ……えと……その、だから私はいいって!」
途端に赤面する天子。あたふたと手を振って全力で断るも、そんなことで早苗を引きさがらせること
は出来る訳もなく。
「だめです~! はい、あ~ん!」
早苗に片手を掴まれて観念したか、いたしかたなく口を開ける天子。力では勝っているはずなのに、
天子はそれに抵抗することが出来なかった。早苗の好意を無駄にしたくないからだろうか。
「……むぐ」
天子はろくに噛みもせずにそれを飲み込み、そして早苗に何か言ってやろうと思ったところで台詞が
見つからなかった。別に早苗に悪気があった訳ではないのだし。
「えと……ありがと」
「えぇ、どういたしまして!」
嬉しそうに笑う早苗。本当に、他意のなさそうな笑顔で。そんな笑顔にぼーっと見とれる自分に、天子
は気がつく。可愛いなぁ、と。
 ――いやいや、私女の子だし。
 はっと我に返って、首を振る天子。と、そんな天子の様子を見てか、それとも全く関係なしにか早苗
が切り出す。
「そういえば、天子さん。この神社に毎日入り浸って神社を乗っ取るって言ってましたね」
天子は若干身構えた。この娘のことだ、思っていることはほぼダイレクトに言ってくることだろうし。そ
もそもが、何を言ってくるのか分からないのが早苗というもの……と、少なくとも天子はそう心得ていた。
「よく考えたらそれ……」
早苗が続ける。天子はあくまで平静を装ってお茶をすするが。
「私と結婚すればいいんじゃないですか?」
「ブッ!!」
やっぱり早苗の発言は天子の予想遥か斜め上を飛び越えた。さすがにこれには耐えきれず、口に含
んだお茶を盛大に噴き出す天子。
「いやいやいやいや、私は女よ!?」
天子の気管にお茶がホールイン! げっほげっほと咳き込み、天子は早苗に問い質す。完全にカリ
スマブレイク、一本取られたといった顔で。
「はい、そうですね」
「それで、早苗も女よね!?」
「えぇ、そうですよ?」
早苗は、それがどうかしましたか? と聞きたげに首を傾げる。さすが、常識にとらわれていないだけ
の事はあるというべきか、それとも女性同士の結婚は彼女の中では常識なのか。
「だって、神奈子様と諏訪子様は夫婦なんだって」
「いや、それは騙されてると思う」
後者の方だった。
「神奈子様は私をだましたりしません!」
「ごめん言い方が悪かった。からかわれてるんだと思う」
冗談でも、あの二人が“私たち実は夫婦なんだ”とか言ったら信じちゃうよねこの子は。と、天子は思う。
「そんなことないです! それに、女の子が女の子の事を好きになるって、そんなに変なことじゃない
と思うんですよね」
「な……、ちょ、ちょっと待ちなさいって! 私はあくまでただ、遊びに来ているだけでその……そうい
うのは無いんだってば……」
やっぱり見透かされているのか!? あまりに不意をつかれたため、天子はその動揺を隠しきれず
にいた。いや偶然に違いない、そう思いたかった。
「え? それじゃぁ天子さんは私の事、嫌いですか?」
と、その動揺にさらに揺さぶりをかける早苗。いや、決して本人にそのようなつもりはないのだけれ
ど。この一言だけ切りだせば、別になんてことない日常会話の一言なのだから。
「え……えと、そんなことは無いわ!」
軸を乱されたところに打突が決まったような感じ、つまりまた一本取られた訳だ。いつもなら適当にあ
しらって終わる一言なのだが、今回は話しの流れ故にそうはいかない。
「それじゃぁ、好き?」
小学生の女の子がするような簡単で無垢な質問。無意識に、けれど確実に。詰みは近い。
「あ……その……」
そこにたたみかけるように追撃をかけられ、もう逃げ場すらない。三本勝負ならとっくの昔に敗れてい
るところだ。
「す……」
ぼそり。帽子を目深にかぶり、真っ赤にゆで上がった顔を早苗から逸らして、天子は呟く。チェックメ
イト、敗北宣言。
「き」
さらに小さく、聞きとれるか聞き取れないかの瀬戸際で二言目。けれど、早苗の耳はそれをしっかり
聞きとった。いや、仮に二言目が“き”で無かったとしても早苗の耳にはそう聞こえただろうが。
「私も天子さんの事が好きです!」
がばっ! 早苗が天子に抱きつく。これはひどいオーバーキル。
「え……!? ちょ!!」
天子はそのあまりの勢いに押し倒され、そして体が熱くなるのを感じた。例えるなら、あっつ~いお湯
をかけられたような……。
「って、あちちちちち!! 早苗! お茶! お茶かかってるうぅぅ!!」
「え!? あ!! ごめんなさい!!」
湯飲みを持ったまま抱きついたため、その中身は容赦なくぶちまけられることとなり、結果天子はそ
のとばっちりを被ることとなった。天人だから、そんなことでは火傷しないのだけれど。
「はぁ~、まったくあんたってやつは。普通の人間なら大火傷よ?」
早苗を引きはがし、天子ははっと後ろを振り向いた。何者かの視線を感じたから。
「!」
がたっ!! ほんの少しだけ開けられていた襖が慌てて閉じる。何故閉じた、そのまま引っ込めば済
むものを。この神社は神様までこんななのか、と思うと同時に。
「……見られた」
天子は再び顔が真っ赤に染まり上がるのを感じた。泣きたい、穴があったら入りたい。見られてし
まった。よりにもよって、こんなシーンを。いつから見られていたのかは知らないけれど。
「見られた見られた見られた~~~ッ!!」
天子はぐぃと帽子を精一杯降ろし、そして足をばたつかせる。違うの! これは誤解よ! 言ってやり
たいけれど、相手は早苗の保護者様。しかもどっちが覗いていたかなんてわからない。
「あの……その……おじゃましましたっ!!」
天子はばっと立ち上がり、そして本殿に向かって一礼。早苗が引き留める間もなく大地を蹴って空高
く飛び上がり、そのまま天界へと飛び去ってしまった。
「あ~、行っちゃった……」
そんな天子を見送る早苗。
「惜しかったなぁ、せっかくお互い好きって言えたのに」
それがどういう意味での好きであるかは分からないけれど。少なくとも天子の方はなにやら意識して
くれているらしい。それが分かっただけで早苗にとっては十分であった。
 こぼしてしまったお茶を拭き上げ、お盆を抱えて彼女は本殿の中に消える。


「まったく……あの子といるとどうにも乱されるわね」
小さくなっていく守矢神社を振り返り、天子は呟く。背中にぶっかけられたお茶が冷め、吹き抜ける風
は容赦なく気化熱を奪っていく。とても寒い。
 けれど、そんな体感覚とは正反対に、天子の心はなんだか温かかった。
「……明日も行こう」

――最初は神社が欲しかった。だけど今は、神社よりも貴女が欲しい。
新年あけましておめでとうございます。
本日は一月二日、初稽古の日であります。

さて、私はこれで三本目の投稿となります。今回は日常系を書いてみました。
オチも山もほとんどない冗長な物となってしまったかもしれません。
ここ、創想話は点数とレートの評価によりダメな物はダメとはっきり言って下さるので非常に助かります。
それと、前回誤字の指摘をして下さった方、ありがとうございます。推敲はしたつもりでしたが、ばっちり間違えてしまいました。

暫くはこのように、自分にあった作品の趣向を探していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

そしてさなてんを流行らせたい。超マイナーカプですけど。
虚構の人
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コメント



0.1220簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
>博霊神社
博麗神社
桃のようなほんのりと甘いお話でした
2.100名前が正体不明である程度の能力削除
甘くていい話でした。
5.100名前が無い程度の能力削除
ア リ だ !
14.100名前が無い程度の能力削除
俺はこれを待っていた……
19.100名前が無い程度の能力削除
おk
29.100名前が無い程度の能力削除
神社繋がり…ありだ!
ボケボケ早苗さんかわいいw